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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部無効 特29条の2  G01C
審判 全部無効 判示事項別分類コード:822  G01C
審判 全部無効 2項進歩性  G01C
管理番号 1196570
審判番号 無効2007-800190  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-10 
確定日 2009-05-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3569501号発明「ナビゲーション表示における案内情報の選択方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3569501号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)特許第3569501号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらを一括して「本件発明」という。)についての出願は、平成5年1月21日に出願した特願平5-27418号の一部を平成13年4月23日に新たな特許出願としたものであって、平成16年6月25日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

(2)これに対し、請求人は、平成19年9月10日に本件発明1及び2に係る特許について無効審判を請求した。

(3)被請求人は、平成19年11月26日に訂正請求書を提出して訂正を求めた(以下、「本件訂正」という。)。
被請求人が求めている訂正の内容は、明りょうでない記載の釈明を目的とした以下の訂正事項を含むものである。
特許請求の範囲の請求項1における「自車位置及び目的位置、方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ選択可能とするナビゲーション表示」との記載を「自車位置及び目的位置、方向を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ画像表示された複数の施設に関する案内情報を選択可能とするナビゲーション表示」との記載に訂正する。

(4)平成20年2月27日に第1回口頭審理を行い、その際、本件訂正は「特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しない」との訂正拒絶理由を告知した。また、請求人の主張する無効理由1ないし4のうち、無効理由2は取り下げられた(「第1回口頭審理調書」参照)。

(5)訂正拒絶理由に対し、被請求人は、意見書を提出しなかった。

2.本件訂正の可否に対する判断
(1)当審の判断
訂正拒絶理由で指摘したように、上記訂正事項によると、選択可能とする「案内情報」とは、「画像表示された複数の施設に関する」ものと解されるが、一方、訂正前の選択可能とする「案内情報」とは、「自車位置及び目的位置、方向」に関するものであると解される。
そうすると、「案内情報」が、訂正前の「自車位置及び目的位置、方向」から、これとは全く別の概念である訂正後の「画像表示された複数の施設に関する」ものへと変更されたことになり、また、選択可能な対象も変更されたことになる。
したがって、上記訂正事項は、仮に明りょうでない記載の釈明を目的としたものであるとしても、実質上特許請求の範囲を拡張し、または、変更するものといわざるをえない。

(2)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正事項を含む本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しないので、本件訂正は認められない。

3.本件発明
上記の「2」において示したとおり本件訂正は認められないので、本件発明1及び2は、特許明細書(以下、「基準明細書」という。)及び図面の記載によれば、次のとおりのものと認める。

(1)本件発明1
「自車位置及び目的地の位置、方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ選択可能とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法において、
画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと、
前記設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと、
抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと、
リストアップされた施設から所定の施設を選択し、目的地として設定する目的地設定ステップと、
を有することを特徴とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」
(なお、請求項1には「前記画像表示された複数の施設に関する情報」との記載があるが、これは第1回口頭審理において被請求人が陳述したとおり「画像表示された複数の施設に関する情報」の誤記であると解されるので、本件発明1を上記のように認定した。)

(2)本件発明2
「上記設定された施設の種類に基づいて、目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出する距離情報演算算出ステップと、
前記距離情報演算算出結果に基づいて、該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと、
を有する請求項1に記載のナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」

4.請求人の主張
これに対して、請求人は、以下の(1)ないし(3)の理由を挙げて、本件発明1及び2に係る特許(以下、「本件特許」という。)は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出している。
(1)無効理由1
本件特許は、発明の詳細な説明に記載されていない構成、及び、技術的意義が不明な構成が請求項1に記載されているので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第5項第2号の規定に適合しないものに対してなされたものである。

(2)無効理由3
本件発明は、本件特許の出願の日前に出願され、その出願後に出願公開された甲第3号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であるので、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

(3)無効理由4
本件発明は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明並びに周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特許第3569501号特許掲載公報
甲第2号証:特開平6-223296号公報
甲第3号証:特開平5-197337号公報
甲第4号証:特開昭62-151884号公報
甲第5号証:CELSIOR エレクトロ マルチビジョンの取扱書 表紙、第2-4頁、第42-49頁及び裏表紙 1992年8月20日発行
甲第6号証:特開平4-123088号公報
甲第7号証:特開平2-310423号公報
甲第8号証:特開平1-173821号公報
甲第9号証:特開平3-137673号公報
(なお、甲第6号証ないし甲第9号証は本件特許の出願前の周知の技術について立証するものである。)

5.被請求人の主張
一方、被請求人は、無効理由1、3及び4はいずれも理由がないものであるとして、以下の主張を行っている。
(1)無効理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第5項第2号の規定に適合しないものに対して特許されたものではない。

(2)無効理由3
本件発明は、甲第3号証に係る先願明細書等に記載された発明と同一でないから、特許法第29条の2の規定に該当しない。

(3)無効理由4
本件発明は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明並びに周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

6.甲各号証
(1)甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車用ナビゲーションシステムの一機能である地域情報の検索表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車のナビゲーションシステムにおいて、通常地図情報と特定地点の詳細地図情報が記録されている地図データ記録媒体をもち、自車の走行方向に一致した詳細地図情報が表示部(CRT)に表示されるようにしたものは既に従来よりあり、例えば特開昭63-115190号公報にて公開されている。
【0003】上記のようなナビゲーションシステムにおいて、地域ごとに病院,食堂,ホテル或はガソリンスタンド等その地域に存在している物件情報の検索表示が行えるようになっているものも従来よりある。」

・「【0028】自車の現在位置から遠く離れた地域、例えば今から行こうとしている目的地付近の物件情報を得たい場合は、検索手段選択部15で従来的検索を選択し(図1ではスイッチオフとする)、従来通りの手順で目的とする物件情報を表示することができる。この場合は図2において、第1検索条件選択部7にてaの物件項目の中の1つを選択した後、第2検索条件選択部8でbのような関東地方の物件リストを表示し、第3検索条件選択部9でcのような千葉県の物件リストを表示するものである。」

・「【0033】検索手段選択部15で目的位置記憶部18が記憶している地点情報の中の一つを検索条件として選択した場合は、その地点情報が検索条件設定部12に検索条件としてダイレクトに設定され、その地点を基準点として設定距離Rに基づき検索範囲が決定され、検索部13がその検索範囲内の物件をリストアップして検索結果記憶部13′がそれを記憶すると共に、以下は前記自車位置を基準点とした場合と全く同様にして、情報整理部17が、該選択した地点(基準点)から各物件までの相対距離を求めると共に、自車の走行方向に対し基準点の前方にある物件名を基準点から遠い順に並べ基準点の後方にある物件名を基準点から近い順に並べ換え且つ基準点の前方で該基準点に最も近い物件名にカーソル,アンダライン,網掛け等の印をつける、という処理を行ない、これに基づき表示指示部14がインタフェイス・画像処理部5を通して表示部6に表示する。」

・「【0037】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、自動車のナビゲーションシステムに地域の情報検索表示装置を付加したものにおいて、情報検索装置に検索手段選択部を設け、該検索手段選択部でダイレクト検索を選択すると、ナビゲーションシステムの自車位置決定部から得た自車位置情報又は任意の地点情報が検索条件としてダイレクトに設定され、自車位置又は該地点を基準点とし該基準点近辺の複数の物件名が表示部に表示されるようにしたことにより、物件検索時間は大幅に短縮されるとともに操作が楽になり、ドライバは運転に対する集中度を低下させることなく容易に目的とする物件の表示を行いそれを確認することができるものである。
【0038】また、検索した物件リストの表示順序を上記基準点から近い順に特定の配列で並べ換える情報整理部を設けたことにより、不知な地域で基準点から一番近い物件を一目で探しだすことができ、特に緊急時や目的地での駐車場探し等に極めて有効である。
【0039】更に又、上記情報整理部の物件リストの配列順序を、基準点に最も近い物件を表示リストの中央に表示し、他の複数の物件を中央から外側に表示し、且つ中央より上方には自車の進行方向の前方にある物件を,下方には自車の進行方向の後方にある物件をそれぞれ表示するよう設定することにより、ドライバは各物件の基準点からの距離の遠近のみならず所在方向をも把握することが容易となり、便益性の著しい向上をはかり得る。」

・図2のaには、物件項目として、レジャーランドやホテルといったものが示されている。

上記の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証に係る先願明細書等には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「自車の走行方向に一致した詳細地図情報を表示部に表示する、ナビゲーションシステムの情報検索表示における物件情報の選択方法において、
表示部に表示された複数の物件情報に関するレジャーランドやホテルなどの物件項目から一つを選択し設定する手段と、
前記設定された物件項目に基づいて、目的位置記憶部が記憶している地点情報を基準点として検索部が検索範囲内の物件情報をリストアップする手段と、
を有するナビゲーションシステムの情報検索表示における物件情報の選択方法。」

(2)甲第4号証
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「〔発明の概要〕
本発明は地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ、記憶媒体から読み出され、画像信号に変換された地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において、地図情報としてホテル、駐車場、ガソリンスタンド、ディーラ等の所定の施設を、施設が存在する位置に、道路に重畳して、シンボルで表示するとともに、同種の施設を表すシンボルの各々に、相互に区別でき、かつ連続的に関連する比較的簡易な数字、文字、記号等を併せて表示するようにし、もって地図が見難くなるのを防止するとともに、各施設の位置やより詳細な情報を得るときの操作性を向上させたものである。
〔従来の技術〕
最近CD-ROM等に地図情報を記録しておき、その地図情報を読み出して、車両の現在地とともに表示装置に表示させ、車両を所定の目的地に誘導する車両ナビゲーション装置が研究、開発されている。斯かる従来の装置は、例えばホテル、駐車場、ガソリンスタンド、車のディーラ等の所定の施設がある場合、その名称等をその所在地の近傍に道路とともに表示装置に表示し、運転者の便宜に供するようにしている。」(1頁左下欄20行?2頁左上欄3行)

・「第1図は本発明の情報表示装置を車両ナビゲーション装置に応用した場合のブロック図である。」(2頁左上欄19行?同欄20行)

・「 〔作用〕
しかしてその作用を説明する。先ず最初にナビゲーションキー51が操作された場合における基本的動作について説明する。方位センサ7、速度センサ8、GPS装置9等の情報からプロセッサ10は車両の現在地を演算し、検出する。この情報に対応してプロセッサ6はCD-ROM1から現在地を含む地図を読出し、メモリ5に記憶させる。CD-ROM1には複数の縮尺の地図が記録されており、メモリ5には現在地を含む各縮尺の地図が記憶される。プロセッサ6はコントローラ15を制御し、メモリ5に記憶された地図のうち所定の縮尺のデータをメモリ16又は17に書き込ませる。・・・途中省略・・・
次にガイドキー53を操作した場合の作用を説明する。ガイドキー53が操作されたとき、プロセッサ6は例えば第4図に示すように、地図に重畳して、ガイドメニューを表示装置29の所定位置(図においては上下辺の近傍)に表示させる。いまCD-ROM1に、地図情報として、道路、鉄道、海岸線等を表示する線分データだけでなく、ホテル、ガソリンスタンド、車のディーラ、駐車場の各施設のシンボルを表示するシンボルデータも記録されているものとすると、これらのシンボルが必要に応じてその意味するところの文字とともに所定位置に表示される。
表示装置29の前面にはタッチセンサが配置してあり、各施設の表示位置を指等で触れるとそれが検知される。従ってホテル、駐車場、ガソリンスタンド、ディーラのいずれが選択されたかが判断され、いずれかの施設が選択されたとき、ガイドメニューが消去されるとともに、地図に重畳して選択された施設のシンボルがその所在地に表示される。例えばホテルが選択されたとき第5図に示すように、ホテルのシンボルが地図上の所在地に対応して表示される。このシンボルはガイドメニュー表示時に表示されたシンボルと同一である。
従って操作者はガイドメニュー表示における文字を見なくとも、シンボルを見るだけで、殆ど直感的に所望の施設を選択することができる。またこのとき選択されない施設は表示されないから、シンボルを捜すこと自体は極めて容易となる。逆にガイドキー53を操作しない場合は、これらのシンボルが表示されていない通常の地図だけの表示となるから、地図が見難くなるようなこともない。・・・途中省略・・・
第5図に示すように、選択されたシンボルが地図に重畳して表示されるとき、表示装置29の所定位置(実施例においては右下辺の近傍)には、選択されたシンボルにより表される施設のより詳細な情報を表示させるための操作スイッチが表示(実施例においてはリストの文字が表示)される。このリストの文字が表示されている部分を指等で、触れると、タッチセンサによりそれが検知され、第6図に示すように、表示装置29の画面から地図が消去され、その代りにそのとき地図上に表示されていたホテルに関するより詳細な情報がリストになって表示される。より詳細な情報とは、例えばホテルの名称、電話番号、住所、特徴等である。従って操作者は第5図に示す表示状態において所望のホテルをその番号で特定し、さらに第6図に示す表示に切り換え、対応する番号が付されたところの情報を見ることにより、その施設のより詳細な情報を知ることができる。このとき地図上に表示されていない施設の情報は表示されないので所望の施設の情報がより見易くなる。また番号等のように連続的な関連性を有するものを用いることにより、リスト中から所望の施設を捜し出すことがさらに容易となる。」(3頁右上欄15行?4頁右下欄15行)

・「〔効果〕
以上の如く本発明は地図情報をディジタル化して所定の記憶媒体に記憶させ、記憶媒体から読み出され、画像信号に変換された地図情報を表示装置に表示する情報表示装置において、地図情報としてホテル、駐車場、ガソリンスタンド、ディーラ等の所定の施設を、施設が存在する位置に、道路に重畳して、シンボルで表示するとともに、同種の施設を表すシンボルの各々に、相互に区別でき、かつ連続的に関連する比較的簡易な数字,文字,記号等を併せて表示するようにしたので、その数字等により施設を区別することができ、従ってより詳細な情報はその番号に対応して別に表示させることが可能になる。その結果通常状態においては地図に施設の名称等を表示する必要がなく、地図が見難くなるのを防止することができる。その結果各施設の位置の確認と、その施設のより詳細な情報の確認を独立に行うことができ,操作性を向上させることができる。」(5頁右上欄15行?同頁左下欄13行)

上記の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「地図情報を読み出して車両の現在地とともに所定の施設のシンボルを所在地に対応して表示装置に表示する、車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法において、
表示装置に表示されたガイドメニューの施設のシンボルから所望の施設のシンボルを選択する手段と、
前記選択された施設のシンボルに基づいて、車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段と、
を有する車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法。」

(3)甲第5号証
甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「ナビゲーション機能および地図を操作する前に
・・・途中省略・・・
現在地付近から目的地周辺までの走行ルートを知りたいときは」(2頁)

・「地図に自宅や目的地(走行上の目印になる地点)などを登録したいときは
地図上に走行上の目印となる地点6カ所(自宅含む)までセットできます。」(42頁)

・「セットのしかた
・・・途中省略・・・
1 登録したい場所の地図を出す方法を決めます
メニュー画面にして「地点登録」を押します。

2 1/8万図より詳細な地図をだす方法を「地名索引」、「目的地周辺」、「現在地周辺」、「メモリ地点」、「全国図」及び「電話番号」の中から一つ選びます。
・・・途中省略・・・
目的地周辺が選択できるのは、あらかじめ目的地設定がされている場合です。」(43頁)

上記の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
「あらかじめ目的地設定がなされている場合、目的地周辺の地図を出すナビゲーション表示方法。」

(4)甲第6号証
甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「このような構成によれば、表示中の地図情報の地域を走行中、例えば希望施設迄の経路が知りたい場合に、画面操作によって希望施設の区分を指定してサービスを要求すると、表示中の地図画面(第1の画面)に存する全ての指定区分内の施設が所在位置に当該施設に付された番号で表示される。更にユーザーは、これら番号表示された施設をリスト画面(第2の画面)に表し、希望の施設を画面により指定することで、リスト表示された施設のデータを格納したメモリをアクセスして、希望施設までの経路を探索し表示することができる。」(2頁右下欄7行?18行)

(5)甲第9号証
甲第9号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「本発明における移動体用ナビゲーション装置は、ナビゲーション表示に加えて、選択手段の選択信号により特定されたサービスデータによるサービス箇所を移動体の現在位置に近い順から選択可能なように制御手段により表示手段に表示させ、選択されたサービス箇所の詳細情報も表示させる。」(2頁右上欄9行?同欄14行)

7.無効理由についての判断
(1)上記無効理由1、3及び4のうち、まず無効理由1について検討する。
請求項1の記載において、請求人が発明の詳細な説明に記載されていないと主張する、「自車位置及び目的地の位置、方向の案内情報」を「選択可能とするナビゲーション表示」という記載について検討する。自車位置及び目的地の位置は、例えば、自車位置を正しい位置に修正・選択するとか、目的地をいくつかの候補から選択するとかのように、通常のナビゲーション表示において選択可能なものであることが技術常識である。方向についても、例えば、ナビゲーション表示における方向選択として北が上になるように地図を表示するノースアップと自車の進行方向が上になるように地図を表示するヘッドアップとを選択可能であるものが一般的である。してみると、「自車位置及び目的地の位置、方向の案内情報」を「選択可能とするナビゲーション表示」は、ナビゲーション分野において技術常識であるといえるので、前記記載が発明の詳細な説明に直接的に記載されていなくとも、記載されているに等しい事項というべきである。
また、同じく請求項1の記載において、請求人が技術的意義が不明であると主張する、「前記画像表示された複数の施設に関する情報」は、「画像表示された複数の施設に関する情報」の明らかな誤記であるから、技術的な意義は明らかである。
したがって、ナビゲーション分野における技術常識を勘案すれば、「自車位置及び目的地の位置、方向の案内情報」を「選択可能とするナビゲーション表示」は発明の詳細な説明に記載されているに等しい事項であり、かつ、「画像表示された複数の施設に関する情報」の技術的意義も明確であることから、本件特許における特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第2号の規定に適合しており、無効理由1には理由がない。

(2)次に、無効理由3について検討する。
(2-1)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)後者の「ナビゲーションシステムの情報検索表示における物件情報の選択方法」が前者の「ナビゲーション表示における案内情報の選択方法」に相当する。

(イ)後者の「レジャーランドやホテルなどの物件項目」が前者の「施設の種類」に相当しているので、後者の「表示部に表示された複数の物件情報に関するレジャーランドやホテルなどの物件項目から一つを選択し設定する手段」は、前者の「画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップ」に相当する。

(ウ)後者の「目的位置記憶部が記憶している地点情報を基準点として」が前者の「現在設定されている目的地の位置を基準に」に相当し、かつ、後者において「物件情報をリストアップする」にはリストアップするための物件情報の抽出を行っていることが明らかであるから、後者の「設定された物件項目に基づいて、目的位置記憶部が記憶している地点情報を基準点として検索部が検索範囲内の物件情報をリストアップする手段」は、前者の「設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと、抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ」に相当する。

したがって、両者は、
「ナビゲーション表示における案内情報の選択方法において、
画像表示された複数の施設に関する情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと、
前記設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと、抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと、
を有するナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
ナビゲーション表示に関し、本件発明1においては、「自車位置及び目的地の位置、方向の案内情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ選択可能とする」態様であるのに対し、甲3発明では「自車の走行方向に一致した詳細地図情報を表示部に表示する」態様である点。

[相違点2]
目的地周辺の施設のリストアップ表示後に、本件発明1においては、「リストアップされた施設から所定の施設を選択し、目的地として設定する目的地設定ステップ」を設ける点を限定しているのに対し、甲3発明ではそのような限定はなされていない点。

以下、上記相違点について検討する。
[相違点1]について
ナビゲーション表示において、自車位置、目的地の位置及び方向といった情報を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ選択可能とすることは、ナビゲーション表示における技術常識といえるものである。
そして、甲3発明もナビゲーション表示に関するものであって、しかも「詳細地図情報」を表示するものであるから、前記技術常識に照らせば、甲3発明の「詳細地図情報」には、自車位置や目的地の位置、方向などを表示するものが含まれているし、自車位置や目的地の位置、方向を選択可能とする手段も当然備えているものと解される。
したがって、上記の相違点1は実質的な相違点ではない。

[相違点2]について
甲3発明には、リストアップされた施設を目的地として設定することは何ら示唆されていないし、目的地をどのように設定するのかを示唆する記載も甲第3号証に係る先願明細書等にはない。
そうすると、甲第3号証に係る先願明細書等の全体を通じてみても、甲3発明には、上記相違点2に係る本件発明1の構成が記載も示唆もなされていないうえに、甲3発明が「リストから最終的な目的地を設定できる」という本件発明1の効果を奏するものでないことから、上記相違点2は課題解決のための具体化手段における微差ということができない。

したがって、本件発明1は甲3発明と同一でない。

(2-2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用しており、また、少なくとも本件発明1の「リスト表示ステップ」について、「距離情報演算算出結果に基づいて、該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示」との構成を限定付加したものである。したがって、上記の「(2-1)」に示したように本件発明1は甲3発明と同一でないことから、本件発明2も甲3発明と同一でない。

(2-3)無効理由3のまとめ
以上検討したところによれば、無効理由3には、理由がない。

(3)次に、上記無効理由4について検討する。
(3-1)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
(ア)後者の「地図情報を読み出して車両の現在地とともに所定の施設のシンボルを所在地に対応して表示装置に表示する、車両ナビゲーション装置の施設の情報の選択方法」と前者の「自車位置及び目的地の位置、方向を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示し、かつ選択可能とするナビゲーション表示における案内情報の選択方法」とは、「自車位置を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示する、ナビゲーション表示における案内情報の選択方法」なる概念で共通する。

(イ)後者の「表示装置に表示されたガイドメニューの施設のシンボルから所望の施設のシンボルを選択する手段」が前者の「画像表示された複数の施設に関する案内情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップ」に相当する。

(ウ)後者の「選択された施設のシンボルに基づいて」が前者の「設定された施設の種類に基づいて」に相当すると共に、後者の「車両の現在地」と前者の「目的地の位置」とは共に施設の情報をリストアップする際の「基準位置」という概念で共通し、後者の「リストにして表示する」際には基準位置の周辺の施設の情報の抽出を行っていることが自明であるので、後者の「選択された施設のシンボルに基づいて、車両の現在地を含む地図上にある施設の情報をリストにして表示する手段」と前者の「設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている目的地の位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する目的地周辺検索ステップと、抽出された目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ」とは、「設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する基準位置周辺検索ステップと、抽出された基準位置周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ」なる概念で共通する。

したがって、両者は、
「自車位置を車両の移動に伴ってランドマークを含む地図情報上に画像表示する、ナビゲーション表示における案内情報の選択方法において、
画像表示された複数の施設に関する案内情報から少なくとも必要とする施設の種類を設定する条件設定ステップと、
前記設定された施設の種類に基づいて、現在設定されている基準位置を基準に所定の範囲にある施設の情報を抽出する基準位置周辺検索ステップと、抽出された基準位置周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップと、
を有するナビゲーション表示における案内情報の選択方法。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
ナビゲーション表示における案内情報に関し、本件発明1では自車位置のみならず「目的地の位置、方向」をも画像表示し、かつ「選択可能とする」態様であるのに対し、甲4発明ではかかる態様が特定されていない点。

[相違点2]
所定の範囲にある施設の情報を抽出する場合の基準位置に関し、本件発明1では「目的地の位置」であるのに対し、甲4発明では「車両の現在地」である点。

[相違点3]
本件発明1は「リストアップされた施設から所定の施設を選択し、目的地として設定する目的地設定ステップ」を有するのに対し、甲4発明はかかるステップを有していない点。

以下、上記相違点について検討する。
[相違点1]について
目的地の位置、方向を画像表示し、かつ選択可能とすることは例を示すまでもなく、ナビゲーション表示において周知の技術にすぎない。
そうすると、甲4発明において、上記周知の技術を採用することにより、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
ナビゲーション表示において、目的地の周辺の施設の情報は地図で通常提供されているものにすぎず、現に、甲5発明は、ナビゲーション表示において目的地周辺の地図を表示するものである。
そうすると、甲4発明及び甲5発明は共にナビゲーション表示において施設の情報を得るものといえ、一般的にナビゲーション表示において運転者が必要とする現在地や目的地などを中心とする任意の領域を表示することは当然に要求されるべき事項にすぎないから、甲4発明に、甲5発明を採用することにより、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点3]について
例えば、甲第6号証には、走行中であってもリスト表示された施設から希望の施設を指定することにより目的地に設定することが示されているように、リストアップされた施設から所定の施設を選択し、目的地として設定することは、ナビゲーション技術における単なる周知の技術にすぎない。
また、適宜の検索手段によりリストアップされた施設を目的地として設定することはナビゲーション装置の基本機能であり、また、走行開始後においても目的地の再設定が可能なものであることは明らかであるので、ナビゲーションにおいて走行後も目的地を自由に設定するという課題はナビゲーション装置が本来有している目的に照らせば格別なものとは認められない。更に、ナビゲーション装置において走行前の最初の目的地の設定と、走行中における目的地の変更による新たな目的地の設定の場合とで目的地の設定処理がさほど異なるとも認められない。
そうすると、甲4発明において、上記周知の技術を採用することにより、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本件発明1の全体構成により奏される効果も、甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術から予測し得る範囲内のものである。

したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-2)本件発明2について
本件発明2と甲4発明とを対比すると、「本件発明1について」で検討した相違点に加え、「設定された施設の種類に基づいて、目的地の位置から設定された種類の施設迄の距離情報を演算算出する距離情報演算算出ステップと、前記距離情報演算算出結果に基づいて、該目的地の位置から距離が近い順に上記目的地周辺の施設をリストアップ表示するリスト表示ステップ」との点(以下、「相違点4」という。)で相違するが、ナビゲーション装置において、施設を表示させる際に施設との距離が近い順から表示する点は、例えば、甲第9号証の2頁右上欄9行から同欄14行に記載されているように周知の技術にすぎない。
また、甲4発明が、リスト中から所望の施設を容易に探し出すことができるようにしたものであることに照らせば、甲4発明において、上記周知の技術を採用することにより、上記相違点4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本件発明2の全体構成により奏される効果も、甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術から予測し得る範囲内のものである。

したがって、本件発明2は、上記「本件発明1について」での検討内容を踏まえれば、甲4発明及び甲5発明並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-3)被請求人の反論について
被請求人は、平成20年2月27日の第1回口頭審理において「甲第6号証には目的地の置き換えは明記されていない。リストアップされる範囲は自車位置を中心とした範囲にすぎない。甲第6号証は現在地を中心とした範囲で、リストアップ後、目的地を設定するものである。それに対し、本件発明は、先に設定した目的地を基準とした範囲で、施設情報を抽出し、リストアップ後、目的地を設定するものである。」と主張している。しかしながら、甲第6号証には確かに「目的地の置き換え」が明記されていないものの、上記「(3-1)[相違点3]について」で述べたように、ナビゲーションにおいて走行後も目的地を自由に設定するという課題はナビゲーション装置が本来有している目的に照らせば格別なものとは認められないので、甲4発明において、例えば甲第6号証に示される周知の技術を適用することで、「目的地の置き換え」という技術的思想は容易想到なものである。更に、上記「(3-1)[相違点2]について」で述べたように、運転者が必要とする現在地や目的地などを中心とする任意の領域を表示することは当然に要求される事項にすぎないことであるから、甲4発明に甲5発明を採用することにより、表示の基準を目的地の周辺とすることは当業者が容易になし得ることである。そうすると、上記の被請求人の主張は、ナビゲーション装置が本来有する目的に照らせば格別なものとは認められないことから、採用することができない。
また、被請求人は平成19年11月26日付け答弁書の17頁において、甲第5号証はナビゲーション装置の取扱説明書であり課題や作用効果が記載されていないので、甲第5号証記載の甲5発明を甲4発明と組み合わせることは、当業者にとって容易になし得ることではないと主張している。しかしながら、甲5発明は甲4発明と同じ技術分野に属することは明らかであり、かつ、ナビゲーション装置という技術分野における技術常識を勘案すれば、ナビゲーション表示において運転者が必要とする現在地や目的地などを中心とする任意の領域を表示するとの課題やそれによる作用効果は把握することが可能である。そうすると、上記の被請求人の主張も採用することができない。

(3-4)無効理由4のまとめ
以上検討したところによれば、無効理由4については、理由があるというべきである。

8.むすび
以上のとおり、本件発明1及び本件発明2に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-07 
結審通知日 2008-07-09 
審決日 2008-08-08 
出願番号 特願2001-123725(P2001-123725)
審決分類 P 1 113・ 16- ZB (G01C)
P 1 113・ 121- ZB (G01C)
P 1 113・ 534- ZB (G01C)
P 1 113・ 822- ZB (G01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 学竹下 晋司  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 本庄 亮太郎
田中 秀夫
登録日 2004-06-25 
登録番号 特許第3569501号(P3569501)
発明の名称 ナビゲーション表示における案内情報の選択方法  
代理人 町田 正史  
代理人 大熊 考一  
代理人 茜ケ久保 公二  
代理人 木内 光春  

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