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審決分類 審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  G06Q
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06Q
管理番号 1199225
審判番号 無効2006-80123  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-07-03 
確定日 2009-06-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3733478号発明「旅行業向け会計処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3733478号に係る発明は、平成13年6月29日に出願され、平成17年10月28日に特許権の設定登録がされたものである。

(2)審判請求人(以下単に「請求人」という。)は、平成18年7月4日に、審判請求書を提出して、本件特許明細書の請求項1?4に係る発明の特許について特許無効の審判を請求し、これに対して審判被請求人(以下単に「被請求人」という。)は、平成18年10月23日付で答弁書及び訂正請求書を提出した。

(3)平成19年6月25日付で請求人から口頭審理陳述要領書及び上申書が提出された。

(4)平成19年7月26日付で請求人から書証等提出書が提出され、被請求人から口頭審理陳述要領書が提出された。

(5)平成19年7月26日に、特許庁審判廷において、証拠調べ及び口頭審理がなされ、無効理由が特許法第29条第1項柱書及び同法第36条第6項第2号違反であるとした。
また、請求項1?4に係る発明の構成要件について争点が整理され、請求人の主張の要点を、構成要件1B、1F、1H、1P、及び2Bとした。
さらに、被請求人提出の乙第1号証、乙第2号証は、単なる説明資料であると認められるので、それぞれ参考資料1、参考資料2とした。

(6)請求項1及び2に係る発明の構成要件1B、1F、1H、1P、及び2Bについて、平成19年9月7日付で請求人から上申書が提出され、これに対し、平成19年10月5日付で被請求人から上申書が提出された。

(7)平成19年11月19日付で訂正拒絶理由及び職権審理結果が通知され、これに対し、被請求人から平成19年12月25日付で意見書及び手続補正書が提出された。

2.訂正請求について
(1)訂正請求書の補正について
平成19年12月25日付の手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成18年10月23日付の訂正請求書(以下「訂正請求書」という。)における第1訂正事項?第5訂正事項から、その一部である第2訂正事項及び第3訂正事項を削除するものであるから、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第131条の2第1項の規定を満たしており、適法になされたものである。

(2)訂正事項の内容
本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件特許明細書」という。)の訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件補正により補正された訂正請求書によると、以下の事項をその訂正内容とするものである。
(a)請求項1及び請求項3に係る訂正
(a-1)第1訂正事項
第1訂正事項は、訂正請求書の内容からみて、以下のとおりである。
『「売上」及び「仕入」の同日計上』に「利益把握のために」を付加する訂正。
(a-2)第4訂正事項及び第5訂正事項
第4訂正事項及び第5訂正事項は、訂正請求書の内容からみて、以下のとおりである。
『借方に「未収金」としてそれぞれ計上する』を『貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する』に変更する訂正。
(b)発明の詳細な説明に係る訂正
発明の詳細な説明の訂正は、訂正請求書の内容からみて、以下のとおりである。
『段落【0010】に記載に関する上記(a-1)及び(a-2)と同じ内容の訂正。』

(3)訂正請求に関する当事者の主張
(a)請求人の主張の概要
平成19年6月25日付の口頭審理陳述書弁駁書及び平成19年9月7日付の上申書によれば、請求人は、以下の理由により、本件訂正は適法とは認められないので本件訂正を認めるべきでない旨主張している。
(a-1)第1訂正事項について
「利益把握のために」とする文言の付加は、単なる実体のない文言の付加であるから、特許法第134条の2ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に相当しないから、訂正不可である。

(a-2)第4訂正事項及び第5訂正事項について
「借方」を「貸方」に、また、「未収金」を「未払金」に訂正することは、実質上特許請求の範囲を変更するものであって、訂正不可である。
また、一般会計原則に馴染まないものは、これに精通した会計専門家からみて、誤記か否か判断し難いから、当該訂正は、特許法第126条第1項第2号にいう誤記の訂正には該当しない。
また、この誤りは、本件特許発明の課題である『債権債務の的確な管理』の根幹に抵触するものであるから、訂正請求により訂正できる明瞭な誤りではない。

(b)被請求人の主張
訂正請求書によれば、被請求人は、以下の理由により、本件訂正は適法であり、本件訂正は認められるべきである旨主張している。
(b-1)第1訂正事項について
第1訂正事項は、「『売上』及び『仕入』の同日付計上」を、より下位概念である「利益把握のために『売上』及び『仕入』の同日付計上」としようとするものであるから、特許法第134条の2ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とすることが明らかである。
また、第1訂正事項は、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】の記載及び同段落【0066】の記載を根拠にして行われたものであって何ら新規事項を追加するものではないから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たしている。
また、「売上」及び「仕入」を計上することは、そもそも両者を比較して利益を把握することであるから、「利益把握のために」なる文言を追加しても実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではないから、第1訂正事項は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たしている。

(b-2)第5訂正事項について
請求項1の記載の中で、第5訂正事項に係る「未収金」の前には、「総仕入額と総前払金との差額の内訳を経理ファイルの借方に」とあり、総仕入額と総前払金額との差額は「未払金」であることは当然であるから、「未収金」は「未払金」の間違いであることは、当業者はもとより、当業者以外の者であっても容易に理解することができる。
また、特許明細書【0051】には、「次いで、総仕入金額と総前払金額との比較を行い、総仕入金額よりも総前払金額が少なかった場合は(ステップ410>)、差額分を未払金として計上し(ステップ412)、前払金については自動振り替えされる(ステップ413)。」とあり、請求項1に記載されるべきであった正しい記載が記載されている。
さらに、請求人自ら間違えであることを認めている。
以上のとおり、「未収金」は本来「未払金」の意であり「収」の字と「払」の字とを単に間違えたものであることが特許明細書の記載などから明らかであり、訂正前の「未収金」の記載が当然に訂正後の「未払金」と同一の意味を表示するものと客観的に認められるのであるから、第5訂正事項は、特許法134条の2第1項ただし書き第2号に規定された「誤記の訂正」に該当する。
また、訂正前と訂正後では実質的に異なる点はなく、新規事項の追加にもならないから、第5訂正事項は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たしている。

(b-3)第4訂正事項について
既に述べたように、第5訂正事項が、特許法第134条の2第1項だだし書き第2号に規定された「誤記の訂正」に該当するとともに、同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定を満たしている。これに加え、「未払金」が貸方に計上されるべきものであることは複式簿記の大原則であることは証明を要しない事実である。これらのことから、第4訂正事項に係る「借」は「貸」と記載されるべきものであることが、客観的に明らかである。したがって、特許法第134条の2第1項ただし書き第2号に規定された「誤記の訂正」若しくは同ただし書き第3号に規定された「明りょうでない記載の釈明」に該当するとともに、同法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び4項の規定を満たしている。

(4)訂正の適否についての当審の判断
(a)特許請求の範囲の請求項1及び請求項3に係る訂正
(a-1)第1訂正事項
第1訂正事項は、訂正前の「『売上』及び『仕入』の同日付計上」に「利益把握のために」を付加して「売上」及び「仕入」の同日計上を要求することの目的を限定するものであるから、特許請求の範囲が減縮されていることは明らかである。
したがって、請求人の『「利益把握のために」とする文言の付加は、単なる実体のない文言の付加であるから、特許法第134条の2ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に相当しないから、訂正不可である。』との主張は採用することはできず、第1訂正事項は、特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同項ただし書きの規定を満たしている。
また、訂正後の「利益把握のために『売上』及び『仕入』の同日付計上」との事項は、特許明細書に記載された発明の詳細な説明の段落【0014】の「そして、このような構成によれば、売上と仕入を一旅行商品単位で「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、同日計上することから、従前の旅行業向けの会計処理装置では不可能であった、一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また、同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため、不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」の記載からみて、特許明細書に記載された範囲内の事項であり、新規事項を追加するものではないので、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項の規定を満たしている。
さらに、「利益把握のために」を付加する訂正事項は、実質上、特許請求の範囲を拡張・変更するものではないので、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定を満たしている。

(a-2)第4訂正事項及び第5訂正事項
第4訂正事項及び第5訂正事項に係る記載の前に「予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの」と記載され、その後に「としてそれぞれ計上する」と記載され、総仕入額と総前払金額との差額は「未払金」であることは明細書のその他の記載からみて明らかであり、また「未払金」を貸方に計上することも明らかである。
また、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0051】には、「次いで、総仕入金額と総前払金額との比較を行い、総仕入金額よりも総前払金額が少なかった場合は(ステップ410>)、差額分を未払金として計上し(ステップ412)、前払金については自動振り替えされる(ステップ413)。」と記載され、請求項1及び3の第4訂正事項及び第5訂正事項に関する記載に対応する正しい内容が記載されている。
これらの点を考慮すると、「借方」が「貸方」の誤記であり、「未収金」が「未払金」の誤記であることは明らかであると認められるので、第4訂正事項及び第5訂正事項は、特許法第134条の2第1項第2号の誤記の訂正を目的とするものであり、同項ただし書きの規定を満たしている。
そして、「借方」を「貸方」とし、「未収金」を「未払金」とする訂正は、新規事項を追加するものでもなく、実質上、特許請求の範囲を拡張・変更するものではないので、第4訂正事項及び第5訂正事項は、特許法第134条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。

(a-3)特許請求の範囲の請求項1及び請求項3に係る訂正のまとめ
以上のとおり、請求項1及び請求項3に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き並びに同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。

(b)発明の詳細な説明に関する訂正
発明の詳細な説明に関する訂正は、特許請求の範囲の請求項1及び3に係る訂正に伴って不明りょうとなった発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に一致させる訂正であり、特許法第134条の2第1項第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、同項ただし書き並びに同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。

(c)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き並びに同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項に規定する要件を満たしているので、本件訂正を認める。

3.本件特許発明
以上のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許発明は、本件訂正により訂正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
1A. 経理データを、複数の販売商品から構成される旅行商品毎に管理するための貸借対照表に相当する電子ファイルである経理ファイルと、
1B. いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
1C. 操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段と、
1D. 操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第2の計上処理手段とを有し、
第1の計上処理手段(1C)は、
1E. その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、
1F. 前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、
1G. その旅行商品に関して予定される総仕入額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前払金の総額である総前払金額とを比較して、総仕入額と総前払金額とが一致していること、総仕入額よりも総前払金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前払金判定手段と、
1H. 前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、
第2の計上処理手段(1D)は、
1I. 第1の計上処理手段による売上仕入計上処理が実施済みであるか否かを判定する売上仕入済み判定手段と、
1J. 売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みでないと判定されたときに実施される売上仕入前計上処理手段と、
1K. 売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みであると判定されたときに実施される売上仕入後計上処理手段とを含み、
売上仕入前計上処理手段(1J)は、
1L. 計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
1M. 操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前受金」として計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前払金」として計上する前受前払金の計上処理手段とを含み、
売上仕入後計上処理手段(1K)は、
1N. 計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
1O. 操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を仕入計上時に立てた「未払金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する未収未払金の計上処理手段とを含み、
1P. それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする旅行業向け会計処理装置。
【請求項2】
2A. 1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目、並びに、各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し、
2B. 旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された、ことを特徴とする請求項1に記載の旅行業向け会計処理装置。
【請求項3】
3A. 経理データを、複数の販売商品から構成される旅行商品毎に管理するための貸借対照表に相当する電子ファイルである経理ファイルと、
3B. いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
3C. 操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段と、
操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第2の計上処理手段とを有し、
第1の計上処理手段(3C)は、
3E. その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、
3F. 前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、
3G. その旅行商品に関して予定される総仕入額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前払金の総額である総前払金額とを比較して、総仕入額と総前払金額とが一致していること、総仕入額よりも総前払金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前払金判定手段と、
3H. 前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、
第2の計上処理手段(3D)は、
3I. 第1の計上処理手段による売上仕入計上処理が実施済みであるか否かを判定する売上仕入済み判定手段と、
3J. 売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みでないと判定されたときに実施される売上仕入前計上処理手段と、
3K. 売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みであると判定されたときに実施される売上仕入後計上処理手段とを含み、
売上仕入前計上処理手段(3J)は、
3L. 計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
3M. 操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前受金」として計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前払金」として計上する前受前払金の計上処理手段とを含み、
売上仕入後計上処理手段(3K)は、
3N. 計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
3O. 操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を仕入計上時に立てた「未払金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する未収未払金の計上処理手段とを含み、
3P. それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする旅行業向け会計処理装置として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項4】
4A. 1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目、並びに、各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し、
4B. 旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された、ことを特徴とする請求項3に記載のコンピュータプログラム。」

なお、1A?4Bの記号については、審判請求書において、各構成要件を区別するために請求人が付与したものを用いた。

4.請求人の主張
(A)請求の趣旨
平成18年7月3日付の審判請求書、平成19年6月25日付の口頭審理陳述要領書、及び平成19年9月7日付の上申書によれば、請求人は、「特許第3733478号の明細書の請求項1から請求項4に係る発明について特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。

(B)特許無効の理由の要点
本件の請求項1?4に係る発明は、以下の証拠方法及び理由により、発明未完成であるとともに、本件の請求項1?4及び発明の詳細な説明について記載不備がある。
(証拠方法)
・書証
甲第1号証:本件特許(特許第3733478号)の特許公報
甲第2号証:本件特許の登録原簿
甲第3号証:本件特許の審査・登録履歴
甲第4号証:1998年(平成10年)8月17日発行の週刊トラベルジ
ャーナルに掲載された広告
甲第5号証:1996年(平成8年)3月4日発行の週刊トラベルジャー
ナルに掲載された記事広告
甲第6号証:1999年(平成11年)12月1日配信のWECAN N
EWS
甲第7号証:請求人である株式会社ウイ・キャンが顧客に1998年(平
成10年)2月5日に納品したマルチ・リテール1の旅行実 務解説書
甲第8号証:前出マルチ・リテール1の売上実績集計表(1997年から
1999年12月)
甲第9号証:前出マルチ・リテール1旅行実務解説書の受領確認書((株
)庄交コーポレーション、受領日:1998年(平成10年
)2月5日)
甲第10号証:本件特許の公開特許公報(特開2003-16155号公
報)
甲第11号証:特許庁審判部編・審判便覧(改訂第9版)54-10 訂
正の可否決定上の判断及び事例
甲第12号証:本件特許出願に対する平成16年11月24日付第1回拒
絶理由通知
甲第13号証:特許庁編・特許・実用新案審査基準 第VII部特許技術分
野の審査基準(抜粋)
甲第14号証:本件特許出願に係る本件特許メモ
甲第15号証:本件特許出願に係る特許査定である。
甲第16号証:本件特許出願の審査過程における平成17年7月11日付
応対記録である。
甲第17号証:本件特許出願に係る平成17年7月12日付手続補正書
甲第18号証:本件特許出願に係る平成17年1月19日付第1回手続補
正書
甲第19号証:本件特許出願に係る平成17年1月19日付第1回意見書
甲第20号証:本件特許出願に係る平成17年5月24日付拒絶理由通知
甲第21号証:高津純一税理士事務所所長税理士高津純一の鑑定意見書
甲第22号証:元新常磐交通株式会社観光事業部総務部長深谷進の鑑定意
見書
甲第23号証:「ビジネスモデル特許取得のご報告」
(第1頁?第5頁の文書を「甲第23号証の1」とし、第
6頁?最終頁の文書を「甲第23号証の2」とする。)

・証人
高津純一税理士事務所所長税理士 高津純一
元新常磐交通株式会社観光事業部総務部長 深谷進

なお、甲第1号証?甲第22号証は、平成18年7月3日付の審判請求書により提示されたものであり、甲第23号証は、平成19年7月26日付の書証等提出書により提示されたものである。

(C)無効とすべき理由
以下に詳述するように各特許発明(請求項1から4)の発明未完成であるとともに当該特許請求の範囲についての記載不備があるから、本件特許発明には無効原因がある。
(C-1)各構成要件について
I.請求項1の特許発明
(i)構成要件1Aについて
この種の会計処理装置では、敢えて証拠を挙げるまでもなく、不可欠の構成であって、それ自体発明力がない。

(ii)構成要件1Bについて
本構成要件1B(「いずれかの旅行商品に関して、「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、」)については、同日付計上を要求する「計上日」が不明である。会計処理において債権債務と収益の認識日(計上基準日)は、不可欠であり、これを欠く本構成要件は、未完成である。
これに対して、被請求人は、旅行業界における会計処理の特殊性、すなわち、時間とともに売上/仕入が増減すること、は、明らかに存在し、かつ、本件発明に係る会計装置は、管理会計を主目的とするものであるから、その目的達成範囲において会計準則に沿わない場合もありうる、と主張している。
しかしながら、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減する業界・業種は、他にも普通に存在するので、このことは旅行業界における特殊性ではないし、また売上/仕入が確定に至るまでの間に増減することと債権債務と収益の認識日(計上基準日)が不可欠であることはそれぞれに独立した事実であり、相互否定や相関関係にあるものではない。被請求人は、本件特許公報(甲第1号証)の段落【0015】 において、
『なお、「売上」と「仕入」とを計上する計上日としては、当該旅行商品の出発日であることが望ましい。このような構成によれば、旅行商品が現に顧客に提供された日である出発日を基準日として用いることから、基準日と旅行商品との対応関係が明確である。また、旅行業においては出発日にほとんどの売上・仕入データが確定するので、データ管理上も都合がよい。』と述べるとともに、平成17年11月4日で客先に送付した「ビジネスモデル特許取得のご報告」(甲第23号証の1)において、「これは、発券日基準、帰着日基準ともに企業会計原則中の「役務の提供が完了した時点」というには妥当性に欠けるために発生する問題であるといえます。よって弊社では、この問題を解消するため、企業会計原則にのっとり役務収益については「「役務の提供が完了した時点」で計上するべく、「出発日基準」を計上基準として独自に選定いたしました。」と述べている(甲第23号証-1に添付の記、第4文参照)。
このことから、計上基準日の記載なしには、売仕同日計上は全く達成されないし、また段落【0015】の記載からも、本件発明者は、計上基準日が本件発明の成立には、不可欠であると出願時認識していた。もし、かりに当該構成要件1Bに計上基準日の記載がなくとも、段落【0015】の記載により、売仕同日付計上の機能が達成される、と主張しても、構成要件1Bに、本件発明に不可欠な計上基準日の記載なしに、段落【0015】 の記載をもって売仕同日付計上が可能であるとすることは出来ない。

(iii)構成要件1Cについて
上記(ii)に関した理由により不明である。

(iv)構成要件1Dについて
上記(ii)に関した理由により不明である。

(v)構成要件1Eについて
ここで、“予定される総売上額”とは、如何なる状態をいうのか本件明細書中の記載をみても不明である。売上(総売上額)は予定されるのではなく、確定して計上される、ものであって、そうでないと経理処理できない。本件特許発明では、“予定される総売上額”から“総売上”に変る計上基準日が明確に記載されていないので、前受金・未収金の計上・仕訳が実行されるタイミングが全く不明確になってしまう。他の金額(例えば、“総前受金額”)との比較対象とはなり得ない。
したがって、“予定される総売上額”と“総売上額”とが混在して用いられている本構成要件1Eは、発明の一構成要件として全く機能しない。
よって、認識日の基準を欠く本構成要件は、不完全である。

(vi)構成要件1Fについて
本構成要件1F(「前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、」)では、ここにいう“予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたとき”の売上計上の“計上基準日”が全く不明であるので、本構成要件1Fの記載は全く不備であって未完成である。
すなわち、証人高津純一の証言にあるように、本構成要件1Fでは、“これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方”とあるが、既に経理ファイルの借方に計上済みの「現金」を「前受金」に振り替えるの意味が不明である。借方に計上済みの「現金」を振り替えるのであれば、貸方に「現金」を計上しなければならず、これは出金を意味する仕訳であるから、ここで現金を振り替えるのは誤った仕訳処理である。本来ならば「既に経理ファイルの貸方に計上済みの前受金を借方に振り替える」べきであって、本構成要件は未完成である(甲第21号証第2頁(3)参照)。
通常、会計処理装置では、該装置のコンピュータ画面上に『売上』『仕入』『粗利』が三位一体で並び、それらに変化があれば、共に三位一体となって変化する。
そこに、『入金』が入力されると、
【計上基準日】前であれば、[1]借方:現金、貸方:前受金を自動振替する。そして、[2]【計上基準日】になったとき、借方:前受金、貸方:売上を自動振替する。
『出金/支払』が入力された場合も、同様に自動振替する。
したがって、計上基準日は、本件特許発明では不可欠な構成要件である。

(vii)構成要件1Gについて
前出の1Eと同じ理由により当該構成要件の内容が不明である。

(viii)構成要件1Hについて
本構成要件1H(「前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの借方に「未収金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、」)は、計上基準日の記載を欠くから、本構成要件の内容が全く不明である。
また、本構成要件1Hでは“総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」 自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの借方に「未収金」としてそれぞれ計上する”と記載されているが、高津証人の証言にあるように(甲第21号証第2頁(4)参照)、支払が不足しているときは債務をあらわす「未払金」を使うべきであって、「未収金」は誤りである。
この誤りは、本件特許発明の課題である『債権債務の的確な管理』の根幹に抵触するものであるから、訂正請求により訂正できる明瞭な誤りではない。

(ix)構成要件1Iについて
前出1Fと同じ理由により当該構成要件の内容が不明である。

(x)構成要件1Jについて
ここでいう“売上仕入計上処理が実施済みでないと判断されたとき”に“売上仕入計上処理を実施する”“基準日”が特定されていないから、当該構成要件の記載には不備がある。

(xi)構成要件1Kについて
上記(x)構成要件1Jについての記載に不備がある以上、当該構成要件1Jを含む本構成要件1Kについての記載には当然不備がある。

(xii)構成要件1Lについて
上記構成要件1Jが不備であるから、これを限定した本構成要件1Lにも不備がある。

(xiii)構成要件1Mについて
上記(xii)と同様の理由により当該記載に不備がある。

(xiv)構成要件1Nについて
上記(xi)構成要件1Kについての記載に不備がある以上、これを限定した本構成要件1Nにも不備がある。

(xv)構成要件1Oについて
上記(xiv)と同様の理由により当該記載に不備があるとともに、ここでいう、“計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する”の意味が、発明の詳細な説明の該当箇所及び図面(甲第1号証、図7及び【0071】)を参照しても全く不明確・不明瞭であって、具体的に如何なる構成要件を示しているのか不分明である。

(xvi)構成要件1Pについて
本構成要件1P(「それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする旅行業向け会計処理装置。」)については、“経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、一旅行商品単位で同日付にて計上されるよう”にするためには、単一に統一されたタイミング(基準日)によって計上されなければならないが、本構成要件1Pでは、それらのタイミングが、明確に統一されていないので、本構成要件1Pも未完成である。
すなわち、高津証人の証言にあるように、本請求項の他の構成要件1A及び3Aでは経理ファイルが貸借対照表であることを述べながら、本構成要件1Pでは、経理ファイル上に損益項目である「売上」と「仕入」が記載されることになっている。このように貸借対照表と損益計算書を明確に区分していない本処理では、正しい財政状態も正しい損益状態も明らかにすることはできない(甲第21号証、第3頁第1参照)。

(xvii)全体の構成要件の記載について
前述したように、本件特許発明は、この種のビジネスモデルとして全く不完全であるとともに、担当審査官が第1回拒絶理由通知(甲第12号証参照)で指摘したように、本件特許発明では、所定ソフトウェアによる経理情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていない(甲第13号証参照)。因みに本件特許公報の記載では、本件特許発明の“旅行業向け会計”のシステム構成の具体例として第1図ならびにその関連箇所(甲第1号証【0031】?【0036】(甲第10号証【0022】?【0027】参照)に、通常のハードウエア構成として記載されているだけであって、本件特許発明の各構成要件(例えば、“操作種別判定手段”、“第1の計上処理手段”、“第2の計上処理手段”・・)の具体的構成及びそれらを機能させるロジック回路等が全く記載されていない。
したがって、本件特許発明は、その目的とする『経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした』を到底達成できないので、発明未完成である。
また、担当審査官は、本件についての特許メモ(甲第14号証参照)で「参考文献〔甲第11号証参照〕には、「複数の販売商品から構成される旅行商品について、一旅行単位で、『売上』、『仕入』が『前受金』、『未収金』、『前払金』、『未払金』と共に、同日付にて計上する」構成が記載も示唆もされていない。」とし、当該目的を達成する上記構成を本願特許発明の必須構成要件としているが、上述したように、本件特許発明は、未完成であるので、ここに重大な無効原因がある。
すなわち、本件特許発明の会計処理システムで経理処理を行うと、決算を適切に処理・完結できないので、本件特許発明は、未完成である。

II.請求項2の特許発明について
(i)構成要件2Aについて
この種の会計処理装置では、周知の構成であって、それ自体発明力がない。

(ii)構成要件2Bについて
本構成要件2B(「旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された、ことを特徴とする請求項1に記載の旅行業向け会計処理装置。」)については、ここにいう、“「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定している”の“確定”の意味が正しく限定されていない。
『確定』の意味が正しく限定されていない、とする請求人の主張に対して被請求人は、答弁書(平成18年10月23日提出)第19頁第15行目?第17行目において、「・・・旅行業界における特殊性に鑑みれば、ある程度の金額変動を見極めつつ会計処理のために『確定』させなければならない。したがって、上記「確定」が必要となる。」としているが、通常、そのような『見極めつつ』などの暖味さや不確定要素を伴う場合を『確定』とは言わない。よって、本構成要件2Bも未完成である。

III.請求項3の特許発明について
前出請求項1の特許発明を“コンピュータプログラム”として表現しただけであって、当該特許発明と技術思想は、前出請求項1の特許発明と全く同一であるから、前述した請求項1に係る記載不備・発明未完成の無効原因が、本願特許発明にも該当する。

IV.請求項4の特許発明について
同様の理由から、前出請求項2に係る無効原因が、本件特許発明にも該当する。

(C-2)被請求人が主張する「旅行業界における会計処理の特殊性」についての反論
平成18年10月23日付で提出した答弁書において、被請求人は、「以上から理解されるように、また、旅行を経験した者であればだれもが経験するように、旅行会社の総売上額は時間の経過と共に増減する場合がほとんどである。したがって、旅行会社にとって当該旅行商品についての総売上額は、「その旅行に関して予定される(構成要件1E)」ものとして捉えざるを得ないものである。これが、旅行業界における会計処理の特殊性であり、この特殊性は、旅行業界における常識である。」と主張している。
しかしながら、被請求人の主張するような特殊性は、旅行業者における常識ではない。

(C-3)被請求人が主張する「本件特許に係る会計処理装置の特徴」について
答弁書第10頁(5)において、「このため、財務会計で要求される会計原則や会計基準は、本件処理装置の処理に馴染まない場合もあり得る。この点に、本件処理装置の特徴がある。」と主張しているが、これらの会計原則や会計基準に馴染まない特許発明は、会計処理装置として実用性が全くなく、それ故、その基盤とするビジネスモデル自体が未完成、よって「発明未完成」である。

(C-4)請求人(山口 準一郎)の主張の要旨
口頭審理では採用されなかった請求人(山口 準一郎)の主張の要旨が平成19年9月7日付の上申書に記載されており、その概要は以下のとおりである。
(1)『債権債務の管理が容易である』ことを課題としている
公開特許公報に以下の記述があります。
(57)【要約】
【課題】経理作業における手間を大幅に削減することが可能であり、しかも債権債務の管理が容易である旅行業向け会計処理システムを提供する。
【解決手段】第1の計上操作があったとき、一旅行商品に関する売上金額及び仕入金額を全て同日付けで売上及び仕入として経理ファイルに登録する第1の計上手段と、第2の計上操作があったとき、売上及び仕入計上前であることを条件として、当該操作で指定の金額を前受金又は前払金として経理ファイルに登録し、売上及び仕入計上済みであることを条件として、当該操作で指定の金額を未収金又は未払金として経理ファイルに登録する第2の計上手段とを具備することを特徴とする。
『債権債務』とは、それがどの時点で発生したのかの基準(計上基準)を持たなければその管理はできない。
いくら管理会計だから自由であると唱えてみても、基準無きデータ(情報)の集合では、管理している状態とは言えない。
例えば、
[1]8月1日に、A氏(社)から9月1日出発の旅行50万円分の申込み
があって、5万円の申込金を頂いた。
[2]8月1日に、B氏(社)から10月1日出発の旅行20万円分の申込
みがあって、3万円の申込金を頂いた。
[3]8月10日に、C氏(社)から8月20日出発の旅行30万円分の申
し込みがあった。
[4]8月20日に、A氏(社)から出発日を8月25日にして、かつ旅行
費用を60万円にする変更・追加依頼があって残金55万円を頂いた 。
*ここに記載していない入金は頂いていないとする。
ここに記載している要件に関わる債権債務は?
(ア)8月5日時点の債権債務は? また前受金額は?
(イ)8月11日時点の債権債務は? また前受金額は?
(ウ)8月21日時点の債権債務は? また前受金額は?
(エ)9月2日時点の債権債務は? また前受金額は?
この『債権債務』の内容も額も、また『前受金』の内容も額も、売上(仕入も同様)の計上基準が無いと、特定できないのです。
・申込日基準なのか?
・入金日基準なのか?
・請求書発行基準なのか?
・出発日基準なのか?
・帰着日基準なのか?
その基準によって、『債権債務』の内容も額も、『前受金』の内容も額も変わってしまいます。
ですから、上記(ア)から(ウ)の設問には、計上基準が示されないと答えられない、即ち『管理できない』ことになります。
これは、会計準則ではもちろんのこと、財務会計であろうと管理会計であろうと同様です。
現に、被請求人は、平成17年11月4日付で旅行会社向けに郵送した『ビジネスモデル特許取得のご報告』(平成19年7月26日証拠として提出)の中で、「旅行業向け会計処理装置」として取得した特許の概要と特徴は次の通りです。
(a)「総額主義」という会計基準を前提とする
「総額主義」という会計基準を前提とし、電子カルテ上で旅行商品単価に売上・仕入・入金・支払を顧客と仕入先に関連付けて管理し、基準日により自動的に仕訳することができます。
(b)売上計上基準日を「出発日」に選定
売上計上基準日を「出発日」に定めることにより、計上基準日が人為的に左右されず、出発日までに発生する変更・追加・キャンセル手続きに伴う売上・仕入の伝票管理が不要となります。
このため仕訳伝票データの自動生成機能を利用することで、リアルタイムで売上・仕入・売上総利益・債権・債務を把握することができます。(後略)と明示しています。
『基準日により自動的に仕訳する』ことができると、(計上)基準日の存在が前提であることを明示しています。
また、売上計上基準日を『出発日に選定』したと明示して、あたかも本特許が計上基準日を有していて、出発日がその計上基準日であることも本特許に包括されているかのように旅行業界に伝えています。
それにも関わらずに、審判事件答弁書(平成18年10月23日付)では、『管理会計を主目的とする本件発明には「計上基準日」なるものは不要である』と自らが旅行業界に発表及び宣伝したことと全く相反することを述べています。
『計上基準日』を持たないのでは、いくら会計原則に則らない管理会計に限るとしても、債権債務管理は出来ないので、本発明は不完全である。

(2)『オートマチカル』について
平成19年7月26日の審判において、審判長は、請求人に『請求人はどうも(本特許内容が)オートマチカルに作動するものと思われていますね?』と問われました。請求人は、『はい、そうです。』とお答えしました。次に、審判長は被請求人に対して『オートマチックではないですよね?』と問われました。それに対して被請求人は、『はい』と答えられた。
特許公報【特許請求の範囲】【請求項1】の20行目に、『前受金相当の「現金」を「前受金」のそれぞれ自動振替して計上する一方、・・・』との記載があります。(この『自動振替』は公報内に複数記述しています。)ここで言う『自動振替』がオートマチカルを示します。
コンピュータシステムが『自動振替』をするとき、予め指定された基準日を迎えると自動的に(オートマチックに)データ(情報)内容を確認して、これも予め与えられた条件の下、処理=『自動振替』をします。
『自動振替』と記述していながら、『オートマチックではない』と言うなら、本発明が不完全であることを自らが認めています。

(3)『未収金』『未払金』について
本特許の【特許請求の範囲】は140行でA4用紙3枚に収まります。その程度の文字数/文書量の中にこの不可解な『未収金』の記述が複数回現れます。本特許を発明したと自認する被請求人とその社内の方々、その特許取得を支援された複数の弁理士の方々、そして、申請された内容を吟味検討された特許庁担当官の方々などなど実に多くの方々が、一行一行、一言一句を誠実に熱心に吟味検討されたと信頼したい。
しかしながら、その多くの方々全員が数年間に亘って、この不可解さを見過ごしたまま、国の機関である特許庁が特許公報『旅行業向け会計処理装置』として国民に対して発表しておいて、会計処理装置としては、核心とも言える『未収金』『未払金』の表記を単に誤記であると済ませては、余りに社会責任を軽視していると言わざるを得ない。
ましてや、この特許は『債権債務を容易に管理する』『債権債務を的確に管理する』ことを課題にしていると記載している。
債権債務の中核を成すのがまさに『未収金』であり、『未払金』なのである。
被請求人は、あるときは、本発明は『必ずしも会計原則に則らない』と言う便法を使い、あるときは、『一般会計原則が厳格に適用される財務会計であろうと、企業内部で利用される管理会計であろうと、複式簿記を利用する点に違いはない』
だから、構成要件1Hに記載された『「未収金」を「未払金」に訂正することは』、『明らかな誤記を正しい記載に訂正したものであってそれ以外のなにものでもない』と、会計原則に則れば『明らかな誤記である』と言う便法を用いている。
本特許の内容と経緯から、『未収金/未払金』については、『単に誤記』なのではなくて、『単に本発明が不完全である』と認めるのが妥当です。

(4)『「現金」を「前受金」に振り替えることはできない』について
会計原則に則るとすれば、その依るべき正規の簿記を理解しておらず、明らかな間違いである。
それにも関わらず、
[1]『前受金は借方に振り替えられるのは複式簿記の常識であり・・』と
、会計原則と言う言葉を『常識』と言うはなはだ概念的な言葉に置き
換えて、開き直りとも受け取れる弁明に陥っている。
[2]また、『とのうちの当該「前受金」』と言うややこしい言葉を用いて
、明らかな間違いを正当化しようと試みているが、元々は、会計原則
も複式簿記も明快で簡潔なものとして完成しているものですから、そ
の試みは無意味なものでしかないのは余りに明白です。
上記[1]、[2]のような暖昧な弁明、無意味な正当化を試みなければならない事態に陥っているのは、本発明が未完成であり、不完全であるからに他ならない。

(5)『確定』の意味(構成要件2Bについて)
「・・・旅行業界における特殊性に鑑みれば、ある程度の金額変動を見極めつつ会計処理のために『確定』させなければならない。したがって、上記『確定』が必要となる。」と答弁している。
[1]元々、請求人は、『確定の意味が限定されていない』と主張している
。コンピュータ装置内で言う『確定』とはどのようなことを指すのか
、本発明の基盤となると思われることから、その意味を質しています
。それに適切に答えられていない。
[2]更に、答弁された「ある程度の金額変動を見極めつつ会計処理のため
に『確定』させなければならない。」と言う内容が、新たな疑問と不
明瞭を生んでいる。
「見極めつつ『確定』させる」と言うのは、コンピュータ装置内では、具体的にどのような処理あるいは仕組みを言うのか明確にさせておかないと発明の意味を成さない。
上記の内容と状況から、本発明が未完成であり不完全であることは明白です。

(6)被請求人の旅行業界への本特許内容の説明/宣伝について
被請求人は、平成17年11月4日付で旅行会社向けに郵送した『ビジネスモデル特許取得のご報告』(平成19年7月26日証拠として提出)の中で、
■本特許取得の目的
□電子カルテ化の成功に不可欠な条件
(前略)
この「電子カルテ」を有効に利用するには、「総額主義」と「出発日基準」の二つの条件が揃わなければなりません。「総額主義」や「出発日基準」を採用しないまま「電子カルテ」化を進めた旅行会社では、膨大なシステム投資をしたにもかかわらず、会計処理が複雑になります。
(中略)
□旅行業界の発展を願っての特許取得
今回のビジネスモデル特許取得により、旅行会社が独自に会計処理の「電子カルテ」化を進めることはできなくなります。
もちろん、「出発日」を基準とせず、総額主義を採らないかたちで「電子カルテ」化をすすめることは自由ですが、それでは「電子カルテ」の利点が生かせないことは前述の通りです。
(後略)

特許庁に対しては、『計上基準日はそもそも不要である』と述べておきながら、旅行業界に対しては、まずは『計上基準日=出発日基準』を絶対必須条件として訴えて、かつその『計上基準日=出発日基準』が本特許に含まれているかのような説明/宣伝をしています。
特許庁の関与する範疇であるのか否か、認識し切れないと思いつつ、それにしても特許番号を明示しながら、余りに違うことを説明/宣伝することは、特許そのものと特許制度そのものをも愚弄するものと感じざるを得ません。
『今回のビジネスモデル特許取得により、旅行会社が独自に会計処理の「電子カルテ」化を進めることはできなくなります。』と言う暴言/暴挙に至っては、あまりに社会を裏切り、旅行業界を愚弄する行為として放置できません。
そのためにも、その後ろ盾となっている本特許の不完全と未完成をここに明らかにしましたので、これを無効にすべきである。

5.被請求人の主張
(A)被請求人の答弁の趣旨
平成18年10月23日付の答弁書、平成19年7月26日付の口頭審理陳述要領書、及び平成19年10月5日付の上申書によれば、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。

(B)答弁の概要
以下の証拠方法に基づき、訂正後の請求項1?4に係る発明は発明未完成ではなく、また、訂正後の特許明細書の記載に不備はない旨、主張している。
(証拠方法)
乙第1号証:フローチャート図(「以下「参考資料1」とする。)
乙第2号証:自動振替を示すブロック図(以下「参考資料2」とする。)
乙第3号証:特許第3800385号の特許公報
乙第4号証:特許第3806326号の特許公報
乙第5号証:「MBA ENGLISH 経済・会計・財務の知識と英語
を身につける」初版第3刷、内之蔵礼子著、ベレ出版、20
06年7月12日、p104-107
乙第6号証:「現代 会計学総論〔第2版〕」第3刷、田中茂次著、中央
経済社、平成13年5月25日、p6-9
乙第7号証:「会計学入門 会計・税務・監査の基礎を学ぶ〔第6版〕」
、千代田邦夫著、中央経済社、平成17年1月20日、p3
6-39
乙第8号証:「ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財
務」初版、石野雄一著、光文社親書、2007年4月20日
、p18-21
乙第9号証:「会計学入門 会計・税務・監査の基礎を学ぶ〔第6版〕、
千代田邦夫著、中央経済社、平成17年1月20日、p42
-45

なお、参考資料1、参考資料2、乙第3号証、及び乙第4号証は、平成18年10月23日付の答弁書により提示されたものであり、乙第5号証?第9号証については、平成19年7月26日付の上申書により提示されたものである。

(C)答弁の内容
(C-1)旅行業界における会計処理の特殊性についての主張
(1)本件特許発明の特徴を理解するためには、旅行業界における会計処理の特殊性を理解することが必要であり、その特殊性について参考資料1を参照しながら説明する。参考資料1は、旅行会社、旅行客及び航空会社等の役務提供元の三社間における一般的旅行契約及び支払の流れを示すフローチャートである。紙面の上から下に向かって時間が経過する。
(2)参考資料1が示す旅行契約は、旅行客3人による海外グループ旅行(以下、「本件旅行」という。)であって旅行代金が30万円である場合を想定している。まず、旅行客から本件旅行についての旅行申込が旅行会社に対して行われる(S1)。旅行申込を受けた旅行会社は、本件旅行に関する申込書を申し込んできた旅行客に渡すとともに、申込金を請求する(S2)。旅行客により記入された申込書及び申込金が旅行会社に渡ると、その時点で旅行契約が成立する(S3)。契約成立時における旅行会社の総売上額(参考資料1に示す1参照、以下、同じ)は、申込時の旅行代金である30万円である。ここで、申込金を5万円だとすれば、旅行会社から見た契約成立時の未収金は25万円(30万円-5万円)ということになる。契約成立時の総売上額(2)は申込時の総売上額と同じ30万円である。
(3)他方、およそ旅行においては、旅行契約成立から少なくとも出発まで、或いは、出発から帰着までを含めて様々な変更が行われる。変更例を挙げよう。旅行保険の申込(S4)、オプショナルツアーの申込(S5)、キャンセルによる旅行客数の減少(S6)、たとえば、旅行客が遠方であるため成田空港駅近くでの宿泊(S7)が、旅行内容変更の典型例である。旅行代金は、このような変更のある毎に変動する。すなわち、S4の旅行保険料金分3万円が上乗せされ30万円であった総売上額(3)が33万円(30万円+3万円)になり、25万円だった未収金が28万円(25万円+3万円)となる。同じくS5のオプショナルツアー申込によってその代金5万円が上乗せされ33万円だった総売上額(4)が38万円(33万円+5万円)となり、28万円だった未収金が33万円(28万円+5万円)となる。同じくS6のキャンセル分5万円が減額され38万円だった総売上額(5)が33万円(38万円-5万円)となり、33万円だった未収金が28万円(33万円-5万円)となる。同様に、S7の宿泊申込によって宿泊料金5万円が増額され33万円だった総売上額(6)が再び38万円(33万円+5万円)となり28万円だった未収金が再び33万円(28万円+5万円)となる。ここで、旅行会社から旅行客宛に残金請求書が送られ(S8)、その残金である33万円を旅行客が旅行会社に支払うこと(S9)によって、旅行会社から見た未収金(旅行客から見た未払金)が一旦消滅する(S9)。総売上額(7)は、依然として38万円である。
(4)さらに、一旦清算を終了した後であっても、さらに、総売上額が変動させられる場合がある。JR券の購入申込が旅行客によってなされる場合(S10)などは、その典型例である。これによって、総売上額(8)は、JR券の代金分0.5万円が新たに加わり、38.5万円(38万円+0.5万円)となり、これに伴う旅行会社の未収金は0.5万円となる。旅行客は、残金0.5万円は旅行終了後に清算することとして旅行に出発した。旅行から帰着した旅行客が、残金0.5万円を支払う(S12)ことによって、旅行会社の未収金が消滅する。最終的な総売上額(9)は38.5万円である。
(5)また、旅行会社は、たとえば、航空券や宿泊券(クーポン券)を、航空会社や宿泊施設から仕入れることになるが、その支払は、航空券等を仕入れる前又は同時に行われる(S11)。
(6)以上から理解されるように、また、旅行を経験した者であればだれもが経験するように、旅行会社の総売上額は時間の経過と共に増減する場合がほとんどである。したがって、旅行会社にとって当該旅行商品についての総売上額は、「その旅行商品に関して予定される(構成要件1E参照)」ものとして捉えざるを得ないのである。これが、旅行業界における会計処理の特殊性であり、この特殊性は、旅行業界における常識である。

(C-2)本件特許に係る会計処理装置の特徴
本件特許に係る会計処理装置(以下、適宜「本件処理装置」)は、上述した旅行業界における会計処理の特殊性に鑑み、旅行業界における会計処理を一般会計処理に適合させるための装置である。換言すれば、本件処理装置は一般会計すなわち外部の利害関係者を会計報告書の受け手として行う財務会計(外部報告会計)の処理を直接の目的とするものではなく、一般会計を行う前段階において「売上」「仕入」等を仕分けして、利益や債権債務の把握を目的とする管理会計(内部報告会計)を主目的とする装置である。このため、財務会計で要求される会計原則や会計基準は、本件処理装置の処理に馴染まない場合もあり得る。この点に、本件処理装置の特徴がある。本件特許発明を検討する場合は、上記特徴を加味しながら行われなければならない。もっとも、本件処理装置を、管理会計だけでなく旅行業界における特殊な会計を財務会計に馴染ませるための橋渡し的に用いることにも使用できることは、言うまでもない。

(C-3)各構成要件について
I.請求項1について
(i)構成要件1Aについて
不可欠な構成要件であることは、認める。請求人が主張する「発明力」なるものがどのような力であるか理解できないが、取り立てて答弁する必要がないと思われる。

(ii)構成要件1Bについて
(1)請求人は、「-中略-については、同日付計上を要求する『計上日』が不明である。会計処理において債権債務と利益の認識日(計上基準日)は、不可欠であり、これを欠く本構成要件は未完成である」と主張するが(請求人上申書2頁3?8行目)、誤りである。
構成要件1Bにおいて「売上」と「仕入」とを同日計上するのは、「利益を把握するため」である。利益を把握するために「売上」の計上日と「仕入」の計上日とを一致させる、すなわち、「同日計上」するのである。「売上」と「仕入」とを別々に計上したのでは両者を比較して差額を算出することができない(利益把握できない)ので、これをできるようにするための「一致」である。この点、会計処理の特殊性に対する被請求人の反論を引用して、その引用1に対して反論しているが、まったく意味をなさない。売上/仕入が確定に至るまで増減する業界・業種が他にも存在することは、「計上基準日」を不可欠とする理由にはならない。さらに、これまでも主張してきたように、そもそも構成要件1Bには「計上基準日」なるものは不要である(答弁書11頁13?15行目)。財務会計には「計上基準日」が必要としても、管理会計を主目的とする本件特許発明には「計上基準日」は不要である(被請求人口頭陳述要領書2頁27行目「イ」、乙第5号証)。
(2)同日計上するためには、「売上」計上日に「仕入」計上日を合わせるか、又は、その逆を行うことによって行うのが一般的である。請求人が主張するように、まず、一般会計処理にいう「計上基準日」を設定し、その計上基準日に「売上」計上日と「仕入」計上日とを一致させるのではなく、たとえば、「売上」計上日又は「仕入」計上日の何れか一方に他方を合わせることによって同日計上」を実現させることができる(答弁書10頁下から2行目以下、平成19年7月26日付被請求人口頭審理陳述要領書4頁3行目以下)。他の表現を用いれば、「売上」と「仕入」とを何れか一方が生じたときに、その生じた一方を計上し、その計上した日と同じ日を、まだ生じていない(或いは同日に生じた)他方の計上日とみなすことによって、それまで別々に計上していた「売上」と「仕入」とを一緒に計上することにしたのである。このような同日計上は、「電子ファイル」であれば可能である(構成要件1A、3A)。
(3)ここで、理解を深めるために例を挙げよう(併せて、被請求人口頭陳述要領書3頁11行目以下参照)。旅行使用の目的で購入される宿泊クーポン券を考える。ここでは、宿泊クーポン券を旅行客に手渡すとき(発券時)に売上を計上し、発券した旅行会社がその宿泊クーポン券に対する代金を(その宿泊クーポン券が使用される先の)宿泊施設に支払ったときにその宿泊クーポン券の仕入を計上することにする。この場合、売上と仕入を別々の日(又は月)に計上することになるため、上掲した発券時において(仕入計上を行っていないから)その宿泊クーポン券についての利益を把握することができない。未仕入計上であるために利益把握ができないのが従来であったが、これを、宿泊クーポン券の「売上」時(発券時)に合わせて「仕入」計上するようにすれば、その宿泊クーポン券についての利益を把握することができるようになる。このようにして把握した利益は、そのままでは一般会計規則に則った利益とはいえない場合もあるが、経営判断や資金繰り等のための管理会計上の指針にはなる(被請求人口頭審理陳述要領書2頁下から2行目「ウ」の欄)。
(4)本件特許発明は、たとえば、実施者の業務実態や業務慣行その他の理由に即して「売上」計上日又は「仕入」計上日を実施者の選択に委ねており、特許明細書【0015】の記載は、その選択に当たって推奨可能な一例を示したものである。すなわち、特許明細書【0015】には、「なお、『売上』と『仕入』とを計上する計上日としては、当該旅行商品の出発日であることが望ましい」との記載がある。この記載の存在のみについていえば、請求人の主張は正しい(請求人上申書2頁19?20行目)。しかしながら、その解釈に誤りがある。つまり、上記記載は、「売上」計上日又は「仕入」計上日のうち、何れか一方を選択してからその選択した一方に他方を合わせることが前提である。
この前提の下に「売上」と「仕入」とを同日付で計上するための計上日としては、当該旅行代金の出発日であることが望ましい、ことを述べているのである。
予め選択した一方の計上日に他方の計上日を合わせるためには、その選択に係る一方を基準の日(基準日)としてこの基準の日に他方の計上日を合わせることになる。換言すれば、特許明細書【0015】に記載された「基準日」は、一方に他方を合わせるときの合わせる対象となるその基準の日のことを言うのであって、請求人が主張するような一般会計処理に必要な「計上基準日」とは異なる概念である。特許明細書【0015】の中の「このような構成によれば、・・・」の記載におけるこの「構成」とは、「『売上』と『仕入』とを計上する「計上日」のことを示すものであることからも、両者が異なる概念であることが明らかである。
(5)請求人が提出した甲第23号証の1について反論する。甲第23号証の1にかかる「ビジネスモデル特許取得のご報告」と題した広告文書「以下、「甲第23の1文書」という」は、被請求人が販売する旅行業向け会計処理装置(以下、「販売装置」という)についての広告である。本件特許発明に係る会計処理装置(以下、「特許装置」という)が管理会計を主目的とするものであることは再三述べてきたが、財務会計に連動させることを妨げるものではないことも繰り返して述べてきた(答弁書10頁11?13行目、被請求人口頭陳述要領書3頁20行目「エ」の欄)。甲第23の1文書は、まさにそのことを述べているのである。すなわち、販売装置を導入しようとする旅行業者等は、何からの一般会計ソフトを用いて財務会計を行っているか、事業開始に伴い財務会計を必要とする者達である。特許装置は、財務会計のための一般会計ソフトと連動可能であることが前提となっているところ、運動させることによって、企業会計原則に適合した財務諸表を作成することができるということを、甲第23の1文書は述べているに過ぎない。販売装置や特許装置を財務会計に連動させることが、特許法上何の障害にもならないことは言うまでもない。
それはさておき、出願時の技術水準を把握するためであればともかく、発明の要旨認定は特段の事情がない限り特許請求の範囲に基づいて認定されなければならず、技術的意義が一義的に明確に把握できない等の特段の事情があるときでさえ参酌対象が明細書の発明の詳細な説明の記載に限られるのであるから(リパーゼ事件、最高裁平成3年3月8日)、請求人が販売促進のために特許取得後に配布した広告文書をもって特許発明の要旨認定を行うことなど決して許されることではない。したがって、甲第23の1文書自体は、特許発明の要旨認定の基礎になりえない。仮に基礎とすることが許されるものであったとしても、上述した理由から甲第23の1文書が、本件特許発明に何ら影響を与えるものでないことは明白ではあるが、念のために申し添えておく。
(6)請求人は、「このことから、計上基準日の記載なしには、売仕同日計上は全く達成されないし、また段落【0015】の記載からも、本件発明者は、計上基準日が本件発明の成立には、不可欠であると出願時認識していた」と主張する(請求人上申書2頁下から2行目?3頁1行目)。しかしながら、段落【0015】記載の「基準日」と一般会計処理に必要な「計上基準日」とは、前述したように異なる概念であるから、段落【0015】に「基準日」なる記載があっても、売仕同日計上の何ら妨げにはならない。さらに、売仕同日計上は「電子ファイル」によって達成可能であることも前述したとおりである。よって、請求人の主張は、明らかに誤っている。
(7)さらに、「もし、かりに当該構成要件1Bに計上基準日の記載がなくとも、段落【0015】の記載により、売仕同日付計上の機能が達成される、と主張しても、構成要件1Bに、本件発明に不可欠な計上基準日の記載なしに、段落【0015】の記載をもって売仕同日付計上が可能であるとすることは出来ない。」と請求人は主張する(請求人上申書3頁1?5行目)。被請求人の理解に誤りがないとすれば、「構成要件1Bには『計上基準日』なる語の記載が含まれていないが、段落【0015】の記載を根拠に実質的に記載されているという被請求人の主張があったとしても、そのような被請求人の主張をもって構成要件1Bには実質的に『計上基準日』が記載されていることにはならない」ということを、請求人は主張しているようであるが、そのような主張は全くの筋違いである。再三述べるように、構成要件1Bには「計上基準日」が不要だからである。
(8)これまで述べたように、請求人主張に係る一般会計処理上の「計上基準日」は不可欠ではなく、不要である。よって、本項冒頭の請求人主張は、誤りである。

(iii)構成要件1Cについて
(1)請求人は、上記構成要件1C(「1B」の誤記と認められる。)に関した理由により構成要件1Cも不明であると主張する。
(2)しかしながら、上記構成要件1Bについて上記で答弁した理由と同じ理由により上記主張が誤りであることは明らかである。

(iv)構成要件1Dについて
(1)請求人は、上記構成要件1Bに関した理由により構成要件1Dも不明であると主張する。
(2)しかしながら、前記構成要件1Bについて、前記で答弁した理由により上記主張が誤りであることは明らかである。

(v)構成要件1Eについて
(1)請求人は、「ここにいう“予定される総売上額”とは、如何なる状態をいうのか本件明細書中の記載を見ても不明である」と主張するが、誤りである。
構成要件1Eが含む「その旅行商品に関して予定される総売上額と、」との記載は、請求人が主張するように「その旅行商品に関して」「予定される総売上額」とから構成されているのではなく、「その旅行商品に関して予定される」という修飾句と「総売上額」という被修飾語から構成されているのである。したがって、「その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受け金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、」なる記載からなる構成要件1Eが含む、上記3箇所に下線で示す3つの「総売上額」は、すべて同じものである。
「総売上額」が販売商品(構成要件1A参照)を販売して得た代金の総額であることは説明を要しないであろう。さらに、上記「総売上額」は、特許明細書【0010】において「総売上額」として、また、少なくとも【0041】【0042】【0045】【0046】【0053】において「総売上金額」として、それぞれ明確に記載されている。「総売上額」と「総売上金額」とが同議であることに異論を挟む余地はない。
よって、本項冒頭に記載したように、請求人の主張は誤りである。
(2)請求人は、「売上(総売上額)は、予定されるのではなく、確定して計上される、ものであって、そうでないと経理処理できない。」と主張するが、誤りである。
本件特許発明は、一般会計処理における「経理処理」を目的とするものではなく、一般会計処理における経理処理を行うことができるようにする前段階における処理を目的とする。すなわち、前掲「(C-1)旅行業界における会計処理の特殊性」の欄で述べたように、旅行会社にとって当該旅行商品についての総売上額は、その旅行商品に関して予定されるものとして捉えざるを得ない、という旅行業界における会計処理の特殊性の上に立脚した上で、前掲した「(C-2)本件特許に係る会計処理装置の特徴」の欄で述べたように、管理会計又は一般会計を行う前段階において「売上」「仕入」等を仕分することを目的とするものなのである。
よって、一般会計処理を前提とする請求人の主張は、本項冒頭に記載したように誤りである。
(3)請求人は、「本件特許発明では、“予定される総売上額”から“総売上額”に変る計上基準日が明確に記載されていないので、前受金・未収金の計上・仕訳が実行されるタイミングが全く不明確となってしまう。他の金額(例えば、“総前受金額”)との比較対象とはなり得ない」と主張するが、誤りである。
管理会計を主目的とする本件発明には「計上基準日」なるものは不要である。不要である理由は、構成要件1Bに係る答弁の中で既に述べた。「前受金」「未収金」は一旅行商品単位で同日付にて計上する(構成要件1P)のであるから、計上・仕訳が実行されるタイミングは極めて明快である。
(4)最終段階において請求人は、「したがって、“予定される総売上額”と“総売額”とが混在して用いられる本件構成要件1Eは、発明の一構成要件として全く機能しない。よって、認識日の基準を欠く本構成要件は、不完全である」と主張するが、誤りである。
上記「(1)」で述べたように、構成要件1Eが含む3つの「総売上額」は、すべて同じものであるから、「予定される総売上額」と「総売上額」とが混在することにならない。さらに、上記(3)で述べたように、そもそも「計上基準日」なるものが不要なのであるから、認識日の基準を欠くという請求人の主張は根拠を欠いている。
(6)よって、請求人の主張は、本項冒頭に記載したように誤りである。

(vi)構成要件1Fについて
(1)要するに請求人の主張は、「計上基準日」が必要であるが、構成要件1Fはこれを含まない、ということである(請求人上申書3頁15?17行目)。
(2)しかしながら、構成要件1Bについて被請求人が主張したように、本件特許発明に「計上基準日」は不要である。したがって、構成要件1Fが、「計上基準日」を含まないのは当然であって、未完成であるとの請求人の主張は明らかに誤りである。
(3)証人高津純一氏の証言を請求人は引用するが(請求人上申書3頁18行目以下)、平成19年7月26日期日の口頭審理期日において被請求人の代理人が乙第5号証を提示して「管理会計をご存知ですか」という趣旨の質問をしたところ、同氏は、「財務会計に対して管理会計があることは知っている」と、まず、「管理会計」の存在を明確に肯定した後、「財務会計の経験が主なので、経験上、管理会計を意識したことはない」と返答された。管理会計を意識したことがない者であれば、財務会計のみの経験に基づいて「計上基準日」が不可欠であると証言することはあり得ようが、管理会計を意識していないことが前提となっている証言は本件特許発明に対して何ら意味を持たないことは言うまでもない。乙第5号証のみならず職業会計人である税理士高津証人がその存在を肯定する「管理会計」について請求人は何も述べていないが、本欄に係る主張を含めた「計上基準日」を拠り所とする請求人の主張は、そのすべてに根拠がないことは明らかである。ここで、敢えて繰り返す。管理会計を主目的とする本件特許発明には「計上基準日」は不要なのである。
(4)なお、ついでに述べるが、高津証人に次いで証言された深谷証人は、「管理会計をご存知ですか」の質問に対して「存じません」という趣旨の返答をされた。深谷証人が会計処理システムの専門家であることについて被請求人は不知であるが、「管理会計」についての知識を持たない同氏が「計上基準日」が不可欠であるとする証言は、本件審判において何ら意味をなさないことは容易に理解されよう。
(5)よって、構成要件1Fに何ら不備はない。

(vii)構成要件1Gについて
「前出1Eと同じ理由により当該構成要件の内容が不明である」との請求人の主張は、前掲「(v)構成要件1Eについて」の欄で被請求人が述べた理由により誤りである。

(viii)構成要件1Hについて
(1)請求人は、第1に「計上基準日」の記載を欠くこと(請求人上申書4頁13行目)、第2に「未収金」は誤りであって「未払金」であるべきこと、を主張している(請求人上申書4頁18?19行目)。
(2)上記第1については、本件特許発明に「計上基準日」が不要なことだけ主張しておく。既に述べてあるため、その不要な理由については重複を避けるため省略する。
(3)上記第2については、「未収金」は誤りであって「未払金」であるべきことは、認める。しかし、同誤りは、平成18年10月23日付けで提出した訂正請求書に係る訂正によって適法に解消されている。同訂正が適法である理由は、同訂正請求書7頁22行目「請求項1に係る第4及び5の訂正について」の欄、及び、被請求人口頭陳述要領書7頁21行目「2.請求項1及び請求項3に係る第2から第5訂正について」の欄において詳細に述べてあるので、両記述を参照されたい。
(4)以上から明らかなように、構成要件1Hに何ら不備はない。

(ix)構成要件1Iについて
「前出1Fと同じ理由により当該構成要件の内容が不明である」との請求人の主張は、前掲「(vi)構成要件1Fについて」の欄で被請求人が述べた理由により誤りである。

(x)構成要件1Jについて
「“売上仕入計上処理を実施する”“基準日”が特定されていないから、当該構成要件の記載には不備がある」との請求人の主張は、前掲「(ii)構成要件1Bについて(2)」の欄で被請求人が述べたように、「計上基準日」なるものは不要であるから誤りである。

(xi)構成要件1Kについて
「上記(x)構成要件1Jについての記載に不備である」ことを理由に構成要件1Kの記載に不備があるとの請求人の主張は、上記「(x)構成要件1Jについて」の欄で述べた理由と同じ理由により誤りである。

(xii)構成要件1Lについて
「上記構成要件1Jが不備である」ことを理由に構成要件1Lの記載に不備があるとの請求人の主張は、上記「(x)構成要件1Jについて」の欄で述べた理由と同じ理由により誤りである。

(xiii)構成要件1Mについて
「上記(vii)と同様の理由」により構成要件1Mの記載に不備があるとの請求人の主張は、上記「(x)構成要件1Jについて」の欄で述べた理由と同じ理由により誤りである。

(xiv)構成要件1Nについて
「上記(xi)構成要件1Kについての記載に不備がある」ことを理由に構成要件1Nの記載に不備があるとの請求人の主張は、上記「(x)構成要件1Jについて」の欄で述べた理由と同じ理由により誤りである。

(xv)構成要件1Oについて
(1)「“計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた『未収金』に対して自動振替して経理ファイル上に計上する”の意味が、発明の詳細な説明の該当箇所及び図面(甲第1号証、図7及び【0071】(【0062】の誤記と思われる。被請求人による)を参照して全く不明確・不明瞭であって、具体的に如何なる構成要件を示しているのか不分明である」と、請求人は主張するが、誤りである。
(2)「未収金」とは、売上計上前に顧客から入金がなかった売上金額を示す勘定科目である(特許明細書【0013】参照)。売上計上時に立てた、この「未収金」に対して自動振替して経理ファイルに計上することが、構成要件1Oに記載されている。参考資料1に示す取引手順によれば、同資料が示す「[6]33万円の未収金」に支払われた「33万円〔S9〕」を振り替えることをいう。同資料が示す取引例は、特許明細書【0062】及び図7に記載した取引手順と異ならない。したがって、少なくとも上記記載を参照すれば、構成要件1Oの内容を容易に理解できることが明らかである。
(3)よって、本項冒頭に記載したとおり請求人の主張は誤りである。

(xvi)構成要件1Pについて
(1)請求人は、「“経理ファイル上に『売上』と『仕入』とが、一旅行商品単位で同日付にて計上されるよう”にするためには、単一に統一されたタイミング(基準日)によって計上されなければならないが、本構成要件1Pでは、それらのタイミングが、明確に統一されていないので、本構成要件1Pも未完成である」と主張する(請求人上申書4頁26-29行目)。
(2)本件特許発明には、請求人が主張する「基準日」は不要である。不要である理由は、既に述べたので割愛する。高津証人が管理会計に関する意識を持っていなかったことは、前掲「(vi)構成要件1Fについて(3)」の欄で述べたとおりである。
(3)よって、構成要件1Pに何ら不備はない。

(xvii)全体の構成要件の記載について
(1)請求書第11頁下から6行目以下において縷々述べているが、本件特許発明はハードウエア資源を用いて具体的に実現されている。この点に一点の曇りもない。
(2)請求人は甲第13号証の一体どこを参照すれば、本件特許発明がハードウエア資源を用いて具体的実現されていないことが分かるのか。引用するのであれば、少なくとも引用箇所と引用した趣旨ぐらいは記載しておくべきである。
(3)甲第3号証第4頁の第21行目には、「ハードウエア資源」について定義されている。同定義によれば、ハードウエア資源とは、処理、操作、又は機能実現に用いられる物理的装置又は物理的要素をいう、とある。特許庁において審査官が認めた本特許発明について、そのどこがどうして上記定義から外れるのか、ただ言い放つだけでなく明確な根拠を示すべきである。特許庁が定めた審査基準を否定しろと言うのであろうか。まったく理解できない。
(4)なお、念のために、本件特許発明と同じ会計処理関連の特許発明に係る特許公報を添付しておく(乙第3号証、乙第4号証)。上記公報に係る特許請求の範囲の記載形式は、本件特許発明に係る記載形式と同じである。本件特許公報がハードウエア資源を用いていないというのであれば、乙第3号証及び第4号証に係る特許発明も無効理由を含むことになるが、そのようなことは、これまでの実務に照らして明らかに不合理である。
(5)請求書第12頁第17行目?18行目において「本件特許発明の会計処理システム経理処理を行うと、決算を適切に処理・完結できないので、本願特許発明は、完全に発明未完成である」と請求人は主張する。しかしながら、本件特許発明は、適切な処理・完結できるし、実施実績も多数ある。被請求人は、必要に応じて実施実績を証明する用意もある。そもそも、請求人が主張するように経理処理を適切に処理・完結できないであれば、本件特許発明は請求人にとって何ら障害にならないはずである。被請求人は請求人に対して差止請求をしたことも損害賠償請求をしたこともない。平成15年改正前であれば利害関係がないことを理由に請求人の請求は棄却されたであろう。それにも関わらず、唐突に無効審判を請求してきたということは、本件特許発明が充分に実施可能であることを請求人が最もよく知っているからであると推測せざるを得ない。繰り返すが、本件特許発明は確実に実施可能であって完成されたものである。
(6)請求項第12頁第6行目?9行目において「経理ファイル上に『売上』と『仕入』とが、『前受金』、『未収金』、『前払金』と共に、一旅行単位で同日付にて計上されるようにした」を到底達成できないので、発明未完成である、請求人は主張する。
しかしながら、上記「経理ファイル」は「電子ファイル」である(構成要件1A、構成要件3A参照)。当業者であれば、電子ファイルを用いることによって上記計上を行うことができることに疑いはない。
したがって、冒頭記載の請求人の主張は誤りである。

II.請求項2の特許発明について
(i)構成要件2Bについて
(1)請求人は、「通常、そのような『見極めつつ』などの暖味さや不確定要素を伴う場合を『確定』とは言わない。よって、本構成要件2Bも未完成である」と主張する。
(2)しかしながら、管理会計を主目的とする本件特許発明にあっては、財務会計における「確定」とは必ずしも同じである必要はない。「売上」と「仕入」とを何れか一方が生じたときに、その生じた一方を計上し、その計上した日と同じ日を、まだ生じていない(或いは同日に生じた)他方の計上日とみなすことによって確定させれば、「売上」と「仕入」とを別々に計上する必要がなくなる。管理会計だからこそ許される手法である。請求人の主張は財務会計が前提となっているに過ぎない。
(3)よって、構成要件2Bに何ら不備はない。

III.請求項3の特許発明について
(1)請求人は、請求項1に対する無効理由が、そのまま請求項3にも該当する、と主張する。
(2)請求項3が請求項1と異なるのは、後者が会計処理装置であるのに対し、前者がコンピュータプログラムである点のみである。この点だけを見れば、請求人の主張は正しい。
(3)これまで述べたように、請求項1についての請求人の主張はすべて誤りであるから、請求項1について述べた理由により請求項3に対する請求人の主張は、すべて誤りである。

IV.請求項4の特許発明について
(1)請求人は、請求項2に対する無効理由が、そのまま請求項4にも該当する、と主張する。
(2)請求項4が請求項2と異なるのは、後者が会計処理装置であるのに対し、前者がコンピュータプログラムである点のみである。この点だけを見れば、請求人の主張は正しい。
(3)これまで述べたように、請求項2についての請求人の主張はすべて誤りであるから、請求項4について述べた理由により請求項3に対する請求人の主張は、すべて誤りである。

(C-4)請求人(山口 準一郎)の主張の要旨について
(1)「『債権債務の管理が容易である』ことを課題としている」について(請求人上申書5頁19行目)
[1]山口氏は公開特許公報【要約書】を取り上げて綾々述べている。
[2]しかしながら、そもそも、要約書は発明の概要を単に示すものにすぎ
ないから、本件特許発明の要旨認定に何ら関与するものでない(特許
36条7項、特許法施行規則25条の2、特許法70条3項)。よ
って、この点のみをもっても、山口氏の主張は失当である。
[3]とはいえ、念のために一言だけ反論しておく。管理会計を前提とする
本件特許発明に「計上基準日」は不要である。「計上基準日」が必要
となるのは、財務会計を行うときである(I.構成要件1B(5)参
照)。

(2)「『オートマチカル』について」について
[1]「それに対して被請求人は『はい』と答えられた」こと(請求人上申
書8頁7行目)は事実である。
[2]しかし、この「はい」は、すべて全自動ではないという意味の相槌で
ある。そもそも、請求人の主張は、「本件特許発明では、所定ソフト
ウェアによる経理情報処理装置がハードウエア資源を用いて具体的に
実現されていない」という趣旨であった。請求人の主張は自動振替の
「自動」に係るものではなく、被請求人に対する審判長の質問も当初
の請求人の主張を踏まえた上での質問である。
[3]質問をすり替えてまで本件特許発明を無効にしようとする請求人のな
りふり構わぬ態度は、明らかに審判を愚弄するものである。厳に慎む
べきである。

(3)「『未収金』『未払金』について」について
「未収金」「未払金」についての反論は、構成要件1Hの欄で既に行ったので、ここでは省略する。一方、およそ人間が行う明細書作成である。一点の曇りもない完壁な特許明細書が、一体どれだけあるというのか。些細な誤記があったことを理由に、それが社会責任を軽視しているというのであれば(請求人上申書8頁最終行)、世に存在する特許明細書の大部分が社会を軽視していることになろう。審判は特許法123条1項各号に限定列挙された無効理由に本件特許発明が該当するかしないかを議論する場であって感情論を論じる場ではないこと、出願人(権利者)が間違いを起こすことを当然の前提として特許法には手続補正(17条以下)、訂正請求(134条の2)、訂正審判(126条)等の規定が設けられていること、を山口氏は、真摯に学ぶべきである。

(4)「『現金』を『前受金』に振り替えることはできない」について
被請求人は、この点については、本件補正後に、改めて言及していないが、平成19年12月25日付の意見書の「(3)構成要件1Fについて」の記載からみて、被請求人は以下の旨の意見を述べていると認められる。
『発明の詳細な説明及び図面の記載からみて、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上することは、明細書及び図面による裏付けがある。』

(5)「『確定』の意味(構成要件2B)について」について
構成要件2Bでいう「確定」とは、文字通り金額が定まること、をいう。前掲「(4)旅行業界における会計処理の特殊性」の欄で述べたように、総売上額は時間の経過と共に増減する場合がほとんどである。これと連動して「売上」と「仕入」も変動する。旅行業界における特殊性に鑑みれば、ある程度の金額変動を見極めつつ会計処理のために確定させなければならない。したがって、上記「確定」が必要となる(答弁書19頁12行目以下)。

(6)「被請求人の旅行業界への本特許内容の説明/宣伝について」について
前掲した「I.構成要件1Bについて(6)」の欄を参照されたい。

6.無効理由について当審の判断
(A)無効理由について
請求人は、発明が未完成であることと各請求項に係る発明の構成要件の記載が不備である旨主張しているので、本件の無効理由は、口頭審理で確認したとおり、特許法第29条第1項柱書及び同法第36条第6項第2号違反であると認め、以下これらの点について検討する。

(B)「計上基準日」について
請求人及び被請求人の主張からみて、請求項1?4の特許発明に「計上基準日」が不可欠であるかどうかの点について争っているので、まず、この点について以下に検討する。
(1)旅行業界における会計処理の特殊性について
請求人は、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減する業界・業種は、他にも普通に存在するので、このことは旅行業界における特殊性ではないし、また、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減することと計上基準日が不可欠であることはそれぞれに独立した事項であり、相互否定や相互関係にあるものではない旨主張している(請求人の上記構成要件1Bについての主張参照)。
しかしながら、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減する業界が他にも存在することは認められるが、旅行業界においても、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減することは明らかである。
そして、請求人の主張するように、売上/仕入が確定に至るまでの間に増減することと計上基準日が不可欠であることはそれぞれに独立した事項であり、相互否定や相互関係にあるとは認められないので、上記特殊性は、「計上基準日」が不可欠であるとの理由にも、「計上基準日」が不要である理由にもならないものであると認められる。

(2)本件特許発明の会計処理装置の特徴について
請求人は、「会計原則や会計基準に馴染まない特許発明は、会計処理として実用性がなく、それ故、その基盤とするビジネスモデル自体が未完成である」旨主張しているので、この点について検討する。
発明の詳細な説明の段落【0003】、【0006】、【0007】等の記載からみて、本件特許発明の会計処理装置は、経営者が、債権債務の正確な把握を行って正確な経営判断を行うこためのものであり、企業外部向けに使用されるものでなく、企業内部向けに使用されるものであると認められる。
また、被請求人の提出した乙第5号証には、以下の事項が記載されている。
「Accounting(会計・経理)は大きく、Financial Accounting(財務会計)、Management Accounting(管理会計)そして、Tax Accounting(税務会計)にわけることができます。
財務会計
Financial Accounting(財務会計)は、Investor(投資家)やBusiness(企業)関係者および一般の人たちが、Management(マネージメント・経営者)の経営能力を正しく評価するための情報を提供します。
Financial Accounting(財務会計)は、主に外部的に使われるため、客観的な見解によって作成され、一般的にAccounting(会計)と呼ばれるのは、Financial Accounting(財務会計)のことをさします。
Business(企業)のType(種類)にもよりますが、Financial Accounting(財務会計)が企業外部、すなわちInvestor(投資家)、Bank(銀行)などが今後の融資およびInvestment(投資)の判断をするための重要な情報を提供するので、Financial Accounting(財務会計)は、GAAP(一般的に認められた会計原則)に則っていなければいけません。
管理会計
Management Accounting(管理会計)は、Management(マネージメント・経営者)を助けるためのAccounting(会計)と覚えてください。
Management Accounting(管理会計)を基に、Management(マネージメント・経営者)は、Goods(商品・製品)のPrice(価格)を決定したり、Goods(商品・製品)をどれぐらい製造するかなどを検討するための情報を提供します。
Management Accounting(管理会計)は、企業内部で使用されるため、主観的な判断を基にManagement(マネージメント・経営者)の必要に応じて作成されます。また、企業内部のみで使用するという特異性のため、GAPP(一般的に認められた会計原則)に必ずしも沿っていなければいけないという決まりはありません。」(第105頁第2行?第106頁第8行)

また、被請求人の提出した乙第6号証には、以下の事項が記載されている。
「(2)管理会計
管理会計(management accounting)は、内部利用者のための会計(accounting for internal users)である。内部報告会計とも呼ばれる。すなわち,経営者が経営管理を行うにあたって必要な会計情報を提供することを目的とする。一般に経営者は、将来の企業の行動案を探り,適切な計画(planning)をたてなければならない。そして,その計画を実行に移し,その結果を計画に照らして評価しながら、統制(cntorol)してゆかなければならない。管理会計は,このような計画と統制に有用と思われる会計情報を経営者に提供することを目的としている。」(第8頁第17行?同頁第25行)

さらに、被請求人の提出した乙第7号証には、以下の事項が記載されている。
「(2)財務会計と管理会計
企業会計は、会計報告書が企業の外部者に向けられるのか、それとも企業の内部者に向けられるのかによって、財務会計(financial accounting)と管理会計(management accounting)に分けられる。
財務会計は、外部の利害関係者を会計報告書の受け手として行う会計である。したがって,財務会計は外部報告会計とも呼ばれる。そこでは,会計報告書の統一性や比較可能性が要求されるので,会計原則や会計基準,商法や税法などに従って会計処理や報告が行われる。
これに対して,管理会計は,社長を頂点とする企業内部の経営管理者のために,企業の活動を測定し報告する会計である。このことから,管理会計は内部報告会計と呼ばれることもある。典型的には,経営者が経営計画の立案や予算管理,原簿管理などを行うに当たって必要な会計情報を提供することである。」(第87頁第1行?第88頁第6行)

以上の事項を考慮すると、本件特許発明の会計処理装置が実行する会計は、内部利用者のためのものであり、その会計は、いわゆる「管理会計」であることは明らかであり、その会計処理は、一般的に認められた会計原則に必ずしも沿っていなければいけないという決まりはないので、必ずしも、会計原則や会計基準に沿って行う必要はないと認められる。
したがって、請求人の「会計原則や会計基準に馴染まない特許発明は、会計処理として実用性がなく、それ故、その基盤とするビジネスモデル自体が未完成である」との旨の主張は採用することはできない。

(3)段落【0015】の記載について
また、請求人は、『本件特許公報(甲第1号証)の段落【0015】の記載を基に、「計上基準日」の記載なしには、売上同日計上は全く達成されない』との旨を主張しているので、当該主張について以下に検討する。
まず、この記載において、「計上基準日」との記載はない。
次に、「基準日」が記載されているので、当該「基準日」が「計上基準日」に該当するかについて検討すると、前述したとおり、本件特許発明で用いられる会計は、管理会計であり、「計上基準日」を必ずしも必要としないことを考慮すると、同段落の記載およびその前の段落【0014】の記載では、「売上」と「仕入」を同日計上するために、「売上」と「仕入」の一方を選択し、その選択した計上日を基準日として、この基準日に他方の計上日を合わせる処理をしていると認められるので、当該「基準日」は、その選択した一方の計上日であり、売仕同日計上を行わない一般会計に用いられる「計上基準日」とは、その概念が異なると認められる。
したがって、段落【0015】には計上基準日を必要とする旨が記載されているとは認められないので、請求人の当該主張は採用することができない。

(4)「ビジネスモデル特許取得のご報告」について
請求人は、『本件特許発明の明細書及び図面以外の文書である「ビジネスモデル特許取得のご報告」(甲第23号証)を基に、発明の認定し、それに基づき、請求項の記載に「計上基準日」が不可欠である』という旨の主張をしているので、当該主張について以下に検討する
発明の認定は、特段の事情のない限り特許請求の範囲の記載に基づいてされなければならず、特段の事業がある場合でも、参酌される記載は発明の詳細な説明又は図面の記載である。
したがって、本件特許発明の明細書及び図面以外の文書の記載に基いた発明の認定を前提とした請求人の当該主張は採用することはできない。

(5)証人の証言について
上記(2)で述べたとおり、本件特許発明での処理に用いられる会計が「管理会計」であると認められる。
そして、高津純一、深谷進の両証人とも、口頭審理での証言の内容からみて、管理会計を意識しておらず、両証人の証言は、財務会計などの一般会計に基づく証言であると認められる。
また、これらの認定を覆すような他の証拠が提示されているとは認められない。
したがって、両証人の証言が基づく会計と、本件特許発明の会計処理装置が実行する会計処理が基づく会計とが異なっているので、両証人の意見を採用することができない。

(6)「計上基準日」についてのまとめ
上記(2)で述べたとおり、本件特許発明での処理が基づく会計は、「管理会計」である。
また、被請求人提出の乙第5号証等の記載からみて、管理会計は、企業内部のみで使用するという特異性のため、一般的に認められた会計原則に必ずしも沿っていなければいけないという決まりはないと認められる。
そうすると、請求項1及び請求項3に記載された処理の内容からみて、本件特許発明でも、上記旅行業界における特殊性に鑑み、所定の時点での債権債務の把握をするために、財務会計などの一般会計では必要とする計上基準日を設けず、売上と仕入を同日計上して所定の会計処理を行っていると認められる。
以上のとおり、本件特許発明において、「計上基準日」が不可欠であるとは認められず、一般的な財務会計と同様に計上基準日を必要とするとの請求人の主張を採用することができない。

(C)各構成要件について
I.請求項1の特許発明について
(i)構成要件1Aについて
請求人は、「この種の会計処理装置では、敢えて証拠を挙げるまでもなく、不可欠の構成であって、それ自体発明力がない。」との旨を主張しているので、当該主張について以下に検討する。
構成要件1Aが、不可欠の構成要件であることは明らかであるが、発明未完成、記載不備には関係がないと認められる。
また、「発明力」が意味するものが不明である。仮に、「発明力」が、「進歩性」という意味である解すると、当該主張は、特許法第29条第2項の規定に関する主張であるため、審判請求書に記載した請求の理由とは異なるので、請求人の当該主張は採用することができない。

(ii)構成要件1Bについて
請求人は、『構成要件1Bについては、同日付計上を要求する「計上日」が不明であり、会計処理においては債権債務と収益の認識日(計上基準日)は不可欠であり、これを欠く本構成要件は、未完成である』との旨を主張しているので、この主張について以下に検討する。
上記(B)で述べたとおり、「計上基準日」は不可欠ではなく、必要としないと認められるので、「計上基準日」を欠くことを理由として構成要件1Bが未完成又は記載不備とするとの上記主張は採用することができない。
また、請求人は、「計上基準日の記載なしには、売仕同日計上は全く達成されない。」との旨を主張しているので、この主張について以下に検討する。
構成要件1Bに『いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、・・・、をそれぞれ判定する操作種別判定手段』と記載されており、構成要件1Cには、「操作種別判定手段により、第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段」と記載されており、構成要件1E?1Hの記載からみて、第1の計上処理手段が実行する第1の計上処理は、同日付計上に関する処理であると認められる。
してみれば、本件特許発明の会計処理装置は、「売上」及び「「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったことことを判定した日を基準に、同日付計上を行っていると認められる。
なお、上記6.(B)(3)で述べたとおり、段落【0015】に計上基準日を必要とする旨が記載されているとは認められない。
したがって、請求人の当該主張を採用することができない。

(iii)構成要件1Cについて
請求人は、「上記(ii)に関した理由により不明である。」と主張するが、請求人の主張する(ii)に関した主張を採用できないので、同様に当該主張を採用することができない。

(iv)構成要件1Dについて
請求人は、「上記(ii)に関した理由により不明である。」と主張するが、請求人の主張する(ii)に関した主張を採用できないので、同様に当該主張を採用することができない。

(v)構成要件1Eについて
請求人の「ここにいう“予定される総売上額”とは如何なる状態をいうのか本件明細書中の記載を見ても不明である」との主張は、財務会計などの一般会計に基づくものであると認められるのに対し、本件特許発明における会計処理は、6.(B)(2)で述べたように、管理会計に基づくものであり、旅行の申込、旅行の終了、旅行代金の精算などの過程の途中で行われるものであり、処理後に旅行商品の内容が変化することも起こるので、「総売上額」は予定されるものであることは明らかであるので、請求人の当該主張を採用することができない。
また、上記6.(B)で述べたとおり、「計上基準日」を必要としないことは明らかであり、一旅行商品単位で同日付で計上が実行され、計上・仕訳が実行されるタイミングが明らかであるので、請求人の「本件特許発明では、“予定される総売上額”から“総売上”に変る計上基準日が明確に記載されていないので、前受金・未収金の計上・仕訳が実行されるタイミングが全く不明確になってしまう」との主張を採用することができない。
したがって、請求人の「“予定される総売上額”と“総売上額”とが混在して用いられている本構成要件1Eは、発明の一構成要件として全く機能しない。」との主張も採用することができない。

(vi)構成要件1Fについて
上述したとおり本件特許発明に「計上基準日」が不可欠ではなく不要であると認められるので、「計上基準日」が不可欠として「計上基準日」が不明であることを理由にして構成要件1Fの記載が不備であって未完成であるとの主張は採用することができない。
また、経理ファイルの貸方に、既に借方に計上済みの前受金相当の「現金」を「前受金」に自動振替するという1Fに記載された処理が会計処理装置の処理として実行可能であることは明らかであり、この処理を含む計上処理を実行することにより利益把握ができることは発明の詳細な説明の記載からみて明らかである。
したがって、構成要件1Fに関して請求人が主張した記載不備はなく、本件特許発明が発明未完成であるとは認められない。

(vii)構成要件1Gについて
請求人は、「前出1Eと同じ理由により当該構成要件の内容が不明である。」旨主張しているが、構成要件1Eについての請求人の主張を採用することができないので、構成要件1Eと同様の理由により当該主張を採用することができない。

(viii)構成要件1Hについて
上述したとおり本件特許発明に「計上基準日」が不可欠ではなく不要であると認められるので、計上基準日の記載を欠くから、本構成要件の内容が全く不明であるとの主張は採用できない。
「未収金」が誤りであって、「未払金」を使うべきとの請求人の主張は、第5訂正事項が認められないことを前提としたものであり、上記のとおり第5訂正事項は認められるので、請求人の当該主張は採用することができない。

(ix)構成要件1Iについて
上述したとおり、構成要件1Fについての請求人の主張を採用することができないので、同様に当該主張を採用することができない。

(x)構成要件1Jについて
上記(B)で述べたように、本件特許発明は基準日(計上基準日)を必要としないので、「基準日」を特定する必要がないので、「構成要件1Jの記載に不備がある」という旨の請求人の主張を採用することができない。

(xi)構成要件1Kについて
上述したとおり、構成要件1Jの記載に不備があるという請求人の主張を採用することができないので、「構成要件1Jを含む構成要件1Kについての記載に不備がある」という旨の請求人の主張は採用することができない。

(xii)構成要件1Lについて
上述したとおり、構成要件1Jの記載に不備があるという請求人の主張を採用することができないので、「構成要件1Jを限定した本件構成要件1Lについて記載不備がある」という旨の請求人の主張を採用することはできない。

(xiii)構成要件1Mについて
上述したとおり、構成要件1Lの記載に不備があるという請求人の主張を採用することができないので、当該構成要件1Mについて記載不備があるとの請求人の主張を採用することはできない。

(xiv)構成要件1Nについて
上述したとおり、構成要件1Kの記載に不備があるという請求人の主張を採用することができないので、「構成要件1Kを限定した構成要件本構成要件1Nの記載にも不備がある」という旨の主張を採用することができない。

(xv)構成要件1Oについて
構成要件1Nの記載に不備があるという請求人の主張を採用することができないので、上記(xiv)と同様の理由により当該記載に不備がある旨の請求人の主張は採用することができない。
また、当該構成要件の“計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する”の記載が発明の詳細な説明の該当箇所および図面(甲第1号証、図7および段落【0071】)を参照しても全く不明確・不明瞭である旨の請求人の主張について検討すると、構成要件1Oに対応する発明の詳細な説明の該当箇所は段落【0061】および【0062】であり、構成要件1Oの内容は段落【0061】および【0062】に説明されており、これらの記載および第7図を参照すれば、構成要件1Oの内容は容易に理解できる事項であり、また、請求項1の記載からみて、構成要件1O自体の記載は明確・明瞭である。
したがって、「当該記載が不明確・不明瞭であるため、具体的に如何なる構成要件を示しているのか不分明である」という旨の請求人の主張を採用することができない。

(xvi)構成要件1Pについて
上記の6.(B)で述べたとおり、本件特許発明に用いられる会計は、管理会計であり、「計上基準日」を不可欠としないものであるので、「計上基準日」を不可欠であることを前提とした請求人の主張を採用することができない。
また、本件特許発明の「経理ファイル」と、請求人の主張する「貸借対照表」とは、貸借関係を表すものである点で共通するものであるが、本件特許発明は管理会計を前提としており、「貸借対照表」は財務会計を前提にしており、両者は同じものではなく、上記の6.(B)(2)で述べたとおり、利益把握のために財務会計などの一般会計とは異なる管理会計の処理を行っているので、一般会計の処理を前提とした請求人の当該主張は採用できない。

(xvii)全体の構成要件の記載について
(1)上記の6.(B)で述べたとおり、請求項1の各構成要件の記載に不備がなく、発明未完成とは認められないので、請求人の「本件特許発明は、この種のビジネスモデルして全く不完全である」旨の主張を採用することができない。
(2)第1回拒絶理由通知(甲第12号証参照)で通知した特許法第29条第1項柱書に関する拒絶の理由は、本件特許発明では、所定ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて実現されていない旨の指摘は、請求項1に係る発明が特許法第2条でいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないことを述べたものであり、請求人の主張する発明未完成とは関係のない理由である。なお、第1回拒絶理由通知後の補正により、この拒絶理由も解消されたと判断されて、特許査定がなされており、請求項1の記載からみて、審査官のこの拒絶理由が解消したとの判断は妥当であり、当該理由の解消のためにロジック回路等までも記載する必要はないと認められる。
したがって、本件特許発明の会計処理システムで経理処理を行うと、決算を適切に処理・完結できないので、本件特許発明は、完全に未完成である旨の主張を採用することができない。

(xviii)請求項1に係る特許発明についてのまとめ
以上のとおり、請求項1に係る特許発明を構成する各構成要件に不備はなく特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
また、請求項1に係る特許発明が、発明未完成であるとは認められず、「産業上利用することができる発明」であると認められるので、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしている。

II.請求項2に係る特許発明
(i)構成要件2Aについて
構成要件1Aと同じ理由により採用することはできない。

(ii)構成要件2Bについて
上記の6.(B)で述べたとおり、本件特許発明に用いられる会計は管理会計であり、利益把握のために「売上」と「仕入」を同日計上している。そして、発明の詳細な説明の記載によれば、同日計上のために、金額データを全て確定して、「売上」と「仕入」とを何れか一方が生じたときに、未記入のデータや変更のあった金額データを登録・変更して金額データを全て確定して、生じた一方を計上し、その計上した日と同じ日を、まだ生じていない他方の計上日とみなして計上していると認められる。
したがって、「確定」の用語が一般的に用いられている意味で用いられており、「確定」の用語について請求人の主張する記載不備はなく、本願特許発明が発明未完成であるとは認められない。

III.請求項3に係る特許発明について
前述したとおり、請求項1に係る各構成要件には不備はなく、また請求項1に係る発明が未完成であるとは認められないので、請求項1に係る特許発明と同様の理由により、請求項3に係る各構成要件には不備はなく、また請求項3に係る発明が未完成であるとは認められない。

IV.請求項4に係る特許発明について
前述したとおり、請求項2に係る各構成要件には不備はなく、また請求項2に係る発明が未完成であるとは認められないので、請求項2に係る特許発明と同様の理由により、請求項4に係る各構成要件には不備はなく、また請求項4に係る発明が未完成であるとは認められない。

(D)請求人(山口 準一郎)の主張の要旨について
請求人(山口 準一郎)の主張の要旨は、整理された争点である構成要件についての主張とは別の主張であるものの、その主張内容からみて、当該構成要件の主張と関係あると認められるので、請求人(山口 準一郎)の主張の要旨についても検討する。
(1)「『債権債務の管理が容易である』ことを課題としている」について
まず、特許法第70条第3項の規定により【要約書】に基づいて発明の技術的範囲を定めることはできないので、【要約書】の記載を基づいた当該主張は無効理由についての主張としてはその根拠を欠くものである。
次に、既に上記6.(B)(2)で述べたように、本件特許発明の会計処理装置が実行する会計処理では、財務会計などの一般会計では必要とする「計上基準日」を必要とせず、「管理会計」の処理として売上と仕入を同日計上し、その同日計上した日を基準に計上処理を行って、利益把握を行っていると認められる。
したがって、請求人の『「計上基準日」を持たないので、いくら会計原則に則らない管理会計に限るとしても、債権債務の管理は出来ないので、本件特許発明は不完全である』との旨の主張を採用することはできない。

(2)「オートマチカル」について
そもそも、この点に関する当合議体よりの質問の内容は、本件特許発明装置の処理が全てオートマチカル(全自動)であるか否かを問うものであり、「振替」に限定しオートマチカルかどうかを問うものではないことは明らかであり、各特許発明において「振替」は請求項に記載のとおり、自動振替を行っていると認められるので、当該質問の内容を正解しない請求人の当該主張は、その根拠を欠くものである。
以上のとおり、当該主張は、その根拠が無いので、その内容についての検討を必要とすることなく、採用することができない。

(3)『未収金』『未払金』について
上記2で述べたとおり第5訂正事項は、誤記の訂正を目的とするものに該当するので、第5訂正に係る訂正は認められる。
したがって、第5訂正に係る訂正が認められないことを前提にした本願発明が不完全とする主張はその前提が誤っており、当該主張はその内容を検討するまでもなく、採用することができない。

(4)「『現金』を『前受金』に振り返ることはできない」について
請求人の主張では、会計原則に則るとすれば、どのような理由により、本件特許発明にどのような間違いがあるのか具体的に述べているとは認められない。
そして、上記の構成要件1Fで述べたとおり、「現金」を「前受金」に自動振替するという当該構成要件1Fに記載された処理を実行することができ、その処理を含む計上処理を実行することにより利益把握が可能であると認められるので、本件特許発明が発明未完成であり不完全であるとは認められない。
したがって、特許発明に誤りがあるとして、本願発明が未完成であるとの請求人の主張は採用できない。

(5)「『確定』の意味(構成要件2B)について」について
上記(C)II.(ii)で述べたとおり、「確定」の用語が一般的に用いられている意味で用いられており、「確定」の用語についての請求人の主張する記載不備はなく、本件特許発明が発明未完成であるとは認められない。

(6)「被請求人の旅行業界への本特許内容の説明/宣伝について」について
上記6.(B)(3)で述べたとおり、本件特許発明の明細書及び図面以外の甲第23号証の記載に基づいた発明の認定を前提とした主張は、採用することはできない。

(E)まとめ
以上のとおり、請求項1-4に記載された構成要件の記載に不備はなく、請求項1-4に係る特許発明が明確であるので、当該特許発明に係る出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
また、請求項1-4に記載された構成要件の記載に不備はなく、請求項1-4の各構成要件により請求項1-4に係る特許発明は当該特許明細書に記載された効果を奏するものと認められ、各請求項に係る特許発明が発明未完成であるとは認められないので、請求項1-4に係る特許発明は特許法第29条第1項柱書でいう「産業上利用することができる発明」に該当し、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしている。

7.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する理由によっては本件請求項1?4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
旅行業向け会計処理装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経理データを、複数の販売商品から構成される旅行商品毎に管理するための貸借対照表に相当する電子ファイルである経理ファイルと、
いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段と、
操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第2の計上処理手段とを有し、
第1の計上処理手段は、
その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、
前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、
その旅行商品に関して予定される総仕入額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前払金の総額である総前払金額とを比較して、総仕入額と総前払金額とが一致していること、総仕入額よりも総前払金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前払金判定手段と、
前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、
第2の計上処理手段は、
第1の計上処理手段による売上仕入計上処理が実施済みであるか否かを判定する売上仕入済み判定手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みでないと判定されたときに実施される売上仕入前計上処理手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みであると判定されたときに実施される売上仕入後計上処理手段とを含み、
売上仕入前計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前受金」として計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前払金」として計上する前受前払金の計上処理手段とを含み、
売上仕入後計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を仕入計上時に立てた「未払金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する未収未払金の計上処理手段とを含み、
それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする旅行業向け会計処理装置。
【請求項2】
1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目、並びに、各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し、
旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された、ことを特徴とする請求項1に記載の旅行業向け会計処理装置。
【請求項3】
経理データを、複数の販売商品から構成される旅行商品毎に管理するための貸借対照表に相当する電子ファイルである経理ファイルと、
いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段と、
操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第2の計上処理手段とを有し、
第1の計上処理手段は、
その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、
前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、
その旅行商品に関して予定される総仕入額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前払金の総額である総前払金額とを比較して、総仕入額と総前払金額とが一致していること、総仕入額よりも総前払金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前払金判定手段と、
前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、
第2の計上処理手段は、
第1の計上処理手段による売上仕入計上処理が実施済みであるか否かを判定する売上仕入済み判定手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みでないと判定されたときに実施される売上仕入前計上処理手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みであると判定されたときに実施される売上仕入後計上処理手段とを含み、
売上仕入前計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前受金」として計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前払金」として計上する前受前払金の計上処理手段とを含み、
売上仕入後計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を仕入計上時に立てた「未払金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する未収未払金の計上処理手段とを含み、
それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする旅行業向け会計処理装置として、コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項4】
1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目、並びに、各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し、
旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された、ことを特徴とする請求項3に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、旅行業種における会計処理に好適な旅行業向け会計処理システムに係り、特に、経理作業における手間を大幅に削減することが可能であり、しかも債権債務の管理が的確に行える旅行業向け会計処理装置並びに同装置用のコンピュータプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従前、旅行業においては、売上については航空券やクーポン券などのチケットを発券したときに計上し、仕入については支払時に計上するという会計方法を採用していた。
【0003】
このため、債権債務の正確な把握ができず、正確な経営判断が行えなかった。加えて、売上を早期に上げるために早期の発券による売上の前倒しなどが行われることがあり、これもまた正しい経営判断を行う上での妨げとなっていた。
【0004】
一般的な会計処理に関する提案としては、例えば、特開昭62-285177号公報において示された経理自動仕訳システム、特開平6-139260号公報において示された販売管理プログラム、など多くの提案がなされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の一般的な会計処理システム、会計処理方法などは一般的な業務を前提としているため、上記のような旅行業における会計業務の問題点を解決するに十分ではない。
【0006】
本発明は上述の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、経理作業における手間を大幅に削減することが可能であり、しかも債権債務の管理が容易である旅行業向け会計処理装置並びに同装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムを提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的とするところは、売上・仕入などの取引データを従前より早期に経営に反映させることが可能である旅行業向け会計装置並びに同装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムを提供することにある。
【0008】
本発明の更に他の目的とするところは、旅行業種において会計処理業務に有する手間と人手とを削減することが可能な旅行業向け会計処理装置並びに同装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムを提供することにある。
【0009】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の旅行業向け会計処理装置は、
経理データを、複数の販売商品から構成される旅行商品毎に管理するための貸借対照表に相当する電子ファイルである経理ファイルと、
いずれかの旅行商品に関して、利益把握のために「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求する第1の計上要求操作があったこと、「入金」又は「支払」の計上を要求する第2の計上要求操作があったこと、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第1の計上処理手段と、
操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに、当該旅行商品に関して実施される第2の計上処理手段とを有し、
第1の計上処理手段は、
その旅行商品に関して予定される総売上額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前受金の総額である総前受金額とを比較して、総売上額と総前受金額とが一致していること、総売上額よりも総前受金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前受金判定手段と、
前受金判定手段により予定される総売上額と総前受金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの貸方には、予定される総売上額を「売上」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの借方には、既に経理ファイルの借方に計上済みの各販売商品の前受金相当の「現金」を「前受金」にそれぞれ自動振替して計上する一方、前受金判定手段により総売上額よりも総前受金額が少ないと判定されたときには、上記の「売上」計上及び「前受金」自動振替に加えて、予定される総売上額と総前受金額との差額を経理ファイルの借方に「未収金」として計上する売上計上処理手段と、
その旅行商品に関して予定される総仕入額と、その旅行商品に関して経理ファイルに既に計上されている個々の販売商品の前払金の総額である総前払金額とを比較して、総仕入額と総前払金額とが一致していること、総仕入額よりも総前払金額が少ないこと、をそれぞれ判定する前払金判定手段と、
前払金判定手段により予定される総仕入額と総前払金額とが一致していると判定されたときには、経理ファイルの借方には、予定される総仕入額を「仕入」として計上すると共に、これと対応する経理ファイルの貸方には、既に経理ファイルの貸方に計上済みの各販売商品の前払金相当の「現金」を「前払金」にそれぞれ自動振替する一方、前払金判定手段により総仕入額よりも総前払金額が少ないと判定されたときには、上記の「仕入」計上及び「前払金」自動振替に加えて、予定される総仕入額と総前払金額との差額の内訳を経理ファイルの貸方に「未払金」としてそれぞれ計上する仕入計上処理手段と、を含み、
第2の計上処理手段は、
第1の計上処理手段による売上仕入計上処理が実施済みであるか否かを判定する売上仕入済み判定手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みでないと判定されたときに実施される売上仕入前計上処理手段と、
売上仕入済み判定手段により、売上仕入計上処理が実施済みであると判定されたときに実施される売上仕入後計上処理手段とを含み、
売上仕入前計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前受金」として計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を経理ファイル上に「前払金」として計上する前受前払金の計上処理手段とを含み、
売上仕入後計上処理手段は、
計上要求操作が、顧客からの入金に関する計上要求操作であること、仕入先への支払いに関する計上要求操作であること、をそれぞれ判定する操作種別判定手段と、
操作種別判定手段により、顧客からの入金に関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を売上計上時に立てた「未収金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する一方、操作種別判定手段により、仕入先への支払いに関する計上要求操作であると判定されたときには、計上要求にかかる金額を仕入計上時に立てた「未払金」に対して自動振替して経理ファイル上に計上する未収未払金の計上処理手段とを含み、
それにより、経理ファイル上に「売上」と「仕入」とが、「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、一旅行商品単位で同日付にて計上されるようにした、ことを特徴とする。
【0011】
ここで、「旅行商品」とは、旅行業において取り扱う有形・無形のあらゆる商品、例えば航空券、ホテル、ツアーコンダクター同行サービスなどの商品単品、もしくはこれらの商品を二つ以上組み合わせたもののことである。
【0012】
「経理ファイル」とは、経理データを管理するためのいわゆる帳簿のことであり、紙媒体、電子ファイルなど形式は問わないが、経理データの整理などの面から電子ファイルとして保存されることが望ましい。このような経理ファイルは、旅行商品の情報を登録するための旅行商品ファイルと関連付けて処理できるように構成しておけば、旅行商品ファイルと経理ファイルとに別々にデータを登録する手間が省け、経理作業にかかる時間と手間が削減できる。
【0013】
「前受金」とは、売上計上前に顧客から入金があった売上金額を示す勘定科目である。「未収金」とは、売上計上後に顧客から入金があった売上金額を示す勘定科目である。換言すれば、「未収金」とは、売上計上前に顧客から入金がなかった売上金額を示す勘定科目である。「前払金」とは、仕入計上前に仕入先への支払を行った仕入金額を示す勘定科目である。「未払金」とは、仕入計上後に仕入先への支払を行った仕入金額を示す勘定科目である。換言すれば、「未払金」とは、仕入計上前に仕入先への支払が行なわれなかった仕入金額を示す勘定科目である。尚、これらの勘定科目については、その意味づけさえ損なわれなければ他の勘定科目で置き換えても良い。
【0014】
そして、このような構成によれば、売上と仕入を一旅行商品単位で「前受金」、「未収金」、「前払金」、「未払金」と共に、同日計上することから、従前の旅行業向けの会計処理装置では不可能であった、一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また、同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため、不正の防止や正しい経営判断が容易となる。
【0015】
なお、「売上」と「仕入」とを計上する計上日としては、当該旅行商品の出発日であることが望ましい。このような構成によれば、旅行商品が現に顧客に提供された日である出発日を基準日として用いることから、基準日と旅行商品との対応関係が明確である。また、旅行業においては出発日にほとんどの売上・仕入データが確定するので、データ管理上も都合がよい。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目、並びに、各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し、
旅行商品ファイル内に登録された「売上」及び「仕入」に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成される。
そして、このような構成によれば、売上と仕入が確定した後にのみ計上可能とすることにより、より確度の高い金額データを計上することができる。これは、できるだけ正確なデータを帳簿に登録する、という点からも好ましい。
【0017】
別の好ましい実施の形態においては、前記旅行商品ファイルについて、前記精算処理がなされた後に追加精算が生じた際には、前記精算済み旅行商品ファイルと関連付けて追加ファイルを作成し、追加精算を行うようにしても良い。
【0018】
このような構成によれば、仮に精算処理及び計上処理がなされた後に追加精算の必要性が生じた場合でも、元のファイルと関連付けた追加ファイルにより追加精算を行うため、元のデータの変更を行う必要がなく精算及び計上済みのデータの信頼性が担保される。また、追加精算が生じうる場合でも、その確定を待たずに精算及び計上を行うことが可能であり、当該旅行商品のデータを早期に経営に反映することが可能となる。
【0019】
尚、本発明は上述の旅行業向け会計処理装置と同様の構成をコンピュータに実行させるための機能を有する旅行業向け会計処理プログラムとして実現されても良い。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
先に述べたように、本発明に係る旅行業向け会計処理装置は、第1の計上操作があったとき、一旅行商品に関する売上金額及び仕入金額を全て同日付けで売上及び仕入として経理ファイルに登録する第1の計上手段と、第2の計上操作があったとき、売上及び仕入計上前であることを条件として、当該操作で指定の金額を前受金又は前払金として経理ファイルに登録し、売上及び仕入計上済みであることを条件として、当該操作で指定の金額を未収金又は未払金として経理ファイルに登録する第2の計上手段とを具備するものである。
【0022】
より具体的には、本発明を適用したシステムの一例が図1に示されている。同図において、101はサーバ、102は端末機(102-1は経理端末機、102-2は経営者端末機、102-3は営業端末機)、103はデータベース(103-1は航空会社のデータベース、103-2はホテルのデータベース)、104はネットワーク、である。
【0023】
この例においては、端末機102は、ネットワーク104を介してサーバ101に格納された旅行業向け会計処理プログラムを使用する。また、端末機102は他の端末機102、データベース103などとネットワーク104を介して繋がっており、他の端末機102に記憶されたデータを適宜参照したりデータベース103から各種情報を引き出したりすることができる。ここで、ネットワーク104は、一部又は全てをWANやLANなどで構成しても良い。
【0024】
尚、以下においては同図に示される構成を元に説明するが、端末機102の記憶部や外部記憶部などに本発明に係る旅行業向け会計処理プログラムを格納することにより、端末機102のみでも以下の処理を行えるであろうことは言うまでもない。
【0025】
次に、旅行業向け会計処理装置のハード構成の一例が、図2に示されている。ここで示されている旅行業向け会計処理装置のハード構成は、図1において端末機102として示されている装置のハード構成の一例である。図2において、201は制御部、202は入部、203は記憶部、204は外部記憶部、205は通信部、206は表示部、207は出力部、208は時計部である。
【0026】
ここで、入力部202としては、キーボード、マウスなどの入力手段、記憶部203としてはROM、RAMなどの記憶手段、外部記憶部204としては、HDD、FDなどの外部記憶手段、表示部206としては、CRTやLCDなどの画像表示機を用いることが可能である。表示部206には以下で説明する予約カードや、経理ファイルなどが表示される。
【0027】
また、この例において本装置は、通信部205を介して図1に示されるネットワーク104に接続され、サーバ101に格納された旅行業向け会計処理プログラムやデータベース103に格納された情報を利用する。
【0028】
次に、本発明に係る旅行業向け会計処理装置による処理操作の一例を示すフローチャートが図3に示されている。同図に示される処理が開始されると、計上操作が検出されるまでの間は(ステップ302NO)、待機状態となる(ステップ301)。計上操作が検出されると(ステップ302YES)、次のステップに進み計上操作の種別の確認が行われ
る(ステップ303)。
【0029】
ここで、計上操作の種別としては、売上もしくは仕入についての計上処理である第1の計上処理と、現金に0ついての計上処理である第2の計上処理とがある。計上処理の種別の判定が行われ(ステップ304)、その計上が売上もしくは仕入についての計上であると判定されると(ステップ304YES)、第1の計上処理へと進む(ステップ305)。逆に、その計上が売上もしくは仕入に関するものではない、即ち現金に関するものであると判定されると(ステップ304NO)、第2の計上処理へと進む(ステップ306)。
【0030】
尚、ステップ305において行われる第1計上処理については図4において、ステップ306において行われる第2計上処理については図5において、それぞれ詳述する。
【0031】
この例においては、計上処理の種別の判定は(ステップ304)、「売上もしくは仕入に関する計上か、もしくはそれ以外であるか」という条件で判定を行ったが、これ以外の判定条件、例えば「現金に関する計上か、もしくはそれ以外か」などの判定に置き換えることも、当然にして可能である。この計上処理の種別の判定では、「売上もしくは仕入に関する計上」であるか、「現金に関する計上」であるかを判定できれば良く、これらを判別するための判定条件は適宜設定可能である。
【0032】
尚、以下においては、入金及び支払が全て現金で行われた場合の例を示しているが、入金及び支払が手形受取、カード支払などによって行われることも、当然考えられる。
【0033】
次に、第1計上処理を示す詳細フローチャートが図4に示されている。尚、この第1計上処理工程は、図3においてステップ305として示された工程であり、図3において、実行される計上処理が売上もしくは仕入に関する計上であると判定されると(ステップ304YES)、図4に示される第1計上処理へと進む。
【0034】
同図に示される処理が開始されると、先ず最初に精算確認が行われ(ステップ401)、計上処理が行われる旅行商品について精算済か否かが判定される。ここで精算処理とは、当該旅行商品について売上と仕入とを確定することであり、当該旅行商品を構成する各商品の売上金額と仕入金額とが判明していれば良い。また、ある程度の確度が保証される場合は、売上金額及び仕入金額の一部を予測値で置き換えておくことも可能である。
【0035】
ここで、全ての売上と仕入とが確定しているか否かについては、当該旅行商品に関するデータを登録した旅行商品ファイルを参照することにより、容易に判定できる。このような旅行商品ファイルの一例が図6に示されている。本発明による旅行業向け会計処理装置においては、旅行商品ファイルは、サーバ101もしくは端末機102の外部記憶部204などの所定メモリ領域に格納される。また、データの登録・変更などを行う場合には、表示部206に表示された情報を元に、キーボードやマウスなどからなる入力部202により行えば良い。
【0036】
同図に示した旅行商品ファイルは、いわゆる予約カードの形式を取っており、予約者名、連絡先、申込日、出発日、旅行商品を構成する各販売商品、各販売商品毎の売上額と仕入額などが表示される。具体的には、参加者氏名としては「山本一郎」、出発日としては「7月3日」、販売商品としては「鉄道券」、「航空券」、「宿泊券」、「保険」、などが示されている。
【0037】
この例においては、「鉄道券」、「航空券」などの各販売商品について、それぞれ売上、仕入、手数料が登録されている。先に述べた、売上と仕入とが確定しているか否かの判断については、これらの項目が全て埋められているかで判断されても良い。また、売上と仕入とが確定した、即ち精算済であると言うことを示すフラグが所定の操作で立つように設定しておいても良い。
【0038】
旅行商品及び旅行商品を構成する各商品の金額データの登録は、各販売商品の金額データを登録したデータベースから、直接金額データを取り込むことによって登録されるようにしても良い。また、キーボードやマウスなどからなる入力部202より直接入力するように構成しても良い。顧客からの入金や仕入先への支払があった場合は、その金額と日付とを関連付けて登録しておくように構成すると、以下の処理に都合がよい。
【0039】
図4に戻って、当該旅行商品について、精算処理が行われていないと判定されると(ステップ402NO)、処理続行不可能であると判断され、その他の処理が行われる(ステップ403)。ここで行われる処理としては、処理続行不可能である旨のメッセージを表示する、プログラムを強制的に終了させる、など様々な既知の処理が考えられる。
【0040】
また、この例においては、ステップ401?ステップ403の処理において当該旅行商品が精算済みであるか否かの判定を行うように構成しているが、これらの処理の代わりに特定のフラグやボタン等を設け、精算処理が行われない限り売上及び仕入の計上処理に進めないようにするなど、他の構成を採用することも当然にして考えられる。
【0041】
一方、当該旅行商品について、精算済みであると判定されると(ステップ402YES)、売上についての計上処理に進む(ステップ404?ステップ408)。売上の計上処理においては、先ず当該旅行商品に関する総売上金額と総前受金額との比較を行う(ステップ404,ステップ405)。前受金とは、売上計上前に顧客からの入金があった売上金額を示す勘定科目であり、同様の意味を持つ別の勘定科目で置き換えることも可能である。
【0042】
総売上金額と総前受金額との比較を行い、総売上金額よりも総前受金額が多かった場合は(ステップ405<)、過入金処理が実行される(ステップ406)。このステップにおいて、総売上金額よりも総前受金額が多いと判定された原因としては、入力ミス、過入金、キャンセルの発生などの理由が考えられる。
【0043】
ここで過入金処理としては、登録金額の確認、顧客への返金処理などが考えられる。過入金があった場合には、過入金分をマイナス未収金扱いで計上し、顧客への返金を行うことが好ましい。このように構成すれば、経理的にも矛盾が生じず、処理の面からも実施が容易である。
【0044】
また仮に、第1計上処理前、即ち売上及び仕入の計上前に旅行商品のキャンセル、旅行内容の変更などにより返金の必要が生じた場合、過入金分の前受金を相殺するように逆仕訳処理を行えばよい。ここで「逆仕訳」とは、過入金分を相殺するために、借方と貸方を通常の計上処理とは逆にして行った仕訳処理のことである。
【0045】
ステップ405に戻り、総売上金額と総前受金額との比較を行い、総売上金額と総前受金額とが同額であった場合(ステップ405=)、既に前受金として計上されている金額について自動振替を行う(ステップ408)。この場合、未収金は生じない。
【0046】
次いで、総売上金額と総前受金額との比較を行い、総売上金額よりも総前受金額が少なかった場合は(ステップ405>)、差額分を未収金として計上し(ステップ407)、前受金については自動振り替えされる(ステップ408)。
【0047】
売上についての計上処理(ステップ404?ステップ408)が終了すると、次に仕入についての計上処理が行われる(ステップ409?ステップ413)。先ず、売上の計上の場合と同様に、総仕入額と総前払金額との比較が行われる(ステップ409)。前払金とは、仕入計上前に仕入先への支払が行われた仕入金額を示す勘定科目であり、同様の意味を持つ別の勘定科目で置き換えることも可能である。
【0048】
総仕入金額と総前払金額との比較を行い、総仕入金額よりも総前払金額が多かった場合は(ステップ410<)、過出金処理が実行される(ステップ411)。ここで、総仕入金額よりも総前払金額が多くなった原因としては、入力ミス、仕入先への過入金、キックバックやコミッションを見込んでの仕入額設定などの理由が考えられる。
【0049】
ここで過出金処理としては、登録金額の確認、仕入先からの返金処理などが考えられる。過出金があった場合には、過入金の場合と同様に逆仕訳処理を行う他に、過出金分を未収金として計上し、仕入先からの入金があった際に自動振替処理を行う、などの処理方法も考えられる。
【0050】
次に、総仕入金額と総前払金額との比較を行い、総仕入金額と総前払金額とが同額であった場合(ステップ410=)、既に前払金として計上されている金額について自動振替を行う(ステップ413)。この場合、未払金は生じない。
【0051】
次いで、総仕入金額と総前払金額との比較を行い、総仕入金額よりも総前払金額が少なかった場合は(ステップ410>)、差額分を未払金として計上し(ステップ412)、前払金については自動振り替えされる(ステップ413)。
【0052】
尚、売上について差額分を未収金として計上する場合と(ステップ407)、仕入について差額分を未払い金として計上する場合(ステップ412)とでは、処理を代えても良い。
【0053】
具体的には、売上金額については、入金を行ってくる顧客は一旅行商品について基本的に一人(もしくは一団体)であるため、総売上金額と総前受金額との差額分をそのまま一つの未収金として計上して良い。しかし、仕入金額については、一旅行商品について複数の仕入先が存在することが多いため、総仕入金額と総前払金額との差額をそのまま一つの未払金で括ってしまうと、後に未払金の支払いが行われたときに不都合である。このため、未払金については、先に示した旅行商品ファイルを参照しつつ、仕入先毎に前払金、未払金の判断を行い計上することが望ましい。
【0054】
尚、この例においては、売上の計上処理後に仕入の計上処理が行われる例を示したが、売上計上についての処理工程(ステップ404?ステップ408)と、仕入計上についての処理工程(ステップ409?ステップ413)とは、処理の手順が異なっても良く、また、並行して処理されても良い。
【0055】
次に、第2計上処理を示す詳細フローチャートが図5に示されている。尚、この第2計上処理工程は、図3においてステップ306として示された工程であり、図3において、実行される計上処理が売上もしくは仕入に関する計上ではないと判定されると(ステップ304NO)、図5に示される第2計上処理へと進む。この第2計上処理工程においては、前受金、前払金、未収金、未払金などの現金に関する計上処理が行われる。
【0056】
同図に示される処理が開始されると、先ず最初に第1計上処理確認が行われ(ステップ501)、計上処理が行われる旅行商品について第1計上処理が実行済か否かが判定される(ステップ502)。
【0057】
第1計上処理が実施済であると判定された場合(ステップ502YES)、即ち売上と仕入が計上済であると判定された場合、次のステップに進み、計上を行う内容が顧客からの入金に関するものであるか、仕入先への支払に関するものであるかの判定を行う(ステップ503,ステップ505)。
【0058】
処理内容が、顧客からの入金に関するものである場合(ステップ505入金)、売上計上時に立てられた未収金に対して自動振替が行われる(ステップ507)。一方、処理内容が仕入先への支払に関するものである場合(ステップ505支払)、仕入計上時に立てられた未払金に対して自動振替が行われる(ステップ508)。
【0059】
ステップ502に戻って、第1計上処理が実施されていないと判定された場合(ステップ502NO)、即ち売上と仕入が計上されていないと判定された場合、次のステップに進み、計上を行う内容が顧客からの入金に関するものであるか、仕入先への支払に関するものであるかの判定を行う(ステップ504,ステップ506)。
【0060】
処理内容が、顧客からの入金に関するものである場合(ステップ506入金)、前受金として計上する(ステップ509)。一方、処理内容が仕入先への支払に関するものである場合(ステップ506支払)、前払金として計上する(ステップ510)。ここで立てられた前受金及び前払金にりいては、売上及び仕入の計上が行われる際に、それぞれ売上及び仕入として自動振り替えされる。
【0061】
以上において述べた、図3乃至図5のフローチャートに従って、第1計上処理と第2計上処理を実行した場合の経理ファイルの一例が、図7に示されている。同図においては、図6に示した旅行商品ファイルに登録された内容を、図3乃至図5のフローチャートに従って経理ファイルに登録した場合の例を示している。尚、この例において売上と仕入の計上は、旅行商品が現に顧客に提供された日である旅行出発日(7月3日)に実行している。
【0062】
同図によれば、売上金額のうち、売上計上時に既に入金が終了している分、即ち前受金については自動振替が行われ(伝票00003)、売上計上時に入金が行われていない分、即ち未収金については自動計上が行われる(伝票00004)。未収金については、その後顧客からの入金があった時点で自動振替が行われる(伝票00009)。
【0063】
同様に、仕入金額のうち、仕入計上時に既に支払が終了している分、即ち前払金については自動振替が行われ(伝票00005)、仕入計上時に支払が終了していない分、即ち未払金については未払金として自動計上が行われる(伝票00006?00008)。未払金については、その後支払が行われた時点で自動振替が行われる(伝票00010?00012)。
【0064】
同図から明らかなように、本発明によれば、従前の会計処理装置では不可能であった旅行業における債権債務の把握が容易に行える。尚、この例においては、売上及び仕入計上時に未収金と未払金とが「自動計上」され、これらに相当する入出金があったときに「自動振替」が行われるとしているが、これらの言葉は同様の意味をもつ別の言葉や、当該旅行商品が特定できる別の言葉で置き換えられても良い。
【0065】
一方、旅行業における従来の会計方法で図6に示した旅行商品の仕訳を行った場合の一例が、図8に示されている。同図に示した例では、売上については航空券やクーポン券などの発券時に計上するといういわゆる発券主義が採用されており、仕入については支払時に計上するという会計方法が採用されている。
【0066】
同図に示した経理ファイルの例では、旅行商品を構成する各商品毎に売上と仕入とが別々に計上されるため、旅行商品単位での利益が把握できない。また、顧客からの入金が前受金であるか未収金であるかの区別が的確に行えておらず、仕入先への未払金の把握もできていないため、債権債務の管理が適切に行えない。また、発券日時を早めることで売上の前倒しが容易に行うことが可能であり、的確な経営判断の妨げとなる。
【0067】
図7と図8に示した例から、本発明による旅行業向けの会計処理装置と従来の会計方法とを比較した場合、図8に示した従来の会計方法では債権債務の管理や売上の前倒し防止が不可能であったのに対して、図7に示した本発明の会計処理装置によれば債権債務の管理や売上の前倒し防止が容易に実行できることが明らかである。
【0068】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから、従前の旅行業向けの会計処理装置では不可能であった、一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また、同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため、不正の防止や正しい経営判断が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたシステムの一例を示す図である。
【図2】本発明に係る旅行業向け会計処理装置のハード構成の一例を示す図である。
【図3】本発明に係る旅行業向け会計処理装置による処理操作の一例を示す概略フローチャート
である。
【図4】第1計上処理を示す詳細フローチャートである。
【図5】第2計上処理を示す詳細フローチャートである。
【図6】旅行商品ファイルの一例を示す図である。
【図7】本発明による経理ファイルの一例を示す図である。
【図8】旅行業における従来の会計手法による経理ファイルの一例を示す図である。
【符号の説明】
101サーバ
102(102-1、102-2、102-3)端末機
103(103-1、103-2)データベース
104ネットワーク
201制御部
202入力部
203記憶部
204外部記憶部
205通信部
206表示部
207出力部
208時計部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-02-04 
結審通知日 2008-02-06 
審決日 2008-03-25 
出願番号 特願2001-199432(P2001-199432)
審決分類 P 1 113・ 1- YA (G06Q)
P 1 113・ 537- YA (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 信行  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 小林 信雄
久保田 昌晴
登録日 2005-10-28 
登録番号 特許第3733478号(P3733478)
発明の名称 旅行業向け会計処理装置  
代理人 新井 信昭  
代理人 大川 晃  
代理人 新井 信昭  
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