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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800191 審決 特許
無効200580026 審決 特許
無効2007800043 審決 特許
無効200480238 審決 特許
無効200580025 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
管理番号 1194128
審判番号 無効2007-800202  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-22 
確定日 2008-12-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3868479号発明「分離膜」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3868479号の請求項1乃至3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
優先日 平成16年3月17日(特願2004-76027号)
優先日 平成16年3月17日(特願2004-76059号)
出願 平成17年3月15日(PCT/JP2005/004514)
審査請求 平成17年8月10日(特願2006-515319)
拒絶理由通知 平成18年6月1日(起案日)
意見書 平成18年8月1日
補正書 平成18年8月1日
拒絶理由通知 平成18年8月25日(起案日)
意見書 平成18年8月30日
補正書 平成18年8月30日
特許査定 平成18年9月20日
設定登録 平成18年10月20日
特許第3768479号
無効審判請求 平成19年9月22日
答弁書 平成19年12月14日
訂正請求書 平成19年12月14日
口頭審理陳述要領書 平成20年7月11日(請求人)
口頭審理陳述要領書 平成20年7月11日(被請求人)
口頭審理 平成20年7月11日
口頭審理調書 平成20年7月11日
上申書 平成20年7月25日(請求人)
上申書 平成20年8月7日(被請求人)

II.訂正請求について
II-1.訂正事項
平成19年12月14日付け訂正請求は以下(1)乃至(14)の訂正事項を内容としている。
訂正事項(1):請求項1において「前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さい」とあるのを「前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さく、」と訂正する。
訂正事項(2):請求項1において、訂正事項(1)による訂正の後の「よりも小さく、」の後に「前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、」を挿入する。
訂正事項(3):請求項1において、訂正事項(2)による訂正の後の「12μmであり、」の後に「前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであり、」を挿入する。
訂正事項(4):請求項1において、訂正事項(3)による訂正の後の「1.2μmであり、」の後に「前記基層の厚さが1?3mmであり、」を挿入する。
訂正事項(5):請求項1において、訂正事項(4)による訂正の後の「3mmであり、」の後に「前記下地層の厚さが10?200μmであり、」を挿入する。
訂正事項(6):請求項1において、訂正事項(5)による訂正の後の「200μmであり、」の後に「前記多孔質基体の気孔率が20?50%であり、」を挿入する。
訂正事項(7):請求項1において、訂正事項(6)による訂正の後の「50%であり、」の後に「前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定された最大細孔径が9μm以下であり、」を挿入する。
訂正事項(8):請求項1において、訂正事項(7)による訂正の後の「9μm以下であり、」の後に「前記多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下である、」を挿入する。
訂正事項(9):請求項4を削除する。
訂正事項(10):請求項5を削除する。
訂正事項(11):請求項6を削除する。
訂正事項(12):請求項7を削除する。
訂正事項(13):請求項8を削除する。
訂正事項(14):請求項9を削除する。
II-2.訂正についての当審の判断
これらの訂正事項を以下検討する。
(1)は、請求項1の「小さい」を「小さく」と訂正し、(2)?(8)による訂正に伴う記載の整合を図るもので、明りょうでない記載の釈明を目的とする。
(2)?(8)のそれぞれは、登録時の請求項4?9に記載されていた各事項を請求項1に加えるもので、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
(9)?(14)のそれぞれは、登録時の請求項4?9を削除するもので特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、これら(1)?(14)の訂正事項は、願書に添付した明細書等の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、これら訂正事項は、特許法第134条の2第1項及び第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件特許発明及び本件訂正発明
III-1.本件特許の請求項1乃至9に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」乃至「本件特許発明9」とし、これらを総称して「本件特許発明」いう。)
「【請求項1】
主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の多孔質基体と、
該多孔質基体の表面に製膜されたゼオライト薄膜と、
を備える分離膜であって、
前記多孔質基体は、基層と、該基層の表面に形成された前記ゼオライト薄膜の下地層とを有し、
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上であり、
前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さいことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記多孔質基体の窒素ガス透過速度が、200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項5】
前記基層の厚さが1?3mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項6】
前記下地層の厚さが10?200μmであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項7】
前記多孔質基体の気孔率が20?50%であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項8】
前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定される最大細孔径が9μm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の分離膜。
【請求項9】
前記多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の分離膜。」
III-2.訂正後の本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、平成19年12月14日付け訂正請求書により訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」乃至「本件訂正発明3」とし、これらを総称して「本件訂正発明」いう。)。
「【請求項1】
主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の多孔質基体と、
該多孔質基体の表面に製膜されたゼオライト薄膜と、
を備える分離膜であって、
前記多孔質基体は、基層と、該基層の表面に形成された前記ゼオライト薄膜の下地層とを有し、
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上であり、
前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さく、
前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、
前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであり、
前記基層の厚さが1?3mmであり、
前記下地層の厚さが10?200μmであり、
前記多孔質基体の気孔率が20?50%であり、
前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定された最大細孔径が9μm以下であり、
前記多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下である、
ことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記多孔質基体の窒素ガス透過速度が、200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。」

IV.請求人の主張
IV-1.審判請求書における主張の概要
IV-1-1.特許無効理由の説明
IV-1-1-1.(無効理由1)本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明と同一発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-1-2.(無効理由2)本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。或いは、甲第5号証、甲第8?13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3は、本件特許発明1対して挙げた証拠と甲第15及び/又は甲第16号証の組み合わせにより当業者が容易に想到することができたものであり、効果も同号証から予測可能であるから、進歩性を欠く。
本件特許発明4は、本件特許発明1対して挙げた証拠と甲第12、13、16、17、18、19及び/又は甲第20号証の組み合わせにより当業者が容易に想到することができたものであり、効果も同号証から予測可能であるから、進歩性を欠く。
本件特許発明5?7は、本件特許発明1対して挙げた証拠と甲第17、20、16及び/又は甲第18号証の組み合わせによりを当業者が容易に想到することができたものであり、効果も同号証から予測可能であるから、進歩性を欠く。
本件特許発明8は、本件特許発明1対して挙げた証拠と甲第21及び/又は甲第22号証の組み合わせにより当業者が容易に想到することができたものであり、効果も同号証から予測可能であるから、進歩性を欠く。
本件特許発明9は、本件特許発明1対して挙げた証拠と甲第6号証の組み合わせにより当業者が容易に想到することができたものであり、効果も同号証から予測可能であるから、進歩性を欠く。
本件特許発明1?本件特許発明9は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-1-3.(無効理由3)焼成粒子のアスペクト比をどのような測定法で測定するのか、本件明細書には、一切記載がなく、示唆さえない。また、粒子をアスペクト比で定義するなら、同比を平均で規定するのか、分布形状を規定するのか、明確に記載する必要があるが、このような記載もない(「構成する粒子」を原料粉末粒子であるとしても、同じ。)。したがって、当業者はアスペクト比が1.05以上であるような下地層を構成することはできない。
アスペクト比の測定方法に関する記載は本件明細書中に一切なく、そのために当業者は本件特許発明を実施することはできない。
アスペクト比1.05及び1.2の粒子を用いて本件実施例6のように基体を作製することは不可能である。
発明の効果が「アスペクト比が1.05以上」の範囲全域に亘って発揮させることが実証されていない。
ガス透過性測定のための具体的な手段が一切記載されていない。
本件アスペクト比の粒子からなる分離膜に対し、技術的に大きな疑問が生じる。本件図10に示されているように、アスペクト比が大きいほど分離係数が向上するとは到底考えられない。ミクロンオーダー或いはそれ以下の粉末に対し、特定の、あるいは或る程度の範囲内にあるアスペクト比の粉末粒子を選択的に補修する装置などは、市販されていないいはずである。それは、そのような微粉末のアスペクト比を連続的に精度よく測定する方法が極めて困難だからである。
下地層を構成する粒子のアスペクト比を1.05以上にすることで、上述のような分離性能向上効果を発現させることは期待できない。
以上から、本件特許発明は、改正前特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号により、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-1-4.(無効理由4)本件特許発明は、「相澤正信」が発明した「CaとKの含有」を問題にした部分が主軸にされていないから、「本件特許発明9」には、「CaとKの含有」に関する特定事項があるが、これは同項のみに係り、「相澤正信」が発明者でないことは明らかである。仮に本件特許発明1?9に特許性が認められるのであれば、別に「アスペクト比」に係る部分に特許性を認めてこれを発明した者が別に存在するはずである。
「相澤正信」は、そもそも本件特許発明1?9の「アスペクト比」に係る部分について発明したことはなく、特許を受ける権利も「相澤正信」から被請求人に承継もされていない。したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第6号の規定に該当するから、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-1-5.(無効理由5)仮に本件特許発明1?9に特許性が認められるのであれば、本件関連特許c)が共同出願に至った事情1?3も考えれば、この発明届出に至った「相澤正信」が請求外TOTO勤務時代に完成した非対称構造を対象として発明を特定事項の基本として届け出たものということになる。そうすると、請求外TOTO時代の「相澤正信」の発明は、職務発明として、特許を受ける権利が請求外TOTOに帰属することになる。しかし、本件特許発明については、特許を受ける権利が請求外TOTO時代の「相澤正信」→請求外TOTOと承継されているが、請求外TOTO→被請求人には承継されていないので、本件特許発明1?9は、冒認出願乃至共同出願違反であり、特許法第123条第1項第6号又は同法第123条第1項第2号の規定に該当するから、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-2.証拠の説明
甲第1号証(特開2002-219318号公報)は、本件分離膜と同じ構成の分離フィルタを示したものである。請求項7、8及び図1には、本件下地層に相当するγアルミナ質多孔体と、本件基層に相当する多孔質支持体とが非対称構造をなしていることが示されている。薄膜はゼオライトで構成されていてもよいので、この膜は本件ゼオライト薄膜に相当する。γアルミナ質多孔体を構成する粒子は、真球とは大きくかけ離れた歪んだ形状をしており、アスペクト比は1.05以上である。
甲第2号証(特開2003-071258号公報)は、審査段階で引用された引用文献1であり、混合ガスから水素ガスや炭酸ガスなどの特定ガスを選択的に透過させる気体分離膜を開示している。同号証の分離膜は、アルミナ等からなる基部層とその上に形成された粒状アルミナからなる第1層と、その上に形成された特定ガスを分離するゼオライト等からなる膜部とからなる。これらは、それぞれ、本件の基層、下地層及びゼオライト薄膜に相当する。
甲第3号証(「住友化学1996-II」(1996年11月29日発行)、表題頁、第1頁、第4?14頁)は、スミコランダムに関する論文である。「スミコランダムは明瞭で球形に近い形状を有するため、顕微鏡写真から、粒子径を直接計測することが容易である。」と記載されている(第9頁右欄第1?3行)。
甲第4号証(「化学と工業」1997年3月号第50巻第3号(1997年3月1日発行)、表題頁、第316?318頁)は、「粒子径の揃った新規アルミナ粉末」と題するスミコランダムに関する論文であり、「均一粒子径粉末
住友化学工業(株)が今度新たに開発したアルミナ粉末「スミコランダム」は、図1に示したような、粒子径が極めて揃った、凝集粒子が少ない、α-アルミナ粒子よりなる粉末である。」と記載されている(第316頁右欄第1?5行)。
甲第5号証(特開2001-062265号公報)は、審査段階で引用された引用文献2であり、同号証の分離フィルタは、本件ゼオライト薄膜に対応する無機分離膜と、本件基層に相当する多孔質支持体を備え、支持体と分離膜との間には本件下地層に相当する中間層が介在されてもよいこと、「前記中間層の平均細孔径は、・・・支持体の平均細孔径よりも小さく・・ことが望ましく」と記載されている(段落【0043】)。
甲第6号証(特開2001-64075号公報)は、スミコランダムの純度が99.9wt%以上であることが記載されている。
甲第7号証(「金属臨時増刊号」平成2年1月30日発行、第10?11頁、第17?21頁)は、「先端膜技術基礎とその応用」と題して、非対称構造体についての記載がある。
甲第8号証(「金属臨時増刊号」平成3年4月25日発行、第12?13頁、第78?80頁)は、「先端膜技術基礎とその応用Part.II」と題して、非対称構造体についての記載がある。
甲第9号証(日立造船(株)製分離膜の技術資料、平成3年8月25日配布)は、本件多孔質基体と同じくアルミナを主成分とした非対称構造体を示している。
甲第10号証(東陶機器(株)製セラミック分離膜の技術資料、1990年11月配布)は、本件多孔質基体と同じくアルミナを主成分とした非対称構造体を示している。
甲第11号証(特開平1-274815号公報)は、セラミックスフィルターに関するもので、アルミナ質およびその他のセラミックスを用いた複合非対称構造を製造する方法が記載されている。
甲第12号証(特開平3-143535号公報)は、セラミックス製非対称膜の製造に関するもので、アルミナ質およびその他のセラミックスを用いた複合非対称構造を製造する方法が記載されている。
甲第13号証(特開2000-288325号公報)は、セラミック多孔質膜を分離膜とするフィルターの製造に関するもので、本件下地層に相当する層が何ら特別の条件を必要としない通常の方法で形成できることを記載している。
甲第14号証(特開2002-66280号公報)は、本件特許発明4に関し、ガス分離フィルタの製造方法を記載したものである。
甲第15号証(特開平9-241076号公報)は、本件特許発明3に関し、導電性セラミックス及び固体電解質型燃料電池を記載したものである。
甲第16号証(特開平10-21935号公報)は、本件特許発明3?7に関し、固体電解質型燃料電池を記載したものである。
甲第17号証(特開平4-224181号公報)は、本件特許発明4?7に関し、セラミック微細膜及びその製造方法を記載したものである。
甲第18号証(特公平7-48378号公報)は、本件特許発明4?7に関し、固体電解質燃料電池用空気電極及びこれを有する固体電解質燃料電池を記載したものである。
甲第19号証(特開平5-200259号公報)は、本件特許発明4に関し、浄水器用セラミック膜フィルタを記載したものである。
甲第20号証(特開2000-126564号公報)は、ゼオライト膜エレメントの製造方法に関するもので本件特許発明4?7に関し、支持体部(基層に相当)の厚みは1mmで細孔径10μm;活性層-中間層(両層併せて下地層に相当)は厚みが70μmで細孔径0.1?1.0μmであることが記載されている。
甲第21号証(特開平8-318141号公報)は、本件特許発明8に関し、液体混合物分離膜においてアルミナ質多孔質基体の細孔径が0.05?10μmの表面にゼオライト層を形成させる方法が記載されている。
甲第22号証(特開平9-202615号公報)は、本件特許発明8に関し、ゼオライト膜の製膜を記載したものである。
甲第23号証(特開平11-100283号公報)は、プラスチックを結合材とするセラミックよりなる多孔質膜に関するものである。
甲第24号証(特開平3-68410号公報)は、セラミックフィルターの製造方法に関するものである。
甲第25号証は、相澤正信の陳述書であって、同人の経歴及び本件特許発明及び本件関連特許a)乃至c)の出願がなされた経緯と本件特許発明が冒認出願又は共同出願違反であることが述べられている。
甲第26号証は、相澤正信送信の被請求人宛電子メールの控えであって、相澤正信が被請求人から補償金支給の連絡を受けるまで、本件特許発明が出願されていたことを知らされていなかったこと及び本件特許発明が相澤正信の意図したものでないことが通知された電子メールの控えである。
甲第27号証は、特願2004-076027号の特許願・特許請求の範囲・明細書であって、本件関連特許a)の出願時の内容を証する。
甲第28号証は、特願2004-076059号の特許願・特許請求の範囲・明細書であって、本件関連特許b)の出願時の内容を証する。
甲第29号証は、特願2004-076044号の特許願・特許請求の範囲・明細書であって、本件関連特許c)が請求外TOTOとの共同出願であること、及びその出願時の内容を証する。
甲第30号証は、WO2005/087356の国際公開公報で、本件特許発明の出願時の内容を証する。
IV-2.口頭審理陳述要領書における主張の概要
IV-2-1.無効理由1(新規性欠如)
新規性欠如の無効理由を主張したところ、被請求人は、本件特許発明1に本件特許発明4?9の特定事項を加えて、「請求人は、登録時請求項9の発明については、無効理由1を主張していない。したがって、本件訂正発明1?3は、無効理由1を有しない。」としている。しかしながら、被請求人は、組み合わせによる進歩性は主張していない。
IV-1-2.無効理由2(進歩性欠如)
IV-1-2-1. 多孔質基体中のCaとKの合計含有率0.8mol%以下について
甲第2号証の「Pd膜」は、「例えば」とあるように膜部の一例にすぎず、ゼオライト膜であってもよいことは明らかである。同号証には、アルミナ原料としてスミコランダムが用いられ、純度99.9wt%以上であるから、不純物の含有量は、本件訂正発明1で規定する合計含有率と重複する。また、甲第6号証の請求項1には、「アルカリ金属及びアルカリ土類金属元素の総含有量が50ppm以下である・・・透光性アルミナ焼結体」とされ、その理由として、焼結体の耐久性を高めるために重要であることが記載されている。したがって、当業者であれば、「多孔質基体中のCaとKの合計含有率0.8mol%以下」との構成及び効果は、本件特許発明1に対して挙げた証拠と甲第6号証の組み合わせにより容易に推測することができる。
IV-2-2-2.下地層の粒子のアスペクト比1.05以上について
被請求人は、甲第1号証の図1は、模式図であって、粒子の形状を正確に示したものではないと主張するが、実態の特徴をより明瞭に描写するものであり、同図は、多孔体を構成する粒子のアスペクト比が全て1.05以上であることを如実に示している。
原料粒子の形状は、焼成により変化し、アスペクト比がそのまま維持するということはありえない。また、隣接粒子同士が結合した粒子塊において個々の粒子のアスペクト比を測定するなどは到底不可能である。
IV-2-3.無効理由3(記載不備)
IV-2-3-1.物の発明のパラメータ
本件訂正発明1の「下地層を構成する粒子のアスペクト比」は、焼成粒子の値である。
IV-2-3-2.失当な被請求人の主張
原料粒子の形状は、焼成により変化し、アスペクト比を維持するということはあり得ない。また、隣接粒子が結合した粒子塊において個々の粒子のアスペクト比を測定することは不可能である。
IV-2-3-3.アスペクト比に関する被請求人の主張の飛躍
本件図10では、アスペクト比は2点しかとられておらず、大ざっぱであると主張したのに対して、被請求人が乙第1号証の最終頁には、アスペクト比が略1であるスミコランダムを用いた場合の分離係数αが数十から100であった旨記載されていると主張した点は、飛躍がある。すなわち乙第1号証の最終頁には、「特徴 真球性に優れる」とあるが、同頁の顕微鏡写真からは何れの粒子もアスペクト比が略1であるとは到底いえない形状をなしている。したがって、上記主張は誤りであって、発明の効果が「アスペクト比が1.05以上」の全範囲に亘って発揮させることが実証されていないことに変わりはない。
IV-2-3-4.窒素ガス透過速度の測定方法不在
完成された分離膜を構成する多孔性基体における窒素ガス透過速度を周知の方法で測定できるはずがなく、測定方法の記載、説明が必要不可欠である。
IV-2-3-5.その他パラメータの測定不能性
同様なことが、下地層を構成する粒子のアスペクト比、下地層の平均細孔径、基層の平均細孔径、多孔質基体の気孔率、及び、多孔質基体における最大細孔径についてもいえる。例えば、バブルポイント法を用いた測定では、多孔質基体上に作製されたゼオライト薄膜のために細孔径を測定することは不可能である。
答弁書の「なお、本件訂正明細書において、『平均細孔径』なる文言があるが、これは『最大細孔径』と区別する為に『平均細孔径』なる文言を使用したものである。このことの対比で考えても、アスペクト比は平均アスペクト比を表すことは当業者にとって自明なことである。」(第20頁)との主張は、本件訂正明細書においても、平均細孔径を特定する記載もないことから、アスペクト比を平均アスペクト比としてみてもそれを特定する手がかりがない。この記載は、「そもそも本件発明において平均粒径の定義を特定できず、またメーカー名・商品名での特定もない以上、当業者は、どのような平均粒径を持った球状の不活性粒子を用いればよいかわからないであるから、本件発明を実施できないことは明らかである。」(東京高裁平成17年3月30日判決平成16年(行ケ)第290号)を意識してなされたものと思われるが、被請求人の主張によってもどのようなアスペクト比を用いればよいか明確でなく、上記判例の判示からすれば、本件訂正発明は、アスペクト比を含むパラメータを測定する方法が明確でなく、記載不備の無効理由があることは明らかである。
IV-2-4.無効理由4(冒認出願違反)
IV-2-4-1.相澤は、「発明者」ではない。訂正により本件訂正発明は、本件特許発明と異なるものとなっているが、「アスペクト比」の部分が重要であることには、何ら変わりはない。
IV-2-4-2. 本件特許発明の経緯及び特許出願の経緯について、何ら証拠がない。
譲渡証に署名・捺印したことは事実であるが、「特許の発明者だと信じていた」ことはあり得ない。相澤は、平成18年12月から平成19年2月にかけてメールにより、特許の内容について知らされていないことが記載されている。
IV-2-4-3.譲渡証に署名した平成16年5月21日の段階では、国際公開(平成17年9月22日)されておらず、内容を知ることが出来なかった。
IV-2-4-4.米国出願の宣言書及び譲渡証に署名していることを根拠にしているが、内容を理解せずに、署名していることは疑いない。
IV-2-4-5.譲渡対価の受領
返却を申し出ていたことは証拠上明らかである。
IV-2-4-6.陳述書が客観的事実に反するとするが、被請求人は何ら証拠も提出していない。
IV-2-4.無効理由5(共同出願違反)
TOTOとの「合意」を持ち出しているが、重要な証拠があるはずにもかかわらず、主張だけであり、共同出願違反は認めるべきである。
IV-3.上申書における主張の概要
IV-3-1.無効理由2(進歩性欠如)
被請求人が主張する「多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下」及び「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」という点については、前者は、請求人陳述要領書に詳述したとおりであり、後者は、実質的には範囲を特定したことに成らず、全ての粒子を指すことになり、粒子のアスペクト比の測定に関する発明の詳細な説明の記載が、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでなく、分離性能向上効果が実証されていないことも請求人陳述要領書の記載のとおりであるから、被請求人陳述要領書によっても本件訂正発明は、進歩性を欠く。
IV-3-2.無効理由3(記載不備)
IV-3-2-1.図10のグラフ
本件訂正発明において、下地層を構成する粒子のアスペクト比を1.05以上に規定する唯一の根拠は、実施例6の試験結果を示す図10のグラフで、同図では、アスペクト比はたった2点しかとられておらず、はなはだおおざっぱであるばかりか、グラフは放物線様の曲線に描かれている。
しかも、同図では、本来ある筈のない領域であるアスペクト比0.95まで至っている。
IV-3-2-2.被請求人の飛躍ある主張
被請求人は、乙第1号証の最終頁には、アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数αが数十から100であった旨記載されていると主張した。
しかし、乙第1号証には、その全頁において、アスペクト比なる言葉は示されておらず、「アスペクト比が略1である」ことなど、示唆されていない。
よって、乙第1号証に基づく上記主張は、飛躍があり失当である。
IV-3-2-3.アスペクト比の上限
本件訂正請求項1において、「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」と同比の下限だけが規定されており、上限がない規定では、発明の外延が定まらず、権利範囲が特定されない。被請求人は、答弁書で「アスペクト比の上限は自ずと存在し」と主張しているが、そうであれば特許請求の範囲で上限を明確に規定し、発明の詳細な説明で、該上限の限定理由を説明及び実証すべきであった。
IV-3-2-4.粒子の焼成による変形
焼成によって隣接粒子同士が結合すると共に収縮変形することを説明したが、「セラミックスの製造プロセス-粉末調整と成形-」(参考資料1)の図7中の左から3番目(「適切な焼成後」)及び図9(d)からも明らかである。
IV-3-2-5.アスペクト比の測定
被請求人は、焼成粒子及び原料粒子の何れであっても、粒子の集合体の写真から各粒子のアスペクト比を測定し解析するソフトウェアを紹介した乙第3号証及び粒子のアスペクト比を測定し、解析する装置を紹介した乙第4号証に基づいてアスペクト比を測定することができると主張している。
しかし、乙第3号証は、独立した個々の粒子を対象とする粒子計測ソフトウェアを紹介したものであり、本件訂正発明の粒子のように、焼成によって隣接粒子同士が結合すると共に収縮変形したもののアスペクト比は計測対象外である。また、顕微鏡写真による方法では、アスペクト比を小数点以下2桁まで求めることは不可能である。
IV-3-2-6.ゼオライトの多孔質基体への侵入
水熱合成法などを用いたゼオライト薄膜は、表面のみならず下地層や基層にも侵入し付着するため、薄膜形成後は、元来のアルミナのみからなる下地層や基層などの多孔質基体の各種孔径を測定することは不可能である。
IV-3-3.無効理由4,5に対して
IV-3-3-1. 訂正後発明における特徴的構成について
元々の訂正前特許発明は、公知技術とアスペクト比からなる請求項1単独で本件特許発明の効果が発生したとする発明であるから、「アスペクト比」に関する構成が、特徴的構成である。そして、相澤は、「アスペクト比」に関する構成を特徴的な構成と捉えてはいない。
したがって、訂正によって、出願時の冒認の問題は解消することはない。
IV-3-3-2.本件特許の譲渡証に関する主張に対して
相澤が乙第8号証署名捺印当時、その内容を知っていた旨の被請求人の主張は全て失当である。
IV-3-3-3.米国出願の宣言書(乙第11号証)及びの譲渡証(乙第12号証の1)に対する反論
署名当時、相澤が、権利の「内容」まで含めて理解して証明したとは言えない。
IV-3-4.譲渡対価に関する主張に対し
メールのやり取りで明らかのように、相澤が一方的に振り込みされた補償金返還を終始申し出ていた事実に対しての反論はない。
IV-3-5.陳述書に関する主張に対して
乙第1号証のp1の左最上段に4名の表示がある旨の指摘に対しての反論は何もしていない。
IV-3-6.共同出願違反に関する主張に対し
被請求人は、当然少なくとも共同出願を主張するはずのTOTOにも、また、当然少なくともTOTOとの共同出願を強く勧めるはずの相澤の知らないところで、本件関連特許b)、本件特許を出願したのである。
IV-3-7.信義則主張に対して
相澤は、一度たりとも本件関連特許b)及び本件特許について「発明者」であると認めたことはなく、本件において「禁反言」はない。

V.被請求人の主張
V-1.答弁書における主張の概要
V-1-1.甲号証について
V-1-1-1.甲第1号証
甲第1号証には、本願発明の構成要件である「ゼオライト膜」について一言も言及されていない。甲第1号証の図1は模式図にすぎず、粒子の形状を正確に示したものではない。甲第1号証には、多孔体を構成する粒子のアスペクト比については何ら言及がない。
V-1-1-2.甲第2号証
甲第2号証では、従来技術においてゼオライト膜について一言だけ言及があるものの他の一例として挙げられたものにすぎない。
甲第2号証に記載された発明は、水素混合ガス中の水素分子をPd膜に吸着させて原子状態とし、さらにイオン化しPd膜の反対側に拡散させ、これを再結合させて水素分子とするもので、本件特許発明のゼオライト膜が「ゼオライトからなる膜は分子のサイズや形状の違いにより選択的に分子を透過させる」(本件訂正明細書段落【0002】)とあり、分離機構に大きな相違がある。したがって、甲第2号証は、例えば、水と有機溶剤等との分離を行う本件特許発明に対する無効理由1、2の証拠としては不適切なものである。
V-1-1-3.甲第3号証及び甲第4号証
アルミナ粒子が真球ではなく多角形状であっても、長辺と短辺の比であるアスペクト比は1となり得る。焼成によって、粒子同士が結合するといっても、焼成後においても個々の原料粒子の形状及び寸法は維持されたままである。甲第3号証及び甲第4号証の請求人の解釈は間違っている。
V-1-1-4.甲第5号証
甲第5号証にも、ゼオライト膜について一言も言及がない。
V-1-1-5.甲第7号証
甲第7号証にも、ゼオライト膜について一言も言及がない。
V-1-1-6.甲第13号証
甲第13号証は、「セラミック多孔質膜を分離膜とするフィルタは、・・・固液分離用のフィルタ等として有用である」と記載されているように本件特許発明に対する無効理由1、2の証拠としては不適切なものである。
V-1-1-7.甲第14号証
甲第14号証には、多孔体を構成する粒子のアスペクト比について何ら言及がない。また、ゼオライト膜について一言も言及がない。
V-1-2-1.(無効理由1)について
前述したように、本件訂正発明1は、登録時の本件特許発明1に登録時の本件特許発明4?9の各特定事項を加えたものである。
請求人は、登録時の本件特許発明9については無効理由1を主張しておらず、本件訂正発明1及びこれを引用する形式で記載された本件訂正発明2、本件訂正発明3と同一ではないことは明らかであるから、無効理由1には理由がない。
V-1-2-2.(無効理由2)について
本件訂正発明1では、特に「多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下」及び「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」という点に特徴を有する。これらの何れの点に関しても、甲号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものではなく、無効理由2を有しない。
したがって、訂正後の本件特許発明の請求項1乃至請求項3に係る発明は、特許法第123条第1項第2号に該当するものでない。
乙第1号証について
本件訂正発明の効果の説明を補強する資料として乙第1号証を提出する。
これは、本件発明者として表示される相澤正信氏(現在請求人従業員)が、被請求人に在職時、本件訂正発明の分離膜に関する研究を行って得られた成果を社内資料としてまとめたものである。
最終頁には、「原料粉末モルフォロジーの効果について」と記載され、アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数αが数十から100であった旨記載されている。この乙第1号証の記載内容と本件訂正明細書の段落【0064】の記載を併せると「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」である場合には、分離係数αは顕著に大きくなる。
V-1-2-3.(無効理由3)について
V-1-2-3-1.請求項に登場する「下地層を構成する粒子」が焼成粒子及び原料粒子のどちらであっても「下地層を構成する粒子のアスペクト比」は、異なることはない。
V-1-2-3-2.「アスペクト比をどの様に定義・・・するのか、本件明細書には一切記載がなく、示唆さえない」については、本件訂正明細書段落【0063】に「下地層のアルミナ粒子のアスペクト比(粒子の長径と短径との比)」とあり明確に記載されており、乙第4号証の最終頁には、アスペクト比の定義として「最大長を最大垂直線で割った数値」と記載され、また、「最大長(長径)」、「最大垂直長(短径)」と記載されている。これは、本件訂正明細書の定義と一致する。
V-1-2-3-3.「アスペクト比を・・・どのような方法で測定するのか、本件明細書には一切記載がなく、示唆さえない。」については、甲第3号証、甲第4号証には、製造条件によって、形状及び寸法が制御されたアルミナ粒子(スミコランダム)の顕微鏡写真が示され、前述のように焼成粒子と原料粒子を区別する必要がないので、アスペクト比を測定することが可能である。また、乙第3号証は粒子の集合体の写真から各粒子のアスペクト比を測定し、解析するソフトウェアを紹介し、乙第4号証は、粒子のアスペクト比を測定し、解析する装置を紹介している。アスペクト比を測定することは、当業者にとって殊更困難なものではない。
V-1-2-3-4.「粒子をアスペクト比で定義するなら、同比を平均で規定するのか、分布形状を規定するのか明確に記載する必要があるが、このような記載もない。」については、単に、アスペクト比と言えば、それは平均アスペクト比を表すことは当業者にとって自明なことである。
V-1-2-3-5.「アスペクト比1.05及び1.2の粒子を用いて本件実施例6のように基体を作製することは不可能である。」という点については、形状及び寸法が制御されて製造されたアルミナ粒子(スミコランダム)を用いればアスペクト比が或る範囲にあることを期待することができ、また、製造された下地層の顕微鏡写真によりアスペクト比を確認することができる。
V-1-2-3-6.「本件図10では、アスペクト比がたった2点しかとられておらず、はなはだ大ざっぱである。したがって、発明の効果が『アスペクト比が1.05以上』の全範囲に亘って発揮させることが実証されていない。」については、乙第1号証で、アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数αが数十から100であったことと、本件訂正明細書段落【0064】の記載内容とを合わせると「下地層を構成する粒子のアスペクト比」が大きいほど分離係数が大きくなることは当業者にとって理解され得ることである。アスペクト比が大きいほど分離係数が大きくなる理由は、表面の粒子はアスペクト比が大きいほど長径方向に配向する傾向があり、ゼオライト薄膜と接する面積が増えると考えられ、密着性が高くなり、その構造も均質化され緻密性も高くなると推定される。
本件訂正発明の分離膜は、「前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、
前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであり、
前記基層の厚さが1?3mmであり、
前記下地層の厚さが10?200μmであり、
前記多孔質基体の気孔率が20?50%であり、
前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定された最大細孔径が9μm以下であ」る。これらの要件を満たすことで自ずから上限が存在する。
V-1-2-3-7.「本件訂正明細書には、・・・ガス透過性測定の為の具体的な手段が一切記載されていない。・・・当業者は、本件訂正発明を実施することが出来ず、窒素ガス透過性200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)にした多孔質基体を実際に作製することが不可能であり、したがって上述のような分離性能向上効果を発現させることも不可能である。」と述べているが、窒素ガス透過速度は、当業者にとって周知のパラメータとして慣用されているものである。
V-1-2-3-8.「本件アスペクト比の粒子からなる分離膜に対し、技術的に大きな疑問が生じる。」とし、粒子径と細孔径の関係等に関して主張する点については、被請求人は訂正を行い本件訂正発明に基層及び下地層それぞれの平均細孔径、基層及び下地層それぞれの厚さ、多孔質基体の気孔率及び最大細孔径を特定事項として加えた。
V-1-2-3-9.アスペクト比及び窒素ガス透過速度については、定義するまでもなく、測定方法を記載するまでもなく、また、製造方法を記載するまでもなく、当業者にとって自明の事項である。
V-1-2-3-10.以上のとおり、本件訂正発明1?3は、明確であり、発明の詳細な説明においては、当業者が容易に実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。本件は、特許法第36条第4項及び第6項の要件を満たしており、無効理由3を有しないことは明らかである。
V-1-2-4.(無効理由4)及び(無効理由5)について
V-1-2-4-1.請求人は、本件特許に発明者として記載されている相澤正信(以下「相澤」という。)が「アスペクト比」に係る発明をしないということを理由に、本件出願が冒認であると主張し(無効理由4(冒認出願)その1)、特許を受ける権利が請求外TOTOから被請求人に承継されたいないことを理由に、冒認乃至共同出願違反であると主張する(無効理由5(冒認出願その2乃至共同出願違反))。
V-1-2-4-2.相澤が発明者であることは、以下の事実から明らかである。
V-1-2-4-2-1.本件特許発明の経緯及び特許出願の経緯
平成14年8月:相澤は、TOTOにてゼオライトの分離膜や燃料電池などの無機膜の開発に従事していたが、同社を退職、被請求人会社に首席研究員として入社。ゼオライト分離膜の支持体(多孔質基体)開発のグループリーダーとして従事。平成14年6月12日及び平成15年8月1日、被請求人会社と雇用契約締結(乙第7号証)。
平成14年9月2日:被請求人がTOTOと秘密保持契約を締結した上で、支持体サンプルの提供を受ける。
平成15年5月ごろ:相澤は、上記支持体サンプルを用いて、新規支持体の開発を行い、本件特許発明に至る。
平成15年11月 :相澤は、被請求人知財担当者と共に出願準備開始。同年12月特許事務所に原稿作成依頼。翌年1月23日明細書案完成。明細書案TOTO送付。TOTOより、共同出願の依頼の連絡があった。
平成16年2月6日:相澤も参加の上、被請求人社内にて出願方針についての打ち合わせ。本件特許発明の特許を受ける権利は、被請求人に帰属することが確認されたが、TOTOが有力な支持体メーカ候補であることから、TOTOと協議することになる。
平成16年2月12日:TOTOと本件特許発明の帰属について協議。支持体の発明は、共同出願(関連特許c))とし、膜の発明に関しては被請求人の単独出願(関連特許a)及びb))で合意。
平成16年3月17日:被請求人が、関連特許a)(甲第27号証)、b)(甲第28号証)を単独で、c)(甲第29号証)をTOTOと共同で国内出願する。
平成16年5月21日:相澤が関連特許a)、b)及びc)についての特許を受ける権利の譲渡証を差し出す(乙第8号証の1乃至3)。
平成16年5月:相澤、被請求人会社を退職。
平成16年6月:相澤、請求人会社入社。
平成17年3月30日:被請求人社内発明考案取扱い規定の制定にともない、本件特許出願に関する出願補償金が相澤の口座に振り込まれる(乙第9号証及び10号証)。
平成17年3月15日:被請求人が関連特許a)、b)を基礎としてPCT出願をする(PCT/JP2005/00514)。
平成18年7月6日:本件PCT出願の米国への国内移行手続にともない、米国出願をする(出願番号:590234、公開番号:2007013083)。相澤はこの米国出願のために「宣誓書及び委任状」に署名。
V-1-2-4-2-2.本件特許発明の譲渡証
V-1-2-4-2-3.米国出願の宣言書及び譲渡証
V-1-2-4-2-4.譲渡対価(出願補償金)の受領
V-1-2-4-2-5.関連特許a)及びc)におけるアスペクト比に関する記載
V-1-2-4-2-6.陳述書
V-1-2-4-2-6-1.陳述書の信用性の欠如
相澤は甲第25号証陳述書において「本件特許発明及び関連特許b)において「発明者」として表示されていますが、発明者ではありません。」などと述べているが、相澤は発明をしたことを宣言し、譲渡し、譲渡対価を受けているのである。
相澤が転職して請求人は、分離膜を利用したゼオライト脱水膜エレメントを開発中でライバル企業である。本件特許発明は、ゼオライト分離膜製造に不可欠な重要発明。自己保身或いは請求人からの圧力に屈して、虚偽の陳述をなして特許を無効にするという虚偽陳述の動機は考えられ、上記陳述には信用性はない。
V-1-2-4-2-6-2.陳述書の内容
アスペクト比をパラメータとした分離膜について相澤が発明したことについては、陳述書の内容自体に表れている。
相澤は、「非対称構造」が公知の技術であり、特許性があるとは思えない「アスペクト比」を構成要件の主軸とすれば特許性がないと判断したにすぎず、「CaとKを含有」を主軸に構成要件化しようと考えていたと述べている。
V-1-2-4-2-6-3相澤は、前述のとおりグループリーダーとして本件特許発明をなしており、職務発明であることは明らかで、雇用契約を締結しているから、特許を受ける権利は被請求人に承継され、譲渡している(乙第8号証の1乃至3)。冒認出願でないことは明らか。
V-1-2-4-2-6-4.本件特許発明は、相澤が被請求人会社においてなした発明であることは明らかであるから、被請求人がTOTOから特許を受ける権利を承継していないことを理由とする冒認出願の主張も根拠がない。
V-1-2-4-2-6-5.被請求人は、相澤から本件特許を受ける権利を全部取得しているから、被請求人に共同出願違反の事実はない。
被請求人は、TOTOとの間で協議をなし、特許を受ける権利の帰属について合意した上、本件特許出願をしているのだから、共同出願違反の事実はないことは明らかである。
V-1-3.証拠方法について
V-1-3-1.立証の趣旨
乙第1号証:アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数が数十から100であったことを立証する。
乙第2号証:下地層における焼成粒子について顕微鏡写真が撮影可能であること、その顕微鏡写真から個々の粒子を識別することが可能であること、及び、個々のアスペクト比が測定可能であることを立証する。
乙第3号証:粒子の集合体の写真から各粒子のアスペクト比を測定し、解析するソフトウェアが存在することを立証する。
乙第4号証:粒子のアスペクト比を測定し、解析する装置が存在することを立証すると共に、アスペクト比の定義について立証する。
乙第5号証及び乙第6号証:アスペクト比及び窒素ガス透過速度については、定義するまでもなく、測定方法を記載するまでもなく、製造方法を記載するまでもなく、何れも当業者にとって自明の事項であることを立証する。
乙第7号証:相澤が被請求人に対し、職務発明についての特許を受ける権利を承継させることを約した事実を立証する。
乙第8号証の1:相澤が、被請求人に対し、関連特許a)についての特許を受ける権利を譲渡した事実を立証する。
乙第8号証の2:相澤が、被請求人に対し、関連特許b)についての特許を受ける権利を譲渡した事実を立証する。
乙第8号証の3:相澤が、被請求人に対し、関連特許c)についての特許を受ける権利を譲渡した事実を立証する。
乙第9号証:出願補償金が相澤の口座に振り込まれた事実を立証する。
乙第10号証:本件特許出願の管理会社である株式会社物産IPの木原倫夫が、相澤に対し、出願補償金が振り込まれることを通知した事実を立証する。
乙第11号証:相澤が、本件米国特許出願に係る発明の発明者であることを立証する。
乙第12号証の1:相澤が、本件米国特許出願に係る発明を被請求人に譲渡した事実を立証する。
乙第12号証の2:相澤が、本件米国特許出願に係る発明を被請求人に譲渡した事実を立証する。
V-1-3-2.証拠の表示
乙第1号証:被請求人社内資料「2004.05.10 WM 成膜技術の研究」
乙第2号証:下地層における焼成粒子の顕微鏡写真
乙第3号証:ラトックシステムエンジニアリング株式会社の3D粒子計測ソフト(TRI/3D-PRT)のカタログ
乙第4号証:株式会社セイシン企業の粒度・形状分布測定器(PITA-1)のカタログ
乙第5号証:特開2006-212551号公報
乙第6号証:特開2007-268463号公報
乙第7号証:雇用契約書
乙第8号証の1:譲渡証(関連特許a))
乙第8号証の2:譲渡証(関連特許b))
乙第8号証の3:譲渡証(関連特許c))
乙第9号証:総合振込・給与振込集中処理明細書
乙第10号証:相澤氏宛出願保証支払報告050323.txt
乙第11号証:実用・意匠特許出願宣言書及び委任状
乙第12号証の1:Assignment
乙第12号証の2:譲渡証(訳文)
V-2.口頭審理陳述要領書における主張の概要
V-2-1.無効理由1,2について
本件訂正発明は、「多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下」及び「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」という点に特徴を有することにより、分離係数αを高めることができる。
このような特徴的な構成及び作用・効果については、いずれの甲各号証にも記載も示唆もない。
これらの何れの点に関しても、甲号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得たものではなく、無効理由2を有しない。
V-2-2.無効理由3について
「下地層を構成する粒子のアスペクト比」については、焼成粒子及び原料粒子の何れであっても、顕微鏡写真を解析することでアスペクト比を測定することができる。また、焼成粒子のアスペクト比を測定できることは乙第3号証に記載され、原料粒子のアスペクト比を測定できることは乙第4号証に示されている。
「多孔質基体の最大細孔径」については、ASTM(アメリカ材料試験協会)の規格F316-86に規定されるバブルポイント法により測定し、「平均細孔径」については、ASTMの規格E1294-89に規定されるハーフドライ法により測定する。
「基層の厚さ」及び「下地層の厚さ」は、走査電子顕微鏡で断面を観察することで測定する。
「多孔質基体の気孔率」については、見かけの密度と、真の密度とに基づいて計算により求める。
「多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率」については、粉砕して得られる粉末に対して蛍光X線分析法、或いは、断面に対してエネルギー分散型X線分析法により測定する。
「多孔質基体の窒素ガス透過速度」は、ゼオライト薄膜形成前の多孔質基体の一方の側から圧力をかけて窒素ガスを透過させ、単位面積、単位時間及び単位圧力あたりの透過量を測定する。
請求人が挙げた各甲号証や請求人が出願人である乙第5号証及び乙第6号証においても各種パラメータの測定方法については、記載されておらず、上記の各種パラメータの測定方法は、当業者にとって周知慣用のものである。
V-2-3.無効理由4,5について
V-2-3-1.訂正後の請求項には、「多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下である」という構成をふくんでいるから、訂正により、冒認出願の主張の理由は消滅している。
アスペクト比も関連特許出願a)、c)に開示があるから冒認出願の主張の理由は、消滅している。
本件は、相澤が署名・捺印したことについて争いのない3通の日本出願の譲渡証、米国出願の宣誓書及び譲渡証のある事案であり、相澤がその意思に基づいてこれらの証書を作成したことが民事訴訟法第228条第4項により推定され、請求人がこの推定を破る反証をすべき場合であり、発明者であることの推認を妨げる事実を実証すべき場合である。
相澤のみが発明者であるから、共同出願違反であることはありえない。
V-2-3-2.信義則違反について
本件特許発明の発明者が請求人会社に移り、請求人が特許の無効性を争い、元の従業員がそれに沿う陳述をしている事案であり、請求人の各無効理由の主張は、信義則に反している。
V-2-4.証拠方法について
V-2-4-1.立証の趣旨
乙第13号証:相澤が本件特許出願の内容についてしていた事実等を立証する。
乙第14号証:TOTOと被請求人会社との間に一連の特許出願に関する合意があったことを立証する。
乙第15号証:本件審判請求が信義則に反するものであることを立証する。
V-2-5.証拠の表示
乙第13号証:木原倫夫の「陳述書」及び「ゼオライト膜特許出願に関する打合せ議事録」
乙第14号証:被請求人とTOTOとの間の「特許出願契約書」
乙第15号証:ドナルド・S・チザム著「ELEMENT OF UNITED STATES PATENT LAWアメリカ特許法とその手続 改訂第二版、688頁から693頁」
V-3.上申書における主張の概要
V-3-1.無効理由1,2について
請求人は、上申書において無効理由1については何も主張していない。
本件訂正発明は、登録時の請求項1に請求項4?9の各要件を加えたもので、請求人は、登録時の請求項9については、無効理由1を主張していない。
したがって、本件訂正発明は、無効理由1を有しないことは明らかである。
請求人は、上申書において無効理由2について縷々主張しているが、被請求人が答弁書及び口頭審理陳述要領書においてした反論を曲解又は無視して、審判請求書の主張を繰り返したにすぎない。
本件訂正発明の「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」なる要件は、平均アスペクト比が1.05未満のもの(真球性に優れるもの)を排除することを意図するものである。それ故上限を定める必要はない。アスペクト比は小数点以下2桁まで十分に測定することが可能であるので、1.05以下のものを排除することは、アスペクト比の範囲を実質的に特定していることになる。
さらに、本件訂正発明の分離膜は、他の要件を満たした上でアスペクト比を1.05以上とするものであるから、これらの要件によりアスペクト比の上限は自ずと存在し、その範囲において効果を発揮することができる。
V-3-2.無効理由3について
V-3-2-1.一般に分離膜の分離係数の値は広い数値範囲に亘るから、本件図10でも縦軸(分離係数)は対数軸で表示されており、乙第1号証の最後の頁の記載内容であるアスペクト比が略1であるときに分離係数αが数十?100であることをも加味すれば、本件図10に示すグラフのように上に凸形状の曲線になる。
V-3-2-2.本件図10は、下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05未満である場合に分離係数が極めて小さいことを示し、下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上である場合に分離係数が1500以上であることを示し、1.2以上である場合に分離係数が30000以上であることを示すものである。
すなわち、本件図10は、アスペクト比が1.0未満の場合を想定して描いたのではない。
V-3-2-3.本件図10と同様の図は、甲第27号証に図11として示され、甲第29号証の図11として示されている。
V-3-2-4.乙第1号証の最終頁の写真の粒子のアスペクト比が略1であることが示唆されていないことを主張する点については、乙第1号証の最終頁の写真の右に「住友化学製、型番AA-2、・・・、特徴 真球製に優れる」と記載されているように、最終頁の写真に示されたアルミナ粒子は、住友化学製の型番AA-2の粒子であって、これは平均アスペクト比が1に近いものである。
また、乙第1号証の最終頁には、アルミナ粒子が真球に近いほど分離係数が小さくなる旨が示されている。
V-3-2-5.「下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上」なる要件は、下地層を構成する粒子の平均アスペクト比が1.05未満のもの(真球性に優れるもの)を排除することを意図するものである。それ故、アスペクト比の上限を定める必要はない。
本件訂正発明では、アスペクト比の下限値のみを規定する一方で上限値を規定しないとしても、発明の外延は明確である。
V-3-2-6.本件訂正発明の分離膜の多孔質基体に関し、焼成によって粒子同士が結合するといっても、粒子同士が互いに接触するに留まり、焼成後においても個々の原料粒子の形状及び寸法は維持されたままである。
したがって、請求項に登場する「下地層を構成する粒子」が焼成粒子及び原料粒子の何れであるかを議論することは無意味である。「アスペクト比」は、何れであっても異なることはない。
V-3-2-7.乙第3号証の第1頁の主な特徴のところには、粒子構造体を構成する個々の粒子のアスペクト比の測定が可能であることが記載されている。また、そのことは、乙第3号証の第2頁左側の図及びヒストグラムにも示されている。このように、乙第3号証に記載されたものは、焼成粒子のアスペクト比を測定することができる。
また、顕微鏡によって得られる像を解析して測定するのであるから、平均アスペクト比を小数点以下2桁まで有意な値として得ることは容易であり、更に下位の桁まで測定することができる。ヒストグラムから平均アスペクト比を小数点以下2桁まで測定可能である。
V-3-2-8.本件訂正発明では、ゼオライトが下地層にも基層にも殆ど侵入することはないから、ゼオライト膜形成前後で各種パラメータの値が異なることはない。
V-3-2-9.請求人は、アスペクト比1.05以上という範囲は発明を特定したことにならないと主張しているが、アスペクト比1.05未満を排除する点で発明を特定しており、さらにCaとKの合計含有率によっても発明を特定し、他のパラメータによっても発明を特定している。アスペクト比のみを問題とする請求人の考えは間違っている。
V-3-3.無効理由4,5について
V-3-3-1.訂正後の特許発明について
請求人は、訂正の発明について冒認の問題が解消していないと主張してる。
しかしながら、請求人が主張しているのは、本件特許発明を特許性のある発明であると認識していなかったこと乃至権利主張すべき発明であると認識していなかったことにすぎず、訂正後の発明に冒認出願の理由は存在しない。
V-3-3-2.議事録について
議事録及び木原の陳述書で重要なのは、相澤が本件一連の発明にどのように関与していたかという点で、相澤は被請求人会社で唯一の発明者として扱われていたことがわかる。
V-3-3-3.メールの不自然さについて
甲第26号証のメールで相澤が要求しているのは、未発行の特許公報で、相澤が特許された内容を知らないといっているにすぎず、出願内容を知らなかったこととは直接の関係がない。メール以前は、譲渡証に判を押し出願補償金を受領しているにもかかわらず、登録を知らされた後は、態度が急変していることが不自然なのである。
V-3-3-4.譲渡証について
相澤は本件一連の特許出願の中心にいた人物で事情について最もよく知る人物であるのに、冒認であるとするなら真の発明者は誰なのかなどについて主張立証がない。
V-3-3-5.判例の理解について
被請求人は、相澤が発明者であることの十分な証明をなしており、本件は立証責任の働く場面ではない。
V-3-3-6.乙第1号証について
乙第1号証には「成膜技術の研究」というタイトルが示すように出願に係る発明以外の事項も広く記載されている。研究の進展状況を社内報告する資料である乙第1号証に、相澤以外の名前が記載されていたとしても、相澤以外に発明者がいることの根拠にはなり得ない。
V-3-3-7.TOTOとの合意文書
関連特許a)乃至c)は既に公開されており、TOTOが問題があると思えばクレームがあるはずであるが、そのようなクレームは受けていない。
V-3-4.信義則違反について
相澤が本件特許発明の発明者であることは明白でこの事実に基づけば、信義則上、請求人の無効理由1?3についての主張を許すべきではなく、発明者性を形式的にでも争えば、信義則違反を免れることができるわけではない。

VI.当審の判断
VI-1.無効理由3についての当事者の主張について
請求人は、審判請求書において「焼成粒子のアスペクト比をどのような測定法で測定するのか、本件明細書には、一切記載がなく、示唆さえない。」とするのに対して、被請求人は、答弁書において「甲第3号証、甲第4号証には、製造条件によって、形状及び寸法が制御されたアルミナ粒子(スミコランダム)の顕微鏡写真が示され、前述のように焼成粒子と原料粒子を区別する必要がないので、アスペクト比を測定することが可能である。また、乙第3号証は粒子の集合体の写真から各粒子のアスペクト比を測定し、解析するソフトウェアを紹介し、乙第4号証は、粒子のアスペクト比を測定し、解析する装置を紹介している。アスペクト比を測定することは、当業者にとって殊更困難なものではない。」と主張している。
また、請求人は、審判請求書において「粒子をアスペクト比で定義するならば、同比を平均で規定するのか、分布形状で規定するのかを明細書に明確に記載する必要があるが、このような記載もなく、この点でも当業者はアスペクト比が1.05以上であるような下地層を構成することはできない。」とするのに対して、被請求人は、答弁書において「単に、アスペクト比と言えば、それは平均アスペクト比を表すことは当業者にとって自明なことである。」と主張している。
VI-2.明確性要件違反について
「下地層を構成する粒子」個々の形状は、乙第2号証の顕微鏡写真に示されるように千差万別であり、乙第3号証の第2頁の「粒子アスペクト比」のヒストグラムに示されるように常に頻度分布を有するアスペクト比からなる粒子の集合体を意味することが明らかである。そして、仮に、複数の異なる原料の平均アスペクト比が測定値処理用の特定ソフトウェアを用いた画像解析上偶々同一であるとしても、その分布の相違から下地層の細孔径に与える影響は異なるものと認められ、何らかの定義をしなければ集合体としてのアスペクト比がセラミック焼結材の多孔質基体の物性を表す指標たり得ないことは当業者にとって自明であるということができる。
然るに、本件訂正明細書中には、段落【0063】に「下地層のアルミナ粒子のアスペクト比(粒子の長径と短径との比)」と記載されるのみであって、その平均値がどのようにして得られるかについては、全く記載されていない。さらに、請求人が口頭審理陳述要領書において引用した判決には、「平均粒径の定義・意味、その測定方法如何で、その数値は有意に異なってくるものであり、しかも、いずれの定義・意味ないし測定方法も実際に使用されており、当業者間において、(明記がない場合)どれを使用するのが通常であるとの共通の認識があったと認めることもできないのであるから、訂正明細書においても、それについて定義する必要があるというべきである。
そして、前記のとおり、訂正明細書には、それらを特定する明示の記載も、その手掛かりとなる記載もないのであるから、「仮に、「球状」の特定の物質から成る不活性微粒子と特定することにより、その物質及び代表径の意義(球の直径)が把握できるとしても、なお、特定に欠けることは明らかである。」(東京高裁平成17年3月30日判決平成16年(行ケ)第290号)と判示されるように、「平均粒径」においてすら定義・意味、その測定方法を特定する明示の記載も、その手掛かりとなる記載もない明細書では特定に欠けるのであるのであるから、本件訂正発明における粒子の長径と短径との比である平均「アスペクト比」では、粒径を長径・短径と二重に測定するために定義等をより多く必要とすると認められる以上、平均「アスペクト比」は、「平均粒径」と比してさらに明確性を欠くというべきであり、結果として、本件訂正発明には、明確性要件違反があることが明らかである。
VI-3.実施可能要件違反について
そして、前記判決における「そもそも本件発明において平均粒径の定義を特定できず、またメーカー名・商品名での特定もない以上、当業者は、どのような平均粒径を持った球状の不活性粒子を用いればよいかわからないであるから、本件発明を実施できないことは明らかである。」という判示事項をそのまま本件訂正発明の平均「アスペクト比」の判断に適用すれば、訂正明細書において平均「アスペクト比」が定義されていない以上、訂正明細書が明確かつ十分に記載されているとすることはできないので、本件訂正発明を当業者といえども容易に実施できないことになり、この不備が実施可能要件違反に該当することは明らかである。
さらに、請求人が、審判請求書において「ミクロンオーダー或いはそれ以下の粉末に対し、特定の、あるいは或る程度の範囲内にあるアスペクト比の粉末粒子を選択的に捕集する装置などは、市販されていないはずである。」としたのに対して、被請求人は、答弁書において粒子のアスペクト比測定法について説明するのみで、特定の範囲内にあるアスペクト比の粉末粒子を選択的に捕集する装置については何も答えておらず、特定アスペクト比の粒子を選択的に捕集する手段が開示されていない点においても本件訂正発明が実施可能要件違反を解消したとすることができない。
VI-4.無効理由3のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1乃至3は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
VI-5.サポート要件について
なお、請求人の主張する無効理由3に「発明の効果が『アスペクト比が1.05以上』の範囲全域に亘って発揮させることが実証されていない。」とあり、サポート要件に関連する主張も含まれているので、これについて検討する。
被請求人は、社内文書すなわち私文書である研究報告書の乙第1号証の最終頁には、アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数αが数十から100であった旨記載されていると主張している。
しかし、乙第1号証は、私文書であり、証拠能力が証明されておらず、本件出願時点の技術常識を判断する資料たり得ないものであり、しかも、単に「住友化学製型番AA-2が粒度2.0?2.6μmで特徴が真球性に優れる」ことが記載されているのみで、その全頁において、「アスペクト比が略1である」はおろか、「アスペクト比」について記載も示唆もない。さらに、同号証の最終頁の顕微鏡写真からは何れの粒子も「楕円体」または「多面体」と認められ、示された粒子が「真球」あるいは「アスペクト比が略1」であるとは到底認められない。
よって、乙第1号証に基づく被請求人の前記主張は失当であり、採用することができない。
そして、たとえ同号証を参酌したとしても、「アスペクト比が略1であるアルミナ粒子を用いた場合に分離係数αが数十から100であった」ことは確認できず、「本件図10では、アスペクト比がたった2点しかとられておらず、はなはだ大ざっぱである。したがって、発明の効果が『アスペクト比が1.05以上』の全範囲に亘って発揮させることが実証されていない。」とする請求人の主張は妥当であり、さらに「アスペクト比が1.05以上」とする数値限定には臨界的意義は見いだすことができない。
VI-6.被請求人の上申書における主張に対して
被請求人は、上申書において「『下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上』なる要件は、下地層を構成する粒子の平均アスペクト比が1.05未満のもの(真球性に優れるもの)を排除することを意図するものである。」と、その真意を主張する。
しかし、たとえ「真球性に優れるもの」を除くことを意図したと解釈しても、どの程度の真球性までを除くかについて不明確な程度を依然として有しているから、この解釈によっても本件訂正発明のアスペクト比を含む数値限定の特定が明確性を有することにはならない。また、否定的表現である「?を除く」は、審査基準において明確性要件違反の類型として挙げられている(審査基準第I部第1章明細書及び特許請求の範囲の記載要件2.2.2.1第36条第6項第2号違反の類型(5)<1>否定的表現がある結果、発明の範囲が不明確となる場合の項参照)。さらに、この主張により実施可能要件違反及びサポート要件違反が解消して「それ故、アスペクト比の上限を定める必要はない。」ということにはならないことは当然で、いうまでもないことである。

VII.むすび
以上のとおり、申し立てられた他の無効理由である特許法第123条第1項第2号及び同第6号の規定について検討するまでもなく、本件訂正発明1乃至3は、特許法第36条第4項第1号及び同第6項第2号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
分離膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜に係わり、特に、高い分離係数だけでなく高い透過係数を同時に実現することが可能な分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは分子程度の大きさの細孔を有する結晶性アルミノケイ酸塩であり、ゼオライトからなる膜は分子のサイズや形状の違いにより選択的に分子を通過させる性質を有するので、分子ふるいとして広く利用されている。なかでも水と有機溶剤等の分離膜としての用途が注目されている。しかしながら、分離膜として機能するゼオライト膜は単体では十分な機械的強度を有さないので、セラミックス等からなる多孔質基体に支持した状態で使用するのが普通である。
【0003】
多孔質基体上にゼオライト膜を製膜する代表的な方法としては、シリカ源とアルミナ源を主原料とする原料中に多孔質基体を浸漬させた状態で、水熱反応によりゼオライト膜を多孔質基体表面に付着するように合成する方法がある。シリカ源とアルミナ源を含有するスラリー状の原料中に多孔質基体を浸漬させて適当な温度条件とすると、スラリー中の微細なゼオライト種結晶を核としてゼオライトが成長して膜が形成される。
【0004】
多孔質基体にゼオライトの種結晶を担持させた状態で水熱反応によりゼオライト膜を製造する方法自体は公知である(例えば特開平7-185275号公報参照)。
【0005】
この水熱反応法においては、過飽和のスラリー中に多孔質基体を浸漬させると、微細なゼオライト種結晶が多孔質基体の表面に付着してゼオライト膜が成長するのみならず、スラリー中で大きく成長したゼオライト結晶が多孔質基体の表面に付着してゼオライト膜が成長する。このようにして形成されたゼオライト膜は均一な孔径及び膜厚を有さず、ピンホールが生じやすいという問題がある。このため水熱反応により多孔質基体上でゼオライト膜を合成する際には、予めセラミックス等の多孔質基体に種結晶を担持させ、スラリー中のゼオライト原料の濃度を低く設定することが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7-185275号公報(第8?第18段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような分離膜において、その多孔質基体の細孔径が重要なパラメータとなることが、発明者らの検討によって明らかになった。この検討によれば、多孔質基体の細孔径が所定の値よりも大きい場合には、ゼオライト結晶で容易に基体の細孔を埋めることが出来ずにピンホールが形成されるため、分離膜の分離特性が低下し、その一方で多孔質基体の細孔径が所定の値よりも小さい場合には、ピンホールの形成を抑制できる反面、支持体の細孔が小さく透過抵抗が高いため、透過速度が低下する。
【0008】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、高い分離特性を得ると同時に、高い透過速度を得ることが出来る分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る分離膜は、主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の多孔質基体と、
該多孔質基体の表面に製膜されたゼオライト薄膜と、
を備える分離膜であって、
前記多孔質基体は、基層と、該基層の表面に形成された前記ゼオライト薄膜の下地層とを有し、
前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さいことを特徴とする。
【0010】
上記分離膜によれば、平均細孔径が比較的小さい下地層に接触させてゼオライト薄膜が形成されるために、ピンホールの形成を抑制しつつ緻密でより薄いゼオライト薄膜が得られる。また、ゼオライト薄膜が接触しない基層は下地層よりも平均細孔径が大きいため、基層において高いガス透過速度を得ることができる。このため、高い分離特性と高い透過速度とを同時に実現することが出来る分離膜を得ることができる。
なお、下地層と基層との間に前記2層と平均細孔径の異なる層を1以上有していたとしても本発明と同様のものであると考えることができ、本発明と同様の作用効果を奏するものである。
【0011】
また、本発明に係る分離膜においては、前記多孔質基体の窒素ガス透過速度が、200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であることが好ましい。より好ましくは、前記多孔質基体の窒素ガス透過速度が、400?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であることを特徴とする。
【0012】
上記分離膜によれば、多孔質基体が200m^(3)/(m^(2)・hr・atm)より大きい窒素ガス透過速度を有するため、十分な通気性を確保できる。従って、例えば大量のアルコールと水を分離するための分離膜として使用する際にも、水の透過速度を十分に高めることができ、十分な分離能率を確保することができる。また、窒素ガス透過速度を7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)以上とすると、多孔質基体の気孔率を高める、平均細孔径を大きくするなど、多孔質基体の特性を決定するパラメータを変更する必要がある。気孔率を高めると、多孔質基体の機械強度が得られなくなり、平均細孔径を大きくすると、後述する通り、ゼオライト薄膜を形成する際にピンホールが発生し、分離膜としての分離特性が得られない。このため、窒素ガス透過速度を200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)に調整するようにしている。また、前記多孔質基体の窒素ガス速度が400m^(3)/(m^(2)・hr・atm)以上となることで、さらなる分離能率を得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る分離膜においては、前記多孔質基体が多層構造からなるものとすることも可能である。また、本発明に係る多孔質基体においては、平均細孔径の異なる複数の層を有することも可能である。
【0014】
また、本発明に係る分離膜において、前記多孔質基体は、基層と、該基層の表面に形成された前記ゼオライト薄膜の下地層とを有し、前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであることも可能である。
【0015】
上記分離膜によれば、基層の平均細孔径を4?12μmと大きくすることにより、通気性を高くできる。なお、基層の平均細孔径を12μm以下とすることは、下地層を形成した際にピンホールが発生することを防ぐためである。下地層にピンホールの発生を防止することは、下地層の表面に形成するゼオライト薄膜にピンホールが発生することを防ぐ上で重要である。また、下地層の平均細孔径を0.4?1.2μmと小さくすることにより、ゼオライト膜を薄く製膜することができる。その結果、従来の分離膜に比べて極めて高い分離能率を実現することができる。
【0016】
また、本発明に係る分離膜においては、前記基層の厚さが1?3mmであり、前記下地層の厚さが10?200μmであることが好ましい。基層の厚さが厚い場合には、上記窒素ガス透過速度が得られず、分離膜の透過係数が十分に得られない。また、基層の厚さが薄い場合には、十分な機械強度が得られない。よって、基層の厚さは1?3mmが適当である。また、下地層の厚さが厚い場合には上記窒素ガス透過速度が得られず、分離膜の透過係数が十分に得られない。また、下地層の厚さが薄い場合には、下地層に大きな孔径のピンホールが発生し、この下地層上に製膜されたゼオライト薄膜にもピンホールが発生するため、十分な分離係数が得られない。よって、下地層の厚さは、10?200μmが適当である。
【0017】
また、本発明に係る分離膜においては、前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上であることが好ましい。これにより、分離性能を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係る分離膜においては、前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2以上であることがより好ましい。これにより、分離性能をより高めることができる。
【0019】
また、本発明に係る分離膜においては、前記多孔質基体の気孔率が20?50%であることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る分離膜においては、前記多孔質基体の気孔率が35?40%であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明に係る分離膜において、前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定される最大細孔径が9μm以下であることが好ましい。これにより、分離性能を高めることができる。なお、バブルポイント法とは、微細孔に毛細管現象により液体を吸液させておき、片側から適切な気体により圧力をかけ、最大孔より反対側に連続して気泡が発生してくるときの圧力と液体の表面張力から孔径を求めるものであり、詳しくは後述する。
【0022】
また、本発明に係る分離膜において、前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定される最大細孔径が7μm以下であることがより好ましい。最大細孔径を制御することは、下地層の表面に形成されるゼオライト薄膜のピンホールの発生を防止し、より高い分離性能を得るために非常に重要である。
また、本発明に係る上記分離膜において、前記多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率は、0.8mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましい。多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率を0.8mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下とし、CaとKの含有量を少なくすることにより、ゼオライト薄膜を形成するときに、強アルカリの水熱反応溶液で多孔質基体に水熱反応を行っても、多孔質基体中のCaやKが水熱反応溶液中に溶解することによる多孔質基体の強度低下を抑制できる。従って、分離膜として機能させる際に使用に十分耐え得る膜の機械的強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、高い分離特性を得ると同時に、高い透過速度を得ることが出来る分離膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態による分離膜の一部を示す断面図である。
分離膜は、主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の多孔質基体3を有している。多孔質基体3は、基層の一例である素管1と、この素管1の表面に形成された下地層2とを有している。素管1の平均細孔径は4?12μmであることが好ましく、下地層2の平均細孔径は0.4?1.2μmであることが好ましい。前記素管1の厚さが1?3mmであり、前記下地層2の厚さが10?200μmであることが好ましい。多孔質基体3の表面にはゼオライト膜4が製膜されている。多孔質基体3に含有するCaとKの合計含有率は、0.8mol%以下であることが好ましく、0.5mol%以下であることがより好ましい。
【0025】
図2は、分離膜の基層の一例としての素管を作製する方法を示すフロー図である。
まず、図2の上段に示す焼結助剤粉末M1(例えばCaO、CaCO_(3)、又はHfO等)及び水M3をボールミルによって混合する(S4)。
【0026】
次いで、バインダーM2(例えばメチルセルロース系バインダー等)及び高純度アルミナ粉末M5(例えば90%以上の純度のアルミナ粉末)を準備し、このバインダーとこのアルミナ粉末と前記の混合物とを混練する(S6)。尚、前記バインダーM2は5?20体積%程度とする。
【0027】
次いで、前記の混練物を押出し成形することにより素管1を作製する(S7)。次に、この素管1を乾燥させ(S8)、脱脂を行う(S9)。次いで、素管1を焼成する(S10)。この際の条件は、大気雰囲気、温度が1150?1800℃、焼成時間が1?4時間とする。このようにして図1に示す主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の素管1を作製する(S11)。
【0028】
次に、前記素管の外表面に下地層を形成する方法について図3を参照しつつ説明する。
図3に示すように、高純度アルミナ粉末M6、αテルピネオールM7、エタノールM8、エチルセルロース系バインダーM9を、30:75:25:4の重量比で混合して攪拌する。これによりスラリーを作製する(S12)。
【0029】
次いで、前記スラリーに前記素管をディッピングする(S13)。この際、素管1内はスラリーが接触しないように、該素管1の一端を閉じ、該素管1の他端を吸引するのでもよいし、素管1を前記スラリーに単に浸漬する方法でもよい。また、スラリー側を加圧するのでもよい。
【0030】
次いで、素管1を乾燥させ(S14)、焼成する(S15)。この際の焼成条件は、大気雰囲気、温度が1100?1500℃、焼成時間が1?4時間とする。このようにして図1に示すように素管1の外表面に下地層2を形成して管状の多孔質基体3を作製する。前記下地層2の主成分はアルミナからなるセラミック焼結材である。
【0031】
尚、本実施の形態では、アルミナを主成分とする多孔質基体を用いているが、他の材質(セラミックス、有機高分子又は金属)からなる多孔質基体を用いることも可能である。例えば、他のセラミックスとしては、ムライト、シリカ、チタニア、ジルコニア等が好ましく、金属としてはステンレススチール、焼結されたニッケル又は焼結されたニッケルと鉄の混合物等が好ましい。
【0032】
多孔質基体3は、水を用いたバブルポイント法で測定される最大細孔径が9μm以下であることが好ましく、最大細孔径が7μm以下であることがより好ましい。
バブルポイント法とは、微細孔に毛細管現象により液体を吸液させておき、片側から適切な気体により圧力をかけ、最大孔より反対側に連続して気泡が発生してくるときの圧力と液体の表面張力から孔径を求めるもので、次の式から得られる。
r=-2γcosθ/P
γが液体の表面張力、θが液体と膜の接触角、Pが圧力(バブルポイント)、rが膜の細孔径である。
尚、バブルポイント法は、ASTM(アメリカ材料試験協会)の規格(F316-86)による多孔質体の最大細孔径を測定する方法であって、再現性に優れている。
【0033】
次に、前記下地層の表面にゼオライト膜を製膜する方法について図4を参照しつつ説明する。
[1]種結晶の多孔質基体への付着
ゼオライトの合成反応に先立って、下地層2にゼオライトの種結晶を付着させる。ゼオライトの種結晶の平均径dsmと下地層の平均細孔径dtmとの関係が1/3≦dtm/dsm≦10を満足することが好ましく、より好ましくは1≦dtm/dsm≦4を満足することである。例えば種結晶の平均径dsmが0.3μmであり、下地層の平均細孔径dtmが0.6μmであると、dtm/dsmが2となり、上記の関係を満足する。上記の関係を満足することが好ましい理由は、最終的に製膜されるゼオライト膜4の膜厚は下地層2の平均細孔径dtmとゼオライト種結晶の平均径dsmとの関係で決まるからである。dtm/dsmが1/3より小さい場合、十分に連続的に結晶化したゼオライト膜が得られず、また、ゼオライト膜中のピンホールの発生率が増加して、その結果分離性能が低下する。また、dtm/dsmが10より大きい場合、下地層へのゼオライト種結晶の付着量が過度に増大し、その結果、例えばディッピング後の乾燥工程において種結晶中にクラックが生じ、ゼオライト膜製膜後の分離膜の分離性能が低下する。
【0034】
(1)種結晶
ゼオライトの微細粒子(ゼオライト種結晶粉末M10)を水に入れて混合し、撹拌してスラリーにする(S16)。ゼオライトの微細粒子(種結晶)の平均径dsmは、例えば0.3μmであり、スラリー中に含まれる種結晶の濃度は0.5質量%であるのが好ましい。
【0035】
(2)多孔質基体
多孔質基体上にゼオライト膜を形成したものを分子ふるい等として利用する場合、(a)ゼオライト膜を強固に担持することができ、(b)圧損ができるだけ小さく、かつ(c)多孔質基体が十分な自己支持性(機械的強度)を有するという条件を満たすように、多孔質基体の平均細孔径等を設定するのが好ましい。具体的には、多孔質基体の素管(基層)1の平均細孔径は4?12μmであるのが好ましく、6?8μmであるのがより好ましい。素管1の肉厚は1?3mmであるのが好ましく、1mm程度がより好ましい。下地層2の平均細孔径は0.4?1.2μmであるのが好ましく、0.5?0.9μmであるのがより好ましい。下地層2の厚さは10?200μmであるのが好ましく、50μm程度がより好ましい。また、多孔質基体の気孔率は20?50%であるのが好ましく、35?40%であるのがより好ましい。
【0036】
多孔質基体の形状は特に限定されず、管状、平板状、ハニカム状、中空糸状、ペレット状等、種々の形状のものを使用できる。例えば管状の場合、多孔質基体の大きさは特に限定されないが、実用的には長さ2?200cm程度、内径0.5?2cm、厚さ0.5?4mm程度である。
【0037】
(3)種結晶の付着
ゼオライトの種結晶を含むスラリーに多孔質基体3をディッピングする(S17)。尚、前記スラリーを多孔質基体に付着させるには、多孔質基体の形状に応じてディップコート法、スプレーコート法、塗布法、濾過法等の方法を適宜選択する。多孔質基体とスラリーとの接触時間は0.5?60分間が好ましく、1?10分間がより好ましい。
【0038】
種結晶を付着させた後、多孔質基体を乾燥させるのが好ましい(S18)。高温で乾燥させると、溶媒の蒸発が早く、種結晶粒子の凝集が多くなるため、均一な種結晶付着状態を壊してしまうおそれがあるので好ましくない。このため乾燥は70℃以下で行うのが好ましい。加熱時間を短くするため、室温乾燥と加熱乾燥を組み合わせて行うのがより好ましい。乾燥は多孔質基体が十分に乾燥するまで行えばよく、乾燥時間は特に限定されないが、通常2?24時間程度で良い。
【0039】
[2]ゼオライトの合成反応
多孔質基体上でのゼオライト膜の合成は、水熱合成法、気相法等により行うことができる。以下水熱合成法を例にとって、ゼオライト膜の合成方法を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
・原料
水熱反応の原料M12?M15を水に加えて撹拌し、ゼオライト合成反応に使用する反応溶液又はスラリーを作製する。原料はアルミナ源及びシリカ源と、必要に応じてアルカリ金属源及び/又はアルカリ土類金属源である。アルミナ源としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム塩の他、アルミナ粉末、コロイダルアルミナ等が挙げられる。シリカ源としては、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、ケイ酸カリウム等のアルカリ金属ケイ酸塩の他、シリカ粉末、ケイ酸、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド(アルミニウムイソプロポキシド等)等が挙げられる。アルカリ(土類)金属源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩は、シリカ源及びアルカリ金属源として兼用できる。
【0041】
シリカ源とアルミナ源のモル比(SiO_(2)/Al_(2)O_(3)に換算)は、目的とするゼオライトの組成によって適宜決定する。
【0042】
反応溶液又はスラリーに、ゼオライトの結晶化促進剤を添加しても良い。結晶化促進剤としては、テトラプロピルアンモニウムブロマイドや、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0043】
(2)加熱処理
種結晶を付着させた多孔質基体3に反応溶液又はスラリーを接触させ(例えば反応溶液又はスラリー中に浸漬し)、加熱処理する(S19)。加熱温度は40?200℃が好ましく、80?150℃がより好ましい。加熱温度が40℃未満であると、ゼオライトの合成反応が十分に起こらない。また200℃超であると、ゼオライトの合成反応を制御するのが困難であり、均一なゼオライト膜が得られない。加熱時間は加熱温度に応じて適宜変更し得るが、一般に1?100時間であれば良い。なお水系の反応溶液又はスラリーを100℃超の温度に保持する場合、オートクレーブ中で加熱してもよい。
【0044】
[3]ゼオライト膜
上記の方法により、図1に示す下地膜2の表面にゼオライト膜4を製膜することができ、分離膜が作製される(S20)。なお、水熱合成による製膜方法では、ゼオライト膜を構成するゼオライト結晶は、下地層2の表面だけでなく、下地層2の細孔内にも形成される。本発明の製造方法により、MFI型、X型、Y型、A型、T型等、種々の組成及び構造を有するゼオライト膜を製造できる。これらのゼオライト膜は分離膜として使用できる。
得られるゼオライト膜を分離膜として使用する場合、その性能は透過物質の透過速度と分離係数とにより表すことができる。ここで、分離係数とは、例えばエタノールと水を分離する場合、分離前の水の濃度をA_(1)質量%、エタノールの濃度をA_(2)質量%とし、膜を透過した液体又は気体中の水の濃度をB_(1)質量%、エタノールの濃度をB_(2)質量%とすると、下記式(1):
α=(B_(1)/B_(2))/(A_(1)/A_(2))・・・(1)
により表されるものである。分離係数αが大きいほど、分離膜の性能が良いことになる。
【0045】
尚、上記実施の形態では、基層と下地層からなる2層構造の多孔質基体を用いているが、3層以上の構造の多孔質基体を用いることも可能である。
【0046】
上記実施の形態によれば、平均細孔径が4?12μmの素管(基層)1の外表面に、平均細孔径が0.4?1.2μmの下地層2を形成し、この下地層2の表面にゼオライト膜4を製膜する。基層の平均細孔径を大きくすることにより通気性を高くし、下地層の平均細孔径を小さくすることによりピンホールの形成を抑制しつつゼオライト膜4を薄く製膜することが可能となる。これにより、従来の分離膜に比べて極めて高い分離性能を実現することが可能となる。
【0047】
尚、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例について説明する。
[実施例1]
まず、MgOおよびCaCO_(3)からなる焼結助剤粉末及び水をボールミルによって混合する。次いで、高純度アルミナ粉末およびメチルセルロース系バインダーを準備し、このアルミナ粉末等と前記の混合物とを混練する。
【0049】
次いで、前記の混練物を押出し成形することにより素管を作製し、この素管を乾燥させ、脱脂を行う。次いで、素管を焼成する。このようにして主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の素管を作製する。なお、基層の平均細孔径は7μm、気孔率は40%であった。
【0050】
次に、前記素管の外表面に下地層を形成する。
高純度アルミナ粉末、αテルピネオール、エタノール、エチルセルロース系バインダーを、30:75:25:4の重量比で混合して攪拌する。これによりスラリーを作製する。次いで、前記スラリーに前記素管をディッピングする。これにより、素管の外表面にスラリーを付着させる。次いで、素管を乾燥させ、焼成する。これにより、素管の外表面に下地層を形成する。このようにして外表面に下地層を有する素管からなる多孔質基体を作製する。なお、下地層の平均細孔径を0.8μm、膜厚を30μmとし、窒素ガス透過速度は900m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であった。
【0051】
ゼオライトの微粒子(粒径300nm)を水に入れて撹拌し、0.5質量%の濃度のスラリーを作製する。このスラリーに上述したようなα-アルミナからなる多孔質基体(外径10mm、内径6mm、長さ13cm)を3分間浸漬した後、約0.2cm/sの速度で引き上げた。これを25℃の恒温槽中で2時間乾燥した後、40℃の恒温槽中で16時間乾燥した。
【0052】
ケイ酸ナトリウム、水酸化アルミニウム及び蒸留水を、各成分のモル比がSiO_(2)/Al_(2)O_(3)=2、Na_(2)O/SiO_(2)=1、H_(2)O/Na_(2)O=75となるように混合し、PH13の水熱反応溶液とした。この反応溶液に種結晶層を付与した多孔質基体を浸漬して、100℃で5時間保持した結果、多孔質基体の表面(下地層表面)にゼオライト膜が形成された。
【0053】
上記のように、得られた分離膜(多孔質基体の表面にゼオライト膜を形成した分離膜)の分離性能を評価するために、図5に示すパーベーパレーション(PV)試験装置を組み立てた。このPV試験装置は、供給液Aの供給を受ける管11及び攪拌装着12を具備する容器7と、容器7の内部に設置された分離器8と、分離器8の開放端に連結した管6と、管6の末端に液体窒素トラップ9を介して接続した真空ポンプ10とを有する。分離器8は、上記分離膜(多孔質基体の表面にゼオライト膜を形成したもの)である。なお管6の途中には真空ゲージ5が取り付けられている。
【0054】
このPV試験装置の容器7に、管11を介して75℃の供給液A(エタノール/水の質量比=90/10)を供給し、真空ポンプ10により分離器8内を吸引した(真空ゲージ5による真空度:10?1000Pa)。分離器2を透過した液Bは液体窒素トラップ9で捕集された。供給液Aと透過液Bの組成をガスクロマトグラフ[(株)島津製作所製GC-14B]を用いて測定し、分離係数αおよび水の透過速度であるフラックスQを求めた。この結果、分離係数αは30000、フラックスQは8.0kg/m^(2)hであった。
【0055】
[実施例2]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、窒素ガス透過速度が200m^(3)/(m^(2)・hr・atm)、250m^(3)/(m^(2)・hr・atm)、900m^(3)/(m^(2)・hr・atm)となるように調整した基体を作製した。なお、素管の厚みをそれぞれ3mm、3mm、1mmとし、素管の気孔率を30%、35%、40%とした。また、各基体の下地層の平均細孔径を0.8μm、膜厚を30μmとした。そして、用意した各基体表面にゼオライト膜を製膜し、分離膜を作製した。
各分離膜に75℃の供給液(エタノール/水の質量比=90/10)を供給し、水の透過速度であるフラックスQ(kg/m^(2)h)を測定した。測定結果を図6に示す。
【0056】
図6によれば、窒素ガス透過速度が速い分離膜ほどフラックスQが大きくなることが確認できた。即ち、窒素ガス透過速度が200m^(3)/(m^(2)・hr・atm)の場合はフラックスQが5.0kg/m^(2)hであり、250m^(3)/(m^(2)・hr・atm)の場合は5.5kg/m^(2)hであり、900m^(3)/(m^(2)・hr・atm)の場合は8.0kg/m^(2)hであった。従って、分離膜は通気性が良い方が水の透過速度を高めることができることから、窒素ガス透過速度が少なくとも200m^(3)/(m^(2)・hr・atm)以上の分離膜が好ましく、400m^(3)/(m^(2)・hr・atm)以上の分離膜がより好ましい。但し、分離膜の強度を維持するためには、窒素ガス透過速度は速くても7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)以下が好ましい。
なお、各サンプルの分離係数αは、何れも30000を超え、良好であった。
【0057】
[実施例3]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、下地層の平均細孔径が0.3μm?1.5μmとなるように調整した基体を作製した。なお、素管の厚みをそれぞれ1mmとし、素管の気孔率を40%とした。また、各基体の下地層の膜厚を30μmとした。なお、素管の平均細孔径を調整し、基体の窒素ガス透過速度が900m^(3)/(m^(2)・hr・atm)となるように調整した。そして、用意した各基体表面にゼオライト膜を製膜し、分離膜を作製した。
これら分離膜の分離性能を、実施例1と同様に図5に示すPV試験装置を用いて評価した。分離係数α、フラックスQ(kg/m^(2)h)を測定した。測定結果を図7(A),(B)に示す。
【0058】
図7(A)によれば、分離性能αは、下地層の平均細孔径が0.4μm以上で5000以上の良好な性能を示している。また、図7(B)によれば、フラックスQは、下地層の平均細孔径が1.2μm以下で5.0kg/m^(2)hの良好な性能を示している。このことから、下地層の平均細孔径は、0.4μmから1.2μmであることが好ましいことがわかる。
【0059】
[実施例4]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、基体の最大細孔径が4μm、7μm、9μmとなるように調整した基体を作製した。なお、各基体の素管の厚みを1mm、素管の気孔率を40%とした。また、各基体の下地層の平均細孔径を0.8μm、膜厚を30μmとした。そして、用意した各基体表面にゼオライト膜を製膜し、分離膜を作製した。これら分離膜の分離性能を、実施例1と同様に図5に示すPV試験装置を用いて評価した。そして分離係数αを測定した結果を図8に示す。
【0060】
図8によれば、多孔質基体の最大細孔径が4μm、7μm、9μmと大きくなるにつれて分離係数αが低下することが確認できた。即ち、多孔質基体の最大細孔径が4μmの場合は分離係数αが30000であり、7μmの場合は25000であり、9μmの場合は2000であった。従って、多孔質基体の最大細孔径は9μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましいことが確認された。
【0061】
[実施例5]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、基体の下地層の厚みが10μm、30μmとなるように調整した基体を作製した。なお、各基体の素管の厚みを1mm、素管の気孔率を40%とした。また、各基体の下地層の平均細孔径を0.8μmとした。そして、用意した各基体表面にゼオライト膜を製膜し、分離膜を作製した。これら分離膜の分離性能を、実施例1と同様に図5に示すPV試験装置を用いて評価した。そして分離係数αを測定した結果を図9に示す。
【0062】
図9によれば、多孔質基体の下地層の厚さが30μm、10μmと薄くなるにつれて分離係数αが低下することが確認できた。即ち、多孔質基体の下地層の厚さが30μmの場合は分離係数αが30000であり、10μmの場合は1000であった。従って、多孔質基体の下地層の厚さは10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましいことが確認された。下地層の厚さが10μm未満であると下地層中に欠陥が多くなるから、分離係数が低くなると考えられる。また、下地層の厚さの上限は200μm程度が好ましい。
【0063】
[実施例6]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、下地層のアルミナ粒子のアスペクト比(粒子の長径と短径との比)が1.2、1.05と異なる2種類の基体を作製した。なお、各基体の素管の厚みを1mm、素管の気孔率を40%とした。また、各基体の下地層の平均細孔径を0.8μm、膜厚を30μmとした。そして、用意した各基体表面にゼオライト膜を製膜し、分離膜を作製した。これら分離膜の分離性能を、実施例1と同様に図5に示すPV試験装置を用いて評価した。そして分離係数αを測定した結果を図10に示す。
【0064】
図10によれば、多孔質基体の下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2、1.05と小さくなるにつれて分離係数αが低下することが確認できた。即ち、下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2の場合は分離係数αが30000であり、1.05の場合は1500であった。従って、下地層を構成する粒子のアスペクト比は1.05以上が好ましく、1.2以上がより好ましいことが確認された。
[実施例7]
実施例1に記載した基体の製法と同様に、多孔質基体中のCaとKの合計含有率が0.1mol%、0.5mol%、0.8mol%となるように調整した基体を作製した。なお、基層の平均細孔径を7μm、気孔率を40%、下地層の平均細孔径を0.8μm、下地層の膜厚を30μm、素管の厚みを1mm、素管の気孔率を40%とした。これらの基体の窒素ガス透過速度は900m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であった。
用意した各多孔質基体について水熱合成時のアルカリ強度を測定した。その結果をず12に示す。
図12によれば、多孔質基体中のCaとKの合計含有率が0.1mol%、0.5mol%、0.8mol%と多くなるにつれてアルカリ強度が低下することが確認できた。即ち、CaとKの合計含有率が0.1mol%の場合はアルカリ強度が13kg/mm^(2)となり、0.5mol%の場合は7kg/mm^(2)となり、0.8mol%の場合は5kg/mm^(2)となった。これは、強アルカリの水熱反応溶液で多孔質基体に水熱反応を行う際に、多孔質基体中のCaやKが溶解することで多孔質基体の強度が低下するからである。従って、多孔質基体中のCaとKの合計含有率は0.8mol%以下が好ましく、0.5mol%以下がより好ましいことが確認された。
さらに、用意した各基体表面にゼオライト膜を実施例1に記載した方法と同様に製膜し、分離膜を作製した。これら分離膜の分離性能を、実施例1と同様に図5に示すPV試験装置を用いた評価した。分離係数α、フラックスQ(kg/m^(2)h)を測定した。測定結果を図13に示す。
図13によれば、多孔質基体中のCaとKの合計含有率が0.1mol%、0.5mol%、0.8mol%と多くなるにつれて分離係数αが低下することが確認できた。即ち、CaとKの合計含有率が0.1mol%の場合は分離係数αが30000であり、0.5mol%の場合は20000であり、0.8mol%の場合は5000であった。従って、多孔質基体中のCaとKの合計含有率は0.8mol%以下が好ましく、0.5mol%以下がより好ましいことが確認された。
(比較例)
実施例1に記載した基体の製法と同様に平均細孔径1.3μm、厚み1mm、気孔率40%、窒素ガス透過速度400m^(3)/(m^(2)・hr・atm)の素管を作製し、その表面にゼオライト薄膜を製膜し、分離膜を作製した。また、実施例1と同様に図6に示すPV試験装置を用いて評価した。評価の結果、分離膜の分離係数αは10000と良好であったが、フラックスQは、4.0kg/m^(2)hであった。さらに、平均細孔径の異なる素管を作製し、ゼオライト膜を製膜して、その分離性能を評価した。その結果を図11(A),(B)に示す。この図から単層の多孔質基体を用いて作製された分離膜では、図11(A)に示すように素管の平均細孔径を小さくするとその分離係数αは向上するが、図11(B)に示すように逆にフラックスQが小さくなってしまうことによって、その総合的な分離性能の向上を見込むことはできない。また、素管の平均細孔径を大きくした場合には、フラックスQの向上は見られるものの、分離性能αの低下が著しく、総合的な分離性能の向上を見込むことは出来ない。
【0065】
尚、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態による分離膜の一部を示す断面図である。
【図2】分離膜の基層の一例としての素管を作製する方法を示す図である。
【図3】素管の外表面に下地層を形成する方法を示す図である。
【図4】下地層の表面にゼオライト膜を製膜する方法を示す図である。
【図5】パーベーパレーション(PV)試験装置を示す構成図である。
【図6】窒素ガス透過速度と水の透過速度であるフラックスQとの関係を示す図である。
【図7】(A)は下地層の平均細孔径と分離係数αとの関係を示す図であり、(B)は下地層の平均細孔径とフラックスQとの関係を示す図である。
【図8】多孔質基体の最大細孔径と分離膜の分離係数との関係を示す図である。
【図9】多孔質基体の下地層の厚さと分離膜の分離係数との関係を示す図である。
【図10】多孔質基体の下地層を構成する粉体(粒子)のアスペクト比と分離膜の分離係数との関係を示す図である。
【図11】(A)は比較例における基体の平均細孔径と分離係数αとの関係を示す図であり、(B)は比較例における基体の平均細孔径とフラックスQとの関係を示す図である。
【図12】水熱合成時のアルカリ強度を各試料について測定した結果を示す図である。
【図13】CaとKの合計含有率と分離係数αを示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1…素管
2…下地層
3…多孔質基体
4…ゼオライト膜
5…真空ゲージ
6…管
7…容器
8…分離器
9…液体窒素トラップ
10…真空ポンプ
11…管
12…攪拌装着
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分がアルミナからなるセラミック焼結材の多孔質基体と、
該多孔質基体の表面に製膜されたゼオライト薄膜と、
を備える分離膜であって、
前記多孔質基体は、基層と、該基層の表面に形成された前記ゼオライト薄膜の下地層とを有し、
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.05以上であり、
前記下地層の平均細孔径が、前記基層の平均細孔径よりも小さく、
前記基層の平均細孔径が4?12μmであり、
前記下地層の平均細孔径が0.4?1.2μmであり、
前記基層の厚さが1?3mmであり、
前記下地層の厚さが10?200μmであり、
前記多孔質基体の気孔率が20?50%であり、
前記多孔質基体は、水を用いたバブルポイント法で測定される最大細孔径が9μm以下であり、
前記多孔質基体に含有するCaとKの合計含有率が0.8mol%以下である、
ことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
前記下地層を構成する粒子のアスペクト比が1.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
前記多孔質基体の窒素ガス透過速度が、200?7000m^(3)/(m^(2)・hr・atm)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-10-07 
結審通知日 2008-10-10 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願2006-515319(P2006-515319)
審決分類 P 1 113・ 536- ZA (B01D)
P 1 113・ 537- ZA (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊藤 光子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 斉藤 信人
松本 貢
登録日 2006-10-20 
登録番号 特許第3868479号(P3868479)
発明の名称 分離膜  
代理人 溝上 満好  
代理人 岡崎 士朗  
代理人 溝上 哲也  
代理人 山本 進  
代理人 渡辺 彰  
代理人 城戸 博兒  
代理人 岩原 義則  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 岡崎 士朗  
代理人 城戸 博兒  
代理人 柴田 昌聰  
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