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審決分類 |
審判 全部無効 特174条1項 B28D 審判 全部無効 2項進歩性 B28D |
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管理番号 | 1194175 |
審判番号 | 無効2008-800150 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-08-11 |
確定日 | 2009-03-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3854587号発明「研削穿孔工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3854587号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第3854587号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成15年5月6日に出願され、平成18年9月15日にその発明について特許権の設定登録がされた。 これに対して、平成20年8月11日に審判請求人 旭ダイヤモンド株式会社他1名より無効審判の請求がなされ、被請求人 株式会社呉英製作所に審判請求書副本を送達し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかったものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 中空にして流路を有する回転軸と、 前記回転軸の先端面に取り付けられ、前記流路に連通する溝部を有する研削部とを備えた研削穿孔工具であって、 前記溝部は、前記研削部の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記研削部の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成され、 前記溝部の基端面近傍には、前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで当該溝部内に突出する突出部を有し、 前記突出部の基端面側には、前記流路に向かって傾斜する傾斜面が形成されていることを特徴とする研削穿孔工具。 【請求項2】 前記研削部の軸方向に直交する断面において、前記溝部の溝幅が、前記研削部の円周方向に向けて拡大するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の研削穿孔工具。 【請求項3】 前記研削部の軸方向に平行する断面において、前記溝部の溝深さが、前記研削部の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の研削穿孔工具。」 第3 請求人の主張の概要 請求人の主張の概要は、次のとおりである。 (1)本件特許は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲を超えて補正をされた特許出願についてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(以下「無効理由1」という。)。 (2)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証、及び各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定により特許を受けることができないものである(以下「無効理由2」という。)。 したがって、特許法第123条第1項第1号ないし第2号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。 そして、請求人は、証拠方法として次の甲号各証を提出している。 甲第1号証: 特開2001-158015号公報 甲第2号証: 実公平6-25307号公報 甲第3号証: 特開2001-232628号公報 甲第4号証: 特開2001-232629号公報 甲第5号証: 特開昭49-4887号公報 甲第6号証: ダイヤモンドビット穿孔試験報告書 第4 無効理由1について 1 無効理由1の概要 本件特許の請求項1ないし3に記載される「前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで(当該溝部内に突出する突出部を有し、)」との構成は、出願当初の明細書等に記載がなく、また出願当初の明細書等の記載から自明の事項ともいえない。 2 当審の判断 願書に最初に添付した明細書には、「前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで」当該溝部内に突出する突出部を有することについて明示的な記載は存在しない。 一方、願書に最初に添付した図面である図2(a)には、本発明の研削穿孔工具の先端側面図として、実線で示された突出部6と点線で示された流路4が図示されており、また同図2(b)には、同じく本発明の研削穿孔工具の基端側面図として、点線で示された突出部6と実線で示された流路4が図示されており、両図の記載によれば、突出部6の輪郭により流路4が隠されている状態が看取できる。さらに、研削部の他の実施形態を示す先端端面図である図4(b)?(d)にも、全て流路4が突出部6により隠されている状態が示されており、流路が突出部により隠されていない実施形態は存在しない。 してみると、「前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで」当該溝部内に突出する突出部を有することは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内ということができる。 したがって、請求人の主張する無効理由1には理由がない。 なお、請求人は、審判請求書第8頁第8?14行において、「図4(a)をみると、同図の斜線部7はコンクリートコアであり、これが突出部にあたるように記載されている。突出部はコンクリートコアを破砕するためのものであるから、突出部は、流路とは無関係に、コンクリートコア7があたるように突出して記載されているように見える。図4は図2の発明の作動状態を示す図であるから、図2も同様に理解できる。したがって、これらの図から突出部が流路を隠す高さまで突出していることの技術的事項を読み取ることができない。」と主張している。 しかしながら、図2には、上述のとおり、本発明の研削穿孔工具の先端側面図又は基端側面図として、流路が突出部により隠されている状態が示されているから、突出部は、流路とは無関係に突出しているということはできず、「前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで」突出することは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内というべきである。 よって、請求人の上記主張は採用することができない。 第5 無効理由2について 1 甲号各証の記載内容 (1)甲第1号証 ア 段落【0001】 「【産業上の利用分野】本発明はノンコアドリルに関し、さらに詳細に言えば、コンクリート製構造物の床、壁、天井等に小径の孔を穿孔するのに使用して特に好適なノンコアドリルに関する。」 イ 段落【0019】?【0020】 「切削部材35は略円柱状に形成されたダイヤモンドビットからなり、その下面側の固着面36においてシャンク22の頂壁25の外側面26上に同心状に載置され、接着等適宜手段で固着されている。図から明らかなとおり、切削部材35の外径はシャンク22の外径より大きい。 切削部材35には、その高さ方向全長に渡るスリット或いは切り欠き37が形成されている。このスリット37は、切削部材35の外周から中心Oをわずかに越えた位置まで延びており、その一端は、切削部材35の外周部で開口した開口部38となっており、他端側は、中心Oを僅かに越えた位置で閉じた閉端部39となっている。そしてスリット32の形状は、シャンク22の中心(切削部材の中心)Oと噴出孔27の中心とを結ぶ直径の線を挟んで対称となっており、その直径を挟む方向の幅は、閉端部39から開口部39へ向かうにつれて漸増する形となっている。そして図から明らかなとおり、閉端部39は、シャンク22の噴出孔27より中心Oに近い位置に位置している。即ち、図(イ)に示すように切削部材35の上側から見た場合に、スリット32と噴出孔27とは平面的に位置がずれており、重なってはいない。即ち、スリット32の下側開口37cと噴出孔27の外側開口28とは、互いに対向する位置にない。なお、図示のとおり、シャンク22の切り欠き29の幅は、スリット37の幅より広くなっている。」 ウ 段落【0021】?【0022】 「切削部材35の固着面36には、さらに、スリット37の側方に拡がって形成され、その周縁部の一部においてスリット37に連通した窪み或いは凹所40が設けられている。具体的にはこの窪み40は、その両側面41a、41bがスリット37の両側面37a、37bの延長面上に形成され、スリット37の閉端部39の下側の部分を切り開く形で形成される連通部42でスリット37に通じ、反対側の奥端部43はシャンク22の噴出孔27を越えた位置で閉じている。すなわち、噴出孔27の外側開口28は完全にこの窪み40に臨んでおり、ある距離を隔ててその上方を窪み40の天井壁44により覆われている。この天井壁44はスリット37に近づくにつれて固着面36からの距離が高くなっている。この窪み40は、後述のとおり、噴出孔27から噴出された冷却液の流路となる。 上記の如き構成からなるドリルを用いて例えばコンクリート壁に孔明け作業を行うと、シャンク22の冷却液の噴出孔26から噴出される冷却液は窪みすなわち流路40において向きを変えられ、スリット37の閉端部39側から開口部38側へ径方向に向かう流れとなり、スリット37内をシャンク22側へ向かう切り粉をスリット37内で径方向外方へと押し出し、その切り粉はスリット37、シャンク22の切り欠き即ち排出路29を通って排出される。その際、噴出孔27の位置がスリット37の位置とずれているので、直接噴出孔に向かう切り粉の移動は無く、しかも冷却水がスリット37の閉端部39の外側からスリット37内へ、そして開口部38に向けて噴出されるので、切り粉は確実に排出され、噴出孔に目詰まりを生じることが確実に防止される。ドリル21の回転により、切り粉には元々径方向外方へ遠心力が作用しているが、これに加えて上記の構成による切り粉排出に対する効果はきわめて大きい。そして、排出路29の幅はスリット37の幅より大きくなっており、排出が速やかに行われる。さらには、その排出路29の底面30が外周部に向かって深くなるよう傾斜しており、切り粉及び冷却液の排出の方向がシャンク22の基部側へと形成され、その流れがスムーズになる。」 甲第1号証の図1の記載によれば、スリット37は、前記切削部材35の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記切削部材35の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成されることが看取される。また、同図の記載によれば、スリット37の基端面近傍には、スリット37に連通し、噴出孔27の外側開口28が完全に臨む窪み40が設けられており、前記窪み40には、前記噴出孔27に向かって傾斜する天井壁44が形成されていることが看取できる。 さらに、図1(イ)の記載によれば、切削部材35の軸方向に直交する断面において、前記スリット37の幅が、前記切削部材35の円周方向に向けて拡大するように形成されていることが看取できる。 そこで、これらの事項を、技術常識を勘案しながら本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 「中空にして噴出孔27を有するシャンク22と、 前記シャンク22の先端面に取り付けられ、前記噴出孔27に連通するスリット37を有する切削部材35とを備えたノンコアドリルであって、 前記スリット37は、前記切削部材35の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記切削部材35の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成され、 前記スリット37の基端面近傍には、スリット37に連通する窪み40が設けられ、前記噴出孔27の外側開口28が前記窪み40に完全に臨んでおり、 前記窪み40には、前記噴出孔27に向かって傾斜する天井壁44が形成されているノンコアドリル。」 また、甲第1号証には、次の事項(以下「甲第1号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。 「前記切削部材35の軸方向に直交する断面において、前記スリット37の幅が、前記切削部材35の円周方向に向けて拡大するように形成されていること。」 (2)甲第2号証 ア 実用新案登録請求の範囲 「【請求項1】5?25mmφのダイヤモンドドリルにおいて、ダイヤモンドクラウン部を水平断面において少なくとも一方が開放された内部空間部を有する一体成形体とし、同内部空間部にダイヤモンドクラウン部の基部中心に向かって傾斜したコア破壊用の斜面を設けたことを特徴とするダイヤモンドドリル。」 イ 第1頁第1欄第9?11行 「〔産業上の利用分野〕 本考案は、コンクリート,石材,建材,ガラスその他の材料の穿孔を行うダイヤモンドドリルの構造に関する。」 ウ 第2頁第3欄第22?28行 「本考案のダイヤモンドドリルの全体構造を示す第1図を参照して、一体成形された10mmφのダイヤモンドクラウン部1は通常鉄材からなるステム基部2の先端に接着(溶接又はろう付け)されて使用される。 ステム基部2は、穿孔作業に際しての切り粉の除去を容易にするために、圧縮空気や冷却水を内部より供給できるように、中空の円筒状とするのが望ましい。」 エ 第2頁第3欄第35行?第4欄第7行 「同ダイヤモンドクラウン部1の水平断面は第3図に示すように断面がコの字形に成形されており、一方向に開放した開放空間5が形成されている。 同開放空間5は穿孔作業に際して発生する切り粉の逃げ部の機能を有する。 6はコア除去部分を示し、同コア除去部分6は任意の形状とすることができるが、図示するように、開放空間5を形成する内壁面にダイヤモンドクラウン部1の基部中心に向かって傾斜したテーパ面7とすることが、穿孔部に形成したコアを衝撃を発生することなく、スムーズに除去することができ、その際発生した切り粉を同テーパ面7に沿って開放部5から逃がすことが可能となる。テーパ面7のテーパ角度は被削材の状況と穿孔条件によって調整する。」 甲第2号証の第2?4図の記載によれば、開放空間5は、ダイヤモンドクラウン部1の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記ダイヤモンドクラウン部1の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成されることが看取できる。また、第4図の記載によれば、前記開放空間5の基端面近傍には、当該開放空間5内に突出するコア除去部分6を有することが看取できる。 また、第4図の記載及び摘記事項ウより、ステム基部2は中空であり、冷却水の流路を有し、該流路は開放空間5に連通することが理解される。 そこで、これらの事項を、技術常識を勘案しながら本件発明1に照らして整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 「中空にして流路を有するステム基部2と、 前記ステム基部2の先端面に取り付けられ、前記流路に連通する開放空間5を有するダイヤモンドクラウン部1とを備えたダイヤモンドドリルであって、 前記開放空間5は、前記ダイヤモンドクラウン部1の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記ダイヤモンドクラウン部1の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成され、 前記開放空間5の基端面近傍には、当該開放空間5内に突出するコア除去部分6を有するダイヤモンドドリル。」 (3)甲第3号証 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリート、石材、建材、ガラスなどに穿孔を行う穿孔機、とくに小径の穿孔を行う穿孔機の先端部構造に関する。」 イ 段落【0020】?【0021】 「図2は本発明の第2の実施形態における穿孔機の先端部構造を示す図で、(a)は底面図、(b)は(a)のB-B線断面図である。 本実施形態の先端部20の構造は、第1の実施形態の先端部構造におけるセグメント4に代えて、セグメント5を取り付けたものである。セグメント5は、内部空間を形成する内壁面に、セグメント先端側の面積が減少する方向の傾斜面5aを形成したものである。この傾斜面5aを形成したことにより、切削屑の破砕に寄与する面積が大きくなって破砕が促進され、破砕屑の排出性もよくなる。」 (4)甲第4号証 ア 段落【0001】 「【発明の属する技術分野】本発明は、コンクリート、石材、建材、ガラスなどに穿孔を行う穿孔機、とくに小径の穿孔を行う穿孔機のドリル構造に関する。」 イ 段落【0020】?【0023】 「図2は本発明の第2の実施形態における穿孔機のドリル構造を示す図で、(a)は底面図、(b)は(a)のB-B線断面図である。 本実施形態のドリル構造は、回転軸1の先端の平坦面2に、底面形状が3/4半円形のセグメント20をろう付けにより接合したものである。セグメント20は第1実施形態のセグメント10と同様、ダイヤモンドセグメントである。 このドリル構造の場合は、破砕作用面21は平坦面2の直交する半径方向となり、この破砕作用面21の全面に傾斜面21aを形成している。傾斜面21aの傾斜角は平坦面2に対してほぼ15度である。 本実施形態のドリル構造の場合も、破砕作用面21の面積は第1実施形態のドリル構造の破砕作用面11と同じ面積で切削屑の破砕に寄与する面積が大きいので、切削屑の破砕が促進される。また、破砕作用面21に対面する側が開放されているので切削屑が外部に排出されやすい。」 (5)甲第5号証 ア 第1頁右下欄第3?4行 「本発明は工具、とくに研磨材含有材料製の穴あけ・みぞ穴研削用工具に関する。」 イ 第3頁左上欄第11行?右上欄第1行 「本工具は、シヤンク1(第1図)と、シヤンク1に連結された研磨材含有材料製の刃部2とからなる。さらに、その刃部2は、工具母線に沿って前記刃部側面に固着される、該刃部材料よりも低い研削抵抗とより高い曲げ強さを有する材料でつくられたステム3を備える。 前記研磨材含有材料は金属結合剤で固められたダイヤモンド粒含有材などでよい。ステム材料は、例えばダイヤモンド粒を固めるための金属結合剤、および青銅、銅などでよい。」 ウ 第3頁右上欄第6?15行 「さらに前記ステム3は縦みぞ穴4を備え、かつステム3の輪郭は第2,3図に示すように前記刃部2の端面5上の縦みぞ穴4輪郭と同一である。 その縦みぞ穴4は刃部2の端面5上の研磨材粒子が工具回転軸線6から所定距離”a”(第2図)だけはなれた位置にあるように配置されかつ前記みぞ穴の底7は穴あけ加工中に形成される心をせん断もしくは研削するのに役立つ凸状曲線(穴の方からみて)をしている。」 摘記事項ウ及び第1図の記載によれば、刃部2及びステム3の軸方向に平行する断面において、刃部2及びステム3に設けられる縦みぞ穴4の溝深さが、前記刃部2及びステム3の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されていることが理解される。 したがって、甲第5号証には次の事項(以下「甲第5号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。 「刃部2及びステム3の軸方向に平行する断面において、刃部2及びステム3に設けられる縦みぞ穴4の溝深さが、前記刃部2及びステム3の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されていること。」 (6)甲第6号証 甲第6号証には、本件特許における研削部内突出物を設けた商品と、突出物を設けない商品の性能比較試験を行った結果が記載されている。 2 対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明における「ステム基部2」は、本件発明1における「回転軸」に相当し、以下同様に、「ダイヤモンドクラウン部1」は「研削部」に、「開放空間5」は「溝部」に、「コア除去部分6」は「突出部」に、それぞれ相当することが明らかである。 また、甲第2号証記載の発明は「ダイヤモンドドリル」とされているが、「研削穿孔工具」と表現することもできるものである。 したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。 [一致点] 「中空にして流路を有する回転軸と、 前記回転軸の先端面に取り付けられ、前記流路に連通する溝部を有する研削部とを備えた研削穿孔工具であって、 前記溝部は、前記研削部の軸方向に直交する断面の円周の少なくとも一部が開放されるように、前記研削部の中心軸を含む深さで先端面から基端面まで形成され、 前記溝部の基端面近傍には、当該溝部内に突出する突出部を有する研削穿孔工具。」である点。 [相違点1] 本件発明1では、突出部が、前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで当該溝部内に突出するものであり、前記突出部の基端面側には、前記流路に向かって傾斜する傾斜面が形成されているのに対して、引用発明では、突出部を有するものの、回転軸の流路を隠す高さまで突出しているかどうか明らかでなく、また、突出部の基端面側には傾斜面が形成されていない点。 上記相違点1について検討する。 本件特許明細書の段落【0008】には、発明が解決しようとする課題として、「・・・研削部23の溝部25で破砕されたコンクリートコア屑が噴出孔24a内に浸入するのを完全に防止することができず、目詰まりが発生する。また、この目詰まりにより、冷却流体が研削部23に効率よく供給されず、十分な研削穿孔能力を得ることができなくなる。その結果、研削穿孔に長時間を費やし、研削穿孔の作業効率が低下する、また、研削部23の砥粒も脱落しやすくなり、研削穿孔工具21の寿命が短くなるという問題があった。」と記載され、同段落【0043】には、発明の効果として、「・・・前記溝部の基端面近傍には、前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで当該溝部内に突出する突出部を有することにより、研削穿孔工具の寿命を長くでき、また、研削穿孔の作業効率も低下しない研削穿孔工具を提供することができた。」と記載されている。 上記記載によれば、本件発明1において、「前記研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで当該溝部内に突出する突出部を有し、前記突出部の基端面側には、前記流路に向かって傾斜する傾斜面が形成されている」のは、破砕されたコンクリートコア屑が噴出孔内に浸入することによる目詰まりを防止し、研削穿孔工具の寿命を長くするとともに、研削穿孔の作業効率の向上を図るためと解される。 一方、甲第1号証には、第2の1に示したとおりの発明が記載されており、甲第1号証記載の発明では、スリット37の基端面近傍に、スリット37に連通する窪み40が設けられ、噴出孔27の外側開口28が前記窪み40に完全に臨んでおり、前記窪み40には、噴出孔27に向かって傾斜する天井壁44が形成されている。そして、このことにより、冷却水がスリット37の閉端部39の外側からスリット37内へ、そして開口部38に向けて噴出されるので、切り粉は確実に排出され、噴出孔に目詰まりを生じることが確実に防止されるものである(段落【0022】参照)。 甲第1号証記載の発明において、窪み40は、その両側面41a、41bがスリット37の両側面37a、37bの延長面上に形成され、スリット37の閉端部39の下側の部分を切り開く形で形成される連通部42でスリット37に通じ、反対側の奥端部43はシャンク22の噴出孔27を越えた位置で閉じている(段落【0021】)。ここで、窪み40の両側面41a、41bがスリット37の両側面37a、37bの延長面上に形成されていることから、前記奥端部43をスリット37の底部とみることができ、その場合には、研削部(切削部材35)の先端面から見たとき、当該溝部(スリット37)の底部(奥端部43)から前記回転軸(シャンク22)の流路(噴出孔27)を隠す高さまで突出部(閉端部39)が設けられており、前記突出部(閉端部39)の基端面側には、流路に向かって傾斜する傾斜面(天井壁44)が形成されていることが図1の記載からも明らかである。 そして、甲第2号証記載の発明及び甲第1号証記載の発明はいずれも流路を有する研削穿孔工具という同一の技術分野に属するものであるから、甲第2号証記載の発明における突出部に対して甲第1号証記載の発明を適用して、研削部の先端面から見たとき、当該溝部の底部から前記回転軸の流路を隠す高さまで当該溝部内に突出する突出部を有し、前記突出部の基端面側には、前記流路に向かって傾斜する傾斜面が形成されるよう構成することは当業者が容易になし得たことである。 本件発明1の作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明及び甲第1号証記載の発明から当業者であれば十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲第2号証記載の発明及び甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2について 本件発明2と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記相違点1に加えて次の点で相違し、その余の点では一致する。 [相違点2] 本件発明2では、前記研削部の軸方向に直交する断面において、前記溝部の溝幅が、前記研削部の円周方向に向けて拡大するように形成されているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。 相違点1についての判断は上記1にて検討したとおりである。 そこで、相違点2について検討する。 甲第1号証には、上記第2の1に示したとおり、「前記切削部材35の軸方向に直交する断面において、前記スリット37の幅が、前記切削部材35の円周方向に向けて拡大するように形成されていること。」が記載されている。 甲第1号証記載の事項の「切削部材35」及び「スリット37」は、本件発明2の「研削部」及び「溝部」に相当することが明らかであるから、甲第1号証記載の事項は「前記研削部の軸方向に直交する断面において、前記溝部の溝幅が、前記研削部の円周方向に向けて拡大するように形成されていること」と言い換えることができる。 しかも、溝部を有する研削部の軸方向に直交する断面において、前記溝部の溝幅が、前記研削部の円周方向に向けて拡大するように形成されることは、例えば、甲第3号証の図5(a)、図7(a)、甲第4号証の図5(a)、図7(a)、甲第5号証の第2図等に記載されているように従来周知の事項でもある。 してみると、甲第2号証記載の発明における溝に対して甲第1号証記載の事項ないし従来周知の事項を適用し相違点2に係る本件発明2の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。 本件発明2の作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の発明、甲第1号証記載の事項ないし従来周知の事項から当業者であれば十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。 したがって、本件発明2は、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の発明、甲第1号証記載の事項ないし従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件発明3について 本件発明3と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記相違点1、2に加えて次の点で相違し、その余の点では一致する。 [相違点3] 本件発明3では、前記研削部の軸方向に平行する断面において、前記溝部の溝深さが、前記研削部の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。 相違点1、2についての判断は上記1,2にて検討したとおりである。 そこで、相違点3について検討する。 甲第5号証には、上記第2の1に示したとおり、「刃部2及びステム3の軸方向に平行する断面において、刃部2及びステム3に設けられる縦みぞ穴4の溝深さが、前記刃部2及びステム3の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されていること」が記載されている。 甲第5号証記載の事項の「刃部2及びステム3」及び「縦みぞ穴4」は本件発明3の「研削部」及び「溝」に相当することが明らかであるから、甲第5号証記載の事項は「研削部の軸方向に平行する断面において、前記溝部の溝深さが、前記研削部の先端面から基端面に向かって縮小するように形成されていること」と言い換えることができる。 しかも、溝部を有する研削部の軸方向に平行する断面において、前記溝部の溝深さが、前記研削部の先端面から基端面に向かって縮小するように形成ことは、例えば、甲第4号証の図2(a)、(b)等に記載されているように従来周知の事項でもある。 してみると、甲第2号証記載の発明における溝に対して甲第5号証記載の事項ないし従来周知の事項を適用し相違点3に係る本件発明3の特定事項とすることは当業者が容易になし得たことである。 本件発明3の作用効果についてみても、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の発明、甲第1号証記載の事項、甲第5号証記載の事項ないし従来周知の事項から当業者であれば十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。 したがって、本件発明3は、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の発明、甲第1号証記載の事項、甲第5号証記載の事項項ないし従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおりであり、本件発明1ないし3は、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の発明、甲第1号証記載の事項、甲第5号証記載の事項項ないし従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明1ないし3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-12-26 |
結審通知日 | 2009-01-07 |
審決日 | 2009-01-22 |
出願番号 | 特願2003-128040(P2003-128040) |
審決分類 |
P
1
113・
55-
Z
(B28D)
P 1 113・ 121- Z (B28D) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 小野田 達志 |
特許庁審判長 |
前田 幸雄 |
特許庁審判官 |
菅澤 洋二 鈴木 孝幸 |
登録日 | 2006-09-15 |
登録番号 | 特許第3854587号(P3854587) |
発明の名称 | 研削穿孔工具 |
代理人 | 岡崎 士朗 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 岡崎 士朗 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 磯野 道造 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |