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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1199302
審判番号 不服2007-6920  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2009-06-18 
事件の表示 特願2001-328945「電子写真用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 9日出願公開、特開2003-131415〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、平成13年10月26日の出願であって、平成18年8月10日付で通知した拒絶理由通知に対して、同年10月13日付で手続補正書が提出されたが、平成19年1月30日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月5日付で手続補正がなされ、その後、審判において送付した平成20年12月5日付の審尋に対して平成21年2月3日付で回答書が提出されたものである。

2 平成19年4月5日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月5日付の手続補正を却下する。

(1)補正後の本願発明
審判請求時の本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、

「少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する母体粒子に微粒子を被覆して作製される電子写真用トナーにおいて、
前記母体粒子中に分散する離型剤が結着樹脂に内包されていて、その離型剤の長軸径が0.5μm以上のものが存在し、かつ、このトナーを板状に加圧成型したものの摩擦係数が0.35以上、0.65以下であることを特徴とする電子写真用トナー。」
と補正された。

なお、本件補正がなされた上記請求項1は、平成18年10月13日付で補正された特許請求の範囲の請求項2(上記請求項1が補正される前の請求項2、以下、「もとの請求項2」という。)に対応するものであって、もとの請求項2に記載した発明を特定するために必要な事項である「離型剤」について「離型剤が結着樹脂に内包されていて、」との限定を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)明細書の記載要件について
本願明細書の記載は、以下の(i)、(ii)の点で不備であり、特許法第36条第6項第1号及び同条同項第2号に規定する要件を満たしていない。

(i)本願の特許請求の範囲の請求項1の記載において、「前記母体粒子中に分散する離型剤が結着樹脂に内包されていて、」とあり、また、請求項4には、「前記母体粒子は、互いに非相溶の2種類以上の結着樹脂を含有し、それらが海島状の相分離構造をとり、連続相である海状結着樹脂中に、これと非相溶の島状結着樹脂が分散し、かつ、この島状結着樹脂中に前記離型剤が存在するものである」と記載されている。
「離型剤が結着樹脂に内包されている」点について、本願明細書を参照すると、「本発明では、母体粒子が、互いに非相溶の2種類以上の結着樹脂を含有し、それらが海島状の相分離構造をとり、連続相である海状樹脂に、これと非相溶の樹脂が島状に分散し、島状樹脂中に実質的に離型剤が存在することが好ましい。・・・海状樹脂に島状に別の樹脂が分散し、その島状樹脂中に離型剤が内包されていれば、非相溶の樹脂界面へ粉砕応力を分配させることができ、母体粒子表面への離型剤露出量を減らすことができる。」(段落【0020】、(段落【0021】)、及び、「本発明では、離型剤は実質的に島状樹脂に内包されているものであり、すべての離型剤が島状樹脂に内包される必要はない。・・・長軸径が0.5μm以上の離型剤の場合に、そのほとんど(具体的には0.5μm以上の長軸径を持つワックスの95個数%以上)が島状樹脂に内包されていることが好ましい。」(段落【0022】)とあるとおり、「離型剤が島状樹脂に内包されている」点が記載されているのみで、海島状の相分離構造でないものについて、「離型剤が結着樹脂に内包されている」構成は開示されていない。
さらに、補正によって、本願発明の実施例とされているものは、出願当初の実施例3(実施例1に補正)及び実施例4(実施例2に補正)であって、これらは、海島状の相分離構造のものであり、島状樹脂中に離型剤が存在していると確認されたとするものである。
してみると、請求項1の記載は、本願の実施例で開示された範囲を超えるものである。
また、本願の出願時の技術常識を勘案しても、本願の発明の詳細な説明に記載された内容を、海島状の相分離構造でないものを包含する「離型剤が結着樹脂に内包されている」構成にまで拡張ないし一般化することはできない。
したがって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。

(ii)加えて、請求項1の記載と、本願明細書の発明の詳細な説明の記載とが対応しておらず、また、請求項1に係る発明の実施例が、発明の詳細な説明に記載されていないから、請求項1に係る発明自体も明りょうでない。
したがって、請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

よって、本件の補正後の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 本願発明について
平成19年4月5日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成18年10月13日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に記載された発明は次のとおりである。(以下、「本願発明」という。)

「少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する母体粒子に微粒子を被覆して作製される電子写真用トナーにおいて、
前記離型剤の含有量が3重量%以上であり、かつ、このトナーを板状に加圧成型したものの摩擦係数が0.35以上、0.65以下である
ことを特徴とする電子写真用トナー。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開2000-310875号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。)

(a-1)「少なくとも結着樹脂と、着色剤およびワックスを含む電子写真用カラートナーであって、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であり、・・・」(特許請求の範囲、請求項1)

(a-2)「・・・即ち、少なくとも結着樹脂、着色剤、ワックスから構成される本発明の電子写真用カラートナーにおいては、トナーに対するワックスの添加量を3?10重量%、より好ましくは3?6重量%にする必要がある。ワックスの添加量が3重量%より少ないと、十分な定着ラチチュード(トナーのオフセットなしに定着できる定着ロール温度範囲)が得られず、・・・」(段落【0013】)

(a-3)「また、本発明の電子写真用カラートナーにおいては、ストレスを与える前、すなわち使用前のトナーの摩擦係数が0.35?0.75であることが必要である。摩擦係数が0.35より小さいとクリーニング性が低下し、また0.75より大きいとブレードがめくれてしまうなどの不都合が生ずるので、上記範囲内にあることが適切である。・・・」(段落【0014】)

(a-4)「摩擦係数の測定法は次の様に行った。すなわちFujiXerox製コピーマシン4060に使用しているベルト状感光体にトナー3gをのせ、その上からFujiXerox製Vivace560に使用のクリーニングブレードと金属板の重り(クリーニングブレード+重りの荷重236gf)を置き、水平方向に引っ張るときの摩擦力(gf)を繰り返し30回測定し、30回目の摩擦力/垂直荷重(236gf)=摩擦係数とした。・・・」(段落【0016】)

(a-5)「本発明の摩擦係数を有するトナーを得るための手段としては特に限定されるものではないが、以下の様な方法を例示することができる。まず、ストレスを与える前のトナーの摩擦係数を0.35?0.75の範囲内に調節するには、例えばワックスの量を調節したり、外部添加剤の量と調節することにより前記範囲内に摩擦係数を制御することができる。・・・」(段落【0017】)

(a-6)「本発明に使用されるトナーは少なくとも着色剤と結着樹脂とワックスとよりなる。・・・」(段落【0024】)

(a-7)「本発明に使用されるトナーは、結着樹脂、着色剤およびワックスの他に、必要に応じて、内部添加剤として帯電を調整する帯電制御剤を一つ以上含んで構成してもよい。更に、トナーの長期保存性、流動性、現像性、転写性をより向上させる為に、本発明に使用されるトナーはそのトナー粒子表面に無機粉、樹脂粉を単独又は併用して添加してもよい。無機粉としては例えば、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、樹脂粉としてはPMMA、ナイロン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フッ素系樹脂等の球状粒子、そして、フッ化ビニリデン、脂肪酸金属塩等の不定形粉末があげられる。」(段落【0029】)

(a-8)「実施例1(現像剤1)
線状ポリエステル 82部
(テレフタル酸/ビスフェノールA プロピレンオキシド付加物/シクロヘキサンジメタノールから選られた線状ポリエステル:Tg=64℃、Mn=3,500、Mw=35,000、酸価=11、水酸価=24)
シアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3) 3部
カルナバワックス(m.p.:83℃、120℃における溶融粘度50cs) 5部
イソプロペニルトルエン・インデン共重合体(共重合比7/3、m.p.:75℃、Mw:2000、Mn:1200) 5部
水 5部
上記混合物をエクストルーダーで混練した。水は混練時に添加した。得られたスラブを圧延、冷却、破砕後、ジェットミルで20nmのチタニア粒子0.5部を加えながら粉砕した。さらに、風力式分級機で分級した粗粉と微粉を除去し、平均粒子径6.5μmの分級品を得た。この分級品に平均粒子径50nmの負帯電性シリカ1.0部と、平均粒子径20nmのチタニア粒子0.5部を添加してトナーを得た。・・・」(段落【0036】)

上記の事項を総合すると、刊行物1には下記の発明が記載されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)

「結着樹脂、着色剤及びワックスを含有するトナー粒子の表面に、シリカ、アルミナなどの無機粉を添加して作製される電子写真用カラートナーにおいて、このトナーを加圧により層状物としたものの摩擦係数が0.35以上、0.75以下である、電子写真用トナー」

(2)対比
本願発明(前者)と「刊行物1発明」(後者)とを対比する。

まず、後者の「結着樹脂、着色剤及びワックスを含有するトナー粒子」、「ワックス」は、それぞれ、前者の「母体粒子」、「離型剤」に相当し、また、後者の「トナー粒子の表面に、シリカ、アルミナなどの無機粉を添加して」は、前者の「母体粒子に微粒子を被覆して」に相当する。

次に、後者における「摩擦係数」は、刊行物1の段落【0016】の記載(a-4)によると、平面上に置かれたトナー粒子にブレードを当てて荷重を加え繰り返し(30回)水平方向に引っ張ったときに得られる摩擦係数であるとされているので、加圧により形成される層状物の摩擦係数を測定していることは明らかであり、トナー粒子が層状物であっても繰り返し押さえつければ、押圧力によって多少の違いはあっても押し潰され扁平な塊状様のものになることは常識である。
そうすると、 後者におけるトナー粒子の層状物の摩擦係数の測定も、トナーを板状に加圧成型したものについての測定であると言える。
なお、後者において測定対象である層状物が一体化した物であるかどうかは明らかでないが、前者の「板状に加圧成型したもの」もこれが一体化した物に限られるとの限定もないから、両者に差異はない。

また、両者の摩擦係数の測定対象は前記のように同じであり、後者の摩擦係数範囲「0.35以上、0.75以下」は、前者の摩擦係数範囲「0.35以上、0.65以下」とはほぼ重複し、「0.35以上、0.65以下」で一致する。

したがって、両者は、「少なくとも結着樹脂、着色剤及び離型剤を含有する母体粒子に微粒子を被覆して作製される電子写真用トナーにおいて、このトナーを板状に加圧成型したものの摩擦係数が0.35以上、0.65以下である電子写真用トナー」で一致し、下記の点で相違する。

[相違点]
前者は、電子写真用トナーにおける「離型剤の含有量」が、3重量%以上であると限定するのに対して、後者は、離型剤の含有量について限定していない点。

(3)判断
以下、上記相違点について検討する。
刊行物1には、電子写真用カラートナーが含有する離型剤について「トナーに対するワックスの添加量を3?10重量%、・・・。ワックスの添加量が3重量%より少ないと、十分な定着ラチチュード(トナーのオフセットなしに定着できる定着ロール温度範囲)が得られず、・・・」(a-2)と記載されているので、後者において、離型剤の含有量をトナーに対し3重量%以上であると規定することは当業者が適宜容易になし得る設計事項であると認められる。
そして、離型剤の含有量を規定したことによる効果も当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願発明は、刊行物1の記載に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-15 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2009-05-07 
出願番号 特願2001-328945(P2001-328945)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高松 大  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 伏見 隆夫
伊藤 裕美
発明の名称 電子写真用トナー  
代理人 奥山 雄毅  

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