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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03B
管理番号 1199424
審判番号 不服2007-14782  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-23 
確定日 2009-06-15 
事件の表示 特願2002-383282「水晶発振器とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月26日出願公開、特開2003-273647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成14年12月13日(国内優先権主張、平成14年1月11日)の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年10月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】増幅回路と帰還回路を備えて構成される水晶発振回路を備えて構成される水晶発振器で、前記増幅回路はCMOSインバータと帰還抵抗素子とを備えて構成され、前記帰還回路は水晶振動子とコンデンサーとドレイン抵抗素子とを備えて構成され、かつ、前記水晶振動子は、第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを備えて構成され、第1音叉腕と第2音叉腕の各々は、上面とそれに対抗する下面と側面とを有し、第1音叉腕と第2音叉腕の中立線を挟んだ幅方向略中央部の上下面に各々1個の溝が設けられた音叉型屈曲水晶振動子で、前記上下面の各々の溝の開口部の溝幅W_(2)、部分幅W_(1)、部分幅W_(3)と音叉腕幅Wとの間には、W=W_(1)+W_(2)+W_(3)の関係があり、かつ、各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、各々の溝には第1音叉腕の溝の第1電極と第2音叉腕の溝の第1電極との極性が異なる電極が配置されると共に、前記溝の第1電極と対抗して配置された音叉腕の側面の第2電極とは極性が異なる2電極端子を構成し、前記2電極端子の内、1電極端子は第1音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極と第2音叉腕の側面に配置された第2電極から構成され、かつ、上下面の溝に配置された第1電極と側面に配置された第2電極とが接続され、他の1電極端子は第1音叉腕の側面に配置された第2電極と第2音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極から構成され、かつ、側面に配置された第2電極と上下面の溝に配置された第1電極とが接続されていて、前記音叉型屈曲水晶振動子の、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さく、かつ、前記基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きく、増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きいことを特徴とする水晶発振器。」

なお、本願は、特願2002-40795号(出願日:平成14年1月11日)(以下、「優先基礎出願」という。)に基づく優先権の主張を伴うものであるが、上記本願発明の発明特定事項である「増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」は、上記優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず、上記優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項から自明な事項でもないから、上記本願発明は、上記優先基礎出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明ではない。
したがって、上記本願発明には、上記優先基礎出願による優先権の効力は及ばない。


2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭58-24884号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1-1)「増幅回路と帰還回路を備えて構成される水晶発振回路で、前記増幅回路はCMOSインバータ(4)と帰還抵抗素子(Rf)とを備えて構成され、前記帰還回路は水晶振動子(5)とコンデンサー(Cd)とドレイン抵抗素子(Rd)とを備えて構成される、水晶発振回路。」(第2図)(以下、「引用発明」という。)

また、引用例1には、以下の事項も記載されている。
(1-2)「このような振動素子を取り扱う場合、特に注意を用する(審決注:「要する」の誤記と認められる。)ことは、必ず高調波振動を伴なうことである。高調波振動は、水晶発振回路と密接な関係を持っている。そのため水晶振動子と発振回路との関係を充分に把握する必要がある。」(第1頁右下欄第6?11行)
(1-3)「Cg,Cdの容量を小さくした場合、第二高調波振動の動インピーダンスが基本振動に於ける動インピーダンスよりも小さいとき、発振回路に於いて第二高調波振動の実効L成分は基本振動による実効L成分より大きくなるので、第二高調波振動をするという不具合を生じる。」(第2頁左下欄第3?9行)
(1-4)「本発明では、水晶振動子の動インピーダンスを選択することにあり、さらに詳しく言えば、第二高調波振動の動インピーダンスを基本振動の場合の動インピーダンスより大きくすることによって、発振回路のCg,Cdを小さくした場合でも基本振動に於ける発振回路での実効L成分を大きくするものであり、基本振動の安定発振を行うものである。」(第2頁左下欄第14行?右下欄第1行)
(1-5)「本発明で第二高調波振動の動インピーダンスを基本振動の動インピーダンスより大きくするには、le/lを0.65以下にすれば容易に達成される。」(第2頁右下欄第3?6行)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-65517号公報(以下、「引用例2」という。)には以下の事項が記載されている。

(2-1)「本発明は、圧電結晶(ピエゾクリスタル)振動子、特に(限定するものではないが)チューニングフォーク(音叉)形状をなす振動子に関するものである。」(第2頁左上欄第4?7行)
(2-2)「本発明は、第1電極が振動子の1つの表面に設けられ、第2電極との相互作用によって上記表面に十分に平行な方向を有する電界を発生し、この第1電極は少くともその1部分が溝の中に設けられているような、圧電結晶振動子を提供するものである。」(第2頁右上欄第14?19行)
(2-3)「電極は、各歯の平面における交番電解が歯の長さ方向を横切るように、また2つの歯の間において180°の位相関係となるように配置されて、エネルギー源に接続される。」(第2頁左下欄第10?13行)
(2-4)「1方の歯の中央電極と他方の歯の横電極とが、励起電源の1つの極に接続され、逆に第2の歯の中央電極と第1の歯の横電極とが反対の極に接続される。」(第2頁右下欄第5?9行)
(2-5)「1つの構成方法では、単独の溝が各歯上に設けられる。溝の寸法は、その側面が可能な限り歯の横側面に近くなるように決められる。即ち振動子の必要な機構的強度を維持し、その製造技術上許される範囲において近づくよう、位置決めされる。」(第3頁左上欄7?12行)
(2-6)「このような溝形路は、振動子のただ1つの主表面上に設けられて他表面は平面であるか、又は両方(表裏)の主表面に設けられるかの、どちらかである。この後者の場合、歯の断面は対称であって、これは振動子の歯の主表面における平面のゆがみを無視できるようにするものである。」(第3頁右上欄第6?12行)
(2-7)「振動子の振動モードは内部的には励起電極の長さに依存することが知られている。それ故、望ましい振動モードの関数としての溝の長さを、場合に応じて選択できることは、明らかである。」(第3頁右上欄第13?17行)

(3)原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-252207号公報(以下、「引用例3」という。)には以下の事項が記載されている。

(3-1)「〔概要〕
本発明はオーバトーン水晶発振器において、
n次の周波数での等価抵抗値が基本周波数での等価抵抗値以下の水晶振動子をトランジスタのベースとコレクタとの間に接続し、トランジスタのベースとコレクタとの間に十分な容量性のインピーダンスを挿入してn次未満の周波数のときに水晶振動子から回路側を見たインピーダンスの負性抵抗値の絶対値が水晶振動子の等価抵抗値に比較して十分に小さい値にすることにより、
オーバトーンでの発振を確実にし、かつ経済的になるようにしたものである。」(第1頁右下欄第12行?第2頁左上欄第4行)


3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明と引用発明とは、
「増幅回路と帰還回路を備えて構成される水晶発振回路を備えており、前記増幅回路はCMOSインバータと帰還抵抗素子とを備えて構成され、前記帰還回路は水晶振動子とコンデンサーとドレイン抵抗素子とを備えて構成される」点で一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
本願発明は水晶発振回路を備えて構成される水晶発振器であるのに対し、引用発明は、水晶発振回路自体であり、水晶発振器ではない点。

(2)相違点2
本願発明の水晶振動子は、「第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを備えて構成され、第1音叉腕と第2音叉腕の各々は、上面とそれに対抗する下面と側面とを有し、第1音叉腕と第2音叉腕の中立線を挟んだ幅方向略中央部の上下面に各々1個の溝が設けられた音叉型屈曲水晶振動子で、前記上下面の各々の溝の開口部の溝幅W_(2)、部分幅W_(1)、部分幅W_(3)と音叉腕幅Wとの間には、W=W_(1)+W_(2)+W_(3)の関係があり、かつ、各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、各々の溝には第1音叉腕の溝の第1電極と第2音叉腕の溝の第1電極との極性が異なる電極が配置されると共に、前記溝の第1電極と対抗して配置された音叉腕の側面の第2電極とは極性が異なる2電極端子を構成し、前記2電極端子の内、1電極端子は第1音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極と第2音叉腕の側面に配置された第2電極から構成され、かつ、上下面の溝に配置された第1電極と側面に配置された第2電極とが接続され、他の1電極端子は第1音叉腕の側面に配置された第2電極と第2音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極から構成され、かつ、側面に配置された第2電極と上下面の溝に配置された第1電極とが接続されていて、前記音叉型屈曲水晶振動子の、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さく、かつ、前記基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きく、増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」ものであるのに対し、引用発明の水晶振動子は、そのようなものではない点。


4.当審の判断
以下、上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
水晶発振回路を備えて構成される水晶発振器自体は、例示するまでもなく周知であり、引用発明の水晶発振回路を基に水晶発振器を構成することは、当業者が容易に推考し得たことである。

(2)相違点2について
ア.上記引用例2の記載事項(2-1)?(2-6)によれば、引用例2には、「第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを備えて構成され、第1音叉腕と第2音叉腕の各々は、上面とそれに対抗する下面と側面とを有し、第1音叉腕と第2音叉腕の中立線を挟んだ幅方向略中央部の上下面に各々1個の溝が設けられた音叉型屈曲水晶振動子で、前記上下面の各々の溝の開口部の溝幅W_(2)、部分幅W_(1)、部分幅W_(3)と音叉腕幅Wとの間には、W=W_(1)+W_(2)+W_(3)の関係があり、各々の溝には第1音叉腕の溝の第1電極と第2音叉腕の溝の第1電極との極性が異なる電極が配置されると共に、前記溝の第1電極と対抗して配置された音叉腕の側面の第2電極とは極性が異なる2電極端子を構成し、前記2電極端子の内、1電極端子は第1音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極と第2音叉腕の側面に配置された第2電極から構成され、かつ、上下面の溝に配置された第1電極と側面に配置された第2電極とが接続され、他の1電極端子は第1音叉腕の側面に配置された第2電極と第2音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極から構成され、かつ、側面に配置された第2電極と上下面の溝に配置された第1電極とが接続されている水晶振動子」に相当するものが記載されているといえる。
イ.また、同引用例2の記載事項(2-5)によれば、引用例2には、上記各音叉腕にそれぞれ設けられる1個の溝の寸法を、上記部分幅W_(1)、W_(3)が可能な限り小さくなるように決めることも記載されているといえる。
ウ.一方、上記引用例1の記載事項(1-2)?(1-5)、上記引用例2の記載事項(2-7)、上記引用例3の記載事項(3-1)によれば、水晶振動子の基本波モード振動と高調波モード振動における等価抵抗値等のパラメータを相互に異なった値とすることにより、所望のモード以外の振動を抑制し、所望のモードの振動を安定的に得る技術が、本願出願前に周知であったことが認められる。
エ.以上の事実を基に、上記相違点2の克服が当業者にとって容易であったか否か、即ち、引用発明の水晶振動子を「第1音叉腕と第2音叉腕と音叉基部とを備えて構成され、第1音叉腕と第2音叉腕の各々は、上面とそれに対抗する下面と側面とを有し、第1音叉腕と第2音叉腕の中立線を挟んだ幅方向略中央部の上下面に各々1個の溝が設けられた音叉型屈曲水晶振動子で、前記上下面の各々の溝の開口部の溝幅W_(2)、部分幅W_(1)、部分幅W_(3)と音叉腕幅Wとの間には、W=W_(1)+W_(2)+W_(3)の関係があり、かつ、各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、各々の溝には第1音叉腕の溝の第1電極と第2音叉腕の溝の第1電極との極性が異なる電極が配置されると共に、前記溝の第1電極と対抗して配置された音叉腕の側面の第2電極とは極性が異なる2電極端子を構成し、前記2電極端子の内、1電極端子は第1音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極と第2音叉腕の側面に配置された第2電極から構成され、かつ、上下面の溝に配置された第1電極と側面に配置された第2電極とが接続され、他の1電極端子は第1音叉腕の側面に配置された第2電極と第2音叉腕の上下面の溝に配置された第1電極から構成され、かつ、側面に配置された第2電極と上下面の溝に配置された第1電極とが接続されていて、前記音叉型屈曲水晶振動子の、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さく、かつ、前記基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きく、増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」ものとすることが当業者にとって容易であったか否かについて検討するに、当審は、以下の理由で、容易であったと判断する。
(ア)技術分野の関連性等からみて、引用発明の水晶振動子として、上記ア.に摘示した引用例2に記載される水晶振動子を採用すること自体は、当業者が容易に推考し得たことである。
(イ)その際、上記引用例2に記載されていると認められる、上記イ.に摘示した技術的事項に基づき、「各々の溝幅W_(2)を部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成」することも、当業者が容易に推考し得たことである。
(ウ)また、その際、上記ウ.に摘示した周知技術と、上記引用例3の記載事項(3-1)中の負性抵抗値に関する記載に基づき、「音叉型屈曲水晶振動子の、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さく、かつ、前記基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きく、増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」ものとすることも、当業者が容易に推考し得たことである。

上記(イ)について敷衍するに、当審は、以下の事項を勘案して、上記(イ)のとおりに判断したものである。
a.引用例2に記載されていると認められる上記イ.に摘示した技術的事項(「音叉腕にそれぞれ設けられる1個の溝の寸法を、上記部分幅W_(1)、W_(3)が可能な限り小さくなるように決める」)に従って、普通に音叉型水晶振動子を構成すれば、音叉腕の幅等の各種条件によっては、「各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、」なる要件を充足する水晶振動子も当然に構成され得る。
b.現に、該「各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、」なる要件を充足する水晶振動子は、本願に対する平成18年7月28日付けの拒絶理由通知書に周知技術を示す例として示された、国際公開第00/44092号公報にも示されており、該「各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、」なる要件を充足する水晶振動子を実現することに対する阻害要因がないことは明らかである。
c.審判請求人は、「引用例2には、溝幅W_(2)を部分幅W_(1)、W_(3)との関係において規定するという技術思想は全く存在しない」旨主張する(審判請求書「4.1 引用例2(刊行物2)に記載された発明と本願発明との対比」の項)が、引用例2に、溝幅W_(2)を部分幅W_(1)、W_(3)との関係において規定すること自体が記載されていないからといって、「各々の溝幅W_(2)は部分幅W_(1)、部分幅W_(3)より大きく形成され、」なる要件を充足する水晶振動子を構成することが困難であったということにはならず、上記a.、b.によれば、該要件を充足する水晶振動子を構成することは、当業者にとっては容易であったというべきであるから、該審判請求人の主張は採用できない。
d.審判請求人は、「引用例2の技術思想は、厚みをできるだけ大きく(幅より厚みを大きく)し、溝を深くして、溝の側面に配置される電極面積を大きくすることにより、小型化しても圧電結合を大きくできるというものである。」、「引用例2は・・・、部分幅W_(1)、W_(3)は厚みの3分の1に等しいか、それより大きいと制約している。」などと主張し、それらを根拠に、「引用例2は、溝幅W_(2)、部分幅W_(1)、W_(3)との関係において、溝幅W_(2)が部分幅W_(1)、W_(3)より小さくなることを開示するものであり、溝幅W_(2)が部分幅W_(1)、W_(3)より大きくなることを開示していない」旨の主張もしているが、該主張によっても、上記a.、b.に基づく判断は覆らない。なぜならば、引用例2に「幅より厚みを大きく」することについての記載はなく、引用例2が、少なくとも、溝幅W_(2)が部分幅W_(1)、W_(3)より大きいものを排除するものでないことは明らかであるからである。

上記(ウ)について敷衍するに、当審は、以下の二とおりの理由から、上記(ウ)のとおりに判断したものである。
(理由1)
本願発明の「音叉型屈曲水晶振動子の、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さく、かつ、前記基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、前記2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きく」なる発明特定事項(以下、「発明特定事項A」と呼ぶ。)は、物としての音叉型屈曲水晶振動子の構成を、その特性を用いて規定するものであり、「基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差が、2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差より小さいか否かや、基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が、2次高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(2)より大きいか否かを、実際に判定する」ことまでを要件として規定するものではない。したがって、引用発明と引用例2、及び上記ウ.に摘示した周知技術に基づいて容易に想到されるものの一部が、結果として該発明特定事項Aに規定される要件を満たすことになると考えられる場合には、該発明特定事項Aへの容易想到性が肯定されるところ、当審は以下のとおり判断した。
すなわち、上記ウ.に摘示した周知技術は、下記<軌を一にする点>の欄に示すように、本願発明の上記発明特定事項Aを実現する技術と軌を一にするものであるし、上記発明特定事項Aは、単に、基本波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差と2次高調波モード振動の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数周波数差の大小関係と、M_(1)とM_(2)の大小関係を規定するのみであって、非常に広範な範囲を有するものであるから、該ウ.に摘示した周知技術に基づいて引用発明から容易に想到されるものの一部は、当然に、結果として該発明特定事項Aにより規定される要件を満たすことになると考えられる。
<軌を一にする点>
a.上記ウ.に摘示した周知技術は、上記引用例1の記載事項(1-5)、上記引用例2の記載事項(2-7)等にも示されるように、具体的には、電極や溝の寸法を調整することで実現されるところ、本願発明の上記発明特定事項Aも、本願明細書の段落【0026】、【0027】に、それぞれ、「屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f_(s)と並列容量に依存する直列共振周波数f_(r)の周波数差ΔfはフイガーオブメリットM_(i)に反比例し、」、「音叉形状と溝と電極とその寸法の構成により、基本波モード振動のフイガーオブメリットM_(1)が高調波モード振動のフイガーオブメリットM_(n)より大きくなる。」と記載されているように、具体的には、電極や溝の寸法を調整することで実現される。
b.上記ウ.に摘示した周知技術における「等価抵抗値等のパラメータ」も、本願発明の「並列容量に依存しない機械的直列共振周波数と並列容量に依存する直列共振周波数の周波数差」、「フイガーオブメリット」も共に、品質係数Qや周波数安定性に関連するパラメータである。

また、本願発明の「増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」なる発明特定事項(以下、「発明特定事項B」と呼ぶ。)については、以下の事項を勘案すると、上記引用例3の記載事項(3-1)の記載に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。
(a)上記引用例3の記載事項(3-1)は、所望の振動モードでの発振を確実にするためには、不要な振動モードの負性抵抗の絶対値を小さく、同不要な振動モードの等価抵抗を大きくし、所望の振動モードの負性抵抗と等価抵抗をその逆にすることが有効であることを示している。
(b)上記(a)の知見が、引用発明や引用例2の水晶振動子を用いて構成される発振回路にも有用であることは、当業者に自明である。
(c)上記(a)の知見に基づいて、基本波モード振動を所望の振動モードとする発振器を構成すれば、「増幅回路と帰還回路を備えて構成される前記水晶発振回路の、増幅回路の前記基本波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(1)|と前記基本波モード振動の等価直列抵抗R_(1)との比が、増幅回路の前記2次高調波モード振動の負性抵抗の絶対値|-RL_(2)|と前記2次高調波モード振動の等価直列抵抗R_(2)との比より大きい」ものが、当然に構成される。

(理由2)
本願に対する平成18年7月28日付けの拒絶理由通知書に刊行物4.、5.として引用された、特開昭50-17592号公報や、「滝貞男,人工水晶とその電気的応用,日本,日刊工業新聞社,1974年5月30日,初版,p.36-38」等によれば、本願出願前に、「フイガーオブメリット」自体は、水晶振動子の品質を表すパラメータ(その値が大きいほど品質が優れている)として周知であったことが認められる。
また、本願明細書の段落【0026】の上記「屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f_(s)と並列容量に依存する直列共振周波数f_(r)の周波数差ΔfはフイガーオブメリットM_(i)に反比例し、」なる記載によれば、「屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f_(s)と並列容量に依存する直列共振周波数f_(r)の周波数差Δf」は、「フイガーオブメリットM_(i)」と互いに表裏の関係にあるパラメータであると認められる。
一方、上記ウ.に摘示した周知技術における「等価抵抗値等のパラメータ」も、水晶振動子の品質を表すパラメータである。
以上の事実に、一般に、複数の公知のパラメータの中から最適なものを選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことを併せ考えると、上記ウ.に摘示した周知技術における「等価抵抗値等のパラメータ」として、周知の「フイガーオブメリット」や、それと表裏の関係にある「屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f_(s)と並列容量に依存する直列共振周波数f_(r)の周波数差Δf」の採用を試みることは、当業者が容易に推考し得たことである。
そして、上記ウ.に摘示した周知技術における「等価抵抗値等のパラメータ」として、「フイガーオブメリット」や、それと表裏の関係にある「屈曲水晶振動子の並列容量に依存しない機械的直列共振周波数f_(s)と並列容量に依存する直列共振周波数f_(r)の周波数差Δf」の採用を試みる場合に、上記発明特定事項Aに相当する構成とすることは、上記ウ.に摘示した周知技術の目的から当業者が容易に想到することである。

発明特定事項Bについては、上記(理由1)と同様の理由で容易想到性が肯定される。

(3)本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び上記各引用例に記載された技術並びに周知技術から、当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例1?3に記載された発明及び周知の技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について、検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-31 
結審通知日 2009-04-07 
審決日 2009-04-21 
出願番号 特願2002-383282(P2002-383282)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 弘亘  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 飯田 清司
長島 孝志
発明の名称 水晶発振器とその製造方法  

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