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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E04B |
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管理番号 | 1198755 |
判定請求番号 | 判定2009-600011 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2009-02-13 |
確定日 | 2009-06-01 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4037894号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「コンクリートスラブ用フックアンカー及びこれを用いたコンクリートスラブ施工方法」は、特許第4037894号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求人である有限会社トレードジュンは、判定請求書のイ号写真及びイ号カタログに示す商品名「タッチアンカー」(以下「イ号物件」という)が、特許第4037894号発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。 第2 本件特許発明 本件特許第4037894号の発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。 「【請求項1】 A.型枠板(2)に並列した埋込体(10)を用いてコンクリートスラブを施工する際に、上端筋(4x,4y)の上方への移動を阻止し、該上端筋(4x,4y)より上側部分のコンクリート(C)のかぶり寸法を規制するコンクリートスラブ用フックアンカー(20)であって、 B.前記上端筋(4x,4y)にかけるために上部がフック状に折り曲げられ、下部に螺溝が形成されたフックボルト(21)と、 C.前記フックボルト(21)を、その上方への突出量を調節自在に連結したターンバックル(22)と、 D.円筒部(23a)の上面から上方へ徐々に拡がるようにウェッジ片(23b)が形成された、前記型枠板(2)の取付孔(2a)に挿通させるアンカー部材(23)と、 E.前記アンカー部材(23)の円筒部(23a)の下方から挿通され、挿通した該アンカー部材(23)の上端から突出した部分に固定用ナット(27)が螺合され、かつ、前記ターンバックル(22)の貫通孔(22b)に連結されるアンカーボルト(24)と、から成る、ことを特徴とするコンクリートスラブ用フックアンカー。」 第3 イ号物件 請求人が提出した判定請求書中の「6.マル4 イ号の説明」の欄、イ号写真及びイ号カタログによれば、イ号物件は、次のとおり特定される。 「【イ号物件】 a.型枠板に並列した埋込体を用いてコンクリートスラブを施工する際に、上端筋の上方への移動を阻止し、該上端筋より上側部分のコンクリートのかぶり寸法を規制するコンクリートスラブ用フックアンカーであって、 b.前記上端筋にかけるために上部がフック状に折り曲げられ、下部に螺溝が形成されたフックボルトと、 c.前記フックボルトを、その上方への突出量を調節自在に連結したターンバックルと、 d.円筒状で、上部に軸方向の割れ目が形成されている先端差込部材と、該先端差込部材の上方に連続して配備され、基部から上方へ徐々に広がる複数枚のウィングが形成された傘座とを有し、型枠板に形成された貫通孔へ突き抜け可能とされたアンカー部材と、 e.前記アンカー部材の先端差込部材の下方から挿通され、挿通した該アンカー部材の上端から突出した部分に固定用ナットが螺合され、かつ、前記ターンバックルの貫通孔に連結されるアンカーボルトと、から成るコンクリートスラブ用フックアンカー。」 なお、請求人は、イ号物件の構成dは、「型枠に形成された貫通孔へ突き抜け可能とされたアンカー部材」であると主張するが、アンカー部材の形状・構造が特定されていない。そこで、イ号写真及びイ号カタログに基づき、上記の通り特定した。 第4 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、判定請求書2頁1行乃至10頁5行において、次の理由によりイ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張している。 (1)イ号物件の構成a?c、eは、本件特許の構成要件A?C、Eを充足している。 (2)本件特許発明のアンカー部材は、イ号物件のように先端差込部材及び傘座のように分離した構造としては記載されていないが、本件特許発明はアンカー部材が特に一つの部材からなるようには限定されておらず、イ号物件の先端差込部材および傘座は、本件特許発明のアンカー部材の一態様であり、かかる点に実質的な差異はない。 請求人は、さらに、本件特許発明の構成要件Dとイ号物件の構成dに、仮に差異があるとしても、イ号物件は本件特許発明と均等の範囲に含まれる旨主張し、均等である理由として概略次のように主張している。 (i)本件特許発明の本質的部分は、「フックボルトの上方への突出量を容易に調節できること」にあり、この突出量の調節は、フックボルトの下部に形成した螺溝の、ターンバックルへの螺合量を変更することによって行われる。したがって、アンカー部材は、本件特許発明の本質的部分ではない。 (ii)被請求人が請求人の警告書(甲第3号証)に対して提出した回答書(甲第5号証)で主張する、イ号物件の1)過大な引張力がアンカー部材に作用した場合にも、傘座と従ウイングが設けられた先端差込部材が破損する虞がない、2)引張力により先端差込部材が効果的に型枠に押し付けられるため、鉄筋保持具を解して鉄筋を強固に型枠に締結することができる、3)型枠への取付後にガタツキが生じることがないようにできる、という効果が、イ号物件のアンカー部材の構造で奏することの理由になるとは到底考えられず、また、イ号物件のアンカー部材が抜け止めのためのカエシとして機能する点において、本件特許発明のアンカー部材と同一の作用効果を奏するものと考えることができる。よって、イ号物件は、本件特許発明と同一目的・作用効果を有するといえる。 (iii)イ号物件のアンカー部材が傘座と先端差込部材とからなるとしても、かかる変更は単なる設計的変更事項であり、また、本件特許発明と比して特段の効果を奏するものではないため、当業者が置換することは容易であるといえる。 (iv)「フックボルトを、その上方への突出量を調節自在に連結したターンバックル」を有するイ号物件は、公知文献等より容易に推考し得たものではない。 (v)本件特許発明の審査経緯において、アンカー部材が特に一つの部材からなるようには限定していない。 2.被請求人の主張 被請求人は、判定答弁書において、次の理由によりイ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。 (1)イ号物件の構成a?cが、本件特許発明の構成要件A?Cと同じものであるとすることに異論はない。なお、これらの点は、本件特許発明の出願時、公知の技術であり、構成及び作用効果が同じものである。 (2)イ号物件の構成dは本件特許発明の構成要件Dと相違しており、また、イ号物件の構成eには、構成dに基づく構成要件Eとの相違点が存在する。 (3)イ号物件の構成dにより、1)型枠の貫通孔に押し込んだ後の過大な引張力がアンカー部材に導入される場合にも、アンカー部材の傘座と差込部材が支持不能な状態に破損する虞はなく、鉄筋保持作業の作業性が向上する、2)前記引張力により先端差込部材が効果的に型枠に押し付けられるため、イ号物件の鉄筋保持具を介して鉄筋を強固に型枠に締結することができる、3)型枠への取付後にガタツキを生じることがないようにできる、という効果が生じ、本件特許発明とイ号物件におけるアンカー部材は、その構成及び作用効果が全く異なる。なお、イ号物件の先端差込部材及び傘座は、それぞれ単独では本件特許発明のアンカー部材に該当せず、両者が組み合わさることで初めてボルトを型枠に強固に固定することになるものである。 被請求人は、さらに、請求人の均等についての主張について、以下のように答弁している。 (i)本件特許発明の構成要件Cが発明の本質的部分であるとは言えない。 (ii)本件特許発明の構成要件Cのアンカー部材と、イ号物件の構成cのアンカー部材とは、同一の作用効果は充足せず、作用効果が相違する部分まで、具体的に記載された構成要件Cの記載を無視して、この構成とはまったく異なる構成の範囲まで権利を拡張するのは認められない。 (iii)構成の相違点により格段の効果を生じており、置換容易性は充足しない。 (iv)イ号物件は、アンカー部材のみ独自の構成により公知文献より容易推考したものではないが、他の構成要件、特に「ターンバックル」の部分については、甲第10号証や甲第14号証から容易推考されたものである。 (v)イ号物件の2つの構成部材「先端差込部材」と「傘座」は、本件特許発明のアンカー部材の各部とは構成が全く異なり、単に本件特許発明のアンカー部材を2つに分割したものではなく、また、先端差込部材と傘座が一体となった場合、本件特許発明のアンカー部材とは異なる作用効果を奏するものである。 第5 対比・判断 1.本件特許発明とイ号物件との対比 (1)イ号物件の構成a?cは、本件特許発明の構成要件A?Cを充足している。 (2)本件特許発明の構成要件Eとイ号物件の構成eを対比する。 アンカーボルトについて、本件特許発明の構成要件Eは、「アンカー部材の円筒部の下方から挿通され」たものであるのに対し、イ号物件の構成eは「アンカー部材の先端差込部の下方から挿通され」たものである点で文言上相違しているが、両者とも、アンカー部材の下方から挿通されたものである点で共通しており、イ号物件の構成eも、本件特許発明の構成要件Eを実質的に充足している。 (3)本件特許発明の構成要件Dとイ号物件の構成dを対比する。 アンカー部材について、本件特許発明の構成要件Dは「円筒部(23a)の上面から上方へ徐々に拡がるようにウェッジ片(23b)が形成され」ているものであるのに対し、イ号物件の構成dは、「円筒状で、上部に軸方向の割れ目が形成されている先端差込部材と、該先端差込部材の上方に連続して配備され、基部から上方へ徐々に広がる複数枚のウィングが形成された傘座」からなるものであり、構成要件Dのような円筒部の上面から上方へ徐々に広がるウェッジ片が形成された形状のアンカー部材を有しておらず、イ号物件の構成dは本件特許発明の構成要件Dを充足していない。 ここで、請求人は、本件特許発明はアンカー部材が特に一つの部材からなるようには限定されておらず、イ号物件の先端差込部材および傘座は、本件特許発明のアンカー部材の一態様であり、かかる点に実質的な差異はない旨主張しているが、本件特許発明の構成要件Dの「円筒部(23a)の上面から・・・ウェッジ片(23b)が形成された」という記載、及び円筒部とウェッジ片が別部材からなる旨の記載や示唆が全くなされていない発明の詳細な説明等を勘案すると、本件特許発明の構成要件Dは、アンカー部材が複数の部材からなるイ号物件の構成dを含むと解することはできない。 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dを充足していないから、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。 2.均等の判断 最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。 <積極的要件> (1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。 (2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。 (3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。 <消極的要件> (4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。 (5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。 そこで、イ号物件が、前記要件を満たすか否かについて検討する。 本件特許発明とイ号物件は、上記「第5 1.(3)」で検討したように、アンカー部材の構造が異なっている。イ号物件は、アンカー部材が傘座と先端差込部材からなっていることから、型枠板の取付孔への押し込み時には取付孔を通る外径に萎み変形可能で押し込み後に、傘座の先導ウイングは復元して拡開可能し、該先導ウイングに案内されて先端差込部材の従ウイングが前記取付孔の径外方向に拡開して前記型枠板の外面に押し付けられるという作用を生じ、これにより、1)型枠の貫通孔に押し込んだ後の過大な引張力がアンカー部材に導入される場合にも、アンカー部材の傘座と差込部材が支持不能な状態に破損する虞はなく、鉄筋保持作業の作業性が向上する、2)前記引張力により先端差込部材が効果的に型枠に押し付けられるため、イ号物件の鉄筋保持具を介して鉄筋を強固に型枠に締結することができる、3)型枠への取付後にガタツキを生じることがないようにできる、という効果を奏するものと認められる。 一方、請求人は、これらの効果について、判定請求書8頁2?12行で、「そもそもアンカー部材の破損や大きな変形は素材や形状などから容易に回避できるものであり、イ号製品の・・・アンカー部材でなければ回避できないものではない。そればかりか本件特許発明のアンカー部材と比して、イ号のアンカー部材が強度的に優れているとは比較的薄肉に形成された傘座の構造から考えにくい。なおアンカー部材にはボイドの浮力以上の引張り力が働くことはほとんど考えられず、・・・被請求人の効果の主張は詭弁・・・。このことは・・・『円筒部の上面から上方へ徐々に広がるようにウェッジ片』が形成されているにもかかわらず、その破損などの不具合が報告されていないことからも明白である。」と主張しているが、イ号物件はアンカー部材の破損や大きな変形を、素材や形状で回避するのではなく、構造を工夫することにより回避したもので、その結果、比較的薄肉の傘座のみならず、先端差込部材と組み合わせた構造とすることにより、これらの効果を奏することとしたものであると考えることができる。また、不測の事態によりアンカー部材にボイドの浮力以上の引張力がかかることは十分考えられるし、本件特許発明のアンカー部材が実際に不具合が報告されていないことをもって、イ号物件の上記効果を否定する根拠にはなり得ない。よって、請求人の主張は採用できない。 よって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dと相違する構成dを有することにより、本件特許発明と比して格別の効果を奏するものであるとみることができ、イ号物件の構成dに係る部分は、イ号物件の製造時に当業者が容易に想到できたものであるとは言えない。 したがって、イ号物件は、均等の判断にあたって上記要件(3)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。 第6 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 |
別掲 |
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判定日 | 2009-05-20 |
出願番号 | 特願2006-271532(P2006-271532) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(E04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 聡、江成 克己、五十幡 直子 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
草野 顕子 伊波 猛 |
登録日 | 2007-11-09 |
登録番号 | 特許第4037894号(P4037894) |
発明の名称 | コンクリートスラブ用フックアンカー及びこれを用いたコンクリートスラブ施工方法 |
代理人 | 立川 登紀雄 |
代理人 | 玉利 冨二郎 |
代理人 | 武政 善昭 |
代理人 | 畑崎 昭 |