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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q |
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管理番号 | 1198654 |
審判番号 | 不服2005-10281 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-06-02 |
確定日 | 2009-06-08 |
事件の表示 | 特願2000-134766「金融処理システム,金融処理システムのシステム処理方法,及び,そのためのプログラムを記録した記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月16日出願公開,特開2001-319058〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成12年5月8日の特許出願であって,平成16年12月24日付けで拒絶理由が通知され,平成17年3月2日に手続補正書及び意見書が提出され,平成17年5月6日付けで拒絶査定がされ,この拒絶査定に対し,平成17年6月2日に審判の請求がされたものである。 2 本願発明 (1)平成17年3月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載によれば,本願の請求項は1?7から成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,以下のとおりである。 「複数のユーザと金融機関との間でネットワークを介して金融に関する取引を行う金融処理システムであって, ユーザが自らの口座で金融に関する取引を行う場合における,その金融に関する取引の限度額を,各口座に対応付けて保持する,限度額保持手段と, ユーザが金融に関する取引の前記限度額を,ネットワークを介して変更する場合に,限度額を変更する口座と変更後の限度額とを取得することにより,限度額の変更を受け付ける,限度額変更受付手段と, 前記限度額保持手段に保持されている,前記限度額変更受付手段で受け付けられた前記口座の金融に関する取引の限度額を,一定期間経過後に,前記限度額変更受付手段で受け付けられた前記変更後の限度額とする,限度額変更実行手段と, を備えることを特徴とする金融処理システム。」 (2)なお,本願明細書には,次の記載がある。 ア 発明の課題等について ・「【発明の属する技術分野】本発明は,金融処理システム,金融処理システムのシステム処理方法,及び,そのためのプログラムを記録した記録媒体に関する。」(段落【0001】) ・「【従来の技術】インターネット等のネットワークを用いてユーザが金融機関に振込依頼をすることができるようになってきている。すなわち,銀行等の金融機関の店舗にわざわざ出向かなくとも,情報処理端末から振込依頼をすることにより,あるユーザの口座から別のユーザの口座に,指定金額を振り込むことができる。このような仕組みをネットワークバンキングと呼んでいる。」(段落【0002】) ・「このネットワークバンキングにより,ユーザが振込をすることのできる振込額には,制限が設けられている場合が多い。このような制限は,例えば,1つの口座から1日の間に振込をすることのできる振込限度額を設定したり,1つのネットワークバンキングIDを用いて1日の間に振込をすることのできる振込限度額を設定したりすることにより,行われている。このように振込限度額に制限を設けることにより,ネットワークバンキングIDとパスワードを不正入手して不正を働こうとする者がいた場合に,その被害額を最小限に抑えることができるようになる。」(段落【0003】) ・「この振込限度額の設定は,ユーザの希望する振込限度額を申込書に記入し,事前に銀行等の金融機関に提出する必要があった。また,この振込限度額の変更は,再度,ユーザの希望する振込限度額を変更申込書に記入し,銀行等の金融機関に提出する必要があった。」(段落【0004】) ・「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,ユーザの利便性向上を図るためには,振込限度額は,ユーザが情報処理端末を用いて,変更することができるようになっていることが望ましい。ところが,情報処理端末を用いてネットワークバンキングの振込限度額を自由に変更することができるとすると,ネットワークバンキングのIDやパスワードを不正入手して不正を働こうとする者も,ネットワークバンキングの振込限度額を変更できることとなってしまう。このため,このようにしてしまうと,ネットワークバンキングに振込限度額を設けた意味が失われてしまうという問題が生ずる。」(段落【0005】) ・「本発明は,前記課題に鑑みてなされたものであり,ネットワークバンキングを実現する金融処理システムにおいて,ユーザが情報処理端末を用いて振込限度額の変更をすることができるようにするとともに,不正を働こうとする者に対してユーザの安全性を確保した金融処理システムを提供することを目的とする。すなわち,ユーザの利便性とセキュリティーの確保を両立させた金融処理システムを提供することを目的とする。」(段落【0006】) イ 発明の実施の形態に関連して ・「以上のように,本実施形態に係る金融処理システム70によれば,ユーザの情報処理端末10から振込限度額の変更依頼を受け付けたとしても,一定期間経過後にその変更依頼を実際の振込処理に反映させることとした。このため,ネットワークバンキングIDとログインパスワードと確認用パスワードとを不正に入手し,他人の口座から自分の口座に多額の振り込みをする等の不正を働こうとする者が,振込限度額を変更したとしても,直ちにはその変更後の振込限度額で振込処理をすることはできなくなる。このため,ネットワークバンキングのIDとログインパスワードと確認用パスワードとを不正に入手されたとしても,ユーザの被害額を最小限に抑えることができる。」(段落【0034】) ・「また,振込限度額の変更を受け付けた場合には,金融処理システム70は電子メールサーバ35からユーザが登録している電子メールアドレスに,振込限度額の変更を受け付けた旨の確認用の電子メールを送信することとしたので,振込限度額の変更が実際に反映される前にユーザがその不正に気づけば,そのことを金融機関に連絡すること等により,不正な振込処理を未然に防ぐことも可能になる。」(段落【0035】) ウ 発明の効果について ・「【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,金融に関する取引の限度額の変更をユーザがネットワークを介して行った場合に,その変更を直ちに金融処理システムに反映せずに,一定期間経過後に反映させることとしたので,不正を働こうとする者が振込限度額を変更して他人の口座から自分の口座に多額の振込を直ちにすることができなくなるなど,金融に関する取引の限度額を,不正に変更し,従来の限度額以上の取引を行うことを防止することができる。」(段落【0059】) 2 引用刊行物 ・特開平5-28343号公報(以下「引用例1」という。) ・特開平8-339407号公報(以下「引用例2」という。) 3 引用例1の記載内容と引用発明 (1)原査定の拒絶理由に引用された,本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である,引用例1(特開平5-28343号公報)には,図1?5とともに,次の記載がある(下線は当審で付加,以下,同じ)。 ア 発明の課題等について ・「【産業上の利用分野】現金の支払を行う現金自動取引装置に関する。 【従来の技術】従来の装置は銀行側が限度額を設定していた。 【発明が解決しようとする課題】従来の技術はカード盗難にあった場合,暗証番号の見当がつくと口座の残高を全額引き出すことが可能であり被害額が大きくなる可能性があった。 又毎月のローン等で一定額を口座内に保持しておかなければならない状態でも,本人がローン額を忘れていて,引き出し過ぎたりしていた事が多々あった。 本発明は,前もって設定しておいた残高は,引き出す事ができなくなる様にし,上記問題点を解決する事を目的とする。」(段落【0001】?【0005】) イ 実施例について ・「【実施例】以下,本発明の一実施例を図1から図5により説明する。 図1は,本発明を適用した現金自動取引装置の外観を示す。 図2は,本発明を適用した現金自動取引装置の装置構成とセンタの口座ファイル構成を示す。図2において,現金自動取引装置は回線制御40及び回線90によりセンタの口座ファイルをアクセスする。口座ファイルには口座番号81,残高の下限限度額設定暗証番号82,限度額83,口座金額84等,必要な情報があり,必要に応じて更新される。」(段落【0009】?【0011】) ・「次に図3について口座の残高の下限限度額を個人で設定する動作を説明する。お客は限度額を設定したい場合,通常の払戻や残高照会と同じように現金自動取引装置の取引選択手段により限度額設定処理を選択(ステップ100),カ-ド挿入(101)を行う。挿入されたカ-ドはカ-ドチェック(102)により,残高最低限度額設定可能なカ-ドか判定し,可能な場合限度額設定用の暗証入力(103)を行い,不可能な場合カ-ドを返却し処理終了する。暗証入力後は限度額の入力を公知技術の引出し金額入力と同じ手順で入力する(104)。 次に限度額,限度額設定用暗証番号口座番号等必要デ-タをセンタへ送信する(105)。センタでは限度額設定用暗証番号を送信デ-タと口座ファイルによりチェックを行い(106),チェックOKの場合口座ファイルの限度額を送信デ-タの限度額に変更する(107)。そして明細書に,設定した限度額を印字し(108),お客にカ-ド及び明細書を渡して(109)処理終了する。(106)のチェックにてNGの場合,限度額設定用暗証の間違い回数をカウントしておき,規定回数以内か判定して(111),規定回数以内であれば暗証再入力(110),規定回数になったらカ-ドを限度額設定不可状態にして(112),カ-ド返却する(113)。」(段落【0012】,【0013】) ・「次に図4,図5を用いて限度額による引き出し制限の動作を説明する。 図4は限度額を設定時の引出し可能額,不可能である。例えば口座金額84が100万円,限度額83が60万円の時,引出し不可能金額aは60万円,引出し可能金額bは口座金額84から限度額83を差し引いた金額の40万円になる。 又,上記口座により50万円引きだそうとした時の引出し制限動作を図5により説明する。」(段落【0014】) ・「カ-ド挿入(200),暗証入力(201)を行い,金額入力(202)で50万円指定する。入力金額確認後センタは口座金額-限度額≧引出し要求金額の不等式を満たすかチェック(203)を行い,現金自動取引装置側センタの回答が限度額オ-バか判定する(204),同口座は40万円まで引き出し可能なので10万円限度額オ-バする。オ-バの場合はオ-バ金額を表示し(209),引出し可能な40万円分紙幣計数を行い(210),限度額,オ-バ金額,注意メッセ-ジ,その他通常の明細内容を印字して(211),カ-ド,明細放出(207)を行いオ-バした事を利用者に通知する。そして引出し可能分の40万円を紙幣放出(208)して処理終了する。又引き出し不可能金額の60万円を引き出したい場合,図3により説明した手順で限度額を変更すれば引出すことが可能である。」(段落【0016】) ・「以上本実施例によれば,限度額を個人が設定できるようにする事により,限度額分を引きだす事が難しくなり,カ-ド犯罪時のセキュリティ向上及び使い勝手の良い現金自動機の提供に効果がある。」(段落【0017】) ウ 発明の効果について ・「【発明の効果】本発明によれば,口座ごとに限度額を利用者が設定でき,限度額以下は引出す事が難しくなるので,カ-ド盗難犯罪時のセキュリティ向上に効果がある。 また,口座ごとに限度額を利用者が設定できるので,同口座内に一定金額を保持させておきたい場合引出し過ぎる事が無くなるので,使い勝手がよくなるなどの効果がある。」(段落【0018】,【0019】) (2)引用発明 上記イにおける,「図2において,現金自動取引装置は回線制御40及び回線90によりセンタの口座ファイルをアクセスする。」(段落【0011】)との記載から,引用例1に記載のものにおいても,利用者(ユーザ)とセンタ(金融機関)との間は,回線(ネットワーク)で接続されていることが分かる。また,これと併せて,「暗証入力後は限度額の入力を公知技術の引出し金額入力と同じ手順で入力する。」(段落【0012】),「限度額,限度額設定用暗証番号口座番号等必要デ-タをセンタへ送信する。センタでは限度額設定用暗証番号を送信デ-タと口座ファイルによりチェックを行い,チェックOKの場合口座ファイルの限度額を送信デ-タの限度額に変更する。」(段落【0013】)との記載から,取引限度額の変更を行うために,変更する口座と変更後の取引限度額の情報が,センタ(金融機関)に送信されること,及び,取引限度額の情報が,利用者の口座と対応づけて保持されることは明らかである。 そうすると,上記(1)ア?ウの摘記事項から,引用例1には, 「複数の利用者(ユーザ)とセンタ(金融機関)との間で回線(ネットワーク)を介して金融に関する取引を行う金融処理システムであって, 利用者が自らの口座で金融取引をする場合の,限度額を,各口座に対応づけて保持する手段と, 利用者が,自らの操作により,口座ごとに限度額を設定・変更することができ, その場合,限度額を変更する口座情報と変更後の限度額の情報を受け付けて,保持されている限度額を変更するようになされたもの。」(以下「引用発明」という。) が記載されているといえる。 4 対比 (1)引用発明の実施例では,「限度額」は,金融取引を行う場合の口座の残高の下限限度額とされているのに対し,本願発明の実施例では,「限度額」は,口座の振込限度額とされている。しかし,いずれにしても,不正使用時の被害を抑制することを目的とするものであり,金融に関する取引を行う場合における,その金融に関する限度額であるという点で,共通する。 (2)引用発明においても,限度額を変更する口座の情報と変更後の限度額を受け付けるようになされているのであるから,引用発明が,本願発明の「限度額変更受付手段」に相当する構成を備えていることは,明らかである。 (3)そうすると,本願発明と引用発明の一致点,相違点は,次のとおりと認められる。 ア 一致点 複数のユーザと金融機関との間でネットワークを介して金融に関する取引を行う金融処理システムであって, ユーザが自らの口座で金融に関する取引を行う場合における,その金融に関する取引の限度額を,各口座に対応付けて保持する,限度額保持手段と, ユーザが金融に関する取引の前記限度額を,ネットワークを介して変更する場合に,限度額を変更する口座と変更後の限度額とを取得することにより,限度額の変更を受け付ける,限度額変更受付手段と, 前記限度額保持手段に保持されている,前記限度額変更受付手段で受け付けられた前記口座の金融に関する取引の限度額を,前記限度額変更受付手段で受け付けられた前記変更後の限度額とする手段と, を備えることを特徴とする金融処理システムである点。 イ 相違点 本願発明は,限度額変更受付手段で受け付けられた,口座の金融に関する取引の限度額を,「一定期間経過後に,限度額変更受付手段で受け付けられた変更後の限度額とする,限度額変更実行手段」を備えているのに対し,引用発明は,このような限度額変更実行手段を備えていない点。 5 判断 (1)上記相違点についての判断に先立ち,引用例2の記載内容を確認する。 ア 原査定の拒絶理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,引用例2(特開平8-339407号公報)には,クレジットカードによるトランザクション(取引)において,取引条件があらかじめ定められた条件に出会った時の処理について,次の記載がある。 ・「<第1の説明的実施例>図7は本発明の或る種の説明的な実施例にしたがっているフロー・チャートを示しており,クレジット・カードの所有者からの承認を受信するため,あるいはカード所有者によって起動されたクレジット・カードのトランザクションについて,クレジット・カードの所有者に警告を与えるために図1の通信システムの異なる要素によって実行されるプログラムされた命令の概要を示している。図7に示されているプロセスは検証用データベース106がクレジット・カード番号に対する検証要求を受信した時,ステップ701の中で起動される。上記のように,図2に示されているようなデータ・メッセージの形式で承認のための要求が受信されてもよい。クレジット・カード番号を受信すると,検証用データベース106は検索キーとして,その受信されたクレジット・カード番号を使ってそのクレジット・カード番号に対するプロファイルを検索しようとする。ステップ702の中で決定されるように,クレジット・カード番号に対するプロファイルが検証用データベースの中に無かった場合,検証用データベースは通信ネットワーク102を経由して「認可されていないトランザクション」のメッセージをカード読取り器101へ戻す。検証用データベース106がそのカード番号に対するプロファイルを検出できた時,そのプロファイルはステップ704の中で解析され,要求されたクレジット金額またはトランザクションのタイプがたとえば,承認条件に対する警告または要求をトリガするかどうかを決定する。そのような条件がトリガされなかった場合,検証用データベース106は通常の方法で検証プロセスを進める。そうでなかった場合,ステップ706において,検証用データベース106はそのカード所有者があらかじめ定められた条件に出会った時に警告されるだけであるかどうかを確かめる。そうであった場合,検証用データベース106はそのプロファイルからそのカード所有者の通信アドレスを検索し,それに対して警告メッセージがステップ707に示されているように送信される。その後,検証用データベース106は通常の方法で検証プロセスを進める。」(段落【0030】) ・「検証用データベース106によって検索されたプロファイルが,そのクレジット・カードのトランザクション(カード保持者によって要求されているもののような)をそのカードの所有者が承認すべきであることを示していた時,検証用データベース106はステップ708に示されているように,カード所有者に対して送信するための承認メッセージに対する要求を公式化する(図4および図5の中の適切なエントリを使って)。前に説明したように,承認メッセージに対する要求は電話の呼出しまたはポケットベル・メッセージの形式で配送することができる。メッセージの送信後,検証用データベースはカード所有者からの応答を待つ。検証用データベースがステップ709において,あらかじめ定められた時間が経過した後に応答が返って来なかったことを知ると,検証用データベース106はステップ711において,その要求されたクレジットの金額が無回答クレジットのしきい値を超過しているかどうかを評価する。前に説明されているように,無回答クレジットのしきい値は図1の通信システムによってはそのクレジット・カードの所有者に連絡できない時に,クレジット・カードのトランザクションに対して承認できるクレジットの最高金額を記録している,カード番号に対するプロファイルの中のフィールドである。ステップ711の中で決定されるように,要求されたクレジットの金額が無回答クレジットのしきい値を超えていた場合,検証用データベースはカード読取り器101に対して「認可されていないトランザクション」メッセージを返す。要求されたクレジットの金額が無回答クレジットのしきい値を超えていなかった場合,そのプロファイルの中のトランザクション・カウンタのフィールドの内容が無回答トランザクションのしきい値に対して比較され,このしきい値を超過していたかどうかが決定される。超過していた場合,検証用データベース106はステップ705に示されているように,カード読取り器101に対して無効カード・メッセージを返す。無回答のしきい値がいずれも超過されていなかった場合,検証用データベース106はステップ703に示されているように,通常の方法で検証プロセスを終了する。」(段落【0031】) イ 上記によれば,引用例2には,第1の説明的実施例として,クレジットカードによる取引において,要求されたクレジット金額またはトランザクションのタイプが,あらかじめ設定された承認条件を超えた場合,カード保持者にメール等で連絡をし,所定時間経過後に返答がなかったときは,要求されたクレジット金額が無回答クレジットのしきい値を超えているかどうかを調べ,超えていない場合は,所定の処理を行うようにしたシステムが開示されているといえる。 そして,このようにしたのは,カード保持者による承認が必要な取引が発生した場合に,カード保持者に連絡するために所定時間,処理を停止するが,無回答の場合であっても,その取引の内容によって,所定時間の経過後に定められた処理を行うことにより,クレジットカード使用の監視機能を一定程度保持した上で,柔軟な利用を可能とするためと理解できる。 (2)相違点についての判断 ア 上記4(3)イで認定したように,本願発明は,限度額変更受付手段で受け付けられた,口座の金融に関する取引の限度額を,「一定期間経過後に,限度額変更受付手段で受け付けられた変更後の限度額とする,限度額変更実行手段」を備えている点で,このような限度額変更実行手段を備えていない引用発明と相違する。 引用例1における,「又引き出し不可能金額の60万円を引き出したい場合,図3により説明した手順で限度額を変更すれば引出すことが可能である。」(段落【0016】の末文)との記載によれば,引用発明の実施例では,利用者が限度額の変更の操作をし,これをセンタが受け付けると,直ちに限度額の変更が実行されるものと理解することができる。 イ しかし,一般に,通信回線等を介して取引を行う場合に,それが重要な内容のものであるときは,セキュリティーの確保の観点から,確認等のための期間をおいた上で,取引を実行することは,必要に応じて行われていることである。 実際,引用例2には,上記(1)イでみたように,クレジットカードにより取引を行うものにおいて,その内容が,カード保持者の承認が必要なものである場合は,メール等による問い合わせを行い,利用者の便宜も考慮して,所定時間内における回答の有無に応じて,所定時間経過後の処理を行うことが記載されている。 そして,技術的にみても,限度額の変更を一定期間経過後に実行させることは,単に変更後の限度額を反映させることを一定期間遅延させるだけであり,何の困難もないものである。 そうすると,引用発明において,限度額の変更を直ちに実行する代わりに,一定期間をおいて,一定期間経過後に,限度額の変更を実行するようにすることは,要求されるセキュリティーの程度や利用者の利便性等を考慮して,当業者が容易になし得る設計変更の範囲内のものといえるから,上記の相違点に係る構成は,当業者が容易に想到することができたものと判断される。 ウ したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 エ 審判請求人は,審判請求の理由において,引用例2で所定時間の経過を待つのは,応答を返すまでに,それ相応の時間が必要となるためであり,この所定時間は必然的に生じる待ち時間であって,本願発明のように,一定期間の経過後に限度額の変更を実行することにより,不正な処理による被害額を最小限に食い止めることを目的としたもとは,根本的に異なると主張している。 しかし,一定期間(所定時間)の経過を待って,その期間の経過後に次の処理に進むという点で両者間に相違はなく,引用発明においても,一定期間,限度額の変更の実行を遅らせることにより,一定程度,不正な処理による被害を抑制できるであろうことは,当業者が容易に認識できることである。 確かに,引用発明の実施例では,時間をおかずに直ちに限度額の変更を実行するようになされている。しかし,上記イで検討したように,このことは,引用発明を,一定期間の経過後に限度額の変更を実行するように設計変更することの妨げにならない。 6 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2の記載事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり,審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-25 |
結審通知日 | 2009-03-27 |
審決日 | 2009-04-20 |
出願番号 | 特願2000-134766(P2000-134766) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小山 満 |
特許庁審判長 |
相田 義明 |
特許庁審判官 |
松田 直也 清田 健一 |
発明の名称 | 金融処理システム、金融処理システムのシステム処理方法、及び、そのためのプログラムを記録した記録媒体 |
代理人 | 橘谷 英俊 |
代理人 | 関根 毅 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 佐藤 泰和 |