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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1194378
審判番号 不服2004-17063  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-16 
確定日 2009-03-11 
事件の表示 平成 6年特許願第505919号「内生の選択しうる残余配列を有しない遺伝子のターゲティング置換」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年 3月 3日国際公開、WO94/04667、平成 8年 5月21日国内公表、特表平 8-504564〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成5年8月24日を国際出願日とする出願(優先権主張1992年8月25日、ドイツ)であって、平成16年5月7日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年9月14日付で願書に添付した明細書について手続補正がなされ、さらに平成19年2月15日付で審尋がなされ、平成19年8月20日付で回答書が提出されたものである。


2.本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成16年9月14日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明1」という。)

「【請求項1】 齧歯類の生殖系列中の内生遺伝子または内生遺伝子断片をヒト由来の相同遺伝子または相同遺伝子断片で相同的組換えにより1工程で置換する方法であって、
(i)選択可能なようにマーキングした組換えビヒクルで胚性幹細胞株をトランスフェクションし、その際、該組換えビヒクルが相同的組換えのための置換ベクターであって、置換されるべき内生遺伝子断片または内生遺伝子に相同な導入遺伝子断片または導入遺伝子、置換されるべき内生DNA断片の両側に位置する配列に相補的な配列、およびマーカー遺伝子を含み;
(ii)安定にトランスフェクションされた細胞クローンをマーカー遺伝子の存在について選択し、その際、内生遺伝子または内生遺伝子断片は、選択可能なようにマーキングした組換えビヒクルによる組換え事象において相同遺伝子または相同遺伝子断片によって1工程で機能的に置換され;
(iii)これら細胞クローンをPCRおよび/またはサザーンブロットによるターゲティング選択に供し;
(iv)該細胞クローンを齧歯類の胞胚中に注入し;ついで
(v)該胞胚を代理母に移行させる
ことを含む方法。」


3.原査定の理由
本願発明1に対応する平成16年9月14日付の手続補正前の請求項1に係る発明を含む、当該補正前の請求項1?23に係る発明について、原審の平成16年5月7日付の拒絶査定は、以下の拒絶の理由を指摘している。

理由2:
請求項1?23に係る発明は、先の引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


4.理由2(特許法第29条第2項の要件)についての判断

(1)引用例
出願前頒布された刊行物である国際公開第91/19796号パンフレット(1991)(以下、「引用例2」という)には、以下のような記載がある。

(a)請求項1「細胞のゲノムの予定した遺伝子配列内に挿入された所望の選択不可能な遺伝子配列を含有する所望の動物細胞または非菌類植物細胞を得る方法であって、
A.前駆体細胞を、該所望の選択不可能な遺伝子配列を含有するDNA分子であって、該所望の遺伝子配列に該前駆体細胞の該ゲノムの該予定した遺伝子配列との相同的組換えを受けさせるに足る該所望の遺伝子配列に隣接する2つの相同領域をさらに含有するDNA分子、と共にインキュベートし、
B.該DNA分子の該前駆体細胞中への導入を引き起こし、
C.該導入されたDNA分子に該前駆体細胞の該ゲノムの該予定した遺伝子配列との相同的組換えを受けさせることによって、該所望の選択不可能な遺伝子配列が該予定した遺伝子配列中に挿入されている該所望の細胞を作成し、
D.該所望の細胞を回収する、
ことからなる方法。」
(b)請求項2「該DNA分子が検出可能なマーカー遺伝子配列を含有する請求の範囲第1項の方法。」
(c)請求項3「該前駆体細胞と該DNA分子をエレクトロポレーションにかけることによって該DNA分子を該前駆体細胞に導入する請求の範囲第1項の方法。」
(d)請求項4「B段階において、該前駆体細胞を、検出可能なマーカー遺伝子配列を含有する第2のDNA分子と共に同時にエレクトロポレーションにかける請求の範囲第3項の方法。
(e)請求項6「該所望の細胞が動物細胞である請求の範囲第1項の方法。」
(f)請求項9「該動物細胞が多能性細胞である請求の範囲第6項の方法。」
(g)請求項10「該動物細胞がニワトリ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、魚、ブタ、雌ウシまたは雄ウシ、及びヒト以外の霊長類からなる群から選択される動物の細胞である請求の範囲第9項の方法。」
(h)請求項11「該多能性細胞が胚性幹細胞である請求の範囲第9項の方法。」
(i)請求項12「該所望の遺伝子配列が該前駆体細胞の該予定した遺伝子配列と本質的に相同である請求の範囲第1項から第3項までのいずれかの方法。」
(j)請求項14「該所望の遺伝子配列が該前駆体細胞の該予定した配列のヒト類縁体である請求の範囲第12項の方法。」
(k)「所望の遺伝子配列を含有するDNA分子を受容した細胞の回収を容易にするためには、所望の遺伝子配列を含有するDNAを、検出可能なマーカー遺伝子配列を含有する第2の遺伝子配列と組合わせて導入することが好ましい。」(第29頁11-19行)
(l)「一態様として、受容細胞中の検出可能なマーカー配列の存在をハイブリッド形成、放射線ラベルしたヌクレオチドの検出、あるいは検出可能なマーカー配列の発現を必要としない他の検出検定法によって認識する。好ましくは、PCRを用いてこのような配列を検出する。」(第29頁20-30行)
(m)「第1の好ましい態様として、相同領域(複数)が隣接した検出可能なマーカー遺伝子配列を所望の遺伝子配列を含有するDNA分子と同じDNA分子上に入れて受容細胞に提供する。」(第32頁15-20行)
(n)「第2の好ましい態様として、相同領域(複数)が隣接した検出可能なマーカー遺伝子配列を、所望の遺伝子配列を含有するDNA分子とは異なるDNA分子に乗せて受容細胞に提供する。これらの分子は直線状分子であることが好ましい。
別個のDNA分子に乗せて提供する場合には、検出可能なマーカー遺伝子配列と所望の遺伝子配列を同時エレクトロポレーションまたは他の等価な技術によって受容細胞に提供することが最も好ましいであろう。
このような受容体を(好ましくはnptII遺伝子を発現する検出可能なマーカー配列を使用して抗生物質G418に対する細胞耐性を付与することによって)選択した後、それらの細胞を成長させ、挿入事象を確認するために(好ましくはPCRを用いて)スクリーニングする。」(第34頁22行?第35頁2行)
(o)「多能性(前駆体またはトランスフェクトされた)細胞を当該技術分野で公知の方法(Evans, M.J.ら, Nature 292:154-156(1981)で生体内で培養してキメラ動物または形質転換動物を形成させることができる。」(第41頁29?33行)
(p)「天然の遺伝子が異種構造遺伝子と置換している細胞を作製するために本発明の方法を用いることができる。ある遺伝子がある形質転換細胞の種とは異なる種から誘導され得る場合、その遺伝子はその形質転換細胞にとって異種構造であるとされる。
1つの態様として、この置換を1段階で達成することができる(図3)。このような置換を達成するためには、所望の遺伝子配列及び相同領域を含有するDNA分子を受容細胞中に導入する。その細胞中に選択可能なマーカー遺伝子をも導入し、組み換えを起こした細胞を選択するためにこれを使用する。この方法は、相同領域に隣接する正常な配列の、所望のDNA配列を有する異種構造配列との置換をもたらす。」(第47頁15?29行)
(q)「発育中の胚の胞胚中に注入すれば、ES細胞は増殖し、分化し、したがってキメラ動物の創出をもたらすであろう。ES細胞はこのようなキメラ動物の体細胞系列および生殖系列の両系列にコロニーをつくり得る。(Robertson,E.ら, Cold Spring Harb.conf.Cell. Prolif. 10:647-663(1983); Bradley,A.ら, Nature 309:255-256(1984):
Bradley,A.ら,Curr.Top.Devel.Biol. 20:357-371(1986): Wagner, E. F.らCold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 50:691-700(1985):これらの文献はすべて本明細書の一部を構成する)。」(第7頁10?20行)
(r)「図3は、“擬人化した”遺伝子を一段階法で染色体遺伝子配列中に導入しうる機構の模式的表現である。」(第13頁8?10行)
(s)図3には、ヒト遺伝子部分及びその両端にマウスゲノムの相同配列を含むヒト遺伝子構築物とネオマイシン耐性遺伝子とを、ヒト遺伝子に対応する標的遺伝子及びその両端の相同配列を含むマウスゲノムを遺伝子交換により、マウスゲノムの標的遺伝子部分に置換されたヒト遺伝子が組み込まれ、他の位置にネオマイシン耐性遺伝子が組み込まれた新しいマウスゲノムが記載されている。(図3)

(2)本願発明1に係る進歩性の判断
(2-1)本願発明1と引用例2に記載された技術的事項との対比
引用例2には、上述のとおり、マウスの内生遺伝子をヒト由来の相同遺伝子または相同遺伝子断片で相同的組換えにより1工程で置換する方法であって、選択可能なようにネオマイシン耐性遺伝子でマーキングしたマーカー遺伝子を含む組換えビヒクル、及び、置換されるべき内生遺伝子断片または内生遺伝子に相同な導入遺伝子断片または導入遺伝子、置換されるべき内生DNA断片の両側に位置する配列に相補的な配列を含む相同的組換えのための置換ベクターとで、細胞株をトランスフェクションし、安定にトランスフェクションされた細胞クローンをマーカー遺伝子の存在について選択し、その際、内生遺伝子または内生遺伝子断片は、選択可能なようにマーキングした組換えビヒクルによる組換え事象において相同遺伝子または相同遺伝子断片によって1工程で機能的に置換されることが記載されている。(記載事項(a),(c)?(j),(n),(p),(r),(s))
そして、組換えを受ける細胞として胚性幹細胞も対象として含まれることが記載されており(記載事項(h))、遺伝子を受容したこれら細胞クローンをPCRによるターゲティング選択に供すること(記載事項(l),(n))、し、トランスフェクトされた細胞を当該技術分野で公知の方法で生体内で培養してキメラ動物または形質転換動物を形成させることも記載されている(記載事項(o))。

そこで、本願発明1と、引用例2に記載された上記技術的事項を対比すると、両者は、「齧歯類の生殖系列中の内生遺伝子または内生遺伝子断片をヒト由来の相同遺伝子または相同遺伝子断片で相同的組換えにより1工程で置換する方法であって、
(i)組換えベクターとマーカー遺伝子を用いて胚性幹細胞株をトランスフェクションし、その際、該組換えビヒクルが相同的組換えのための置換ベクターであって、置換されるべき内生遺伝子断片または内生遺伝子に相同な導入遺伝子断片または導入遺伝子、置換されるべき内生DNA断片の両側に位置する配列に相補的な配列を含み;
(ii)安定にトランスフェクションされた細胞クローンをマーカー遺伝子の存在について選択し、その際、内生遺伝子または内生遺伝子断片は、組換えベクターによる組換え事象において相同遺伝子または相同遺伝子断片によって1工程で機能的に置換させることを含む方法。」に関するものである点で一致する。

そして、本願発明1が、「マーカー遺伝子が相同的組換えのための組換えベクターに含まれている」のに対し、引用例2には、「マーカー遺伝子が相同的組換えのための組換えベクターに含まれている」他の態様は記載されている(記載事項(b),(k),(m))ものの、齧歯類の生殖系列中の内生遺伝子または内生遺伝子断片をヒト由来の相同遺伝子または相同遺伝子断片で相同的組換えにより1工程で置換する方法においては、マーカー遺伝子が相同的組換えのための組換えベクターに含まれておらず、別となっている点(相違点1)で相違する。
また、引用例2には、組換えを受ける細胞として胚性幹細胞も対象として含まれることが記載されており(記載事項(h))、遺伝子を受容したこれら細胞クローンをPCRによるターゲティング選択に供すること(記載事項(l),(n))、及び、トランスフェクトされた細胞を公知の方法(Evans, M.J.ら, Nature 292:154-156(1981)で生体内で培養してキメラ動物または形質転換動物を形成させること(記載事項(o))や、組換えた胚性幹細胞胞胚中に注入してを齧歯類の胞胚中に注入すること(記載事項(q))は記載されているが、当該相同的組換えによりトランスフェクションした細胞クローンを、PCRおよび/またはサザーンブロットによるターゲティング選択に供し、該細胞クローンを齧歯類の胞胚中に注入してから、該胞胚を代理母に移行させることについては具体的に記載されてはいない点(相違点2)で、本願発明1と相違する。

(2-2)判断

相違点1について判断する。
本願優先日前に頒布され、本願優先日前の技術常識を記載した辞典である日経バイオテク編,日経バイオテクノロジー最新用語辞典91,日経BP社,1991年4月25日,p.52(以下、「引用例6」という)の「遺伝マーカ」の項には、「薬剤耐性遺伝子を目的遺伝子とつなぎ、薬剤耐性の変化で宿主に目的遺伝子が導入されたかどうかを間接的に確認する。」と記載されている。
このように、例えば、優先日当時の技術常識を示す引用例6の記載を参酌すれば、薬剤耐性の変化で目的遺伝子が導入されたかどうか確認するマーカーの使われ方としては、導入すべき目的遺伝子とつないで使用するのが基本であるから、引用例2の記載事項(a),(c)?(j),(n),(p),(r),(s)に接した当業者であれば、相同的組換えのための組換えベクターとマーカー遺伝子とをそれぞれ別にトランスフェクションさせることに代えて、通常のマーカー遺伝子の使用方法のとおりに、相同的組換えのための組換えベクターとマーカー遺伝子とをつないで、薬剤耐性の変化で宿主に目的遺伝子が導入されたかどうかを間接的に確認することはむしろ当然に想起し得たことである。
そして、その結果、組換えベクターとマーカー遺伝子の遺伝子の導入効率が上昇したとしても、遺伝子の導入を相同組換えによって行うより、1回の相同組換えによって行う方が効率が良いことは当業者にとって当然に予測する範囲内のことであり、その効果については当業者が予見し得ない程度に格別顕著であるとはいえない。

相違点2について判断する。
引用例2に記載された相同的組換え法は、いずれもキメラ動物または形質転換動物を形成させることを目的とした方法であるから、キメラ動物または形質転換動物を形成させるために引用例2に記載のキメラ動物または形質転換動物を形成させ目的で開示された各方法や、本願優先日当時の周知技術を参酌することは当然のことである。
よって、当該相同的組換え法によってトランスフェクトされた細胞をPCRおよび/またはサザーンブロットによるターゲティング選択に供し、該細胞クローンを齧歯類の胞胚中に注入してから、該胞胚を代理母に移行させることは、引用例2の記載事項(h),(l),(n),(o),(q)や出願時周知技術から容易に想到しうる程度の事柄に過ぎないから、この点に何ら困難性はない。

(3)審判請求書における請求人の主張について

請求人は、審判請求書の理由を補充する手続補正書、及び、平成19年2月15日付け審尋に対する平成19年8月20日回答書のB及びCにおいて相違点1について、以下のように主張している。

(主張1)周知性の否定
相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入することは本出願前広く行われていたわけではない。ここで審査官が根拠としている引例1、2および5については、引例1の発明においては、挿入遺伝子そのものが選択マーカー遺伝子として機能すべきものであって、挿入遺伝子とは別に選択マーカー遺伝子を挿入するわけではない(引例1、第6頁右下欄10?12行)。引例2は、上記のとおり、選択マーカー遺伝子は置換ベクターとは別の第二のDNA分子に含まれるとするのが好ましい態様である。なお、引例2には、確かに「検出可能なマーカー配列」と「所望の遺伝子配列」とをともに含む単一のDNA分子が記載されているが、あくまで2工程組換え法を行うことを前提としたものである。引例2には、1回の組換え事象により(1工程で)内生遺伝子を相同遺伝子で置換する場合での置換ベクターに選択マーカー遺伝子を挿入することについては、開示も示唆すらも全くなされていない。引例5も引例2と同様であり、相同遺伝子と選択マーカー遺伝子とをともに含むベクターは記載されているが、当該ベクターは、引例2と同様、あくまで2工程組換え法(「相同的組換え」+「染色体内組換え」)のためのものにすぎない。
このように、「相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」は、本願優先日当時に周知の技術であったわけでは決してない。

(主張2)有利な効果1
引例2では、たとえコエレクトロポレーションするとはいっても、相同的置換用ベクターとは別にマーカー遺伝子を含む第二のDNA分子を用いることに変わりなく、それゆえ、細胞に1のDNA分子ではなく2のDNA分子を取り込ませる必要があるのであり(コエレクトロポレーションにより)、このように取り込ませるDNA分子の数が増えれば増えるほどトランスフェクション効率が悪くなることは当業者にはよく知られたことである。すなわち、引例2の発明に比べて、遙かに有利な技術的利点を有する。

(主張3)有利な効果2
引例2では置換ベクターが第一の組換え事象(相同的組換え)によりレシピエント細胞ゲノムに組み込まれた後(その際、線状分子全体がレシピエント細胞ゲノム中に組み込まれる)、さらに第二の組換え(染色体内組換え)を行って所望のDNA配列およびフランキングする相同領域以外の全てのDNAを除去する点、(ii)それゆえ、本願発明では所望の組換えの生じたレシピエント細胞の選択は1回のスクリーニングで行えるのに対し、引例2では組換えが相同的組換えとその後の染色体内組換えとの2回起こるため、スクリーニングも2回行う(それぞれ正の選択遺伝子(nptII遺伝子配など)および負の選択遺伝子(hprt遺伝子やtk遺伝子など)により)必要がある点で相違している。

しかしながら、(主張1)については、請求人は、「相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」が、本願優先日当時に周知の技術であったわけではないと主張するが、審査官が例挙した各引用例に対して主張する内容は、「挿入遺伝子とは別に選択マーカー遺伝子が存在する場合において、相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」が本願優先日当時に周知の技術であったわけではないということや、「1工程における相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」が、本願優先日当時に周知の技術であったわけではないということに過ぎず、「相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」は、引用例2の記載事項(b)及び(m)に明記されているほか、本願優先日当時に周知の技術であったことには変わりはない。

そして、(2-2)で述べたようにもともとマーカー遺伝子とは、目的遺伝子が導入されたかどうかを間接的に確認するために目的遺伝子とつないで使用するものであり、当業者の通常の創作能力とは、そのようなマーカー遺伝子の本来の目的を参酌して発揮される範囲に基づいて判断されるものであり、当業者が通常の創作能力をもって参酌する技術的範囲は、請求人の主張するような特定の個々の技術的範囲のみに制限されるわけではないのであって、「相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入すること」が、相同組換えのための置換ベクターにマーカー遺伝子を挿入することが、本願優先日当時に周知の技術であることを考慮すれば、引用例2の図3に記載された発明に接した当業者であれば、目的遺伝子が導入されたかどうかを間接的に確認するために、ヒト遺伝子及びその両端に相同配列を含むDNA構築物にDNA構築物とは別に導入されるマーカー遺伝子をつないで使用しようとすることには、格段の困難性があるということはできない。
よって、請求人の主張1を採用することはできない。

また、(主張2)に係る効果については、目的遺伝子が導入されたかどうかを間接的に確認するために目的遺伝子とつないで使用するマーカー遺伝子の通常の使用方法に伴って派生するものでしかなく、当業者が予想しうる範囲内のことであって、格別なこととすることはできない。
よって、請求人の主張2を採用することはできない。

また、(主張3)に係る効果の根拠として請求人が示す発明は、引用例2の図4に係る発明であって、引用例2の図3を含め記載事項(a),(c)?(j),(n),(p),(r),(s)に記載された発明及び本願優先日前の周知技術から本願発明1が容易に想到しえないとの主張の根拠とすることはできない。
よって、請求人の主張3を採用することはできない。


以上のとおりであるから、請求人のこれらの(主張1)乃至(主張3)はいずれも採用することができない。

(5)結論

したがって、本願発明1は、当業者が引用例2に記載された技術的事項並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-30 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-23 
出願番号 特願平6-505919
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 上條 肇
鵜飼 健
発明の名称 内生の選択しうる残余配列を有しない遺伝子のターゲティング置換  
代理人 田村 恭生  
代理人 青山 葆  

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