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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H |
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管理番号 | 1195928 |
審判番号 | 不服2008-3377 |
総通号数 | 114 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-13 |
確定日 | 2009-04-16 |
事件の表示 | 特願2003-582435「4サイクルエンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月16日国際公開、WO03/85285〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年(2003年)4月8日(優先権主張平成14年(2002年)4月8日、日本国)の出願であって、平成20年1月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年2月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年2月13日付けで手続補正がなされたものである。 2.補正却下の決定 [結論] 平成20年2月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 2-1 補正事項 平成20年2月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関し、次のような補正を含むものである。 (1)本件補正前の請求項1 「クランク軸の一端に接続された駆動プーリと該クランク軸に平行な変速軸の一端に接続された従動プーリとにVベルトを巻回するとともに変速機ケース内に収容してなるVベルト式無段変速機をエンジンケース側部に備えたエンジンにおいて、上記変速機ケースを、上記エンジンケースとの間に第1空間が生じるように設け、該エンジンケースに形成された潤滑油室を上記変速機ケースの下方に、かつ該変速機ケースとの間に第2空間が生じるように膨出させ、さらに該第1空間を上記第2空間に連通させたことを特徴とするエンジン。」 (2)本件補正後の請求項1 「クランク軸の一端に接続された駆動プーリと該クランク軸に平行な変速軸の一端に接続された従動プーリとにVベルトを巻回するとともに変速機ケース内に収容してなるVベルト式無段変速機をエンジンケース側部に備えた4サイクルエンジンにおいて、上記変速機ケースを、上記エンジンケースとの間に第1空間が生じるように設け、該エンジンケースに形成された潤滑油室を上記変速機ケースの下方に、かつ該変速機ケースとの間に第2空間が生じるように膨出させ、さらに該第1空間を上記第2空間に連通させたことを特徴とする4サイクルエンジン。」 2-2 補正の目的 上記補正は、補正前の請求項1に記載された「エンジン」について、特許法(平成14年法律第24号第2条の規定による改訂前のもの)第184条の6第2項の規定により願書に添付して提出された明細書とみなされた国際特許出願に係る国際出願日における明細書第9ページ第21行の記載を基に、「4サイクルエンジン」とさらに限定して特定するものである。そして、これによって発明の産業上の利用分野及び解決使用とする課題に変更がないことは、明らかである。 そうすると、上記補正の目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮に合致する。 2-3 独立特許要件 そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とした補正を含む本件補正後の本願発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に合致するか)について、以下に検討する。 2-3-1 本件補正後の本願発明 本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、特許法(平成14年法律第24号第2条の規定による改訂前のもの)第184条の8第2項ただし書きにより同法17条の2第1項の規定による補正がなされたものとみなされた特許協力条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正(以下、「34条補正」という。)、平成19年5月25日付け手続補正(平成19年6月26日付け手続補正による補正後のもの)及び本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された上述2-1(1)のとおりのものであると認める。 2-3-2 刊行物に記載の発明 これに対して、特許法第41条第2項の規定により同法29条等の規定の適用について先の出願のときにされたものとみなされた本願特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭58-167653号(実開昭60-75192号)のマイクロフィルム(以下、単に「刊行物」という。)には、図面とともに以下の記載がある。 a)「小型の自動2輪車の伝導装置の1つに、第1図に示すように、エンジン1のクランクケースに連設したスイングケース2の後端に後輪3を軸支し、エンジン1ともども車体に懸架し、スイングケース2内にVベルト無段変速機構を用いたものがある。Vベルト変速機構は、定速のものもあるが、ドライブVプーリ4とドリブンVプーリ5とがVベルト6に対する有効径を遠心力などによつて変化して変速を行うものが多い。」(第2ページ第1行?第9行) b)「エンジン1、スイングケース2、後輪3、ドライブVプーリ4およびドリブンVプーリ5に懸架したVベルト6などの配置は同様であるが、スイングケース2は次のように構成される。 スイングケース2はクランクケースから連続する内ケース2aとその外側に添えた外ケース2bのそれぞれ独立した室を持つ2つのケースに縦方向に分離して備える。内ケース2aの外側面には多数のボス7が突設され、これに外ケース2bの内側面をねじ8によつて締着し、内,外ケース2a,2bを一体に結合する。ボス7はスペーサとしての役を果たし、両ケース2a,2b間に隙間9が構成される。 エンジン1のクランク軸10は内ケース2aを抜けて外ケース2b内に突出し、ここにドライブVプーリ4を軸装する。ドリブンVプーリ5は外ケース2a内後部にドリブン軸11で軸装され、ドリブン軸11は外ケース2bを抜け出て内ケース2a後部のギアケース12内に導かれる。ギアケース12内には変速歯車機構13が収容され、最終的にリアアクスル14に軸支された後輪3に回転を伝える。」(第3ページ第7行?第4ページ第7行) c)「このように構成することにより、Vベルト変速機構は扁平な外ケース2b内に乾式で収容される。従つてベルト室は容積が縮小され、逆に外気に接する直接的な表面積が増大し、走行風が当りやすい形になる。このためVベルトの駆動によつて発生した熱は、ケース外周面から放散され、雰囲気温度を常に低く保ち、送風フアン16による冷却効果を高くする。また、内,外ケース2a,2b間の隙間9は走行風の導入ばかりでなく、エンジンの熱が外ケース2bへ伝わるのを防ぐ断熱層として作用するので、Vベルトの熱害をより効果的に防ぐ。」(第4ページ第11行?第5ページ第2行) 図面とともに以上の記載を総合すると、刊行物には、次の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。 「クランク軸10に軸装されたドライブVプーリ4と、内ケース2a後部のギアケース12内に導かれるドリブン軸11に軸装されたドリブンVプーリ5と、ドライブVプーリ4とドリブンVプーリ5とに巻回されたVベルト6と、ドライブVプーリ4、ドリブンVプーリ5及びVベルト6を収容する外ケース2bとからなる変速機構を、エンジン1のクランクケースから連続する内ケース2aの側部に備えたエンジン1において、外ケース2bを内ケース2aとの間に隙間9が生じるように設けたエンジン1。」 2-3-3 対比 (1)一致点 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「クランク軸10」は、その構造ないし機能からみて、本願補正発明における「クランク軸」に相当するとともに、以下同様に、「ドライブVプーリ4」は「駆動プーリ」に、「ドリブンVプーリ5」は「従動プーリ」に、「Vベルト6」は「Vベルト」に、「外ケース2b」は「変速機ケース」に、「隙間9」は「第1空間」に、それぞれ相当する。 次に、引用発明における「ドリブン軸11」は、「ギヤケース12」内に導かれていることから、本願補正発明における「変速軸」に相当するとともに、「ドリブンVプーリ5」を「軸装」し、「クランク軸10」に「軸装」された「ドライブVプーリ4」と対になり「Vベルト6」が巻回された「変速機構」を構成していることから、「ドリブン軸11」と「クランク軸10」とが平行であることは、明らかである。そうすると、同「ドリブン軸11」は、本願補正発明における「クランク軸に平行な変速軸」に相当する。 また、引用発明における「変速機構」は、無段変速であるか定速であるかはさておき、「Vベルト」式による「変速機」という点において、本願補正発明における「Vベルト式」の「変速機」にひとまず相当する。 さらに、引用発明における「内ケース2a」は、「エンジン1のクランクケース」と連続していることから、その構造からみて、「内ケース2a」と「クランクケース」とは、本願補正発明おける「エンジンケース」に相当する。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、本願補正発明の表記にならえば以下の点で一致する。 「クランク軸の一端に接続された駆動プーリと該クランク軸に平行な変速軸の一端に接続された従動プーリとにVベルトを巻回するとともに変速機ケース内に収容してなるVベルト式の変速機をエンジンケース側部に備えたエンジンにおいて、上記変速機ケースを、上記エンジンケースとの間に第1空間が生じるように設けたエンジン。」 (2)相違点 一方、本願補正発明と引用発明とでは、次の点において相違する。 a)本願補正発明では、「変速機ケース」内に収容される変速機が「Vベルト式無段変速機」であるのに対して、引用発明では、「外ケース2b」内に収容される「変速機構」が「Vベルト」式ではあるものの、無段変速機であるか否か不明である点。 b)本願補正発明では、エンジンが「4サイクルエンジン」であるとともに、「該エンジンケースに形成された潤滑油室を上記変速機ケースの下方に、かつ該変速機ケースとの間に第2空間が生じるように膨出させ、さらに該第1空間を上記第2空間に連通させた」ものであるのに対して、引用発明における「エンジン1」は、4サイクルであるか否かが不明であるとともに、潤滑油室の有無及びその配置について開示していない点。 2-3-4 相違点の判断 (1)相違点1 刊行物には、上述2-3-2a)に摘記したように、「・・・スイングケース2内にVベルト無段変速機構を用いたものがある。Vベルト変速機構は、定速のものもあるが、ドライブVプーリ4とドリブンVプーリ5とがVベルト6に対する有効径を遠心力などによつて変化して変速を行うものが多い」ことが開示されている。そうすると、引用発明における「外ケース2b」内に収容された「Vベルト」式の「変速機構」としてVベルト式無段変速機を採用することは、当業者にとって容易に想到し得るものである。 (2)相違点2 いわゆる自動二輪車の技術分野において、エンジンケースの小型化やエンジン全高を低くするといった課題は、一般的なものであって、空き空間を有効活用することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるということができるところ、エンジンの型式として4サイクルエンジンを採用した場合、エンジンケースの下部に潤滑油室を設けるとともに、これをVベルト式無段変速機のケースの下方に膨出させて配置することは、周知技術である(例えば、実願昭59-127222号(実開昭61-59194号)のマイクロフィルムの第3ページ第9行?第4ページ第3行、第3?6図、特開平2-215932号公報の第1図、第3図、特開平5-163921号公報の図1、図3等参照。)。 一方、引用発明は、「エンジン1のクランクケースから連続する内ケース2a」と「外ケース2b」とを分け、両者の間に「隙間9」を設けることにより、「隙間9」に走行風を導入しつつ、かつ「エンジン1」の熱が「外ケース2b」へ伝わるのを防ぐ断熱層として作用することを目的としたものであって、「エンジン1」の型式や、潤滑油室の有無、その配置等に特段左右されるものではない。そうすると、上述の周知技術を参考に、引用発明の「エンジン1」として4サイクルエンジンを採用しつつ、「エンジン1のクランクケース」又はそれに連続する「内ケース2a」の下部に潤滑油室を設けるとともに、これを「外ケース2b」の下方に膨出させて配置するようにすることは、当業者にとって設計的になし得るものである。 また、引用発明における上述の目的からすれば、「エンジン1のクランクケース」又はそれに連続する「内ケース2a」の下部に潤滑油室を設けるとともに、これを「外ケース2b」の下方に膨出させて配置するに際し、潤滑油室と「外ケース2b」との間に隙間を設けるようにすることは、当業者にとって当然であって、その具体的な隙間の配置や形状等は、走行風の導入や断熱層としての作用を考慮して当業者が適宜設計すべき事項である。 してみれば、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明に設計変更を加えることにより当業者が容易に得ることができたものである。 また、本願補正発明の効果は、要すれば、「変速機ケースとエンジンケースとの間に第1空間を設けたので、エンジンの熱がエンジンケース側から変速機ケースに伝達されにくく、しかも上記第1空間を流れる走行風により変速機ケース自体が冷却され、変速機ケースの温度上昇を抑制でき、ひいてはVベルトの耐久性を向上できる」、「エンジンケースに形成された潤滑油室を上記変速機ケースの下方に、かつ上記変速機ケースとの間に第2空間が生じるように膨出させたので、必要な潤滑油室容積を確保しながら、エンジン全体の特に高さ寸法の大型化,変速機ケースの温度上昇を抑制できる。」、「上記膨出部と変速ケースとの間に空間を明けたので、潤滑油の熱が変速機ケースに伝達されるのを回避できるとともに、上記空間を流れる走行風により変速機ケース自体を冷却できる。」(段落【0159】、【0160】)といったものであるがこれらは、引用発明に上述の設計変更を施すことにより直接得られるものであって、当業者にとって予測可能なものに過ぎない。 そうすると、本願補正発明は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、審判請求人は、審判請求書及び当審による審尋に対する平成21年1月9日付けの回答書の中で、本願補正発明において4サイクルエンジンを採用しつつ、潤滑油室を変速機ケースの下方に、かつ変速機ケースとの間に第2空間が生じるように膨出させ、さらに第1空間を第2空間に連通させた点について縷々主張しているが、これに対する当審の判断は、上述のとおりである。 2-4 補正却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 3-1 本願発明 本件補正は、上述のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、34条補正及び平成19年5月25日付け手続補正(平成19年6月26日付け手続補正による補正後のもの)により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載されたとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、上述2-1(1)のとおりである。 3-2 刊行物に記載の発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物に記載の発明は、上述2-3-2のとおりである。 3-3 対比及び相違点の判断 上述2.のとおり、本願補正発明は、本願発明のすべての発明特定事項を含み、さらにその一部を限定して特定したものであるところ、この本願補正発明が上述引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由により引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本願は、特許請求の範囲の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-02-13 |
結審通知日 | 2009-02-17 |
審決日 | 2009-03-03 |
出願番号 | 特願2003-582435(P2003-582435) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤田 和英、大熊 雄治 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
岩谷 一臣 溝渕 良一 |
発明の名称 | 4サイクルエンジン |
代理人 | 下市 努 |