• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1192883
審判番号 不服2007-32425  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-30 
確定日 2009-02-20 
事件の表示 特願2002-184117「レーザー光学系用波長板」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 29280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯及び本願発明の認定
本願は、平成14年6月25日の出願であって、平成19年8月3日付けで拒絶理由が通知され、同年10月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月24日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月30日付けで本件審判請求がされるとともに、同年12月25日付けで手続補正がなされたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成19年12月25日付けの手続補正が平成20年9月30日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶理由を通知したところ、同年11月14日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで明細書について手続補正がされたものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年11月14日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「延伸配向させてなる、下記一般式(1)で表わされる特定単量体の開環重合体または該特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体からなる開環(共)重合体の水素添加(共)重合体である環状オレフィン系樹脂を含むフィルムを使用した波長板であって、下記式(a)の値が、波長650nmのレーザー光については1.24?1.26であり、波長785nmのレーザー光については0.95?1.05であることを特徴するレーザー光学系用波長板。
Re(λ)/λ ……… 式(a)
〔式(a)中、λはレーザー光の波長(nm)、Re(λ)は波長板を透過したレーザー光のレターデーション値(nm)である。〕

【化1】

〔式中、R^(1)?R^(4) は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。R^(1)とR^(2)またはR^(3)とR^(4)は、一体化して2価の炭化水素基を形成しても良く、R^(1)またはR^(2)とR^(3)またはR^(4)とは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。〕」


第2 当審の判断
1 引用刊行物の記載事項
当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-260035号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下のアの記載が図示とともにある。

ア 「【0039】図9および図10に、本発明における第2の実施形態を示す。この実施形態は、光源として発振波長の異なる2つの半導体レーザを使用した場合の構成である。本実施形態の光ヘッドは、650nm付近の波長で発振する半導体レーザ光源を内蔵するレーザ/検出器ユニット4aと780nm付近の波長で発振する半導体レーザ光源を内蔵するレーザ/検出器ユニット4bを有する。図9では、発振波長650nmの光束について説明する。
【0040】レーザ/検出器ユニット4aから出射した光束は、ダイクロイックプリズム14を通過し、コリメートレンズ5によって平行光束となる。その後、偏光性回折格子6、波長板15、波長選択フィルタ13を順次通過する。偏光性回折格子6は第1実施形態と同様に、ピッチおよび角度の異なる4つの格子領域から構成されており、半導体レーザ光源側から偏光性回折格子6へ入射する光(直線偏光)に対しては、偏光性回折格子6は格子として作用しないように設定されている。偏光性回折格子6を通過した光束は、波長板15に入射する。
【0041】波長板15は、波長650nmの光に対して略5/4波長板として作用するように設定されており、実質的には1/4波長板として作用することになるので、波長板15の出射光は略円偏光となる。なお、波長650nmの光における5/4波長に相当する位相差は波長780nmの光に対しては概ね1波長に相当する位相差となる。
【0042】したがって、波長板15は後述する波長780nmの光に対しては位相差をほとんど発生させず、波長板15を通過する波長780nm光の偏光状態はほとんど変化しない。波長板15を通過した光束は波長選択フィルタ13を通過する。波長選択フィルタ13は波長650nmの光は全透過するように設定されている。波長選択フィルタ13を透過した光束は対物レンズ8により光ディスク9aに絞り込まれ光スポット10aを形成する。
【0043】光ディスク9aは基板厚さ0.6mmのいわゆるDVDであり、対物レンズ8の絞り込み時開口数(NA)は0.6である。光ディスク9aの詳細構造は省略してあるが、本発明の第1実施形態と同様である。偏光性回折格子6、波長板15、波長選択フィルタ13、対物レンズ8はアクチュエータ11に搭載され、一体駆動される。光ディスク9aからの反射光は、上記と逆の経路を通ってレーザ/検出器ユニット部aに導かれ、本発明の第1実施形態と同様の各種信号検出が行なわれる。
【0044】次に図10によって、発振波長780nmの光束について説明する。レーザ/検出器ユニット4bから出射した光束は、ダイクロイックプリズム14で反射し、コリメートレンズ5によって弱発散光束となる。その後、偏光性回折格子6、波長板15、波長選択フィルタ13を順次通過する。波長780nmの光束の偏光方向は波長650nmの光束の偏光方向と一致させておく。これにより、波長780nmの光束も半導体レーザ光源側から偏光性回折格子6へ入射する光(直線偏光)は回折されない。
【0045】偏光性回折格子6を通過した光束は波長板15に入射する。前述のように、波長板15は波長780nmの光に対して位相差をほとんど発生させないため、波長板15を通過する波長780nmの光束は直線偏光のままである。波長板15を通過した光束は波長選択フィルタ13を通過する。波長選択フィルタ13は波長780nmの光束の外周部分を遮光して、対物レンズ8による絞り込み時開口数(NA)が波長650nmの光束を絞り込む時よりも小さくなるように設定されている。例えば、波長650nmの光束に対して絞り込み時NAを0.6として、波長780nmの光束に対しては絞り込み時NAを0.45あるいは0.5程度となるように光束径を縮小させる。波長選択フィルタ13を透過した光束は対物レンズ8により光ディスク9bに絞り込まれ光スポット10bを形成する。
【0046】光ディスク9bは基板厚さ1.2mmの例えばCD等である。対物レンズ8に弱発散光を入射させることにより、異なる基板厚さの光ディスク9a、9bに対して同一の対物レンズを使用する場合に発生する球面収差を低減させることができる。光ディスク9bからの反射光は、上記と逆の経路を通ってレーザ/検出器ユニット部bに導かれる。
【0047】図11に、本発明における第2実施形態の変形例を示す。これは、偏光性回折格子6をレーザ/検出器ユニット4a上に設けた構成である。このような構成とすればアクチュエータ11に搭載する光学部品が少なくなるため、アクチュエータ可動部の軽量化がはかられ、アクチュエータの各種特性向上の観点から有利である。また、コリメートレンズ6から波長板15に至る光束が直線偏光となるため、同光路中で偏光の違いを利用した光束の分離・合成が可能となる等の利点がある。」

また、当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-93180号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下のイないしオの記載が図示とともにある。

イ 「【0010】以下、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、反射型位相差素子8は次の構成となっている。すなわち、位相差発生機能を有する有機薄膜1の一方の表面を例えば接着剤2によって反射機能を有する固定基板3に固定する。図1の構成では、有機薄膜1の他方の表面に無反射コート4を施してもよく、空気と有機薄膜1との屈折率差による表面反射損失がほとんど0となる。ここでは、無反射コート4を施している。
【0011】また、有機薄膜1は、半導体レーザなどのレーザ光が垂直に入射し透過するとき透過光に対しmπ/4(mは自然数)の位相差を生じるように形成でき、また固定基板3で反射するとき反射光に対してはmπ/2の位相差を生じるように形成できる。このmπ/2については後述する。
【0012】ここで、所望の位相差を発生させるには有機薄膜1のリタデーション値を調整する。すなわち、有機薄膜1の常光屈折率と異常光屈折率の差をΔn、有機薄膜1の膜厚をd、透過光の波長をλとするとリタデーション値はΔn・dで与えられ、位相差ψとの間にψ=Δn・d・2π/λの関係がある。したがって、特定の波長光に対しリタデーション値を調整すれば、所望の位相差が得られる。
【0013】有機薄膜は、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、脂環式ポリオレフィン、ポリアクリレートなどの高分子薄膜を一軸延伸などにより複屈折性を付与し、位相差発生機能を発現させた有機薄膜を使用できる。位相差発生機能を有する有機薄膜で上記以外の樹脂も使用できるが、耐熱性の面から、変性ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホンまたは脂環式ポリオレフィンを用いることが好ましい。ここで変性ポリカーボネートとは、ポリエステルカーボネートをビスフェノールAからなるポリカーボネートの構成成分の一部に使用した変性ポリカーボネートを意味する。また、有機薄膜として、固定基板に通常の液晶配向処理を施し、高分子液晶のモノマーを塗布して得た高分子液晶薄膜も使用できる。この高分子液晶は、側鎖型、主鎖型のいずれのタイプでもよい。」

ウ 「【0024】・・・(中略)・・・特に、特定の波長に対して所望のリタデーション値の有機薄膜1を選択することにより、DVDに用いる波長650nm近傍の光に対しては5π/2の位相差を、一方CDに用いる波長780nmの光に対し2πの位相差を与える反射型の位相差素子を構成できる。
【0025】すなわち、2種類の波長の光を使用する光ヘッド装置に位相差素子を組み込む場合、リタデーション値を調整し位相差素子を反射した一方の波長の光に対しては5π/2(すなわち、奇数・π/2)の位相差を与えて円偏光とし、他方の波長の光に対しては2π(すなわち、偶数・π/2)の位相差を与えて直線偏光とできる。また、πの位相差でも直線とすることができる。」

エ 「【0028】
【実施例】「例1」本例では図1に示した反射型の位相差素子を作製した。位相差発生機能を有する有機薄膜1として、一軸延伸を施したポリカーボネートを、接着剤2としてポリエステル系接着剤を、反射機能を有する固定基板3としてアルミニウムを厚さ100nm蒸着したガラス基板を用いて位相差素子を作製した。
【0029】有機薄膜1は厚さが45μmであり、有機薄膜1を垂直入射し透過した波長652nmの光に408nm(すなわち5π/4)の位相差、有機薄膜1を設置した位相差素子を反射した場合には2倍の816nm(すなわち5π/2)の位相差、を発生させた。また、有機薄膜1と空気との界面での反射を防ぐために、有機薄膜1の空気側界面に無反射コートを4を施した。
【0030】図5に示すように発振波長が652nmである半導体レーザ7を出射した光は、偏光子9を透過することによりx軸に平行な直線偏光とした。この直線偏光は位相差素子8に任意の角度で入射する。このとき、入射角度は位相差素子8の表面に立てた法線と直線偏光とのなす角度とする。
【0031】ここで、有機薄膜1の遅相軸方位は楕円率角が略45°になるように調整した結果、図5に示す座標系のx軸と42°の方向をなすように、すなわちφ=42°回転させて前述の接着剤2を用いて前述の固定基板3のアルミニウム膜側に貼った。
【0032】上記のように作成された位相差素子を反射した光の位相差の入射角度依存性を調べた。その結果、入射角度がθ=20?50°で位相差素子8を反射した光は、806?824nmの位相差が発生した。これは、垂直入射の場合の位相差816nmから最大わずか9nm程度しかずれておらず、位相差は約5π/2で円偏光となっている。
【0033】また、光源として発振波長が780nmである半導体レーザ7を用いて、同様に位相差の入射角度依存性を調べた。入射角度がθ=20?50°で位相差素子8を反射する直線偏光は、反射することにより779?797nmの位相差が発生した。これは、垂直入射の場合の位相差788nmから最大わずか9nm程度しかずれておらず、位相差は約2πで直線偏光となっている。
【0034】したがって、この反射機能を有する位相差素子はθ=20?50°の広い角度範囲で入射する直線偏光をほぼ一様な円偏光(波長650nmに対し)に変換、また一様な直線偏光(波長780nmに対し)のまま保存することができ、反射光の位相差の入射角度依存性を減少できた。」

オ 「【0035】「例2」本例では図2に示した反射型の位相差素子を作製した。位相差発生機能を有する有機薄膜1として一軸延伸を施したポリカーボネートを、接着剤2および接着剤6として同一のポリエステル系接着剤を、反射機能を有する固定基板3としてアルミニウムを厚さ100nm蒸着したガラス基板を、光学カバーガラス5として無反射コートを施した厚さ0.3mmの光学ガラスを用いて位相差素子を作製した。
【0036】有機薄膜1は例1と同一のもので、厚さが45μmであり、この有機薄膜1を垂直入射し透過した波長652nmの光に対して408nm(約5π/4)の位相差、有機薄膜1を設置した位相差素子を反射した場合には2倍の816nm(すなわち5π/2)の位相差、を発生させた。
【0037】上記の有機薄膜1を前述の接着剤2と接着剤6を用いて前述の固定基板3のアルミニウム膜面と前述の光学カバーガラス5の非コート面の間に挟んだ。ここで、有機薄膜1の遅相軸方位は楕円率角が略45°になるように調整した結果、図5に示す座標系のx軸と45°の方向をなすように、すなわちφ=45°回転させて前述の接着剤2を用いて前述の固定基板3のアルミニウム膜側に貼った。
【0038】上記のように作成された位相差素子を反射した光の位相差の入射角度依存性を例1と同様に調べた。入射角度がθ=10?60°で位相差素子8を反射した光は、808?822nmの位相差が発生した。これは、垂直入射の場合の位相差816nmから最大わずか8nm程度しかずれておらず、位相差は約5π/2で円偏光となっている。
【0039】また、光源として発振波長が780nmである半導体レーザ7を用いて、同様に位相差の入射角度依存性を調べた。入射角度がθ=10?60°で位相差素子8を反射する直線偏光は、反射することにより781?795nmの位相差が発生した。これは、垂直入射の場合の位相差788nmから最大わずか7nm程度しかずれておらず、位相差は約2πで直線偏光となっている。
【0040】したがって、この反射機能を有する位相差素子はθ=20?50°の例1よりも広い角度で入射する直線偏光をほぼ一様な円偏光(波長650nmに対し)に変換、また一様な直線偏光(波長780nmに対し)のまま保存することができ、反射光の位相差の入射角度依存性をさらに減少させることができた。」

2 引用例1,2記載の発明の認定
(1)引用例1の上記記載事項アから、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「DVD用の波長650nm付近のレーザ光に対して略5/4波長に相当する位相差を有し、直線偏光の入射光を略円偏光の出射光とするとともに、CD用の波長780nm付近のレーザ光に対して概ね1波長に相当する位相差を有し直線偏光の入射光を直線偏光のまま出射する波長板。」(以下、「引用発明1」という。)

(2)また、引用例2の上記記載事項イないしオから、引用例2には、(ア)DVDに用いる波長650nm近傍の光に対してもCDに用いる波長780nmの光に対しても使用可能な位相差素子として、一軸延伸により複屈折性を付与された脂環式ポリオレフィン薄膜を用いた位相差素子を使用すること、及び、(イ)前記位相差素子が、DVDに用いる波長650nm近傍の光に対しては5π/2の位相差を、また、CDに用いる波長780nmの光に対しては2πの位相差を、それぞれ与えることが記載されていると認めることができる。

3 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(1)引用発明1の「波長板」は「DVD用の波長650nm付近のレーザ光」及び「CD用の波長780nm付近のレーザ光」に対して用いられるから、「DVD用の波長650nm付近のレーザ光」及び「CD用の波長780nm付近のレーザ光」に対して用いられる引用発明1の「波長板」は、本願発明の「レーザー光学系用波長板」に相当する。

(2)引用発明1の「DVD用の波長650nm付近のレーザ光に対して略5/4波長に相当する位相差を有」することと、本願発明の「式(a)の値が、波長650nmのレーザー光については1.24?1.26」であることとは、式(a)の値が波長650nm付近のレーザー光については略1.25である点で一致する。
また、引用発明1の「CD用の波長780nm付近のレーザ光に対して概ね1波長に相当する位相差を有」することと、本願発明の「式(a)の値が」「波長785nmのレーザー光については0.95?1.05」であることとは、式(a)の値が波長780nm付近のレーザー光については概ね1である点で一致する。

(3)すると、本願発明と引用発明1とは、

「波長板であって、下記式(a)の値が、波長650nm付近のレーザー光については略1.25であり、波長780nm付近のレーザー光については概ね1であることを特徴するレーザー光学系用波長板。
Re(λ)/λ ……… 式(a)
〔式(a)中、λはレーザー光の波長(nm)、Re(λ)は波長板を透過したレーザー光のレターデーション値(nm)である。〕」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本願発明の「波長板」は、「延伸配向させてなる」「一般式(1)で表わされる特定単量体の開環重合体または該特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体からなる開環(共)重合体の水素添加(共)重合体である環状オレフィン系樹脂を含むフィルム」を使用したものであるのに対し、引用発明1の「波長板」には上記のような限定がない点。

〈相違点2〉
本願発明の「波長板」は、「式(a)の値」が「波長650nmのレーザー光については1.24?1.26」であり、「式(a)の値」が「波長785nmのレーザー光については0.95?1.05」であるのに対し、引用発明1の「波長板」は「DVD用の波長650nm付近のレーザ光に対して略5/4波長に相当する位相差を有し」、「CD用の波長780nm付近のレーザ光に対して概ね1波長に相当する位相差を有」する点。

4 相違点についての判断
(1)相違点1について
引用発明1の「波長板」と引用例2に記載された「位相差素子」とは、DVDに用いる波長650nm近傍の光に対してもCDに用いる波長780nmの光に対しても使用可能な位相差素子である点で一致する。加えて、引用発明1の「波長板」と引用例2に記載された「位相差素子」とは、DVD用の波長650nm付近のレーザ光に対して略5/4波長に相当する位相差を与えるとともに、CD用の波長780nm付近のレーザ光に対して概ね1波長に相当する位相差を与えることができるものである点でも一致する。
したがって、引用発明1の「波長板」として、引用例2に記載された一軸延伸された脂環式ポリオレフィン薄膜を使用することは、当業者にとって容易に想到し得ることである。
そして、波長板を含む位相差素子に用いることができる脂環式ポリオレフィンとして、一般式(1)で表わされる特定単量体の開環重合体または該特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体からなる開環(共)重合体の水素添加(共)重合体である環状オレフィン系樹脂を用いることは、本願出願時において当業者に周知の技術的事項であるから(特開2001-124925号公報(特に、請求項1、段落【0002】?【0003】、【0008】?【0028】)、特開2001-350017号公報(特に、請求項1、段落、【0006】?【0024】、【0033】)、特開平7-287122号公報(特に、請求項1、段落【0004】?【0010】)を参照。)、引用発明1の「波長板」として、引用例2に記載された発明の一軸延伸された脂環式ポリオレフィン薄膜を使用する際、前記脂環式ポリオレフィンとして、上記周知の一般式(1)で表わされる特定単量体の開環重合体または該特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体からなる開環(共)重合体の水素添加(共)重合体である環状オレフィン系樹脂を採用することは、当業者が適宜選択し得る設計的事項である。
以上のとおりであるから、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
ア 本願の発明の詳細な説明の欄の段落【0064】?【0066】の記載から、本願発明の「式(a)の値」が「波長650nmのレーザー光については1.24?1.26」であることは、DVD用のレーザー光について、波長板が1/4λ板としての機能を発現して、直線偏光を円偏光に変換するものであることを意味する。
すると、「式(a)の値」が「波長650nmのレーザー光については1.24?1.26」である本願発明の「波長板」と、「DVD用の波長650nm付近のレーザ光に対して略5/4波長に相当する位相差を有」する引用発明1の「波長板」とは、DVD用のレーザー光について波長板が1/4λ板として機能し直線偏光を円偏光に変換するものである点で共通する。
また、本願の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌しても、前記「DVD用」の「レーザ光」の波長を「650nm」に限定すること、及び、前記波長650nmのレーザー光について式(a)の数値範囲を「1.24?1.26」の範囲に限定することについて格別の臨界的意義を見い出すこともできない。
したがって、引用発明1の「DVD用」の「レーザ光」の波長として「波長650nm付近」の波長から波長650nmを設定することは、当業者が適宜設定し得る設計的事項であり、また、引用発明1の「略5/4波長」を「式(a)の値」が「1.24?1.26」とすることは、DVD用のレーザー光について直線偏光をできる限り円偏光に変換させるために波長板の位相差をできる限り5/4波長に近づけるべく当業者が適宜なし設定し得る設計的事項である。

イ 本願の発明の詳細な説明の欄の段落【0064】?【0066】の記載から、本願発明の「式(a)の値」が「波長785nmのレーザー光については0.95?1.05」であることは、CD用のレーザー光について、波長板がλ板としての機能を発現して、偏光状態を変化させないものであることを意味する。
すると、「式(a)の値」が「波長785nmのレーザー光については0.95?1.05」である本願発明の「波長板」と、「CD用の波長780nm付近のレーザ光に対して概ね1波長に相当する位相差を有」する引用発明1の「波長板」とは、CD用のレーザー光について波長板がλ板として機能し偏光状態を変化させないものである点で共通する。
また、本願の発明の詳細な説明の欄の記載を参酌しても、前記「CD用」の「レーザ光」の波長を「785nm」に限定すること、及び、前記波長785nmのレーザー光について式(a)の数値範囲を「0.95?1.05」の範囲に限定することについて格別の臨界的意義を見い出すこともできない。
したがって、引用発明1の「CD用」の「レーザ光」の波長として「波長780nm付近」の波長から波長785nmを設定することは、当業者が適宜設定し得る設計的事項であって、また、引用発明1の「概ね1波長」を「式(a)の値」が「0.95?1.05」とすることは、CD用のレーザー光について偏光状態を変化させないために波長板の位相差をできる限り1波長に近づけるべく当業者が適宜設定し得る設計的事項である。

ウ したがって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

5 本願発明の進歩性の判断
以上検討したとおり、引用発明1に上記相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。
また、本願発明の効果も、引用例1,2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本願発明は引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-17 
結審通知日 2008-12-24 
審決日 2009-01-06 
出願番号 特願2002-184117(P2002-184117)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 森林 克郎
日夏 貴史
発明の名称 レーザー光学系用波長板  
代理人 白井 重隆  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ