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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B26B |
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管理番号 | 1193643 |
審判番号 | 不服2007-20796 |
総通号数 | 112 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-26 |
確定日 | 2009-03-05 |
事件の表示 | 特願2003-298666「梳き鋏用櫛刃およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日出願公開、特開2005- 65934〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年8月22日の出願であって、その請求項1ないし4に係る発明は、当審に提出された平成20年10月17日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。) 「櫛刃の原型となるブランクを準備し、前記ブランクの表面に機械加工をし、櫛刃の要素を切り出し、回転砥石を用いて櫛刃の要素の先端を加工した梳き鋏用櫛刃であって、 前記櫛刃の要素の先端の両側の谷側の面に回転砥石加工により形成された刃先の側面の斜面と、 前記櫛刃の要素の焼き入れ歪み取り後に、前記斜面間に回転砥石による加工により刃付けされて形成された傾斜V溝とを含み、 前記櫛刃の要素の先端は、その櫛刃を用いる鋏の基準面に平行な平面による断面が前記斜面と前記傾斜V溝の切断線により逆W字形状となり、 前記櫛刃の要素の先端の中央のV溝以外の前記斜面に対応する毛髪は櫛刃の溝に案内されることを特徴とする梳き鋏用櫛刃。」 2 引用刊行物記載の発明 これに対して、当審での平成20年8月13日付けの拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成11年1月26日に頒布された特開平11-19342号公報(以下「引用例1」という。)、同じく本願の出願の日前である平成6年4月12日に頒布された実願平4-69389号(実開平6-26767号)のCD-ROM(以下、「引用例2」という。)には、以下の発明、あるいは事項が記載されている。 2-1 引用例1の記載事項 (1)段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は櫛刃の底が面取りされている梳き鋏用櫛刃に関する。」 (2)段落【0007】 「【発明の実施の形態】まずはじめに、本願発明の櫛刃加工の工程を簡単に説明する。 (ステップ1)櫛刃の原型となるステンレス鋼のブランクを用意する。 (ステップ2)ブランクに孔5の孔明け加工をする(図1参照)。 (ステップ3)ブランクの面の研削(表裏および峰)を行う。刃先の研削を同時に行うこともある。 (ステップ4)前記ブランクに焼き入れし、歪み取りを行う。 (ステップ5)櫛刃の要素の先端面に相当する面の仕上げ加工をする。 (ステップ6)櫛刃の要素間の深溝を加工をする。 (ステップ7)前記深溝の底の面取り加工をする。 (ステップ8)櫛刃の要素の先端面にV溝加工をする。 ステップ1?3においてブランクの表面の加工を終了し、ステップ4により、スッテップ5以降の機械加工に先立ってブランク焼き入れと歪み取りを行うのが本願発明の特徴の一つである。このブランク焼き入れと歪み取りのあとにステップ5?6の機械加工を行う。」 (3)段落【0009】?【0013】 「ステップ1で梳き刃の原型となるステンレス鋼のブランクを用意する。この実施例では、櫛の要素2・・2は稜線8から7(図2?4)に向かい次第に薄くなり、先端部は稜線7から20°?40°の傾きとなり先端の面2aは焼き入れ後に底面に対して80°の傾きを持つように機械加工される。そしてステップ2でブランクに孔5(図1および図5参照)の孔明け加工をする。この孔5は後述する溝加工の際のブランク支持の基準として利用される。その後、ステップ3でブランクの表面(表裏および峰)の研削をする。 ステップ4で前記ブランクの焼き入れをし、歪み取りを行う。この実施例では真空焼き入れを行っている。真空炉での焼き入れの温度は1030℃で、焼きなましの温度は200℃である。焼き入れ後歪み取りを行う、適当な機械的な衝撃を与えて歪みをとる。 焼き入れ歪みとりの後に、先端2aを80°に仕上げ加工をする。なお当初に仕上げが行われていて、仕上げの必要の無い場合も考えられるが、この実施例では焼き入れ後に回転砥石で正確な仕上げを行った。 櫛刃1の機械加工は、基本的にステンレス鋼のブランクの焼き入れ終了後、歪み取り後に行われる。なお、焼き入れ後の加工は砥石を用いる必要があり、前述した先行例のようにカッタを使用することはできない。櫛の要素2と隣接する櫛の要素2間を砥石で切削して深溝の切り込みを終了する。引き続き機械加工により面取りを行い谷と表裏の面を結ぶ曲面3a,3aを加工する。図6に前記溝の加工と面取りの際のブランクと砥石の位置関係を示している。x’は深溝の切り込みが終了した位置での砥石の回転中心軸の位置を示す。砥石の回転中心軸は常にブランクのx軸と平行である。図中11は、前記溝の加工終了時の砥石の先端の回転軌跡を示す。面取り部3aの一方の加工を終了したときの砥石の回転中心軸の位置をx''で示す。x,y平面に対する砥石の回転中心軸の位置を任意に変えることにより任意の面取りが可能となる。図中12,12は面取り終了時の砥石の先端の回転軌跡を示す。 この実施例ではブランクの表裏の面に対する3a,3aの面の傾きを緩くして、鞍部の高さを大きくし、z軸回りの力に充分耐える構造にしてある。櫛刃の要素の先端にV溝を加工する。図6中に要素の先端のV溝6の加工終了の時の砥石の先端の回転軌跡を13で示す。この砥石は前述した溝切り面取りの砥石とは異なったものである。そして相対位置を1ピッチずつずらして順次先端にV溝6・・6を形成する。この実施例では前述した溝切り面取りの砥石とは異なる砥石を使用したが、前記砥石を流用することも可能である。」 (4)ここで、図面の図1及び図3を参照すると、ブランクの一方の面には、稜線8から7に向かい次第に薄くなる面に形成されていることが見て取れる。そして、この稜線8、7が形成されている面を「表面」ということができる。 また、図面の図6を参照すると、V溝6の加工終了時の砥石の先端の回転軌跡13が見て取れる。このことから、V溝6を加工する砥石は回転砥石であることが理解できる。 以上(1)?(3)の記載事項、及び(4)の認定事項から、引用例1には、「櫛刃の原型となるブランクを用意し、前記ブランクの表面に稜線8から7に向かい次第に薄くなり、先端部は稜線7から20°?40°の傾きとなり先端の面2aは焼き入れ後に底面に対して80°の傾きを持つように機械加工をし、櫛の要素2・・2間の深溝を加工し、回転砥石を用いて櫛の要素2・・2の先端にV溝6を加工した梳き鋏用櫛刃であって、 前記櫛の要素2・・2の焼き入れ歪み取り後に、回転砥石による加工により形成されたV溝6を含む梳き鋏用櫛刃。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 2-2 引用例2の記載事項 (1)段落【0001】 「【産業上の利用分野】 本考案は理容用梳き鋏に関するものである。」 (2)段落【0007】?【0008】 「【実施例】 次に本考案の実施例について説明する。 理容用梳き鋏は、通常の鋏と同様に二本の鋏部材A,Bで構成され、両鋏部材を中央部分で交叉させ、交叉部を枢結Cしたもので、特に一方の鋏部材Aは、一端側に指孔部1を設けると共に、他方側に切り刃体2を設けてなり、また他方の鋏部材Bは、同様に指孔部1aを設けると共に、他方を櫛歯状切り刃体3として、櫛歯体31と櫛歯間隙32で構成し、而も各櫛歯体31の各先部分の側面33を曲線状先細に形成し、先端に櫛歯体31の幅より狭い刃部34を設けてなるものである。 而して一般の理容用鋏と同様に使用すると、櫛歯体の幅に対応する毛髪aの一部は、側面33に添って櫛歯間隙32に入り込むので、従来の櫛歯体幅全部に切り刃部を形成した従来の梳き鋏に比して切断される毛髪aは少なくなるものである。」 (3)ここで、側面33に添って櫛歯間隙32に入り込む毛髪aは一部であるので、刃部34に入り込んだ毛髪aが切断されることは明らかである。 また、図面の図2を参照すると、刃部34は、中央がV溝状に形成されていることが見て取れる。 以上(1)?(2)の記載事項、及び(3)の認定事項から、引用例2には、「理容用梳き鋏において、櫛歯体31の各先部分の側面33を曲線状先細に形成し、先端に櫛歯体31の幅よりも狭い中央がV溝状の刃部34を設けることにより、毛髪aの一部である櫛歯体31の中央のV溝状の刃部34以外のところに存在する毛髪を側面33に添って櫛歯間隙32に入り込ませた理容用梳き鋏。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 3 対比 本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「用意」することは、「準備」することとも言い得るものである。 引用発明1の「櫛の要素2・・2」は本願発明の「櫛刃の要素」に相当する。したがって、引用発明1の「櫛の要素2・・2間の深溝を加工」することは、本願発明の「櫛刃の要素を切り出」すことに相当する。 以上の点から、両者は「櫛刃の原型となるブランクを準備し、前記ブランクの表面に機械加工をし、櫛刃の要素を切り出し、回転砥石を用いて櫛刃の要素の先端を加工した梳き鋏用櫛刃であって、 前記櫛刃の要素の焼き入れ歪み取り後に、回転砥石による加工により形成されたV溝を含む梳き鋏用櫛刃。」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 櫛刃の要素の先端に形成されるV溝に関して、本願発明では、「刃付けされた傾斜」V溝であるとしているのに対して、引用発明1では、V溝が、刃付けをされているかどうか、また、傾斜しているかどうか不明な点。 <相違点2> 櫛刃の要素の先端形状に関して、本願発明では、「櫛刃の要素の先端の両側の谷側の面に回転砥石加工により形成された刃先の側面の斜面」を設け、そのことにより、「櫛刃の要素の先端は、その櫛刃を用いる鋏の基準面に平行な平面による断面が斜面と斜面間の傾斜V溝の切断線により逆W字形状となり、前記櫛刃の要素の先端の中央のV溝以外の前記斜面に対応する毛髪は櫛刃の溝に案内される」ようにしているのに対して、引用発明1では、櫛刃の要素の先端には、そのような斜面が設けられていない点。 4 当審の判断 上記相違点について検討する。 (1)<相違点1>について 一般に、鋏は、刃を有する2つの部材、すなわち、刃付けをした2つの部材により被切断部材を剪断するものである。また、櫛刃の要素の先端にV溝状の凹部を有する梳き鋏においても、引用発明2(先端に櫛歯体31の幅よりも狭い刃部34を設けることにより、毛髪aの一部を側面33に添って櫛歯間隙32に入り込ませた理容用梳き鋏参照。)に見られるように、あるいは、平成20年8月13日付けの拒絶理由で引用した実願平1-89575号(実開平3-27466号)のマイクロフィルム(刃部4を参照。)、特開昭60-225588号公報(第2ブレードの第1のタイプのカツテイングエツジを備えるエツジ4を参照。)に見られるように、V溝状の凹部に刃付けをすることは周知の事項である。 してみると、引用発明1において、そのV溝6を刃付けしたものとすることは、当業者が容易になし得たものである。 また、刃付けする際に、刃先の角度を小さいものとすることは、上記拒絶理由で引用した実願平1-89575号(実開平3-27466号)のマイクロフィルムにも記載されている(第2頁末行-第3頁第4行、同頁第17行-第4頁第1行、及び図面の第4図参照。)ように、従来周知の事項であることからすれば、引用発明1において、V溝6により形成される刃の刃先角度を小さいものとすること、すなわち、V溝6を傾斜V溝とすることは、当業者が上記周知の事項を採用することにより、容易になし得た設計変更程度の事項に過ぎないと言うべきものである。 (2)<相違点2>について 引用発明2は、「理容用梳き鋏において、櫛歯体31の各先部分の側面33を曲線状先細に形成し、先端に櫛歯体31の幅よりも狭い中央がV溝状の刃部34を設けることにより、毛髪aの一部である櫛歯体31の中央のV溝状の刃部34以外のところに存在する毛髪を側面33に添って櫛歯間隙32に入り込ませた理容用梳き鋏。」である。ここで、引用発明2の「理容用梳き鋏」、「櫛歯体31」、「各先部分の側面33」、「櫛歯間隙32」は、それぞれ、本願発明の「梳き鋏」、「櫛刃の要素」、「先端の両側の谷側の面」、「櫛刃の溝」に相当する。また、引用発明2の「曲線状先細」は、本願発明の「斜面」に相当する。さらに、引用発明2の「毛髪aの一部である櫛歯体31の中央のV溝状の刃部34以外のところに存在する毛髪を側面33に添って櫛歯間隙32に入り込ませ」ることは、本願発明の「櫛刃の要素の先端の中央のV溝以外の斜面に対応する毛髪は櫛刃の溝に案内される」ことに相当する。してみると、引用発明2は、「梳き鋏において、櫛刃の要素の先端の両側の谷側の面を斜面に形成し、櫛刃の要素の先端の中央のV溝以外の斜面に対応する毛髪は櫛刃の溝に案内される梳き鋏。」である。ここで、引用発明1も引用発明2も同じ「梳き鋏用の櫛刃」に関する技術であることから、引用発明2の「櫛刃の要素の先端の両側の谷側の面を斜面に形成」する発明を引用発明1の櫛刃の要素である櫛の要素2に適用し、その先端の両側の谷側の面に刃先の側面の斜面を形成することは、当業者が容易になし得たものである。 また、引用発明1において、櫛の要素2の先端の両側の谷側の面に斜面を設ければ、先端にV溝6が設けられていることと合わせることにより、当然、「櫛刃を用いる鋏の基準面に平行な平面による断面が斜面と傾斜V溝の切断線により逆W字形状」となるものである。 なお、本願発明では、さらに、斜面の形成を「回転砥石加工」により形成されるものと特定している。 しかしながら、梳き鋏の加工を回転砥石により行うこと自体、引用発明1にも見られるように従来周知の事項であり、また、本願発明は、「梳き鋏用櫛刃」という物の発明であるところ、刃先の側面の斜面の形成方法については、物の発明としての発明特定事項とすることはできないことから、このことをもって、本願発明の進歩性を認めることはできない。 (3)作用・効果について 作用ないし効果に関しても、引用発明1、及び引用発明2が奏する作用ないし効果から予測し得るものしか認められない。 5 むすび したがって、本願発明は、引用例1ないし2に記載された発明および従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-26 |
結審通知日 | 2009-01-06 |
審決日 | 2009-01-19 |
出願番号 | 特願2003-298666(P2003-298666) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B26B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 仁木 浩、林 浩、中島 成 |
特許庁審判長 |
野村 亨 |
特許庁審判官 |
鈴木 孝幸 鈴木 敏史 |
発明の名称 | 梳き鋏用櫛刃およびその製造方法 |
代理人 | 井ノ口 壽 |