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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1194836
審判番号 不服2006-14882  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-11 
確定日 2009-03-26 
事件の表示 特願2000-339559「プリント配線板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月24日出願公開、特開2002-151818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
出願 :平成12年11月 7日
拒絶理由通知 :平成18年 2月27日付け
意見書提出 :平成18年 5月 8日付け
手続補正 :平成18年 5月 8日付け
拒絶査定 :平成18年 6月 9日付け
審判請求 :平成18年 7月11日
手続補正(明細書) :平成18年 8月 9日付け
手続補正(請求の理由) :平成18年 9月20日付け
前置報告 :平成18年11月15日付け
審尋 :平成20年 4月28日付け
回答書提出 :平成20年 6月27日付け
拒絶理由通知(最後) :平成20年 9月25日付け
意見書提出 :平成20年11月27日付け

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1、2に係る発明は、平成18年8月9日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する第1工程と、
少なくとも該スルーホールの内表面に導体層を形成する第2工程と、
該スルーホールに該スルーホールの基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に各々突出部が形成されるように充填材を充填する第3工程と、
充填された該充填材を95℃?130℃で加熱仮硬化する第4工程と、
該基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に突出する該充填材からなる硬化体の突出部を研磨する第5工程と、
該充填材を140℃?170℃で完全硬化する第6工程と、
該スルーホール充填部の表面を粗化する第7工程と、
該スルーホール充填部及び該導体層の表面に第1導電層を形成する第8工程と、
該基板表面及び該第1導電層の表面を絶縁性樹脂で被覆して層間絶縁層を形成する第9工程と、
該第1導電層の上部にバイアホールを形成する第10工程と、
該バイアホールの表面に第2導電層を形成する第11工程と、を備えるプリント配線板の製造方法であって、
上記スルーホール充填部を構成する充填材は、平均粒径が4?10μmの絶縁性無機フィラー、エポキシ樹脂及びそのイミダゾール系硬化剤を含み、且つ金属フィラー及び樹脂フィラーを含まず、更に、
上記スルーホール充填部の表面のうち、少なくとも第1導電層が形成される面は、10点表面平均粗度Rzが6.0μm以上の粗化面であることを特徴とするプリント配線板の製造方法。」

2.引用例及びその記載事項並びに引用発明
(1)これに対して、当審における、平成20年9月25日付けで通知した拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-244127号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図6?図11とともに次の事項が記載されている。

〔1a〕「【発明の属する技術分野】
本発明は、配線基板および配線基板の製造方法に関し、例えば、樹脂絶縁層を挟んで形成される複数の配線用の導体層と、樹脂絶縁層を貫通し複数の配線用の導体層を互いに導通するビア導体とを有する配線基板およびその製造方法に関する。」(【0001】)

〔1b〕「次に、この配線基板20の製造方法について、図8?図11を参照しつつ、説明する。
まず、厚み800μmのビスマレイミド-トリアジン樹脂製のコア基板21の両面に銅箔が貼付けられた両面銅張り基板を用意し、ドリルによりスルーホール22を穿孔した後、スルーホール22の内周面および両面の銅箔上に無電解および電解銅メッキを施し、外側スルーホール導体23を含むメッキ層24を形成する(図8(a)参照)。なお、メッキ層24の表面は、第二銅錯体と有機酸とを含有する粗化エッチング液を用い、市販のエッチング処理装置(メック社製 CZ処理装置)により0.1?10μmの最大粗度(Rmax)となるように表面処理しておく。
・・・
ビアホール28を現像により形成した後、レーザを照射してスルーホール27を形成する。スルーホール7はスルーホール2のほぼ中心軸に沿って穿孔されており、外側樹脂充填体5はスルーホール導体3の内周面にほぼ均一の厚みで残存している。
・・・
次に、スルーホール27の内周面、樹脂絶縁層26a、26bの上面、およびビアホール28の内部に無電解および電解銅メッキを施し、スルーホール導体30およびビア導体29を含むメッキ層31を形成する。
・・・
各スルーホール7に対応した孔埋め用の開口32hが複数形成されたステンレス製の印刷マスク32(厚さ100μm)を用意する。そして、図9(b)に示すように、樹脂充填工程において、配線基板の上に印刷マスク32を載置し、その上から樹脂ペースト33pを印刷し、スルーホール27を孔埋め充填する。なお、樹脂ペースト33pとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂に無機フィラー(銅またはシリカ)とイミダゾール系硬化剤を添加して混練し、22?23℃における粘度が500Pa・S以上となるように調製されたものを用いる。
・・・
樹脂充填工程の後、メタルマスク32を剥がすと、スルーホール27に樹脂ペースト33pが、その一部がメッキ層31の表面から突出するように充填されている。次に、樹脂硬化工程において、配線基板を120℃にて20分間加熱して、樹脂ペースト33pを半硬化させる。樹脂ペースト33pは、この加熱時に、一旦流動化して配線基板の表面に沿って濡れ拡がろうとする。しかし、本実施形態では、ビアホール28が予めビア導体29により充填されているため、ビアホール8内に樹脂ペースト33pが流れ込んで、スルーホール内での樹脂ペースト33pの不足を引き起こすことがない。また、ビアホール28に流れ込んだ樹脂ペースト33pに含まれるボイドがクラック等の不具合を引き起こすことがない。
・・・
樹脂ペースト33pを半硬化させた後、配線基板の表面および裏面をベルトサンダー(粗研磨)を用いて研磨した後、バフ研磨(仕上げ研磨)して平坦化する。次いで、半硬化された樹脂ペースト33pを、150℃にて20分間加熱して硬化させ、樹脂充填体33を形成し、樹脂ペーストの硬化工程を完了する(図10(a)参照)。
・・・
次に、配線基板の表面および裏面に無電解および電解銅メッキを施し、メッキ層34を形成する(図10(b)参照)。その後、メッキ層31およびメッキ層34のうち、不要部分をエッチングにより除去する。この際、樹脂充填体33の上には蓋導体層35が形成され、また、ビア導体29の上方にもメッキ層31およびメッキ層34の一部が残され、導体層34a、34bが形成される(図11(a)参照)。蓋導体層35を形成することで、後工程において樹脂充填体33の軸線上にビア導体39pが形成可能となる。なお蓋導体層35および導体層34a、34bの表面は、その表面を第二銅錯体と有機酸とを含有する粗化エッチング液を用いることにより0.1?10μmの最大粗度(Rmax)となるように表面処理しておくとよい。
・・・
その後、表面および裏面にさらに樹脂絶縁層36a、36bを形成する。ビアホール28はビア導体29により充填され、また、スルーホール27は樹脂充填体33により充填され、且つ蓋導体層35で被覆されているので、樹脂絶縁層36a、36bはその表面にうねりがほとんどなく平坦に形成できる。したがって、後工程でのビアホール形成工程を位置精度よく行うことができる。
・・・
次に、ビアホール28と同様の方法により露光・現像によりビアホール38を形成する。次に、上記した樹脂エッチング工程および導体層エッチング工程を経た後、無電解および電解銅メッキにより、ビア導体39を含むメッキ層を形成する。次いで、メッキ層の不要部分をエッチング除去し、ビア導体39v、39pを含むビア導体39、およびを導体層44を形成する。
・・・
ここで、ビア導体39vは、下層のビア導体29の直上に形成され、導体層34a、34bとその表面の凹部34eで接続している。また、ビア導体39pは、スルーホール導体30の軸線上に形成され、蓋導体層35とその表面の凹部35eで接続している。このようにビア導体39pとスルーホール導体30とを配線基板の厚さ方向の一直線上に配した構造とすることにより、配線のさらなる高密度化が可能となる。
・・・ハンダバンプ41を形成して、配線基板20の製造を完了する(図6、図7参照)。」(【0046】?【0061】)

〔1c〕「上記実施形態では、説明を省略したが、導体層(配線層、スルーホール導体など)および樹脂絶縁層(樹脂充填体などを含む)等の表面は所望の化学処理等により適度に粗化し、隣接す導体層る他の導体層または樹脂絶縁層との密着強度を高めることができる。」(【0069】)

(2)引用文献1の摘記事項〔1a〕?〔1c〕及び図6?図11の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「コア基板とその表面側および裏面側に形成された樹脂絶縁層を含む配線基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する工程と、該スルーホールの内周面、樹脂絶縁層の上面に無電解および電解銅メッキを施し、スルーホール導体を含むメッキ層を形成する工程と、一部が前記メッキ層の表面から突出するようにスルーホールに樹脂ペーストを充填する樹脂充填工程と、配線基板を120℃にて20分間加熱して、前記樹脂ペーストを半硬化させる樹脂硬化工程と、樹脂ペーストを半硬化させた後、配線基板の表面および裏面をベルトサンダー(粗研磨)を用いて研磨した後、バフ研磨(仕上げ研磨)して平坦化する工程と、半硬化された樹脂ペーストを150℃にて20分間加熱して硬化させ、樹脂充填体を形成し、樹脂ペーストの硬化工程を完了する工程と、前記樹脂充填体およびこれに隣接する前記メッキ層の一部の上に蓋導体層を形成する工程と、その後、表面および裏面にさらに樹脂絶縁層を形成する工程と、露光・現像によりビアホールを形成する工程と、無電解および電解銅メッキによりメッキ層を形成し、次いで、該メッキ層の不要部分をエッチング除去することによって、前記スルーホール導体の軸線上に形成され前記蓋導体と接続しているビア導体を形成する工程と、を備える配線基板の製造方法であって、前記樹脂ペーストは、ビスフェノール型エポキシ樹脂に銅またはシリカの無機フィラーとイミダゾール系硬化剤を添加して混練し、22?23℃における粘度が500Pa・S以上となるように調製されたものを用いた配線基板の製造方法。」

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用文献1発明とを対比する。
(ア)引用文献1発明の「配線基板」は、本願発明の「基板」乃至「プリント配線板」に相当し、以下同様に、引用文献1発明の「スルーホール」、「スルーホールの内周面」、「スルーホール導体を含むメッキ層」、「樹脂ペースト」、「蓋導体層」、蓋導体層の表面および裏面にさらに形成される「樹脂絶縁層」、「ビアホール」及び「ビア導体」は、本願発明の「スルーホール」、「スルーホールの内周面」、「導体層」、「充填材」、「第1導電層」、「層間絶縁層」、「バイアホール」及び「第2導電層」に相当する。
(イ)引用文献1発明の「コア基板とその表面側および裏面側に形成された樹脂絶縁層を含む配線基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する工程」は、本願発明の「基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する第1工程」に相当する。
(ウ)引用文献1発明の「スルーホールの内周面、樹脂絶縁層の上面に無電解および電解銅メッキを施し、スルーホール導体を含むメッキ層を形成する工程」は、本願発明の「少なくともスルーホールの内表面に導体層を形成する第2工程」に相当する。
(エ)引用文献1発明の「樹脂充填工程」において、樹脂ペーストの一部がメッキ層の表面から突出するようにした点は、本願発明の「第3工程」において、「スルーホールに該スルーホールの基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に各々突出部が形成されるように充填材を充填する」点に相当する。
(オ)引用文献1発明の「樹脂硬化工程」における「樹脂ペーストを半硬化させる」点は、本願発明1の「加熱仮硬化」に相当するので、引用文献1発明の「樹脂硬化工程」と本願発明の「第4工程」とは、加熱仮硬化を「120℃」で行う点で一致している。
(カ)引用文献1発明の「樹脂ペーストを半硬化させた後、配線基板の表面および裏面をベルトサンダー(粗研磨)を用いて研磨した後、バフ研磨(仕上げ研磨)して平坦化する工程」は、本願発明の「基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に突出する充填材からなる硬化体の突出部を研磨する第5工程」に相当する。
(キ)引用文献1発明の「樹脂ペーストの硬化工程を完了する工程」は、前記樹脂ペーストを完全硬化する工程であることから、本願発明の「完全硬化する第6工程」に相当し、しかも、「150℃」で完全硬化する点で一致している。
(ク)引用文献1発明の「樹脂充填体およびこれに隣接する前記メッキ層の一部の上に蓋導体層を形成する工程」は、本願発明の「スルーホール充填部及び導体層の表面に第1導電層を形成する第8工程」に相当する。
(ケ)引用文献1発明の「表面および裏面にさらに樹脂絶縁層を形成する工程」は、本願発明の「基板表面及び第1導電層の表面を絶縁性樹脂で被覆して層間絶縁層を形成する第9工程」に相当する。
(コ)引用文献1発明の「露光・現像によりビアホールを形成する工程」及び「無電解および電解銅メッキによりメッキ層を形成し、次いで、該メッキ層の不要部分をエッチング除去することによって、前記スルーホール導体の軸線上に形成され前記蓋導体と接続しているビア導体を形成する工程」は、本願発明の「第1導電層の上部にバイアホールを形成する第10工程」及び「バイアホールの表面に第2導電層を形成する第11工程」に相当する。
(サ)引用文献1発明の「ビスフェノール型エポキシ樹脂に銅またはシリカの無機フィラーとイミダゾール系硬化剤を添加して混練し、22?23℃における粘度が500Pa・S以上となるように調製された」樹脂ペーストと、本願発明の「充填材」とは、無機フィラー、エポキシ樹脂及びそのイミダゾール系硬化材を含み、樹脂フィラーを含まない点で一致している。

してみると、本願発明と引用文献1発明とは、次の点で一致する。

<一致点>
「基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する第1工程と、少なくとも該スルーホールの内表面に導体層を形成する第2工程と、該スルーホールに該スルーホールの基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に各々突出部が形成されるように充填材を充填する第3工程と、充填された充填材を120℃で加熱仮硬化する第4工程と、該基板表面及び基板裏面の導体層よりも基板外部側に突出する該充填材からなる硬化体の突出部を研磨する第5工程と、該充填材を150℃で完全硬化する第6工程と、スルーホール充填部及び前記導体層の表面に第1導電層を形成する第8工程と、前記基板表面及び該第1導電層の表面を絶縁性樹脂で被覆して層間絶縁層を形成する第9工程と、該第1導電層の上部にバイアホールを形成する第10工程と、該バイアホールの表面に第2導電層を形成する第11工程と、を備えるプリント配線板の製造方法であって、上記スルーホール充填部を構成する充填材は、無機フィラー、エポキシ樹脂及びそのイミダゾール系硬化剤を含み、且つ樹脂フィラーを含まない、プリント配線板の製造方法。」

一方で、本願発明と引用文献1発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
充填材を加熱仮硬化する温度が、本願発明では、「95℃?130℃」であるのに対して、引用文献1発明では、「120℃」である点

<相違点2>
充填材を完全硬化する温度が、本願発明では、「140℃?170℃」であるのに対して、引用文献1発明では、「150℃」である点

<相違点3>
本願発明は、その充填材が平均粒径が4?10μmの絶縁性無機フィラーを含み、且つ金属フィラーを含まないものであり、しかも、スルーホール充填部の表面を粗化する第7工程を備えており、該スルーホール充填部の表面のうち、少なくとも第1導電層が形成される面は、10点表面平均粗度Rzが6.0μm以上の粗化面であるのに対して、引用文献1発明は、その充填材が銅またはシリカの無機フィラーを含む一方で本願発明のようなスルーホール充填部の表面を粗化する工程を備えていない点

そこで、これらの相違点について検討する。

<相違点1、2について>
充填材が加熱仮硬化(半硬化)したり、完全に硬化する温度は、当該充填材を構成する材料やその配合割合によって多少異なるものとなることは明らかであるし、特段の阻害事由も見当たらないので、引用文献1発明において加熱仮硬化温度として採用された「120℃」及び完全硬化温度として採用された「150℃」を、それぞれこれらの温度を含む「95℃?130℃」、「140℃?170℃」の範囲まで拡張することは、当業者が適宜なし得たことである。

<相違点3について>
まず、引用文献1には、前記充填材を構成する無機フィラーとして、「銅またはシリカ」の選択肢が明示されているから、この内のシリカを選択することにより、前記充填材を「絶縁性無機フィラーを含み、且つ金属フィラーを含まない」ものとすることに格別の困難性は認められない。
また、引用文献1の摘記事項〔1c〕には、導体層(配線層、スルーホール導体など)および樹脂絶縁層(樹脂充填体などを含む)等の表面を所望の化学処理などにより適度に粗化し、隣接する導体層他の導体層または樹脂絶縁層との密着強度を高めることができるとの示唆があることに鑑みると、引用文献1発明における「スルーホール充填部」に対して、その「第1導電層」が形成される面を粗化する工程を設けることによって、前記スルーホール充填部と第1導電層との密着強度の向上を図ることも、当業者が容易に想到し得たことといえる。
そして、本願発明が、無機フィラーであるシリカの粒径として、「4?10μm」のものを採用し、前記スルーホール充填部の表面のうち、少なくとも第1導電層が形成される面を「10点表面平均粗度Rzが6.0μm以上の粗化面」としている点については、4?10μmの粒径のシリカが、以下の周知例1?3に記載されるように、無機フィラーとして通常用いられているものにすぎないことや、引用文献1発明に上記スルーホール充填部の表面の粗化工程を付加するに際して、所定の粗度を確保するために表面粗度の下限値を設定することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことであること、さらに、本願発明が、無機フィラーとしてのシリカの粒径を「4?10μm」に限定し、スルーホール充填部の表面のうち、少なくとも第1導電層が形成される面の10点表面平均粗度Rzを「6.0μm以上」と限定することにより奏される効果も、本願明細書の記載を前提とする限り、密着強度の向上との観点からして、引用文献1発明に比して格別顕著なものとはいえないことを考慮すれば、引用文献1発明の「スルーホール充填部」の表面を粗化する工程を設けるに際して、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

周知例1:特開昭63-108793号公報
〔周1a〕「1).少なくとも・・・(a)基板の表面に無機質微粒子を含む合成樹脂を塗布して接着層を形成する工程・・・
5).前記無機質微粒子は平均粒形5μm以下のSiO_(2)を主として含有するものである・・・記載の方法。」(第1頁左欄第5行?同頁右欄第10行)

周知例2:特開平11-181250号公報
〔周2a〕「【請求項1】プリント配線板のスルーホールに充填して用いられるスルーホール充填用ペーストにおいて、該ペーストは、金属フィラー、無機フィラー、並びにエポキシ樹脂及び硬化剤により構成されるエポキシ樹脂組成物からなり、該エポキシ樹脂組成物を100重量部とした場合に、上記エポキシ樹脂は90?99.5重量部、上記硬化剤は0.5?10重量部、上記金属フィラーは100?1000重量部、及び上記無機フィラーは10?900重量部であって、且つ上記ペーストの25℃における粘度が20000ポイズ以下であり、穴埋め工程における加熱による上記ペーストの揮発分が1.0%以下であって、上記穴埋め工程における加熱によって生成する第1硬化体をはんだリフロー工程において加熱し、冷却することにより生成する第2硬化体の、上記スルーホールの長さ方向における収縮率が0.1%以下であることを特徴とするスルーホール充填用ペースト。
・・・
【請求項3】上記無機フィラーの平均粒径が0.1?10μmである請求項1又は2記載のスルーホール充填用ペースト。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項3】)

〔周2b〕「上記「無機フィラー」としては、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化鉄、電解鉄粉、スレート粉及びタルク等、エポキシ樹脂の充填剤として用いられているものを特に限定されることなく含有させることができる。これらの無機フィラーのうち、熱膨張率の小さいシリカがより好ましい。また、スルーホール用充填剤の粘度の上昇を抑えつつ、より多量の無機フィラーを含有させるためには、第5発明のように、球状シリカ等、「球状」の無機フィラーが特に好ましい。
・・・
これら無機フィラーの平均粒径は、第3発明のように「0.1?10μm」であることが好ましい。この平均粒径が0.1μm未満では、ペーストの粘度が上昇して充填の作業性が低下する。一方、この平均粒径が10μmを越える場合は、第1硬化体と銅メッキ層との剥離を生じ、銅メッキ層に膨れを生ずることがある。
・・・
無機フィラーの平均粒径は特に0.5?10μm、更には1?5μmの範囲が好ましい。また、無機フィラーの含有量は特に10?500重量部の範囲が好ましい。無機フィラーの平均粒径及び含有量がこの範囲であれば、第1硬化体と銅メッキ層との剥離強度はより高くなり、且つペーストをスルーホールへ充填する際の作業性が十分に向上する。」(【0016】?【0018】)

周知例3:特開2000-294890号公報
〔周3a〕「本発明は、スルーホール充填用ペースト並びにそれを用いたプリント配線板及びその製造方法に関する。」(【0001】)

〔周3b〕「上記「スルーホール充填用ペースト」は、スルーホールに充填され、硬化され生成する硬化体によりスルーホール内を埋めることのできるペーストである。このペーストは熱硬化性樹脂及び硬化剤を含有する。この熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、・・・等を使用することができる。」(【0015】)

〔周3c〕「本発明のペーストの硬化による収縮を更に低減させるために、また、同時に熱膨張率を基板を構成する素材に近づけるために各種のフィラーを添加することができる。このようなフィラーとしてはシリカ、アルミナ等からなる無機フィラー、銅、ニッケル、鉄等からなる金属フィラー及びこれらの混合物等を使用することができる。これらのフィラーの材質等は、ペーストを硬化させた後の硬化体の熱安定性、耐湿性及び機械的強度等を考慮して選択することが好ましい。
・・・
また、フィラーの粒径は、ペーストの粘度及びペーストを硬化させた後の硬化体の機械的強度等を考慮して選択することが好ましく、通常0.1?20μm(より好ましくは0.1?10μm)であるものを使用することができる。このフィラーの粒径が20μmを超えるとフィラーと樹脂との界面で割れが発生することがあり好ましくなく、0.1μm未満であると取り扱いにくく好ましくない。」(【0021】?【0022】)

したがって、本願発明は、引用文献1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成20年11月27日付けの意見書において、要するに以下の3点を主張している。

<主張1>
「本願発明は、0.5?16.6μmまでの平均粒径と5.3?7.0μmまでの表面平均粗度との詳細な検討を行った結果、「蓋めっき層との密着強度が格別顕著に向上される範囲」である平均粒径4?10μm且つ表面平均粗度6.0μm以上の範囲が選択したものです。
下記図に示すように、平均粒径4?10μm且つ表面平均粗度6.0μm以上の範囲では、密着強度が0.57?0.7kgf/cmと高い値を示します。特に平均粒径4.1μmで密着強度0.7kgf/cmのピークを示し、且つこのときの表面平均粗度は7.0μmのピークを示すという、極めて特異な作用が発揮されています。本発明ではこの特定範囲の平均粒径と特定範囲の表面平均粗度とを組み合わせることにより優れた密着性が実現されています。このような格別顕著な効果が得られているにも関わらず、「密着強度の向上との観点からして、格別顕著なものとはいえない」とのご指摘には到底承伏致しかねます。」(上記意見書の「3.<1>」参照)

<主張2>
「引用文献1には、『絶縁性無機フィラーの平均粒径を「4?10μm」とする』旨の記載及び示唆はなく、また、この選択による「TH充填体表面の蓋めっき層の密着性向上」という効果についても記載も示唆もありません。
更に、引用文献2発明は、基板表面に塗布する合成樹脂に関する発明であり、スルーホール充填剤とも蓋めっき層とも何ら関係なく、引用文献3発明は、金属フィラーを必須成分とするものであり、金属フィラーによる蓋めっき層との親和性を利用した密着向上効果が得られるものであるのに対して、本願発明では金属フィラーを含有させずに蓋めっき層との十分な密着強度を得るという着眼点において全く異なるものであり、引用文献4発明は、蓋めっき層に関する記載も示唆もなく、蓋めっき層との密着性に関する記載も示唆もありません。即ち、引用文献2?4発明における「4?10μm」を選択は、着眼、目的及び作用効果においていずれも本願発明と全く異なっています。
そして、これら全く異なる着眼、目的及び作用効果を有する各発明の明細書にたまたま記載された一般的な数値範囲を、上記引用文献1に記載の発明に適用することによって「TH充填体表面の蓋めっき層の密着性向上」という効果(後述するようにこの効果は格別顕著な効果です)が得られることを当業者が容易になし得ようはずもありません。前記ご判断は、発明がなされた後で、先行技術をいくつか組み合わせることで当業者が容易に発明に到達し得たことを認定する、いわゆる後知恵であり、事後的な解析の結果、進歩性なしと認定する手法であり、許容されるものではないものと思料します。」(上記意見書の「3.<1>」参照)

<主張3>
「本願発明は、(ア)基板の表面と裏面を貫通するスルーホールを形成する第1工程と、・・・を備えるプリント配線板の製造方法であって、(シ)上記スルーホール充填部を構成する充填材は、平均粒径が4?10μmの絶縁性無機フィラー、エポキシ樹脂及びそのイミダゾール系硬化剤を含み、且つ金属フィラー及び樹脂フィラーを含まず、更に、(ス)上記スルーホール充填部の表面のうち、少なくとも第1導電層が形成される面は、10点表面平均粗度Rzが6.0μm以上の粗化面であること、の全ての構成の独自の組合せを特徴としています。
しかし、いずれの引用文献にも、この組合せが蓋めっき層との密着性に優れたプリント配線板に適しているとの記載も示唆も全くありません。従って、上記(ア)-(ス)の全ての組合せにより、スルーホール充填部とスルーホール充填部表面上に形成される導体層(蓋めっき層)との密着性に優れるプリント配線板が得られることを当業者が認識できる筈もありません。」(上記意見書の「3.<1>」参照)

しかしながら、これらの主張は、以下の理由により、いずれも採用することができない。

<主張1について>
引用文献1発明に対して、その「スルーホール充填部」の表面を適度に粗化する工程を設けることで「密着強度を高める」との効果を奏することは、引用文献1の摘記事項〔1c〕に示唆されている。
また、充填材の表面を適度に粗化するために、該充填材に含まれる無機フィラーの粒径及びこれらを反映した表面粗度を好適な範囲に調整することは、通常行われることである(上記周知例2の摘記事項〔周2b〕等参照)。
以上を前提として、本願発明の効果について検討するに、本願明細書の表1及び図1には、充填材に含まれる無機フィラーとしてのシリカの平均粒径を4.1μmとしたときに、該充填材表面の10点表面平均粗度が7.0μm、その上に形成される銅メッキ膜との密着強度が0.70kgf/cmとなり、上記平均粒径を7.1μmとしたときに、上記10点表面平均粗度が6.5μm、上記密着強度が0.65kgf/cmとなることが示されているものの、同じく本願明細書の表1及び図1には、上記平均粒径を1.0μmとしたときの上記10点表面平均粗度及び密着強度がそれぞれ5.8μm及び0.50kgf/cmであり、上記平均粒径を10.8μmとしたときの上記10点表面平均粗度及び密着強度がそれぞれ6.0μm及び0.55kgf/cmであることが示されていることも考え合わせると、これらの記載からは、充填材に含まれる無機フィラーとしてのシリカの平均粒径を「4?10μm」と数値限定することや、上記10点表面平均粗度を「6.0μm以上」と数値限定することが、密着強度の向上の観点から好適な範囲の粒径及び粗度を選択したものであるとはいえるものの、それ以上の臨界的な意義までは認められない。
よって、本願発明の効果は、密着強度を高める点において、引用文献1発明の効果に比べて際だって優れたものでもなく、本願出願当時の技術水準に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別顕著なものではない。
よって、上記主張1は、採用することができない。

<主張2について>
確かに、引用文献1には、スルーホールを孔埋め充填する樹脂ペースト中の無機フィラーの平均粒径について明記はされていないが、上記樹脂ペーストの表面を適度に粗化して隣接する導体層との密着強度を高めることが示唆されていること(上記摘記事項〔1c〕参照)からすると、上記無機フィラーの平均粒径の選択に当たっては、上記密着強度を低下させないように配慮することは当然に求められることである。
一方、4?10μmの粒径のシリカが、無機フィラーとして通常用いられているものにすぎないことは、上述のとおりであり、加えて、このような4?10μmの粒径のシリカからなる無機フィラーを引用文献1発明に適用することについて、密着強度の低下を招く等特段の阻害事由も見当たらない。さらに、4?10μmの粒径のシリカからなる無機フィラーを引用文献1発明に適用することによる効果も、上記「<主張1について>」で検討したように、格別顕著なものではない。
してみると、引用文献1発明に「4?10μmの粒径のシリカからなる無機フィラー」を適用することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないと認められるので、「前記ご判断は、発明がなされた後で、先行技術をいくつか組み合わせることで当業者が容易に発明に到達し得たことを認定する、いわゆる後知恵であり、事後的な解析の結果、進歩性なしと認定する手法であり、許容されるものではない」との主張は、失当なものといわざるをえない。

<主張3について>
引用文献1の摘記事項〔1c〕の記載及び上記「<主張1について>」及び「<主張2について>」の検討の結果からすると、本願発明の各構成の組合せが「蓋めっき層との密着性に優れたプリント配線板に適している」ことは、引用文献1の記載から十分示唆されているといえるので、上記主張3は、採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用文献1発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-21 
結審通知日 2009-01-27 
審決日 2009-02-09 
出願番号 特願2000-339559(P2000-339559)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒石 孝志中村 一雄  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 市川 裕司
粟野 正明
発明の名称 プリント配線板の製造方法  
代理人 小島 清路  

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