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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1196594
審判番号 不服2005-12438  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-06-30 
確定日 2009-04-30 
事件の表示 平成10年特許願第354796号「ライトプロテクト方法、光情報記憶媒体、ドライブ装置及びライトプロテクト装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月30日出願公開、特開2000-182287〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許出願(以下「本願」という。)は、平成10年12月14日に出願されたものであって、平成17年5月27日付けで拒絶査定がなされ、平成17年6月30日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされたものである。


II.平成17年6月30日付け手続補正についての却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成17年6月30日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.平成17年6月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の内容

本件補正の内容は、明細書についてするもので、そのうち特許請求の範囲については、

-本件補正前-
【請求項1】 円盤状の基体に光情報記憶層を備えた光情報記憶媒体に設けられ、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層に対し、異なるエネルギーを印可して前記可逆表示記録層の光反射特性を少なくとも2種類に変化させ、前記光情報記憶媒体の外観上のライトプロテクトとその解除とを行なうようにしたライトプロテクト方法。
【請求項2】 前記可逆表示記録層の光反射特性の変化は、視覚的変化である請求項1記載のライトプロテクト方法。
【請求項3】 前記可逆表示記録層の光反射特性の変化は、光センサによる検出に適合する変化である請求項1記載のライトプロテクト方法。
【請求項4】 前記可逆表示記録層の光反射特性の変化を前記光センサで検出するようにした請求項3記載のライトプロテクト方法。
【請求項5】 前記可逆表示記録層は、熱エネルギーに応じて常温復帰時の光透過率が少なくとも2種類に可逆的に変化する熱可逆性材料によって形成されている請求項1記載のライトプロテクト方法。
【請求項6】 円盤状の基体と、
前記基体上に積層形成された光情報記憶層と、
前記光情報記録層上に積層形成され、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層と、
を具備する光情報記憶媒体。
【請求項7】 円盤状の基体と、
前記基体の一面上に積層形成された光情報記録層と、
前記基体の別の一面上に積層形成され、前記光情報記録層への情報の書き込み又は読み取りに用いるレーザ光の波長において透明性を有し、かつ、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層と、
を具備する光情報記憶媒体。
【請求項8】 円盤状の基体と、
前記基体の一面上に積層形成された光情報記録層と、
前記基体の別の一面上の前記光情報記録層に干渉しない位置に積層形成され、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層と、
を具備する光情報記憶媒体。
【請求項9】 光情報記憶媒体が装着される装着部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体を回転駆動する回転駆動部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体の半径方向に移動自在に支持されて前記光情報記憶媒体にレーザ光を照射する光ピックアップと、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられた印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層の光反射特性を検知する光センサと、
を具備するドライブ装置。
【請求項10】 前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体の前記可逆表示記録層にエネルギーを印可するエネルギー印可部と、
前記エネルギー印可部による印可エネルギーを可変して前記可逆表示記録層を第1の状態と第2の状態とに選択的に変化させるエネルギー可変手段と、
を備える請求項9記載のドライブ装置。
【請求項11】 前記エネルギー印可部は、熱エネルギーを前記可逆表示記録層に印可する請求項10記載のドライブ装置。
【請求項12】 前記エネルギー可変手段は、前記エネルギー印可部の加熱温度を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可エネルギーを可変する請求項11記載のドライブ装置。
【請求項13】 前記エネルギー可変手段は、前記エネルギー印可部の加熱時間を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可エネルギーを可変する請求項11記載のドライブ装置。
【請求項14】 光情報記憶媒体が装着される装着部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられて印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する可逆性材料により形成された可逆表示記録層にエネルギーを印可するエネルギー印可部と、
前記エネルギー印可部による印可エネルギーを可変して前記可逆表示記録層を第1の状態と第2の状態とに選択的に変化させるエネルギー可変手段と、
を具備するライトプロテクト装置。
【請求項15】 前記エネルギー印可部は、熱エネルギーを前記可逆表示記録層に印可する請求項14記載のライトプロテクト装置。
【請求項16】 前記エネルギー可変手段は、前記エネルギー印可部の加熱温度を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可エネルギーを可変する請求項15記載のライトプロテクト装置。
【請求項17】 前記エネルギー可変手段は、前記エネルギー印可部の加熱時間を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可エネルギーを可変する請求項15記載のライトプロテクト装置。
【請求項18】 前記装着部は、前記エネルギー印可部とヒンジ結合され、前記装着部に向けて閉じられた状態で前記可逆表示記録層に対してエネルギーを印可する請求項14記載のライトプロテクト装置。
【請求項19】 前記エネルギー印可部は、前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられた可逆表示記録層に対応する形状を有する請求項18記載のライトプロテクト装置。」

-本件補正後-
「【請求項1】 円盤状の基体に光情報記憶層を備えた光情報記憶媒体に設けられ、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層に対し、異なるエネルギーを印可して前記可逆表示記録層の光反射特性を少なくとも2種類に変化させ、該光反射特性の変化を光センサにより検出するようにして前記光情報記憶媒体の外観上のライトプロテクトとその解除とを行なうようにしたライトプロテクト方法。
【請求項2】 円盤状の基体と、
前記基体上に積層形成された光情報記憶層と、
前記光情報記録層上に積層形成され、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層と、
を具備する光情報記憶媒体。
【請求項3】 円盤状の基体と、
前記基体の一面上に積層形成された光情報記録層と、
前記基体の別の一面上に積層形成され、前記光情報記録層への情報の書き込み又は読み取りに用いるレーザ光の波長において透明性を有し、かつ、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層と、を具備する光情報記憶媒体。
【請求項4】 円盤状の基体と、
前記基体の一面上に積層形成された光情報記録層と、
前記基体の別の一面上の前記光情報記録層に干渉しない位置に積層形成され、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層と、を具備する光情報記憶媒体。
【請求項5】 光情報記憶媒体が装着される装着部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体を回転駆動する回転駆動部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体の半径方向に移動自在に支持されて前記光情報記憶媒体にレーザ光を照射する光ピックアップと、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられた印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層の光反射特性を検知する光センサと、を具備するドライブ装置。
【請求項6】 前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体の前記可逆表示記録層に熱エネルギーを印可する熱エネルギー印可部と、
前記熱エネルギー印可部による印可熱エネルギーを可変して前記可逆表示記録層を第1の状態と第2の状態とに選択的に変化させるエネルギー可変手段と、を備える請求項5記載のドライブ装置。
【請求項7】 前記エネルギー可変手段は、前記熱エネルギー印可部の加熱温度を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可熱エネルギーを可変する請求項6記載のドライブ装置。
【請求項8】 前記エネルギー可変手段は、前記熱エネルギー印可部の加熱時間を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可熱エネルギーを可変する請求項6記載のドライブ装置。
【請求項9】 光情報記憶媒体が装着される装着部と、
前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられて印可熱エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層に熱エネルギーを印可する熱エネルギー印可部と、
前記熱エネルギー印可部による印可熱エネルギーを可変して前記可逆表示記録層を第1の状態と第2の状態とに選択的に変化させるエネルギー可変手段と、を具備するライトプロテクト装置。
【請求項10】 前記エネルギー可変手段は、前記熱エネルギー印可部の加熱温度を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可熱エネルギーを可変する請求項9記載のライトプロテクト装置。
【請求項11】 前記エネルギー可変手段は、前記熱エネルギー印可部の加熱時間を変化させて前記可逆表示記録層に対する印可熱エネルギーを可変する請求項9記載のライトプロテクト装置。
【請求項12】 前記装着部は、前記熱エネルギー印可部とヒンジ結合され、前記装着部に向けて閉じられた状態で前記可逆表示記録層に対して熱エネルギーを印可する請求項9記載のライトプロテクト装置。
【請求項13】 前記熱エネルギー印可部は、前記装着部に装着された前記光情報記憶媒体に設けられた可逆表示記録層に対応する形状を有する請求項12記載のライトプロテクト装置。 」

とするものである。
要するに、本件補正前の【請求項4】に記載のあった「光反射特性の変化を光センサにより検出するようにして」との発明特定事項を本件補正前の【請求項1】に付加して【請求項4】を削除し、また、本件補正前の独立請求項である【請求項1】【請求項6】【請求項7】【請求項8】【請求項9】及び【請求項14】に記載のある「可逆性材料」を「ロイコ系熱可逆記録材料」として、また、本件補正前の【請求項10】【請求項12】【請求項13】【請求項14】【請求項16】【請求項17】【請求項18】及び【請求項19】に記載のある「エネルギー」を、本件補正前の【請求項11】及び【請求項15】に記載のあった「熱エネルギー」として、さらに本件補正前の【請求項2】【請求項3】【請求項5】【請求項11】及び【請求項15】を削除し、請求項数を19個から13個にして項番整理するものであるから、特許請求の範囲の補正は「請求項の削除」乃至「(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定し)減縮」するものと認められる。
したがって、本件補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47条)附則第2条第7項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に掲げる、特許請求の範囲の削除及び減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件
次に、本件補正後の請求項2に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47条)附則第2条第7項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正後発明
本件補正における【請求項2】に記載された発明(以下「本件補正後発明」という。)は、上記1.-本件補正後-の【請求項2】に記載したとおりのものである。

(2)刊行物及び記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-48032号公報(以下「刊行物」という。)は、「熱可逆性記録材料、その材料を用いた熱可逆性記録媒体、及び記録方法」についてのもので、以下の記載がある。(なお、刊行物での下線は当審で付与した。)
(i)「【要約】
【目的】 透明状態をなす温度範囲を広くし、また、透明状態及び白濁状態のコントラストを大きくした熱可逆性記録材料、並びにサーマルヘッド等の加熱手段により印字記録ができ、しかも同じ記録媒体に繰り返し直接目に見える形で印字記録することのできる熱可逆性記録媒体、及びその記録方法を提供する。
【構成】 本発明の熱可逆性記録材料には、マトリクス材として、ポリビニルアセタールを使用し、このマトリクス材に対して炭素数10?40の飽和カルボン酸及び/又はその誘導体を混合したものが用いられる。本発明の熱可逆性記録材料は、図1に示す徐冷却又は急冷却による冷却速度の差及び加熱温度範囲により透明・白濁状態を制御することができる。本発明の熱可逆性記録材料を支持体等に支持させて、熱可逆性記録媒体とする。本発明の熱可逆性記録媒体は、サーマルヘッド等の熱印字装置で印字記録でき、また熱的処理で消去することができる。」
(ii)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱的手段により視覚情報を可逆的に記録し又は消去し、この操作を繰り返し行なうことのできる熱可逆性記録材料、その熱可逆性記録材料を用いた熱可逆性記録媒体、及びその熱可逆性記録媒体を用いた記録方法に関する。」
(iii)「【0010】この方法に使用される記録紙は、特公昭45-14039号公報に示されるように、電子供与体である無色染料(ロイコ染料)と電子受容体である顕色剤(フェノール系酸性物質)との発色反応を利用し、この両者とこれらの反応を助ける感熱層を設けたものであった。この記録紙に記録装置の発熱記録素子からの熱エネルギーが加わると無色染料、顕色剤が溶解して反応し、発色する。この発色した部分と発色しない部分とで濃度差が生じることにより、文字、像として記録され視覚で認識されるものである。」
(iv)「【0012】ところで、熱可逆性記録材料を用いて表示装置を構成し、コントラスト等が良好な表示を行わせるには、熱可逆性記録材料で構成した表示板の裏面に着色板を設け、該表示板の印字部を、例えば、サーマルヘッドなどのような熱的手段を用いて選択的に透明状態とし、且つ背景部を白濁状態のままとすることにより、印字部のみ着色板の色が透けて見えるようにして表示を行わせる構成が望ましい。」
(v)「【0026】また本発明は、プラスチック、紙又は合成紙から選ばれた材料からなる支持体と、該支持体の上に形成された反射層又は光吸収層と、該反射層又は光吸収層の上に形成され、前記のマトリクス材及び有機低分子化合物を含んだ熱可逆性記録材料よりなる熱可逆性記録・表示層と、該熱可逆性記録・表示層の上に形成された透明保護層と、さらに前記支持体の下に形成され、コード化された情報を記録する記録層と、該記録層の下に形成された保護層を備えたことを特徴とする熱可逆性記録媒体とするものである。
【0027】また本発明は、プラスチック、紙又は合成紙から選ばれた材料からなる支持体と、該支持体の上に形成された反射層又は光吸収層と、該反射層又は光吸収層の上に形成され、透明部分と白濁部分とのコントラストを高める働きを有するエンハンス層と、該エンハンス層の上に形成され、前記のマトリクス材及び有機低分子化合物を含んだ熱可逆性記録材料よりなる熱可逆性記録・表示層と、該熱可逆性記録・表示層の上に形成された透明保護層と、さらに、前記支持体の下に形成され、コード化された情報を記録する記録層と、該記録層の下に形成された保護層を備えたことを特徴とする熱可逆性記録媒体とするものである。」
(vi)「【0051】
【作用】図1に、本発明で用いた熱可逆性記録材料の温度に対する光の透過率の特性を示す。本発明の熱可逆性記録材料は、ポリビニルアセタールからなるマトリクス材と、飽和カルボン酸及び/又は該飽和カルボン酸の誘導体からなる有機低分子化合物から構成される熱可逆性記録材料としたので、この熱可逆性記録材料を、図1中のT_(1)以上T_(2)以下に加熱した後に室温まで冷却した時(この時は冷却速度によらない)又は、T_(2)以上に加熱した後に急冷却(この場合、50℃/秒以上をいう)した時に最大透明度を示す。一方、T_(2)以上に加熱した後に徐冷却(この場合、50℃/秒以下を指す)した場合最小透明度を示す。従って、透明状態を形成する温度範囲と、白濁状態を形成する温度範囲とが、従来の熱可逆性記録材料に比し広くなるとともに冷却速度の制御により透明状態及び白濁状態が形成できる新規な熱可逆性記録材料が得られる。
【0052】また、本発明の熱可逆性記録媒体は以上のように構成されるので、熱可逆性記録・表示層を、サーマルヘッド等の熱的手段により、例えば、82℃?200℃までの範囲内の温度に熱し(図1のC)、これを室温まで降温速度50℃/秒以上で急冷却すると、透明状態が固定される(図1のD)。続いて、例えば、82℃?200℃の範囲内の温度に熱し(図1のC)、これを室温まで降温速度50℃/秒以下で徐冷却すると、白濁状態が固定される(図1のA)。このような操作を行うことにより、視覚情報を繰り返し記録及び消去することが可能になる。」
(vii)「【0062】
【実施例2】図3は、本発明の実施例2の熱可逆性記録媒体の一構成を示す断面図である。本実施例2を図3に基づいて説明する。本実施例2の熱可逆性記録媒体は、例えば、膜厚100μmのプラスチックシートからなる支持体11を有し、その支持体11の表面上には、黒色に印刷された反射層又は光吸収層12が形成されている。この反射層又は光吸収層12は黒色であるので、光吸収層として作用する。その上には、膜厚20μmの熱可逆性記録・表示層13が形成されている。さらにその上には、膜厚5μmのプラスチックシートからなる透明保護層14が形成されている。」
(viii)「【0074】
【実施例6】図7は、本発明のさらに別の実施例の熱可逆性記録媒体の一構成を示す断面図である。本実施例6を図7に基づいて説明する。本実施例6の熱可逆性記録媒体は、直接目視できる熱記録とコード化された記録との複合された情報を記録できるものである。
【0075】本実施例6の熱可逆性記録媒体の構成は、前記実施例2に示した熱可逆性記録媒体における支持体11の下に、コード化された情報を記録する記録層16を形成し、さらにその下に保護層17を形成したものである。その他の層構成、即ち、反射層又は光吸収層12、熱可逆性記録・表示層13、透明保護層14は、前記実施例2と同一である。
【0076】前記記録層16の記録媒体の種類としては、磁気記録媒体、光記録媒体、熱記録媒体、ICカード等の電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒体等が使用できる。本実施例6の熱可逆性記録媒体への記録は、透明保護層14側からサーマルヘッドを用いて加熱を行うと熱可逆性記録・表示層13に熱が効率良く伝わり記録が行われる。本実施例6の熱可逆性記録媒体は、磁気記録媒体、光記録媒体、熱記録媒体、ICカード等の電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒体等の記録手段を複合しているので、それぞれの媒体の記録方式を組み合わせることにより、視覚情報に加えて、コード情報も記録できる。
【0077】また、本実施例6の熱可逆性記録媒体の視覚情報は、透明保護層14側からの光の入射により、透明保護層14を目視することによって得られる。」

以上の摘示事項、及び、特に【図1】【図3】【図7】等を参照して整理すると、刊行物には以下の発明が記載されているものと認める。
「支持体11の下に、
コード化された情報を記録する記録層16を形成し、さらにその下に保護層17を形成し、
支持体11の反対側表面上には、黒色に印刷された反射層又は光吸収層12が形成され、この反射層又は光吸収層12は黒色で光吸収層として作用し、その上には、熱可逆性記録・表示層13が形成され、さらにその上には、プラスチックシートからなる透明保護層14が形成された熱可逆性記録媒体であって、
記録層16の記録媒体は、電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒、光記録媒体等であり、
熱可逆性記録・表示層13は図1中のT_(1 )以上T_(2)以下に加熱した後に室温まで冷却した時(この時は冷却速度によらない)又は、T_(2)以上に加熱した後に急冷却(この場合、50℃/秒以上をいう)した時に最大透明度を示し、一方、T_(2)以上に加熱した後に徐冷却(この場合、50℃/秒以下を指す)した場合最小透明度を示し、従って、透明状態を形成する温度範囲と、白濁状態を形成する温度範囲とが広くなるとともに冷却速度の制御により透明状態及び白濁状態が形成できる熱可逆性記録材料である
熱可逆性記録媒体。」(なお、上記で記号は図面との対応で付した。以下「刊行物発明」という。)

(3)対比・判断
〔対比〕
(a) 刊行物発明における「支持体」は、本件補正後発明の「基体」と共通する。
(b)刊行物発明における「コード化された情報を記録する記録層16を形成し、さらにその下に保護層17を形成」は、「保護層」からみる「記録層」が積層状態であることは図面を見ても明らかで、また、「記録層16の記録媒体は、電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒体、光記録媒体等」のものであるから、本件補正後発明の「基体の一面上に積層形成された光情報記録層」に相当する。
(c)刊行物発明における「支持体11の反対側表面上には、黒色に印刷された反射層又は光吸収層12が形成され、この反射層又は光吸収層12は黒色で光吸収層として作用し、その上には、熱可逆性記録・表示層13が形成」されたとする積層構成は、本件補正後発明の「基体の別の一面上の前記光情報記録層に積層形成」に相当する。
また、刊行物発明における上記「熱可逆性記録・表示層13」について、その機能は「図1中のT_(1 )以上T_(2)以下に加熱した後に室温まで冷却した時(この時は冷却速度によらない)又は、T_(2)以上に加熱した後に急冷却(この場合、50℃/秒以上をいう)した時に最大透明度を示し、一方、T_(2)以上に加熱した後に徐冷却(この場合、50℃/秒以下を指す)した場合最小透明度を示し、従って、透明状態を形成する温度範囲と、白濁状態を形成する温度範囲とが広くなるとともに冷却速度の制御により透明状態及び白濁状態が形成」とされ、加熱エネルギーを調整することで得られる態様は、本件補正後発明での「常温復帰時」に相当する「室温状態まで冷却した時」で少なくとも「透明状態を形成」「白濁状態を形成」することが得られるものであることと共通するから、本件補正後発明の「印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層」に相当する。
(d)刊行物発明における「熱可逆性記録媒体」は、「記録媒体は、電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒体、光記録媒体等である」「記録層16」を有するのであるから、本件補正後発明の「光情報記憶媒体」に相当する。

結局、両発明の共通する[一致点]、及び、[相違点]は以下のとおりである。
[一致点]
「基体と、
前記基体の一面上に積層形成された光情報記録層と、
前記基体の別の一面上の前記光情報記録層に積層形成され、印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化する熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層と、を具備する光情報記憶媒体。」の点。

[相違点]
(イ)基体について、本件補正後発明のものはその形状が「円盤状」というものであるが、刊行物発明のものは形状について言及されてない点。

(ロ)可逆表示記録層の形成位置について、本件補正後発明のものは、別の一面上の前記光情報記録層に「干渉しない位置に」積層形成、というものであるが、刊行物発明にはこの点についての言及がされてない点。

(ハ)熱可逆記録材料について、本件補正後発明のものは「ロイコ系熱可逆記録材料」というものであるが、刊行物発明にはこの材料構成について記載がない点。

〔判断〕
-上記相違点(イ)について-
光情報記録媒体について刊行物発明のものは「電気記録媒体、光磁気記録媒体、熱磁気記録媒、光記録媒体等」が如何なる形状であるかの記載はない。しかしながら、通常「光」に係る「記録媒体」が「円盤状」の構成をとることはごく普通のものであるから、刊行物発明のものにおいても「円盤状」として上記相違点(イ)は当業者が適宜容易になし得るものである。

-上記相違点(ロ)について-
可逆表示記録層の形成位置については、刊行物発明のものも記録層の信号を読み出していく際には支障がないように形成しているものであるから、これを「干渉しない位置に」積層形成していくとすることは必要に応じて適宜なし得る事項と認める。

-上記相違点(ハ)について-
審判請求人も本願明細書の【0029】【0030】に記載する、
特開平2-188293号公報には「〈作用〉本発明記録媒体の記録、即ち画像形成及び消去原理は以下の通りである。無色のロイコ染料とフェノール性化合物は熱エネルギーによって、無色のロイコ染料のラクトン環が開環して、無色から有色に色変化する。・・・(中略)・・・、すなわち、顕減色剤は、無色のロイコ染料を熱エネルギーの制御のみで、ラクトン環を開環して有色化合物にしたり、閉環して無色のロイコ体に戻したりすることができる。・・・(中略)・・・。
本発明である無色のロイコ染料と顕減色剤として、ビス(ヒドロキシフェニル)酢酸またはビス(ヒドロキシフェニル)酪酸とアルキルアミンとの塩から成る記録層を設けた記録体は、熱エネルギー(h1)により有色の画像を形成する。この画像は、別の熱エネルギー(h2)によって消去可能であり、画像を消去した当該画像形成体に熱エネルギー(h1)を作用させると、再び画像が形成される。この画像の形成と消去は何回でも繰返し行うことができる。この画像形成体は熱エネルギーを作用させない限り、画像形成状態または、画像消去状態を保持している。形成した画像を消去した後の地肌は、何ら形成画像の痕跡を留めることなく白色無地の可逆性記録媒体である。」(2頁右上欄下3行?右下欄13行)と、
特開平2-188294号公報には「〈作用〉本発明記録媒体の記録、即ち画像形成及び消去原理は以下の通りである。無色のロイコ染料とフェノール性化合物は熱エネルギーによって、無色のロイコ染料のラクトン環が開環して、無色から有色に色変化する。・・・(中略)・・・。
本発明である無色のロイコ染料と顕減色剤として、没食子酸とアルキルアミンとの塩から成る記録層を設けた記録体は、熱エネルギー(h1)により有色の画像を形成する。この画像は、別の熱エネルギー(h2)によって消去可能であり、画像を消去した当該画像形成体に熱エネルギー(h1)を作用させると、再び画像が形成される。この画像の形成と消去は何回でも繰返し行うことができる。この画像形成体は熱エネルギーを作用させない限り、画像形成状態または、画像消去状態を保持している。形成した画像を消去した後の地肌は、何ら形成画像の痕跡を留めることなく白色無地の可逆性記録媒体である。」(2頁右上欄下8行?右下欄6行)と、
また、刊行物発明の実施形態にも「無色染料(ロイコ染料)と電子受容体である顕色剤(フェノール系酸性物質)との発色反応を利用し、・・・熱エネルギーが加わると無色染料、顕色剤が溶解して反応し、発色する。この発色した部分と発色しない部分とで濃度差が生じることにより、文字、像として記録され視覚で認識される。」(上記(2)(iii))と、
等の各記載がある。即ち、刊行物発明の上記〔対比〕(c)で記載の「熱可逆性記録材料」と同じ作用機能を奏する「ロイコ系熱可逆記録材料」は周知であるから、刊行物発明のものにおいても「ロイコ系熱可逆記録材料」を用いての上記相違点(ハ)の構成は当業者が容易に相当し得るものである。

-補足-
審判請求人は、審判請求理由書で、上記で判断した、刊行物発明(以下では「引用文献2」が該当する。)及び本件補正後発明(以下では「引用文献2」が該当する。)について、
「(2)引用文献1?7との対比において、本願請求項2?4に係る発明のそれぞれの構成上の特徴は次の2点である。
(i)光情報記憶層を備える点、
(ii)印可エネルギーに応じて常温復帰時の光反射特性が少なくとも2種類に可逆的に変化するロイコ系熱可逆記録材料により形成された可逆表示記録層を備える点である。 そして、本願請求項2?4に係る発明は、上記構成上の特徴点(i)?(ii)を結合させることにより、以下の効果を奏する。すなわち、本願請求項2?4に係る発明は、可逆表示記録層の光反射特性の変化が視覚的変化となるようにしたので、光情報記憶媒体のライトプロテクトとその解除とを目で見て認識させることができる。したがって、その認識のための特別な装置を必要とせず、光情報記憶媒体のライトプロテクトとその解除とを簡易に把握させることができる。また、請求項2?4に係る発明は、可逆表示記録層がロイコ系熱可逆記録材料により形成されているので、発色状態と消色状態との2種類の光反射特性のコントラストが良好であるので、光センサで検出し易いという効果を有する。」
と主張する。
しかしながら、上記(i)の点は上記(3)〔対比〕(b)に記載したとおり、刊行物発明に記載がある。
また、上記(ii)の点で『ロイコ系熱可逆記録材料』は上記(3)〔判断〕-上記相違点(ロ)について-で判断したとおり、周知技術であり、機能的に相違しない刊行物発明のものに置換採用する事で当業者が容易に想到できるものである。
また、「ライトプロテクトとその解除」「光センサで検出し易い」等は本件補正後発明の光情報記録媒体には直接記載のない事項に基づく主張で採用できないものの、仮に記載ある事項としても、上記(3)対比・判断で得られる「熱可塑性記録媒体」に、さらに原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-95287号公報に記載された、光記録媒体をライトプロテクタを備えた媒体として使用し、且つ光記録媒体のライトプロテクタ状態を検出器を設けて検出していく構成事項(2頁左上欄の〔問題を解決するための手段〕、右上欄の〔作用〕、3頁下欄、5頁左下欄?右下欄〔発明の効果〕)等を採用して当業者が容易に想到できる構成にすぎない。

そして、上記各相違点についての判断を総合しても、本件補正後発明の奏する効果は、上記刊行物に記載された発明、及び周知技術から当業者が十分予測可能なもので格別のものではない。

結局、本件補正後発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47条)附則第2条第7項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明
1.本願発明
平成17年6月30日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項に係る発明は、平成10年12月14日付けの願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、【請求項8】に係る発明は、上記II.〔理由〕1.-本件補正前-の【請求項8】に記載されたとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

2.刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物及び周知技術等として記載された事項は、上記したとおりである(上記「II.〔理由〕2.(2)刊行物及び記載された事項」参照)。

3.対比・判断
本願発明は、上記II.で検討した本件補正後発明の構成から、『ロイコ系熱可逆記録材料』から下線部構成を削除して上位概念の構成としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を実質的に全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正後発明が、上記「II.〔理由〕2.(3)の対比・判断」に記載したとおり、刊行物に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本願発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項8に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-18 
結審通知日 2009-02-24 
審決日 2009-03-12 
出願番号 特願平10-354796
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ゆずりは 広行  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 小松 正
吉川 康男
発明の名称 ライトプロテクト方法、光情報記憶媒体、ドライブ装置及びライトプロテクト装置  
代理人 伊東 忠彦  

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