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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1195934
審判番号 不服2008-7854  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-01 
確定日 2009-04-16 
事件の表示 特願2004-279727「円筒ころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 90516〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年9月27日の出願であって、平成20年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年4月1日に審判請求がなされるとともに、平成20年4月30日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年4月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年4月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
内輪の軌道面の両側に鍔部を有し、かつ前記鍔部のうち少なくとも一方の鍔面と軌道面とが交わる隅部にぬすみ溝が設けられた軌道輪と、
前記軌道面上を転動自在に配置されるものであり、その転動面と両端面とが交わる角部に面取りが設けられ、熱処理後に前記転動面および前記端面を研磨した円筒ころとを備えた円筒ころ軸受において、
前記円筒ころの直径が30mmを越え40mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.4mm以下であり、
前記転動面からの面取りの高さをhとし、面取り部の曲率半径をRとすると、
1.0≦R/h≦1.5
の関係が成立し、
前記面取りの高さhは、前記軌道面からのぬすみ溝の高さHよりも小さいことを特徴とする、円筒ころ軸受。」と補正された。
上記の補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「軌道輪」を「内輪の軌道輪」に減縮し、また、「円筒ころ」について「前記円筒ころの直径が30mmを越え40mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.4mm以下であり、」という事項を限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2003-278745号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工作機械、ジェットエンジン、ガスタービン等において、高速で回転する軸を支持するのに好適な円筒ころ軸受に関する。」
(い)「【0006】上記のような円筒ころ軸受は、円筒ころの転動面と軌道輪の軌道面とが線接触するため、ラジアル荷重の負荷能力が高く、高速回転にも適しているが、その反面、玉軸受に比べて高速回転時の発熱量が大きく、とりわけ、円筒ころと鍔部との滑り接触部に発熱増大や摩耗が生じ易いという問題を抱えている。すなわち、円筒ころは上記の案内隙間分だけ傾きの自由度を持っており、軸受回転時、円筒ころの軸線が軸受の軸線に対して傾く現象、すなわちスキューが発生することが避けられない。そして、円筒ころがスキューを起こすと、回転側の軌道面によって与えられる駆動力に軸方向成分が発生し、これが軸方向推力Fとなって円筒ころの端部を一方の鍔部に押し付けることにより、該滑り接触部の摩擦抵抗が増大して、発熱や摩耗の原因となることがある。
【0007】上記のような問題に対して、従来より種々の改善策が提案されている。例えば特公昭58?43609号では、ぬすみ溝の高さ寸法を円筒ころの面取りの高さ寸法よりも大きくすると共に、軸方向外側に所定の角度をもって広がったテーパ面を鍔面に設けることにより、上記滑り接触部の潤滑状態を改善している。
【0008】また、特開平7?12119号では、円筒ころがスキューを起こしたときに、円筒ころの両端面外周縁部が鍔面の先端縁よりも基端に寄った部分で接触する構成とすることにより、円筒ころの両端面外周縁部が鍔面の先端縁と接触する場合に比較して、上記滑り接触部のエッジロードが小さくなるようにしている。」
(う)「【0024】限界スキュー角θ_(T)は、ぬすみ溝の高さ寸法h1と円筒ころの面取りの高さ寸法h2との寸法差δ、鍔面の傾斜角度、円筒ころの面取り寸法等を管理することによって、所定角度以下に規制することができる。好ましくは、限界スキュー角θ_(T)の規制は、寸法差δを所定値以下に管理することによって行うのが良い。この場合、寸法差δをδ≦0.3mm、特にδ≦0.25mmに管理することによって、好ましい結果が得られることが後述する試験により確認されている。」
(え)「【0029】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0030】図1は、マシニングセンタ、研削盤等の工作機械における主軸装置の一構造例を示している。同図に示す主軸装置は、ビルトイン・タイプと呼ばれているのもので、内蔵したモータ10によって主軸11を高速で回転駆動する方式のものである。モータ10は主軸装置の軸方向中央部に配設され、主軸11の外周に設けられたロータ10aとハウジング12の内周に設けられたステータ10bとで構成される。ステータ10bに電流を通じると、ロータ10aとの間に励磁力が発生し、その励磁力によって主軸11が高速で回転駆動される。
【0031】主軸11の回転は、モータ10を挟んでフロント側(工具側)とリア側(反工具側)にそれぞれ配置された転がり軸受でハウジング12に対して回転自在に支持される。通常、リア側の転がり軸受部は、運転時の熱による主軸11の軸方向膨張量を吸収し又は逃がすため、軸方向に変位可能な構造になっている(自由側)。この例では、フロント側の転がり軸受として組合せアンギュラ玉軸受(一対のアンギュラ玉軸受)13を使用し、リア側の転がり軸受として単列の円筒ころ軸受14を使用している。
【0032】図2は、リア側に配置される円筒ころ軸受14を示している。この円筒ころ軸受14は、外周に軌道面1aを有する内輪1と、内周に軌道面2aを有する外輪2と、内輪1の軌道面1aと外輪2の軌道面2aとの間に転動自在に配された複数の円筒ころ3と、円筒ころ3を円周所定間隔に保持する保持器4とを備えている。内輪1の両側部には、それぞれ、鍔部1bが設けられている。尚、保持器4は、樹脂材で形成することができる。
【0033】図3に拡大して示すように、内輪1の各鍔部1bの鍔面1b1と軌道面1aとが交わる隅部には、それぞれ、ぬすみ溝1cが設けられている。これらぬすみ溝1cは、主に、軌道面1aと鍔面1b1を研削加工する際の逃げ溝として設けられるものである。この実施形態において、鍔面1b1は外径方向に向かって漸次開く方向に傾斜したテーパ面になっており、鍔面1b1と鍔部1bの外径面1b2とが交わる角部には面取り1b3が設けられている。また、円筒ころ3の転動面3aと両端面3bとが交わる角部には、それぞれ、面取り3cが設けられている。さらに、軸方向に対向する鍔面1b1間の軸方向寸法は円筒ころ3の長さ寸法よりも僅かに大きくされ、円筒ころ3の端面3bと鍔面1b1との間に案内隙間Sが設けられている。
【0034】この実施形態において、逃げ溝1cの高さ寸法h1は円筒ころ3の面取り3cの高さ寸法h2よりも大きく設定されている。そして、高さ寸法h1と高さ寸法h2との寸法差δ(δ=h1-h2)が所定値以下に管理され、これにより、前述した限界スキュー角θ_(T)が所定角度以下に規制されている。この実施形態では、寸法差δを所定値以下に管理するため、内輪1および円筒ころ3の熱処理後に、逃げ溝1cおよび面取り3cを旋削等の機械加工によって仕上げて所要の寸法精度を確保している。ここで、高さ寸法h1は、軌道面1aの位置から、逃げ溝1cと鍔面1b1との境界部R1までの半径方向寸法である。また、高さ寸法h2は、転動面3aと面取り3cとの境界部R4の位置から、面取り3cと端面3bとの境界部R3までの半径方向寸法である。
【0035】鍔面1b1と面取り1b3との境界部R2を含めて、少なくとも一つの境界部(R1?R3のうち少なくとも一つ)は、接触面圧を低減するため、曲面、例えば曲率半径0.1?0.3mmの円弧面で構成して、隣接する面と滑らかに連続させるのが好ましい。例えば、境界部R1を上記構成とする場合、高さ寸法h1を定める際の基準とする境界部R1の位置は、逃げ溝1cの仮想延長線と鍔面1b1の仮想延長線との交点位置とする。同様に、境界部R3を上記構成とする場合、高さ寸法h2を定める際の基準とする境界部R3の位置は、面取り3cの仮想延長線と端面3bの仮想延長線との交点位置とし、境界部R4を上記構成とする場合、高さ寸法h2を定める際の基準とする境界部R4の位置は、転動面3aの仮想延長線と面取り3cの仮想延長線との交点位置とする。
【0036】また、案内隙間S、高さ寸法h1及びh2、鍔部1bの高さ寸法(軌道面1aの位置から鍔部1bの外径面1b2までの半径方向寸法)、鍔面1b1の傾斜角度、面取り1b3の高さ寸法(境界部R2の位置から外径面1b2までの半径方向寸法)が管理されることにより、最大スキュー角θ_(MAX)が所定角度以下に規制されている。」
(お)「【0045】
【実施例】寸法差δが種々異なる試験軸受を製作し、寸法差δと限界スキュー角θ_(T)との関係を求めると共に、該試験軸受を試験機にセットし、下記の条件で運転して、円筒ころの端部における摩耗の発生状況を観察した。その結果を図5に示す。
[試験条件]
…(略)…
【0046】図5に示すように、限界スキュー角θ_(T)は寸法差δの減少に伴って小さくなる傾向が見られ、寸法差δ≦0.25mmでは、限界スキュー角θ_(T)<15分であった。また、運転後の観察結果では、δ>0.3mmの場合、円筒ころの端部に0.5μm以上の摩耗が発生した試験軸受が多く見られたが、δ≦0.25mmの場合、0.5μm以上の摩耗が発生した試験軸受は殆どなく、摩耗が発生しないか、あるいは、発生していても軽微なものであった。このことから、寸法差δ≦0.3mm、好ましくはδ≦0.25mmとすることが、円筒ころと鍔部との接触部の発熱や摩耗を抑制する上で効果的であることが分かる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「内輪1の軌道面1aの両側に鍔部1bを有し、かつ前記各鍔部1bの鍔面1b1と軌道面1aとが交わる隅部にぬすみ溝1cが設けられた軌道輪と、
前記軌道面1a上を転動自在に配置されるものであり、その転動面3aと両端面3bとが交わる角部に面取り3cが設けられ、熱処理後に面取り3cを旋削等の機械加工によって仕上げて所要の寸法精度を確保した円筒ころ3とを備えた円筒ころ軸受において、
前期ぬすみ溝1cの高さ寸法h1は前記面取り3cの高さ寸法h2よりも大きく設定されており、その寸法差δ=h1-h2がδ≦0.3mmである円筒ころ軸受。」
(2-2)引用例2
特開2004-60860号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は自動車、工作機械等に用いられるころ軸受に関し、より詳しくは、ころ軸受用ころ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】円筒ころ軸受が回転運動を行う場合、図7に示すように、円筒ころ30の中心軸と内輪10および外輪(図示省略)の中心軸が非平行つまり角度θをなした状態のまま円筒ころ30が回転する、いわゆるスキューが発生することが避けられない。このとき、スキューしている円筒ころ30はその自転方向に向かって進もうとするため、円筒ころ30にアキシャル荷重を負荷していない場合であっても、円筒ころ30はつば14に力を及ぼしている。
【0003】このようなスキューが発生した場合、ころ端面34と軌道輪(ここでは内輪10)のつば14の内側面との接触部は、図7に示すように、ころ端面34と面取り36の境界部(ころ端面外周縁部)38とつば14の先端周縁部となっている場合が多い。このとき、円筒ころ30側のエッジ部とつば14側のエッジ部で接触するため、エッジロードが大きくなり、ころ端面外周縁部38とつば14先端部の双方に著しい摩耗、発熱を発生するだけでなく、潤滑不良などの悪条件が重なると円筒ころ軸受の焼付きに至るおそれがある。
【0004】このため、たとえば特開平7-12133号公報に記載されているように、ころ端面外周縁部38をころ端面34から面取り36まで連続した曲率半径r(図8)で滑らかにつなげ、エッジロードを下げることなども提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この場合であってもスキューしている円筒ころ30と軌道輪(内輪10)のつば14の接触状態は、曲率半径rが非常に小さい曲線、つまり、エッジ部同士の接触であることには変わりがなく、接触部の面圧は依然、高いレベルであると言える。そのため、依然として油膜切れが発生しやすく、摩耗や潤滑不良により温度上昇も高くなるという問題点がある。
【0006】また、面取りは通常鍛造や旋削によって加工されているため、ころ端面外周縁部38の真円度形状は鍛造または旋削の精度によって決定される。鍛造または旋削精度ではころ端面外周縁部38の真円度形状が悪いため、円筒ころ30がスキューしてころ端面外周縁部38とつば14とが接触して自転している状態では円筒ころ30に振動が起こり、円筒ころ30の姿勢が不安定になっていることが考えられる。円筒ころ30の姿勢が不安定になると、ころ端面34とつば14に摩耗が起こる(特開2001-82464号公報参照)。
【0007】この発明は、ころ端面外周部と軌道輪つば部とが接触するころ軸受において、ころがスキューしてもころとつばの接触部応力を小さくできるようにすることで、それによって油膜切れが発生せず、温度上昇が低く摩耗が発生しないころ軸受を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明は、ころの外径面ところ端面とを、ころ端面が接線となる円弧(接線R)を母線とした曲面で接続することによって、課題を解決するものである。このような構成を採用することにより、ころの外径面ところ端面との境界部のエッジ形状が緩和され、ころがスキューし、つば先端部と接触する場合であっても、接触部の応力を低減させることが可能となる。」
(き)「【0015】各円筒ころ30は、転動面32と軸方向両側のころ端面34とを有し、転動面32ところ端面34とは曲面39でなめらかに連続している。曲面39の母線はころ端面を接線とする、曲率半径Rの円弧である。曲面39ところ端面34との境界部がころ端面外周縁部に相当し、符号38で指してある。このような円筒ころ30の輪郭は、図2に示すように、ころ端面34と曲面39全体を総形砥石52を用いた同時研削によって加工することで実現する。さらに、ころ端面34の粗さを向上させるために、ころ端面34に超仕上げ加工を施してもよい。このとき、厳密に言えばころ端面34は曲面39に対して接線ではなくなるが、超仕上げ加工時に境界部に「だれ」が起こるため問題とならない。」
上記に摘記した特に段落【0015】及び図1(d)の記載からみて、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「転動面32ところ端面34とは曲面39でなめらかに連続していて、曲面39の母線はころ端面を接線とする曲率半径Rの円弧であり、このような円筒ころ30の輪郭は、ころ端面34と曲面39全体を総形砥石52を用いた同時研削によって加工することで実現されている円筒ころ軸受。」
(2-3)引用例3
特開平9-210055号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、円筒ころ軸受の改良に関し、特に、ころの公転滑りに起因する軌道面の損傷の防止を図ったものである。
【0002】
【従来の技術】従来、円筒ころ軸受は低荷重から高荷重までに及びいろいろな条件で幅広く使用されている。しかして、最近は転がり軸受の高速化が進んでおり、それに伴う摩耗現象や損傷が新たな問題になりはじめている。特に、例えばジェットエンジンやガスタービンエンジンの主軸のように、高速回転,低荷重の条件下に使用される円筒ころ軸受の場合、ころと内輪(内輪回転において)又は外輪(外輪回転において)との間の回転駆動力が十分に与えられず、ころの転がり抗力に打ち勝てなくなって軌道輪ところとの表面速度に差を生じて互いに滑りはじめる危険を伴う。こうした大きな滑りが発生すると、当該軌道輪の軌道面に、スキッディング損傷と呼ばれるところの白色変質層を伴う損傷或いはスミアリングと呼ばれる熱損傷を招くおそれがある。一般に、スミアリングは鉄鋼関連で使用されるような大型あるいは超大型軸受の場合にしょうじ易い。」
(し)「【0022】以下に、ころ遠心力/予圧力比K_(ii),K_(io)を決定する試験の内容を述べる。試験軸受諸元は次の通りとした。
軸受の種類:複列円筒ころ軸受
軸受内径 :400mm
軸受外径 :573mm
軸受ピッチ径:457mm
ころ数 :36個/1列
ころ径 :30mm
ころ重量 :0.364kg
ころピッチ円直径:457mm
試験条件
…」
(2-4)引用例4
特開平4-78321号公報(以下、「引用例4」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(た)「本発明は、転がり軸受に係り、特に抄紙機,エレベータ,大型モータ,減速機等の産業機械用円筒ころ軸受,球面ころ軸受等の各種の転がり軸受の寿命向上に関する。」(第1頁左下欄第13?16行)
(ち)「圧延比の範囲としては、50?150が望ましく、特に、φ35mm以上の転動体(例えば、ころ)に効果がある。」(第2頁右下欄第8?10行)
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「前期ぬすみ溝1cの高さ寸法h1は前記面取り3cの高さ寸法h2よりも大きく設定されており、その寸法差δ=h1-h2がδ≦0.3mmである」という事項は前者の「前記面取りの高さhは、前記軌道面からのぬすみ溝の高さHよりも小さい」という事項に相当する。
以上より、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「内輪の軌道面の両側に鍔部を有し、かつ前記鍔部のうち少なくとも一方の鍔面と軌道面とが交わる隅部にぬすみ溝が設けられた軌道輪と、
前記軌道面上を転動自在に配置されるものであり、その転動面と両端面とが交わる角部に面取りが設けられた円筒ころとを備えた円筒ころ軸受において、
前記面取りの高さhは、前記軌道面からのぬすみ溝の高さHよりも小さい円筒ころ軸受。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明1は「熱処理後に前記転動面および前記端面を研磨した円筒ころ」を備えているのに対し、引用例1発明の「円筒ころ」はそのような事項を具備していない点。
[相違点2]
本願補正発明1は「前記円筒ころの直径が30mmを越え40mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.4mm以下」であるのに対し、引用例1発明はそのような事項を具備していない点。
[相違点3]
本願補正発明1は「前記転動面からの面取りの高さをhとし、面取り部の曲率半径をRとすると、1.0≦R/h≦1.5 の関係が成立し」ているのに対し、引用例1発明はそのような事項を具備していない点。
(4)判断
[相違点1]について
一般に機械要素部品等において熱処理後に所要部位を研摩することは普通に行われていることであって、引用例1発明の円筒ころ3を熱処理後にその転動面3aおよび端面3bを研磨して形成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
引用例1発明における円筒ころ3の直径やぬすみ溝1cの高さ等の寸法は、軸受装置の寸法、用途、使用環境、寿命等の所要性能などに応じて適宜設計する事項にすぎない。
上記に摘記したとおり、引用例3には円筒ころのころ径が30mmであるもの、また引用例4にはφ35mm以上であるころが示されている。引用例1発明の円筒ころ3の直径を「30mmを越え40mm以下」という事項を充足する値とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、上記に摘記したとおり、引用例1の段落【0006】には、円筒ころがスキューを起こすと、円筒ころの端部を一方の鍔部に押し付けることにより、該滑り接触部の摩擦抵抗が増大して、発熱や摩耗の原因となることがあることが示されており、周速を考慮すると、発熱や摩耗を考えると滑り接触部が内径側にある方が望ましいことは明らかである。この点は、引用例1の段落【0008】の「…円筒ころがスキューを起こしたときに、円筒ころの両端面外周縁部が鍔面の先端縁よりも基端に寄った部分で接触する構成とすることにより、円筒ころの両端面外周縁部が鍔面の先端縁と接触する場合に比較して、上記滑り接触部のエッジロードが小さくなる…」の記載からも示唆されている。そして、1.4mmという上限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められないことを勘案すると、引用例1発明のぬすみ溝1cの高さを「1.4mm以下」という事項を充足する値とすることは、上記の適宜の設計として当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点3]について
引用例2発明の円筒ころ30は、転動面32ところ端面34とは曲面39でなめらかに連続していて、曲面39の母線はころ端面を接線とする曲率半径Rの円弧であり、このような円筒ころ30の輪郭は、ころ端面34と曲面39全体を総形砥石52を用いた同時研削によって加工することで実現されているのであるから、転動面32からの面取りの高さをhとし、面取り部の曲率半径をRとしたとき、例えば1.0=R/hであるものが示されていることは明らかである。引用例1発明に引用例2発明の上記事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願補正発明1の作用効果は、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、審判請求の理由において「(ホ)したがって当業者が、これら引用文献1?4を組み合わせても、1つの要件であるぬすみ溝の高さと転動面からの面取りの高さとの関係と、もう1つの要件である転動面からの面取りの高さと面取り部の曲率半径との関係とに想到するにとどまり、円筒ころの直径に対してぬすみ溝の高さを小さくした本願発明に容易に想到することはできない。組み合わせの発明は、本願発明の3つの特徴を同時に備えるものではない。また、本願発明は、3つの特徴を同時に備えることから、風力発電の安全性および耐久性を従来よりも著しく向上させることができるという有利な効果を奏する。」と主張し、また、平成20年12月5日付け回答書において「(7)本願の補正後の請求項1に係る発明によれば、平成20年4月30日付で提出した手続補正書(方式)の[資料1]?[資料3]に示すように、従来考慮されていなかった特に大型の円筒ころ軸受の分野において、内輪の温度上昇を抑制することに成功しました。また[資料4]に示すように、摩耗面積を減少させることに成功しました。」と主張する。
しかし、引用例1発明において円筒ころ3の直径を「30mmを越え40mm以下」という事項を充足する値とすること、及び、そのぬすみ溝1cの高さを「1.4mm以下」という事項を充足する値とすることが、当業者が容易に想到し得たものと認められることは上述のとおりである。また、資料1?4は特定の実施例についてのものであって、これによって、本願補正発明1の数値限定事項をすべて具備したものが少なくともいずれか1つを具備していないものに比べて当業者が予測し得なかったような格別の作用効果を奏し得るものであるということは到底できない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成20年4月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成19年9月20日付け手続補正、及び平成19年12月20日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
軌道面の両側に鍔部を有し、かつ前記鍔部のうち少なくとも一方の鍔面と軌道面とが交わる隅部にぬすみ溝が設けられた軌道輪と、
前記軌道面上を転動自在に配置されるものであり、その転動面と両端面とが交わる角部に面取りが設けられ、熱処理後に前記転動面および前記端面を研磨した円筒ころとを備えた円筒ころ軸受において、
前記転動面からの面取りの高さをhとし、面取り部の曲率半径をRとすると、
1.0≦R/h≦1.5
の関係が成立し、
前記面取りの高さhは、前記軌道面からのぬすみ溝の高さHよりも小さいことを特徴とする、円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記円筒ころの直径が24mmを越え30mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.2mm以下である、請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項3】
前記円筒ころの直径が30mmを越え40mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.4mm以下である、請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項4】
前記円筒ころの直径が40mmを越え50mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.6mm以下である、請求項1に記載の円筒ころ軸受。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?4、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明1の「内輪の軌道輪」を「軌道輪」に拡張し、「前記円筒ころの直径が30mmを越え40mm以下であり、前記ぬすみ溝の高さが1.4mm以下であり、」という事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記2.に記載したとおり、引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用例1?4に記載された発明基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?4について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-13 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-03 
出願番号 特願2004-279727(P2004-279727)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘安井 寿儀  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 円筒ころ軸受  
代理人 森下 八郎  
代理人 伊藤 英彦  
代理人 吉田 博由  

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