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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A63F
管理番号 1194173
審判番号 無効2008-800090  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-16 
確定日 2009-02-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第3734747号発明「遊技機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3734747号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願からの主立った経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成13年12月5日 本件出願
・平成17年10月28日 特許第3734747号として設定登録(請求項1?3)
・平成20年5月16日 本件審判請求(請求項1?3に対して)
・同年8月11日 被請求人より答弁書及び訂正請求書提出(後に、訂正請求はみなし取り下げ)
・同年9月25日 請求人より弁駁書提出
・同年10月2日付け 当審において無効理由を通知
・同年11月4日 被請求人より意見書及び訂正請求書提出
・同月11日付け 当審において訂正拒絶理由を通知
・同年12月12日 被請求人より意見書及び手続補正書提出
・同月16日 請求人より弁駁書提出
・平成21年1月8日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
・同日 口頭審理を実施

第2 当事者の主張及び当審で通知した無効理由
1.請求人の主張
(1)無効理由1
請求項1,2に係る発明は、甲第1号証、甲第4?第14号証(甲10を除く)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る発明はこらら甲号各証に加えて、甲第15号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである。

2.当審が通知した無効理由
(1)記載不備
請求項1の「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後」との記載は、2様に解釈できる不明確な記載であるとともに、「第3の状況」の存在が遊技機の発明特定事項なのかどうか明確でないから、請求項1及びこれを引用する請求項2,3の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
すなわち、請求項1?3の特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされた特許であるから、同法123条1項4号の規定に該当し、無効とされるべきである。
以下、この理由を「無効理由2」という。

(2)進歩性
請求項1?3の発明は、甲第1号証(以下「引用例1」という。)、甲第15号証(以下「引用例2」という。)、「パチスロ必勝ガイド」2000年8月号35?39頁(株式会社白夜書房発行。以下「引用例3」という。)及び特開平10-155980号公報(以下「引用例4」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、同法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきである。
以下、この理由を「無効理由3」という。

3.被請求人の主張
(1)無効理由1及び無効理由3に対して
本件訂正に違法はなく(仮に訂正が拒絶される場合には、請求項2,3が削除されないこと、すなわち、訂正全体が不成立となることを求める。)、訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)と、甲第1号証(以下、甲号各証については、「甲1」などと略記することがある。)記載の発明(以下「引用発明1」という。)との相違点は、以下の4点であり、これらは他の甲号各証又は引用例2?4を参酌しても想到容易ではない。
〈相違点1〉
訂正発明の「所定の時点」が「設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、及び前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後のいずれか」であるのに対し、引用発明1ではビッグボーナスの終了後である点。
〈相違点2〉
訂正発明の「遊技者にとって有利な第1の状況」が「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」ものであるのに対し、引用発明1のそれはビッグボーナスである点。
〈相違点3〉
訂正発明が「前記状況発生手段は、前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定の値から前記所定の値の範囲内の値であるとき、ボーナスに内部当選したこと又は当該ボーナスの入賞が成立したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ」、かつ、その「遊技者にとって有利な第2の状況」が「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」ものであるのに対し、引用発明1では、遊技者にとって有利な状態を仮天井ゾーンの範囲内の一定間隔のプレーで発生させるとともに、発生させる契機は乱数表に基づくものであり、また、遊技者にとって有利な状態はビッグボーナス又はレギュラーボーナスである点。
〈相違点4〉
訂正発明の「第3の状況」が「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」ものであるのに対し、引用例1にはこの点についての記載がない点。
〈相違点5〉
訂正発明では、「第1の状況」及び「第2の状況」の有利さの度合いが、「前記第2の状況の有利さの度合いは、前記第1の状況の有利さの度合いと比較して低い」のに対し、引用例1にはこの点についての記載がない点。

(2)無効理由2に対して
訂正により記載不備は治癒された。仮に訂正が不成立であっても、無効とすべきほどの瑕疵ではない。

4.証拠
請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲第1号証:パチスロ攻略マガジンNO.1、36?42頁、1990年12月21日、株式会社双葉社発行
甲第2号証:パチスロ大図鑑2001,32,33,50,62及び63頁、2001年5月12日、株式会社白夜書房発行
甲第3号証:特会2001-25531号公報
甲第4号証:特開平11-178982号公報
甲第5号証:特開2000-185129号公報
甲第6号証:特開平9-253274号公報
甲第7号証:特開2001-137433号公報
甲第8号証:特開平11-206959号公報
甲第9号証:特開2001-314556号公報
甲第10号証:特開2002-52136号公報
甲第11号証:特開2001-321489号公報
甲第12号証:特開平11-70215号公報
甲第13号証:特開平11-4931号公報
甲第14号証:実用新案登録第3038903号公報
甲第15号証:特開平2001-293138号公報
甲第16号証:特許第3734747号公報(本件特許公報)
甲第17号証:JIS工業用語大辞典第5版1817頁、2001年3月30日、財団法人日本規格協会発行
甲第18号証:知財高判平成20年(行ケ)10114号、平成20年9月29日判決言渡

第3 訂正の許否の判断
1.補正の採否
(1)補正内容
本件訂正については、平成20年12月12日付けで手続補正がされた。その内容は訂正前請求項1の「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」との記載を「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、及び前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後であり、」と訂正することを「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、及び前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後のいずれかであり、」と訂正するように改めるとともに、段落【0008】,【0013】にも同様の補正を加えるものである。

(2)補正についての検討
補正前の上記記載は、「及び」との文言があり、「のいずれか」との文言がないから、「設定の変更時」、「前記ボーナスの入賞が成立した後」、「前記第1の状況が終了した後」、「前記第2の状況が終了した後」及び「前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後」という5つの条件のすべての成立判断をすると解さざるを得ない。もっとも、5つの条件のすべてが成立した時点が「所定の時点」であるのか、それとも上記5つの条件のうち1つでも成立すれば「所定の時点」となるのか不明確であるが、「設定の変更時」にその他の4条件が同時に成立することはあり得ないから、後者解釈をすべきである。
ところが、補正は「のいずれか」との文言を追加したため、5つの条件のすべての成立判断をするとは限らず、そのうちの1つの成立判断をすればよいと解されるから、補正前後において訂正内容が異なっている。
ところで、補正後の上記訂正事項は、訂正前の「所定の役」を「ボーナス」に訂正すること(それは、特許請求の範囲の減縮と認める。)を除けば、端的にいうと「A,B又はC」との表現を「A,B及びCのいずれか」に訂正するものであるところ、これら2つの表現に格別相違があると認めることは困難であるが、この2つの表現が同一内容であるとしても、表現を変更している以上、訂正事項の削除に該当すると認めることもできない。
以上によれば、補正は訂正請求書の要旨を変更するものであるから、特許法134条の2第5項で準用する同法131条の2第1項の規定に違反している。
したがって、補正を採用しない。

2.訂正事項
本件訂正は以下の訂正事項a?fからなっている。
(訂正事項a)
請求項1を「遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段と、
内部当選役を決定する内部当選役決定手段と、
所定の時点からのゲームの回数を計数する計数手段と、
前記計数手段の計数値が所定の値になったことを契機として遊技者にとって有利な第1の状況を発生させる状況発生手段とを備え、
前記状況発生手段は、前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定の値から前記所定の値の範囲内の値であるとき、ボーナスに内部当選したこと又は当該ボーナスの入賞が成立したことを契機として、当該ボーナスの終了後に遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ、
前記所定の時点とは、設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、及び前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後であり、
前記第1の状況、前記第2の状況、及び前記第3の状況では、特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知されるとともに、前記第2の状況の有利さの度合いは、前記第1の状況の有利さの度合いと比較して低いことを特徴とする遊技機。」と訂正する。
(訂正事項b)
特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する。
(訂正事項c)
明細書の段落【0008】を次のように訂正する。
「【課題を解決するための手段】
本発明の遊技機は、遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段(例えば、後述のリール3L,3C,3R)と、内部当選役を決定する(例えば、後述の確率抽選処理(図15のST14)を行う)内部当選役決定手段(例えば、後述の主制御回路71)と、所定の時点からのゲームの回数を計数する(例えば、後述のBB間ゲーム回数カウント処理(図21)を行う)計数手段(例えば、後述のサブCPU74)と、計数手段の計数値が所定の値(例えば、“1500”)になったこと(例えば、後述の図20のST81の判別が“YES”であること)を契機として遊技者にとって有利な第1の状況(例えば、後述の第3の発生条件の成立を契機として発生する“1回”又は“複数回”の補助期間)を発生させる状況発生手段(例えば、後述のサブCPU74)とを備え、状況発生手段は、計数手段の計数値が所定の値よりも小さい特定の値から前記所定の値の範囲(例えば、“1000”?“1499”)内の値であるとき、ボーナス(例えば、BB)に内部当選したこと又は当該ボーナスの入賞が成立したこと(例えば、後述の図19のST71の判別が“YES”であること)を契機として、当該ボーナスの終了後に遊技者にとって有利な第2の状況(例えば、後述の第2の発生条件の成立を契機として発生する“1回”の補助期間)を発生させ、所定の時点とは、設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、第1の状況が終了した後、第2の状況が終了した後、及び第1の状況及び第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況(例えば、後述の第1の発生条件の成立を契機として発生する補助期間)が終了した後あることを特徴とする。」
(訂正事項d)
明細書の段落【0012】を次のように訂正する。
本発明の具体的態様では、第1の状況、第2の状況、及び第3の状況では、特定の役(例えば、後述のベルの小役)の入賞成立を実現するために必要な情報(例えば、後述の停止順序)、又は特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知されることを特徴とする。」
(訂正事項e)
明細書の段落【0013】を次のように訂正する。
「【作用及び効果】
本発明の遊技機では、状況発生手段は、計数手段の計数値が所定の値になったことを契機として第1の状況を発生させる。また、計数手段の計数値が所定の値よりも小さい特定の値から前記所定の値の範囲内の値であるとき、ボーナスに内部当選したこと又は当該ボーナスの入賞が成立したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ、所定の時点として設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、第1の状況が終了した後、第2の状況が終了した後、及び第3の状況が終了した後を採用する。従って、遊技者は、ゲームの回数が所定の値に到達しない場合であっても第2の状況に基づく利益を享受することができる。また、遊技者間の公平性を担保し、且つ十分な救済措置を実現することができる。」
(訂正事項f)
明細書の段落【0017】を次のように訂正する。
「また、第1の状況、第2の状況、及び第3の状況では、特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報を報知することができる。」

3.新規事項について
(1)当審訂正拒絶理由で指摘した新規事項
訂正事項a(及び関連する訂正事項c,e)の「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記ボーナスの入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、及び前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後」について検討する。
上記記載については、前示のとおり構文上は二様の解釈が可能であるが、5つの条件成立すべてを判断し、そのうちの1つでも成立した時点を「所定の時点」とする趣旨と解する。
被請求人は訂正の根拠として、特許明細書の段落【0129】をあげており、同段落には「実施例では、計数手段の計数開始の契機となる所定の時点として、BB遊技状態が終了した後を採用しているが、これに限られるものではない。例えば、補助期間が終了した後、RB遊技状態が終了した後、或いはこれらの組合せ等を採用することもできる。」との記載がある。
この記載によれば、「所定の時点」としては、実施例の「BB遊技状態が終了した後」に限られず、「補助期間が終了した後」、「RB遊技状態が終了した後」を採用すること、さらに「これらの組合せ等」を採用することが記載されている。ここで、「補助期間が終了した後、RB遊技状態が終了した後」は、「これに限られるものではない。例えば、」の直後、かつ、「或いはこれらの組合せ等」の直前に記載されていることからみて、「BB遊技状態が終了した後」に代わる時点としての単独条件であり、複合条件は「これらの組合せ等」のみと解される。そして、「これらの組合せ等」が、A,B,Cすべての条件の成立を判断し、どれか1つの条件に該当するとの趣旨に解さねばならない理由はなく、A,B,Cすべての条件が成立する時点をもって「所定の時点」とする趣旨にも解される。
要するに、段落【0129】を含む特許明細書の記載からは、「これらの組合せ等」が何を意味するのか皆目見当がつかないから、同記載を根拠として、特許請求の範囲を明確にすることはできない。明確にすれば新規事項追加になるし、新規事項追加がないのならば、明確にすることができないのである。
以上のとおり、訂正事項aは、訂正前の明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するというべきであるから、特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項の規定に適合しない。

4.その余の訂正事項について
前項で述べたことから、請求項1の訂正は認めない。訂正事項c?fは、訂正事項1に付随するものであるから、これも認めない。
訂正請求の許否の判断は請求項毎に行うべきであり、訂正事項bは請求項削除であるから、訂正事項bを訂正事項aと切り離して判断することには、訂正判断としての困難性はない。
しかし、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項2及び請求項3の限定事項を請求項1に取り込んだ上で、さらに限定を加えたものであるから、被請求人の主張はともかくとして、訂正後の請求項1が訂正前の請求項3に対応する(その場合は、請求項1,2が削除)と解釈することもできる。同解釈であっても、請求項1を訂正後のものに訂正することが違法であることに変わりはないが、これは請求項3の訂正であるから、請求項3が訂正前のものとなる。ところが、訂正前の請求項3は、請求項1,2を引用しているため、請求項1,2が削除されれば意味をなさなくなり、訂正後の請求項1が訂正前の請求項3に対応するとの解釈のもとでは、請求項1,2を削除することも不許可とすべきである。
なにより、請求項1の訂正が違法な場合には、すべての訂正を不許可とすることを被請求人が求めており、請求人もこれに同意している(口頭審理調書参照)本件においては、訂正事項bも不許可とすべきである。

4.訂正の許否の結論
以上のとおりであるから、本件訂正のすべてを認めない。

第4 本件審判請求についての判断
1.本件発明の認定
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明3」とい、これらを総称して「本件発明」という。)は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項1】?【請求項3】に記載された事項によって特定されるものであり、その記載は次のとおりである。
「【請求項1】
遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段と、
内部当選役を決定する内部当選役決定手段と、
所定の時点からのゲームの回数を計数する計数手段と、
前記計数手段の計数値が所定の値になったことを契機として遊技者にとって有利な第1の状況を発生させる状況発生手段とを備え、
前記状況発生手段は、前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であるとき、所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ、
前記所定の時点とは、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後であることを特徴とする遊技機。
【請求項2】
請求項1記載の遊技機において、前記第2の状況の有利さの度合いは、前記第1の状況の有利さの度合いと比較して低いことを特徴とする遊技機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の遊技機において、前記第1の状況、前記第2の状況、又は前記第3の状況では、前記所定の役又は特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記所定の役又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知されることを特徴とする遊技機。」

2.無効理由2について
(1)請求項1には上記のとおり「所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ」と記載されているところ、「所定の役の入賞が成立」するためには、「所定の役に内部当選」しなければならないことは、「内部当選役決定手段」を有する遊技機の技術常識であり、本件発明もその例外でないと認める。上記文言については、「所定の役に内部当選したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ」る遊技機(より具体的にその「状況発生手段」)と、「当該所定の役の入賞が成立したことを契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ」る遊技機を択一的に記載したとの解釈と、「所定の役に内部当選したこと」及び「所定の役の入賞が成立したこと」をともに判断し、どちらか一方「を契機として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させ」る遊技機との二様の解釈ができるが、後者であるとすると、「所定の役に内部当選したこと」を判断資料とする技術的意義がないから、前者の意味に解さなければならない。なお、この点については被請求人も異を唱えていない。
請求項1には「前記所定の時点とは、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」との記載もあり、ここでも「又は」との用語が用いられて、次の2つの解釈が可能である。
第1解釈は、設定の変更時に計数手段をリセットする遊技機、所定の役の入賞が成立した後に計数手段をリセットする遊技機、第1の状況が終了した後に計数手段をリセットする遊技機、第2の状況が終了した後に計数手段をリセットする遊技機、第3の状況が終了した後に計数手段をリセットする遊技機を択一的に記載したとの解釈である。
第2解釈は、設定の変更時に該当するか、所定の役の入賞が成立した後に該当するか、第1の状況が終了した後に該当するか、第2の状況が終了した後に該当するか及び第3の状況が終了した後に該当するかをすべて判断し、何れか1つの条件に該当すれば計数手段をリセットする遊技機との解釈である。
「所定の時点」に関する「又は」と、「第2の状況を発生」に関する「又は」は、構文上類似であるから、「第2の状況を発生」に関する「又は」を上記のとおり解釈するのだとすれば、「所定の時点」に関する「又は」も第1解釈をすべきである。請求人は、「第1発明の「f 前記所定の時点とは、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」のうちで、「f 前記所定の時点とは、前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」は、甲第1号証に記載されているものの、「所定の時点として、設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後」については記載されていない。なお、この段説fは、選択的記載となっていることから、選択的記載のうちの1つが刊行物に記載されておれば、選択的記載全体として進歩性がないとされる」(審判請求書49頁10?19行)及び「分説fは、選択的記載となっていることから、選択的記載の一部が甲第1号証に記載されたことをもって、この分説fが進歩性を有していないといえる。しかしながら、分説fの構成から、「前記所定の時点とは、前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」を削除する訂正が行われた場合を相違点2とし、この相違点2に関しても、依然進歩性がない旨を、以下主張する。」(同書71頁9?15行)と主張しており、この主張は明らかに第1解釈を前提とするものである。
これに対し、被請求人は前示のとおりの訂正を試みており、それは第2解釈を前提とするものである。「所定の時点」に関する「又は」について第2解釈をするのだとすると、特許請求の範囲の記載は著しく不明確というべきである。
そのことは、請求人は第1解釈を採り、被請求人は第2解釈を採っているという事実からも明らかである。
なお、本件明細書には「補助期間は、連続する複数回(実施例では、“35回”)のゲームにより構成」(段落【0037】)及び「第2の発生条件が成立した場合の補助期間の発生回数は、“1回”である。」(段落【0039】)との記載があり、「所定の役の入賞が成立した後」から「第2の状況が終了した後」までのゲーム数まではさほど多くなく、第2解釈によれば、「所定の役の入賞が成立した後」に計数手段をリセットし、その後多くないゲーム数経過後に再度リセットすることになり、再度リセットすることの技術的意義が乏しいといわざるを得ない。このことからみても、第1解釈が妥当である蓋然性は低くないというべきである。
特許請求の範囲の記載はそれ自体で明確であるべきだが、念のため明細書全体を精査しても、どちらの解釈をすべきなのか明確に決することができない。

(2)さらに、第1解釈であれば、「第3の状況が終了した後に計数手段をリセットする遊技機」に限られず、請求項1,2では、「第3の状況」は「所定の時点」を特定するために記載されたにすぎないから、「第3の状況」の存在が遊技機の発明特定事項なのかどうか明確でない。
請求項3には「請求項1又は2記載の遊技機において、・・・又は前記第3の状況では、前記所定の役又は特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記所定の役又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」と記載されているが、「又は」とあるため、「第3の状況」を特定したわけではなく、「第3の状況がある場合には、特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」との趣旨に解することが可能であるから、請求項3においても「第3の状況」の存在が遊技機の発明特定事項なのかどうか明確でない。被請求人は、「第3の状況」の存在が遊技機の発明特定事項であると主張するが、発明特定事項かどうかは特許請求の範囲の記載によって決すべきであり、被請求人の主観により決せられるものではない。

(3)以上のとおりであるから、請求項1?3の特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号に該当し無効とすべきである。

3.引用例1記載の発明の認定
無効理由1及び無効理由3における主たる引用文献は共通であるから、そこに記載された発明と本件発明の対比までは共通に行う。
引用例1(甲1)には、「センチュリー21」という名称のパチスロの紹介記事が掲載されており、以下のア及びイの記載がある。
ア.「本誌解析班が、センチュリー21の解析を行ってみたところ、副産物として、予想もしなかったいくつかの新事実を発見した。
その中で、最も注目すべき新事実は、この機種には堂々と天井が存在したということだろう。ビッグボーナス終了後、1024プレー目を3枚入れでプレーした場合、100%確実にビッグボーナスのフラッグが成立するように乱数が組み込まれていたのである。」(37頁本文上段)
イ.「必ず1024プレー目にはビッグボーナスのフラッグが成立する。したがって、大きくハマっているときでも、プレーヤーはある程度安心してプレーできる。プレーヤーにとっては、実にありがたい救済措置ともいえる。
だが、それだけではない。このほかにも、救済措置が盛り込まれているである。・・・529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごとに、両ボーナスの抽選確率を高くするような、乱数の組合せになっていたのである。」(39頁本文上から3段目)

引用例1には「リール」との用語が散見され(例えば、41頁上から2段目)、36頁に掲載された「センチュリー21」の正面写真からは、「START」ボタン、3つの「STOP」ボタン、3つのリールを看取することができ、3つのリールに図柄が配されていることも読み取れる。そして、この3つのリールが回転することは明らかである。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「図柄を配した3つのリールを回転するパチスロであり、
ビッグボーナスの終了後から1024プレー目を3枚入れでプレーした場合、100%確実にビッグボーナスのフラッグを成立させ、
ビッグボーナスの終了後から529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごとに、ボーナスの抽選確率を高くしたパチスロ。」(以下「引用発明1」という。)

4.本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「3つのリール」が回転すれば、そこに配された図柄が変動し、図柄が「遊技に必要」なことは明らかであるから、「3つのリール」は本件発明1の「遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段」に相当する。
引用発明1の「フラッグを成立」が、本件発明の「内部当選役を決定」と同一の意味であることは、パチスロ(遊技機の一種である。)の技術常識であり、それゆえ、引用発明1は「内部当選役を決定する内部当選役決定手段」を備える。
引用発明1では「ビッグボーナスの終了後から1024プレー目」及び「ビッグボーナスの終了後から529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごと」に、特別の遊技進行をしているのだから、「ビッグボーナスの終了後から」のプレー数(本件発明1の「所定の時点からのゲームの回数」に相当)を計数する手段(本件発明1の「計数手段」に相当)を備えている。
そして、「100%確実にビッグボーナスのフラッグを成立させ」ること及び「ボーナスの抽選確率を高く」することは、明らかに遊技者にとって有利な状況であり(それぞれ、本件発明1の「遊技者にとって有利な第1の状況」及び「遊技者にとって有利な第2の状況」に相当する。)、それら有利な状況と「計数手段の計数値」の関係につき、「第1の状況」は「計数値が所定の値になったことを契機として」発生させ、「第2の状況」発生は「計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値」であることを必要条件とする点においても、本件発明1と引用発明1は一致する。当然「状況発生手段」を備えることも一致点である。
したがって、本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉
「遊技に必要な図柄を変動表示する変動表示手段と、
内部当選役を決定する内部当選役決定手段と、
所定の時点からのゲームの回数を計数する計数手段と、
前記計数手段の計数値が所定の値になったことを契機として遊技者にとって有利な第1の状況を発生させる状況発生手段とを備え、
前記状況発生手段は、前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であることを必要条件として、遊技者にとって有利な第2の状況を発生させる遊技機。
〈相違点1〉
本件発明1の「所定の時点」が「設定の変更時、前記所定の役の入賞が成立した後、前記第1の状況が終了した後、前記第2の状況が終了した後、又は前記第1の状況及び前記第2の状況とは別の遊技者にとって有利な第3の状況が終了した後である」のに対し、引用発明1のそれは「ビッグボーナスの終了」時点である点。
〈相違点2〉
本件発明1の「第2の状況」が「計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であるとき、所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立したことを契機として」発生するのに対し、引用発明1のそれは「ビッグボーナスの終了後から529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごと」である点。

5.相違点の判断及び本件発明1の進歩性の判断
(1)相違点2について
(1-1)無効理由3における判断
引用例1の記載イによれば、引用発明1における「遊技者にとって有利な第1の状況」(1024プレー目を3枚入れでプレーした場合、100%確実にビッグボーナスのフラッグを成立)及び「遊技者にとって有利な第2の状況」(529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごとに、ボーナスの抽選確率を高くすること)は、遊技者を救済するために設けられた状況である。
遊技者の救済とは、遊技者に有利な状態が長期間出現せず、そのため損失が大きくなっている状態において、意図的に遊技者に有利な状況を発生させることであるから、その有利な状況として、どのような状況を採用するかは、本件出願までに知られた有利な状況から適宜選択すればよいだけであり、ここには何の困難性もない。
引用例3には「ハイパーラッシュ」という名称のパチスロの紹介記事が掲載されており、以下の各記載がある。
ウ.「ツインBBシステムの仕組み」として、「ビッグフラグ成立時にハイパーかチャレンジかは決定されている」(35頁右下部の囲み欄)
エ.「ビッグボーナスという位置づけは同じでも、ハイパーとチャレンジでは性格が全く異なる。ビッグ中のメイン小役が「3種類の15枚役」という点に変わりはないが、ハイパーは狙うべき7の色をテトラが完璧にナビゲーションしてくれるのに対し、チャレンジではJAC中のヒットオンザビート・・・に成功した次の1プレイ目しか小役ナビは行われないのだ。」(36頁上段)
オ.36頁左上部には「ビッグ1回当たりの平均獲得枚数」の表が記載されており、ハイパービッグのそれがチャレンジビッグよりも相当数多いことが読み取れる。

引用例3記載の「ハイパービッグ」及び「チャレンジビッグ」は、どちらも「ビッグボーナス」であり、「ハイパービッグ」は「チャレンジビッグ」よりも有利である。
引用例4には、「図6において、電源が投入されたとき、図3における設定の他にフラグFを初期化する。このフラグFは、後述する第2回目の当たりにおいて大当たりを保証すると共に権利発生を強制的に行って救済措置をなす。次に、図7について説明すると、大当たりか小当たりかを判定し(S10)、何れかであるときにはフラグFの判定を行う(S33)。最初の当たりのときにはフラグFはゼロであるため、ステップ11へ進んで処理を行う。しかし、フラグFが1のときには、後述のステップ30?32で詳述するように、大当たりを強制的に実現するため、ステップ34で大当たり図柄を表示すると共に、大当たりの条件設定を行う(S13)。」(段落【0026】)との記載がある。引用例4はパチスロについて記載した文献ではない(パチンコについて記載した文献である。)し、救済措置を実行すべき条件も、引用発明1とは異なるが、「当たり」として「大当たり」と「小当たり」がある場合に、「当たり」があれば「大当たりを強制的に実現する」との救済措置が記載されている。
引用例3の「ビッグボーナス」は「当たり」ということができ、引用例3及び引用例4は、その「当たり」に有利さの異なる2とおり(引用例3では「ハイパービッグ」と「チャレンジビッグ」、引用例4では「大当たり」と「小当たり」)のものが存在する点で共通している。
そうであれば、引用発明1を出発点として、パチスロの救済措置として、引用例3記載の発明のように有利さの異なる2とおりの「ビッグボーナス」を用意しておき、救済の必要な時期には、「ビッグフラグ成立時」(本件発明1の「所定の役に内部当選」に相当)により有利な「ビッグボーナス」(ハイパービッグ)を強制的に実現することは当業者にとって想到容易である。そして引用発明1の「第2の状況」として、「ビッグボーナスの終了後から529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごとに、ボーナスの抽選確率を高く」することに代えて、ビッグボーナスに内部当選したことを契機として、そのビッグボーナスをより有利なビッグボーナスとすることは当業者にとって想到容易である。この場合、「狙うべき7の色をテトラが完璧にナビゲーションしてくれる」ことが本件発明1の「第2の状況」に相当する。
また、第2の状況を「ビッグボーナスに内部当選したことを契機として」実現するのであれば、「33プレー目ごと」であれば、ビッグボーナスに内部当選する可能性が低く、救済としては物足りないことは明らかであるから、「計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であるとき」すべてを対象とすることは、救済措置を変更するに当たっての軽微な設計事項というべきである。
なお、上記判断では引用例3を用いて判断したが、その代わりに引用例2を用いて判断しても同じ結論に至る。なぜなら、引用例2には「2種類のBBを設けておき、一方はBBゲームの一般遊技中に報知を行うBBとし、他方は報知を行わないBBとし、これらを抽選によって決定しても良い。」(段落【0120】)との記載があり、「報知を行うBB」は「報知を行わないBB」よりも有利なBBだからである。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(1-2)無効理由1における判断
請求人は、遊技状態を切り替える契機として種々のものが周知であること、「通常遊技から特別遊技に切り替えての有利な状態での遊技をいつから開始するのか」ということであり、遊技の中のルールを決定しただけ、と主張するが、「計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であるとき」が前提である以上、「所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立」しても、上記前提を満たさない限り、第2の状況にならないと考えるべきであり、単に「所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立」を遊技状態切替の契機とすることが周知であるとしても、それだけでは、相違点2に係る本件発明1の構成に至ることは容易ではない。
さらに、「所定の役」を「ボーナス」とすると、ボーナス入賞により救済しなくともよい状況になっているにも拘わらず、「第2の有利な状況」を発生させることの容易性も検討されていない。
したがって、無効理由1により相違点2に係る本件発明1の構成を採用することが容易であるということはできない。
そのため、無効理由1についてはこれ以上の検討を行わない。

(2)相違点1について
相違点1に係る本件発明1の構成は、再三述べたとおり不明確である。
相違点2に係る本件発明1の構成を採用することの容易性は前項で述べたとおりであり、「所定の役」に当たるのは、引用例3記載の「ビッグボーナス」であり、引用発明1は「ビッグボーナスの終了」時点を「所定の時点」としているから、第1解釈であれば、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することにより、自動的に相違点1に係る本件発明1の構成をも採用することになる。
第2解釈であったとしても、以下の理由により、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することは容易である。
「第3の状況」の存在が発明特定事項かどうかも不明確であるが、仮にこれが発明特定事項だとしても、遊技の多様性を増すため、有利な状況を増やすことには何の困難性もなく、第1の状況、第2の状況以外の有利な状況を設けることには何の困難性もない。そればかりか、引用例3記載の「ハイパービッグ」又は引用例2記載の「報知を行うBB」は、抽選により決定されており、抽選による決定された「ハイパービッグ」又は「報知を行うBB」における「狙うべき7の色をテトラが完璧にナビゲーションしてくれる」ことや報知を行うことを「第3の状況」に当てはめることもできる。
そして、救済措置は、遊技者が不利な状態にある場合に行うのであるから、有利な状況が実現すれば、当分救済を行う必要はない。そうであれば、ビッグボーナスの入賞(本件発明1の「前記所定の役の入賞」に相当)だけでなく、第1?第3の状況のどれか1つが実現することを条件として、計数手段をリセットすることは容易である。設定変更時については、設定変更の際に、遊技機を初期化することが普通であることから、設定変更時をリセット条件に加えることは設計事項である。なお、無効理由3に対して、被請求人は相違点1を除く相違点の困難性を主張するものの、相違点1を除く相違点が想到容易である場合に、相違点1の存在により本件発明が進歩性を有する旨の主張をしていない。

(3)本件発明1の進歩性の判断
相違点1,2に係る本件発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び引用例3,4若しくは引用例2,4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本件発明2の進歩性の判断
本件発明2は本件発明1に「前記第2の状況の有利さの度合いは、前記第1の状況の有利さの度合いと比較して低い」との限定を加えたものである。
そこで検討するに、引用発明1の「第1の状況」は「100%確実にビッグボーナスのフラッグを成立させ」であり、同じく「第2の状況」は「ボーナスの抽選確率を高く」したものであるから、「第1の状況」が「第2の状況」より有利さの度合いは高い。
本件発明1と引用発明1の相違点2について判断したように、「第2の有利な状況」を、引用例2?4に従い変更した場合でも、その場合の「第2の有利な状況」はビッグボーナスに付随するものであり、ビッグボーナス自体の有利さがあるから、「第2の状況」を「第1の状況」ほど有利にすべき理由はなく、有利さの度合いを低くすることは設計事項にとどまる。
したがって、本件発明2も、引用発明1及び引用例3,4若しくは引用例2,4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.本件発明3の進歩性の判断
本件発明3は本件発明1又は本件発明2に「前記第1の状況、前記第2の状況、又は前記第3の状況では、前記所定の役又は特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記所定の役又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」との限定を加えたものである。
しかし、本件発明1と引用発明1の相違点2について判断したように、「第2の有利な状況」を、引用例2?4に従い変更することは容易であり、引用例2の「BBゲームの一般遊技中に報知」及び引用例3の「狙うべき7の色をテトラが完璧にナビゲーション」は、どちらも「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知される」に該当し、本件発明3は「第2の状況」さえそのような状況であれば、「第1の状況」及び「第3の状況」についてまで限定するものではない。
したがって、本件発明3も、引用発明1及び引用例3,4若しくは引用例2,4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.予備的判断
本件訂正を認めることはできないが、仮に本件訂正が成立する場合の判断を予備的にしておく。
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)は、平成20年11月4日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、それは第3に{訂正事項a)として記したとおりである。
訂正発明は、本件発明3のうち請求項2を引用するものと比較すると、以下の点が異なる。
a..「前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定範囲内の値であるとき」が「前記計数手段の計数値が前記所定の値よりも小さい特定の値から前記所定の値の範囲内の値であるとき」に訂正されている。
b.「所定の役」が「ボーナス」に限定されている。
c.「有利な第2の状況を発生」時期が「当該ボーナスの終了後に」と限定されている。
d.「前記所定の役又は特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記所定の役又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知」から「前記所定の役」が削除され「特定の役」だけが報知対象となり、このような報知がされるのが「前記第1の状況、前記第2の状況、又は前記第3の状況」から「前記第1の状況、前記第2の状況、及び前記第3の状況」に訂正された。

まず、bから検討する。「第2の状況」を引用例2?4に従い、「所定の役に内部当選したこと又は当該所定の役の入賞が成立したことを契機として」発生に変更することの容易性は前示のとおりであるが、引用例2又は引用例3における「所定の役」はビッグボーナスであるから、そのように変更した場合には、bを自動的に満たす。
aについて検討するに、「第2の状況」を引用例2?4に従い変更することの容易性は前示のとおりであり、ビッグボーナス(訂正発明の「ボーナス」に相当)に内部当選又は入賞成立しない限り「第2の状況」は発生しない。ビッグボーナス当選確率は通常相当程度小さいから、「529プレー目以降1024プレー目の間は、33プレー目ごと」としていたのでは、「第2の状況」が発生しうるゲーム回数が15回しかなく、「第2の状況」発生をほとんど期待できないことは明らかであり、毎プレー毎とすることは軽微な設計変更にとどまる。すなわち、引用発明1は、ボーナスの抽選確率を高くするものであるから、高確率のゲーム回数が15回であっても救済の役割を期待することができるが、「第2の状況」を引用例2?4に従い変更した場合には、救済の役割を果たすことができるように、aの構成を採用することに困難性はない。加えて、本件出願に頒布された「パチスロ必勝ガイド2002年1月号」59?63頁(白夜書房発行,2001年11月29日工業所有権情報研修館の受入。以下「周知例」という。)には、パチスロ機「ゴルゴ13」の紹介記事が掲載されており、「通常時9択の12枚役を完全ナビゲートするAT機能…それがGC。」(59頁左下部の囲み欄)、「GCが抽選されるタイミングは…通常時(GC消化中・GC潜伏中含む)のハズレ時、通常時(同)のREG当選時、BIG中のハズレ時の3パターン」(60頁上段本文3?7行)及び「BIG終了後およそ1500Gで到達する天井は、次回のBIGまでGC突入率が飛躍的に上昇」(同頁2段目10?12行)との各記載があるところ、GCは訂正発明同様「前記所定の役又は特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記所定の役又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知」するものであり、「ボーナスに内部当選したこと又は当該ボーナスの入賞が成立したことを契機」として必ず突入するわけではないが、いったんGC突入率が上昇した後は、毎ゲームその状態を維持している。このことからみても、aの構成を採用することに困難性はない。なお、周知例は、本件出願のおよそ1週間前に頒布された刊行物であるが、パチスロ機を紹介する雑誌(いわゆる攻略本)は2,3種類しかなく、当業者であれば恒常的に接すると解されるから、1週間前の頒布であることを考慮しても、そこに記載された技術は周知というべきである。
cについては、引用例3記載のハイパービッグ及び引用例2記載の「BBゲームの一般遊技中に報知を行うBB」(段落【0120】)では、「第2の有利な状況」がボーナス中のゲームで発生し、ボーナスの終了後に発生するわけではないが、ボーナスに付随する特別の遊技状態を「ボーナスの終了後」とすることは周知(例えば、チャレンジタイムはビッグボーナス終了後に実行されることが多い。引用例2の段落【0002】にもその旨の記載がある。)であるばかりか、引用例2には「特別遊技の1つであるBBゲーム」(段落【0030】)及び「第2実施形態及び第3実施形態では、BBゲーム中の一般遊技での制御を例に挙げて説明したが、通常遊技や特別遊技の終了後の遊技で、一定条件下で、第2実施形態や第3実施形態のような遊技状態を作り出すことも可能である。」(段落【0150】)との記載があるから、第2の状況発生時点をボーナス終了後とすることは設計事項程度である。
最後にdについて検討する。本件発明3の進歩性判断では、「第2の状況」において「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知」ことの容易性を述べた。また、遊技者の救済のための有利な状況として、どのような状況を採用するかは、本件出願までに知られた有利な状況から適宜選択すればよいことは既に述べたとおりである。第1の状況及び第3の状況としても、遊技者に有利でありさえすれば、遊技者を救済できるのだから、それら状況として、「特定の役の入賞成立を実現するために必要な情報、又は前記特定の役の入賞成立を実現し、所定の遊技価値を獲得するために必要な情報が報知」を採用することに困難性はない。
以上のとおり、訂正により検討すべき事項を検討しても、進歩性を肯定すべき訂正事項はなにもないから、訂正発明は引用発明1及び引用例2?4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上によれば、請求項1?3の特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとともに、同法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、同法123条1項2号及び4号に該当し無効とすべきである。
本件訂正を許容すると仮にしても、訂正後に存在する唯一の請求項である請求項1の特許も同法29条2項の規定に違反してされた特許であるから、同法123条1項2号に該当し無効とすべきことに変わりはない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-01-15 
出願番号 特願2001-370922(P2001-370922)
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (A63F)
P 1 113・ 121- ZB (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西村 仁志  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 伊藤 陽
河本 明彦
登録日 2005-10-28 
登録番号 特許第3734747号(P3734747)
発明の名称 遊技機  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 黒田 博道  

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