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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1194500
審判番号 不服2007-28495  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-18 
確定日 2009-03-18 
事件の表示 特願2004-340526「積層型電子写真感光体および画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月15日出願公開、特開2006-153953〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年11月25日の出願であって、平成19年7月24日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月3日付けで明細書に係る手続補正がなされたが、同年9月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
なお、本願発明には、「一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物」と記載されているが、記載された一般式(1)には、スチルベン構造を有するものを包含するものの、式中A?Dのすべてが、アリール基以外の構成も採りうる、n、mは、0でない場合を含む等、スチルベン構造を必須としていないので、単に、アミノスチリル構造を有するだけの一般式(1)で表される化合物を、「アミンスチルベン化合物」と総称するのは、適切ではないものの、ここでは、一般式(1)で表される化合物を、「一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物」としたものとして解釈するものとする。

「基体上に、電荷発生剤を含有する電荷発生層と、正孔輸送剤および結着樹脂を含有する電荷輸送層と、を備えた積層型電子写真感光体であって、
前記正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物を含むことを特徴とする積層型電子写真感光体。
【化1】

(一般式(1)中、A?DおよびR^(1)?R^(14)は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数6?20の置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のアミノ基、あるいは、R^(1)?R^(14)のうち隣り合ういずれか二つが結合又は縮合して形成した炭素環構造であり、繰り返し数a?dはそれぞれ独立した0?4の整数であり、繰り返し数m、nはそれぞれ独立した0?2の整数である。ただし、R^(2)、R^(6)、R^(9)及びR^(13)が、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基、あるいは炭素数1?6の置換または非置換のアルコキシ基である。)」

2.引用刊行物記載の発明
(1)刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1として引用された特開平9-244278号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。)

(1a)「【請求項1】 導電性支持体上に、下記一般式〔1〕
【化1】

(一般式〔1〕中、R_(1) 、R_(2) 、R_(3) 、R_(4 )、R_(5) 、および、R_(6) は、それぞれ、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換アミノ基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;k、l、m、n、o、および、pは、それぞれ、0ないし4の整数を表わし、2以上の整数の場合に、複数存在するR_(1 )?R_(6 )のそれぞれは、同一でも異なっていてもよく;一般式〔1〕中、X_(1) は、下記一般式〔2〕を表わし;
【化2】
-(-CR_(7)=CR_(8) )_(i)-CR_(9)=CR_(10)R_(11) [2]
X_(2) は、下記一般式〔2′〕を表わし;
【化3】
-(-CR_(12)=CR_(13))_(h)-CR_(14)=CR_(15)R_(16) [2’]
(一般式〔2〕、〔2′〕中、iは1または2の整数を表わし;hは0ないし2の整数を表わし:R_(7 )、R_(8) 、R_(9) 、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、及びR_(16)は、それぞれ、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよい複素環基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;もしくはR_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は縮合して、炭素環基または、複素環基を形成していてもよく、ただしR_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は、どちらか一方が水素原子またはアルキル基のときは、もう一方はアリール基、又は、複素環基であり;i=2の場合、それぞれのR_(7 )とR_(8 )は同一でも異なっていてもよく;h=2の場合、それぞれのR_(15)とR_(16)は同一でも異なっていてもよい。)で示される基を表わし、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で表わされるアリールアミン系化合物を含有する感光層を有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 感光層が、電荷輸送材料と電荷発生材料を含み、電荷輸送材料として前記一般式〔I〕のアリールアミン系化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
・・・」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【請求項4】 感光層が、電荷発生材料を含む電荷発生層と、電荷輸送材料を含む電荷輸送層を有し、該電荷輸送層が前記一般式〔I〕のアリールアミン系化合物を含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】 電荷輸送層が前記一般式〔I〕のアリールアミン系化合物とバインダー樹脂を含み、電荷発生層が電荷発生材料とバインダー樹脂を含むことを特徴とする請求項2?4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。」(【特許請求の範囲】)

(1c)「【0007】本発明は上述の問題点を解決するためになされたものでありその目的の第1は、高感度および高耐久性の電子写真用感光体を提供することにある。
目的の第2は、高感度であって、膜厚を厚くした場合においても残留電位が充分低く、繰り返し使用しても特性の変動が少なく、かつ耐久性に非常に優れた電子写真用感光体を提供することにある。
目的の第3は、800nm前後の長波長においても高感度でかつ帯電性、暗減衰、残留電位等が良好なバランスの取れた電子写真用感光体を提供することにある。
目的の第4は、応答性の良い、キャリヤー移動度の速い感光体を提供することにある。」

(1d)「前記一般式〔1〕中、R_(1) 、R_(2) 、R_(3) 、R_(4 )、R_(5) 、および、R_(6) は、それぞれ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子、などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル、イソプロピル基等のアルキル基; メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、ピレニル基等のアリール基;ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基等のジアリールアミノ基、ジベンジルアミノ基等のジアラルキルアミノ基、ジピリジルアミノ基等のジ複素環アミノ基、ジアリルアミノ基、又、上記のアミノ基の置換基を組み合わせたジ置換アミノ基等の置換アミノ基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;特に、メチル基、フェニル基が好ましい。・・・。また、k、l、m、n、o、pはそれぞれ0ないし4の整数を表わし、0または1の数が好ましい。・・・」(【0014】)

(1e)「・・・以下に、一般式〔1〕で表わされる、アリールアミン系化合物についてその代表例を挙げるが、これら代表例は例示の為にしめされるのであって本発明に用いるアリールアミン系化合物はこれら代表例に限定されるものではない。」(【0017】)

(1f)「

」(【0026】【化18】)

(1g)「

」(【0029】【化21】)

(1h)「

」(【0030】【化22】)

(1i)「

」(【0032】【化24】)

(1j)「本発明においては、上記一般式〔1〕で表わされる、アリールアミン系化合物を電荷発生層と電荷輸送層(電荷移動層)の2層からなる感光層の電荷輸送層中に用いる場合に、特に感度が高く、残留電位が小さく、かつ、繰り返し使用した場合に、表面電位の変動や感度の低下、残留電位の蓄積等が少なく、耐久性に優れた感光体を得ることができる。 具体的には通常、電荷発生材料を直接蒸着あるいはバインダー樹脂との分散液として塗布して電荷発生層を作成し、その上に、前記アリールアミン化合物を含む有機溶剤溶液をキャストするか、あるいは前記アリールアミン系化合物をバインダー樹脂等とともに溶解し、その分散液を塗布することにより、前記一般式〔1〕で表わされるアリールアミン系化合物を含む電荷輸送材料を含有する電荷輸送層を作成してなる積層型感光体であるが、電荷発生層と電荷輸送層の積層順序は逆の構成でも良い。・・・」(【0043】)

(1k)「積層型感光層の場合の電荷輸送層に使用されるバインダー樹脂、あるいは分散型感光層の場合のマトリックスとして使用されるバインダー樹脂としては、電荷輸送材料との相溶性が良く、塗膜形成後に電荷輸送材料が結晶化したり、相分離することのないポリマーが好ましく、例えば、・・・の各種ポリマーが挙げられ、またこれらの部分的架橋硬化物も使用できる。・・・」(【0059】)

(1l)「【実施例】
つぎに、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の製造例、実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とあるは「重量部」を示す。
(製造例)
・・・この化合物は・・・、前記化合物No.38の構造式で表わされるアリールアミン系化合物であることが判明した。
・・・
(実施例1)
・・・、乾燥して電荷発生層を形成させた。
この上に製造例で製造したアリールアミン系化合物70部と下記に示すポリカーボネート樹脂・・・を・・・混合溶媒に溶解した塗布液を塗布、乾燥し、・・・電荷輸送層を形成させた。
このようにして得た2層からなる感光層を有する電子写真感光体によって感度、すなわち半減露光量を測定したところ0.46μJ/cm^(2)であった。
半減露光量はまず、感光体を暗所で50μAのコロナ電流により負帯電させ、次いで20ルックスの白色光を干渉フィルターに通して得られた780nmの光(露光エネルギー10μW/cm^(2) )で露光し、表面電位が-450Vから-225Vまで減衰するのに要する露光量を測定することにより求めた。さらに露光時間を9.9秒とした時の表面電位を残留電位とした測定したところ、-2Vであった。この操作を2000回繰り返したが、残留電位の上昇はみられなかった。」(【0063】-【0071】)

(1m)「【発明の効果】本発明の電子写真感光体は感度が非常に高く、かつ、かぶりの原因となる残留電位が小さく、とくに光疲労が少ないために繰返し使用による残留電位の蓄積や、表面電位および感度の変動が小さく耐久性に優れるという特徴を有する。」(【0099】)

上記の事項から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)

「導電性支持体上に、電荷発生材料を含む電荷発生層と、電荷輸送材料とバインダー樹脂を含む電荷輸送層を有する積層型感光体である電子写真感光体であって、電荷輸送層が、電荷輸送材料として、下記一般式[I]で表されるアリールアミン系化合物を含有する積層型感光体。
【化1】

(一般式〔1〕中、R_(1) 、R_(2) 、R_(3) 、R_(4 )、R_(5) 、および、R_(6) は、それぞれ、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換アミノ基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;k、l、m、n、o、および、pは、それぞれ、0ないし4の整数を表わし、2以上の整数の場合に、複数存在するR_(1 )?R_(6 )のそれぞれは、同一でも異なっていてもよく;一般式〔1〕中、X_(1) は、下記一般式〔2〕を表わし;
【化2】
-(-CR_(7)=CR_(8) )_(i)-CR_(9)=CR_(10)R_(11) [2]
X_(2) は、下記一般式〔2′〕を表わし;
【化3】
-(-CR_(12)=CR_(13))_(h)-CR_(14)=CR_(15)R_(16) [2’]
(一般式〔2〕、〔2′〕中、iは1または2の整数を表わし;hは0ないし2の整数を表わし:R_(7 )、R_(8) 、R_(9) 、R_(10)、R_(11)、R_(12)、R_(13)、R_(14)、R_(15)、及びR_(16)は、それぞれ、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基または置換基を有してもよいアリール基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく、R_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は、どちらか一方が置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基であって;i=2の場合、それぞれのR_(7 )とR_(8 )は同一でも異なっていてもよく;h=2の場合、それぞれのR_(15)とR_(16)は同一でも異なっていてもよい。)で示される基を表わし、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で表わされるアリールアミン系化合物を含有する感光層を有することを特徴とする電子写真感光体であって、一般式[1]としては、

のような化合物が挙げられる電子写真感光体。」


(2)刊行物2
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6として引用された特開2002-62676号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】導電性基体上に、有機感光層と、無機の表面保護層をこの順に積層した電子写真感光体であって、上記有機感光層の、少なくとも表面保護層に接する最表面部が、式(1):
【化1】

〔式中、R^(1)?R^(6)は、同一または異なって水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基または置換基を有してもよいアリール基を示し、a?dは同一または異なって1?5の整数を示す。eおよびfは、同一または異なって1?4の整数を示す。〕で表されるベンジジン誘導体を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】(略)
【請求項3】(略)
【請求項4】(略)
【請求項5】有機感光層が、電荷発生剤を含有する電荷発生層と、結着樹脂中に、正孔輸送剤としての式(1)で表されるベンジジン誘導体を含有する電荷輸送層とをこの順に積層した積層型感光層であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項6】ベンジジン誘導体の式(1)中、R^(1)およびR^(3)は同一または異なってアルキル基、アルコシキ基またはハロゲン基を示し、R^(2)およびR^(4)は同一または異なって炭素数3?5のアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示し、R^(5)およびR^(6)は同一または異なって水素原子、アルキル基を示し、aおよびcは同一または異なって2または3の整数を示すことを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。」(特許請求の範囲)

(2b)「【0039】しかもベンジジン誘導体は、正孔輸送剤の中では比較的分子量が大きい上、7個のベンゼン環が平面状に拡がった分子構造を有しており、分子的、空間的な広がりも大きく、しかも結着樹脂との相溶性、親和性にも優れているため、結着樹脂に対して良好なアンカー効果を示す。」

(2c)「【0043】このため上記ベンジジン誘導体が、前記のように結着樹脂との相溶性に優れており、有機感光層中に、凝集等を生じることなく均一に、しかも多量に分散できることと相まって、本発明の電子写真感光体は、感度特性にも優れたものとなる。」

(2d)「【0052】以上に述べた基の組合せの内、R^(1)およびR^(3)が同一または異なってアルキル基、アルコシキ基またはハロゲン基を示し、R^(2)およびR^(4)が同一または異なって炭素数3?5のアルキル基または置換基を有してもよいアリール基を示し、R^(5)およびR^(6)が同一または異なって水素原子、アルキル基を示し、aおよびcが同一または異なって2または3の整数を示すものは樹脂への溶解性が高く、感度などの電気特性の点で優れている。
【0053】このようなベンジジン誘導体の具体例としては、これに限定されないが例えば下記式(1-1)?(1-21)で表される化合物等が挙げられる。」

(2e)「

」(【0057】)


上記の事項から、刊行物2には、以下の技術事項が開示されていると認められる。

・結着樹脂中に、正孔輸送剤として上記式(I)(式は省略;上記記載事項(2a)参照。)で表されるベンジジン誘導体を含有する電荷輸送層を積層した積層型感光層を有する電子写真感光体であって、該ベンジジン誘導体が、結着樹脂との相溶性に優れており、有機感光層中に、凝集等を生じることのなく均一に、しかも多量に分散できることと相まって、感度特性に優れた電子写真感光体を提供すること、特に、R^(1)およびR^(3)がアルキル基またはアルコキシ基であり、aおよびcは2または3の整数を示すものは、樹脂への溶解性が高く、感度などの電気特性の点で優れており、このような例として、式(I-8)(式は省略;上記記載事項(2e)参照。)のような化合物が挙げられること。

3.対比
本願発明と刊行物1発明とを比較すると、
刊行物1発明の「導電性支持体」、「電荷発生材料」、「バインダー樹脂」および「積層型感光体」は、それぞれ、本願発明の、「基体」、「電荷発生剤」、「結着樹脂」および「積層型電子写真感光体」に相当する。
そして、刊行物1発明の「電荷輸送材料」は、一般式[I]で表されるアリールアミン系化合物を用いるから、その構造から、「正孔輸送剤」であるといえる。
また、刊行物1発明の「一般式[I]で表されるアリールアミン系化合物」と、本願発明の「一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物」とは、次の(a)から(e)により、共通する構造を有するものである。
(a)前者が、X_(1)、X_(2) の置換位置が特定されておらず、X_(1)、X_(2) を表す、一般式[2]、[2’]において、 R_(7 )、R_(8) 、R_(9) 、R_(12)、R_(13)およびR_(14)は、水素に特定されていないが、記載事項(1f)?(1i)に示した、例示化合物は、アミン構造に対しパラ位であり、R_(7 )、R_(8) 、R_(9) 、R_(12)、R_(13)およびR_(14)、相当部分はすべて水素であるから、実質的に本願発明と同じく、パラ位であり、置換基のないエテニル基部分を包含するものと認められる。
(b)また、前者の、X_(1)、X_(2) の、R_(10)、R_(11)、R_(15)およびR_(16)は、「それぞれ、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換基を有してもよい複素環基を表わし、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;もしくはR_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は縮合して、炭素環基または、複素環基を形成していてもよく、ただしR_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は、どちらか一方が水素原子またはアルキル基のときは、もう一方はアリール基、又は、複素環基」であるが、記載事項(1g)?(1i)に示した例示化合物のように、R_(10)とR_(11)からなる対、又はR_(15)とR_(16)からなる対は、どちらか一方が水素原子、もう一方は置換基を有してもよいフェニル基であるから、本願発明の具体的化合物(HTM-1、HTM-2)の採る置換基と同じである。
(c)前者は、R_(1) 、R_(2) 、R_(3) 、R_(4 )、R_(5) 、および、R_(6) は、それぞれ、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、又は、置換アミノ基を表し、これらは互いに同一でも異なっていてもよく;k、l、m、n、o、および、pは、それぞれ、0ないし4の整数を表わし、2以上の整数の場合に、複数存在するR_(1 )?R_(6 )のそれぞれは、同一でも異なっていてもよいとあり、本願発明のような炭素数の限定はないが、具体的に、水素以外の置換基として、メチル基、メトキシ基等を有しており、上記記載事項(1d)からみて、前者のm、nに関する数値以外の点では、後者の「R^(1)?R^(14)」の定義、「それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数6?20の置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のアミノ基」であり、「繰り返し数a?dはそれぞれ独立した0?4の整数」であることと、と実質的に差異はない。
(d)前者のn、mは、記載事項(1d)に、「0または1の数が好ましい」との記載はあるものの、2ないし4の数値を採ることは、記載事項(1f)?(1i)の化合物の構造からみて明らかである。
(e)前者のiは1または2の整数を表し、hは0ないし2の整数であり、後者が、m、nは独立した0?2の整数とは、mは1?2、nは0?2の場合において、一致する。

したがって、両者は、
「基体上に、電荷発生剤を含有する電荷発生層と、正孔輸送剤および結着樹脂を含有する電荷輸送層と、を備えた積層型電子写真感光体であって、
前記正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物を含む積層型電子写真感光体。

(一般式(1)中、A?Dは、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、炭素数1?20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数6?20の置換又は非置換のアリール基であり、AとB、CとDのうち、すくなくとも一方はアリール基であり、R^(1)?R^(14)は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1?20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のハロゲン化アルキル基、炭素数1?20の置換又は非置換のアルコキシ基、炭素数6?20の置換又は非置換のアリール基、置換又は非置換のアミノ基であり、繰り返し数b?dはそれぞれ独立した0?4の整数であり、繰り返し数m、nは一方が1?2の整数、他方が0?4の整数である。ただし、R^(2)およびR^(6)、R^(9)及びR^(13)のうち、すくなくとも一方が、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基である。)」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]本願発明が、上記一般式(1)における、R^(2)、R^(6)、R^(9)及びR^(13)が、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基、あるいは炭素数1?6の置換または非置換のアルコキシ基であるものに限定しているのに対し、刊行物1発明においては、R^(2)またはR^(6)、R^(9)またはR^(13)のいずれかが、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基であるものは記載されているものの、もう一方は具体的には水素であるものしか記載されておらず、一般式(1)における、R^(2)、R^(6)、R^(9)及びR^(13)が、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基、あるいは炭素数1?6の置換または非置換のアルコキシ基であるものを選択的に記載していない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
刊行物1発明は、一般式(1)で表される化合物において、R^(2)とR^(6)、R^(9)とR^(13) に相当する部位がすべて「炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基、あるいは炭素数1?6の置換または非置換のアルコキシ基」であるものは記載されていない。
しかしながら、例えば、上記記載事項(1f)の化合物23のように、エテニルの置換基がアリール基ではなくチオフェンではあるが、R^(2)、R^(6)、R^(9)及びR^(13) 相当部分がすべてメチル基の化合物が記載されている。
また、刊行物2にあるように、エテニル基は有さないがその他の構造は共通する正孔輸送剤において、R^(2)とR^(6)、R^(9)とR^(13) に相当する部位が、それぞれ、メチル基、エチル基の組み合わせのもの自体は知られている。
そして、刊行物2には、置換基を2以上有することにより、特に、結着樹脂に対する溶解性に優れる作用効果も記載されており、それに基づき、刊行物1においても、結着樹脂に対する相溶性が向上する作用効果を予測し得ることである。
よって、刊行物1発明において、アミンに連なる「エテニル基を有さないフェニル基」において、メチル基等の置換基をアミンに対する一方のオルト位だけではなく、もう一方のオルト位にも有するものを用いることに格別な困難性は認められない。
そして、刊行物1発明は、すでに、R^(2)とR^(6)、R^(9)とR^(13) の一方に相当する部位がメチル基、すなわち、炭素数1?6の置換又は非置換のアルキル基であることは記載されているから、ある程度の立体障害を生じる作用効果を有するものである。
本願明細書において、刊行物1発明において、R^(2)とR^(6)、R^(9)とR^(13) の両方ともに炭素数1?6の置換または非置換のアルキル基または炭素数1?6の置換または非置換のアルコキシ基を有する化合物を選択したことによる格別顕著な作用効果も認められない。

5.請求人の主張および本願発明が奏する効果について
請求人は、平成19年10月18日付け審判請求書において、下記のように主張している。
「本願発明における目的は、一般に優れた正孔輸送能を有し、電子写真感光体の感度の向上に対して効果的に寄与することが知られているアミンスチルベン化合物が有する特有の問題点を解決することにあります。
すなわち、本願発明は、アミンスチルベン化合物が一般に優れた正孔輸送能を有する一方で、結着樹脂等との相溶性が低下したり、結晶化しやすくなったりする場合があり、その結果、感光層中における分散性が低下し、特に耐久時の電気特性が低下しやすいという問題を見出しております。
したがって、本願発明は、かかる問題を見出した上で、特定の箇所に特定の置換基を有した一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物であれば、かかる結着樹脂等との相溶性や結晶化等の問題を解決できるという、当業者であっても予測できない効果を得ております。
一方、引用文献1?10においては、アミンスチルベン化合物が有する結着樹脂等との相溶性や結晶化等の問題について何ら記載も示唆もなされておりません。」
「それどころか、本願発明の背景技術においては、引用文献1が、特許文献2として挙げられており、上述した結着樹脂への相溶性等の効果が不十分である旨が指摘されております。
すなわち、本願発明の段落0015には、引用文献1のアミン化合物は、出願時の一般式(1)に含まれない範囲を有しており、そのような範囲では、「結着樹脂への相溶性が乏しく、感光層中に均一に分散されにくくなり、かかるアミン化合物を積層型電子写真感光体の電荷輸送層に用いると、繰り返し使用した場合に感度特性が維持できないという問題が見られた」旨が記載されております。
したがって、当然ながら、本願発明とは構成が全く異なる引用文献1?10が、一般式(1)中の置換基R^(2)、R^(6)、R^(9)及びR^(13)において所定の置換基を有するアミンスチルベン化合物、すなわち、一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物が有する予測できない効果について、何ら見出し得ないことは明白であります。
よって、引用文献1?10は、本願発明が有する予測できない効果を発揮することができないため、このような引用文献1?10に基づいて、本願発明の進歩性を否定できないことは明白であります。」

(選択的作用効果について)
本願発明は、アミンスチルベン化合物[本願発明においては、アミノスチリル構造(>N-Ph-C=C-;Phはフェニレン)を有する化合物]の問題点の解消、すなわち、選択発明を主張しているものである。
たしかに、請求人の主張どおり、引用文献1(当審決の刊行物1)のアミン化合物について、本願明細書段落0015に、問題が見られたとは記載されている。しかしながら、その点について、次のように具体的に示されているとは到底認められない。
本願明細書の、実施例1?6、比較例1、2の記載は、特定の電荷発生層との組合わせにおいて、正孔輸送剤HTM-1、HTM-2を用いたものが、アミノスチリル構造(>N-Ph-C=C-;Phはフェニレン)を有さない、HTM-3、HTM-4を用いたものに比べて顕著な作用効果を有することは示したが、HTM-3、HTM-4は、ともに、アミノスチリル構造を有さない化合物である。
そして、「結着樹脂への相溶性」は、無論、「結着樹脂」にも依存する性質であるが、本願では、「Z型ポリカーボネート(帝人化成製のパンテライトTS2020)」を用いた例が示されているのみである。
さらに、感光体の電気的な諸性質は、電荷発生層との組合せで発現するものであるのに対し、本願では、比較対照があるのは、チタニルフタロシアニン(Y型)とポリビニルブチラールを用いた特定の電荷発生層との組合せのみである。
そして、実施例5、6に、その他の、電荷発生剤を用いた例は記載されているものの、これらには比較対照もなく、上記特定の電荷発生層と同様な作用効果を有する例でもなく、本願発明の選択的作用効果を補足するものではない。
なお、本願明細書段落0064にも、「電荷発生剤の種類を特定することにより、感度特性、電気特性および安定性等がより優れた積層型感光体を提供することができる」と記載されており、本願発明の主張する作用効果は、特定の電荷発生層との組合せにも基づくことが明らかである。
そして、最後に、本願発明の正孔輸送剤HTM-1、HTM-2は、特定の類似構造であり、すなわち、ともに、前者が、m=m=0、後者が、m=m=1である点を除いては、ともに、R^(2)、およびR^(6)、R^(9)およびR^(13)がメチル基およびエチル基の組合せである等の同様の構成のもののみが例示されているにすぎない。
さらに、特許法第36条第4項に対する抗弁としてではあるが、請求人は、審判請求書において、「当業者の立場からは、実施例を含めた明細書の記載内容により、一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物であれば、具体的に開示されているHTM-1及び2と同様の効果を得ることができることは自明で」ある旨を主張しているが、出願当初明細書では、本願発明の置換基の位置や種類にかかわらず、「立体障害により正孔輸送剤の平面性が低下し、より効率的に結晶化を防ぐ」、「結着樹脂との相溶性がさらに優れ、感光層中で均一に分散されるため、長時間にわたって感度特性に優れるという効果を提供することができる」との作用効果は、「R^(2)?R^(6)、のうち少なくとも二つ及び/又はR^(9)?R^(13) うち少なくとも二つは、水素原子以外の前記置換基」である、刊行物1に開示された構成にて有する作用効果であることが記載されていたものである。
したがって、本願明細書において、「かかる問題を見出した上で、特定の箇所に特定の置換基を有した一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物であれば、かかる結着樹脂等との相溶性や結晶化等の問題を解決できるという、当業者であっても予測できない効果」は、平成19年9月3日付けの意見書、上記審判請求書の主張を勘案しても、やはり示されていない。

(刊行物1に記載された目的)
また、請求人は、「一方、引用文献1?10においては、アミンスチルベン化合物が有する結着樹脂等との相溶性や結晶化等の問題について何ら記載も示唆もなされておりません。
例えば、引用文献1の目的は、高感度な電子写真感光体を得ることであります。そして、かかる目的を達成すべく、電荷輸送剤として所定のアリールアミン系化合物を使用することを特徴としております。」と述べている。
ここで、引用文献1は、当審決の刊行物1であるが、上記記載事項(1c)に「目的の第1は、高感度および高耐久性の電子写真用感光体を提供、・・・目的の第2は、高感度であって、膜厚を厚くした場合においても残留電位が充分低く、繰り返し使用しても特性の変動が少なく、かつ耐久性に非常に優れた電子写真用感光体を提供することにある」、記載事項(1l)に、「・・・この操作を2000回繰り返したが、残留電位の上昇はみられなかった。」、記載事項(1m)に、「感度が非常に高く、かつ、かぶりの原因となる残留電位が小さく、とくに光疲労が少ないために繰返し使用による残留電位の蓄積や、表面電位および感度の変動が小さく耐久性に優れるという特徴を有する。」等が記載されており、本願明細書に示された目的、効果に共通するものである。
そして、感光体を実用化するにあたり、繰り返し特性は当然の要求事項である。
その目的、効果を達成するための、「結着樹脂等との相溶性や結晶化等の問題」については着目した点は、上記記載事項(1k)に「・・・バインダー樹脂としては、電荷輸送材料との相溶性が良く、塗膜形成後に電荷輸送材料が結晶化したり、相分離することのないポリマーが好ましく、」と記載されているように、結着樹脂との相溶性および結晶化の問題は、電荷輸送層の設計の際に、当然考慮されるべき事項である。

(刊行物1および刊行物2発明について)
請求人は、「これらの引用文献6?7及び9に記載の化合物は、一般式(1)とは基本的な骨格が異なることから、主に引用文献1?5に記載されている一般式(1)と基本的な骨格が共通する化合物に対して組み合わせて、一般式(1)で表されるアミンスチルベン化合物を構成できないものと思量いたします。
逆に、基本的な骨格が異なる引用文献同士を、無理やり結びつける動機付けをご教示願いたいと思量いたします。」
とも主張している。
ここで、引用文献6、すなわち、当審決における刊行物2は、上述したように、エテニル基は有さないものも、その骨格は共通している。
そして、刊行物2は、引用文献同士を結びつける訳ではなく、刊行物1(原査定の引用文献1)には記載されていない置換基の組合せが、特別な構成ではないことを示す例示であり、結晶化への作用効果の予測性を示すための文献に過ぎない。
また、刊行物2の化合物はエテニル構造を有さないものの、これを以て基本的な骨格が異なるとの請求人の主張によれば、本願明細書における比較例は、エテニル構造も、アミノ基に隣接する2つの置換基をも有さないものであることからみて、請求人の主張は、本願明細書において、基本的な骨格が異なるものとの比較しか為されていないことを示しており、選択的作用効果を示すに至ってない。

上記のように、従来技術に対する、本願発明による格別な選択的作用効果は認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-21 
結審通知日 2009-01-22 
審決日 2009-02-03 
出願番号 特願2004-340526(P2004-340526)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 伊藤 裕美
木村 史郎
発明の名称 積層型電子写真感光体および画像形成装置  
代理人 江森 健二  
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