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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1198548
審判番号 不服2007-17668  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-25 
確定日 2009-06-10 
事件の表示 特願2001-519345「製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月 1日国際公開、WO01/15058、平成15年 7月29日国内公表、特表2003-522995〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成12年8月23日(優先権主張、平成11年8月23日アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成19年1月11日に手続補正がなされたが、同年3月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
そこで、同年6月25日に本件審判の請求がなされ、当審において、平成20年5月29日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月2日に手続補正とともに意見書が提出されたものである。

第2.拒絶理由の概要
平成20年5月29日付けで通知された拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

1)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願の請求項1ないし20に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


(第36条)
(略)

(第29条)
1.特表平11-500245号公報
2.特開昭60-111747号公報
3.特開昭61-287408号公報
4.特開平11-199313号公報

請求項1に係る発明(以下「請求項1発明」という。)に対し
刊行物1には、第13?14ページに「複合材料の剛性特性を変えることができる」旨、記載されていることから、以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

「対象物が物理的フィールド{f}の影響下にあるときに、該対象物が応答{x}を有する対象物の製造方法において、
多くの有限要素の中から対象物の幾何学的モデルを分離し、上記各有限要素に関する物理的フィールド{f}及び応答{x}の各数値を特定することによって対象物のコンピュータ数学モデルを生成するステップと、
関係式{f}=[k]{x}の解に基づいて物性係数のマトリックス[k] を算出するステップと、
コンピュータ化された数学モデル内の各々の有限要素に対して、上記マトリックス[k]から物性係数を抽出するステップと、
抽出された素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを一致させるために、抽出され素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを比較するステップと、
一致した物性係数に基づいて、対象物の各々ボリュームエレメントに対して、製造装置を制御するための制御パラメータを決定するステップと、
決定された制御パラメータに応じて、上記対象物を製造するための製造設備を制御するステップとを含み、
物性係数が複合素材に対するものであれば、上記制御パラメータは複合製造装置を制御するためのパラメータを含み、その製造装置の制御は複合製造装置の制御を含み、
複合素材は、パラメータを制御することで、その特性を変えることができる製造方法。」

請求項1発明と、刊行物1発明とを対比すると、以下の点を除き、一致している。
複合素材の調整について、請求項1発明は、「複合素材は、不純物が導入されたマトリクス中に積層され、組織化されたファイバを含み、マトリクス内に導入された不純物の量は、対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御される」が、刊行物1発明は、明らかでない点。

しかしながら、ファイバ、又は不純物の添加量により、材料特性が変わることは、刊行物2?4にみられるごとく周知である。
よって、請求項1発明は、刊行物1発明、及び周知技術により、容易に発明をすることができたものである。

(略)

請求項1?20発明は、既知の技術の寄せ集めにすぎないものと解され、特許性を主張する部分と、それによる有利な効果が明確でない。特に、請求人自身の公知発明である刊行物1との差違(本件請求項に基づく一致点、相違点)を、意見書、補正書で、明確にしていただきたい。
補正の際は、新規事項の追加に留意願いたい。
審判官合議体は、本願発明の正確な理解のため、代理人弁理士による説明を希望するので、面接に協力いただける場合は、連絡願いたい(「面接ガイドライン【審判編】参照)。

第3.意見書の概要
請求人が、平成20年12月2日に提出した意見書の概要は、以下のとおりである。

今回の拒絶理由通知書では、その末尾において、本願発明の正確な理解のために、代理人弁理士による説明のための面接をご希望されていましたが、出願人からの応答指示が2008年11月26日に送付されてきましたので、上記面接のための時間を確保できず、上記面接に協力できなかったことご了解下さい。
(略)
補正後の本願請求項1における発明の課題は、本願明細書の段落0011,0019,0020に記載のように、より多様な機能が付与された、さらにモディファイされた多種な各複合素材を有する対象物を得ることです。特に、全人工股関節置換術(THA)において、移植される部材における生物学的な成長を刺激したり、抗生物質といった薬剤が周辺組織に広がることによって、周辺組織での炎症の発生を抑制したりできるという有利な効果を発揮できます。
(略)
補正後の本願請求項1の発明は、『上記複合素材は、樹脂マトリクスと、上記樹脂マトリクス中に組み込まれ、組織化されたファイバと、上記ファイバと異なり、上記樹脂マトリクス中に導入され、上記複合素材をモディファイするための不純物とを含み、上記樹脂マトリクス内に導入された不純物の量は、上記対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御される』ことを特徴としています。
上記特徴については、審判官殿も認められていますように、刊行物1には何ら開示も示唆もされていません。
また、刊行物2?4に記載の発明は、補正後の本願請求項1の発明のように、基材としての樹脂マトリクス中にファイバと不純物を組み込むことについて、何ら想定しておらず、その上、上記樹脂マトリクス内に導入された不純物の量は、上記対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御されることに関しても何ら開示も示唆もされていません。
また、各刊行物2ないし4の各記載は、本願発明と明らかに技術分野が異なりますので、各刊行物2ないし4の何れかの発明を刊行物1の発明に対して組み合わせる動機付けに欠けるものです。
また、補正後の本願請求項1の発明は、『上記樹脂マトリクス内に導入された不純物の量は、上記対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御される』という、各刊行物1ないし4には何ら開示も示唆もされていません、新規な工程を含み、その新規な工程による『移植される部材における生物学的な成長を刺激したり、抗生物質といった薬剤が周辺組織に広がることによって、周辺組織での炎症の発生を抑制したりできる』という上記各刊行物1ないし4の記載からは予期されない新たな効果を前述したように発揮できるものとなっていますので、上記各刊行物1ないし4、並びにそれらの組み合わせに対して進歩性の特許要件を満たすものです。

第4.本願発明
本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成20年12月2日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「対象物が物理的フィールド[f]の影響下にあるときに、該対象物が応答[x]を有する対象物の製造方法において、
三次元の多くの有限要素の中から対象物の幾何学的モデルを分離し、上記各有限要素に関する物理的フィールド[f]及び応答[x]の各数値を特定することによって対象物のコンピュータ数学モデルを生成するステップと、
関係式[f]=[k][x]の解に基づいて物性係数のマトリックス[k] を算出するステップと、
コンピュータ化された数学モデル内の各々の有限要素に対して、上記マトリックス[k]から物性係数を抽出するステップと、
抽出された素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを一致させるために、抽出され素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを比較するステップと、
一致した物性係数に基づいて、対象物の上記有限要素の各々のボリュームエレメントに対して、製造装置を制御するための制御パラメータを決定するステップと、
決定された制御パラメータに応じて、上記対象物を製造するための製造設備を制御するステップとを含み、
物性係数が複合素材に対するものであり、上記制御パラメータは複合製造装置を制御するためのパラメータを含み、その製造装置の制御は複合製造装置の制御を含み、
上記複合素材は、樹脂マトリクスと、上記樹脂マトリクス中に組み込まれ、組織化されたファイバと、上記ファイバと異なり、上記樹脂マトリクス中に導入され、上記複合素材をモディファイするための不純物とを含み、
上記樹脂マトリクス内に導入された不純物の量は、上記対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御される製造方法。」

第5.刊行物記載の発明
これに対し、本願優先日前に頒布された刊行物(出願人は本件請求人に同じ)であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特表平11-500245号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.特許請求の範囲
「1. ポテンシャル{x}が使用環境下のフィールド{f}に応じて発生する目的物の製造方法であって、
前記目的物の模型を幾何学的に設計する段階と、
前記目的物の幾何学的模型を複数の有限要素に分割すると共に該有限要素間の境界に、前記フィールド{f}と前記ポテンシャル{x}の夫々の値を特定できる結節点を設定して、コンピュータで模型を数学的に作製する段階と、
{f}=[k]{x}の関係に基づいて材料特性マトリックス[k]を算出する段階と、
コンピュータを使用して数学的に作製した前記模型における各有限要素の前記材料特性マトリックス[k]から材料特性係数を割り出す段階と、
割り出した前記材料特性係数を既知の材料の材料特性係数と比較して、割り出した前記材料特性係数を前記既知の材料の材料特性係数に一致させる段階と、
一致させた前記材料特性係数に基づいて製造パラメータを決定する段階と、
決定した前記製造パラメータに従って前記目的物を製造する段階と、を含む方法。
・・・」

イ.第13ページ下から8行?第14ページ第6行
「本願発明の方法論は、製造パラメータを変えることができる任意の製造技術と共に利用できる。例えば、編組機(braider)を使用する編組物プロセスを使用して繊維複合物を製造することができる。繊維複合材料は、自動車のボディパネル、航空機、人工器官のインプラント、ゴルフクラブのシャフト、テニスラケット、自転車のフレーム、及び釣り竿のような構成要素のための構造材料としての多様な用途に用いられている。これらの繊維複合材料は、例えば、金属材料の強度と等しいかあるいは金属材料の強度を越えた高い強度を提供している。同時に、繊維複合材料は、その重量が軽く、改善された他の機能的特性を備えている。
編組機ベッド及び/またはマンドレルの速度、繊維の厚さ、及び繊維に加えられる張力のようなパラメータを制御することにより、繊維複合材料の剛性特性を変えることができる。複合材料の制御された編組物(braiding)のために設計された編組機の一例が、Skeltonに付与された米国特許第4、909、127に示されている。3次元の織布が、また、Sutoに付与された米国特許第4、975、262で説明されている。」

ウ.第24ページ下から4行?第25ページ第5行
「図8は、本発明の原理体系を実行するために用いることができる種々の因子的モジュールを示す。計算機援用設計(CAD)モジュール801は、幾何学的モデル定義を生じさせる3次元グラフィックスソフトウェアプログラムである。かような幾何学的モデル定義は、3次元的座標システムにおいて目的物のデザインを精密に配する座標点を含む。これは、用いるグラフィックソフトウェアパッケージ、例えばX,Y,Z座標点及び必要に応じて適当な位置ベクトル(locating vectors)により与えられる。3次元グラフィックソフトウェアパッケージは、グラフィックプログラムのデータベースにある特定の座標点を規定するための適当なデータ構造を利用する。」

上記記載を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ポテンシャル{x}が使用環境下のフィールド{f}に応じて発生する目的物の製造方法において、
三次元の複数の有限要素の中から目的物の幾何学的模型を設計し、上記各有限要素間の境界に、前記フィールド{f}及びポテンシャル{x}の夫々の値を特定できる結節点を設定して目的物のコンピュータ数学模型を生成する段階と、
関係式{f}=[k] {x}の解に基づいて材料特性係数のマトリックス[k] を算出する段階と、
コンピュータを使用して数学的に作製した模型内の各々の有限要素に対して、上記マトリックス[k]から材料特性係数を割り出す段階と、
割り出した材料の材料特性係数と、既知の材料における材料特性係数とを一致させるために、割り出した材料の材料特性係数と、既知の材料における材料特性係数とを比較する段階と、
一致した材料特性係数に基づいて、目的物の上記有限要素の各々のボリュームエレメントに対して、製造装置を制御するための制御パラメータを決定する段階と、
決定された制御パラメータに応じて、上記目的物を製造するための製造設備を制御する段階とを含み、
材料特性係数が複合材料に対するものであり、上記制御パラメータは複合製造装置を制御するためのパラメータを含み、その製造装置の制御は複合製造装置の制御を含む製造方法。」

第6.対比・判断
刊行物1発明の「ポテンシャル{x}」、「フィールド{f}」、「目的物」、「複数の」、「模型」、「設計し」、「夫々の値」、「段階」、「材料特性係数」、「割り出す」、「材料」は、それぞれ本願発明の「応答[x]」、「物理的フィールド[f]」、「対象物」、「多くの」、「モデル」、「分離し」、「各数値」、「ステップ」、「物性係数」、「抽出する」、「素材」に相当する。
そして、刊行物1発明の「ポテンシャル{x}が使用環境下のフィールド{f}に応じて発生する目的物の製造方法」、「コンピュータを使用して数学的に作製した模型」は、それぞれ本願発明の「対象物が物理的フィールド[f]の影響下にあるときに、該対象物が応答[x]を有する対象物の製造方法」、「コンピュータ化された数学モデル」に相当する。
また、刊行物1発明の「各有限要素間の境界に、前記フィールド[f]及びポテンシャル{x}の夫々の値を特定できる結節点を設定して」は、本願発明の「各有限要素に関する物理的フィールド[f]及び応答[x]の各数値を特定することによって」に含まれる。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「対象物が物理的フィールド[f]の影響下にあるときに、該対象物が応答[x]を有する対象物の製造方法において、
三次元の多くの有限要素の中から対象物の幾何学的モデルを分離し、上記各有限要素に関する物理的フィールド[f]及び応答[x]の各数値を特定することによって対象物のコンピュータ数学モデルを生成するステップと、
関係式[f]=[k][x]の解に基づいて物性係数のマトリックス[k] を算出するステップと、
コンピュータ化された数学モデル内の各々の有限要素に対して、上記マトリックス[k]から物性係数を抽出するステップと、
抽出された素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを一致させるために、抽出され素材の物性係数と、既知の素材における物性係数とを比較するステップと、
一致した物性係数に基づいて、対象物の上記有限要素の各々のボリュームエレメントに対して、製造装置を制御するための制御パラメータを決定するステップと、
決定された制御パラメータに応じて、上記対象物を製造するための製造設備を制御するステップとを含み、
物性係数が複合素材に対するものであり、上記制御パラメータは複合製造装置を制御するためのパラメータを含み、その製造装置の制御は複合製造装置の制御を含む製造方法。」

そして、以下の点で相違する。
本願発明は「複合素材は、樹脂マトリクスと、上記樹脂マトリクス中に組み込まれ、組織化されたファイバと、上記ファイバと異なり、上記樹脂マトリクス中に導入され、上記複合素材をモディファイするための不純物とを含み、上記樹脂マトリクス内に導入された不純物の量は、上記対象物のそれぞれのボリュームエレメントに対してそれぞれ調整可能に制御される」ものであるが、刊行物1発明は、明らかでない点。

なお、かかる一致点、相違点については、請求人が提出した意見書(前記第3.)の主張に即したものである。

相違点について、検討する。
樹脂マトリクス中に組織化されたファイバを組み込むものは、拒絶理由で引用した刊行物2?4、新たに引用する特表昭61-501616号公報の第3ページ右下欄第9?11行、特開平11-217267号公報の段落0013にみられるごとく周知であり、これにより強度の向上が期待できるものである。
樹脂マトリクス中に不純物を導入するものは、新たに引用する特開平10-33657号公報の段落0086?0087、特表平7-503869号公報の第3ページ右下欄第2行?第4ページ左上欄第7行にみられるごとく周知であり、これにより機能がモディファイされるものである。
したがって、必要とされる機能を実現するため、組織化されたファイバ、不純物を樹脂マトリクス中に加えることは、設計的事項にすぎず、その量を調整可能に制御することは、当然なすべきことである。
よって、かかる相違点は、格別なものとは認められない。

請求人は、前記意見書において、「各刊行物2ないし4の各記載は、本願発明と明らかに技術分野が異なる」旨、主張する。
しかし、請求項1の記載上、本願発明は「複合素材の製造方法」であり、その意味で「技術分野」は共通している。仮に「利用分野」の相違を主張する意図であるとしても、新たに引用した各刊行物にみられるごとく、本願発明の利用分野においても、周知である。
よって、請求人の主張は採用できない。

第7.むすび
本願発明は、刊行物1発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-07 
結審通知日 2009-01-13 
審決日 2009-01-27 
出願番号 特願2001-519345(P2001-519345)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 佐々木 一浩
菅澤 洋二
発明の名称 製造方法  
代理人 原 謙三  

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