• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1198193
審判番号 不服2006-21082  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-21 
確定日 2009-05-27 
事件の表示 特願2002- 6113「積層セラミック電子部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月25日出願公開、特開2003-209025〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年1月15日の出願であって、平成18年8月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月23日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成20年8月14日付けで審尋がなされ、同年10月16日に回答書が提出されたものである。

第2 平成18年10月23日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年10月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成18年10月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、補正前の請求項1は補正後の請求項1として、
「【請求項1】 長尺状の支持フィルム上にダイコーターを用いてセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程と、
前記セラミックグリーンシートの上面に複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程と、
前記内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程と、
前記半乾燥または乾燥させる工程後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、かつ内部電極の周縁部に重なるように複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程と、
前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程とを備える、積層セラミック電子部品の製造方法。」と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1の「前記セラミックグリーンシートの上面にグラビア印刷により」を補正後の請求項1の「前記セラミックグリーンシートの上面に複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により」と限定するとともに、補正前の請求項1の「領域以外の領域に、グラビア印刷により」を、補正後の請求項1の「領域以外の領域に、かつ内部電極の周縁部に重なるように複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により」と限定するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1:特開平8-250370号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物1には、「積層セラミックコンデンサの製造方法」(発明の名称)に関して、図1ないし図4とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は、引用箇所のうち特に強調する部分に付加した。以下、同様。)
「【0012】(I) まず、図1に示すグラビア印刷装置の巻出しロール1から長尺の支持フィルム21を送りロール2を介してグリーンシート形成ゾーン3に搬送し、グラビアロール8と当てロール9間を通過させることにより誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、さらに送りロール2により乾燥室7内を搬送して乾燥させる。この工程により、図2の(a)に示すように支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22が形成される。
【0013】(II)誘電体グリーンシートが形成された支持フィルム21を、送りロール2を介して第1内部電極および段差解消のパターン形成ゾーン4に搬送し、内部電極パターン用グラビアロール11と当てロール13間を通過させて導電材を含むスラリーをグラビア印刷し、さらに段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷した後、送りロール2により乾燥室10内を搬送して乾燥させる。この工程により、図2の(b)および図3の(A)に示すように支持フィルム21上の誘電体グリーンシート22に第1内部電極用パターン23および段差解消用誘電体パターン24が形成される。
【0014】(III) 第1内部電極用パターンおよび段差解消用パターンが形成された支持フィルム21を送りロール2を介してグリーンシート形成ゾーン(図示せず)に搬送し、グラビアロールと当てロール間を通過させることにより誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、さらに送りロール2により乾燥室7内を搬送して乾燥させる。この工程により、図2の(c)に示すように第1内部電極用パターン23および段差解消用誘電体パターン24に誘電体グリーンシート25が形成される。
【0015】(IV)2層目の誘電体グリーンシートが形成された支持フィルム21を送りロール2を介して第2内部電極および段差解消のパターン形成ゾーン(図示せず)に搬送し、内部電極パターン用グラビアロールと当てロール間を通過させて導電材を含むスラリーをグラビア印刷し、さらに段差解消パターン用グラビアロールと当てロール間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷した後、送りロールにより乾燥室内を搬送して乾燥させる。この工程により、図2の(d)および図3の(B)に示すように2層目の誘電体グリーンシート25上に第2内部電極用パターン26および段差解消用誘電体パターン27が形成される。
【0016】(V) 第2内部電極用パターンおよび段差解消用パターンが形成された支持フィルム21を送りロール2を介して最終段のグリーンシート形成ゾーン5に搬送し、グラビアロール8と当てロール9間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、さらに送りロール2により乾燥室7内を搬送して乾燥させる。この工程により、図2の(e)に示すように第2内部電極用パターン26および段差解消用誘電体パターン27上に誘電体グリーンシート28が形成する。
【0017】(VI)次いで、前記(I) ?(V) の工程を経た支持フィルム21を巻取ロール6に巻き取る。つづいて、前記巻取ロール6を巻出しロール1として前記(I) ?(V)の工程を行う操作を繰り返して、支持フィルム21上に所望層数の積層物を形成する。
【0018】(VII) 次いで、前記支持フィルム上の積層物を剥離し、この積層物を誘電体セラミックからなるカバーシートに重ね、最上層に別のカバーシートを重ねた後、加熱加圧し、所望形状に切断する。その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付けることによって図4に示す積層セラミックコンデンサ41を製造する。得られた積層セラミックコンデンサ41は、誘電体からなる多数の誘電体層42と、これら誘電体層42の間に配置され、一端が対向する側面に交互に露出する内部電極43a、43bと、前記対向する側面にそれぞれ設けられた一対の外部電極44a、44bとから構成されている。」
以上から、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「長尺の支持フィルム21に誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、前記支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22を形成する工程と、
誘電体グリーンシートが形成された前記支持フィルム21を、送りロール2を介して第1内部電極および段差解消のパターン形成ゾーン4に搬送し、内部電極パターン用グラビアロール11と当てロール13間を通過させて導電材を含むスラリーをグラビア印刷し、さらに段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷した後、送りロール2により乾燥室10内を搬送して乾燥させることにより、前記支持フィルム21上の前記誘電体グリーンシート22に第1内部電極用パターン23および段差解消用誘電体パターン24を形成する工程と、
前記第1内部電極用パターン23および前記段差解消用パターン24が形成された前記支持フィルム21に誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、さらに送りロール2により乾燥室7内を搬送して乾燥させる工程と、
前記支持フィルム21上に所望層数の積層物を形成し、前記支持フィルム21上の積層物を剥離し、この積層物を誘電体セラミックからなるカバーシートに重ね、最上層に別のカバーシートを重ねた後、加熱加圧し、所望形状に切断し、その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付ける工程とを備える積層セラミックコンデンサ41の製造方法。」

(イ)刊行物2:特開平5-101971号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物2には、「積層セラミックコンデンサの製造方法」(発明の名称)に関して、図1ないし図3とともに以下の事項が記載されている。
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために本発明は、積層セラミックコンデンサの製造において、支持体となるベースフィルム上に内部電極を形成する工程と、その後この内部電極を覆う形で、エクストルージョン形塗布装置(以下ダイコータと記す)を用いて誘電体層を形成することでグリーンシートを作製する工程と、上記ベースフィルム上から上記グリーンシートを直接熱加圧し、内部電極を含む誘電体層を熱転写することを繰り返して順次積層を行う積層工程とを具備した構成としたものである。また、上記ダイコータはノズル先端に凹凸を設ける等により一定の距離間隔でスラリーの噴出量に差異を生じさせることが可能な構造とし、上記誘電体層の形成を上記ダイコータのノズル先端のスラリーの噴出量の少ない部分を内部電極の形成部分に、噴出量の多い部分を内部電極の非形成部分に合致するように配置して行う構成を備えたものである。」

(ウ)刊行物3:特開平8-130154号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物3には、「積層セラミックコンデンサの製造方法」(発明の名称)に関して、図2とともに以下の事項が記載されている。
「【0009】図2はセラミック生積層シート7上にグラビア印刷方法を用いずにセラミック生シート6を形成する様子を示すものである。図2において塗出ヘッド23の内部にはセラミックスラリー15が入っている。この塗出ヘッド23から所定圧力で所定体積分が塗出されたセラミックスラリー15は、均一な厚みでセラミック生積層シート7の表面に塗布され、電極層5を埋め込むことになる。そしてセラミックスラリー15が乾燥し、セラミック生シート6を形成する。こうして図1と図2の工程を複数回繰り返すことによって、ベースフィルム4上に電極層5とセラミック生シート6が複数層積層されたセラミック生積層シート7を形成することができる。またここで塗出ヘッド23としては、広くノズルコーターや金型(ダイ)コーターと呼ばれるものを用いることができる。」

(エ)刊行物4:特開2001-118744号公報
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物4には、「積層セラミック電子部品の製造方法」(発明の名称)に関して、図2(a)とともに以下の事項が記載されている。
「【0032】(2)次に、上述の1次分散液に、有機バインダー、可塑剤及び有機溶媒を添加することによって、セラミックスラリーを調製し、前述の方法と同様の方法で、2次分散させる。このセラミックスラリーを用いて、PETフィルムなどからなるキャリアフィルム上に積層セラミックコンデンサの誘電体層(セラミック層)2となるセラミックグリーンシート22(図2(a))を成形する。セラミックグリーンシート22の成形方法としては、ドクターブレード法、リバースロールコーター法、ダイコーター法などを適用することが可能である。なお、上述のようにして成形されるセラミックグリーンシート22を構成するセラミック粒子は、必ずしも単粒子となるほど高度に分散されている必要はなく、セラミック粉末の粉砕が生じていないということが重要である。」

(オ)刊行物5:特開2000-311831号公報
本願の出願前に頒布された刊行物5には、「積層セラミック電子部品の製造方法」(発明の名称)に関して、図1及び図5とともに以下の事項が記載されている。
「【0017】セラミックペースト4は、前述したように、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷等の印刷により、付与されるものであるが、このような印刷における位置精度は、30?200μm程度である。そのため、印刷位置のずれが発生した場合には、図5に示すように、セラミックペースト4の一部が内部電極2上に乗り上げてしまい、段差を逆に助長する結果を招いてしまう。」
「【0020】
【課題を解決するための手段】この発明は、セラミックグリーンシートを用意する工程と、セラミックグリーンシートの主面上に、その厚みによる段差をもたらす状態で内部回路要素膜を部分的に形成する工程と、内部回路要素膜の厚みによる段差を実質的になくすように、セラミックグリーンシートの主面上にセラミックペーストを付与する工程と、セラミックペーストが付与されたセラミックグリーンシートを積み重ねる工程とを備える、積層セラミック電子部品の製造方法に向けられる。
【0021】前述した技術的課題を解決するため、この発明の第1の局面では、内部回路要素膜を形成する工程において、内部回路要素膜は、その周縁部においてセラミックグリーンシートの主面に対して鋭角をもつ傾斜面を与えるように形成されることを特徴とするとともに、セラミックペーストを付与する工程において、セラミックペーストは、内部回路要素膜の周縁部に重なるように付与されることを特徴としている。
【0022】また、この発明の第2の局面では、セラミックペーストを付与する工程において、セラミックペーストは、内部回路要素膜の周縁部に重なるように付与され、かつ、セラミックペーストとして、溶剤の含有量が40重量%?85重量%のものが用いられることを特徴としている。
【0023】また、この発明の第3の局面として、上述した第1および第2の局面での各特徴を兼ね備えるようにして、この発明に係る積層セラミック電子部品の製造方法が実施されてもよい。すなわち、この発明の第3の局面では、内部回路要素膜を形成する工程において、内部回路要素膜は、その周縁部においてセラミックグリーンシートの主面に対して鋭角をもつ傾斜面を与えるように形成されることを特徴とするとともに、セラミックペーストを付与する工程において、セラミックペーストは、内部回路要素膜の周縁部に重なるように付与され、かつ、セラミックペーストとして、溶剤の含有量が40重量%?85重量%のものが用いられることを特徴としている。
【0024】この発明の第1または第3の局面において、内部回路要素膜の周縁部の傾斜面は、セラミックグリーンシートの主面に対して0.3度?30度の角度をもつように形成されることが好ましい。」
「【0034】内部電極13は、たとえば、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷等の印刷によって形成されるが、この印刷において用いられるスクリーンのようなマスク、印版等により、あるいは、内部電極13の形成のために用いる導電性ペーストの粘度を調整したりすること等によって、上述した傾斜面15を容易に形成することができる。このように、内部電極13が印刷によって形成される場合、次いで、内部電極13を乾燥することが行なわれる。また、内部電極13は、スパッタリングのような乾式めっきによって形成されることもあるが、この場合には、マスクを工夫したりすることによって、傾斜面15を容易に形成することができる。
【0035】次いで、内部電極13の厚みによる段差14を実質的になくすように、セラミックグリーンシート11の主面12上であって、内部電極13が形成されない全領域に、セラミックペースト17が、たとえば、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷等の印刷によって付与される。セラミックペースト17は、セラミック粉末、バインダおよび溶剤を含むものであるが、ここに含まれるセラミック粉末としては、セラミックグリーンシート11に含まれるセラミック粉末と実質的に同じ成分であることが好ましい。
【0036】この発明の特徴的構成として、上述のようにセラミックペースト17を付与するとき、セラミックペースト17は、図1(1)に示すように、重なりの幅18をもって、内部電極13の周縁部に重なるように付与される。
【0037】このように、セラミックペースト17が内部電極13の周縁部に重なるように付与されることによって、たとえ印刷等の位置ずれが生じても、内部電極13とセラミックペースト17との間にギャップが形成されることが防止される。
【0038】また、内部電極13の周縁部には傾斜面15が形成されているので、この周縁部に重なるようにセラミックペースト17が付与されても、その後において、図1(2)に示すように、セラミックペースト17の、内部電極13の周縁部に乗り上げた部分は、内部電極13間へと迅速に移動し、円滑にレベリングされる。言い換えると、内部電極13の段差14が、セラミックペースト17のパターンをアライニングするように作用することになる。また、セラミックペースト17は、付与後において乾燥される。これらのことから、セラミックペースト17は、内部電極13の表面と実質的に面一の表面を形成する状態となる。

(2)本願補正発明と引用発明との対比・判断

(a)引用発明の「長尺」、「支持フィルム21」、「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」、「誘電体グリーンシート22」は、各々本願補正発明の「長尺状」、「支持フィルム」、「セラミックススラリー」、「セラミックグリーンシート」に相当する。
したがって、引用発明の「長尺の支持フィルム21に誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、前記支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22を形成する工程」と、本願補正発明の「長尺状の支持フィルム上にダイコーターを用いてセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程」とは、「長尺状の支持フィルム上にセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程」である点で共通する。

(b)引用発明の「送りロール2」は、本願補正発明の「搬送用ロール」に相当するものであり、引用発明において「送りロール2」が複数存在していることは刊行物1の図1から明らかである。
また、引用発明の「導電材を含むスラリー」、「第1内部電極用パターン」が、各々本願補正発明の「導電ペースト」、「内部電極」に相当する。
また、引用発明の「当てロール13」、「内部電極パターン用グラビアロール11」が、各々本願補正発明の「内部電極を形成する工程」において用いられる「圧接ロール」、「内部電極を形成する工程」において用いられる「グラビアロール」に相当する。
したがって、引用発明の「誘電体グリーンシートが形成された前記支持フィルム21を、送りロール2を介して第1内部電極および段差解消のパターン形成ゾーン4に搬送し、内部電極パターン用グラビアロール11と当てロール13間を通過させて導電材を含むスラリーをグラビア印刷し、」「前記支持フィルム21上の前記誘電体グリーンシート22に第1内部電極用パターン23」を「形成する工程」が、本願補正発明の「前記セラミックグリーンシートの上面に複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程」に相当する。

(c)引用発明の「当てロール13」、「段差解消パターン用グラビアロール12」が、各々本願補正発明の「段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」に用いる「圧接ロール」、「段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」に用いる「グラビアロール」に相当する。
また、引用発明の「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が、本願補正発明の「段差解消用のセラミックペースト」に相当する。
そして、刊行物1の図2において、「段差解消用誘電体パターン24」と「第1内部電極用パターン23」とが間隔を置いて並んでいることからみて、引用発明において、「段差解消用誘電体パターン24」を形成するために「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が、「第1内部電極用パターン23」が形成された以外の領域に形成されていることは明らかである。
さらに、引用発明において、「第1内部電極用パターン23」の形成後に、連続的に「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が「グラビア印刷」されていることは明らかである。
したがって、引用発明の「さらに段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し」、「前記支持フィルム21上の前記誘電体グリーンシート22に」「段差解消用誘電体パターン24を形成する工程」と、本願補正発明の「前記内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程と、 前記半乾燥または乾燥させる工程後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、かつ内部電極の周縁部に重なるように複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」とは、「前記内部電極形成後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」である点で共通する。

(d)引用発明の「焼結」することが、本願補正発明の「焼成して焼結体を得る」ことに相当し、引用発明の「その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付ける」ことが、本願補正発明の「前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する」ことに相当する。
さらに、引用発明の「積層セラミックコンデンサ」が、本願補正発明の「積層セラミック電子部品」に相当することは明らかである。
したがって、引用発明の「前記支持フィルム21上に所望層数の積層物を形成し、前記支持フィルム21上の積層物を剥離し、この積層物を誘電体セラミックからなるカバーシートに重ね、最上層に別のカバーシートを重ねた後、加熱加圧し、所望形状に切断し、その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付ける工程」と本願補正発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程と、 前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、 前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程」とは、「積層体を焼成して焼結体を得る工程と、前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程」を備える点で共通する。

(e)したがって、引用発明と本願補正発明とは、
「長尺状の支持フィルム上にセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程と、
前記セラミックグリーンシートの上面に複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程と、
前記内部電極形成後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程と、
前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程とを備える、積層セラミック電子部品の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]支持フィルム上にセラミックスラリーを付与するのに、本願補正発明が、「ダイコーターを用いて」いるのに対し、引用発明は、「グラビア印刷により」付与している点。
[相違点2]本願補正発明が、「内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程」を有しているのに対し、引用発明は、そのような工程を有していない点。
[相違点3]本願補正発明が、「段差解消用のセラミックペースト」を、「内部電極の周縁部に重なるように」印刷するという構成を有しているのに対し、引用発明は、そのような構成を有していない点。
[相違点4]本願補正発明が、「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」を有しているのに対し、引用発明は、そのような工程を有していない点。

[相違点1について]
キャリアフィルム(「支持フィルム」と言い換えられるのは周知である。)上に、セラミックスラリーを付与するために、ダイコーターを用いることは刊行物2ないし4にも示されるように周知技術であるから、引用発明のグラビア印刷に代え、ダイコーターを用いることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
段差解消用のセラミックペーストを印刷するに先立って、「内部電極形成後、連続的に前記内部電極を乾燥させる」ことは、刊行物5及び以下の周知例1,2にも示されるように周知技術であるから、引用発明において、内部電極形成後、連続的に前記内部電極を乾燥させる工程を付加することは、当業者が適宜なし得たことである。
周知例1:特開2001-23854号公報(「【0005】次に、パラジウム等の金属粉末を主成分とする電極ペーストをグラビア印刷法等でセラミックグリーンシート2の片面に印刷後、乾燥して内部電極4を形成する。【0006】次いで、セラミックグリーンシート2の内部電極4の非形成部分にセラミックグリーンシート2と同組成のセラミックスラリーを、内部電極4のパターンと逆のパターンを用いグラビア印刷法などで塗布し、内部電極4との厚み段差を解消するセラミック層8を形成した後、乾燥し表面が平坦な有効層グリーンシート5を作製する。」)
周知例2:特開平6-96991号公報(「【0052】また、厚さ50μmの合成樹脂製の第2支持フィルム上にAg/Pd=70/30(wt%)の導体粉末を含む導体ペーストをグラビア装置により塗布し、乾燥して厚さ3μmの内部電極用パターンを形成した。つづいて、前記内部電極用パターンが形成された前記第2支持フィルムの面に、グラビア装置により厚さ3μmで前記誘電体グリーンシートと同材質の段差解消用パターンを前記内部電極用パターン間を含む全領域に形成した。」)

[相違点3について]
(a)刊行物5には、「積層セラミック電子部品の製造方法」において、セラミックグリーンシート上の段差をなくすという課題を解決するために、「内部電極13」の周縁部を「傾斜面15」とするとともに、「溶剤の含有量が40重量%?85重量%と多くした」「セラミックペースト17」を用い、「内部電極13」の周縁部に重なるように「セラミックペースト17」を印刷する発明が記載されている。
ここにおいて、刊行物5に記載された発明の「内部電極13」が、引用発明の「第1内部電極」に相当する。
また、刊行物5に記載された発明の「セラミックペースト17」が、引用発明の「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」に相当する。
そして、引用発明の「積層セラミックコンデンサ」も「積層セラミック電子部品」の一種であることは当業者にとって自明であるから、引用発明と刊行物5に記載された発明とは、共通の技術分野に属するものであり、また、積層セラミックコンデンサの製造方法において、セラミックグリーンシート上の段差をなくすという課題は周知であるから、引用発明においても当該課題が生ずることは、当業者にとって明らかである。
したがって、引用発明に対して、刊行物5に記載された発明を適用し、「第1内部電極」の周縁部を傾斜面とするとともに、溶剤の含有量が40重量%?85重量%と多くした「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」を用い、「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより、「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」を、当該「第1内部電極」の周縁部に重なるように「グラビア印刷」することは当業者が容易に想到し得た事項である。

(b)ところで、本願補正発明においては、刊行物5に記載された発明の「内部電極13」に相当する「内部電極」の周縁部が傾斜を有するか否かについては限定されておらず、本願補正発明は、周縁部が傾斜面である「内部電極」を備える積層セラミック電子部品の製造方法を技術的範囲に含むものであることは明らかである。
さらにいえば、本願補正発明において、「グラビア印刷」された直後の「内部電極」は、ペースト状となっており、周縁部の形が崩れる結果、程度の差はあれ周縁部が傾斜状となることは明らかであるから、その点からみても、周縁部が傾斜面である「内部電極」を備える積層セラミック電子部品の製造方法が本願補正発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
したがって、引用発明に対して、刊行物5に記載された発明を適用し、「第1内部電極」の周縁部を傾斜面とするとともに、溶剤の含有量が40重量%?85重量%と多くした「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」を用い、「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより、「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」を、当該「第1内部電極」の周縁部に重なるように「グラビア印刷」することが、本願補正発明において「内部電極の周縁部に重なるように複数の搬送用ロールと圧接ロールとグラビアロールとを用いてグラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する」ことに相当することは明らかである。
したがって、相違点3についての相違は、刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

(c)相違点3については以上のとおりであるが、仮に、本願補正発明において「内部電極」の周縁部が傾斜を有しないものであるものとみなした場合についても、一応検討する。
一般に、積層セラミック電子部品の製造方法において、内部電極間に段差を解消するためのセラミックペーストを印刷する際に、過不足なく内部電極間にセラミックペーストを印刷することが最善であることは当業者にとって自明な事項であるが、実際には、製造装置の精度のばらつき等に起因して当該セラミックペーストが内部電極に重なってしまう事態が発生することは、例えば、本願の出願前に頒布された特開平11-8156号公報(周知例3)の図5、及び特開2001-76958号公報(周知例4)の図4にも記載されているように当業者において周知である。
そして、刊行物5に記載された発明は、周縁部を傾斜面とするとともに、溶剤の含有量が多いセラミックペーストを用いるものであるが、その実施例における傾斜面の角度が「0.3度?30度」とかなり急な角度を有する場合も含まれることを勘案すると、溶剤の含有量が多いセラミックペーストを用いれば、周縁部が傾斜を有しない場合であっても、傾斜面にした場合に比べればやや不充分ではあるが、セラミックペーストが電極間に流動して当該電極間を充填し、段差を解消する効果を奏するであろうことは当業者が容易に察知できる事項である。
したがって、引用発明において、周縁部が傾斜を有しない場合であっても、「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」を溶剤の含有量が多いものを用いることにより、「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」と「第1内部電極」が重なった場合における段差を解消若しくは軽減させることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、仮に本願補正発明において「内部電極」の周縁部が傾斜を有しないものとみなした場合であっても、相違点3は当業者が容易に想到し得た事項の範囲に含まれる程度のものにすぎない。

[相違点4について]
(a)引用発明においても、刊行物1の図2(e)に記載されているように、本願の図4及び0041段落(「なお、上記実施例では、支持フィルム2上に複合シート41が形成され、該支持フィルム2上に形成された複合シート41が複数回転写されたが、図4に示すように、支持フィルム2上に複数層の複合シート41を形成してもよい。すなわち、支持フィルム2上に予め複数層の複合シート41を転写(複合シート41側を圧着して支持フィルム2を剥離する)により積層し、このようにして得られた積層体を積層ステージ42上に転写してもよい。」)に記載された実施例と同様に、「内部電極用パターン23及び26」と「段差解消用誘電体パターン24及び27」が形成されたシートと、「内部電極用パターン23及び26」と「段差解消用誘電体パターン24及び27」が形成されていない「誘電体グリーンシート28」が積層されて積層体が形成されており、本願補正発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」に相当する工程を備えていることは明らかであるから、相違点4は実質的なものではなく、また、仮に実質的なものであったとしても、当業者が容易になし得る範囲に含まれる程度のものにすぎない。

(b)相違点4については以上のとおりであるが、仮に、本願補正発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」が、本願の図3に記載された実施例のように、「支持フィルム上」とは別に設けた「積層ステージ43」上に積層して積層体を得る工程に限定されるものであるとみなした場合についても、一応検討する。
一般に、積層セラミック電子部品を製造するに際して、電極を含むシートと電極を含まないシートを、支持フィルム上とは別に設けた支持体上に積層して積層体を得ることは、例えば、前記周知例2の図11ないし図13、及び0029段落ないし0032段落(「【0029】(4)まず、図11に示すように第1支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22を形成して第1複合シート24´を複数枚作製する。 【0030】また、図12に示すように第2支持フィルム25上に内部電極用パターン26を形成して第2複合シート27´を複数枚作製する。前記第2複合シート27´において、前記誘電体グリーンシートの少なくともコーナ部、例えば外周部に相当する箇所に段差解消用パターン23を形成する。 【0031】次いで、第1カバーシート28上に前記第2複合シート27´を前記内部電極用パターン26および段差解消用パターン23が前記第1カバーシート28側に位置するように重ねて圧着した後、前記第2支持フィルム25を剥離して前記内部電極用パターン26および段差解消用パターン23を前記第1カバーシート28上に転写する。つづいて、前記第1カバーシート28の前記内部電極用パターン26形成面に前記第1複合シート24´を前記誘電体グリーンシート22が前記第1カバーシート28側に位置するように重ねて圧着した後、図13に示すように前記第1支持フィルム21を剥離して積層膜を形成する。 【0032】次いで、残りの第1、第2の複合シートを用いて前述したのと同様な手順により、順次内部電極用パターンおよび段差解消用パターンと誘電体グリーンシートを積層して多層の積層膜を形成した後、第2カバーシートを重ねる。つづいて、得られた積層体を加熱加圧し、その厚さ方向に切断して個々のユニットを切り出す。その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付けることによってMLCを製造する。」)にも記載されているように、当業者における周知技術である(周知例2において、「第2カバーシート45」が、電極を含まないシートである。)から、引用発明において、当該周知技術を適用し、「支持フィルム2」とは別に設けた支持体上に積層するようにすることは、当業者が容易になし得た事項である。
したがって、本願補正発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」が、本願の図3に記載された実施例のように、「支持フィルム上」とは別に設けた「積層ステージ43」上に積層して積層体を得る工程に限定されるものであるとみなした場合であっても、相違点4は当業者が容易になし得る範囲に含まれる程度のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、請求項1についての補正を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成18年10月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年3月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 長尺の支持フィルム上にダイコーターを用いてセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程と、
前記セラミックグリーンシートの上面にグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程と、
前記内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程と、
前記半乾燥または乾燥させる工程後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、グラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程と、
前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程と、
前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程とを備える、積層セラミック電子部品の製造方法。」

第4 刊行物に記載された発明
刊行物1ないし4の記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記「第2 2(1)(ア)?(エ)」に記載したとおりである。

第5 本願発明と引用発明との対比・判断

(a)引用発明の「支持フィルム21」、「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」、「誘電体グリーンシート22」は、各々本願発明の「支持フィルム」、「セラミックススラリー」、「セラミックグリーンシート」に相当する。
したがって、引用発明の「長尺の支持フィルム21に誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し、前記支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22を形成する工程」と、本願発明の「長尺の支持フィルム上にダイコーターを用いてセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程」とは、「長尺の支持フィルム上にセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程」である点で共通する。

(b)引用発明の「導電材を含むスラリー」、「第1内部電極用パターン」が、各々本願発明の「導電ペースト」、「内部電極」に相当する。
したがって、引用発明の「誘電体グリーンシートが形成された前記支持フィルム21を、送りロール2を介して第1内部電極および段差解消のパターン形成ゾーン4に搬送し、内部電極パターン用グラビアロール11と当てロール13間を通過させて導電材を含むスラリーをグラビア印刷し、」「前記支持フィルム21上の前記誘電体グリーンシート22に第1内部電極用パターン23」を「形成する工程」が、本願発明の「前記セラミックグリーンシートの上面にグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程」に相当する。

(c)引用発明の「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が、本願発明の「段差解消用のセラミックペースト」に相当する。
そして、刊行物1の図2において、「段差解消用誘電体パターン24」と「第1内部電極用パターン23」とが間隔を置いて並んでいることからみて、引用発明において、「段差解消用誘電体パターン24」を形成するために「段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させ」ることにより「グラビア印刷」される「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が、「第1内部電極用パターン23」が形成された以外の領域に形成されていることは明らかである。
さらに、引用発明において、「第1内部電極用パターン23」の形成後に、連続的に「誘電体粉末および有機バインダを含むスラリー」が「グラビア印刷」されていることは明らかである。
したがって、引用発明の「さらに段差解消パターン用グラビアロール12と当てロール13間を通過させて誘電体粉末および有機バインダを含むスラリーをグラビア印刷し」、「前記支持フィルム21上の前記誘電体グリーンシート22に」「段差解消用誘電体パターン24を形成する工程」と、本願発明の「前記内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程と、 前記半乾燥または乾燥させる工程後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、グラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」とは、「前記内部電極形成後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、グラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程」である点で共通する。

(d)引用発明の「焼結」することが、本願発明の「焼成して焼結体を得る」ことに相当し、引用発明の「その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付ける」ことが、本願発明の「前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する」ことに相当する。
さらに、引用発明の「積層セラミックコンデンサ」が、本願発明の「積層セラミック電子部品」に相当することは明らかである。
したがって、引用発明の「前記支持フィルム21上に所望層数の積層物を形成し、前記支持フィルム21上の積層物を剥離し、この積層物を誘電体セラミックからなるカバーシートに重ね、最上層に別のカバーシートを重ねた後、加熱加圧し、所望形状に切断し、その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付ける工程」と本願発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程と、 前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、 前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程」とは、「積層体を焼成して焼結体を得る工程と、前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程」を備える点で共通する。

(e)したがって、引用発明と本願発明とは、
「長尺の支持フィルム上にセラミックスラリーを付与する工程により、セラミックグリーンシートを成形する工程と、
前記セラミックグリーンシートの上面にグラビア印刷により導電ペーストを付与することにより内部電極を形成する工程と、
前記内部電極形成後、連続的に前記セラミックグリーンシートの上面において前記内部電極が形成された領域以外の領域に、グラビア印刷により段差解消用のセラミックペーストを印刷する工程と、
前記積層体を焼成して焼結体を得る工程と、
前記焼結体の外表面にいずれかの内部電極に電気的に接続される複数の外部電極を形成する工程とを備える、積層セラミック電子部品の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]支持フィルム上にセラミックスラリーを付与するのに、本願発明が、「ダイコーターを用いて」いるのに対し、引用発明は、「グラビア印刷により」付与している点。

[相違点2]本願発明が、「内部電極形成後、連続的に前記内部電極を半乾燥または乾燥させる工程」を有しているのに対し、引用発明は、そのような工程を有していない点。

[相違点3]本願発明が、「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」を有しているのに対し、引用発明は、そのような工程を有していない点。

[相違点1について]
キャリアフィルム(「支持フィルム」と言い換えられるのは周知である。)上に、セラミックスラリーを付与するために、ダイコーターを用いることは刊行物2ないし4にも示されるように周知技術であるから、引用発明のグラビア印刷に代え、ダイコーターを用いることは、当業者が適宜なし得たことである。

[相違点2について]
段差解消用のセラミックペーストを印刷するに先立って、「内部電極形成後、連続的に前記内部電極を乾燥させる」ことは、以下の周知例1ないし3にも示されるように周知技術であるから、引用発明において、内部電極形成後、連続的に前記内部電極を乾燥させる工程を付加することは、当業者が適宜なし得たことである。
周知例1:特開2001-23854号公報(「【0005】次に、パラジウム等の金属粉末を主成分とする電極ペーストをグラビア印刷法等でセラミックグリーンシート2の片面に印刷後、乾燥して内部電極4を形成する。【0006】次いで、セラミックグリーンシート2の内部電極4の非形成部分にセラミックグリーンシート2と同組成のセラミックスラリーを、内部電極4のパターンと逆のパターンを用いグラビア印刷法などで塗布し、内部電極4との厚み段差を解消するセラミック層8を形成した後、乾燥し表面が平坦な有効層グリーンシート5を作製する。」)
周知例2:特開平6-96991号公報(「【0052】また、厚さ50μmの合成樹脂製の第2支持フィルム上にAg/Pd=70/30(wt%)の導体粉末を含む導体ペーストをグラビア装置により塗布し、乾燥して厚さ3μmの内部電極用パターンを形成した。つづいて、前記内部電極用パターンが形成された前記第2支持フィルムの面に、グラビア装置により厚さ3μmで前記誘電体グリーンシートと同材質の段差解消用パターンを前記内部電極用パターン間を含む全領域に形成した。」)
周知例3:特開2000-311831号公報(「【0034】内部電極13は、たとえば、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷等の印刷によって形成されるが、この印刷において用いられるスクリーンのようなマスク、印版等により、あるいは、内部電極13の形成のために用いる導電性ペーストの粘度を調整したりすること等によって、上述した傾斜面15を容易に形成することができる。このように、内部電極13が印刷によって形成される場合、次いで、内部電極13を乾燥することが行なわれる。また、内部電極13は、スパッタリングのような乾式めっきによって形成されることもあるが、この場合には、マスクを工夫したりすることによって、傾斜面15を容易に形成することができる。」)

[相違点3について]
(a)引用発明においても、刊行物1の図2(e)に記載されているように、本願の図4及び0041段落(「なお、上記実施例では、支持フィルム2上に複合シート41が形成され、該支持フィルム2上に形成された複合シート41が複数回転写されたが、図4に示すように、支持フィルム2上に複数層の複合シート41を形成してもよい。すなわち、支持フィルム2上に予め複数層の複合シート41を転写(複合シート41側を圧着して支持フィルム2を剥離する)により積層し、このようにして得られた積層体を積層ステージ42上に転写してもよい。」)に記載された実施例と同様に、「内部電極用パターン23及び26」と「段差解消用誘電体パターン24及び27」が形成されたシートと、「内部電極用パターン23及び26」と「段差解消用誘電体パターン24及び27」が形成されていない「誘電体グリーンシート28」が積層されて積層体が形成されており、本願発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」に相当する工程を備えていることは明らかであるから、相違点3は実質的なものではなく、また、仮に実質的なものであったとしても、当業者が容易になし得る範囲に含まれる程度のものにすぎない。

(b)相違点3については以上のとおりであるが、仮に、本願発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」が、本願の図3に記載された実施例のように、「支持フィルム上」とは別に設けた「積層ステージ43」上に積層して積層体を得る工程に限定されるものであるとみなした場合についても、一応検討する。
一般に、積層セラミック電子部品を製造するに際して、電極を含むシートと電極を含まないシートを、支持フィルム上とは別に設けた支持体上に積層して積層体を得ることは、例えば、前記周知例2の図11ないし図13、及び0029段落ないし0032段落(「【0029】(4)まず、図11に示すように第1支持フィルム21上に誘電体グリーンシート22を形成して第1複合シート24´を複数枚作製する。 【0030】また、図12に示すように第2支持フィルム25上に内部電極用パターン26を形成して第2複合シート27´を複数枚作製する。前記第2複合シート27´において、前記誘電体グリーンシートの少なくともコーナ部、例えば外周部に相当する箇所に段差解消用パターン23を形成する。 【0031】次いで、第1カバーシート28上に前記第2複合シート27´を前記内部電極用パターン26および段差解消用パターン23が前記第1カバーシート28側に位置するように重ねて圧着した後、前記第2支持フィルム25を剥離して前記内部電極用パターン26および段差解消用パターン23を前記第1カバーシート28上に転写する。つづいて、前記第1カバーシート28の前記内部電極用パターン26形成面に前記第1複合シート24´を前記誘電体グリーンシート22が前記第1カバーシート28側に位置するように重ねて圧着した後、図13に示すように前記第1支持フィルム21を剥離して積層膜を形成する。 【0032】次いで、残りの第1、第2の複合シートを用いて前述したのと同様な手順により、順次内部電極用パターンおよび段差解消用パターンと誘電体グリーンシートを積層して多層の積層膜を形成した後、第2カバーシートを重ねる。つづいて、得られた積層体を加熱加圧し、その厚さ方向に切断して個々のユニットを切り出す。その後、焼結し、一対の外部電極を焼き付けることによってMLCを製造する。」)にも記載されているように、当業者における周知技術である(周知例2において、「第2カバーシート45」が、電極を含まないシートである。)から、引用発明において、当該周知技術を適用し、「支持フィルム2」とは別に設けた支持体上に積層するようにすることは、当業者が容易になし得た事項である。
したがって、本願発明の「前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが付与された複数枚のセラミックグリーンシートと、前記内部電極及び段差解消用セラミックペーストが印刷されていない少なくとも1枚のセラミックグリーンシートとを積層して積層体を得る工程」が、本願の図3に記載された実施例のように、「支持フィルム上」とは別に設けた「積層ステージ43」上に積層して積層体を得る工程に限定されるものであるとみなした場合であっても、相違点3は当業者が容易になし得る範囲に含まれる程度のものにすぎない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2009-03-11 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-04-06 
出願番号 特願2002-6113(P2002-6113)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
P 1 8・ 575- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 匡明  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 大澤 孝次
北島 健次
発明の名称 積層セラミック電子部品の製造方法  
代理人 宮▲崎▼主税  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ