• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1195112
審判番号 不服2005-18436  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2009-04-02 
事件の表示 特願2001-326792「ソフトウェアデバッガ、システムレベルデバッガ、デバッグ方法、及びデバッグプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開、特開2003-131902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年10月24日の出願であって、
平成17年1月20日付けで最初の拒絶理由通知がなされ、
平成17年3月28日付けで意見書が提出されるとともに、
同日付けで手続補正がなされ、
同年8月15日付けで拒絶査定がなされ、
同年9月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、
同年10月24日付けで手続補正がなされ、
平成20年8月18日付けで、上記平成17年10月24日付けの手続補正に対する補正却下の決定がなされるとともに、同日付けで最初の拒絶理由通知がなされ、
同年10月20日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。
なお、平成20年10月31日付けで審尋を行い、
これに対して、同年12月26日付けで回答書が提出されている。

2.本願発明
本願の請求項1、2、13に係る発明は、それぞれ、上記平成20年10月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2、13記載の通りの以下のものと認められる。
「【請求項1】
ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをするハードウェアシミュレータに接続可能なソフトウェアデバッガであって、該ソフトウェアデバッガが、
前記ハードウェアシミュレータから、前記シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するシミュレーション情報獲得手段と、
前記サイクルレベル実行情報に基づいて前記プログラムのデバッグ時の1ステップ実行の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で1ステップ実行を行うことによりデバッグするデバッグ処理手段
とを有することを特徴とするソフトウェアデバッガ。」
「【請求項2】
ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをするハードウェアシミュレータに接続可能で、かつシミュレーション情報獲得手段及びデバッグ処理手段を有するソフトウェアデバッガを用いるデバッグ方法において、
前記シミュレーション情報獲得手段が、前記ハードウェアシミュレータから、前記シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するステップと、
前記デバッグ処理手段が、前記サイクルレベル実行情報に基づいて前記プログラムのデバッグ時の1ステップ実行の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で1ステップ実行を行うことによりデバッグするステップ
とを備えることを特徴とするデバッグ方法。」
「【請求項13】
ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをするハードウェアシミュレータに接続可能で、かつシミュレーション情報獲得手段及びデバッグ処理手段を有するソフトウェアデバッガに、
ハードウェアシミュレータから、前記シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得する手順と、
前記サイクルレベル実行情報に基づいて前記プログラムのデバッグ時の1ステップ実行の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で1ステップ実行を行うことによりデバッグする手順
とを実行させるためのデバッグプログラム。」


3.引用文献
本願出願日前に発行された刊行物であり、当審において通知した上記平成20年8月18日付けの拒絶理由通知で引用した文献には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

(1)特開平01-195551号公報
(平成元年8月7日出願公開。以下「引用文献1」と記す。)
(1-1)「プログラムの実行で得られたトレース情報に所定の表示ランクを設定して格納する共にプログラム実行過程の所定ステップでトレース情報の表示処理を要求するトレース情報表示呼出部(10)と;
前記トレース情報に付された表示ランクを比較判別する基準値としての表示制御フラグ(FL)を初期設定するコマンド入力部(12)と;
前記トレース情報表示呼出部(10)から表示要求を受けた時に、前記トレース情報の表示ランクと前記コマンド入力部(12)で設定した表示制御フラグ(FL)とを比較し、表示制御フラグ(FL)の設定値以上の表示ランクをもつトレース情報のみを表示する表示制御部(14)と;
を備えたことを特徴とするトレース情報表示方式。」(特許請求の範囲第1項)

(1-2)「前記コマンド入力部(12)は、適宜の表示ランクに対応した表示制御フラグ(FL)の初期設定機能に加えて、前記表示制御部(14)による表示処理の途中で表示制御フラグ(FL)の設定変更を可能とするコマンド入力モードの設定機能を備え、
前記表示制御部(14)は、前記表示制御フラグ(FL)からコマンド入力モードを判別した時に、表示制御フラグ(FL)の設定変更を促すコマンド入力要求を前記コマンド入力部(12)に通知することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のトレース情報表示方式。」(特許請求の範囲第2項)

(1-3)「[従来の技術]
従来のトレース情報表示方式にあっては、プログラム作成時に組み込んだ通過点情報を全て表示させており、トレース情報の表示を見ることで、プログラムが正しく実行されているか否かを確認でき、またエラー発生時にはエラー発生場所を容易に見つけることができる。」(第2頁上右欄第12行?第18行)

(1-4)「[発明の効果]
以上説明してきたように本発明によれば、必要なトレース情報のみを選択的に表示させることができるため、プログラム動作の確認が容易で不要な混乱を防ぐことができる。」(第6頁上右欄第7行?第11行)


(2) 特開平04-112342号公報
(平成4年4月14日出願公開。以下「引用文献2」と記す。)
(2-1)「トレース信号出力時にパイプラインのどのステージの信号かを識別するための情報をトレース信号に付加するステージ情報付加部と、テスト対象命令がパイプラインのどのステージにあるかを判断するステージ判断部と、前記ステージ判断部により判断されたパイプラインステージに該当する付加情報のついたトレース信号のみを抽出する信号抽出部とを備えたことを特徴とするトレース信号抽出装置。」(特許請求の範囲第2項)

(2-2)「産業上の利用分野
本発明は パイプライン制御方式を採る情報処理装置を開発する場合に前記情報処理装置の検証を行うためのトレース信号抽出装置に関するものである。」(第1頁上左欄第3行?第7行)

(2-3)「第9図は本発明の第2の実施例におけるマイクロプログラムトレース信号抽出装置の構成図である。第9図において100はテスト対象となるパイプライン制御方式をとる情報処理装置のシミュレータ、101はシミュレータ100が逐次出力するトレース信号にどのパイプラインステージの信号かを識別するための情報を付加するステージ情報付加部、102はシミュレータ100によって順次出力される付加情報のついたトレース信号を蓄積してクロックごとのファイルとして出力する信号入力部」(第4頁下左欄第16行?下右欄第6行)

(2-4)「シミュレータ内部にステージ情報付加部101を設ける。ステージ情報付加部101は信号トレース時にその信号かどのパイプラインステージの出力した信号かを識別するための情報をトレース信号に付加する(第10図111)。4段のパイプラインの場合、トレース信号に2ビツトの拡張子を付加すれば、パイプラインの第1ステージから第4ステージまでがそれぞれ2進数の00、01、10、11で表現できる。PCIF,AはIFステージの信号なので、拡張子00を付加する。同様に、PCD1,Bは01を、PCD2,Cは10を、PCEX,Dは11を付加する(第11図参照)。
これら拡張子のついたトレース信号はシミュレータ100から逐次出力される。信号入力部102は,この信号を蓄積してクロックごとに1つのファイルにまとめてステージ判断部104に出力する(第10図112、第12図参照)。」(第5頁上左欄第1行?第18行)


(3) 特開2001-34504号公報
(平成13年2月9日出願公開。以下「引用文献3」と記す。)
(3-1)「【請求項1】 パイプライン制御方式を用いたコンピュータ用のソースプログラムをデバッグするためのソースレベルデバッガにおいて、
上記ソースプログラムの実行を一時停止又は終了した際に、パイプライン中の命令の未処理ステージを解析し、パイプラインの内部状態に関する情報を取得する未処理命令解析手段と、
上記未処理命令解析手段により得られたパイプラインの内部状態に関する情報を所定の形式で表示する表示手段とを備えたことを特徴とするソースレベルデバッガ。」

(3-2)「【請求項18】 パイプライン制御方式を用いたコンピュータ用のソースプログラムをデバッグするためのソースレベルデバッガにおいて、
上記ソースプログラムをサイクル(クロック)単位で実行するサイクルステップ実行手段と、
対話形式でユーザに上記サイクルステップ実行手段の起動を可能とすべく所定の表示画面を表示する表示手段とを備えたことを特徴とするソースレベルデバッガ。」

(3-3)「【0009】さらに、従来のソースレベルデバッガはステップ実行等によって命令単位でソースプログラムを実行してデバッグを行えるが、サイクル(クロック)単位でソースプログラムをステップ実行しブレークポイントを設定することができず、実システムのクロックレベルでのデバッグを行えないという課題があった。」

(3-4)「【0074】以上のように、この実施の形態5によれば、ソースレベルデバッガ1はソースプログラムをサイクル単位で実行できるので、サイクル単位でのデバッグが可能となる効果がある。さらに、ソースレベルデバッガ1はソースプログラムが一時停止又は終了した時点で完全に処理が終了していない命令を他の命令と区別して表示することができるので、ユーザは完全に処理が終了していない命令を容易に知ることが可能となる。」


4.引用発明の認定

引用文献1記載のものは、上記3.(1-1)記載の如く「プログラムの実行で得られたトレース情報に所定の表示ランクを設定して格納すると共にプログラム実行過程の所定ステップでトレース情報の表示処理を要求するトレース情報表示呼出部と; 前記トレース情報に付された表示ランクを比較判別する基準値としての表示制御フラグを初期設定するコマンド入力部と;前記トレース情報表示呼出部から表示要求を受けた時に、前記トレース情報の表示ランクと前記コマンド入力部で設定した表示制御フラグとを比較し、表示制御フラグの設定値以上の表示ランクをもつトレース情報のみを表示する表示制御部と; を備え」た「トレース情報表示方式」である。(なお引用文献1には「表示ランクを設定して格納する共に」との記載があるが、これは「表示ランクを設定して格納すると共に」の誤記と認められる。)
さらに、引用文献1記載のものは、上記3.(1-2)記載の如く、
「前記コマンド入力部は、適宜の表示ランクに対応した表示制御フラグの初期設定機能に加えて、前記表示制御部による表示処理の途中で表示制御フラグの設定変更を可能とするコマンド入力モードの設定機能を備え、
前記表示制御部は、前記表示制御フラグからコマンド入力モードを判別した時に、表示制御フラグの設定変更を促すコマンド入力要求を前記コマンド入力部に通知する」ものである。
そして、引用文献1記載の「トレース情報表示方式」とは上記3.(1-3)(1-4)記載の如く「プログラム動作の確認」を行うためのものである。

<引用発明>
してみると、引用文献1には
「プログラム動作の確認のためのトレース情報表示方式であって、

プログラムの実行で得られたトレース情報に所定の表示ランクを設定して格納する共にプログラム実行過程の所定ステップでトレース情報の表示処理を要求するトレース情報表示呼出部と;
前記トレース情報に付された表示ランクを比較判別する基準値としての表示制御フラグを初期設定するコマンド入力部と;前記トレース情報表示呼出部から表示要求を受けた時に、前記トレース情報の表示ランクと前記コマンド入力部で設定した表示制御フラグとを比較し、表示制御フラグの設定値以上の表示ランクをもつトレース情報のみを表示する表示制御部と;
を備え、

前記コマンド入力部は、適宜の表示ランクに対応した表示制御フラグの初期設定機能に加えて、前記表示制御部による表示処理の途中で表示制御フラグの設定変更を可能とするコマンド入力モードの設定機能を備え、
前記表示制御部は、前記表示制御フラグからコマンド入力モードを判別した時に、表示制御フラグの設定変更を促すコマンド入力要求を前記コマンド入力部に通知する
トレース情報表示方式」
の発明(以下「引用発明」と記す。)


5.対比
(1) 本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」と記す。)と引用発明とを比較すると、
引用発明は「プログラム動作の確認のためのトレース情報表示方式」であるから、本願発明と同様に「ソフトウェアデバッガ」と言えるものである。

(2)引用発明における「トレース情報」は「プログラムの実行で得られた」ものであるから、「トレース情報」を獲得する手段を有していることは明らかであり、また、本願発明の「サイクルレベル実行情報」は「プログラムの実行のシミュレーション」「の結果得られる」ものであるから、「プログラムの実行で得られる情報」と言えるものである。従って、引用発明と本願発明とは「プログラムの実行で得られる情報を獲得する情報獲得手段」を有する点で共通すると言える。

(3)引用発明は「プログラムの実行で得られたトレース情報に所定の表示ランクを設定して格納すると共にプログラム実行過程の所定ステップでトレース情報の表示処理を要求するトレース情報表示呼出部と;
前記トレース情報に付された表示ランクを比較判別する基準値としての表示制御フラグを初期設定するコマンド入力部と;前記トレース情報表示呼出部から表示要求を受けた時に、前記トレース情報の表示ランクと前記コマンド入力部で設定した表示制御フラグとを比較し、表示制御フラグの設定値以上の表示ランクをもつトレース情報のみを表示する表示制御部と;
を備え、」
しかも
「前記コマンド入力部は、適宜の表示ランクに対応した表示制御フラグの初期設定機能に加えて、前記表示制御部による表示処理の途中で表示制御フラグの設定変更を可能とするコマンド入力モードの設定機能を備え、
前記表示制御部は、前記表示制御フラグからコマンド入力モードを判別した時に、表示制御フラグの設定変更を促すコマンド入力要求を前記コマンド入力部に通知する」
ものであるところ、
当該「表示制御フラグの設定変更」は、これによって表示の処理幅が変更されるものであることは明らかであるから、表示の処理幅の設定とも言えるものである。
一方、本願発明における「1ステップ実行」とは、上記平成20年12月26日付け回答書において説明される通り「取得した実行情報のレジスタ値などの表示を1ステップずつ切換え表示やスクロール表示をすることを意味する」ものであり「設定された処理幅(ステップ幅)でターゲットプログラムを実行したり、ハードウェアシミュレータがステップ実行するということではない」ものと解され、本願発明における「1ステップ実行」は「表示」の一態様に他ならないものである。
してみると、引用発明と本願発明とは「前記情報に基づいて前記プログラムのデバッグ時の表示の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で表示を行うことによりデバッグするデバッグ処理手段」を有している点でも共通する。


<一致点>
よって、本願発明と引用発明とは
「プログラムの実行で得られる情報を獲得する情報獲得手段と、
前記情報に基づいて前記プログラムのデバッグ時の表示の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で表示を行うことによりデバッグするデバッグ処理手段、
とを有するソフトウェアデバッガ。」
である点で一致する。

<相違点>
しかして、本願発明と引用発明との間には、以下の点で相違が認められる。

・相違点1
本願発明は、「ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをするハードウェアシミュレータに接続可能」で、「前記ハードウェアシミュレータから、前記シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するシミュレーション情報獲得手段」を有し、デバッグ処理手段はこの「サイクルレベル実行情報」に基づいてデバッグするものであるのに対し、引用発明で獲得される「トレース情報」は「ハードウェアシミュレータ」の「シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するシミュレーション情報獲得手段」が獲得した情報では無く、このため引用発明は「ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをするハードウェアシミュレータに接続可能」では無い点、

・相違点2
本願発明は、デバッグ時の「1ステップ実行」すなわち「取得した実行情報のレジスタ値などの表示を1ステップずつ切換え表示やスクロール表示をすること」の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で「1ステップ実行」を行うのに対し、引用発明では「1ステップずつ切換え表示やスクロール表示をすること」は行っていない点、


6.判断
以下に、上記相違点について検討する。

・相違点1について
引用文献2(特に上記3.(2-1)?(2-4)参照)には
「情報処理装置のシミュレータ」「によって順次出力される付加情報のついたトレース信号を蓄積してクロックごとのファイルとして出力する信号入力部」であって、当該「付加情報」とは「その信号かどのパイプラインステージの出力した信号かを識別するための情報」である「信号入力部」、換言すれば、「ハードウェアシステムによるプログラムの実行のシミュレーションをする」「ハードウェアシミュレータ」の「シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するシミュレーション情報獲得手段」が開示されている。
そして、引用文献1記載のものと引用文献2記載のものとは、共に「トレース情報」を用いた情報処理手段の検証を行うものであると言う点で共通の技術分野に属すると言え、引用発明の「トレース情報」に換えて、引用文献2記載の如き「ハードウェアシミュレータ」から得られた「シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得するシミュレーション情報獲得手段」が獲得した「サイクルレベル実行情報」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことと認められる。
また、その際に何らかの形で「ハードウェアシミュレータに接続可能」とすることは、当然に採用される構成に過ぎない。

相違点2について
「1ステップずつ切換え表示やスクロール表示」を行うことは、証拠をあげるまでもなく周知・慣用の表示手法であり、引用発明の表示を「1ステップずつ切換え表示やスクロール表示」とすることは、当業者であれば、適宜に採用し得た設計的事項に過ぎない。

してみると、本願発明の構成は引用文献1、2記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
また、本願発明の効果は、当業者であれば容易に予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。
よって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本願請求項2、13に係る発明は、請求項1に係る発明をそれぞれ「方法」「プログラム」として表現したものに他ならないので、請求項1に係る発明と同様に、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.請求人の主張等について
なお、請求人は、本願発明の進歩性について、平成20年10月20日付けの意見書において、
「ここで、引用文献1でいう「トレース情報」とは、引用文献1の第2頁左上欄12行目及び第13行目に「プログラムの通過点情報を表示するトレース情報表示方式」と記載のようにプログラムの通過点情報を意味し、プログラムの通過点情報は、第2頁右上欄第15行目及び第16行目に「プログラム作成時に組み込んだ通過点情報」と記載のように、プログラム(ソフトウェア)に組み込まれた情報である。これに対して、新たな請求項1、2及び13では、発明特定事項A2,B2,C2で「前記ハードウェアシミュレータから、前記シミュレーションの結果得られるサイクル毎のパイプラインステージ動作の情報をサイクルレベル実行情報として獲得する」とそれぞれ規定するように、サイクルレベル実行情報はハードウェアシミュレータ(ハードウェア)から得るものであって、即ちハードウェアに組み込まれた情報であり、技術分野が全く異なるものである。
又、引用文献2は、第1頁右下欄第5行目及び第6行目に「情報処理装置の検証を行うためのトレース信号抽出装置に関する」と記載のように、情報処理装置(ハードウェア)の検証に関するものである。これに対して、新たな請求項1、2及び13では、発明特定事項A3,B3,C3で「前記プログラムのデバッグ時の1ステップ実行の処理幅を設定して、前記設定した処理幅で1ステップ実行を行うことによりデバッグする」とそれぞれ規定するように、プログラム(ソフトウェア)を検証するものであり、技術分野が全く異なるものである。
よって、引用文献1及び2のいずれも、新たな請求項1、2及び13の技術分野と関連性が全くないものであるので、新たな請求項1、2及び13に対して起因乃至契機(動機付け)となり得るものを見いだすことが出来ない。よって、仮に、引用文献2記載のものに引用文献1記載のものを適用したり、あるいは、引用文献1記載のものに引用文献2記載のものを適用したりすることができたとしても、新たな請求項1、2、13に係る発明をなすことはできない。よって、当業者であっても、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて本願発明に想到し得ないのは明らかであり、特許法第29条第2項の規定には該当しないものと思量する。」
と主張し、また、平成20年12月26日付け回答書において
「4.審判長殿は、『「情報処理装置(ハードウェア)の検証」用の「デバッガ」と「プログラム(ソフトウェア)の検証」用の「デバッガ」との相違点』を説明されたし、とのことである。ご指摘の「情報処理装置(ハードウェア)の検証」用の「デバッガ」と「プログラム(ソフトウェア)の検証」用の「デバッガ」との相違点は、「情報処理装置の検証」用のデバッガは、情報処理装置が正しく動作しているかを確認するためのものであるのに対し、「プログラムの検証」用のデバッガは、情報処理装置に与えられるプログラムが正しく書かれているかを確認するものである点である。「情報処理装置の検証」用のデバッガでは、例えば、レジスタAとレジスタBの値を加算してレジスタCに出力する機能がCPU(情報処理装置)にある場合、CPUがその通りの動作をするか、即ちC=A+Bになるかを検証する。このとき期待に反してC≠A+Bになれば、情報処理装置を直す。一方、「プログラムの検証」用のデバッガでは、例えば、値Aと値Bを加算して値Cを求めるプログラムが正しく書かれているか、即ちC=A+Bとプログラムが書かれているかを確認する。このとき誤ってC=A+Dのようなプログラムが書かれていた場合、プログラムを修正する。このように、「情報処理装置の検証」用の「デバッガ」と「プログラムの検証」用の「デバッガ」とは、用途の相違に基づき明確に機能が相違している。」と説明している。

しかしながら、上述の如く、引用文献1記載のものと引用文献2記載のものとは、共に「トレース情報」を用いた情報処理手段の検証を行うものであると言う点で共通の技術分野に属すると言え、これらの間で技術的手段の転用・適用を試みることは、当業者の通常の創作力の発揮と言えるものである。
さらに、例えば、引用文献3(特に上記3.(3-1)?(3-4))等参照。)において、ソースプログラムをデバッグするためのものであるところのソースレベルデバッガを、パイプラインの内部状態に関する情報の表示やクロックレベルでのデバッグを可能としている事などから見ても、本願出願当時にはソフトウエアの検証とハードウエアの検証とは互いに深く関連する技術分野であったと言え、この点からも、本願出願時には、引用文献1記載の如きソフトウエアの検証に引用文献2記載の如きハードウエアの検証の技術の適用を試みることの十分な動機付けが存在していたと言える。
また、上記回答書の内容を参酌しても、請求人の言う「情報処理装置(ハードウェア)の検証」用の「デバッガ」と「プログラム(ソフトウェア)の検証」用の「デバッガ」との間には、検証すべき誤動作の原因がハードウェアにあるのかソフトウェアにあるのかに相違が認められるものの、技術の転用・適用の阻害要因となり得るような、「デバッガ」自体の機能や構造等の相違を認めることはできない。
してみると、請求人の上記主張を認めることはできない。


8.結び
以上の通りであるから、本願請求項1、2、13に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項の新規性進歩性や他の特許要件についての検討をするまでもなく、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-27 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-16 
出願番号 特願2001-326792(P2001-326792)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
P 1 8・ 536- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂庭 剛史  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 石田 信行
冨吉 伸弥
発明の名称 ソフトウェアデバッガ、システムレベルデバッガ、デバッグ方法、及びデバッグプログラム  
代理人 三好 秀和  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ