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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07K
管理番号 1195326
異議申立番号 異議2003-73801  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2009-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-29 
確定日 2009-01-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3457004号「hPTH(1-37)配列由来のペプチド」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3457004号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3457004号の発明についての出願は、平成7年9月22日(パリ条約による優先権主張、1994年9月28日、ドイツ)に出願され、平成15年8月1日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、平成15年12月29日付でスキャンティーボディーズ・ラボラトリー,インコーポレイテッドより本件特許の請求項1-10に係る発明について本件特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成17年1月11日に訂正請求がなされた。
一方で、本件特許について、平成16年4月30日付で、請求項1及び請求項3乃至6についての特許を無効とすることについて審判が請求され、平成18年5月2日に当該請求項についての特許を無効とする旨の審決がなされ、平成20年2月5日に当該審決が確定した。
そこで、この間中止していた本件特許異議申立の審理手続の中止が解除され、平成20年6月3日に、特許異議申立人から、特許異議の申立に係る特許の表示につき、「全請求項(請求項の数10)」を「請求項2,7?10(請求項の数5)」とする手続補正書が提出され、一方で、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成20年6月13日に、新たに訂正請求がなされ、同日付で、平成17年1月11日付けの訂正請求が取り下げられたものである。

2.平成20年6月13日付訂正の適否
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
平成15年5月12日付の手続補正書により補正された請求の範囲の請求項1及び3?6を削除するとともに、同日付の手続補正書により補正された請求の範囲の請求項2及び7?10を、訂正後の請求項1?5として請求項の番号を付け直し、また、訂正後の請求項1?5において、本訂正請求により削除された「平成15年5月12日の本件特許出願人提出に係る手続補正書により補正された請求の範囲の請求項1及び3?6」を引用している記載について、削除された請求項の番号を引用することなく、削除された請求項に記載されている内容を記載する。

イ.訂正事項b
訂正後の請求項4における項目(i)において、「生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための」という記載を追加する。

ウ.訂正事項c
訂正後の請求項4における項目(iii)において、「生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための」という記載を追加する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項a乃至cは、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正は、適法なものである。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、平成15年改正前特許法第120条の4第2項の規定、及び同条第3項で準用する同法第126条第2,3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立ての概要
特許異議申立人は、
(1)甲第1号証、甲第2号証、甲第10?12号証、甲第14号証、及び、甲第15号証を提出し、訂正前の請求項2,7?10に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべき旨、
(2)甲第1?15号証を提出し、訂正前の請求項2,7?10に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべき旨、
(3)甲第2号証、甲第5号証、甲第13号証、及び、甲第16号証を提出し、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、訂正前の請求項2,7?10に係る発明の特許を取り消すべき旨、主張する。
これに対し、上述のとおり、訂正前の請求項2,7?10は、新たな請求項1?5に訂正された。
したがって、以下、訂正後の請求項1?5に係る発明の特許について、特許異議申立ての理由により取消すべきものであるか否か、検討する。

4.特許異議の申立て理由(2)についての判断
(1)本件発明
訂正明細書の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「1. 生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメントを製造するための、以下の配列からなるペプチドの使用であって、

hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH
hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH

ペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、ヘモシアニンに結合している、上記の使用。

2. 以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメントを含む、生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hPTH(1-37)を検出するための診断薬。

hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH
hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH

3. ヒト上皮小体ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに含み、両抗体が、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できる、請求項2に記載の診断薬。

4. 以下の(i)から(iii)の何れかに記載の抗体を用いて、インビトロで生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hPTH(1-37))を検出する方法。
(i)少なくとも1個の以下のペプチド、又はペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、ヘモシアニンに結合している上記のペプチド、による動物の免疫によって得ることができる、生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメント:

hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH
hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH

(ii)以下の配列から選ばれるペプチドを認識してそれに結合する、上記(i)に記載の抗体又は抗体フラグメント。

hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH
hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH

(iii)以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する、生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメント:

hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH
hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH

5. ヒト上皮小体ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに使用し、両抗体が、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できる、請求項4に記載の方法。」

(2)異議申立人の提出した甲号証
甲第1号証:European Journal of Pharmaceutical Sciences vol.2,No.1/2(1994)p154(右上欄)甲第3号証:Journal of immunoassay,13(1),1992,p1-13
甲第5号証:Antibodies-A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory, l988
甲第7号証:Advances in Protein Design InternationaI Workshop 1988;GBF Monographs,Vol.12
甲第8号証:Advances in Experimental Medicine and Biology 208,1986, p315-327
甲第11号証:Elsevier Science B.V社の「Pharmaceutical Sciences of Elsevier Science」出版編集長であるKimberly L.Briggs氏による、宣誓供述書の写し
甲第12号証:大英図書館文献サービスセンター(British Library Document Supply Centre)の特許裁判担当官であるAndrew William Smith氏による宣誓供述書の写し

(3)甲号証の記載事項
甲第1,3,5,7,8,11,及び12号証には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

甲第1号証:European Journal of Pharmaceutical Sciences vol.2,No.1/2(1994)p154(右上欄)(1-1)hPTHの生理的循環型フラグメントである、ヒト上皮小体ホルモン1-37(hPTH1-37)の免疫学的検出(表題)
(1-2)ヒト上皮小体ホルモン(84アミノ酸ペプチド)は、カルシウム代謝のホメオスタシスにおける主要な因子の一つである。hPTHは代謝されて多数のC末端フラグメントを生じるが、それらの生物学的意義は不明である。N末端フラグメントのhPTH1-37はhPTHの生理的循環体として提案されていたことから、我々は、ヒト血清におけるこのフラグメントを測定するための免疫学的アッセイを開発した。(2頁本文第1?7行)
(1-3)我々は、無血清細胞培養におけるハイブリドーマ細胞によりhPTH1-37に対するモノクローナル抗体(Mab)を作製した。hPTH1-37に対する配列特異的ポリクローナル抗体を生成するために、我々はhPTH1-37の一次構造の一部を有する多重抗原性ペブチドシステム(MAP)を合成した。我々は、ウサギにおいて惹起された10種のポリクローナル抗血清:血清K1-K3(hPTH1-10MAPから)残基5-9の間のヘリツクス領域を含む;血清K4-K6(hPTH9-18MAPから)残基10-16の間の不定領域を提示する、および血清K7-K10(hPTH24-37MAPから)C末端らせん(残基17-34)を構成する、を得た。(2頁本文第7?16行)
(1-4)全てのポリクローナルおよびモノクローナル抗体をエピトープマッピングにより特徴付けた。この目的のため、hPTH1-37全体に相当するように配列を重なり合わせたペプチド(9-10アミノ酸残基)を合成した。抗原決定基が以下のように見出された:(1)血清K1-K3はhPTH1-5の配列に優位的に結合する、(2)血清K4-K6は残基9-14に選択的に結合する、(3)血清K7は24-30残基を認識する、(4)血清K8およびK9は残基28-36に結合する、(5)血清K10は残基30-37を認識する。(6)全てのMabは、hPTHフラグメント16-24を認識する。まとめると、hPTH1-37の様々な領域が産生された抗体によりカバーされている。(2頁本文第16?25行)
(1-5)さらに、二つの抗体を組み合わせた二部位アッセイの試験を行った。これらの実験によって、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントを特異的に検出できる可能性が示される。(2頁本文第25?28行)

甲第3号証:Journal of immunoassay,13(1),1992,p1-13
(3-1)エピトープマッピングによるhPTH(1-38)に対するマウスポリクローナル抗血清の結合特性(図2の表題)ピン1のペプチド(hPTH1-6)に結合特性が認められる。
(3-2)抗体の有意な量が結合する少なくとも4つの異なるエピトープ:配列 5-12(ピン5?7、Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly)、16-25(ピン16?20、Asn-Ser-Met-Glu-Arg-Val-Glu-Trp-Leu-Arg)、24-30(ピン24?25、Leu-Arg-Lys-Lys-Leu-Gln-Asp)および27-34(ピン27?29、Lys-Leu-Gln-Asp-Val-His-Asn-Phe)が存在した。(5頁16?21行)

甲第5号証:Antibodies-A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory, l988
(5-1)ペプチドのサイズ 元のタンパク質に結合する抗体を確実に誘導することができる最小の合成ペプチドのサイズは6残基であろう。小さいペプチドは典型的には免疫原性が弱く、所望のタンパク質を認識しないかもしれない。・・・一般的には約10残基のペプチドが、キャリアと結合させて用いる場合の最低限のサイズとして用いられている。(第76頁20?30行)
(5-2)好適なキャリアの選択 多くのキャリアタンパク質が合成ペプチドに結合するのに用いられる。最も一般的に用いられるキャリアタンパク質は、キーホールリンベットヘモシアニン(KLH)と、ウシ血清アルブミン(BSA)である。(第77頁27?30行)

甲第7号証:Advances in Protein Design InternationaI Workshop 1988;GBF Monographs,Vol.12
(7-1)最初の二つのアミノ酸残基のようなわずかな欠失であっても、腎PTHレセプターとの相互作用はまだあるものの、インビトロでのPTH活性を完全に消失させる。(169頁21?24行)

甲第8号証:Advances in Experimental Medicine and Biology 208,1986,p315-327
(8-1)10アミノ酸を除去しなくても、1位と2位のアミノ酸残基を単に除去するだけで、同じインビトロアッセイにおいて明らかな生物活性の完全な消失がみられる。(318頁8?10行)

甲第11号証:Elsevier Science B.V社の「Pharmaceutical Sciences of Elsevier Science」出版編集長であるKimberly L.Briggs氏による、宣誓供述書の写し
(11-1)甲第1号証であるEuropean Journal of Pharmaceutical Sciences vol.2,No.1/2の発行日が1994年9月12日である旨が証明されている。

甲第12号証:大英図書館文献サービスセンター(British Library Document Supply Centre)の特許裁判担当官であるAndrew William Smith氏による宣誓供述書の写し
(12-1)甲第1号証であるEuropean Journal of Pharmaceutical Sciences vol.2,No.1/2が大英図書館に1994年9月16日に受け入れられた旨が証明されている。

(4)対比・判断
最初に、上記甲第1号証が、本件優先日前に頒布された刊行物であるか否かについて検討する。
上記甲第1号証の発行日については、その表紙に「September 1994」と記載されているものの、何日であるのかは明示されていないが、上記甲第1号証の発行元であるElsevier Science B.V社の「Pharmaceutical Sciences of Elsevier Science」出版編集長であるKimberly L.Briggs氏による、宣誓供述書である甲第11号証を参照すれば、上記甲第1号証の掲載された雑誌の発行日は、1994年9月12日であり、また、甲第12号証に示されるとおり、当該雑誌は大英図書館に1994年9月16日に受け入れられたものと認められる。
そうすると、上記甲第1号証が、1994年9月12日に発行され、1994年9月16日に大英図書館に受け入れられていたのであるから、上記甲第1号証が、本件優先日である1994年9月28日前に、不特定の者が見得る状態におかれたことは明らかである。

なお、特許権者は、乙第1,6乃至8号証を提出して、「受領印のある日に受け入れられたとしても、頒布された刊行物とは言えない」旨を主張しているが、大英図書館へ受け入れたことにより、不特定の者が見得る状態におかれたとすることが社会通念上妥当なことであるといえるから、上記甲第1号証は大英図書館受け入れ日に頒布された刊行物ということができ、特許権者の主張は採用できない。
したがって、上記甲第1号証は、本件優先日前に頒布された刊行物であるものと認められる。
(なお、本件特許に対する無効審判である、無効2004-80037号で提出された、「国立国会図書館による受領印付きの表紙」によっても、甲第1号証が、1994年9月12日に発行され、1994年9月26日に国会図書館に受け入れられ、本件優先日である1994年9月28日前に、不特定の者が見得る状態におかれたことは明らかである。)
そこで、本件優先日前に頒布された甲第1号証の記載内容を検討する。
上記記載事項(1-1)「hPTHの生理的循環型フラグメントである、ヒト上皮小体ホルモン1-37(hPTH1-37)の免疫学的検出」によれば、甲第1号証の主題は、アミノ酸1-37からなるヒト血液中に存在するhPTHのフラグメントである「hPTH(1-37)」を検出することにあることは明らかである。
次に、上記記載事項(1-3)「我々は、ウサギにおいて惹起された10種のポリクローナル抗血清:血清K1-K3(hPTH1-10MAPから)・・を得た。」によれば、hPTH1-10のペプチドを使用して、三重リジン分枝化したもの(hPTH1-10MAP)でウサギを免疫してポリクローナル抗血清を得たのであるから、「抗体を製造するためのペプチド(hPTH1-10)の使用」及び「ペブチド(hPTH1-10)による動物(ウサギ)の免疫によってポリクローナル抗体を含む抗血清K1-K3が得られたこと」が記載されているといえる。
さらに、上記記載事項(1-4)には、(1)として、「血清K1-K3はhPTH1-5の配列に優位的に結合する」と記載されている。
ところで、(1-4)では、「全てのポリクローナルおよびモノクローナル抗体をエピトープマッピングにより特徴付けた。」と記載されているところからみて、(1-4)の(1)?(5)に記載された各血清K1-K10は、いずれもポリクローナル抗体として位置づけられており、(6)によると全てのモノクローナル抗体は、hPTHフラグメント16-24を認識するものであったのだから、(1-4)の「まとめると、hPTH1-37の様々な領域が産生された抗体によりカバーされている。」との記載、及び(1-5)の「二つの抗体を組み合わせた二部位アッセイの試験」との記載中の「抗体」とは(1-4)の(1)?(5)の血清群及び(6)のモノクローナル抗体を含めた6種類の「抗体」を指すものであると解される。
そして、上記(1-4)の(1)の記載は、hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体が、エピトープマッピングでは他のペプチドと比較して優位さをもってペプチド(hPTH1-5)に結合したことに他ならないから、このことは、hPTH(1-37)中の1-5部位付近にエピトープが存在することと共に、hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体が当該hPTH1-5エピトープを認識するものであることを強く教示するものである。
さらに、各血清群をモノクローナル抗体と共に(1-4)の(1)?(6)の6種類に場合分けした後のまとめの記載として、「hPTH1-37の様々な領域が産生された抗体によりカバーされている。」と結論づけていることからも、当該文献の筆者が「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」に対して1-5部位付近のエピトープの認識能を期待していることが窺われる。
また、上記記載事項(1-5)における「二つの抗体を組み合わせた二部位アッセイの試験を行った。」の二つの抗体は、(1-4)のこれら(1)?(6)の6種類の抗体から選択されることは明らかであるから、上記ペプチド(hPTH1-5)に結合する「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」も当然に当該アッセイのための「抗体」の候補の一つである。そして、続く「これらの実験によって、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントを特異的に検出できる可能性が示される。」の記載からみて、当該「二部位アッセイ」は、生理的循環型ヒトPTHフラグメントを特異的に検出するためのものであるから、甲第1号証には、上記ペプチド(hPTH1-5)に結合する「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」を血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)を免疫学的に検出するための候補の一つとすることが記載されているといえる。

ア.本件発明1に対して
本件発明1と、甲第1号証に記載された発明とを比較すると、「hPTH(1-37)を免疫学的に検出すること」は、「hPTH(1-37)を診断すること」に他ならないから、両者は、「hPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメントを製造するための、以下の配列からなるペプチドの使用。
hPTH 1-10
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-Asn^(10)-OH 」である点で一致し、
(1)診断対象となるhPTH(1-37)について、前者が、「生物活性を有する」と特定しているのに対して、後者が「生理的循環型」としている点で、また、(2)後者では、「hPTH1-10」により得られたポリクローナル抗体を血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)を免疫学的に検出するための候補の一つとすることが記載されているだけである点で、また、(3)前者は、hPTH1-10を使用する態様の他に、
「hPTH 1-9
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-His^(9)-OH
hPTH 1-8
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-Met^(8)-OH
hPTH 1-7
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-Leu^(7)-OH
hPTH 1-6
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-Gln^(6)-OH
hPTH 1-5
NH_(2)-Ser^(1)-Val^(2)-Ser^(3)-Glu^(4)-Ile^(5)-OH」を使用する態様を含むのに対し、後者では、ペプチドhPTH1-10よりもC末端側の短いペプチドhPTH1-5乃至hPTH1-9は用いていない点で、さらに、(4)前者では、ペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、へモシアニンに結合しているものを用いるのに対して、後者ではそのようなものを使用しておらず、具体的には、当該ペプチドを使用して三重リジン分岐化したhPTH(1-10)MAPを用いている点で、相違している。

上記相違点について検討する。

相違点(1)について
本件発明2における「生物活性を有する」とは、本件特許明細書の記載によれば、hPTHの最初の二つのアミノ酸が欠けることのないものを意味するものであるが、甲第1号証に記載の発明も、hPTH(1-37)の全長の検出を行うものであるから、上記点で、診断対象となるhPTH(1-37)が相違するものではなく、この点は実質的な相違点とはいえない。

相違点(2)について
前記のとおり、甲第1号証には、2種類の抗体を用いた二部位アッセイにより、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)を免疫学的に検出するための6種類の抗体のうちの1つの候補として、ペプチド(hPTH1-5)に結合する「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」が、挙げられている。
また、上記甲第3号証の上記記載事項(3-1)によれば、ペプチドhPTH1-6も有意にペプチドhPTH1-38に対するマウスポリクローナル抗血清に対する反応性を有するといえるから、ペプチドhPTH1-38の抗原エピトープの一つが1-6部位付近に存在すると期待することに無理はない。
そして、本件優先日前に、既に、上記甲第7及び8号証の上記記載事項(7-1)、(8-1)のとおり、hPTHのN末端の1位と2位のアミノ酸は生物活性を維持する上で必須であることが知られているのだから、甲第1号証のみならず上記甲第3号証の記載からも、hPTHのN末端付近にエピトープが存在することが強く示唆されている以上、甲第1号証に接した当業者であれば、上記二部位アッセイ用の抗体の一つとしては、むしろ必ずhPTH1-10に対する抗体を選択するということができる。
このことは、とりもなおさず、甲第1号証及び甲第3,7,8号証の記載に基づいて、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)を免疫学的に検出するための抗体を産生するための免疫原として、hPTHの1-10位のペプチドフラグメントを用いようとすることが当業者にとって容易に想到できることであることに他ならない。

相違点(3)について
上記甲第5号証に記載のとおり、抗体を確実に誘導することができる最小の合成ペプチドのサイズは6残基であることを考慮すれば、ペプチドhPTH1-10よりもC末端側の短いペプチドhPTH断片を用いても、同様の抗体が得られる可能性があることは十分に予測できることである。
したがって、hPTH1-5を認識する抗体を得る目的で、ペプチドhPTH1-10に代えて、ペプチドhPTH1-10よりもC末端側の短いペプチドhPTH1-5乃至hPTH1-9を用いてみようとすること自体に格別の困難性は見出せない。

相違点(4)について
上記甲第5号証の記載事項(5-2)のとおり、ペプチド抗原にも用いられるキャリアタンパク質として、キーホールリンベットヘモシアニンは一般的なものであるから、引用例発明において、免疫原として用いるペプチドを、そのペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、へモシアニンに結合しているものとすることは当業者が適宜なし得たことである。

そして、本件発明1により得られる効果について検討しても、本件明細書においては、実施例において、ペプチドhPTH1-10の合成(実施例1)、精製及び分析(実施例2)、キャリア一蛋白へのカップリング(実施例3)、多重抗原性ペプチド(MAP)の合成(実施例4)、免疫(実施例5)までの内容を全て現在形で記載しただけであり、免疫した動物からどこを認識する抗体が得られたのか、二部位アッセイの結果がどうあったのか、さらに、ペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、へモシアニンに結合することにより、そうでない場合と比較してどのような作用効果が奏されるのかについては全く記載されていないから、これにより甲第1号証に記載の発明と比較して格別の効果を奏するものともいえない。
したがって、本件発明1は、上記甲第1号証及び甲第3、5,7,8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ.本件発明2に対して
本件発明2は、ペプチドhPTH1-5乃至hPTH1-10を特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメントを含む、生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hPTH(1-37))を検出するための診断薬に係る発明である。
ア.の「相違点(2)について」で述べたとおり、甲第1号証には、2種類の抗体を用いた二部位アッセイにより、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)、すなわち本件発明2でいうところの生物活性を有するhPTH(1-37)を免疫学的に検出するための6種類の抗体のうちの一つの候補として、ペプチド(hPTH1-5)に結合する「血清K1-K3」即ち「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」が挙げられており、また、甲第3号証に、ペプチドhPTH1-38の抗原エピトープの一つが1-6部位付近に存在することが示唆され、甲第7、8号証により、hPTHのN末端の1位と2位のアミノ酸は生物活性を維持する上で必須であることが知られていることから、甲第1号証の記載に接した当業者は、生物活性を有するhPTH1-37を検出するための診断薬に用いる抗体としては、必ず上記hPTH1-10に対するポリクローナル抗体を選択するということができる。 そして、甲第1号証において、「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」が「hPTH1-5の配列に優位に結合する」と記載されていることからみて、hPTH1-10に対するポリクローナル抗体がhPTH(1-37)が有する1-5部位付近のエピトープを認識するものであることが強く示唆されているといえるから、hPTH1-10若しくはhPTH1-5乃至1-9のペプチドフラグメントを免疫原として得られるモノクローナル抗体の中には、同1-5部位付近のエピトープを特異的に認識し、hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体が存在する可能性も十分示唆されているといえ、そのような特異的抗体を想定すること自体に困難性はない。
してみると、hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメントを含む、生物活性を有するhPTH(1-37)を検出するための診断薬は、これらの甲号証に基づき当業者が容易に想起し得るものである。
そして、本件明細書の実施例の記載は上記「ア.」で述べたとおりのものであり、hPTH1-5乃至1-10を特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメントについては実際に得られておらず、本件発明2が甲第1号証に記載のものと比較して格別顕著な効果を奏するものであるとすることもできない。
したがって、本件発明2は、上記甲第1号証及び甲第3、5,7,8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ.本件発明3に対して
本件発明3は、本件発明2において、ヒト上皮ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに含み、本件発明2に記載された「hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体」と当該抗体とが、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できるものである、生物活性を有するhPTH(1-37)を検出するための診断薬に係る発明である。
甲第1号証に記載された二部位アッセイにおいて、「hPTH1-5乃至1-10を特異的に認識してそれに結合する抗体」とともに他の上記記載事項(1-4)の(2)?(6)のいずれかの抗体、例えば(2)の血清K4-K6即ち残基9-14に選択的に結合する抗体又は、(5)の血清K10即ち残基30-37を認識する抗体であって、相互に立体障害となりにくいものを用いることは当業者が適宜なしうるところであり、本件明細書には実際にこれを行ったことも記載されておらず、これにより格別の効果を奏するものでもないから、本件発明3も、本件発明2と同様に、上記甲第1号証及び甲第3,5,7,8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ.本件発明4に対して
本件発明4は、(i)本件発明1により製造された抗体又は抗体フラグメント、(ii)hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを認識して結合する、上記(i)の抗体又は抗体フラグメント、及び(iii)本願発明2に記載された、hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメント、の何れかに記載の抗体を用いて、インビトロで生物活性を有するhPTH(1-37)を検出する方法に係る発明である。
本件発明1,2について検討したとおり、甲第1号証の記載に基づき、ペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、へモシアニンに結合しているhPTH1-10を免疫原としてポリクローナル抗体を得ること、及び、hPTH1-10を免疫原として得られる抗体の中にhPTH1-5乃至1-10を特異的に認識してそれに結合する抗体が存在することを想定することに困難性はなく、また甲第1号証及び甲第3、5、7、8号証の記載に基づけば、当該抗体は生物活性を有するhPTH(1-37)を検出するための二部位アッセイ用の抗体として必ず選択されるものといえるから、(i)本件発明1により製造された抗体又は抗体フラグメント、(ii)hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを認識して結合する、上記(i)の抗体又は抗体フラグメント、及び(iii)本願発明2に記載された、hPTH1-5乃至1-10の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメント、の何れかに記載の抗体を用いてインビトロで生物活性を有するhPTH(1-37)を検出することは、これらの引用例に基づき当業者が容易に想起し得るものである。
そして、上述のとおり、本件明細書においてもこれらの抗体が得られたことは記載されていないから、本件明細書に基づき顕著な効果を主張することはできず、本件発明4は、本件発明1,2と同様に、甲第1号証及び甲第3、5、7、8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明4も、上記甲第1号証及び甲第3,5,7,8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 本件発明5に対して
本件発明5は、本件発明4において、ヒト上皮ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに使用し、本件発明4で用いる抗体又は抗体フラグメントと当該抗体とが、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できるものである、インビトロで生物活性を有するヒトhPTH(1-37)を検出する方法に係る発明である。
本件発明3で検討したとおり、甲第1号証に記載された二部位アッセイにおいて、ペプチド(hPTH1-5)に結合する「hPTH1-10によりウサギを免疫することにより得られたポリクローナル抗体」とともに、例えばhPTH9-14に選択的に結合する抗体又はhPTH30-37を認識する抗体であって、相互に立体障害となりにくいものを用いることは、当業者が適宜なし得ることであり、それにより格別の効果を奏するものでもないから、本願発明5は、本願発明3と同様に、甲第1号証及び甲第3、5、7、8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、本件発明1?5は、上記甲第1号証及び甲第3,5,7,8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)特許権者の主張について

ア.特許権者は、意見書7頁9?23行において「引用例は、生理的循環体のhPTH(1-37)の検出に言及しているのみであるが、生理的循環体には生物活性を有さないもの(例えばhPTH(3-37))もある一方、本発明の抗体は、生物活性を有するhPTHだけを認識するものであり、生物活性を有さないhPTH(3-37)には結合しないものである」旨主張している。
しかしながら、確かに、生理的循環体の中には、一般に生物活性を有するものと有さないものとがあろうが、甲第1号証(意見書中の「引用例」に相当)のhPTH(1-37)のようにN末端の1,2位を含むhPTHフラグメントは、生物活性を有するものである。そして、甲第1号証は、生理的循環体の一つであるhPTH(1-37)の検出を目的とするものであるから、甲第1号証で言う「hPTH(1-37)」はN末端の1,2位を含む「生物活性を有するhPTH」であることは明白であり、特許権者の主張は採用できない。
また、特許権者は、乙第3号証を挙げて、抗血清K1-K3がhPTH4-12に結合することが示されているから、本件発明は甲第1号証に記載の発明と相違する旨主張しているが、本件発明において、「生物活性を有さないhPTHには結合しないものである」ことが特許請求の範囲に記載されてもいないから、特許権者の主張は、特許請求の範囲に基づくものではなく、特許権者の主張は採用できない。
また、本件発明の抗体について、本件明細書の実施例では、hPTH1-10のキャリアーペプチド共役体又はMAPを動物に免疫することが現在形で記載されているだけであって、実際に「生物活性を有さないhPTH(3-37)等には結合しない」抗体を調製したことのみならず、そのような抗体の取得法についても何ら示していない。
更に、乙第4乃至5号証によれば、免疫学的アッセイにより検出し得る、生理的循環体のhPTHは、「1-84、1-33、43-84、7-84、N,M,C」であり、特許権者が問題にしている、hPTH(3-37)、hPTH(4-37)の存在は無視できるから、実際の診断において格別の問題となるようなものではなく、この点からも特許権者の主張は採用できない。
なお、甲第1号証に記載の抗体のhPTH(3-37)への結合性については、甲第1号証に言及はないが、本件発明と甲第1号証に記載の抗体は、多重抗原性ペプチドを合成し、hPTH1-10のペプチドを用いて免疫する点で同一であるから、甲第1号証で得られる抗体が本件発明と相違するとは言えない。

イ.特許権者は、意見書16頁3?16行において甲第1号証には、「本発明の抗体を単離しようとする動機付けが存在しない」、「本発明の抗体の作成を試みるという動機付けが存在しない」、「2種類の抗体を用いた二部位アッセイは記載されてない」と主張している。
しかしながら、甲第1号証は、生物活性を有するhPTH(1-37)の免疫学的検出に関するものであり、hPTHの検出に精製抗体を用いることは、本件明細書の従来技術の項でも言及されている通り、本件優先日前、当業者にとって極めて一般的なことであった。
例えば、参考資料1「ホルモンと臨床 Vol.38、No.1, 7-10, 1990」及び参考資料2「Clin.Chem,33:1364-1367, 1987」には、以下の事項が記載されている。
参考資料1の7頁右欄2?5行には、「・・・2-siteIRMA法(サンドイッチ法)の測定原理に基づき、PTH(1-84)のみを高感度、広濃度域にわたり、簡便かつ迅速に測定できる画期的なアッセイが開発された。」旨記載されており、また、参考資料2の1364頁右欄10?14行には、「ここで、一つはPTH分子のN-末端1-34部分に特異的で、もう一方は39-84アミノ酸配列に対して特異的な、アフィニティ精製したポリクローナル抗血清を用いた、PTHの2部位IRMAの開発について述べる。」と記載されている。
このように、参考資料1及び2に示されるように、本件優先日前、アフィニティ精製したポリクローナル抗血清を用いたhPTH(1-84)の新しいアッセイキットが開発されたことは公知であった。
してみると、甲第1号証に記載の抗血清から抗体を精製することは、当業者が通常適宜行う程度のことであり、動機付けがないとは到底いえない。また、精製抗体を用いることで検出精度が向上することも当業者にとって自明のことにすぎない。
また、甲第1号証には、確かに、二部位アッセイの詳細についての開示はないものの、甲第1号証に記載の発明の目的がhPTH(1-37)という、1,2位を含んだ生物活性を有するhPTHの検出であるから、「二つの抗体を組み合わせた二部位アッセイの試験を行った。これらの実験によって、血清中の生理的循環型ヒトPTHフラグメントを特異的に検出できる可能性が示される。」という記載事項(1-5)によれば、甲第1号証に記載された抗血清中に含まれる、異なる2カ所の部位に結合する抗体を用いた二部位アッセイにより、生理的循環型ヒトPTHフラグメントであるhPTH(1-37)を免疫学的に検出することが記載されているといえ、そして甲第1号証における検出対象はhPTH(1-37)の全長であり、hPTH(1-37)の全長を検出する上で、hPTH1-5に結合する抗体を二部位の内の一方に用いることが好ましいことは当然である。

ウ.特許権者は、意見書16頁1?16行において、特許異議申立人の提出した甲第2号証である(Logue et al.,J Immunol Method,137,1991,p.159-166)を挙げて、甲第2号証には、「ヒトPTH(1-10)を抗原としたマウスの免疫による抗体力価は観察されなかった。」と記載されており、hPTH(1-10)に対する抗体を作製することが困難であり、上記引用例1においてもそれは不可能となるはずである」と述べ、甲第2号証は、本件発明の達成が困難であることを開示していると主張している。
しかしながら、甲第2号証には、短いペプチドPTH(1-10)あるいはPTH(1-34)ペプチドをキャリアーであるキーホールリンペットヘモシアニンあるいはウシ血清アルブミンに結合させてそれを抗原として抗体を作製する方法で抗体を作成しようとしており、そのために抗体が産生されなかったものと考えられる。
ところで、本件優先日においては短いペプチドに対する抗体を取得する方法として、ペプチドをキャリアタンパク質に結合させて抗原として用いる方法も、あるいは短いペプチドを多数つなぎあわせたMAP法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5409-5413 (1988)参照。)も常套手段であって、当業者はこれらの方法を適宜選択して抗体を作製していた。
そして、上記甲第1号証の上記記載事項(1-3)「我々は、ウサギにおいて惹起された10種のポリクローナル抗血清:血清K1-K3(hPTH1-10MAPから)・・を得た。」によれば、hPTH1-10のペプチドを使用して、三重リジン分枝化したもの(hPTH1-10MAP)でウサギを免疫してポリクローナル抗血清を得たのであるから、上記甲第1号証においては、多抗原性ペプチド法を用いて免疫することにより、抗体が得られていると解するのが相当である。
そうすると、甲第1号証の上記記載事項(1-4)「血清K1-K3はhPTH1-5の配列に優位的に結合する」によれば、血清K1-K3には、hPTH1-5に結合するものが多く含まれていたものと解されるところ、その中にはPTH1-5にのみに結合するものも含まれれていることは容易に予測できることであり、そのような抗体があれば、当業者は周知のスクリーニングでそれを得ることができるものであるから、被請求人の主張は採用できない。
また、特許権者が、キーホールリンペットヘモシアニンに結合させたペプチドPTH(1-10)によっては、抗体を産生することができない旨主張するのであれば、下記「5.」に示すように、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないともいえる。

エ.特許権者は、意見書22頁下から5行?23頁16行において、乙第2号証を挙げて縷々述べているが、乙第2号証は本件出願後の製品に関する文書に過ぎず、本件発明の進歩性とは関係のないものである。

オ.なお、特許権者は、意見書10頁16?21頁行において、乙第8号証を挙げて対応米国特許に関する侵害訴訟に関して言及しているが、本件とは関係がない。

5.特許異議申立理由(3)についての判断
本件発明1は、上記「4.」において認定したとおり、特許請求の範囲の請求項1に記載のとおりのものである。
一方、本件の発明の詳細な説明には、実施例3に、「キャリアー蛋白へのカップリング」手法が、現在形で記載され、実施例5に、「免疫」手法が、「最初の免疫用に、免疫すべき動物の体重1kg当たり125μgもキャリアーペプチド共役体又はMAPを水250mlに溶解して250μlの完全フロインド・アジュバンドを加えて乳化する。このエマルジョンを背中の種々の位置に10箇所に分けて皮下注射する。完全フロインド・アジュバンドを不完全フロインド・アジュバンドに置き換える以外は同様の方法でブースティングを2-4週間後に行う。」と記載されるにとどまり、実際に、上記ペプチドをヘモシアニンに結合して免疫した具体例は記載されていない。
そして、甲第2号証(J Immunol Method,137,1991,p.159-166)には、抗原としてヒトPTH1-10を用い、ヒトPTH1-10のC末端にビスジアゾ化トリジン結合を用いて、キーホールリンペッドヘモシアニンを共有結合させ(第160頁、左欄、第24?29行参照)、マウスに一次免疫したこと(第160頁、左欄、第30?33行参照)が記載され、この結果、マウスに免疫した場合には、PTH抗体の力価が検出されなかったことが記載されている(第161頁、右欄、第2?6行)。
してみれば、本件発明1において、hPTH 1-10にヘモシアニンを共有結合させて免疫しても、本件の所期の抗体が得られない場合が存在し、上記一般的な抗体の製造方法の記載がされているのみの本件明細書の記載に基づいて、本件発明1の実施をするためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものであるといえる。
したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

6.むすび
以上のとおり、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は、本件出願の優先日前に頒布された甲第1号証及び甲第3,5,7,8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、本件は、本件請求項2に係る発明について、明細書の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件請求項1乃至5に係る発明の特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
hPTH(1-37)配列由来のペプチド
【発明の詳細な説明】
本発明はhPTH(1-37)配列からのペプチド、該ペプチドを使用して動物を免疫することによって得ることのできる診断薬、該ペプチドを使用して動物を免疫することによって得ることのできる抗体又はそのフラグメント、及び生物活性を持つhPTHを診断するための薬剤の製造における該ペプチドの使用に関する。
84アミノ酸を有する直鎖状ポリペプチドであるヒト上皮小体ホルモン(hPTH)はカルシウム代謝の調節において重要な役割を演じている。このホルモンの代謝によって多数のC-末端フラグメントが生じるが、その生物学的作用はまだ解明されていない。hPTH(1-37)が体循環型のN-末端フラグメントであることが立証されている(EP-A 0 349 545)。このフラグメントは上記ホルモン全体の生物活性を完全に有している。しかしながら、最初のアミノ酸であるセリンを失うと活性は著しく低下し、最初の2アミノ酸、すなわちセリン及びバリンが無いと活性が完全に失われる。
完全なホルモンhPTH(1-84)及びN-末端フラグメントについては血清中レベルが10^(-12)mol/lの範囲にあることが測定されている。このような低濃度の測定には免疫学的測定法が使用される。この場合、最も確実な結果は、二重抗体又はサンドイッチ原理(例えば、二部位ラジオイムノメトリックアッセイ、IRMA、又はサンドイッチ酵素結合免疫吸着剤アッセイ、サンドイッチELISA)による測定法によって得られる。hPTH(1-84)については、そのようなアッセイ系が市販されている。hPTH(1-34)を測定するための二重抗体原理によるアッセイ系は知られていない。
この場合、2個の抗体が必要である。相互立体障害を避けるために、それらは互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できる必要がある。抗原全体を用いた免疫では、種々の抗体の不均質な混合物が得られ、サンドイッチアッセイを行うにはまず最初に費用のかかる精製にかけなければならない。ジェームソン及びウォルフ(B.A.Jameson and H.Wolf)、「抗原指数:抗原決定因子を予測するための新規計算法」、CABIOS 4,p.181-186,1988による理論的計算から、N-末端のアミノ酸7-14領域中に免疫原活性を持つ好ましい配列を検出することは従来でも可能であった。確立されている方法を用いたN-末端フラグメントによる免疫化からは、hPTH(1-34)について記載されているような(タンペ、ブロジオ、マネック、ミシュビヒラー、ブリング、ミラーズ、シュミッツガイク、及びアルムブルスター(J.Tampe,P.Brozio,H.E.Manneck,A.Missbichler,E.Blind,K.B.MIllers,H.Schmidt-Gayk,and F.P.Armbruster),「エピトープマッピングによるヒトN-末端上皮小体ホルモンに対する抗体の特性決定」;J.Immunoassay 13,p.1-13,1992)これらのアミノ酸の領域に結合する抗体が主に得られる。しかしながら、これらの抗体は生物活性を持つPTH(1-84)と生物活性を持たないPTH(1-84)又はその最初の2アミノ酸、セリン及びバリンを欠くフラグメントとを識別することができない。
本発明の基礎となる技術的課題は、生物活性を有するhPTHの診断における上記のような欠点を無くすことができるペプチドを提供することである。
驚くべきことに、上記の技術的課題はα-ヘリックス形アミノ酸配列領域及び/又は不定構造のアミノ酸配列領域を含むhPTH(1-37)の配列由来のペプチドによって解決され、当該ペプチドは動物に注射した際に抗体を誘導することができる。上記ペプチドは好ましくはhPTH(1-37)のアミノ酸5-9領域のN-末端α-ヘリックス、アミノ酸10-16の不定構造(non-structured)部分、及び/又はアミノ酸配列17-34領域のC-末端α-ヘリックスを含む。本発明の以下のペプチドが免疫化に使用されることが好ましい:




これらのNMRデータから具体的に示されるように、提示した配列はその一次構造中に二次構造の必須の特徴を表している。このための前提条件の一つは生理的溶液中におけるPTH(1-37)二次構造の決定である。
上記の特徴的な構造の領域は良好な免疫原性を持つ。抗体はN-末端の最初のアミノ酸に結合して形成される。わずか2個のアミノ酸が欠失すると親和性の実質的な消失が生じる。これらのアミノ酸は生物活性の発現に不可欠であるために、本発明のペプチドを使用することによって生物活性を有するhPTH及びそのフラグメントだけを認識する抗体を得ることが可能である。
さらに、アミノ酸30-37の領域にC-末端で結合する抗体と共に、中間領域9-15を検出する抗体を製造することができる。従って、理論的計算では分子全体中の免疫原活性を示さないhPTH(1-37)領域に対する抗体を本発明によって製造することが可能である。さらに、これらの領域は2個の抗体が同時に結合するのを妨げる立体障壁が存在しないように互いに離れた距離に分離されている。
好ましい態様においては、上記ペプチドはN-末端、側鎖及び/又はC-末端が修飾されていてもよく、すなわちアシル化、アミド化、リン酸化及び/又はグリコシル化生成物の形態を取ってもよい。
その結果、本発明のペプチドはヘモシアニン、チログロブリン、ウシ血清アルブミン、オバルブミン、又はマウス血清アルブミン等のようなキャリアー蛋白に結合していてもよい。キャリアー蛋白への結合は好ましくはカルボジイミド又はホルムアルデヒドを用いて行われる。
本発明のペプチドは診断薬の製造に使用することもできる。本発明の診断薬は動物に少なくとも1個の本発明のペプチドによりそれ自体は公知の免疫法を用いて得ることができる。免疫の後、免疫グロブリン分画を免疫した動物から単離することができ、この免疫グロブリン分画は少なくとも1個の本発明のペプチドに対する抗体力価を有する抗体分画を含んでいる。本発明は、このようにして得られた抗体にも関する。F_(ab)及びF_(c)からなる完全な抗体の他に、F_(ab)のようなそれのフラグメント又はペプチド・エピトープのイディオタイプである抗体フラグメントも他の態様として使用することができる。
本発明のペプチドは生物活性を有するhPTH(1-37)の診断に用いる薬剤の製造に適している。
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
ペプチドの固相合成
ペプチドを合成するための本発明の方法は固体担体を用いたペプチド合成に基づくものである。C-末端アミノ酸のそれぞれをジシクロヘキシルカルボジイミド及びジメチルアミノピリジンの存在下で担体部材に結合させる。Wang樹脂又は同様の樹脂を合成用の担体部材として用いる。
以下のL-アミノ酸誘導体を、特定されているペプチド樹脂から開始する上記配列合成に使用した:a)hPTH(1-10):Fmoc-Asn(Trt)-Wang樹脂、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-Met-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Val-OH、Boc-Ser(tBu)-OH;b)hPTH(9-18):Fmoc-Met-Wang樹脂、Fmoc-Ser(tBu)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Boc-His(Trt)-OH;c)hPTH(24-37):Fmoc-Leu-Wang樹脂、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Gln(Trt)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Arg(Pmc)-OH、Fmoc-Leu-OH。
合成は、ジイソプロピルエチルアミン又はN-メチルモルホリン及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾールの存在下で2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウム・テトラフルオロボレート(TBTU)若しくはその誘導体、又はベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(BOP)若しくはその誘導体を用いるin situ活性化により、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はN-メチルピロリドン中におけるカップリング反応中に4ないし10倍過剰量のFmoc-L-アミノ酸を用いて行うことができる。Fmoc基の除去はN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド又はN-メチルピロリドン中で20%ピペリジン又は2%ピペリジン及び2%1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン(DBU)を用いて行う。合成後、樹脂を2-プロパノール及びジクロロメタンで洗浄し、定常重量まで高減圧下で乾燥させる。
担体からの除去及び脱保護は上記ペプチド樹脂を室温で30-90分間、5%殺菌剤、水、エタンジオール、フェノール又はチオアニソールを含むトリフルオロ酢酸と反応させ、濾過してトリフルオロ酢酸で洗浄し、その後、tert-ブチルメチルエーテルで沈殿させることにより行われる。この沈殿を水溶液から凍結乾燥させる。
実施例2
精製及び分析
未処理の生成物をC18逆相カラムのクロマトグラフィーにより精製する(10μm、バッファーA:0.01 N HCl 水;バッファーB:20%イソプロパノール、30%メタノール、50%水、0.01 N HCl;勾配:60分間で10-80%;230nmで検出)。
生成物の純度はマススペクトル及びC18逆相クロマトグラフィーを用いて測定する。
実施例3
キャリアー蛋白へのカップリング
ヘモシアニン、チログロブリン、ウシ血清アルブミン、オバルブミン、又はマウス血清アルブミンをキャリアー蛋白として使用する。カップリングはカルボジイミド法によりペプチドのカルボキシル基を用いて行う。ペプチドを水溶液中で塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドと5分間反応させることにより活性化する。カップリングは活性ペプチドをキャリアーの水溶液に加えることによって行う。モル比はキャリアー蛋白の50アミノ酸に対して1ペプチドである。反応には4時間を要する。
反応は酢酸ナトリウムを100mMの最終濃度になるように加えて停止する。インキュベーションは1時間継続する。
上記蛋白-ペプチド共役体を100mMリン酸バッファー、pH 7.2に対して透析を繰り返すことによってペプチドから分離する。
実施例4
多重抗原性ペプチド(MAP)の合成
三重リジン分枝化(triple lysine branching)をWang樹脂に結合したC-末端アラニンにFmoc-L-lysine(Fmoc)-OHを3回のカップリングサイクルを用いて結合させることによって行う。ピペリジンを用いて開裂すると8個の遊離のアミノ基が得られ、ヒト上皮小体ホルモン配列が上記の記載に従って合成される。
実施例5
免疫
最初の免疫用に、免疫すべき動物の体重1kg当たり125μgのキャリアー-ペプチド共役体又はMAPを水250mlに溶解して250μlの完全フロインド・アジュバンドを加えて乳化する。このエマルジョンを背中の種々の位置に10箇所に分けて皮下注射する。
完全フロインド・アジュバンドを不完全フロインド・アジュバンドに置き換える以外は同様の方法でブースティングを2-4週間後に行う。
(57)【特許請求の範囲】
1.生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメントを製造するための、以下の配列からなるペプチドの使用であって、

ペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、ヘモシアニンに結合している、上記の使用。
2.以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する抗体又は抗体フラグメントを含む、生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hPTH(1-37))を検出するための診断薬。

3.ヒト上皮小体ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに含み、両抗体が、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できる、請求項2に記載の診断薬。
4.以下の(i)から(iii)の何れかに記載の抗体を用いて、インビトロで生物活性を有するヒト上皮小体ホルモン(hPTH(1-37))を検出する方法。
(i)少なくとも1個の以下のペプチド、又はペプチドのN末端、側鎖、及び/若しくはC末端が修飾されて、ヘモシアニンに結合している上記のペプチド、による動物の免疫によって得ることができる、生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメント:

(ii)以下の配列から選ばれるペプチドを認識してそれに結合する、上記(i)に記載の抗体又は抗体フラグメント。

(iii)以下の配列から選ばれるペプチドを特異的に認識してそれに結合する、生物活性を有するhPTH(1-37)を診断するための抗体又は抗体フラグメント:

5.ヒト上皮小体ホルモンのアミノ酸領域9-15又は30-37に結合する第2の抗体又は抗体フラグメントをさらに使用し、両抗体が、相互立体障害を避けるために互いに十分離れた位置にある抗原エピトープを認識できる、請求項4に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2008-09-08 
出願番号 特願平8-511352
審決分類 P 1 651・ 531- ZA (C07K)
P 1 651・ 121- ZA (C07K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲高▼ 美葉子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鵜飼 健
松波 由美子
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3457004号(P3457004)
権利者 ファリス バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 hPTH(1-37)配列由来のペプチド  
代理人 釜田 淳爾  
代理人 今村 正純  
代理人 奥山 尚一  
代理人 藍原 誠  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 松島 鉄男  
代理人 今村 正純  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 有原 幸一  
代理人 藍原 誠  

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