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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800200 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F27D
管理番号 1195324
審判番号 無効2006-80246  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-27 
確定日 2008-07-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3531702号「不定形耐火物の吹付け施工方法」の特許無効審判事件についてされた、「特許第3531702号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」とした平成19年8月3日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、平成19年11月30日に「特許庁が無効2006-80246号事件について平成19年8月3日にした審決を取り消す。訴訟費用は原告の負担とする。」との決定(平成19年(行ケ)第10309号)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3531702号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許の手続
本件特許第3531702号の手続の経緯は次のとおりである。
・特許出願:平成8年5月10日(平成8年特許願第116621号)
・優先権主張日:平成7年5月11日(以下「本件優先日」という。)(基礎とされた出願:特願平7-113143号)
・特許権の設定登録日:平成16年3月12日
特許番号:特許第3531702号
特許権者:AGCセラミックス株式会社(旧商号 旭硝子セラミックス株式会社)
発明の名称:「不定形耐火物の吹付け施工方法」
請求項数:8(設定登録時)
2 本件審判の手続
本件審判事件の手続の経緯は、次のとおりである。
・審判請求日:平成18年11月27日
審判請求人:黒崎播磨株式会社
請求の趣旨:「特許第3531702号の請求項1に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」
・審決日:平成19年8月3日(起案日)(以下、この審決を「1次審決」という。)
1次審決の主文:「特許第3531702号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」
・1次審決取消訴訟提起:平成19年(行ケ)第10309号
・訂正審判請求日:平成19年11月14日
・審決取消決定日:平成19年11月30日
決定の主文:「特許庁が無効2006-80246号事件について平成19年8月3日にした審決を取り消す。訴訟費用は原告の負担とする。」
・訂正請求書提出日:平成19年12月20日
・審判事件弁駁書提出日:平成20年2月7日
・補正許否の決定日:平成20年2月25日
・審判事件答弁書・訂正請求書提出日:平成20年3月28日(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」といい、訂正後の明細書を「本件訂正明細書」という。)
・上申書(審判請求人)提出日:平成20年4月18日
・上申書(審判請求人)提出日:平成20年4月30日
第2 本件訂正について
1 請求の要旨
平成20年3月28日付け訂正請求書によれば、本件訂正請求の趣旨は、訂正請求書の「5.請求の趣旨」に「特許第3531702号の明細書を本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」とあるところ、これは、「特許第3531702号の明細書を、本件請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求める。」の明らかな誤記であるから、後者のとおりのものと認める。そして、「6.請求の理由」「(3)訂正の内容」によれば、訂正事項は、次の「(1)訂正事項1?2」のとおりであり、訂正請求書の「6.請求の理由」「(4)訂正の原因」によれば、訂正の目的は、次の「(2)訂正の目的」のとおりであり、本件訂正後の特許請求の範囲は、本件訂正明細書によれば、次の「(3)訂正後の特許請求の範囲」のとおりである(以下、本件訂正前の請求項1?7を、それぞれ「訂正前請求項1」、「訂正前請求項2」・・・といい、本件訂正後の請求項1?29を、それぞれ「訂正後請求項1」、「訂正後請求項2」・・・という。)。
なお、平成19年11月14日付けの訂正審判の請求は、特許法第134条の3第4項の規定により、同年12月20日付けの訂正請求は、同法第134条の2第4項の規定により、それぞれ、取り下げられたものとみなされた。
(1)訂正事項1?2
ア 訂正事項1
訂正前請求項1における、「不定形耐火物用粉体組成物に水を」を、「不定形耐火物用粉体組成物に、前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を」に限定する。
イ 訂正事項2
「圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける」において、「注入し、」の後に、「圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ」を挿入する。
(2)訂正の目的
訂正事項1、2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(3)訂正後の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に、前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法。
【請求項2】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設ける吹付け施工方法。
【請求項3】
前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する請求項2記載の吹付け施工方法。
【請求項4】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項2または3に記載の吹付け施工方法。
【請求項5】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項2?4のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項6】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項2?5のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項7】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項2?6のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項8】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項2?7のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項9】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する吹付け施工方法。
【請求項10】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項9に記載の吹付け施工方法。
【請求項11】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項9または10に記載の吹付け施工方法。
【請求項12】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項9?11のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項13】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項9?12のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項14】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項9?13のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項15】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける吹付け施工方法。
【請求項16】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項15に記載の吹付け施工方法。
【請求項17】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項15または16に記載の吹付け施工方法。
【請求項18】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項15?17のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項19】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項15?18のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項20】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である吹付け施工方法。
【請求項21】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項20に記載の吹付け施工方法。
【請求項22】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項20または21に記載の吹付け施工方法。
【請求項23】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項20?22のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項24】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記急結剤が、粉末として混入される吹付け施工方法。
【請求項25】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項24に記載の吹付け施工方法。
【請求項26】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項24または25に記載の吹付け施工方法。
【請求項27】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える吹付け施工方法。
【請求項28】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項27の吹付け施工方法。
【請求項29】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する吹付け施工方法。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前請求項1において、「不定形耐火物用粉体組成物に水を」の「水」を、「前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を」として、水の割合を限定するものであるということができる。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ そして、本件特許に係る願書に添付した明細書の表1及び表2に、水の割合がそれぞれ「9重量%」(実施例1、実施例1’)、「10重量%」(実施例2、実施例2’)及び「8重量%」(実施例7、実施例7’、実施例7”)の実施例が記載されており、段落【0035】には、これらの例について「耐火性骨材と耐火性粉末及び分散剤を調合して表1に示す粉体組成物を調合し、各組成物に表1に示す量の水(耐火性骨材と耐火性粉末は内掛け重量%、他はいずれも外掛け重量%)を加え」と記載されている。
そうすると、「前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を」とすることは、本件特許に係る願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
ウ また、訂正事項1は、水の割合を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
エ したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正前請求項1の「圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける」において、「注入し、」の後に、「圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ」を挿入する訂正は、圧縮空気と急結剤の坏土への注入位置を限定するものである。したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができる。
イ そして、本件特許に係る願書に添付した明細書の段落【0011】に「急結剤の注入口は、圧縮空気の注入口の下流又は圧縮空気の注入口と同位置とするのが好ましい。急結剤を注入後の坏土は・・・好ましくはノズル配管を通って、吹付けノズルに送られ吹付けノズルから吹付け施工される。」、段落【0028】に「急結剤の所要量は、急結剤の種類によってある程度変化するので、急結剤の種類と、急結剤を注入した後のノズル配管の長さなどによって注入量を調節するのが好ましい。」、更に、図1を参照して具体例を説明する段落【0039】に「急結剤の注入口11から吹付けノズル4までのノズル配管3を・・・接続した。」との記載がそれぞれある。そうすると、「圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ」ることは、本件特許に係る願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
ウ また、訂正事項2は、圧縮空気と急結剤の坏土への注入位置を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
エ したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
(3)なお、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は上記1(3)のとおりであり、訂正前請求項2?8の記載は、
「【請求項2】前記急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設ける請求項1に記載の吹付け施工方法。
【請求項3】前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する請求項1又は2記載の吹付け施工方法。
【請求項4】前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項1?3のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項5】前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項1?4のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項6】前記急結剤が、粉末として混入される請求項1?5のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項7】前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項1?6のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項8】前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項1?7のいずれかに記載の吹付け施工方法。」のとおりであるから、訂正後請求項2?29において記載に変更があることが認められる。
それらの変更は、具体的には、請求項の記載の形式を、次のように変えたものであることが認められる。すなわち、訂正前請求項2を訂正前請求項1の内容を取り込んでこれを独立項の訂正後請求項2とし、訂正前請求項3?8においては、引用する訂正前請求項のうち訂正前請求項1を直接引用するものをそれぞれ独立項の訂正後請求項9、15、20、24、27、29とし、引用する訂正前請求項のうち訂正前請求項2?7いずれかを引用するもののうち、訂正前請求項1を直接又は間接に引用しないもの、をそれぞれ訂正後請求項3?8とし、さらに、訂正前請求項3?8において引用する訂正前請求項において、訂正前請求項1を直接引用するもの(訂正後請求項9、15、20、24、27、29)をさらに直接又は間接に引用するものを、それぞれ訂正後請求項10?14、16?19、21?23、25、26、28としたものであることが認められる。
訂正前請求項2?8と訂正後請求の範囲2?29の対応関係をまとめると、以下のとおりとなる。

以上によれば、これらの変更は、訂正後請求項2以下において特許請求の範囲を減縮する訂正後請求項1を引用しないようにするために、単に記載の形式を改めたものであると認められ、内容の訂正を伴うものではないことが認められる。
つまり、訂正前請求項2?8に記載される発明と訂正後請求項2?29に記載される発明は全く同じである。
したがって、訂正前請求項2?8についての記載の変更は、訂正前請求項2?8の訂正をするものではない。
(4)小括
上記のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合する。
よって、本件訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件審判請求に係る、特許第3531702号の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に、前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法。」(以下、この発明を「本件訂正発明」という。)
第4 特許を無効とすべき理由の要点
審判請求人が1次審決前に提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書、甲第1?39号証(甲第37号証を除く。)、各参考資料、さらに、1次審決取消決定後に提出した審判事件弁駁書、上申書、甲第40?63号証、特に、審判事件弁駁書によれば、審判請求人が主張する本件特許を無効とすべき理由の要点は、本件訂正発明は、「甲1刊行物及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである」から、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものと認められる(平成20年2月7日付け審判事件弁駁書34頁「第2」の「4 相違点に対する検討」の(5)?「5 むすび」の項参照。以下、この理由を「本件無効理由」という。)。
第5 被請求人の主張の要点
被請求人が1次審決前に提出した審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、乙第1?4号証、上申書、上申書(2)さらに、1次審決取消決定後に提出した審判事件答弁書、上申書、乙第5?9号証、参考資料1,2、特に、平成20年3月28日に訂正請求書と共に提出した審判事件答弁書によれば、被請求人は、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものではないと主張するものと認められる(主張の詳細は、以下の「第6 当審の判断」において記載する。)。
第6 当審の判断
1 刊行物の記載
(1)「吹付工法の最近の進歩」(セラミックデータブック‘ 91 工業製品技術協会 平成3年(1991年))(甲第1号証)には、以下の記載がある。
(1-a)「吹付施工は成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有しているため,増加の傾向にある.しかし,品質的には,レンガ,流し込みに比較して十分とはいえず,また,吹付施工時の発塵およびリバンドロスが問題であった.」(231頁左欄「1.はじめに」1?5行)
(1-b)「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配合されており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なものとはいえなかった.
従って,バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保するかを主として検討した.特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討を行った.」(「2.1 開発の基本的な考え方」)
(1-c)「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系の代表的なローセメントキャスタブルを選定し,吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等の検討を行った.また,吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討も加え,吹付システム^(2?4))として乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システムにおいて比較テストを実施した.各種吹付システムの概要を表1に示す^(5)).」(「2.2各種吹付システムの比較」)(1-d)「

」(231頁右中段)
(1-e)「各種吹付システムの吹付水分と接着率の関係を図1に示す.ショットキャスト法以外の吹付システムについては,吹付水分を減少すると接着率は低下し,標準乾式法,分散剤溶液添加法はその傾向が顕著である.ショットキャスト法は吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られるが,ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある.スラリー添加法およびプレミキシング法は低水分領域においても比較的良好な接着率を示している.」(「(1)各種吹付システムの接着率について」)
(1-f)「

」(232頁左中段)
(1-g)「各種吹付システムの吹付水分と1000℃焼成後の見掛気孔率の関係を図2に示す.吹付水分の減少に従ってほぼ直線的に見掛気孔率が低下し,各種吹付システム間の差は少ない.
高密度の品質を得るには,吹付水分の減少が必要である.」(「(2)各種吹付システムの品質について」)
(1-h)「

」(232頁左下段)
(1-i)「次に,吹付水分と1000℃焼成後の曲げ強度の関係を図3に示す.吹付水分が減少すれば曲げ強度は増加し,かつ低水分領域においては,吹付水分のわずかの低下により著しく曲げ強度が向上する傾向にあり,吹付水分をできるだけ減少させることは,強度向上に大きく寄与する.」(「(3)各種吹付システムの強度について」)
(1-j)「

」(232頁右中段)
(1-k)「

」(232頁右下段)
(2)特開平6-287075号公報
特開平6-287075号公報(甲第2号証)には、以下の記載がある。
(2-a)「【0004】しかしながら、ポンプによる圧送が可能な流動性を有する不定形耐火物は、通常の流し込み施工が行われる不定形耐火物と比較し、今のところ添加水分の量を相当多くしており、添加水分の量が多い分だけ得られる耐火物成形体の嵩比重が小さく、耐用が劣るという問題がある。」
(2-b)「【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明は従来の不定形耐火物における前述の問題点を解決し、ポンプ圧送が可能な流動性を有していて、振動を加えなくても施工でき、得られる耐火物成形体の嵩比重が通常の振動を加える流し込み施工がされた不定形耐火物と比べて遜色のない嵩比重を有する物成形体が得られる不定形耐火物用組成物を提供しようとするものである。」
(2-c)「【0012】球状化処理された耐火性粒子の平均粒径は好ましくは1?20μmである。本発明で平均粒径とは、レーザ回折式粒度分布計によって求められた耐火性粒子の積算粒度分布において積算重量が50重量%の位置にある粒径をいう。」
(2-d)「【0015】本発明において、コーンフロー値はJIS-R-5201に規定された方法を少々変更した方法で測定され、不定形耐火物用組成物に水を加えて混練した坏土をコーン型に流し込み、コーン型を抜き取って振動を加えないで60秒間放置したときのコーンフロー値が180mm以上であればポンプ圧送による施工が可能な自己流動性を備えている。本発明の不定形耐火物用組成物では、この組成物に外掛けで6重量%という比較的少量の水を加えて混練したときにコーンフロー値が180mm以上の流動性を有する坏土が得られる。このコーンフロー値は大きいほど施工性と耐火物成形体の性能が向上するので、190mm以上、さらには200mm以上であるのが好ましい。」
(2-e)「【0016】コーンフロー値を大きくできれば坏土のポンプ圧送がさらに容易になり、坏土中の気泡の浮上が促進されて気孔率が小さく、嵩比重のより大きい成形体が得られる。坏土の流動性を表す数値として、他にJIS-A-1101に規定された寸法が100mmφ?200mmφ×300mmのコーン型を用い、振動を加えないでフロー値を求めるスランプフロー値が使用されることもある。両方のフロー値は素直な比例関係を示さないが、本発明におけるコーンフロー値の180mm、200mmおよび220mmは、概ねスランプフロー値でそれぞれ500mm、550mmおよび600mmに相当する。」
(2-f)「【0027】本発明の他の好ましい不定形耐火物用組成物では、組成物中に分散剤としてヘキサメタ燐酸ソーダが含まれており、その含有量は0.01重量%以上、0.3重量%以下である。ヘキサメタ燐酸ソーダは、施工現場で混合しなければならない液体の分散剤と比べて、予め組成物中に配合しておける粉末状のものであるので、不定形耐火物用組成物に適した分散剤であり、施工に際して分散剤を配合する手間が省ける点で優れている。」
(2-g)「【0028】また、ヘキサメタ燐酸ソーダは、0.01重量%以上という僅かな量の添加で組成物中の粒子が水に分散されたときのマイナスのゼータ電位の絶対値を大きくする効果があり、他の分散剤を使用するときと比べて水を混合した組成物の流動性が顕著に良好である。しかし、0.3重量%を超えるヘキサメタ燐酸ソーダが添加されても流動性はそれ以上向上しない。」
(2-h)「【0030】耐火物成形体の嵩比重が大きくなるように、耐火性骨材は気孔率が小さく緻密なものを選ぶのが好ましい。また、耐火性骨材には種々の嵩比重を有するものがあり、嵩比重の小さい耐火性骨材を使用する場合はその分耐火性骨材の占める嵩が大きくなって自己流動性を付与するのに必要な添加水分の量が相対的に増す。また、耐火性骨材の嵩比重が小さい場合は耐火性骨材と粒径30μm以下の耐火性粒子との間の分離(セグリゲーション)が起きやすいが、球状化処理された耐火性粒子が配合されていること、また添加水分の量が少ないことによってこの傾向が抑制される。」
(2-i)「【0041】試験例
球状化処理する耐火性粒子の原料として、・・・粒径が0.3?176μmの範囲にあって平均粒径が5.5μmのアルミナセメントと、・・・平均粒径が4.3μmのバイヤーアルミナ粉末と・・・を準備した。」
(2-j)「【0042】また、アルミナセメント粒子の表面に固着せしめる微小粒子としてヘキサメタ燐酸ソーダの微粉末と、・・・平均粒径が約0.9μmのフュームドシリカを使用し、表1に示す配合比の混合粉体とし、・・・球状化処理を行い、表1に示すA_(1)、A_(2)、A_(3)、B、CおよびDの6種類の球状化処理された耐火性粒子を得た。」
(2-k)「【0044】【表1】


(2-l)「【0045】得られた球状化処理後の耐火性粒子を表2と表3に示した割合で配合し、No.1?14の不定形耐火物用組成物とした。すなわち、耐火性骨材としてAl_(2)O_(3)が88重量%の粗粒(粒径1.68?6mm)、中粒(粒径0.1?1.68mm)および細粒(中粒を粒径0.2mm以下に粉砕しもの)としたボーキサイトの耐火性骨材・・・を準備した。」
(2-m)「【0046】また、Al_(2)O_(3)の含有量が99.5重量%の焼成アルミナ粉末(粒径43μm以下)、Al_(2)O_(3)の含有量が99.6重量%のバイヤーアルミナ粉末(平均粒径4.3μm)・・・を準備し、さらに組成物の分散性を向上せしめる添加物としてフュームドシリカ(SiO_(2)の含有量が98重量%で平均粒径が0.9μmのもの)とヘキサメタ燐酸ソーダ(すべての組成物にそれぞれ0.05重量%添加)を配合して不定形耐火物用組成物とした。」
(2-n)「【0047】次に、これらの組成物に水を加えて混練し、各不定形耐火物の流動性を・・・コーンフロー値で評価した。すなわち、表2と表3に示された組成物に所定量の水分を加えて万能ミキサー中で3分間混練し、混練した坏土を70mmφ?100mmφ×60mmの長円錐台形状のフローコーン型中に流し込み、フローコーン型を上方に抜き取って60秒間振動を加えないで放置し、流動して概ね円形に広がった坏土の最大広がり寸法とその直角方向の広がり寸法を測定し、両者の平均を求めてコーンフロー値とした。」
(2-o)「【0049】また、ポンプ圧送性は、それぞれ約200kgの坏土を調製して5kg/cm^(2)の圧縮空気を動力源とする圧送ポンプ(Putzmeister社製、MIXOKERT)を使用し、水平方向30m、垂直方向10mの区間における混練された坏土のポンプ圧送が可能かどうかを調べた。また、これらの坏土を油圧で駆動される複ピストン式コンクリートポンプ(Symtec社製MKW-25SVH)によって水平方向50mの圧送が可能かどうかを調べた。」
(2-p)「【0053】【表2】


(2-q)「【0053】【表3】


2 刊行物に記載された発明
(1)「吹付工法の最近の進歩」(セラミックデータブック‘ 91 工業製品技術協会 平成3年(1991年))に記載された発明
本件優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな「吹付工法の最近の進歩」(セラミックデータブック‘91 工業製品技術協会 平成3年(1991年))(甲第1号証。以下「甲1刊行物」という。)には、吹付け施工は「成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有している」(摘示1-a)、しかし、「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配合されており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なものとはいえなかった」(摘示1-b)として、「バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保するかを主として検討し」、「特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討を行った」(摘示1-b)ことが記載されている。
そして、「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系の代表的なローセメントキャスタブルを選定し,吹付施工が可能なように分散剤の種類,量および急結剤の種類,量等の検討を行った.また,吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討も加え,吹付システム^(2?4))として乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システムにおいて比較テストを実施した.」(摘示1-c)ことが記載され、それら5種の吹付けシステムの概要が表1に示されるところ、その「表1」(摘示1-d)の「Wet」の「Method」の欄には、「Shot cast method」の記載とともに、図が示されている。
そして、その表1の下側には、「GR:Grain」、「FP:Finepowder」、「BD:Binder」、「DP:Dispersant」、「HA:Hardening accelerator」との記載があり、これらはそれぞれ、「骨材」、「微粒子」、「結合剤」、「分散剤」、「急結剤」を意味すると認められる。
以上の記載によれば、上記「比較テスト」を実施した上記「Shot cast method」(摘示1-eにおいてこれを「ショットキャスト法」と称しているので、以下「ショットキャスト法」ということとする。)の吹付けシステムは、Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤をミキサーで水を加えて混合し、その混合物をポンプにより吹付けノズルに送給し、さらにその混合物に添加装置を介して送給される急結剤及び水並びにエアを添加し吹付けノズルから吹き付けるものであることが認められる。
甲1刊行物に記載された「ショットキャスト法」においては、ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤及び水を「吹付前にミキサーで十分混練している」(摘示1-e)ものであり、「ポンプ圧送する」(摘示1-e)ことが認められるから、上記「混合物」は混練された坏土ということができ、その「ポンプ」は圧送ポンプということができる。また、圧送は配管によってなされること、吹付けのために添加される「エア」は圧縮空気を用いることが通常であると認められる。そして、その坏土は吹付けが必要な場所、すなわち施工現場、に圧送され、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入した後に吹付けが必要な箇所、すなわち施工箇所、に吹き付けられるものであるから、坏土を圧送ポンプと圧送配管によって吹付け施工現場に圧送し、吹付けノズルから施工箇所に吹き付けるということができる。
以上の記載及び認定によれば、甲1刊行物には、
「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって吹付け施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入した坏土を、吹付けノズルから施工箇所に吹き付けるローセメントキャスタブルの吹付け施工方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。
(2)甲1刊行物に記載された発明に関する被請求人の主張について
被請求人は、甲1刊行物に記載されているショットキャスト法とは、その概要については、「骨材、微粉、バインダー、及び分散剤をミキサーで水を加えて混合し、その混合物をポンプにより吹付けノズルに供給し、さらにその混合物に添加装置を介して供給される急結剤及び水並びにエアを添加し吹付けノズルから吹付けるもの」であるが、より具体的には、「吹付システム」は、(a)急結剤及び水並びにエアはノズルの先端で供給され、(b)輸送管の先端に設けられた硬化促進剤を添加するための添加管が内設された先絞りノズル(特殊なノズル)を使用するものであり、「吹付水分」は「10%を含まない「10%を超える量」、より具体的には12?約15%」であり、「吹付材」について(a)甲1刊行物にはショットキャスト法の施工が可能となる吹付材の検討がされたことは全く記載されておらず、(b)比較テストで使用したとされるAl_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブル改変物は、ショットキャスト法での吹付施工が可能となるように検討・調整されたものではない。(c)一方、当該ローセメントキャスタブル改変物は、甲第34号証の表2に記載されている化学組成(Al_(2)O_(3)とSiO_(2)の組成)と粗粒サイズの分布を有する吹付材(供試材料)と推認される。しかし、この材料は、ショットキャスト法の吹付施工が可能となるように検討・調整されたものではない、という特定のものである旨主張する。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第1(4)小括)
しかしながら、甲1刊行物の記載は上記のとおりであって、被請求人が主張する特定のもの、たとえば「吹付システム」であれば、「急結剤及び水並びにエアはノズルの先端で供給」するものであって、「輸送管の先端に設けられた硬化促進剤を添加するための添加管が内設された先絞りノズル(特殊なノズル)を使用する」ものであることとは記載されていないし、たとえ、被請求人が主張するとおり、甲第19号証(特開昭54-61005号公報)等に記載の方法が「ショットキャスト法」と称する方法であったとしても、甲1刊行物の記載からは、甲1刊行物の「比較テスト」を行った「ショットキャスト法」が、それらに記載されるとされる被請求人が主張する特定のノズル等で行なう上記「吹付システム」で行ったものであるとまではいうことはできない。その他の「吹付水分」、「吹付材」についても、同様である。
よって、被請求人の上記主張は採用することができない。
3 本件訂正発明と引用発明との対比
(1)本件訂正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物」も、本件訂正発明の「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」もともに「不定形耐火物用粉体組成物」であるといえ、引用発明の「配管」は、坏土を圧送するものであるから、本件訂正発明の「圧送配管」に相当するといえる。
すると、本件訂正発明と引用発明とは、
「不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなる坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付ける不定形耐火物の吹付け施工方法」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。
A 不定形耐火物用粉体組成物が、本件訂正発明においては、「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」であるのに対し、引用発明においては、「Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系ローセメントキャスタブルの骨材、微粉、バインダー、及び分散剤の粉体組成物」であり、その不定形耐火物用粉体組成物に水を本件訂正発明においては、「粉体組成物100重量部に対して8?10重量部」加えて混練されてなるのに対し、引用発明においては、その水の割合は明らかではなく、かつ、得られる坏土の流動性が、本件訂正発明においては、「上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性」であるのに対し、引用発明においては、ポンプ圧送が可能な流動性ではあるもののその具体的な流動性の値は明らかではない点
B 圧縮空気と急結剤を注入後の坏土を、本件訂正発明においては、「ノズル配管中を通過させ」るのに対し、引用発明においては、ノズル配管を通過させるものであるかは明らかではない点
(以下、それぞれ「相違点A」、「相違点B」という。)
4 相違点についての判断
4-1 相違点Aについて
(1)本件優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな特開平6-287075号公報(甲第2号証。以下「甲2刊行物」という。)は「ポンプによる圧送が可能な流動性を有する不定形耐火物は、通常の流し込み施工が行われる不定形耐火物と比較し、今のところ添加水分の量を相当多くしており、添加水分の量が多い分だけ得られる耐火物成形体の嵩比重が小さく、耐用が劣るという問題がある」(摘示2-a)との認識のもと、「ポンプ圧送が可能な流動性」を有している「不定形耐火物用組成物」(摘示2-b)について記載するものである。そして、その「不定形耐火物用組成物」の具体例として表2(摘示2-p)、表3(摘示2-q)に挙げられたものには、以下のとおり、本件訂正発明の「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」に相当するものが記載され、さらにそれに水を加えて混練した坏土の流動性が本件訂正発明の範囲内である不定形耐火物用粉体組成物が記載されていることが認められる。
例えば、「組成物例 No.2」の不定形耐火物用粉体組成物は、「表2」の記載によれば、ボーキサイト粗・中・細粒、焼成アルミナ粉末、バイヤーアルミナ粉末、球状化処理粒子A_(2)及びフュームドシリカの粉体組成物である。その球状化処理粒子A_(2)は、表1(摘示2-k)によれば、アルミナセメントとフュームドシリカによって構成され、そのアルミナセメントの平均粒径が5.5μm(摘示2-i。球状化処理前のもの。球状化処理後も同程度と認められる。)、フュームドシリカの平均粒径が約0.9μm(摘示2-j:同じく球状化処理前のもの。球状化処理後も同程度と認められる。)である。また、この組成物には、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.05重量%が添加されている(摘示2-m)。
「組成物例 No.2」のボーキサイト粗・中・細粒は「耐火性骨材」(摘示2-l)であって、本件訂正発明の「耐火性骨材」といえ、バイヤーアルミナ粉末(平均粒径4.3μm:摘示2-i)及び球状化処理粒子A_(2)中のフュームドシリカ(約0.9μm)及びフュームドシリカ(0.9μm:摘示2-m)粉末は、本件訂正発明の「アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉」といえる。そして、球状化処理粒子A_(2)中のアルミナセメントは、本件訂正発明の「アルミナセメント」といえ、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.05重量%は、分散剤(摘示2-f)あって、本件訂正発明の「少量の分散剤」といえる(本件訂正明細書に「分散剤としては、ポリメタリン酸塩類・・・が好ましく、粉体組成物の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.02?1重量部添加しておくのが好ましい。」(段落【0023】)と記載され、「粉体組成物の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.02?1重量部」程度をもって「少量」というと認められる。)。
そうすると、「組成物例 No.2」の不定形耐火物用粉体組成物は、本件訂正発明の「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」に包含されるものということができる。
また、例えば、「組成物例 No.4」の不定形耐火物用粉体組成物は、「表2」の記載によれば、ボーキサイト粗・中・細粒、焼成アルミナ粉末、球状化処理粒子B、アルミナセメント及びフュームドシリカの粉体組成物であり、その球状化処理粒子Bは、表1(摘示2-k)によれば、バイヤーアルミナ粉末であり、その平均粒径が5.5μm(摘示2-i。球状化処理前のもの。球状化処理後も同程度と認められる。)であり、アルミナセメントの平均粒径は5.5μm(摘示2-i)、フュームドシリカの平均粒径は0.9μm(摘示2-m)であると認められる。そして、この組成物にも、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.05重量%が添加されている(摘示2-m)。
「組成物例 No.4」の、それぞれ、ボーキサイト粗・中・細粒は、本件訂正発明の「耐火性骨材」と、球状化処理粒子Bのバイヤーアルミナ粉末(平均粒径5.5μm)及びフュームドシリカ(平均粒径0.9μm)粉末は、本件訂正発明の「アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉」と、アルミナセメントは、本件訂正発明の「アルミナセメント」と、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.05重量%は、本件訂正発明の「少量の分散剤」といえる。
そうすると、「組成物例 No.4」の不定形耐火物用粉体組成物も、本件訂正発明の「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」に包含されるものということができる。
そして、上記表2には、「組成物例 No.2」、「組成物例 No.4」の不定形耐火物用粉体組成物に「添加水量 外掛重量%」で「6.0」の水を加えて混練された坏土の「コーンフロー値 mm」は「212」、「204」と記載されている。ここにおける「コーンフロー値 mm」とは「70mmφ?100mmφ×60mmの長円錐台形状のフローコーン型中に流し込み、フローコーン型を上方に抜き取って60秒間振動を加えないで放置し、流動して概ね円形に広がった坏土の最大広がり寸法とその直角方向の広がり寸法を測定し、両者の平均を求め」(摘示2-n)た値である。そこにおけるコーン型は本件訂正発明に係るコーン型(上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型)と同底面積であって本件訂正発明のコーン型に比し高さが低く上底面積も小さいから、本件訂正発明に係るコーン型に完全に内包される形である。そうすると、同じ試料を両者のコーン型を使用して測定すれば、本件訂正発明に係るコーン型を使用した方が広がりが大きくなること、すなわち「コーンフロー値」が大きくなることは、明らかである。
したがって、「組成物例 No.2」及び「組成物例 No.4」の不定形耐火物用粉体組成物から得られた上記坏土は、本件訂正発明の「上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径」は180mmを超えるものであると認められる。
以上によれば、甲2刊行物には、「耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物」及びそれに6重量%(外掛け)の水を加えて混練して得られる坏土の流動性が、「上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する」ものが記載されているということができる。
そして、甲2刊行物には、坏土の「コーンフロー値が180mm以上であればポンプ圧送による施工が可能」(摘示2-d)とされており、表2及び表3に記載された不定形耐火物用粉体組成物の「組成物例」No.1?10の坏土は、所定のポンプ圧送性試験(摘示2-o)の結果「ポンプ圧送性」がいずれも「有」と確認されている。
(2)甲1刊行物には、上記のとおり吹付け施工は「成形枠が不要であり,応急かつ局部補修が可能であるなど,施工面において多くの利点を有している」(摘示1-a)、しかし、「従来の一般的な冷間用乾式吹付材はバインダー量が多く配合されており,かつ吹付水分も多く必要とするため,品質的には十分なものとはいえなかった」(摘示1-b)として、「バインダー量が非常に少ない耐食性の優れた高密度ローセメントキャスタブルを吹付け可能にすべく,いかに吹付水分を減少し,かつ混練度の向上を図り,吹付施工の重要特性である高接着率を確保するかを主として検討し」、「特に,ローセメントキャスタブルで使用している超微粉を十分に分散させ,吸付水分量の減少化を図ることによって,従来の吹付材に比較して,品質的に高密度および高強度の施工体を得るとともに,施工時の発塵の減少,接着率の向上を図るべく,種々検討」(摘示1-b)を行ない、「吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討」(摘示1-c)等も加え、吹付けシステムとして「乾式,半湿式,湿式に区分し,合計5種の吹付システムにおいて比較テストを実施した」(摘示1-c)ことが記載されている。
それらの比較テストにおいて得られた施工体は、図1(摘示1-f)によれば「ショットキャスト法以外の吹付システムについては,吹付水分を減少すると接着率は低下」(摘示1-e)することが示され、図2(摘示1-i)によれば「吹付水分の減少に従ってほぼ直線的に見掛気孔率が低下し,各種吹付システム間の差は少ない」(摘示1-g)ことが示され、「高密度の品質を得るには,吹付水分の減少が必要」(摘示1-g)であると記載されている。さらに、図3(摘示1-j)によれば、「吹付水分が減少すれば曲げ強度は増加し,かつ低水分領域においては,吹付水分のわずかの低下により著しく曲げ強度が向上する傾向」にあることが示され、「吹付水分をできるだけ減少させることは,強度向上に大きく寄与する」(摘示1-i)ことが記載されている。
そして、それらの比較テストにおける「吹付水分」は、図1?3のプロットによれば、概ね10?14%程度であることが認められ、甲1刊行物でテストした「ショットキャスト法」においてはその「吹付水分」の範囲において「吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られる」(摘示1-e)ものの、「ポンプ圧送するため高水分領域でしか吹付けできない欠点がある」(摘示1-e)とされているから、概ね10?14%程度の「吹付水分」は「高水分領域」と認識され、「ポンプ圧送」をするために「吹付水分」を施工体の品質からみて好ましくない、その「高水分領域」にせざるをえなかったものであることが認められる。
そうすると、引用発明の吹付け施工方法は、「吹付前にミキサーで十分混練しているため,吹付水分に関係なく高接着率が得られ」(摘示1-e)、「吹付施工の重要特性」(摘示1-b)とされる「接着性」に優れるものであって、他の吹付けシステムにおける同じ水の割合の施工体よりも曲げ強度が大きい施工体が得られるという優れた特性を有する施工方法であるものの、そこで使用した坏土はポンプ圧送を可能とするために「高水分領域」(「吹付水分」が概ね10?14%の範囲)のものにせざるをえず、その「高水分領域」においては坏土が高水分のために高品質(見掛気孔率が低く、曲げ強度が大きい)施工体が得られないという欠点があるものであったこと、及び、それより低水分領域でポンプ圧送をすることができる坏土があれば、引用発明の吹付け施工方法に使用することにより低見掛気孔率、高曲げ強度の施工体が得られることが予測されるものということが認められる。
そして、甲2刊行物には、上記のとおり6重量%(外掛け)という低い水の割合でポンプ圧送をすることができる不定形耐火物用粉体組成物の坏土が記載されているのである。
そうすると、甲2刊行物に接した当業者であれば、引用発明の吹付け施工方法の上記欠点を解消し得、低見掛気孔率、高曲げ強度の施工体が得られることを期待して、甲2刊行物記載の不定形耐火物用粉体組成物の坏土をその吹付け材として使用することは、ごく自然の発想であって、容易に想到し得たことということができる。
そして、甲2刊行物記載の坏土に添加する水の割合は6重量%(外掛け)であって、本件訂正発明の「8?10重量部」より少ないことが認められるが、以下のとおり、甲2刊行物記載の坏土に添加する水の割合をそのような範囲とすることは当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。
すなわち、同じ不定形耐火物用粉体組成物であっても、その詳細な成分、組成の相違によってその好適な流動範囲に調整する等のために添加する水の割合を増加することはあり得る(例えば、骨材の嵩比重により水の量を増加する必要がある(摘示2-f)し、乾燥度が高いと添加する水の割合を増加する必要がある等)、さらに、用いる施工装置その他の施工状況によっても添加する水の割合を増加することはあり得る(例えば、より低い圧送力のポンプやより細い配管を用いて施工する場合等、添加する水の割合を増加する等して流動性をよりあげる必要がある。)等、不定形耐火物用粉体組成物の詳細な成分、組成、施工装置その他の施工状況に対応して、甲2刊行物記載の混練時における水の割合を6重量%を超える量である不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8?10重量部程度とすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。
そもそも、本件訂正発明は、混練時に添加する水の割合を「8?10重量部」と規定しているが、本件訂正明細書にはその特定の範囲に特段の技術的な意義があることは記載されるものではない。すなわち、本件訂正明細書には、「粉体組成物100重量部に対して加える水の量は、粉体組成物に配合される主要原料である骨材の比重や気孔率によって変化するが、自己流動性を付与するために必要な坏土中の水分量には自ら下限があり、粉体組成物100重量部に対して4重量部以上(比重が大きく気孔率が小さい電融アルミナ等の骨材の場合には4.5重量部で自己流動性を付与できる)の水分を加える。」(段落【0024】)、「ポンプ圧送する坏土中の水分、すなわち粉体組成物に加える水分は、施工された不定形耐火物の気孔率を小さくして耐火物としての良好な特性を確保できるように、粉体組成物100重量部に対して15重量部以下である。さらには12重量部以下とするのが好ましい。坏土中の水分が少なければ、坏土中に含まれる耐火性骨材が沈降して坏土が不均質化するのを抑制でき、気孔率が小さく均質な組織の不定形耐火物の施工体が得られる。」(段落【0025】)と記載されるのみである。むしろ「急結剤の注入口を圧縮空気の注入口と同位置にすると、急結後の坏土の空送負荷区間は、ノズル配管部のみでよく、注入する空気量を低下できるため、特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5?7%)で施工されるので不定形耐火物で発生する粉塵量を低下させうる。」(段落【0015】)と急結剤及び圧縮空気の注入条件を変えることによって「5?7%」とでき、それが好ましいとすら記載されているのである。
そうすると、本件訂正発明における混練時における添加する水の割合について、「不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8?10重量部」とすることに特段の技術的意義があるとは認められず、この点からも、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項にすぎないといえる。
(3)相違点Aに関する被請求人の主張について
ア 被請求人は、甲2刊行物に記載した坏土は本件訂正発明の坏土とは本質的に相違する、すなわち、甲2刊行物に記載の発明は、耐火性粒子を「球状化処理」することにより坏土の流動性を顕著に向上せしめ、比較的少量の水分でも自己流動性を具備させることができたものであるのに対して、本件訂正発明は、特定の耐火性粉末を使用することにより、坏土に加える水の量を減らすことができ、かつ混練後の坏土に良好な流動性を付与するものであるから、本件訂正発明と甲2刊行物に記載の発明とは、坏土に必要とされる自己流動性を達成する技術手段が相違し両者は本質的に相違するものであるところ、「特定の耐火性粉末」と「吹付水分量が8?10重量部」を組み合せた自己流動性を有する坏土は甲2刊行物には記載も示唆もされていない、旨主張する。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(二)(iii))
しかし、本件訂正発明の坏土も甲2刊行物に記載の坏土も共に同じ組成の不定形耐火物用粉体組成物から得られ、低水分領域で同じ自己流動性があり、ポンプ圧送をして施工をすることができる坏土であるという点で何ら異なるものではなく、甲2刊行物には本件訂正発明に包含される粉体組成物及びそれから調製された坏土が記載されているということができることは、上記のとおりである。
なお、甲2刊行物の粉体組成物について、耐火性粒子を「球状化処理」という極めて特殊な工程が必須不可欠なものであるなどと、甲2刊行物の粉体組成物がきわめて特殊なものであるかのように主張するが、本件訂正明細書においても、「耐火性粉末の一部として、平均粒径が30μm以下の球状化された粒子からなる粉末を使用することによっても坏土に良好な流動性を付与できる。」(段落【0021】)と本件訂正発明の粉体組成物に耐火性粒子を「球状化処理」をしたものが好適なものとして包含されているのであり、耐火性粒子を「球状化処理」をしたものがきわめて特殊なものであるということはできない。
イ 被請求人は、甲2刊行物にポンプ圧送が可能な流し込み施工用の不定形耐火物用組成物が開示されているとしても、次の理由により、当業者がこれを直ちに湿式吹付け法である引用発明に適用するとは言えない、と主張する。
(ア)湿式吹付け法において坏土はポンプで圧送する工程に加えて、急結剤及び圧縮空気を注入する工程、及び坏土を吹き付ける工程全体に亘って良好な搬送性が必要とされる。更に、壁面への付着性及び施工後の坏土のダレが工程に関る特性が必要となるのに対して、流し込み施工方法においては、主にポンプ圧送性に着目すれば十分である。
流し込み施工用の不定形耐火物用組成物と湿式吹付け法用の組成物とでは要求される特性に相違があるのであるから、流し込み施工用の不定形耐火物用組成物が開示されているとしても、当業者がこれを直ちに湿式吹付け法に適用するとは言えないのである。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(二)(iv))
(イ)甲1刊行物やその引用文献の何れにも甲1刊行物のローセメントキャスタブルをショットキャスト法の吹付け施工が可能となるように検討したことは全く記載されておらず、流し込み用のローセメントキャスタブルをショットキャスト法の吹付け施工ができるように如何にして調整・改変するかについて具体的な指針は何ら教示され得ない。
してみれば、甲1刊行物及び甲2刊行物に接した当業者であっても、甲2刊行物記載の坏土及びその不定形耐火物用粉体組成物をショットキャスト法の施工が可能となるように適宜調整し得るものではない。
実際、甲1刊行物では、ローセメントキャスタブル改変物を用いてショットキャスト法を含めた吹付けシステムの比較テストを行ったとされているが、これによっても実用的に使用できる湿式吹付け法は実現できなかったのである。このことは、まさに、流し込み用ローセメントキャスタブルを単純にショットキャスト法に適用しても実用的に使用できる湿式吹付け方法の完成に至ることはできないことを示している。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(二)(v))
(ウ)甲第34号証において、「低セメントキャスタブルの流し込み品は大粗粒を使用しているため、吹付け施工の場合、粒径の大きい粗粒部はリバンド・ロスとなり、接着率に悪影響をおよぼすため、吹付け施工に適性な粒度構成^(4))を検討し」(2頁下から3行?末行)、吹付け施工のために粒径の大きい粗粒部を減らしたことが認められる。
すると、粗粒の大きい骨材(粗粒部)を多く含む甲2刊行物に記載の流し込み施工用の不定形耐火物組成物を甲1刊行物記載のショットキャスト法に使用する動機付けを有し得ないばかりか、甲第34号証の記載は、当業者が甲2刊行物に記載の流し込み施工用の不定形耐火物組成物を甲1刊行物記載のショットキャスト法に適用することを阻害する要因とも言える。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(二)(vi))
(エ)流し込み施工用の不定形耐火物組成物を「ショットキャスト法」に単純に適用し得ないことは実験報告書(参考資料2)からもわかる。
自己流動性を有しポンピング圧送可能とされる甲第16号証の実施例中、例3として記載の流し込み耐火物用組成物を使用し、甲第19号証、甲第18号証及び乙第5号証の記載に基づくショットキャスト法による施工試験を行った結果、坏土はポンプ出口から10mの位置にも到達しておらず、圧送することすらできなかった。
この実験報告書の結果は、自己流動性があり、ポンプ圧送性が可能な流し込み用組成物であっても、必ずしも湿式吹付け工法に適する性質を有するとは限らないことを示している。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(二)(vii))
しかしながら、甲1刊行物には、甲1刊行物で比較テストを行った「ショットキャスト法」においては、ポンプ圧送をするために「吹付水分」を多くすることが必要であり、この点が引用発明の吹付け施工方法の欠点である旨記載しており、この問題点は、概ね10?14%より少ない「吹付水分」でありポンプ圧送が可能な耐火物組成物の坏土を得ることによって解消されるということができるから、この坏土が、吹付け施工法に使用されるものとして開示されているのか、又は流し込み施工法に使用されるものとして開示されているかの点は、引用発明に甲2刊行物に記載された坏土の適用を妨げるほどの重要な技術的意味を有するものではないというべきである。
引用発明の吹付け施工方法も、甲2刊行物の流し込み施工法も、自己流動性の坏土をポンプ圧送して施工現場まで搬送し施工する方法である点で異なるものではなく、後者が施工現場に圧送されて来た坏土をそのまま型枠に流し込むのに対して、前者は施工現場付近で坏土に吹き付けの推進力として圧縮空気を加えて吹付け面に吹き付ける点で相違するに過ぎないのであって、例えば、品川技報 No.30 1986年度「高密度新吹付け工法について」(甲第35号証。以下「甲35文献」という。80頁等参照)などにおいて、流し込み施工に使用されているローセメントキャスタブルを吹付け材として使用することを検討していることからも、この坏土が、流し込み施工法に使用されるものとして開示されている点が、引用発明に甲2刊行物に記載された坏土の適用を妨げるような重要な技術的意味を有するものではないことが裏付けられる。
ただ、引用発明の吹付け施工方法においては、吹付け材を垂直面等の施工箇所に吹き付けることから、吹付け材とするに際しては、施工箇所における付着性を向上させダレを防止する程度に施工箇所における流動性を低下させるべく急結剤を添加する等の調整をする必要があることが普通である。しかし、甲1刊行物には、ローセメントキャスタブルを吹付け材として使用するに際して、その組成物の組成や粒度構成、添加すべき急結剤の種類及び量、等を検討して、各種吹付け施工法の比較テストをした、すなわち湿式吹付け材とすることができたことが記載されているように、その調整は当業者の適宜なし得る創作力の範囲内のことであると認められ、被請求人が主張するような、具体的な指針がなければ湿式吹付け方法で使用することができないほどのこととは認められない。
また、たとえ被請求人が主張するとおり、甲2刊行物の流し込み施工用の坏土の粒度構成が吹付け材として好適な範囲と異なるものであるとしても、吹付け材とするに際しては上記のとおり「吹付材としての最適粒度構成^(1))の検討」(摘示1-c)が行われて適宜適切な粒度構成に調整されるのであるから、この点が甲2刊行物の坏土を湿式吹付け施工法に適用することの妨げになるものではない。
さらに、被請求人は、自己流動性がありポンプ圧送性が可能な流し込み用組成物であっても、必ずしも湿式吹付け工法に適する性質を有するとは限らないことは実験報告書(参考資料2)からもわかるとも主張する。
しかし、その実験報告書「(参考資料2)には、特開平7-69745号公報(甲第16号証。以下、甲16文献という。)に記載された例に基づいて調製されたとされる坏土はポンプ圧送をすることができなかった、ということが示されるにすぎない。
甲16文献はポンプ圧送について触れるものの、そこにおける坏土がポンプ圧送をすることができたものであること、どの程度のポンプ圧送性があるものであるのかなど、坏土の具体的なポンプ圧送を示すデータや例すらないものである。このような「自己流動性があり、ポンプ圧送性が可能な流し込み用組成物」であるか不明な坏土を用いて、「自己流動性があり、ポンプ圧送性が可能な流し込み用組成物であっても、必ずしも湿式吹付け工法に適する性質を有するとは限らない」ことを実証することができないことは、明らかである。
他方、甲2刊行物の坏土は、良好なポンプ圧送性があることが確認されている(摘示2-o)ものである。
したがって、実験報告書(参考資料2)の結果は、甲2刊行物の坏土を引用発明の湿式吹付け工法へ適用することの妨げになるものではない。
以上のとおり、引用発明に甲2刊行物の坏土を適用することに強い動機がある本件において、甲2刊行物の坏土が流し込み施工法に使用されるものである点は、それを適用することを妨げるほどの要因となるものではない。
ウ 被請求人は、甲1刊行物及び甲2刊行物の記載並びに当業者の技術常識からすると、甲2刊行物記載の坏土を引用発明に適用したとしても、以下の理由により、甲2刊行物の混練時に添加する水の割合を8?10重量部の範囲とすることは容易に想到するものではない、と主張する。
(ア)審判請求人が示した文献いずれにも、湿式吹付け法において吹付け水分を10重量%以下で施工できることは全く教示されていない。また、流し込み施工用の低セメントキャスタブルに関する文献において吹付け水分を「8?10重量%」とする点が記載されていたとしても、それはその成分・組成にとっては好適な水分範囲であって、当該水分範囲が成分・組成が異なる甲2刊行物に記載の流し込み施工用の不定形耐火物組成物においても適切なものであるとは一概に言うことはできない。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(三)(ii)(iii))
(イ)甲1刊行物の記載からショットキャスト法において如何にして吹付け水分量を調整するかに関して何ら教示され得ない一方、甲2刊行物には、自己流動性がありポンプ圧送が可能な不定形耐火物用組成物が記載されてはいるものの、その添加水分量は外掛けで6重量%を必須の要件とするものである。
してみれば、甲2刊行物記載の坏土を引用発明に適用したとしても、吹付け水分量を6重量%から8?10重量%の範囲とすることは、甲1刊行物及び甲2刊行物からは教示も示唆もされない。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(三)(iv))
(ウ)甲2刊行物は、嵩比重が大きい、即ち気孔率が小さい不定形耐火物を得ることを目的とするところ、これを達成しつつ流動性を有する組成物を検討し、諸特性をバランスさせた上で水添加量が6重量%に設定されていると言える。
しかるに、このように性能バランスが取れた流し込み施工用の耐火物組成物を吹付け施工法に適用するために、水添加量を6重量%から、その3割以上?7割程度まで上げて8?10重量%の範囲にすることは、技術常識に逆行し、大きい嵩比重や良好な耐食性を得ることができなくなり、得られる不定形耐火物の嵩比重が低下し耐食性も劣ることとなり甲2刊行物本来の目的が達成できなくなる。
しかも、一般に、流し込み耐火物に加える水を多くすれば流し込み耐火物の流動性はよくなるが、施工された耐火物の密度が低くなる他、骨材がセグリゲーション(偏在化)して不均質化しやすい。
してみれば、甲1刊行物及び甲2刊行物の記載並びに当業者の技術常識からすると、甲2刊行物記載の坏土を引用発明に適用したとしても、その吹付け水分量を6重量%から8?10重量%の範囲とすることは容易に想到し得るものではない。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(三)(v)?(vi))
しかしながら、上記(2)で示したとおり、そもそも本件訂正発明における混練時に添加する水の割合を8?10重量部の範囲とすることに、特段の技術的な意義があることは記載されるものではなく、不定形耐火物用粉体組成物、装置その他の施工状況に対応して、不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して8?10重量部程度とすることは当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。
被請求人は、甲2刊行物の坏土は諸特性をバランスさせた上で水添加量が6重量%に設定したものであり、混練時に添加する水の割合を増加すると良好な施工体が得られず技術常識に逆行することであり、さらに混練時に添加する水の割合を増加すると骨材がセグリゲーション(偏在化)して坏土が不均質化しやすくポンプ圧送性が損なわれるから、甲2刊行物に記載された混練時に添加する水の割合を6重量%から8?10重量%の範囲とすることは、当業者が容易に想到するものではない旨主張する。
しかし、引用発明の吹付け施工方法は、上記(2)で認定したとおり、比較テストにおける「高水分領域」の範囲よりも低い「水分領域」の範囲の坏土によれば、低見掛気孔率、高曲げ強度の施工体が得られることが予測されるものである。そうすると、当業者は、甲2刊行物に記載の坏土において、混練時に添加する水の割合がその範囲であれば水の割合を6重量%から増加させると多少の気孔率の増加や曲げ強度の低下があることを予想するとしても、上記「高水分領域」にまでした坏土から得られるものよりは低見掛気孔率、高曲げ強度の施工体が得られることを予測すると認められる。そうすると、この施工体の特性の多少の低下があるとしても、甲2刊行物に記載の坏土の混練時に添加する水の割合を8?10重量部の範囲とすることが妨げられるものではなく、この点は、当業者が必要に応じ適宜なし得る設計事項であるということができる。
さらに、一般に混練時に添加する水の割合を増加すると骨材がセグリゲーション(偏在化)して坏土が不均質化する傾向があるとしても、甲1刊行物の比較テストにおいて、混練時に添加する水の割合が、「8?10重量部」の範囲よりもさらに多い範囲である、概ね10、11,12,13、14%の「高水分領域」にそれぞれ調整したものをポンプ圧送をすることができたことが示され、甲2刊行物の従来技術の欄にも同様の記載がある(摘示2-a)のであるから、当業者は、甲2刊行物に記載の坏土において、特段の事情がない限り、混練時に添加する水の割合を8?10重量部に増加することで、骨材がセグリゲーション(偏在化)してポンプ圧送性ができないことを予測するとはいえない。むしろ、甲2刊行物には、「また、耐火性骨材の嵩比重が小さい場合は耐火性骨材と粒径30μm以下の耐火性粒子との間の分離(セグリゲーション)が起きやすいが、球状化処理された耐火性粒子が配合されていること、また添加水分の量が少ないことによってこの傾向が抑制される。」(摘示2-h)とされているのである。そうすると、当業者は、甲2刊行物に記載の坏土の混練時に添加する水の割合を8?10重量部の範囲程度にするとポンプ圧送性ができなくなると予測するとはいえないから、この不均質化の点によって、甲2刊行物に記載の坏土の混練時に添加する水の割合を8?10重量部の範囲とすることが妨げられるものではない。
エ その他に、被請求人は、引用発明に甲2刊行物の坏土を適用し、混練時に添加する水の割合を8?10重量部とすることの困難性について縷々主張するが、上記で示したところに照らして、いずれも理由がないことは明らかである。
4-2 相違点Bについて
(1)湿式吹付け施工法においては、吹付け材を垂直面等の施工箇所に吹き付けることから、吹付け材とするに際しては、施工箇所における付着性を向上させ、坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止する程度に施工箇所における流動性を低下させる必要があることが普通であって、急結剤はそのような、坏土の流動性を急速に低下させ、施工箇所において、付着性を向上させ坏土が流れ落ちること(ダレ)を防止したりするために使用する薬剤であると認められる。
そして、急結剤が吹付け施工法において本件特許の優先日前に慣用されているものであることは、甲1刊行物にも示されるとおりであるが、急結剤の上記所期の機能を発揮せしめるには急結剤を坏土により良好に分散させる必要があることも自明のことである。
ところで、湿式吹付け施工法において湿式吹付け材が圧送される配管の途中に急結剤を圧縮空気を注入して、圧縮空気と急結剤を注入後の湿式吹付け材を、ノズルにつながる配管(ノズル配管)中を通過させて、急結剤を配管において湿式吹付け材中に良好に分散させることは、本件特許の優先日前においてごく慣用されている技術にすぎない(必要ならば、例えば、特開昭61-31573号公報(甲第48号証。図面など)、特開平1-198972号公報(甲第51号証。3頁左下欄10?15行、図面など)、特開平2-51456号公報(甲第27号証。2頁左下欄8?17行など)、特開平3-122040号公報(甲第28号証。実施例1など)等参照)。
そうすると、坏土に急結剤を良好に分散させる必要があることが自明な引用発明において、急結剤及び圧縮空気を注入するにあたり、湿式吹付け材中に急結剤を良好に分散させるために、圧縮空気と急結剤を注入後の坏土を「ノズル配管中を通過させ」るようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得る程度の設計事項であると認められる。
(2)本件訂正発明の圧縮空気と急結剤を注入した坏土をノズル配管中を通過させることの技術的意義ないし作用効果について本件訂正明細書には、
(a)「ノズル配管の先に吹付けノズルが接続されていることによって吹付けノズルに接続する配管は一本で済み、吹付けノズルの上下左右への移動操作は容易である。」(段落【0010】)
(b)「急結剤の注入口は、圧縮空気の注入口の下流又は圧縮空気の注入口と同位置とするのが好ましい。急結剤を注入後の坏土は急速に硬化を起こした状態で、好ましくはノズル配管を通って、吹付けノズルに送られ吹付けノズルから吹付け施工される。その場合、急結剤を注入後の坏土は、ノズル配管を通過中に乱流の撹拌を受け、坏土中によりよく分散され、その結果坏土に注入する急結剤の所要量を減少できる。ノズル配管の長さは、好ましくは100mm以上、特には200mm以上とすることで乱流の撹拌の効果が得られる。」(段落【0011】)
と記載されている。
上記(a)の「吹付けノズルに接続する配管は一本で済み、吹付けノズルの上下左右への移動操作は容易である」という効果は、ノズル配管以外の配管をノズルに設けないことによる効果と認められるが、「圧縮空気と急結剤を注入後の坏土を吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ」ることは、ノズル配管以外の配管をノズルに設けないことに直ちにはならないから、上記効果は、この点の効果ということはできない。しかも、圧縮空気と急結剤を注入後の吹付け材を吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させるときに、吹付けノズルに接続する配管をノズル配管一本とする態様としたとしても、この態様は上記慣用技術においても通常採られる態様であって、これらの技術においても奏している副次的な効果であるといえ、格別のものではない。さらに、本件訂正発明においては圧縮空気と急結剤を注入した後のノズルまでの配管の長さは何ら規定されるものではなく、好ましいとされる急結剤の注入位置である100mm(上記(b))程度の位置においては、急結剤の注入配管がノズル近傍に存在するのであるから、その「吹付けノズルの上下左右への移動操作は容易である」という効果が実質的にあるとはいえない。
また、上記(b)の配管を通過中に乱流の撹拌を受け、吹付け組成物中に急結剤が分散されることは、上記慣用技術を採用することによって予測されるの効果であり、さらに、急結剤の所要量を減少できる、という効果も分散が良好となった結果奏されるものであり、予測されることである。
そして、これらの効果の程度については、具体的に示されるものではないから、これらの効果をもって、本件訂正発明を特許するに足る格別顕著なものと認めることはできない。
(3)相違点Bに関する被請求人の主張について
被請求人は、相違点Bに関し以下のとおり主張する。
ア 空気と急結剤を注入した後の坏土がノズル配管を通過することは、モルタル或いはコンクリート吹付け方法において知られているとしても、不定形耐火物の湿式吹付け法においては知られてはいない。コンクリートと不定形耐火物とは技術分野を異にするものであり、その使用される用途も性質も相違するから、モルタル或いはコンクリート吹付け方法において知られている技術を不定形耐火物の湿式吹付け法に単純に転用し得るものではない。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(四)(iii))
イ 引用発明のショットキャスト法では、圧縮空気と急結剤が坏土中に注入されるのは先絞りノズルの先端においてであって、「仮に予め該吹付材に硬化促進剤も添加しておくと、前述のごとく混練中に凝結がはじまり、ホースあるいはノズル中で閉塞するので使用できない」ことからして、引用発明に甲2刊行物に記載された技術を適用したとしても、ノズルの手前で急結剤を注入するという手段を採用することができない。
また、そもそも引用発明では「先絞りノズル」を使用することが前提となっていることから、既に内接された急結剤の添加管に加えて、ノズルの手前で急結剤を添加するという発想自体が起こり得ない。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(四)(iv))
ウ 本件訂正発明においては、高フロー値の坏土を使用するため、坏土の自己流動性を瞬間的に消滅し吹付に適した粘性を得ることが必要であった。急結剤をノズル配管の手前で坏土に注入することによって、意外にも、ホースまたはノズルの目詰まりなしに、吹付け前の流動性を低下させることができ、結果として、特殊なノズルを使用しなくても、円滑な吹付け施工を可能にできた。
従来技術においては、急結剤をノズルの手前で坏土に注入してもホースまたはノズルの目詰まりなしに円滑な吹付け施工が可能になることは予想すらできなかったのである。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(四)(i))
しかしながら、吹付け材へ急結剤を添加する技術的意義は、上記のとおり、吹付け材の流動性を急速に低下させ、施工箇所において、付着性を向上させ吹付け材が流れ落ちること(ダレ)を防止したりする、というものであって、吹付け材がコンクリート、モルタルであっても、不定形耐火物であっても本質的に異なるものではない。そうすると、吹付け材がコンクリートやモルタルであるのか不定形耐火物であるのかの点は、引用発明に上記慣用技術の適用を妨げるような重要な技術的意味を有するものではないというべきである。
そして、上記のとおり急結剤は、坏土、モルタル、コンクリートなどの吹付け材に添加して、吹付け箇所において吹付け材の付着性を向上させ吹付け材が流れ落ちること(ダレ)を防止したりする機能を奏する程度にその流動性を急速に低下させ得るものであると認められるが、吹付け材を施工箇所において瞬時に硬化させるというものではない。
例えば、不定形耐火物の湿式吹付け材に急結剤(硬化促進剤)及び圧縮空気をノズルにおいて注入する技術について記載する特開昭54-61005号公報(甲第19号証。以下「甲19刊行物」という。)の「第1表」(4頁下欄。(註)を含む。)には、下記のとおり具体的な不定形耐火物湿式吹付け材2種において湿式吹付け施工をした各5例の結果が示されている。
これによれば、「凝結時間」(「吹付け直後から、凝結が開始するまでの時間」)は、急結剤(甲19刊行物における「硬化促進剤」)の種類や量によって速硬?10分程度と変化するものであるが、施工状況は0.5,1,2,3,5分では「良好」、すなわち、「ノズル中で硬化」や「たれ下がり」がないことが認められる。
上記のとおり、坏土の凝結時間は、急結剤の量や種類の選択などによって容易に「分」のレベルで調整され得るものであり、(なお、甲19刊行物における急結剤よりもさらに凝結時間の制御が容易な急結剤も特開昭63-265870号公報(甲第22号証)に記載されている。)。
そうすると、不定形耐火物は、その硬度発現時間が、例えば6?12時間、であって、コンクリートやモルタルの硬度発現時間、例えば28日、より短い(「改訂2版 セメントの材料化学」(乙第9号証)217頁7?9行)という性質に差異があるとしても、その時間は、凝結時間とは別のものであり、しかも「時間」、「日」レベルの長いものであるから、「分」のレベルである急結剤の凝結時間において、この差異は重要な技術的意味を有するものではないというべきである。
また、被請求人は、急結剤を「仮に予め該吹付材に硬化促進剤も添加しておくと、前述のごとく混練中に凝結がはじまり、ホースあるいはノズル中で閉塞するので使用できない」ことから、ノズルの手前で急結剤を注入するという手段を採用することができない。急結剤をノズルの手前で坏土に注入してもホースまたはノズルの目詰まりなしに円滑な吹付け施工が可能になることは予測し得ない旨主張する。
しかし、上記のとおり、急結剤による凝結時間は急結剤の量や種類の選択などによって容易に「分」のレベルで調整し得るものと認められるから、「秒」ないしそれ以下のレベルと認められる、例えば数100mm程度(本件訂正明細書【0011】)の配管を通過するか時間の有無は、ノズルや配管のつまりに実質的な影響を与えるとは認められない。したがって、ノズルや配管のつまりの点は、急結剤の添加位置を数100mmノズルの手前とする程度の変更をするのに何ら妨げるものではない。そして、その程度の変更はノズルや配管のつまりに実質的な影響を与えるものではないと認められるのであるから、その変更後に円滑な吹付施工ができることも当然のことであって、格別のことではない。なお、急結剤の添加後の坏土の管を通過する距離が数100mm長くなる程度の変更がノズルや管のつまりにおいて実質的に問題となるような変更ではないことは、例えば、甲35文献の耐火物の吹付け工法(甲1文献の表1のSemi-Wetに対応する工法)においてではあるが、急結剤の添加の好適位置をノズルの先端からm単位で変化させて検討し、11mでは不良であるが、5.5m以下では良好であった等と記載される(96頁「3.4.2」)ことからも、明らかである。
なお、甲19刊行物において急結剤(硬化促進剤)をノズルにおいて添加する態様を選択した理由は、配管やノズル中における硬化等の発生の可能性をより低減させるためであると認められる(2頁左下欄下から6行?2行)が、急結剤をノズルにおいて添加しなければ「ホースあるいはノズル中で閉塞するので使用できない」とまでいうものではない。すなわち、甲19刊行物の「予め所要の硬化剤及び硬化促進剤が添加されているので、これをミキサー等で多量の水を添加し混練すると硬化してしまい、吹付には全く使用できない」(2頁左下欄末行?右下欄4行)との記載は、急結剤を添加した組成物を混練して坏土とし、これを搬送し、吹き付ける場合についていうのであって、ノズルの手前の配管において注入する場合について使用できないとまでいうものではない。
また、被請求人は、引用発明では「先絞りノズル」を使用することが前提となっていることから、既に内接された急結剤の添加管に加えて、ノズルの手前で急結剤を添加するという発想自体が起こり得ないとも主張するが、引用発明は「先絞りノズル」を使用するものということはできないから、これを前提とする被請求人の主張は、採用することができない。
さらに、被請求人は、本件訂正発明においては、急結剤をノズル配管の手前で坏土に注入することによって、意外にも、ホース又はノズルの目詰まりなしに、吹付け前の流動性を低下させることができ、結果として、特殊なノズルを使用しなくても、円滑な吹付け施工を可能にできた。従来技術においては、急結剤をノズルの手前で坏土に注入してもホースまたはノズルの目詰まりなしに円滑な吹付け施工が可能になることは予想すらできなかったのである、と主張する。
しかし、既に述べたとおり、ノズルの手前で急結剤を坏土に注入したとしても、特に本件訂正発明において好ましいとする態様の注入位置程度の場合にあっては、ホース又はノズルの目づまりなしに円滑な吹付け施工ができることは予期し得ない顕著な効果ということはできない。また、「特殊ノズルを使用する必要がなくなった」との効果は、引用発明が、そもそも「特殊ノズルを使用するもの」であるということができないから、その主張は、前提において誤っている。
なお、被請求人は、平成20年3月28日審判事件答弁書III第1において、圧縮空気の注入口より下流の配管内の坏土は空送状態になるため、配管重量が軽くなり人手によるハンドリングが容易となる旨も縷々主張するようである。しかし、この効果は、コンクリート等の湿式吹付け方法においてよく知られている効果(例えば、甲第53号証翻訳文3/6最終段落等参照。)であって、急結剤を圧縮空気と共に添加する上記従来慣用されている技術においても奏するものであり、副次的かつ容易に予測される効果に過ぎなく、格別のものではない(さらに、上記のとおり本件訂正発明においては圧縮空気と急結剤を注入した後のノズルまでの配管の長さは何ら規定されるものではなく、好ましいとされる急結剤の注入位置である100mm(上記(b))程度の位置において圧縮空気を注入する場合にあっては、空送状態の距離は短いから、実質的に「配管重量が軽くなり人手によるハンドリングが容易になる」との効果が実質的にあるとはいえない。)。したがって、この効果をもって、本件訂正発明を特許するに足る格別顕著なものと認めることはできない。
よって、上記主張はいずれも理由がない。
4-3 効果について
(1)本件訂正明細書の段落【0051】?【0052】の【発明の効果】の欄には
(a)「本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法によれば、流し込みによる施工方法と比べて型枠が不要であるなどによって顕著な省力化が達成でき、工期も顕著に短縮できるという利点が得られる。また、粉体組成物に所要の水分加えて混練してある自己流動性を有する坏土をポンプ圧送して吹付け施工することにより、施工体の気孔率が従来の吹付け施工方法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくでき、流し込み施工された不定形耐火物の施工体に劣らない嵩比重、すなわち良好な耐食性を有する不定形耐火物の施工体が得られる。この不定形耐火物の施工体は、従来の吹付け施工法による嵩比重の小さい不定形耐火物の施工体と比べて耐火物としての特性が顕著に優れている。」
(b)「また、吹付け施工時のリバウンドによるロスが非常に少ないので不定形耐火物の施工歩留がよく、粉塵がほとんど発生しないので作業環境も良好である。省力化と良好な作業環境の確保は、今後の産業の存続と発展に不可欠な要件でもあるので、その産業上の価値は多大である。」
と記載されている。
しかるに、これらの効果は、引用発明の湿式吹付け施工方法自体の効果であるか、この方法において甲2刊行物に記載の低い水の割合の坏土を適用した場合に予想される効果の範囲内の効果であって、格別のものとは認められない。
(2)効果に関する被請求人の主張について
被請求人は、本件訂正発明において、低水分領域(10重量%以下)において湿式吹付け施工を可能にすることができ、得られた不定形耐火物の施工体の品質は、流し込み法による施工体と対比して遜色のない程度にまで向上させることができた。
また、本件訂正発明において、先絞りノズルという特殊ノズルを使用する必要がなくなったため、
a 材料ホースからノズル先端まで坏土が充填されるため重く、更に、先絞りノズルは金属製であるため、それ自体非常に重量が重く、従って、長時間施工をすることは甚だ困難であった
b 先絞りノズルは、屈曲部があったり、先が絞られたりするので、現実にはノズル詰まりが起こり、ショットキャスト法の施工ができなくなってしまう
c 先絞りノズルの内径は1インチ程度に限定されるため、これに接続できる配管の径も細くなり、配管内でも坏土が詰まり易く、その結果、吐出量を少なくせざるを得ず生産効率が悪い上、輸送距離も長くできなかったという問題を解消することができた、と主張する。
(平成20年3月28日審判事件答弁書III第2(3)(五))
しかし、水の割合が10重量%以下において湿式吹付け施工を可能にすることができ、得られた不定形耐火物の施工体の品質は、流し込み法による施工体と対比して遜色のない程度にまで向上させることができるとの効果は、上記のとおり、予期し得るものである。
また、「先絞りノズルという特殊ノズルを使用する必要がなくなった」ことによるとされる効果は、引用発明がそもそも「先絞りノズルという特殊ノズルを使用するもの」であるということができないから、その効果についての被請求人の主張は、その前提において誤っている。
よって、上記主張はいずれも理由がない。
5 まとめ
以上のとおり、本件訂正発明は、その出願前頒布された刊行物である甲1刊行物及び甲2刊行物に記載された発明に基づいて、通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第7 むすび
以上によれば、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであるものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
不定形耐火物の吹付け施工方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に、前記粉体組成物100重量部に対して8?10重量部の水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、圧縮空気と急結剤注入後の坏土を先端に吹付ノズルを接続したノズル配管中を通過させ、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法。
【請求項2】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設ける吹付け施工方法。
【請求項3】
前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する請求項2記載の吹付け施工方法。
【請求項4】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項2または3に記載の吹付け施工方法。
【請求項5】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項2?4のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項6】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項2?5のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項7】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項2?6のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項8】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項2?7のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項9】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用して急結剤を注入する吹付け施工方法。
【請求項10】
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける請求項9に記載の吹付け施工方法。
【請求項11】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項9または10に記載の吹付け施工方法。
【請求項12】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項9?11のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項13】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項9?12のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項14】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項9?13のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項15】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記圧縮空気とともに急結剤が混入された坏土を、ノズル配管の先端に接続された吹付けノズルから施工箇所に吹付ける吹付け施工方法。
【請求項16】
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である請求項15に記載の吹付け施工方法。
【請求項17】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項15または16に記載の吹付け施工方法。
【請求項18】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項15?17のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項19】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項15?18のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項20】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記急結剤の混入量が、前記粉体組成物100重量部に対して、乾量基準で0.05?3重量部である吹付け施工方法。
【請求項21】
前記急結剤が、粉末として混入される請求項20に記載の吹付け施工方法。
【請求項22】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項20または21に記載の吹付け施工方法。
【請求項23】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項20?22のいずれかに記載の吹付け施工方法。
【請求項24】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記急結剤が、粉末として混入される吹付け施工方法。
【請求項25】
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える請求項24に記載の吹付け施工方法。
【請求項26】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項24または25に記載の吹付け施工方法。
【請求項27】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対して、遅延剤を乾量基準で0.002?0.2重量部加える吹付け施工方法。
【請求項28】
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する請求項27の吹付け施工方法。
【請求項29】
耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする不定形耐火物の吹付け施工方法であって、
前記圧送ポンプとして、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用する吹付け施工方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は嵩比重が大きい不定形耐火物を施工できる不定形耐火物の吹付け施工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
不定形耐火物を吹付け施工すると、型枠を必要としないなどによって流し込みによる施工方法と比べて施工作業を省力化できるという利点がある。このため、従来から不定形耐火物の吹付け施工方法が実施されている。
【0003】
従来の吹付け施工方法はいわゆる乾式又は半乾式の吹付け施工方法であり、流動性のない坏土、すなわち乾いた不定形耐火物用粉体組成物又は不定形耐火物用粉体組成物に流動性を呈さない量の水分を混合した湿った坏土を圧縮空気をキャリアとして配管で施工現場に搬送し、吹付けノズルで不定形耐火物が必要とする水分又は不足している水分及び急結剤を注入して吹付けノズルから吹付け施工している。
【0004】
しかし、このような方法では不定形耐火物用粉体組成物の坏土中の細かい、たとえば0.1mm以下の、耐火性粉末の粒子の分散状態と濡れが不充分な状態で吹付け施工されるため、吹付け施工された不定形耐火物の坏土中には多くの空気が取り込まれ、その結果吹き付け施工された不定形耐火物の施工体は流し込み施工された不定形耐火物の施工体と比べて気孔率が大きく(嵩比重が小さく)なり、その気孔率が大きい分、耐食性などの耐火物特性が劣るものであった。
【0005】
特公平2-27308や特開昭62-36071では、施工時における粉塵の発生を抑制するため、予め不定形耐火物用粉体組成物にある程度の水分を混合しておき、足りない水分と急結剤の水溶液を吹付けノズルで注入する方法を提案しているが、気流搬送配管が不定形耐火物の坏土で閉塞しないようにするため不定形耐火物用粉体組成物に予め混合できる水分の量に限界があり、空気の取り込みや粉塵の発生を充分には回避できなかった。また、吹付け施工時にはリバウンドによるロスが相当量発生し、粉塵が周囲にまき散らされるという作業環境上の問題もあった。
【0006】
また、吹付けノズルの直前で搬送されてきた湿った坏土に残りの水分を注入する場合、吹付け施工する坏土中の水分の分布が不均一になるのを避けられない。特に流動性を向上させるとともに不定形耐火物を緻密化するため耐火性超微粉を混合してある不定形耐火物を施工する場合には、不定形耐火物用粉体組成物に混合しておく水分の絶対量が少なく、吹付け施工は一層困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術が有していた前述の課題を解決し、施工に際して一層の省力化が可能で、周囲への粉塵の飛散が少なく、かつ施工体の気孔率を小さくできることでその嵩比重が大きく、耐火物としての特性に優れた不定形耐火物の吹付け施工方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法は、耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含む不定形耐火物用粉体組成物(以下、単に粉体組成物という)に水を加えて混練されてなり、かつ上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たしコーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が180mm以上となる自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧縮空気と急結剤を前記坏土中に注入し、かかる坏土を吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする。
【0009】
本発明の吹付け施工方法の主な特徴は、自己流動性を有する不定形耐火物の坏土を圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送する点にある。この方法によれば、予め所要の水分を混合してある不定形耐火物の坏土を圧送ポンプと圧送配管で施工現場に送ることができ、予め所要の水分を混合してあることによって坏土中の水の分布が均等であり、圧縮空気を注入するまでの坏土中には粒子の周囲に随伴する空気がほとんどなく、坏土にキャリアである圧縮空気を注入したときに巻き込まれる気泡も、そのほとんどが吹付け施工時に坏土から放出され、その結果として気孔率が小さく嵩比重の大きい不定形耐火物の施工体が得られる。
【0010】
本発明の吹付け施工方法では、圧縮空気の他に所要量の急結剤が坏土中に注入され、吹付けノズルから施工箇所に吹付けられた坏土は注入後急速に流動性が低下する。このため、たとえば垂直な壁面に坏土を吹付け施工しても、吹付けられた坏土が壁面から流れ落ちたりせず施工できる。また、好ましくは、ノズル配管の先に吹付けノズルが接続されていることによって吹付けノズルに接続する配管は一本で済み、吹付けノズルの上下左右への移動操作は容易である。また好ましくはノズル配管をフレキシブルな配管としてノズル配管を屈曲しやすくすることで人手による吹付け施工を容易にすることができる。
【0011】
急結剤の注入口は、圧縮空気の注入口の下流又は圧縮空気の注入口と同位置とするのが好ましい。急結剤を注入後の坏土は急速に硬化を起こした状態で、好ましくはノズル配管を通って、吹付けノズルに送られ吹付けノズルから吹付け施工される。その場合、急結剤を注入後の坏土は、ノズル配管を通過中に乱流の撹拌を受け、坏土中によりよく分散され、その結果坏土に注入する急結剤の所要量を減少できる。ノズル配管の長さは、好ましくは100mm以上、特には200mm以上とすることで乱流の撹拌の効果が得られる。
【0012】
【0013】
圧送配管及びノズル配管は、人手によって吹付けたり位置の移動を行うが、ポンプへの圧送負荷を低下させるために配管は50A以上(JIS G3452による、以下同様)が好ましく配管中が坏土で満たされるとかなりの重量となる。
【0014】
ここで、急結剤の注入口を、圧縮空気の注入口の下流、さらに好ましくは1m以上下流に設けることで圧縮空気の注入口より、下流の配管内の坏土は、空送状態になるため、配管重量が軽くなり人手によるハンドリングが容易となる。
【0015】
急結剤の注入口を圧縮空気の注入口と同位置にすると、急結後の坏土の空送負荷区間は、ノズル配管部のみでよく、注入する空気量を低下できるため、特に低水量(実施例と同じ基準で好ましくは5?7%)で施工されるので不定形耐火物で発生する粉塵量を低下させうる。ここで、ノズル配管より上流の圧送配管は坏土で満たされて重くなるため、配管サイズは50A前後とするのが好ましい。
【0016】
急結剤の注入口を圧縮空気注入口と同位置にする場合の一つの態様としては、坏土に注入される圧縮空気の一部又は全部を使用し、急結剤が注入される。特に坏土に注入される圧縮空気の全部を急結剤の注入に使用した場合には、圧縮空気は急結剤と一緒に共通する配管によって坏土に注入されるので、圧縮空気を坏土に注入するそれ独自の配管が省ける。
【0017】
本発明では坏土の流動性を約20℃の室温下でコーン型を用いて評価する。すなわち、粉体組成物に約20℃の水を加えて混練した直後の坏土を、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径(2方向の広がりを測定した平均値、以下フロー値という)で表示する。
【0018】
坏土はフロー値が165mm以上あれば自己流動性を呈する。しかし、圧送ポンプと圧送配管で混練された坏土を施工現場に容易、かつ滞りなく送れるように、圧送ポンプで圧送する坏土のフロー値は180mm以上、さらには200mmm以上とするのが好ましい。フロー値が大きい坏土を使用すれば、圧送ポンプの吸込み抵抗と圧送配管内の流動抵抗を小さくでき、圧送配管の直径の低減や坏土の長距離圧送を実現できる。
【0019】
本発明で使用する粉体組成物は、耐火性骨材、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉を含む耐火性粉末、アルミナセメント、並びに少量の分散剤を含むものである。耐火性骨材としては、アルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア、ムライト、礬土頁岩、シャモット、ケイ石、パイロフィライト、シリマナイト、アンダリュサイト、クロム鉄鉱、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、クロミア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、黒鉛などの炭素、ホウ化チタン及びホウ化ジルコニウムから選ばれる1種以上が好ましい。
【0020】
耐火性粉末としては、本発明では、アルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる平均粒径10μm以下の耐火性超微粉が必須の成分として使用される。かかる平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下のアルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる耐火性超微粉を使用すると、坏土に加える水の量を減らすことができ、かつ混練後の坏土に良好な流動性を付与できる。
【0021】
本発明では、耐火性粉末として、上記のアルミナ及び/又はヒュームドシリカからなる耐火性超微粉に加えて、平均粒径が30μm以下を有する、チタニア、ボーキサイト、ダイアスポア、ムライト、礬土頁岩、シャモット、パイロフィライト、シリマナイト、アンダリュサイト、ケイ石、クロム鉄鉱、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、クロミア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン及び無定形シリカから選ばれる1種以上であって平均粒径が30μm以下のものが好ましい。なお、耐火性粉末の一部として、平均粒径が30μm以下の球状化された粒子からなる粉末を使用することによっても坏土に良好な流動性を付与できる。
【0022】
更に、本発明では、粉体組成物に含有されるアルミナセメントは、その平均粒径が30μm以下のものが好ましい。アルミナセメントは、不定形耐火物の結合剤として機能し、施工体は常温から高温までの広い範囲において強度を保持できる。耐火性粉末は耐火性骨材の隙間を埋めて耐火性骨材を結合する結合部を形成する。なお、アルミナセメントは本発明で使用される粉体組成物における必須の成分として含まれるので耐火性粉末から除かれる。
【0023】
良好な自己流動性を坏土に付与するための手段として、使用する耐火性骨材及び耐火性粉末の種類に合わせて選定した粉末の分散剤を粉体組成物に配合しておくのが好ましい。分散剤としては、ポリメタリン酸塩類、ポリカルボン酸塩類、ポリアクリル酸塩類及びβ-ナフタレンスルホン酸塩類から選ばれる1種以上が好ましく、粉体組成物の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.02?1重量部添加しておくのが好ましい。
【0024】
粉体組成物100重量部に対して加える水の量は、粉体組成物に配合される主要原料である骨材の比重や気孔率によって変化するが、自己流動性を付与するために必要な坏土中の水分量には自ら下限があり、粉体組成物100重量部に対して4重量部以上(比重が大きく気孔率が小さい電融アルミナ等の骨材の場合には4.5重量部で自己流動性を付与できる)の水分を加える。粉体組成物は、たいてい乾いた粉体の状態で施工現場の近くに運搬し、施工現場に持ち込んだミキサー中で粉体組成物に水を加えて混練し、吹付け施工に供される。しかし、工場で粉体組成物に水を加えて混練した坏土をコンクリートミキサー車で施工現場に運んで吹付け施工することもできる。
【0025】
ポンプ圧送する坏土中の水分、すなわち粉体組成物に加える水分は、施工された不定形耐火物の気孔率を小さくして耐火物としての良好な特性を確保できるように、粉体組成物100重量部に対して15重量部以下、さらには12重量部以下とするのが好ましい。坏土中の水分が少なければ、坏土中に含まれる耐火性骨材が沈降して坏土が不均質化するのを抑制でき、気孔率が小さく均質な組織の不定形耐火物の施工体が得られる。
【0026】
坏土に注入する急結剤としては、水溶液の急結剤も使用できるが、吹付け施工する坏土中の水分量を必要最小限にとどめて良好な耐火物特性を確保するため、好ましくは粉末を使用する。粉末の急結剤は、好ましくは圧縮空気をキャリアとして急結剤注入口から坏土中に注入する。水溶液の急結剤を坏土に注入するときはなるべく濃い水溶液を使用するのが好ましい。急結剤は、均一に分散するように圧縮空気で吹いて圧縮空気をキャリアとして坏土中に注入するのが好ましい。
【0027】
急結剤としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム等のアルミン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の炭酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、CaO・Al_(2)O_(3)、12CaO・7Al_(2)O_(3)、CaO・2Al_(2)O_(3)、3CaO・Al_(2)O_(3)、3CaO・3Al_(2)O_(3)・CaF_(2)、11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)等のカルシウムアルミネート類、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及びこれらの複合物又は混合物から選ばれる1種以上が使用できる。
【0028】
急結剤の所要量は、急結剤の種類によってある程度変化するので、急結剤の種類と、急結剤を注入した後のノズル配管の長さなどによって注入量を調節するのが好ましい。
【0029】
これらの急結剤のうちで、入手が容易であって安価であり、かつその急結特性が優れていることから、アルミン酸ナトリウムの粉末又は水溶液を使用するのが好ましい。アルミン酸ナトリウムはその融点が高いので耐火物の耐火度を低下させず、坏土中に注入すると加水分解してNaOHの他にAl(OH)_(3)のゲルを生じて坏土を急速に硬化させる。
【0030】
急結剤の注入量は、水と分散剤を除く粉体組成物100重量部に対して、乾量基準の重量で0.05?3重量部とするのが好ましい。0.05重量部より少ないと、性能のよい急結剤であっても急結速度が不足して吹付け施工された坏土が流れ落ちることになり、3重量部を超えて多く注入すると急速に硬化して吹付け施工が難しくなったり、耐熱性や耐食性などの耐火物としての性能が低下することになる。
【0031】
また、圧送ポンプとしては、市販品を入手できることから、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用するのが好ましい。スクイーズ式とはダイヤフラムを圧縮空気で駆動するダイヤフラム式ポンプ、弾性を有するチューブをローラでしごいて坏土を圧送するポンプ等をいう。これらの圧送ポンプとしては圧送する坏土の脈動が小さくなるように、好ましくは複数のダイヤフラム、複数のチューブ又は複数のピストンを備えた圧送ポンプを使用するのが好ましい。
【0032】
また、粉体組成物100重量部に対して、0.003?0.2重量部の遅延剤を添加すれば、混練した坏土の可使時間を延長でき、気温が高い夏場でも充分な可使時間を確保でき、安定して耐火物を吹付け施工できる。遅延剤には、シュウ酸、ホウ酸、リンゴ酸、クエン酸などの弱酸が好ましく使用できる。
【0033】
【実施例】[例1?6、1’及び2’]
耐火性骨材として、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)及びFe_(2)O_(3)の含有量がそれぞれ43重量%、53重量%及び0.9重量%であって、粒径が1.68?5mmの粗粒、粒径が0.1?1.68mmの中粒及び粒径が0.02?0.1mmで平均粒径が0.03mmの細粒からなるシャモット質骨材を使用した。
【0034】
耐火物の結合部を構成する耐火性粉末として、Al_(2)O_(3)とCaOの含有量がそれぞれ55重量%と36重量%で平均粒径が9μmのアルミナセメント、Al_(2)O_(3)の純度が99.6重量%で平均粒径が4.3μmのバイヤーアルミナ及びSiO_(2)の純度が93重量%で平均粒径が0.8μmのヒュームドシリカを用いた。また、分散剤としてP_(2)O_(5)とNa_(2)Oの含有量がそれぞれ60.4重量%と39.6重量%のテトラポリリン酸ナトリウムの粉末を用いた。
【0035】
耐火性骨材と耐火性粉末及び分散剤を調合して表1に示す粉体組成物を調合し、各組成物に表1に示す量の水(耐火性骨材と耐火性粉末は内掛け重量%、他はいずれも外掛け重量%)を加え、500kg容量のボルテックスミキサー中で3分間混練して坏土とした。各坏土の流動性は、混練した各坏土を上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径を2方向についてノギスで測定し、その平均値をフロー値とした。
【0036】
急結剤には、粒径が800μm以下で平均粒径が約150μmの粉末であって、アルミン酸ナトリウム(約20%の結晶水を含む)と炭酸ナトリウムを3:1の重量比で含むものを用い、表1に示した調合の坏土を調製して吹付け施工した。すなわち、図1の系統概要図に示す構成の吹付け施工装置を使用し、垂直な鉄板からなる壁面(アンカーは設けず)に約100mmの厚さに吹付け施工を行った。これらの試験は、特に断りのない限り約20℃の室内で、組成物に約20℃の水を混合して行った。
【0037】
図1において、1は圧送ポンプ、2a、2bは圧送配管、3はノズル、4は吹付けノズル、5は急結剤のフィーダ、6はエヤーコンプレッサ、7は混練手段を備えた坏土の容器、8は施工壁面、9は吹付け施工された施工体、10は圧縮空気注入口、11は急結剤注入口、12、13は空気用弁である。なお、以下の例では圧送ポンプとして2つのピストンを備えるPutzmister社製圧送ポンプBSA702を用い、圧送速度を混練した坏土で3トン/時間とし、圧縮空気注入口から4?6気圧に調節した圧縮空気を注入して吹付けノズルに坏土を供給した。
【0038】
また、粉末状急結剤を定量的に坏土に注入するため、テーブルフィーダを備える日本プライブリコ社製のQガンを用い、空気圧力を3?4kg/cm^(2)の範囲で制御して表1に示す急結剤の注入量に調節した。
【0039】
なお、上記実施例で使用された吹付け施工装置では、圧送ポンプ1から圧縮空気の注入口10までの圧送配管2aを寸法65Aで長さが70mの鋼管及び65Aから50Aに絞った長さ1mのテーパ付き鋼管を接続したものとし、圧縮空気の注入口10から急結剤の注入口11までの圧送配管2bを寸法50Aで長さ3mのゴムホースとし、急結剤の注入口11から吹付けノズル4までのノズル配管3を寸法50Aで長さが1.2mのゴムホースとして配管の内側に段差ができないように接続した。また、圧縮空気注入口10と急結剤の注入口11にはそれぞれY字管を取り付けた。
【0040】
吹付けノズル4は柔軟なゴムホースに接続されているのでゴムホースの及ぶ範囲で移動と方向の変更が容易であるので、吹付けノズル4は手で持って操作し、壁面8に吹付け施工した。本発明の施工方法では、吹付け施工時のリバウンドと粉塵の発生はほとんどなく、従来の不定形耐火物の吹付け施工方法と比べて施工歩留と作業環境はきわめて良好であった。
【0041】
施工壁面に厚さ約100mmに吹付け施工した施工体を20℃の室内に24時間放置し、各施工体から約30cm×30cmの大きさの施工体試料を採取し、採取した試料を110℃で24時間乾燥した後、JIS R2205に規定された方法に準じて気孔率と嵩比重を測定した。
【0042】
表1の例1、例2、例1’、例2’は本発明の実施例であり、例3と例4は急結剤の注入量が不適当な例であり、例3では急結剤が不足して壁面から坏土がタレ落ち、満足な施工体が得られなかった。また、例4では急結剤が過剰なため坏土の硬化が急速に進行し、吹付けノズルからの吹付けが不安定となり、リバウンドロスが多く出て壁面への付着性が悪く、やはり満足な施工体が得られなかった。このため、例3と例4については施工体の性質の測定等がなされていない。
【0043】
例5と例6はそれぞれ例1と例2の坏土を、内寸40mm×40mm×80mmの型枠に流し込み成形した不定形耐火物の施工体について求めた結果であり、表1に示された例1と例2との比較から、本発明の方法によって吹付け施工して得られた不定形耐火物の施工体の嵩比重や圧縮強度等の物性は、流し込み成形して得られた不定形耐火物の施工体の耐火物の物性と比べてほとんど劣らないことが分かる。例1’は例1の粉体組成物に遅延剤であるシュウ酸を添加した実施例であり、例2’は例2の粉体組成物に遅延剤であるホウ酸を添加した実施例である。
【0044】[例7、8、7’及び7”]
耐火性骨材として上記シャモットの代わりにボーキサイトを用いた試験結果を表2に示す。使用したボーキサイト中のAl_(2)O_(3)、SiO_(2)及びFe_(2)O_(3)の含有量はそれぞれ89重量%、7重量%及び1.3重量%であり、粗粒、中粒及び細粒の粒度範囲はシャモットの骨材と同じにした。ただし、ボーキサイトの細粒の平均粒径は0.02mmであった。表2の例7は本発明の実施例であり、例8は同じ坏土を流し込み施工した比較例である。
【0045】
例7’及び例7”は例7の粉体組成物中に遅延剤としてシュウ酸を添加した実施例であり、例7”のみは試験を気温約30℃の夏場に行った。例7”の結果から、適当量の遅延剤を粉体組成物に添加しておくことによって、混練後の坏土の可使時間を延長でき、気温が30℃の夏場であっても安定して吹付け施工できることが分かった。
【0046】
表1と表2から分かるように、本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法によれば、得られた施工体の気孔率と嵩比重の値は流し込み施工された不定形耐火物の施工体の気孔率と嵩比重の値と比べて遜色がない。この12.5%以下という気孔率は従来の不定形耐火物の吹付け施工方法で得られている不定形耐火物の気孔率(特開昭62-36071の実施例に記載のあるシャモット等を骨材とした不定形耐火物の吹付け施工体の気孔率は16%以上)と比べて顕著に小さい。
【0047】
耐火物の重要な使用特性である耐食性が耐火物の気孔率によって大きく左右されることから、本発明の施工方法を採用すれば、流し込み施工された不定形耐火物の施工体と比べて遜色のない優れた耐食性を有する不定形耐火物を吹付け施工できる。
【0048】
図2に示す吹付け施工装置は、本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法を実施するために使用できる他の施工装置の例であり、この施工装置では圧縮空気と急結剤の坏土への注入が同位置でなされるように圧縮空気及び急結剤注入口14が圧送配管2aとノズル配管3の間に設けられており、図1の装置と同じ名称の部分には図1と同じ符号が付してある。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【発明の効果】
本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法によれば、流し込みによる施工方法と比べて型枠が不要であるなどによって顕著な省力化が達成でき、工期も顕著に短縮できるという利点が得られる。また、粉体組成物に所要の水分加えて混練してある自己流動性を有する坏土をポンプ圧送して吹付け施工することにより、施工体の気孔率が従来の吹付け施工方法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくでき、流し込み施工された不定形耐火物の施工体に劣らない嵩比重、すなわち良好な耐食性を有する不定形耐火物の施工体が得られる。この不定形耐火物の施工体は、従来の吹付け施工法による嵩比重の小さい不定形耐火物の施工体と比べて耐火物としての特性が顕著に優れている。
【0052】
また、吹付け施工時のリバウンドによるロスが非常に少ないので不定形耐火物の施工歩留がよく、粉塵がほとんど発生しないので作業環境も良好である。省力化と良好な作業環境の確保は、今後の産業の存続と発展に不可欠な要件でもあるので、その産業上の価値は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法を実施するのに使用される装置の系統概要図。
【図2】
本発明の不定形耐火物の吹付け施工方法を実施するのに使用される他の装置の系統概要図。
【符号の説明】
1:圧送ポンプ
2a、2b:圧送配管
3:ノズル配管
4:吹付けノズル
5:急結剤のフィーダ
6:エヤーコンプレッサ
7:混練手段を備えた坏土の容器
8:施工する壁面
9:吹付け施工された施工体
10:圧縮空気注入口
11:急結剤注入口
12、13:空気用弁
14:圧縮空気及び急結剤注入口
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-05-01 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-22 
出願番号 特願平8-116621
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (F27D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 近野 光知
平塚 義三
登録日 2004-03-12 
登録番号 特許第3531702号(P3531702)
発明の名称 不定形耐火物の吹付け施工方法  
代理人 坪倉 道明  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 大友 良浩  
代理人 大崎 勝真  
代理人 金山 賢教  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  
代理人 和氣 満美子  
代理人 鈴木 英之  
代理人 坪倉 道明  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 川口 義雄  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 隈部 泰正  
代理人 大崎 勝真  

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