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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1196124
審判番号 不服2007-22403  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-13 
確定日 2009-04-08 
事件の表示 平成11年特許願第 74686号「デジタルカメラおよびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年2月25日出願公開、特開2000-56213〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成11年3月19日(パリ条約による優先権主張1998年3月31日、米国)の出願であって、平成18年7月13日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年10月17日付けで手続き補正がされたが、平成19年5月8日付けで拒絶査定がなされた。
これに対して、同年8月13日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成19年8月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年8月13日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
(以下、下線は当審で付加したものである。)

1.本件補正前及び本件補正後の本願発明

本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内でなされたものである。

特許請求の範囲の補正のうち、請求項1の補正(以下「補正1」という)について検討する。
補正1は、本件補正前の、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体を経て、光を電気信号に変換するイメージ検出装置の上に光を導くためのレンズであって、該レンズに関連付けられた調整可能な絞りを有するレンズと、
を有する、デジタルカメラであって、
a)被写体を表す前記電気信号に応答して、前記被写体の周辺光条件に対して前記絞りを最適な設定に自動的に調整するカメラ設定調整システムと、
b)前記調整された絞りに基づいて焦点調節位置を決定する固定焦点モードアルゴリズムであって、前記調整された絞りで得られる被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ、かつ前記焦点調節位置に前記レンズを維持する、固定焦点モードアルゴリズムと、
c)前記調整可能な絞りの最適な設定に応答する自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズムと、
を備えることを特徴とする、デジタルカメラ。」

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体を経て、光を電気信号に変換するイメージ検出装置の上に光を導くためのレンズであって、該レンズに関連付けられた調整可能な絞りを有するレンズと、
を有する、デジタルカメラであって、
a)被写体を表す前記電気信号に応答して、前記被写体の周辺光条件に対して前記絞りを最適な設定に自動的に調整するカメラ設定調整システムと、
b)前記調整された絞りに基づいて焦点調節位置を決定する固定焦点モードアルゴリズムであって、前記調整された絞りで得られる被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ、かつ前記焦点調節位置に前記レンズを維持する、固定焦点モードアルゴリズムと、
c)前記調整可能な絞りの最適な設定に応答する自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズムと、
を備え、
前記固定焦点モードアルゴリズムがデフォルトのモードとして設定されていることを特徴とする、デジタルカメラ。」(以下、この発明を「本願補正発明」という。)
と補正するものである。

前記補正1は、以下の補正からなる。

本件補正前の「デジタルカメラ」が、「デフォルトのモード」として「固定焦点モードアルゴリズムが設定されている」ものに限定する補正。

したがって、補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前及び優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-114740号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。

記載事項ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被写体の距離に応じて焦点を合わせる自動焦点モードと特定の距離に焦点を合わせる固定焦点モードのいずれかのモードが設定されたモード設定部と、
押ボタンが押し下げられるごとに前記モード設定部に設定されたモードを前記自動焦点モードと前記固定焦点モードの間で交互に切り替えるモードスイッチと、
前記モードスイッチの押ボタンが押し下げられた後開放されるまでの時間を検出する検出手段と、
シャッターボタンが押されることにより、前記モード設定部に設定されたモードで焦点合わせを行うフォーカシング手段と、
前記検出手段で検出された時間が所定の時間より短く且つ前記モード設定部に設定されたモードが前記固定焦点モードの場合、前記フォーカシング手段による焦点合わせが終了した後に、前記モード設定部に前記自動焦点モードを設定するモード再設定手段とを備えることを特徴とするオートフォーカスカメラ。」

記載事項イ
「【0005】 このようにオートフォーカス機構を搭載したカメラは、撮影者がピント合わせを行うことなく撮影でき、非常に便利である。ところが、オートフォーカスによる焦点合わせは、被写体との距離を測距して行っているので、遠景のような非常に遠い被写体を撮影する場合には、測距に時間が掛ってしまい問題であった。そこで、この問題を解決すべく、オートフォーカスのモード以外に無限遠に焦点を合わせて撮影できる遠景モードを設けたオートフォーカスカメラが従来より開発されている。このカメラを用いて遠景モードに合わせて撮影すれば、オートフォーカス機構が駆動されることなく、無限遠に焦点が合うので、遠くの景色を迅速に撮影することができる。」

記載事項ウ
「【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例について添付図面を参照して説明する。図1は、本実施例に係るオートフォーカスカメラの外観を示す斜視図である。同図より、本実施例のオートフォーカスカメラは、直方体形状のボディ10上面にシャッターボタン11が配置され、ボディ10前面の上部に被写体との距離を測距する測距装置12が組み込まれている。この測距装置12は被写体に光を照射し、被写体からの反射光のコントラストを測定して被写体までの距離を求めるパッシブ方式が用いられている。ボディ10前面の中央部にはレンズの組み込まれたレンズ鏡胴13が取り付けられている。レンズ鏡胴13は二重構造になっており、内蔵されたモータ14を駆動させることにより内側の鏡胴が伸縮する。この伸縮によって内側の鏡胴に組み込まれたレンズとフィルム間の距離が変わり、所望の距離に焦点を合わせることができる。
【0021】 さらに、ボディ10裏面の上部中央に電源スイッチ15が設けられ、ボディ10裏面の裏ぶた16上に液晶ディスプレイ17が設けられている。この液晶ディスプレイ17には時刻或いは距離がセグメント形表示方式で表示される。液晶ディスプレイ17の下にはモードスイッチ18と,距離スイッチ19が横に配列され、ボディ10裏面の上部にはスイッチ20?22が横に配列されている。モードスイッチ18は自動焦点モード、固定焦点モード、及び手動焦点モードのいずれかのモードを選択する押しボタンスイッチであり、押ボタンを押し下げる毎にモードが順次切り替わる。また、距離スイッチ19は手動焦点モードの時に所望の距離を指定する押しボタンスイッチであり、押ボタンを押し下げる毎に液晶ディスプレイ17に表示される距離データが順次切り替わる。ここで、自動焦点モードとは測距装置12で被写体までの距離を測定して、この距離に焦点を合わせるモードをいう。また、固定焦点モードとは無限遠に焦点を合わせるモードをいう。さらに、手動焦点モードとはユーザが指定した距離に焦点を合わせるモードをいう。」

記載事項エ
「【0031】 この処理は、ユーザによって電源スイッチ15が投入されることにより開始される。図3に示すように、電源スイッチ15の投入信号を受けた制御部31は、モード設定部31aに“自動焦点モード”を、ラッチ設定部31bに“ラッチ無し”をそれぞれ設定する(ステップ100)。・・・」

記載事項オ
「【0032】制御ユニット30では、シャッターボタン11が押された場合に、モード設定部31aに設定された内容に基づいて、モータ14に制御信号を送る(ステップ104)。具体的には、モード設定部31aに“自動焦点モード”が設定されている場合は、測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御信号をモータ14に送る。また、モード設定部31aに“固定焦点モード”が設定されている場合は、無限遠に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御信号をモータ14に送る。さらに、モード設定部31aに“手動焦点モード”が設定されている場合は、距離スイッチ19を用いてユーザが選択した距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御信号をモータ14に送る。」
以上、記載事項ア?オから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「フィルムカメラであって、
モード設定部31aに固定焦点モードが設定されている場合は、無限遠に焦点を合わせるようにレンズ鏡筒13を伸縮させる制御を行う固定焦点モードと、
シャッターボタンが押された場合に、モード設定部31aに自動焦点モードが設定されている場合は、測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御を行う自動焦点モードと、
を備え、
電源スイッチ15の投入信号を受けた制御部31は、モード設定部31aに前記自動焦点モードを設定するカメラ」

次に、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前及び優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平7-199289号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項カ
「【0013】 図1は、本発明の第1実施例に基づくカメラ装置のブロック図である。図1に示すように、カメラ装置は、調整可能なレンズ10と、調整可能な絞り12と、シャッター14とフラッシュユニット16とから構成される。レンズ10と、絞り12と、シャッター14とフラッシュユニット16の作動は、カメラ制御処理装置(CCP)18によって制御される。この制御処理装置18は、周囲光強度測定回路20と、周囲光種類判別回路22(米国特許第4827119号に開示されている種類であり、この特許は参考として本願に組み入れられている)、及び撮影者用制御装置24からの入力信号を受けるように接続されている。本装置の価格を低減するために、フラッシュユニット16は固定出力型のフラッシュユニットであり、レンズ10は、3つの位置(近い、遠いと、昼光)にのみ調整可能であり、絞り12は小開度(基準昼光)、中間開度(基準昼光からフラッシュまで)と、大開度(フラッシュ)に調整可能である。周知のように、基準昼光レンズ焦点位置及び対応する絞り(小開度)は、通常の昼光撮影で経験する被写体距離の全てをカバーできる被写界深度を過焦点距離によって得られるように、決められる。カメラのレンズ位置を過焦点距離に設定すると、得られる画像は、過焦点距離の半分から無限遠に及ぶ被写界深度を持つことになることは、明らかである。従って、過焦点距離が8フィートであれば、4フィートから無限遠までのカメラ被写体間の距離に対して受容可能な被写界焦点深度が得られる。本発明では、基準昼光レンズ焦点位置と、8フィートの過焦点距離を持つ対応する絞りについて述べている。しかし、ここに詳細に記載されている利点は、一般的な昼光写真に適する過焦点距離領域にも当てはまることは、当業者には明白であろう。例えば、過焦点距離は4フィートから12フィートの間ではあるが、これに限定されるものではない。図1に示される個々の部品は、公知のものであり、その詳細な説明を省略する。図示されている部品は、どのような構造及び/または技術でも実施可能であることは、理解できよう。」

記載事項キ
「【0014】 図2は、図1の装置の動作を示すフローチャートである。撮影者用制御装置24からの露光起動信号を受けると、周囲光強度測定回路20からの信号に基づいて、CCP18は、周囲光のレベルが所定の高閾値あるいは、トリップ点以上であるかを判定する。周囲光のレベルが高とリップ点以上であれば、CCP18はレンズ10を基準昼光位置に設定し、絞り12を小(基準昼光)に設定し、フラッシュユニット16を起動しない(タイプ1出力設定)。次に、CCP18はシャッターを起動し、所定通常の露光時間だけフィルム平面にある撮影フィルムを露光する。周囲光のレベルが所定の高閾値以下であれば、CCP18は、周囲光レベルが中間レベルトリップ点以上であるか否かを判定する。周囲光レベルが中間レベルトリップ点以上であれば、CCP18は、周囲光種類判別回路22からの信号に基づいて、画像形成される光の種類を判定する。周囲光が人工光であれば、CCP18は、レンズ10を遠位置に設定し、絞り12を中間開度に設定し、フラッシュユニット16を起動しない(タイプ2出力設定)。周囲光が人工光でなければ、CCP18は、レンズ10を近位置に設定し、絞り12を大開度に設定し、フラッシュユニット16を起動する(タイプ3出力設定)。同様に、周囲光が中間レベルトリップ点以下であれば、CCP18は、レンズ10と、絞り12とフラッシュユニット16とをタイプ3出力設定に合わせる。」

以上、記載事項カ、キから、引用例2には、
固定焦点による撮影において、
・ 周囲光強度測定回路20からの信号に基づいて、絞りを設定する点、
・ 基準昼光レンズ焦点位置及び対応する絞り(小開度)は、通常の昼光撮影で経験する被写体距離の全てをカバーできる被写界深度を過焦点距離によって得られるように決められる点(カメラのレンズ位置を過焦点距離に設定すると、得られる画像は、過焦点距離の半分から無限遠に及ぶ被写界深度を持つことになる。)
が記載されている。

3.対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1) 引用発明の「フィルムカメラ」と、本願補正発明の「デジタルカメラ」とは、共に「カメラ」である点、一致する。

(2) 引用発明の「モード設定部31aに固定焦点モードが設定されている場合は、無限遠に焦点を合わせるようにレンズ鏡筒13を伸縮させる制御を行う固定焦点モード」と、本願補正発明の「前記調整された絞りに基づいて焦点調節位置を決定する固定焦点モードアルゴリズムであって、前記調整された絞りで得られる被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ、かつ前記焦点調節位置に前記レンズを維持する、固定焦点モードアルゴリズム」とを対比すると、

(ア) 引用発明の「固定焦点モード」は、「無限遠に焦点を合わせるようにレンズ鏡筒13を伸縮させる制御」を総称するものであり、また、該「制御」は、一種のアルゴリズム(手続き)と言えるから、本願補正発明の「固定焦点モードアルゴリズム」に相当する、と言える。

(イ) 引用発明の「無限遠に焦点を合わせるようにレンズ鏡筒13を伸縮させ」とは、
無限遠に焦点を合わせる焦点調節位置にレンズを移動すること、と同義であるから、引用発明の該構成と、本願補正発明の「調整された絞りで得られる被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ」とは、共に「被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ」る点で一致する。

以上(ア)、(イ)から、両者は、「固定焦点モードアルゴリズムであって、被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させる、固定焦点モードアルゴリズム」の点で一致する。

(3) 引用発明の「シャッターボタンが押された場合に、モード設定部31aに自動焦点モードが設定されている場合は、測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御を行う自動焦点モードと、を備え、」と、本願補正発明の「前記調整可能な絞りの最適な設定に応答する自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズム」とを対比すると、

(ア) 引用発明の「自動焦点モード」は、「測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させるための制御」を総称するものであり、また、該「制御」は、一種のアルゴリズム(手続き)と言えるから、本願補正発明の「自動焦点調節モードアルゴリズム」に相当する、と言える。

(イ) 引用発明の「シャッターボタンが押された場合」は、本願補正発明の「外部から発せられた起動コマンドを受け取」ることに相当し、また、引用発明の「測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させる」とは、レンズを、測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合う位置にまで移動すること、と同義であるから、引用発明の「測距装置12から入力された距離データが示す距離に焦点が合うようにレンズ鏡胴13を伸縮させる」は、「外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる」に相当する。

以上(ア)、(イ)から、両者は、「自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズム」の点で一致する。

(4) 引用発明の「電源スイッチ15の投入信号を受けた制御部31は、モード設定部31aに前記自動焦点モードを設定する」と、本願補正発明の「前記固定焦点モードアルゴリズムがデフォルトのモードとして設定されている」とは、共に、「デフォルトのモードが設定されている」点で一致する。

したがって、上記(1)?(4)の対比考察から、本願補正発明と引用発明とは、

「カメラであって、
固定焦点モードアルゴリズムであって、被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させる、固定焦点モードアルゴリズムと、
自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズムと、
を備え、デフォルトのモードが設定されているカメラ」である点一致し、以下の点で相違する。

相違点1
カメラの種類として、本願補正発明は「デジタルカメラ」であり、また、そのデジタルカメラの全体構成として、「筐体と、前記筐体を経て、光を電気信号に変換するイメージ検出装置の上に光を導くためのレンズであって、該レンズに関連付けられた調整可能な絞りを有するレンズと、を有する」ものであるのに対し、引用発明は「フィルムカメラ」であり、具体的なカメラの全体構成について、記載されていない点。

相違点2
カメラの構成として、本願補正発明は「被写体を表す前記電気信号に応答して、前記被写体の周辺光条件に対して前記絞りを最適な設定に自動的に調整するカメラ設定調整システム」を有するのに対し、引用発明には、そのような構成は記載されていない点。

相違点3
固定焦点モードアルゴリズムにおいて、レンズを移動させる、被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置が、本願補正発明では「調整された絞りに基づいて焦点調節位置を決定」され、かつ、該被写体深度が「調整された絞りで得られる」のに対し、引用発明では、これらの点について明示されていない点。

相違点4
自動焦点調節アルゴリズムが、本願補正発明では「調整可能な絞りの最適な設定に応答する」ものであるのに対して、引用発明では、この点について明示されていない点。

相違点5
デフォルトのモード設定が、本願補正発明では、「固定焦点モード」であるのに対して、引用発明では「自動焦点調節モード」である点。

4.当審の判断

前記相違点1?5について、それぞれ検討する。

相違点1について

焦点調節技術の分野において、焦点調節の手法を、フィルムカメラとデジタルカメラ間で転用することは、従来周知に行われる事項であるから、引用発明の焦点調節手段を有するカメラとして、デジタルカメラに採用することは、当業者にとって、格別の困難性はない。
(例えば、焦点調節技術について開示した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平1-180188号公報の第4頁右下欄第14行目乃至第17行目の記載「なお、上記実施例はスチルビデオカメラに適用したものであるが、ムービービデオカメラや銀塩フィルムカメラにも同様にして容易に適用することができる。」(スチルビデオカメラはデジタルカメラに該当する)、等を参照のこと。)
また、本願補正発明の発明特定事項である「筐体と、前記筐体を経て、光を電気信号に変換するイメージ検出装置の上に光を導くためのレンズであって、該レンズに関連付けられた調整可能な絞りを有するレンズ」との構成は、デジタルカメラであれば通常備わっている要素にすぎない。
(例えば、デジタルカメラについて開示した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平9-230474号公報の「【0012】図1は、カメラCAの正面図であり、筐体1の前面には、透視ファイダー2の前面透明板2fおよび撮影レンズ3が配置されている。」、「【0025】被写体Sで反射された光は、撮影レンズ3および絞り29を通過して、単板式のカラーCCDイメージセンサ30内に入射することができる。すなわち、被写体Sの画像は、イメージセンサ30の受光面に結像する。・・・」、及び「【0029】・・・なお、制御装置26は、露出計40で検出された外界の光量に基づいて、駆動装置39を制御して絞り29を駆動する。」等の記載を参照のこと。)
したがって、上記デジタルカメラの採用に際し、当該構成も当然付随してくるものである。
なお「調整可能な絞り」は、フィルムカメラかデジタルカメラかを問わず、カメラであれば通常備えられる従来周知の構成である点、付言しておく。

相違点2について

本願補正発明の「被写体を表す前記電気信号に応答して、前記被写体の周辺光条件に対して前記絞りを最適な設定に自動的に調整するカメラ設定調整システム」とは、デジタルカメラ一般に通常備えられている、従来周知の自動露光制御機構にすぎない。
(例えば、デジタルビデオカメラについて開示した、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平2-241276号公報の第3頁左下欄第17行目乃至同頁右下欄第19行目までの記載「被写体光は、撮影レンズ3.光学ローパスフィルタ14を介してCCD15に入射される。CCD15は、被写体光を光電変換し、映像信号処理部19に送出する。この映像信号処理部19に入力された映像信号は、周知のように、サンプルホールド、γ補正され、ホワイトクリップ等のプロセス回路、マトリクス回路等を通り、輝度信号と2つの色差信号に変換される。この輝度信号は、輝度信号検出部22を介してAE演算部23に送出される。 AE演算部23では、この輝度信号に基づいて適正露出値を算出してCPU17へ送出する。ここで、本実施例では機械的なシャッタ機構は使用しておらず、シャッタスピードはフィールド蓄積時間の1/60秒で固定しているので、露光調節は絞り12の口径調節のみで行う。したがって、CPU17は、この適正露出値に基づいて絞り値を算出し、この適正絞り値と撮影レンズ3の開放絞り値(例えばf1、4)とを比較する。
適正絞り値が開放絞り値より大きい時には、CPU17は絞り駆動制御部11に指令信号を送出し、絞り12を算出された適正絞り値にセットし、露光する。」)
したがって、上記「相違点1について」で述べたように、引用発明のカメラとして、デジタルカメラを採用した場合、デジタルカメラの基本構成として、当該従来周知の自動露光制御機構を備えることも、当業者であれば適宜なす程度の事項である。

相違点3について

上記「相違点1について」で述べたとおり、カメラが絞り調整手段を有することは、従来周知の事項であり、また一般に、通常備えられるものである。
したがって、引用発明において、絞り調整手段を採用することに、格別の困難性はない。
そして、同手段を採用した場合、引用発明のカメラの被写体深度は、絞り調整手段によって調整された絞り値から、算出されるものであることは、従来周知の技術常識である。
また、固定焦点モードにおける、無限遠の被写体に焦点が合うようにレンズ位置を設定する際の手法として、引用例2の上記記載事項カ、キや、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-45575号公報の記載
(「【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような従来のオートフォーカス装置では、フォーカシングレンズの少ない移動でピント合わせができるので、実用被写体距離で素早いピント合わせが可能であるが、反面、フォーカスレンズ4の僅かな移動誤差によって大きくピントずれが発生する。したがって、とくに晴天時の屋外撮影をズームのワイド側で行う場合などの実用上被写体深度が十分にある条件においても、不用意に大きくピントずれが発生することがあるという問題があった。
【0006】本発明は上記課題を解決するもので、実用被写体距離において素早くピント合わせが可能で、かつ非常に安定性の高いオートフォーカス装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、インナーフォーカス方式のズームレンズにおいて、変倍レンズと、前記変倍レンズの位置を検出するズームエンコーダと、前記変倍レンズを駆動させるズーム駆動手段と、前記変倍レンズの移動による焦点位置補正とフォーカシングを行うフォーカスレンズと、前記フォーカシングレンズを駆動させるフォーカス駆動手段と、フォーカシングレンズを移動させるときの基準位置を決定するためにフォーカシングレンズの位置検出を行うフォーカスエンコーダと、絞り装置と、前記絞り装置の絞り値を検出する絞り検出手段と、映像からのぼけ信号を用いてフォーカシングを行うとともに、ズーミング時に前記変倍レンズの移動に伴う焦点位置補正を行い、ズームトラッキングを確保するフォーカス制御部とを備え、前記フォーカス制御部は、前記ズームエンコーダ情報による焦点距離値が所定の値以下で、かつ前記絞り検出手段の情報による絞り値が所定の値以上であって実用上十分な被写界深度が確保される場合、ズーミング時に自動的に固定フーカスモードを選択して前記所定の焦点距離値以下の特定被写体距離に合焦するように合焦制御し、他の場合は自動的にオートフォーカスモードを選択して実際の被写体距離に合焦するように合焦制御するようにしたオートフォーカス装置とする。
【0008】
【作用】本発明は上記構成において、フォーカス制御部は、ズーム中に焦点距離値が所定の焦点距離値以下であって、かつ絞り値が所定の絞り値以上であるときは、フォーカス制御のモードを固定フォーカスモードに自動的に切り換えて、フォーカシングレンズを特定被写体距離に合焦する固定焦点状態でズーミング動作を行なうように制御して深い焦点深度による合焦状態を確保し、他の条件では通常のオートフォーカスモードに自動的に切り換えて、実被写体距離に合焦させる制御を行なう。
・・・
【0014】なお、固定する焦点距離を1mから無限遠の被写界深度内の値に設定するのが実用的であるので、上記実施例においては固定焦点距離を3m、絞り値をf=11としたが、固定フォーカスモードに切り換える焦点距離と絞り値は、被写界深度範囲内の他の距離と絞り値を選んでもよく、目的により自由に組み合わせることができ、また、固定する焦点距離を絞り値に対応して変化させてもよい。」)
等に開示されているように、調整された絞りで得られる被写体深度内に「無限遠」が含まれるよう、レンズ位置を移動する手段は従来周知の手法であるから、引用発明の「無限遠に焦点を合わせるように」レンズ位置を設定する際に、上記従来周知の手法を採用することは、当業者であれば容易に想到し得る事項である。

相違点4について

自動焦点調節アルゴリズムにおける、本願補正発明の「調整可能な絞りの最適な設定に応答する自動焦点調節アルゴリズム」とは、単に、絞りなどの露出制御の設定の後に、自動焦点調節制御を行うものであることは、本願の明細書の記載から明らかである(例えば、本願の明細書の記載「【0028】次に、図4を参照してデジタルカメラ10の自動焦点モードおよび制御アルゴリズム200をより詳細に考察する。・・・一方、このシャッタボタンが半押しされている(YES)と、プログラムは命令コマンド204に直接移動し露出計算が済んでいるかを判断する。ここでの照会に対する回答がYESで露出計算が済んでいれば、プログラムは命令コマンド212に直接移動する。
【0029】一方、コマンド命令202に対する回答がNOであれば、プログラムはコマンド205に進み開口径の設定を計算し、焦点合わせレンズ14の開口を調整するコマンド206に直接続く。・・・しかしながら、開口が調整されている(YES)と決定すると、プログラムはコマンド208に進み、シャッタ速度が計算される。このコマンド208はコマンド210に直接続く。コマンド210の実行でシャッタ速度が記憶され、プログラムは命令コマンド212に進み焦点Pにレンズが設定されているかを問う。【0030】コマンド212に対する回答がYES(最大光強度即ち最高周波数である焦点Pへの設定がえられている)であれば、プログラムはコマンド221に進む。一方、回答がNOであれば、命令212はコマンド214に直接続きレンズを動かしイメージを読み取る。次いでコマンド216に続きく。コマンド216は焦点位置を過ぎてMまでレンズを移動させる(図5を参照)。つぎに、コマンド218に直接続き、レンズが焦点Pに再設定される。レンズが焦点Pに設定されていればプログラムは直ちにコマンド212の実行をおこなう(図示せず)。
【0031】次いで、撮影者がシャッタボタン34を完全に押すと、コマンド221が割り込み実行され、プログラムはコマンド222に直接進みCCDを露光する。・・・」等を参照)。
また、カメラ制御において、通常は露出制御の後、自動焦点調節の制御を行うことが従来周知の手順である。
(例えば、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-34529号公報の第7頁左上欄第2行目乃至第9行目までの記載「次に公知にカメラの自動露出(AE)操作を行う。<ステップ#11>
次に公知の自動焦点検出(AF)動作を行い、ピントが合った時点で次のステップへ進む、この動作は前述のカメラ・レンズ間の通信によりレンズ内のモータ101を動かし合焦させる。合焦終了はマイコン5にて判断する。<ステップ#12>」等を参照のこと。)
そこで、上記「相違点2について」で述べたように、引用発明のカメラに、従来周知の露出制御手段を採用することは、当業者であれば適宜なす程度の事項であるから、当該採用に際して、上記従来周知のカメラ制御の手順に従うことも、当業者にとって格別の困難性はない。

相違点5について
デフォルトのモード設定を、自動焦点調節モードにするか、固定焦点モードにするかは、使用頻度の高さや用途に応じて、当業者であれば、適宜設定する程度の事項である。
従って、引用発明のデフォルトのモードとして、固定焦点モードに換えることに、格別の困難性はない。
(例えば、同じく、自動焦点調節モードと固定焦点モードの切り替え可能なカメラとして、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-45575号公報の記載には、使用頻度の高い状況(屋外撮影など)には、固定焦点モードに設定される技術思想が開示されている。
「【0010】以下、上記構成要素の相互関係と動作について説明する。フォーカスモード切り換え部33では、ズームエンコーダ27によって検出されたズミング中に刻々と変化する変倍レンズ22の位置と、絞り検出手段29によって検出された絞り値の情報から、通常のオートフォーカスモードにするか、固定フォーカスモードにするかを判断して、フォーカスのモードを自動的に切り換える。固定フォーカスでピントが合う範囲を考察すると、たとえば、屋外撮影において実用被写体距離を1.5m?無限遠とし、最小錯乱像円径を15μmとした場合、絞り値がF11、焦点距離がf=22mm、被写体距離3mにおいて被写体深度により1.5m?無限遠の範囲の被写体にピントが合う。・・・
【0016】
【発明の効果】・・・前記フォーカス制御部は、前記ズームエンコーダ情報による焦点距離値が所定の値以下で、かつ前記絞り検出手段の情報による絞り値が所定の値以上であって実用上十分な被写界深度が確保される場合、ズーミング時に自動的に固定フーカスモードを選択して前記所定の焦点距離値以下の特定被写体距離に合焦するように合焦制御し、他の場合は自動的にオートフォーカスモードを選択して実際の被写体距離に合焦するように合焦制御するようにしたオートフォーカス装置とすることにより、使用頻度の高い屋外撮影などにおいても不用意に大きなピントずれを発生することがなく、実使用状態において高いフォーカス精度を確保し、かつフォーカスの安定性を大幅に高めることができるオートフォーカス装置を実現できるものである。」)

また、本願補正発明によってもたらされる効果は引用例1の記載及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

まとめ

よって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本件補正についての結び

以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成19年8月13日付けの手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、本願の当初明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体を経て、光を電気信号に変換するイメージ検出装置の上に光を導くためのレンズであって、該レンズに関連付けられた調整可能な絞りを有するレンズと、
を有する、デジタルカメラであって、
a)被写体を表す前記電気信号に応答して、前記被写体の周辺光条件に対して前記絞りを最適な設定に自動的に調整するカメラ設定調整システムと、
b)前記調整された絞りに基づいて焦点調節位置を決定する固定焦点モードアルゴリズムであって、前記調整された絞りで得られる被写体深度中の最大距離が無限遠となる焦点調節位置に前記レンズを移動させ、かつ前記焦点調節位置に前記レンズを維持する、固定焦点モードアルゴリズムと、
c)前記調整可能な絞りの最適な設定に応答する自動焦点調節アルゴリズムであって、外部から発せられた起動コマンドを受け取ると、前記レンズを所定の焦点調節位置に移動させる自動焦点調節モードアルゴリズムと、
を備えることを特徴とする、デジタルカメラ。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及びその記載事項は、前記「第2 2.引用例」において、「引用例1」に関し、記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2 3.対比及び4.当審の判断」で検討した本願補正発明から、本件補正前の「デジタルカメラ」が、「デフォルトのモード」として、「固定焦点モードアルゴリズムが設定されている」ものとする限定を省いたもの、に該当する・

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明について、前記「第2 4.当審の判断」で記載した内容と同様の理由により、本願発明は、当業者からみて、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明によってもたらされる効果は引用例1の記載及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、本願発明は、当業者からみて、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び2に記載された発明、及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-10 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-11-27 
出願番号 特願平11-74686
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻本 寛司菊岡 智代  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 小松 徹三
越河 勉
発明の名称 デジタルカメラおよびその使用方法  
代理人 後藤 政喜  

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