ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C |
---|---|
管理番号 | 1195178 |
審判番号 | 不服2007-32943 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-12-06 |
確定日 | 2009-04-02 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第286104号「複層摺動部材ならびにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月22日出願公開、特開平 9-189331〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年10月8日(優先権主張平成7年11月6日)の出願であって、平成19年10月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年12月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年12月27日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 2.本件補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正(平成19年12月27日付け手続補正)を却下する。 [理由] 2-1 補正事項 本件補正は、平成18年12月22日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、 「金属板に一体に接合されたエキスパンドメタルと当該エキスパンドメタルの網目および表面に充填被覆された熱可塑性合成樹脂のすべり層とから成る複層摺動部材において、前記エキスパンドメタルは、その各結合部において金属板との間にクサビ状の係合部を形成して溶接接合により前記金属板に溶着され、前記エキスパンドメタルの各網目は、当該エキスパンドメタルの各辺と前記金属板との間に形成された微小隙間を介して連続し、前記すべり層を構成する熱可塑性合成樹脂が、前記エキスパンドメタルの網目、前記クサビ状の係合部および前記微小隙間に充填され、かつ、前記エキスパンドメタルの表面に被覆されていることを特徴とする複層摺動部材。」を、 「金属板に一体に接合されたエキスパンドメタルと当該エキスパンドメタルの網目および表面に充填被覆された熱可塑性合成樹脂のすべり層とから成る複層摺動部材において、前記エキスパンドメタルは、その各結合部において金属板との間にクサビ状の係合部を形成してシーム溶接により前記金属板に溶着され、前記エキスパンドメタルの各網目は、当該エキスパンドメタルの各辺と前記金属板との間に形成された微小隙間を介して連続し、前記すべり層を構成する熱可塑性合成樹脂が、前記エキスパンドメタルの網目、前記クサビ状の係合部および前記微小隙間に充填され、かつ、前記エキスパンドメタルの表面に被覆されていることを特徴とする複層摺動部材。」とする補正を含んでいる(下線は、対比の便のために当審において付したものである。)。 2-2 補正の目的 上述の補正は、本件補正前の請求項1に記載された「エキスパンドメタル」と「金属板」との「溶接接合」について、願書に最初に添付された明細書の段落【0019】、【0034】等の記載を基に、「シーム溶接」であることをさらに限定して特定したものであって、新規事項の追加にはあたらず、また、これによって発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更がないことも明らかである。 そうすると、本件補正における上述の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する目的に合致する。 2-3 独立特許要件 そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含む本件補正後の本願発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に合致するか)について、以下のとおり検討する。 2-3-1 本件補正後の本願発明 本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、平成18年12月22日付け手続補正及び本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された上述2-1のとおりのものであると認める。 2-3-2 刊行物に記載の発明 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、特許法第29条その他所定の規定の適用について特許法第41条第2項により優先権の主張の基礎とされた先の出願の時にされたものとみなされる本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭57-74153号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭62-184225号公報(以下、「刊行物2」という。)には、それぞれ図面とともに以下の記載がある。 (1)刊行物1 a)「本発明は、例えば樹脂系すべり軸受のような摺動材料の改良に関する。」(第1ページ左欄第19行、第20行参照。) b)「第2図は本発明の摺動材料の断面を示すものであり、裏金(1)の表面には網状体(4)が接着されている。この網状体(4)は、・・・(省略)・・・編み上げたものであり、これらの縦線(5)、横線(6)の材質としては金属質のものや無機質のものが考えられる。」(第2ページ左上欄第8行?第14行) c)「よつて、網状体(4)を接着された裏金(1)に樹脂を含浸し焼成すれば網状体(4)に樹脂が密着した状態で例えば0.13?0.80mmといった厚さの樹脂層(3)が形成される。この樹脂材料としては、PTFE、ポリアセタールあるいはポリイミドに・・・(省略)・・・特殊充填材を加えたものが適当である。」(第2ページ右上欄第18行?左下欄第5行) d)「このようにして形成された本発明の摺動材料は、金属製の網状体(4)があるため熱放散性が良好である・・・(省略)。また、網状体(4)が均一に分布しているため樹脂層(3)との接着性が良好である」(第2ページ左下欄第6行?第14行) e)第2図から、「樹脂層(3)」は、「網状体(4)」の網目及び表面に充填被覆されていることが看取される。 以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という。)。 「裏金(1)に接着された網状体(4)と 、網状体(4)の網目及び表面に充填被覆されたPTFE、ポリアセタール又はポリイミドからなる樹脂層(3)とからなる摺動材料。」 (2)刊行物2 a)「この場合、好ましい態様では、摩擦すべり層を形成するマトリックスが、金属の支持層上に多孔焼結加工又は溶射された青銅製粗面下地上に塗布される。なおこの粗面下地としては、エキスパンドメタルを用いることも出来る。」(第5ページ左上欄第18行?左下欄第2行) b)「第1図に示したすべり軸受用複合材料には、鋼製支持層1と、この支持層上に多孔焼結されて開放細孔容積率35%を有する亜鉛-鉛-青銅製粗面下地2と、粗面下地2上に圧延され、硫化亜鉛粒子20容量%及びガラス繊維20容量%を含むポリテトラフルオロエチレンとから構成されている。」(第6ページ左上欄第8行?第13行) 以上の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」2という。)。 「鋼製支持層1と、この鋼製支持層上1に多孔焼結された青銅製の粗面下地2と、粗面下地2上に圧延されたポリテトラフルオロエチレンとから構成されるすべり軸受用複合材料であって、粗面下地2として多孔焼結された青銅に代えてエキスパンドメタルを用いた、すべり軸受用複合材料。」 2-3-3 対比 (1)一致点 本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「裏金(1)」は、その構造及び材質からみて、本願補正発明における「金属板」に相当する。 また、引用発明1における「網状体(4)」は、「裏金(1)」に接着され樹脂にて被覆されるという構造ないしその機能からみて、「網状体」という点で、本願補正発明における「金属板に一体に接合されたエキスパンドメタル」に一応相当する(ここでは、対比の整理のため両者をひとまず「金属板に一体に接合」された「網状体」という点で一応相当するとしたが具体的な相違及び判断については、後述することとする。)。 さらに、引用発明1における「PTFE、ポリアセタール又はポリイミドからなる樹脂層(3)」は、その材質及び機能からみて、本願補正発明における「充填被覆された熱可塑性合成樹脂のすべり層」に相当するとともに、引用発明1における「摺動材料」は、本願補正発明における「複層摺動部材」に相当する。 そうすると、本願補正発明と引用発明1とは、本願補正発明の表記にならえば次の点で一致する。 「金属板に一体に接合された網状体と当該網状体の網目および表面に充填被覆された熱可塑性合成樹脂のすべり層とから成る複層摺動部材。」 (2)相違点 一方、本願補正発明と引用発明1とは、次の点で相違する。 a)相違点1 本願補正発明では、「金属板」に「エキスパンドメタル」を一体に接合しているのに対し、引用発明1では、「裏金(1)」に「網状体(4)」を接着している点。 b)相違点2 本願補正発明では、「各結合部において金属板との間にクサビ状の係合部を形成してシーム溶接により前記金属板に溶着され、前記エキスパンドメタルの各網目は、当該エキスパンドメタルの各辺と前記金属板との間に形成された微小隙間を介して連続」しているのに対して、引用発明1では、「裏金(1)」と「網状体(4)」とを接着しており、また、その接着箇所や「裏金(1)」と「網状体(4)」との間のクサビ状の係合部の有無、微小隙間の有無についての態様が不明である点。 c)相違点3 本願補正発明では、「熱可塑性合成樹脂が、前記エキスパンドメタルの網目、前記クサビ状の係合部および前記微小隙間に充填され、かつ、前記エキスパンドメタルの表面に被覆されている」のに対して、引用発明1の「PTFE、ポリアセタール又はポリイミドからなる樹脂層(3)」は、「網状体(4)の網目及び表面に充填被覆」されるに止まる点。 2-3-4 相違点の判断 (1)相違点1について 引用発明2は、上述2-3-2(2)のとおり、「鋼製支持層1」上に「エキスパンドメタル」を作用した「すべり軸受用複合材料」であるところ、引用発明1と引用発明2とは、裏金となる金属板上に網状体を設け、樹脂により網状体の網目を含め被覆充填した摺動材料という点で構造ないし技術分野が共通するものである。そうすると、引用発明1における「網状体(4)」に代えて、引用発明2の「エキスパンドメタル」の採用を試みることは、当業者であれば容易に相当するものである。 (2)相違点2について シーム溶接は、金属の接合手段として例を挙げるまでもなく慣用されているものであるところ、この方法は、接合部材の形状には特段左右されず、おおよそエキスパンドメタルであろうと他の形状であろうと採用可能なものである。そうすると、上述(1)のとおり、引用発明1における「網状体(4)」に代えて引用発明2における「エキスパンドメタル」を採用することは、当業者にとって容易想到であるところ、その際、引用発明1における「裏金(1)」との接合手段として接着をシーム溶接に置換することは、当業者であれば設計的に適宜なし得たものである。 ところで、エキスパンドメタルの断面形状は、例えば特開平4-321813号公報の図4、特開平4-15228号公報の第3図に示されるように、複数の結合部と、各々の結合部を斜め方向につなぐ各辺によって網目が構成されていることは、当業者に広く知られている。そして、引用発明1において「エキスパンドメタル」を採用し「裏金(1)」に「シーム溶接」によって接合するに際し、「エキスパンドメタル」が「裏金(1)」に接触する部位は、「エキスパンドメタル」の断面形状からみて「エキスパンドメタル」の結合部以外になく、この部位で溶接せざるを得ないことは、当業者であれば直ちに理解できるものである。また、同様にその断面形状から、「裏金(1)」との間にクサビ状の空間が形成されるとともに、その各網目が「裏金(1)」と「エキスパンドメタル」の各辺との間に形成された微小隙間を介して連続するようになることは、当業者にとって自明ないしは容易に想到し得るものである。 してみれば、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1における「網状体(4)」に代えて引用発明2における「エキスパンドメタル」採用し、慣用手段である「シーム溶接」を適宜採用することによって得られたものであり、当業者にとって容易に想到するものである。 (3)相違点3について 引用発明1において、「樹脂層(3)」は、「網状体(4)の網目及び表面に充填被覆」されているところ、上述(2)のとおり、「エキスパンドメタル」を採用すれば、「裏金(1)」との間にクサビ状の空間及び微小隙間が形成されることは、当業者にとって自明であり、樹脂を被覆充填するにあたりこれらの空間にも樹脂を充填すべきことは、当業者であれば当然になし得るものである。また、そうでないとしても、引用発明1における「樹脂層(3)」は、いわば隙間なく「充填被覆」するものであるから、これらの空間も充填するようにすることは、当業者にとって容易に想到し得るものである。 そして、本願の願書に添付された明細書によれば、本願補正発明によって、エキスパンドメタルと金属板が溶着されるとともに、樹脂がエキスパンドメタルの網目、金属板とエキスパンドメタルとの間のクサビ状の係合部、微小空間に充填され、かつエキスパンドメタルの表面に被覆されることから、金属板、エキスパンドメタル及び樹脂の三者が強固に接合される等の効果を奏するものであるところ、上述2-3-2(1)d)にも摘記したとおり、樹脂の接着性は、均一な網状体を用いることによって向上することが知られていたことからすれば、同様に均一な網目が形成されているエキスパンドメタルを採用した場合においても得られるであろうことは、当業者であれば当然に想定することが可能であるし、その形状からみても、強固な接合が得られることは、予測可能なものである。 また、請求人は、審判請求書及び平成20年10月8日付けの審尋に対する平成20年12月8日付け回答書の中で、本願補正発明においては、金属板とエキスパンドメタルとをシーム溶接にて溶着したことにより、エキスパンドメタルの結合部の頂部が平坦面に形成されることにより、樹脂のすべり層の破壊防止、相手材の表面の損傷防止、放熱性の向上等の効果を奏する旨主張する。しかし、これらは、本願の願書に添付された明細書に記載はなく、また、シーム溶接を採用すれば溶着部が平坦面になることは当然であって、その形状からすればそれら主張の効果が得られることは、当業者にとって予測可能なものであり、格別顕著なものであるとまで言うことはできない。 なお、請求人は、同じく審判請求書の中で、刊行物1(原査定における引用文献1)には、エキスパンドメタルを金属板にシーム溶接し、その網目、くさび状の係合部、微小隙間に樹脂を絡めることは開示されていない旨主張する。しかし、引用発明1及び引用発明2から、これらを得ることが当業者にとって容易想到であることは、上述のとおりである。また、同様に刊行物2(原査定における引用文献2)には、補強材の一例として単なる一行的な記載をもってエキスパンドメタルを用いることもできると記載するのみである旨の主張をしているが、そうであったとしても、これに着想を得て引用発明1に対しエキスパンドメタルの適用を試みることは、上述のとおり容易想到であって、これを妨げる事情もみられない。 したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 2-3-5 補正却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 3-1 本願発明 本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし11に係る発明は、平成18年12月22日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載されたとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「金属板に一体に接合されたエキスパンドメタルと当該エキスパンドメタルの網目および表面に充填被覆された熱可塑性合成樹脂のすべり層とから成る複層摺動部材において、前記エキスパンドメタルは、その各結合部において金属板との間にクサビ状の係合部を形成して溶接接合により前記金属板に溶着され、前記エキスパンドメタルの各網目は、当該エキスパンドメタルの各辺と前記金属板との間に形成された微小隙間を介して連続し、前記すべり層を構成する熱可塑性合成樹脂が、前記エキスパンドメタルの網目、前記クサビ状の係合部および前記微小隙間に充填され、かつ、前記エキスパンドメタルの表面に被覆されていることを特徴とする複層摺動部材。」 3-2 刊行物に記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載の発明は、2-3-2に記載したとおりである。 3-3 対比及び相違点の判断 上述2-3-1で検討した本願補正発明は、本願発明の全ての発明特定事項を備えた上でさらにその一部を限定して特定したものである。そうすると、その本願補正発明が上述2-3-4のとおり引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び引用発明2から当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に基づき特許を受けることができない。したがって、本願は、特許請求の範囲の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-29 |
結審通知日 | 2009-02-03 |
審決日 | 2009-02-19 |
出願番号 | 特願平8-286104 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡野 卓也 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
岩谷 一臣 川上 益喜 |
発明の名称 | 複層摺動部材ならびにその製造方法 |
代理人 | 岡田 数彦 |