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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G |
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管理番号 | 1199380 |
審判番号 | 不服2007-19836 |
総通号数 | 116 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-17 |
確定日 | 2009-06-17 |
事件の表示 | 特願2003-180722「有機感光体、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日出願公開、特開2005- 17579〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、本願は、平成15年6月25日の出願であって、平成19年6月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされた後、当審において平成21年1月8日付けで、拒絶理由通知がなされ、それに対して、同年3月16日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2.記載要件に関して(特許法第36条第6項第1号) 1.当審の拒絶理由の内容 当審の記載不備(第36条第6項第1号違反)に関する拒絶の理由(理由1)は次のとおりである。 「 <理由1> 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 1.請求項1の記載において、 「1200dpi以上の解像度でデジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置に用いられる有機感光体において、導電性基体上に電荷発生層、電荷輸送層を順次積層した構成を有し、且つ10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上であり、且つ電荷輸送層の膜厚が8?15μmであることを特徴とする有機感光体。」とあるように、請求項1に係る発明は、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上」という、感光体の光応答特性によって発明を特定しようとするものである。 一方、本願明細書には、「本発明の有機感光体に10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上の特性を付与するには、電荷発生層(CGL)に用いる電荷発生物質(CGM)と電荷輸送層(CTL)に用いる電荷輸送物質(CTM)の組み合わせを選択することが重要である。即ち、CGMには電荷キャリア発生効率が高い顔料を用い、電荷輸送層に用いられるCTMには電荷発生層から電荷キャリアの注入効率が良好な電荷輸送物質を用いて、電荷発生層で発生したキャリアの電荷輸送層中でのばらつきを小さくすることにより、前記2つの接線の交差角αが70°以上とした有機感光体を作製することができる。」(段落【0040】)とあるとおり、遅延キャリアの発生が少なく、光応答性が良い感光体を作製するためには、電荷発生物質(CGM)と電荷輸送物質(CTM)の組み合わせを選択することが重要であるとしている。 しかしながら、本願明細書に記載された実施例におけるCGMとCTMの組み合わせは、CGMはG-1(Y型オキシチタニルフタロシアニン)のみで、CTMは、T-1,2,3(段落【0139】【化1】)の3種のみである。 したがって、請求項1に係る発明では、CGMとCTMの組み合わせは何ら特定されておらず、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上」を満たすCGMとCTMの組み合わせには、様々なものが包含されるのに対して、本願の発明の詳細な説明において、実施例として挙げられているものは、その一部に過ぎない。 また、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上」については、例えば、交差角αが90°に近いものは、遅延キャリアの発生がなく、光応答が優れた、理想的な感光体を意味するから、当該特性による物の特定は、本願の出願時点において実現されていないような、光応答性に優れた感光体をも包含するものである。 したがって、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された技術内容を、請求項1に係る発明に拡張ないし一般化することはできない。 加えて、様々なCGMとCTMの組み合わせを包含する特許請求の範囲の記載と、発明の詳細な説明に記載の3種類の組み合わせのみの実施例とが対応していないから、特許請求の範囲に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 以上のとおり、請求項1は、発明の詳細な説明に記載していない範囲について特許請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 請求項2?9についても、CGMとCTMの組み合わせは何ら特定されていないから、請求項1と同様に、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 」 2.請求人の反論(平成21年3月16日付け意見書) 上記拒絶理由に対して、請求人は意見書において、以下のとおり反論している。 「 (3)拒絶理由への反論 (理由1)について、 審判官殿は、本願発明の請求項1は、CGMとCTMの組み合わせが重要であるところ、実施例ではG-1(Y型チタニルフタロシアニン)とT-1,T-2,T-3(トリフェニルアミン)の3種のみであり、また、交差角αの上限90°は実現されない理想値であり、これらの構成まで含有する請求項1の現クレームは、本願明細書の開示に対して、一般化できない範囲を含んでいる。よって、請求項1は36条6項第1号の規定に適合しない、と認定されています。 (反論) 即ち、本願発明の交差角αの規定は、電荷発生層で発生し、電荷輸送層に注入した電荷キャリアが感光体表面へ到達し、感光体表面の電荷を消去するまでの時間のバラツキが小さいこと、即ち、遅延キャリアが少なく、揃っていることを意味しています。そのためには、電荷発生層において、電荷キャリアの発生効率が高いCGMを用いること、且つ、発生したキャリアの電荷移動層への注入効率が高く、(界面のエネルギー障壁が低く、注入律速にならない)、注入効率の電界強度依存性が少ないこと等が重要であります。そして、それを左右する因子としては、本願実施例の[表1]にもあるように、電荷発生材料、電荷輸送材料とその濃度、および膜厚等であります。 本願発明の交差角αの規定を実現する構成をより明確にするために、本意見書と同日に提出した手続補正書では、上記の交差角αを規定する条件を補正後の請求項1等に追加した構成に補正致しました。 即ち、補正後の請求項1では、CGM(電荷発生材料)を、Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニンに、CTM(電荷輸送材料)をトリフェニルアミン誘導体に限定致しました。又、交差角αの上限も実施例で最も大きい交差角αの値を根拠として、82°以下に限定致しました。 該補正後の請求項1の構成は、本願明細書及び実施例で明確に読み取れる構成因子であることから、当業者が、今回の補正により限定した補正後の請求項1の発明を、具体的に一般化することは十分可能であると、思量いたします。 」 また、前記意見書と同日付けの手続補正書により、請求項1は、 「1200dpi以上の解像度でデジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置に用いられる有機感光体において、導電性基体上に、Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニンを含有する電荷発生層、トリフェニルアミン誘導体を含有する電荷輸送層を順次積層した構成を有し、且つ10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下であり、且つ電荷輸送層の膜厚が8?15μmであることを特徴とする有機感光体。」と補正された。 3.当審の判断 上記のとおり、補正によって、「CGM(電荷発生材料)を、Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニンに、CTM(電荷輸送材料)をトリフェニルアミン誘導体に限定」されているものの、「トリフェニルアミン誘導体」には様々な化合物が包含され、本願明細書の実施例において効果が確認されたものは、T-1,2,3の3種のみである。 そして、これ以外のトリフェニルアミン誘導体を用いても、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」であり、「1200dpi以上の高画質のドット画像を形成でき、画像不良を伴わない鮮鋭性、階調性が良好な電子写真画像を提供することができ」るとの技術的な根拠は本願明細書に何ら記載されておらず、そのような技術常識もない。 したがって、依然として、請求項1の記載は、本願の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものであって、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された技術内容を、請求項1に係る発明に拡張ないし一般化することはできない。 また、有機感光体の電気特性は、電荷発生材料及び電荷輸送材料の他に、バインダー樹脂によっても大きく影響を受けることも自明の事項であるが、本願明細書には、電荷輸送層のバインダー樹脂としてポリカーボネートZを用いた実施例のみが記載されており、これ以外の樹脂を用いた場合の効果は何ら確認されておらず、また、同様の効果が得られるとの根拠もない。 したがって、バインダー樹脂を何ら特定していない請求項1の記載は、本願の発明の詳細な説明に開示された範囲を超えるものである。 加えて、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」については、先の当審の拒絶理由において指摘したとおり、例えば、T=2000μsecでの接線と、T=3000μsecでの接線とは角度が異なることは明らかであり、2つの接線は一義的に決定できるものではない。 これに関して、請求人は、本願明細書の段落【0035】において定義していると主張するが、特許請求の範囲の記載はそれ自体で明確であるべきであり、かつ、「・・・曲線に接する2つの接線」との記載から技術常識に基づいて解釈できる事項と、段落【0035】に記載の定義とは一致しないから、このような主張は失当というべきである。 さらに、プロットする間隔によっても接線の角度は異なってくるのであり、また、データによっては接線が決定できない場合も起こり得るから、「・・・2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」との記載は、不明確であるとともに、発明の詳細な説明に記載していない範囲をも包含することにもなり、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第3.進歩性に関して(特許法第29条第2項) 上記第2.で検討したとおり、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないが、予備的に本願の請求項1に係る発明の進歩性についても検討しておく。 1.本願発明について 請求項1には、記載不備の点が存在するものの、本願の発明は、平成21年3月16日付けの手続補正書にて補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたものと一応認める。 そして、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「1200dpi以上の解像度でデジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置に用いられる有機感光体において、導電性基体上に、Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニンを含有する電荷発生層、トリフェニルアミン誘導体を含有する電荷輸送層を順次積層した構成を有し、且つ10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下であり、且つ電荷輸送層の膜厚が8?15μmであることを特徴とする有機感光体。」 2.刊行物に記載された発明 (刊行物1について) 原査定の拒絶理由に引用され、当審の拒絶理由にも引用された、特開2000-206710号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与した。) 1-ア.「【請求項1】 像を露光して1200dpi以上の潜像を形成し、平均粒径6μm以下のトナーを使用して反転現像方式で潜像の可視像化を行う画像形成装置に用いられる電子写真感光体であって、 前記電子写真感光体は、導電性支持体上に電荷発生層と電荷輸送層とを順次設け、前記電荷輸送層の層厚が20μm以下であることを特徴とする電子写真感光体。」 1-イ.「【0029】 【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。 本発明においては、従来よりも電荷輸送層の膜厚を薄くすることによって、高解像度を達成するものである。電荷輸送層の薄膜化によって、キャリアの拡散による静電潜像の解像劣化が抑制され、感光体自体の膜厚に起因する解像度低下の問題が解消される。また、感光体膜厚が薄くなることによる微小な画像欠陥、感度低下の新たな問題は、導電性支持体と電荷発生層との間に有効なキャリア注入阻止層となる中間層の存在、暗時の高電界下でもフリーキャリアとなるキャリア放出の極めて小さな高感度結晶型のオキソチタニルフタロシアニンからなる電荷発生層の採用、さらには、エナミン構造を有するキャリア注入効率のよいホール輸送材料からなる電荷輸送層の採用によって、高感度の特性を有する感光体が得られることを見い出した。」 1-ウ.「【0034】本発明で用いられる電荷発生材料は、結晶性オキソチタニルフタロシアニン化合物が好ましく、中でもCuKα特性X線(波長1.5418Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、そのブラッグ角(2θ±0.2゜)で9.4、9.6、27.2に少なくとも主要な回折線を有し、更に、24.1°、11.6°、7.3°にも回折線を示すもの、並びに9.3°、9.5°、9.7°、27.2°に少なくとも同等強度の強い回折線を示すものが特に好適である。」 1-エ.「【0048】(実施例1)酸化チタン(STR-60N:堺化学社製)72.6重量部、共重合ナイロン(アミランCM8000:東レ社製)107.4重量部をメチルアルコール287重量部と1,2-ジクロロエタン533重量部の混合溶液に加え、ペイントシェーカーにて8時間分散し、中間層形成用塗布液を作製した。これをタンクに満たし、直径65mm、長さ332mmのアルミ製円筒状支持体を該タンクに浸漬した後、引き上げて塗工し、110℃にて10分間乾燥を行い、約1μmの中間層を設けた。 【0049】次に、電荷発生材料として、図2に示すCuKα特性X線(波長:15418Å)に対するX線スペクトルにおいて、そのブラッグ角(2θ±0.2°)で9.4°、9.6°、27.2°に主要な強い回折線、7.3°、11.6°、24.1°にも回折線を示す結晶型であるオキソチタニルフタロシアニン2重量部とポリビニルブチラール(エスレックBL-1:積水化学社製)1重量部とメチルエチルケトン97重量部とをペイントシェーカーで1時間分散して電荷発生層形成用分散液を調整した。この分散液をタンクに満たし、中間層を形成したアルミ製円筒状支持体を該タンクに浸漬した後、引き上げて塗工し、80℃にて1時間乾燥を行い、厚さ0.2μmの電荷発生層を形成した。 【0050】なお、X線回折スペクトルの測定条件は、 X線源 CuKα=1.5418Å 電圧 30?40kV 電流 50mA スタート角度 5.0゜ ストップ角度 30.0゜ ステップ角度 0.01?0.02゜ 測定時間 2.0?0.5゜/min. 測定方法 θ/2θ スキャン方法 の測定条件となっている。以下、X線スペクトルの測定条件は同様とする。 【0051】 一方、電荷輸送材料として、下記構造式 【0052】 【化7】 【0053】で示されるエナミン系化合物1重量部とバインダーとしてポリカーボネート(PCZ-400:三菱ガス化学社製)1重量部とをジクロロメタン8重量部に溶解し、電荷発生層上に浸漬塗工し、80℃で1時間乾燥を行い、厚さ16μmの電荷輸送層を形成して図1に示す感光体を得た。」 1-オ.「【0059】(実施例3)電荷輸送層のバインダー樹脂としてポリカーボネート樹脂(PCZ-800:三菱ガス化学社製)とポリエステル樹脂(バイロンV-290:東洋紡社製)を8:2の重量比で混合した樹脂を用い、膜厚を14μmの電荷輸送層を形成した他は、実施例1と同様に感光体を評価した。平均粒径5.0±0.8μmの重合トナー(6μm以上、4μm以下の粒子径のトナーは5%未満)を用いて画像評価を行った。20本/mmまでの解像が可能であり、且つ、半減露光エネルギーは0.05μJ/cm^(2)の極めて高い感度を示した。」 1-カ.「【0079】(実施例16)電荷発生材料として、図5に示すCuKα特性X線(波長:15418Å)に対するX線スペクトルにおいて、そのブラッグ角(2θ±0.2°)で27.3°に最大の回折線を示し、7.3°、9.5°、9.7°、11.7°、15.0°、18.0°、23.5°にも主要な回折線を示すY型に分類される結晶型であるオキソチタニルフタロシアニンを用いて、他は実施例1と同様に感光体を作製し評価した。半減露光エネルギーは0.20μJ/cm^(2)の高い感度を示したが、パルス幅変調による中間調記録を行う場合において、ハイデューティ側の電位減衰量が小さく、階調表現性に劣ることが判明した。また、暗順応後の1回転目の帯電電位も低く、画像中の白地には、微小な黒点が多数認められた。また、高温高湿環境下では、残留電位が-100Vを示し、エージングによって更に劣化した。」 上記の事項を総合すると、刊行物1には、下記の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。 「1200dpi以上の高解像度の画像形成装置に用いられる電子写真感光体であって、導電性支持体上に、結晶性オキソチタニルフタロシアニン化合物を含有する電荷発生層、エナミン系化合物を含有する電荷輸送層を順次設け、前記電荷輸送層の層厚が14μmである、電子写真感光体。」 (刊行物2について) 当審の拒絶理由に引用された、特開平7-173112号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。(下線は、当審にて付与した。) 2-ア.「【特許請求の範囲】 【請求項1】 次の一般式(1) 【化1】 (式中、R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5) はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、低級アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアリ-ル基を示すか、又はR^(1),R^(2) 及びR^(3),R^(4) はそれぞれが互いに結合して環を形成していてもよく、nは0又は1を示す)で表されるトリフェニルアミン誘導体。 【請求項2】 請求項1記載のトリフェニルアミン誘導体を含有することを特徴とする電荷輸送材料。 【請求項3】 請求項1記載のトリフェニルアミン誘導体を電荷輸送層に含有することを特徴とする電子写真感光体。」 2-イ.「【0002】 【従来の技術】近年,無機系の光導電性材料としては、アモルファスシリコン、アモルファスセレン、硫化カドミウム、酸化亜鉛等が用いられているが、製造が困難であるため高価であったり、毒性があり環境保護の観点から問題の有る場合がある。一方、有機系の光導電体としては、特に、光導電体を電荷発生材料と電荷輸送材料とに機能分離した形態が盛んに提案されている(例えば、米国特許第3791826号)。この方式においては、キャリア(キャリアとは電荷を示す、以下同様)の発生効率の大きい物質を電荷発生材料として用い、かつ電荷輸送能力の高い物質を電荷輸送材料として組み合わせることによって高感度の電子写真感光体が得られる可能性がある。 【0003】このうち電荷輸送材料に要求されることは、電界印加下で光照射により電荷発生材料において発生したキャリアを効率良く受取り、感光体層内を速く移動させ、表面電荷を速やかに消滅させることである。キャリアが単位電界当りに移動する速さをキャリア移動度と呼ぶ。キャリア移動度が高いということはキャリアが電荷輸送層内を速く移動するということである。このキャリア移動度は電荷輸送物質固有のものであり、したがって、高いキャリア移動度を達成するためにはキャリア移動度の高い材料を使用する必要があるが、未だ十分なレベルに達しているとはいえないのが現状である。」 2-ウ.「【0014】・・・・さらに、本発明化合物(1)の好ましい具体例として以下の表1及び表2に示す化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。 【0015】 【表1】 」 2-エ.「【0017】 表中の略記号は、以下の意味を示す。 4-Me:フェニル基の4-位に置換するメチル基 3-Me:フェニル基の3-位に置換するメチル基 4-Cl:フェニル基の4-位に置換する塩素原子 4-Et:フェニル基の4-位に置換するエチル基 4-MeO:フェニル基の4-位に置換するメトキシ基 ・・・・」 2-オ.「【0052】電荷発生層としては、セレン、セレン-テルル、アモルファスシリコンなどの無機の電荷発生材料、ピリリウム塩系染料、チアピリリウム塩系染料、アズレニウム塩系染料、チアシアニン系染料、キノシアニン系染料などのカチオン染料、スクアリウム塩系顔料、フタロシアニン系顔料、アントアントロン系顔料、ジベンズピレンキノン系顔料、ピラントロン系顔料などの多環キノン顔料、インジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、アゾ顔料、ピロロピロール系顔料などの有機電荷発生物質から選ばれた材料を単独ないしは組み合わせて用い、蒸着層あるいは塗布層として用いることができる。上述のような有機電荷発生物質のなかでも特に好ましくは、Chem. Rev. 1993,93, p.449-486 に記載された有機電荷発生物質が挙げられる。具体的にはフタロシアニン顔料が好ましい。 【0053】ここで特にフタロシアニン系顔料としては、オキソチタニウムフタロシアニン(TiOPc)、銅フタロシアニン(CuPc)、無金属フタロシアニン(H_(2) Pc)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(HOGaPc)、バナジルフタロシアニン(VOPc)、クロロインジウムフタロシアニン(InClPc)が挙げられる。さらに詳しくは、TiOPcとしては、α型-TiOPc、β型-TiOPc、γ型TiOPc、m型-TiOPc、Y型TiOPc、A型-TiOPc、B型TiOPc、TiOPcアモルファスが挙げられ、H_(2 )Pcとしては、α型-H_(2 )Pc、β型-H_(2 )Pc、τ型-H_(2 )Pc、x型-H_(2 )Pcが挙げられる。」 してみると、刊行物2には、下記の発明(以下「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。 「キャリアの発生効率の大きい物質を電荷発生材料として用い、かつ電荷輸送能力の高い物質を電荷輸送材料として組み合わせることによって高感度とした機能分離型の電子写真感光体であって、電荷発生物質として、Y型オキソチタニウムフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料を用いるとともに、電荷輸送物質として、前記一般式(1)及び表1に示されるトリフェニルアミン系の例示化合物を用いた、電子写真感光体。」 3.対比 本願発明と刊行物1発明とを対比する。 まず、刊行物1発明における「1200dpi以上の高解像度の画像形成装置に用いられる電子写真感光体」も、デジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の「有機感光体」であるから、本願発明における「1200dpi以上の解像度でデジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置に用いられる有機感光体」に相当する。 また、刊行物1発明における「導電性支持体」、「電荷輸送層の層厚が14μm」は、それぞれ、本願発明における「導電性基体」、「電荷輸送層の膜厚が8?15μm」に相当する。 したがって、両者は、 「1200dpi以上の解像度でデジタル画像の書き込みを行い、静電潜像を形成する電子写真方式の画像形成装置に用いられる有機感光体において、導電性基体上に、電荷発生層、電荷輸送層を順次積層した構成を有し、且つ電荷輸送層の膜厚が8?15μmである、有機感光体。」の点で一致し、下記の点で相違する。 相違点:本願発明は「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」であるのに対し、刊行物1発明には、そのような特定がなく、また、本願発明は、電荷発生層が「Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニン」を含有し、電荷輸送層が「トリフェニルアミン誘導体」を含有するのに対して、刊行物1発明は、電荷発生層が「結晶性オキソチタニルフタロシアニン化合物」を含有し、電荷輸送層が「エナミン系化合物」を含有する点。 4.当審の判断 上記相違点について、検討する。 まず、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」は、特定の電荷発生物質(CGM)と電荷輸送物質(CTM)の組み合わせによって達成されるべき、有機感光体の光応答特性である。 そして、本願発明において、CGMとCTMの組み合わせは、「Cu-Kαの特性X線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)において27.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニン」と「トリフェニルアミン誘導体」である。 ここで、CGMとCTMの組み合わせにつき、本願発明(感光体1)と刊行物1発明(実施例3)とを対比すると、CGMは、結晶型が異なるものの、オキシチタニルフタロシアニンである点で一致し、CTMは、本願発明がT-1のトリフェニルアミン系化合物であり、刊行物1発明がエナミン系化合物である点で相違する。 一方、刊行物2には、「キャリアの発生効率の大きい物質を電荷発生材料として用い、かつ電荷輸送能力の高い物質を電荷輸送材料として組み合わせることによって高感度とした機能分離型の電子写真感光体であって、電荷発生物質として、Y型オキソチタニウムフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料を用いるとともに、電荷輸送物質として、前記一般式(1)及び表1に示されるトリフェニルアミン系の例示化合物を用いた、電子写真感光体。」が開示されており、特に、表1の「例示化合物17」は、本願発明における「T-1」のトリフェニルアミン系化合物と一致する。 そして、当該技術分野において、有機感光体の高感度化、高画質化、高速化は当然の課題であって、そのために、CGMとCTMの最適の組み合わせを模索することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性は見出せない。 したがって、刊行物1発明において、感光体の高速特性を改善するべく、刊行物2に記載された「Y型オキソチタニウムフタロシアニン」と「例示化合物17」(本願発明の「T-1」)のトリフェニルアミン系化合物の組み合わせを採用することは、当業者が容易に為し得たことであり、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」との有機感光体の特性は、前記の組み合わせによって、必然的に達成可能なものである。 また、相違点に係る構成を採用したことによる作用効果も、刊行物1又は2に記載の発明が奏する「感光体の高感度化」といった効果の延長線上にあるものであって、格別のものではない。 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.請求人の主張 審判請求人は、意見書に、「刊行物2には、トリフェニルアミン誘導体の電荷輸送材料の発明が開示されている。高感度で、残留電位が低い感光体を達成できるとしているが、電荷輸送層の膜厚の開示はなく、キャリア拡散による解像度劣化についても触れていないから、その技術思想は、刊行物1とは異なるものである。・・・・以上のことより、刊行物2に記載された電荷発生材料と電荷輸送材料の組み合わせは、本願発明のものとは異なるから、たとえ、それを刊行物1の発明に適用できたとしても、本願発明の構成とはならない。」、「刊行物2と刊行物1とは、上記述べたように技術思想が異なる。審判官の指摘する『感光体の高感度化』というあまりに漠然とした目的に寄って刊行物1と組み合わせることには無理があるといわざるを得ない。」と記載し、「本願発明と、刊行物1、2に記載のものとは技術思想が異なり、刊行物の組み合わせには無理がある」旨、主張している。 上記主張について検討する。 まず、「『感光体の高感度化』というあまりに漠然とした目的」との主張については、本願明細書には、「ドット画像の潜像形成の大きさやコントラストの劣化を防止し、画像濃度の低下が少なく、高階調、高精細の電子写真画像を形成できる有機感光体を提供する」(段落【0013】)及び「1200dpi以上の高画質のドット画像を形成でき、画像不良を伴わない鮮鋭性、階調性が良好な電子写真画像を提供することができ」(段落【0154】)と記載されているとおり、これらの目的・効果は、『感光体の高感度化』と一致するものである。 また、「10V/μmの電界強度での過渡光電流(TOF)測定において、時間に対する検出電流の積算値をプロットした場合に得られる曲線に接する2つの接線の交差角αが70°以上82°以下」との有機感光体の特性は、「応答遅れのキャリア」が少ないことを意味するのであるから、「応答遅れのキャリア」が少ないこととは、すなわち、『感光体の高感度化』に他ならない。 次に、刊行物の組み合わせに関しては、本願明細書にも「電荷発生層(CGL)に用いる電荷発生物質(CGM)と電荷輸送層(CTL)に用いる電荷輸送物質(CTM)の組み合わせを選択することが重要である。」(段落【0040】)と記載され、また、刊行物2にも、「キャリア(キャリアとは電荷を示す、以下同様)の発生効率の大きい物質を電荷発生材料として用い、かつ電荷輸送能力の高い物質を電荷輸送材料として組み合わせることによって高感度の電子写真感光体が得られる可能性がある」(上記摘記事項2-イ.)とあるように、CGMとCTMの組み合わせを選択することが重要であることは技術常識であって、感光体の高感度化のために、公知材料の中から最適材料を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性はないとされている。 したがって、刊行物の組み合わせには無理があるとの主張には首肯できない。 6.まとめ 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、かつ、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-03-31 |
結審通知日 | 2009-04-07 |
審決日 | 2009-04-20 |
出願番号 | 特願2003-180722(P2003-180722) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G03G)
P 1 8・ 121- WZ (G03G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 芳男 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
山下 喜代治 伏見 隆夫 |
発明の名称 | 有機感光体、プロセスカートリッジ、画像形成装置及び画像形成方法 |