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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43M
管理番号 1198187
審判番号 不服2006-8167  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-27 
確定日 2009-06-09 
事件の表示 特願2003- 42143「押しピンおよびそのカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 9日出願公開、特開2004-249576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、平成15年2月20日を出願日とする出願であって、
平成17年 4月 8日付け拒絶理由通知に対して、
平成17年 6月15日付けで手続補正がなされ、
平成17年 8月22日付け拒絶理由通知に対して、
平成17年10月31日付けで手続補正がなされ、
平成18年 3月22日付けで、平成17年10月31日付けでした上記手続補正が却下され、同日拒絶査定され、
これに対し、
平成18年 4月27日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、
平成18年 5月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年5月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1) 本件補正前及び本件補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりのものである。

(本件補正前の特許請求の範囲:平成17年6月15日付け手続補正書)
「【請求項1】
筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用時に筒状部の下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンにおいて、
前記ピン部は筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧可能である、ことを特徴とする押しピン。
【請求項2】
筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用時に筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンを内部に収納しうる空洞部と、該空洞部の一方の端部に設けられた前記筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押しピンを押圧する押圧部と、該押圧部の対向部に設けられた開口部と、前記空洞部の他方の端部側に設けられ、押しピンを前記一方の端部側に移動させる弾性部材を有する、押しピンのカートリッジ。」

(本件補正後の特許請求の範囲:平成18年5月26日付け手続補正書)
「 【請求項1】筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、使用時にロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンと、該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部と、該空洞部の一方の端部に設けられた前記筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押しピンを押圧するロッドと、該ロッドの対向部に設けられた開口部と、前記空洞部の他方の端部側に設けられ、押しピンを前記一方の端部側に移動させる弾性部材を有する、押しピンおよびそのカートリッジ。」

(2) 補正目的について
本件補正前後の請求項の対応関係を対比すると、本件補正前の請求項1は、「カートリッジ」の構成を記載していない点で、本件補正後の請求項1と対応せず、他方、本件補正前の請求項2は、「押しピン」と「カートリッジ」の構成を記載している点で、本件補正後の請求項1の記載と概ね一致するので、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項2に対応すると考えられる。
してみると、本件補正は、特許請求の範囲について以下の補正事項を含むものである。

(補正事項1)補正前の請求項1の削除
(補正事項2)補正前の請求項2における「押しピンを内部に収納しうる空洞部と」及び「押しピンのカートリッジ。」を、補正後の請求項1においては、「押しピンと、該押しピンを内部に・・・収納しうる空洞部と」及び「押しピンおよびそのカートリッジ。」にする補正。
(補正事項3)補正前の請求項2における「使用時に・・・下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピン」に、補正後の請求項1においては、「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、」という限定を付加する補正。
(補正事項4)補正前の請求項2における「使用時に筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧され」及び「押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押しピンを押圧する押圧部」を、補正後の請求項1においては、「使用時にロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され」及び「孔部を通じて押しピンを押圧するロッド」とする補正。
(補正事項5)補正前の請求項2における「押しピンを内部に収納しうる空洞部」を、補正後の請求項1においては、「該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部」にする補正。

上記補正事項について検討する。
(補正事項1について)
(補正事項1)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

(補正事項2について)
補正後の請求項1の「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、・・・下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンと、」における「押しピンと、」は、末尾の「・・・を有する、押しピンおよびそのカートリッジ。」における「有する」に対応しているから、補正後の請求項1における上記「押しピン」は、補正後の請求項1に係る発明である「押しピンおよびそのカートリッジ」の構成に含まれる。
一方で、補正前の請求項2の「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、・・・下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンを」における「押しピンを」は、直後に続く「内部に収納しうる」に対応しているから、補正前の請求項2における上記「押しピン」は、内部に収納しうる一例であって、それ自体は補正前の請求項2に係る発明である「押しピンのカートリッジ」の構成に含まれない。
したがって、(補正事項2)は、補正前の請求項2に係る発明の構成に含まれていない「押しピン」を新たに構成として付加するものであって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
よって、(補正事項2)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げる請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号の規定に違反するものである。

(補正事項3について)
補正後の請求項1には「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく」という作動が記載されているが、「ピン部」がいかなるときにどのように作動するかは、「押しピン」の「孔部」と「手」や「押入部材」の大きさとの関係、「弾性部材」の強さ、「押入部材」が作動する際の移動距離等の、様々な事項に依存する。
それ故、補正前の請求項2における発明を特定するために必要な「押しピン」並びにその「筒状部」、「弾性部材」、「ピン部」及び2つの「孔部」の構成について、上記作動の記載を行うことでどのような構成を備えるかが明らかにされたとはいえないので、上記作動は、補正前の請求項2における発明を特定するために必要な事項を限定したものではない。
してみれば、(補正事項3)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
また、(補正事項3)が、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明でないことは明らかである。
よって、(補正事項3)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に規定する事項を目的とするものでなく、該規定に違反するものである。

(補正事項4について)
補正事項4の適否を判断するには、本件補正前の発明を特定する事項である「押入部材」及び「押入部」が何を意味するものであるかを検討する必要がある。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌しても、上記「押入部材」と「押入部」の示す具体的な構成が明確とはいえないので、本件出願に係る補正の経緯も参考にして、これらについて以下検討する。
本件補正前の特許請求の範囲は、出願当初の特許請求の範囲から、平成17年6月15日付けで補正されたものである。そして平成17年6月15日付け補正の請求項と出願当初の請求項の対応関係を対比すると、平成17年6月15日付け補正の請求項2と出願当初の請求項3とは、「カートリッジ」の構成を記載している点でその記載が概ね一致することから、平成17年6月15日付け補正の請求項2は出願当初の請求項3に対応すると考えられる。
してみると、平成17年6月15日付け補正は、出願当初の請求項3の「孔部を通じて押しピンを押圧する押圧部」に、平成17年6月15日付け補正の請求項2においては「押しピンを押圧する」点が「押入部材により」なされるとする限定を付加する補正事項を含む。
そして、下記(a)、(b)を考慮すれば、平成17年6月15日付け補正に係る上記補正事項は、「押しピンを押圧する」部材として「押入部材」を特定することで、「押圧部」が「押入部材を含み、押しピンを押圧する作動が行われる部分」であることを明確にすることを目的とした補正と解される。

(a) 出願当初の請求項3の「孔部を通じて押しピンを押圧する押圧部」なる記載からは、上記「押圧部」の範囲が、「孔部を・・・押圧する」部材、何らかの部材が「孔部を・・・押圧する」作動が行われる部分、「孔部を・・・押圧する」という作動自体の、いずれであるか明確でない。

(b) 出願当初の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
段落【0007】「この実施例の押しピンを使用するに際しては・・・筒状部1の上部に設けられた孔部5に外部から押入部材を挿入して押しピン3を下方に押し込むと、押しピン3の先端が筒状部材から突出し、壁に突き刺さって止着する。」
段落【0008】「このカートリッジは・・・押圧用のロッド15と、該ロッド15を上方に付勢するスプリング16とが設けられており、該ロッド15はケーシング10の右端部上方に設けられた開口部18を通じて前記押しピン11の筒状部の上部に設けられた孔部から押しピンを押圧することができる。」
段落【0009】「該ロッド15とスプリング16より成る第1の押圧部の反対側の端部には、ロッド14とこれを同図右側に付勢するスプリング13から成る第2の押圧部が設けられており、空洞部12内に収容されている押しピン11を右側に付勢している。」

上記記載からみて、「押しピンを直接押す部材」が「ロッド」であり、「押圧作動に係わる他の部材」として「スプリング」が存在しており、これらが総体として「押圧部」と表現されており、これら「ロッド」等の「押入部材」によって「押しピンを押圧する作動が行われる部分」であると解される。

よって、(補正事項4)においては、「押しピンを押圧する」部分である「押圧部」を表現上削除したとしても、「該空洞部の一方に端部に設けられた前記筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押しピンを押圧する」と記載されていることで、上記作動が行われる部分が異なる部分に変更される訳ではないことから、特段に構成要件を削除したものとはいえず、実質的に特許請求の範囲を変更したものとは扱わないこととする。
したがって、(補正事項4)は、補正前の請求項2における、発明を特定するために必要な事項である「押入部材」を「ロッド」に限定するものといえるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして扱う。

(補正事項5について)
(補正事項5)は、補正前の請求項2における、発明を特定するために必要な事項である「押しピンを内部に収納しうる空洞部」において、収納しうる押しピンの数を「複数」とする限定を付加するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(補正事項の検討のまとめ)
上記のとおり、本件補正のうち、(補正事項2)及び(補正事項3)は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に規定する事項を目的とするものでなく、該規定に違反するものである。

しかし、本件補正のうち、(補正事項2)については、補正前の請求項2に「押しピン」及びその具体的な構成が記載されていた点を考慮して、補正前の請求項2に係る発明の構成に含まれていない「押しピン」を新たに構成として付加するものとは扱わないこととし、また(補正事項3)のうち「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく」は、請求項1に記載された「押しピン」の構成のみに基づいて必然的に奏される効果を単に記載したものであって「押しピン」自体の構成をさらに限定する記載ではないと解し得るものの、「押しピン」自体の構成を何らか限定する趣旨であると解した上で、本件補正を、全体として、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと仮に認め、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか否か)を以下に検討する。

(3) 独立特許要件について
(3-1) 本件補正発明の認定について
上記説示のとおり、平成18年5月26日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項のうち、「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく」は、「押しピン」自体の構成を限定する記載でないとも解し得るものの、本件補正発明は、前記の平成18年5月26日付け手続補正書に記載されたとおりのものとひとまず認める。

(3-2) 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭62-72282号実開昭63-179197号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物1」という。)及び実願昭61-188466号(実開昭63-92796号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物2」という。)には、次の発明が記載されている。

<引用刊行物1>
引用刊行物1には、以下の記載がある。

「(a) 延長方向に向けてシュートが形成され、・・・かつ前記シュートおよび案内溝に連通され少なくとも一端部が開口され内部空間を包有するスタンドが一端部に形成された装置本体と、
・・・(中略))・・・
(d) 前記カバー部材の内面に対し配設されており、前記シュートおよび案内溝に対して装填された画鋲集合体を前記スタンドの内部空間に向けて押圧するバネ部材と、
(e) 前記スタンドの内部空間内に配置された押圧頭部によつて画鋲集合体に包有された画鋲の頭部拡大部を押圧し、前記内部空間の開口から外部へ押し出す押圧刺入部材と
を備えてなることを特徴とする画鋲刺入装置。」(実用新案登録請求の範囲)

「装置本体1の一端部には、押圧刺入部材3を保持するための中空スタンド(すなわち内部空間をもつスタンド)11が形成されている。」(8頁9?12行)

「スタンド11には、開口部111,112が形成されており、それぞれシュート12の延長方向および装置本体1の両側面を結ぶ方向に直交する方向の両面すなわち一面側および他面側で開口されている。」(8頁12?16行)

「押圧刺入部材3は、スタンド11の外部に配置された拡大作用部30と、前記拡大作用部30に対して一端部が固着されかつ開口部111に挿通されたロッド31と、・・・前記ロッド31の他端部に対し固着されかつスタンド11の内部空間に配置された押圧頭部33とを包含している。」(9頁1?8行)

「5はカバー部材2の内面に配設されたバネ部材」(10頁19行)

「画鋲押圧部材53は、引張バネ54によって固定板51に向けて引っ張られており、押圧面533によって・・・画鋲集合体7をスタンド11の方向に向けて押圧している。」(11頁16?19行)

「7は画鋲集合体で、画鋲刺入装置の装置本体1のシュート12および案内溝121,121に装填され、シュート12、案内溝121,121及び案内面211によって案内されつつ画鋲押圧部材53の押圧面533によってスタンド11の方向に向けて押圧されている。画鋲集合体7は、複数の画鋲71を連結部72を介して互いに連結することにり作成されている。」(12頁14?20行)

「本考案にかかる画鋲刺入装置は、
(a)・・・装置本体と、
(b)・・・カバー部材と、
(c)・・・係止キーと、
(d)・・・バネ部材と、
(e)・・・押圧刺入部材と
を備えてなるので、
(i)単に押圧刺入部材を押圧するのみで画鋲を能率良く刺入できる効果
を有し、また
(ii)画鋲の頭部拡大部に対してバランス良く押圧力を印加でき、脚部に変形を生じることなく刺入できる効果
を有する。」(16頁20行?18頁17行)

上記指摘した記載と第1?9図の記載を参照するに、引用刊行物1には次の発明が記載されている。(以下、「引用発明1」という。)
「画鋲71と、複数の画鋲71からなる画鋲集合体7を内部に装填しうるシュート12と、該シュート12の一端部に位置する開口部111,112を形成されたスタンド11と、該スタンド11の外部に配置された拡大作用部30と、該スタンド11に対して一端部が固定されかつ前記開口部111に挿通されたロッド31と、該ロッド31の他端部に対し固着されかつスタンド11の内部空間に配置された押圧頭部33と、前記ロッド31の対向部に設けられた前記開口部112と、前記シュート12の他方の端部側に設けられ、画鋲集合体7を前記スタンド11の内部空間に向けて押圧するバネ部材5を有する、画鋲および画鋲刺入装置。」

<引用刊行物2>
引用刊行物2には、以下の記載がある。

「皿状頭部に針部を植立した鋲体を中空本体に内装すると共に、針部側の中空体底面板に針孔を穿設し、皿状頭部側の上面板に該頭部が外方に飛び出さない形状または大きさとした押入孔を形成し、鋲体を上面板方向に付勢せしめる発条を内装してなる画鋲。」(実用新案登録請求の範囲(1))

「そこで本案は不使用時に針部が突出しない画鋲を提供し、前記危険性を除去したものである。・・・而して通常は針部が中空本体内に収納されているため、床へ落としたとしても全く危険がなく、また押入孔より頭部を中空本体内方へ押し込むと、針孔より針部が突出するので、・・・引き抜きも容易となる。」(2頁5?20行(問題点を解決するための手段))

「通常時は第1図に示すように発条Cの力によって皿状頭部1が上面板5側に押し付けられ、これに併って針部2が底面板3より外方へ突出していないので、針部2による怪我が生ずる危険が全くない。また、画鋲として使用せんとする場合は押入孔6より指で以て皿状頭部1を中空本体Aの内方へ押し込むと、針孔4より針部2が突出することになり、第2図に示すように壁面Dに針部2を刺入し、画鋲としての機能を果たすものである。」(3頁14行?4頁2行)

「本案は以上のように中空本体内に鋲体を内装し、・・・非使用時には鋲体が中空本体内に収納され全く危険がなく、・・・中空本体が摘みとなるものである。」(4頁18行?5頁3行(考案の効果))

上記指摘した記載と第1?3図の記載を参照するに、引用刊行物2には次の発明が記載されている。(以下、「引用発明2」という。)
「中空本体Aと、該中空本体Aに内装された発条C及び鋲体Bとを有し、非使用時に鋲体Bは発条によって中空本体A内に収納され、使用時に中空本体Aの上部に設けられた押入孔6を通じて押圧され、下部に設けられた針孔4から針部2が外部に突出する構造である画鋲。」

(3-3) 対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1における「画鋲71」は、本件補正発明における「押しピン」に相当する。
引用発明1における「画鋲集合体7を内部に装填しうるシュート12」は、本件補正発明における「該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部」に相当する。
引用発明1における「ロッド31」又は「ロッド31」及び「押圧頭部33」は、間接的又は直接的に「画鋲8」を押圧する点で、本件補正発明における「ロッド」に相当する。
引用発明1における「開口部112」は、本件補正発明における「開口部」に相当する。
引用発明1における「バネ部材5」は、本件補正発明における「弾性部材」に相当する。
引用発明1における「画鋲刺入装置」は、本件補正発明における「カートリッジ」に相当する。

してみると、本件補正発明と引用発明1とは、以下の点で一致する一方、以下の点で相違している。

<一致点>
「押しピンと、該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部と、該空洞部の一方の端部に設けられた押しピンを押圧するロッドと、該ロッドの対向部に設けられた開口部と、前記空洞部の他方の端部側に設けられ、押しピンを前記一方の端部側に移動させる弾性部材を有する、押しピンおよびそのカートリッジ。」

<相違点1>
本件補正発明の「押しピン」が「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、使用時にロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である」と特定されているのに対し、引用発明1の「画鋲」は前記特定を有しない点。

<相違点2>
本件補正発明は、ロッドが「筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押しピンを押圧する」と特定されているのに対し、引用発明1は前記特定を有しない点。

(3-4) 判断
上記相違点について判断する。

<相違点1>について
引用発明2における「画鋲」は、引用発明1における「画鋲」と同様に、<相違点1>に係る「押しピン」に相当する。
引用発明2における「中空本体」は、<相違点1>に係る「筒状体」に相当する。
引用発明2における「発条」は、<相違点1>に係る「筒状部に収容された弾性部材」に相当する。
引用発明2における「鋲体」は、<相違点1>に係る「ピン部」に相当する。
引用発明2における「押入孔」は、<相違点1>に係る「筒状部の上部に設けられた孔部」に相当する。
引用発明2における「針孔」は、<相違点1>に係る「下部に設けられた孔部」に相当する。
引用発明2における「針部」は、<相違点1>に係る「ピン部先端」に相当する。
してみると、引用発明2と、<相違点1>に係る「押しピン」は、「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、」を除いて「押しピン単体」として、構造が同一である。

ここで、相違点1に係る「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、」の本件補正発明に係る特定がいかなる構成を意図したものであるかについて、検討しておく。
本願明細書記載を参照するに、「【従来の技術】に係る段落【0002】には、不用意に落下した場合に、針状部が上向きになって使用者や展示物を観覧する第三者がこれを踏みつける可能性があって危険である、と指摘され、【発明が解決しようとする課題】に係る段落【0003】には、従来の画鋲は、ピンが外部に露出しており、意図しない落下の際に危険を伴うこと、このような危険を避けるためピンの先端がプラスチックの輪の中に収納されるものも存在するが、ピンが外部に露出している点で同じであり、使用に際して誤った押しつけ動作で傷を負うことがあることの指摘がされ、これらの不都合を避けるべく、本願明細書記載の発明は、簡単に片手で連続的な使用ができること、その撤去が容易なこと、誤って落下した際にも、全く危険のないものであること、を意図したものであることが記載されている。
もっとも、本願明細書の段落【0007】記載によれば、使用に際して、押しピン全体を掲示部材を挟んだ状態で壁に当て、図2に示すように、筒状部1の上部に設けられた孔部5に外部から押入部材を挿入して押しピン3を下方に押し込むと、押しピン3の先端が筒状部材から突出し、壁に突き刺さって止着する、とあるように、意図的に孔部5に外部から押入部材を挿入した場合には、当然ながら、押しピン3の先端が筒状部材から突出するものである。
してみるに、当該「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、」なる特定は、使用時の意図的な押入部材の挿入がなされる場合を除いて、押しピンの「どの部分に触れても」、押しピン3の先端が突出しないことをいうものと解される。

他方、引用発明2における「押しピン」は、引用刊行物2の前記摘示の(問題点を解決するための手段)に係る2頁5?20行の記載にあるように、不使用時に「ピン部」が突出しない「押しピン」を目指すものであり、同3頁14行?4頁2行に具体的な記載があるように、通常時には「筒状部に収容された弾性部材」の力により「ピン部」が外方へ突出しないことで「ピン部」による怪我が生ずる危険が全くないものとされる。
よって、本願明細書記載の発明と引用発明2とは、使用時以外に意図しないピンの突出を防止する構成を提供することを目的としている点で共通している。
そして、引用刊行物2の前記摘示の3頁14行?4頁2行の記載には、「画鋲として使用せんとする場合は押入孔6より指で以て皿状頭部1を中空本体Aの内方へ押し込む」とあって、実施例においては、皿状頭部1を指でもって中空本体Aの内方に押し込むものとされているものの、(実用新案登録請求の範囲)記載を参照する限り、前記で認定した引用発明2のごとくに、押入孔6の大きさが特定されるところはない。
してみれば、引用発明2も、相違点1に係る「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、使用時にロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造」をなすものといえる。
また、危険回避を目的とする以上は、使用を意図した時以外には、指をもって押入難い程度に前記押入孔の大きさをなすことは、当業者であれば適宜に設計し得る程度のことでしかない。

以上のとおりであって、引用発明1と引用発明2とは押しピンの分野で共通するので、引用発明1の押しピンを引用発明2とすることは、当業者が容易に想到しうるものである。

<相違点2>について
引用発明1は、押しピンを押圧して刺すために使用される装置に関する発明である。
他方、引用発明2の「押しピン」は、相違点1で検討したように、筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧されなければ、刺すことができないものである。
ここで、引用発明1は、前記に摘示した16頁20行?18頁17行の効果の記載にあるように、単に「ロッド」を押圧するのみで「押しピン」を刺入可能とするものであり、「押しピン」脚部に変形を生じることなく「押しピン」頭部拡大部に対してバランス良く押圧力を印加するものである。
そして、引用発明1において「押しピン」を押圧するのは、「押しピン」の「ピン部先端」を壁面などの所望の刺入場所に対して刺入させ、「押しピン」としての機能を発揮させるためである。
してみれば、引用発明1における「押しピン」を引用発明2のものとする際に、「押しピン」として機能させるべく、引用発明1の「ロッド」が引用発明2の上記孔部を通じて「ピン部」を押圧させるようにして、引用発明2の「押しピン」を機能させるように構成することは、当業者にとって自明である。

(3-5) 独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることが出来ないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の規定に該当する場合、同法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反にしている。

(4) 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反しており、また、仮に当該規定に違反しないとしても、同法第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しているから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
(1) 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1、2に係る発明は、平成17年6月15日付け手続補正書にて補正された、上記「2.(1)」で説示したとおりのものである。(以下、本願の請求項1、2に係る発明をそれぞれ請求項順に、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)

(2) 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用刊行物1?2及びその記載事項は、上記「2.(3-2) 引用刊行物」において説示したとおりのものである。

(3) 対比・判断
<本願発明1について>
本願発明1は、上記「2.[理由]」で検討した本件補正発明から、
(a) 「押しピン」以外の構成が省かれ、
(b) 「使用しないときには・・・動くことはなく、」という限定が省かれるとともに、
(c) 「ロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され、」という限定が省かれ、「前記ピン部は筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧可能である」とする限定に代えたものとなっている。
ここで、(c)に係る「押圧部材」は、以下の本願発明2にも同じ部材が記載されており、前記「2.平成18年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「(2) 補正目的について」の(補正事項4について)で指摘したように、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌しても具体的な構成が明確とはいえないものであった。
そして、本件出願に係る補正の経緯を参考に検討したところ、出願当初の請求項3に係る「孔部を通じて押しピンを押圧する押圧部」が、「押入部材により押しピンを押圧する」作動が行われる部分であること、平成17年6月15日付け補正により「押しピンを押圧する」部材として「押入部材」が特定されたものと解すべきであることは、同(補正事項4について)において指摘したとおりである。
すると、本願発明2と大略同様の記載とされる本願発明1における「押圧部材」も、「押しピンを押圧する」部材、すなわち、「カートリッジ」の「ロッド」と解すべきともいえるが、本願発明1は「押しピン」であって、「カートリッジ」の「ロッド」は含み得ない。
ここで、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】に「この実施例の押しピンを使用するに際しては、押しピン全体を掲示部材を挟んだ状態で壁に当て、図2に示すように、筒状部1の上部に設けられた孔部5に外部から押入部材を挿入して押しピン3を下方に押し込むと、押しピン3の先端が筒状部材から突出し、壁に突き刺さって止着する。」と記載されていることを参照するに、押しピン3の先端を筒状部材から突出させるべく押し込まれる部材として押入部材が記載されている。
そして、引用発明2における「押しピン」が「指で皿状頭部1を中空本体Aの内方へ押し込むことで、針孔4から針部2を突出させるものであることは、前記「2.平成18年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「(3-2) 引用刊行物」<引用刊行物2>において摘示した3頁14行?4頁2行の記載に明らかである。
してみれば、引用発明2における「指」と、本願発明1における「押入部材」とは、「ピン部」を押圧して機能させるものとして共通しており、上記「(3-4)」の「<相違点1>について」における説示と同様に、本願発明1は、引用発明2と同一である。

<本願発明2について>
本願発明1は、上記「2.[理由]」で検討した本件補正発明から、
(a) 「カートリッジ」以外の構成が省かれ、
(b) 「カートリッジ」に含まれない「押しピン」について「使用しないときには・・・動くことはなく、」という限定が省かれ、
(c) 「空洞部」に「押しピン」を「複数」収納し得るという限定が省かれ、
(d) 「押入部材」が「ロッド」であるという限定が省かれるとともに、
(e) 「押圧部」を付加したもの
に相当する。
ここで、上記「2.[理由](2)(補正事項4)」において説示したように、(e)「押圧部」を付加した点は、特段に発明を特定する事項を追加したものとはいえないので、実質的に特許請求の範囲を変更したものとは扱わないこととする。
してみると、本件発明2の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「2.[理由](3)独立特許要件について」において説示したように、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に想到しうるものであるから、本願発明2も同様の理由により、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に想到しうるものである。

(4) むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-26 
結審通知日 2008-08-27 
審決日 2008-09-12 
出願番号 特願2003-42143(P2003-42143)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43M)
P 1 8・ 575- Z (B43M)
P 1 8・ 121- Z (B43M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 いづみ  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
上田 正樹
発明の名称 押しピンおよびそのカートリッジ  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 蟹田 昌之  

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