• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06F
管理番号 1199581
審判番号 無効2006-80234  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-14 
確定日 2009-06-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3766429号「着脱式デバイス」の特許無効審判事件についてされた平成19年10月23日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1に係る発明に対する部分の審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10403号平成20年 7月23日判決言渡)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、3分の2を請求人の、3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続きの経緯
本件特許3766429号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成14年10月28日に出願した特願2002-313425号の一部を平成17年8月4日に新たな特許出願としたものであって、平成18年2月3日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成18年11月14日に審判請求人 株式会社ハギワラシスコムより、本件特許明細書の請求項1及び2に係る発明について特許無効の審判が請求され、被請求人 株式会社サスライトより平成19年2月2日付けで答弁書の提出及び訂正請求がなされ、請求人より平成19年3月26日付けで弁駁書が提出されるとともに、当審より平成19年4月18日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して請求人より平成19年5月21日付けで手続補正がなされ、被請求人から平成19年5月23日付けで意見書が提出され、請求人及び被請求人よりそれぞれ平成19年7月20日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、平成19年7月20日に第1回口頭審理が実施され、被請求人より平成19年8月10日付けで上申書の提出がなされるとともに、請求人より平成19年8月23日付けで上申書の提出がなされたものである。
その後、平成19年10月23日に「 訂正を認める。 特許第3766429号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決がされたところ、請求項1及び2に対する審決部分の取消を求め知的財産高等裁判所に出訴され、平成19年(行ヶ)10403号事件として審理された結果、平成20年7月23日に「特許庁が無効2006-080234号事件について平成19年10月23日にした審決のうち「特許第3766429号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。」との判決がなされたものである。
なお、請求項2に係る発明に対する審決は、右判決の確定に伴い平成20年8月6日に確定したものである。

第2 本件発明
本件特許第3766429号の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明1」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。
「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイスであって、
所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱され、 前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段と、
前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信するとともに、前記汎用周辺機器インタフェース経由で繰り返されるメディアの有無の問い合わせ信号に対し、少なくとも一度はメディアが無い旨の信号を返信し、その後、メディアが有る旨の信号を返信して、前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段と、
前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能な記憶装置へのアクセスを受ける手段
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張の趣旨
本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないから特許法第36条第6項第1号規定により特許を受けることができないものであり(無効理由1)、また本件特許発明1は明確でないから特許法第36条第6項第2号規定により特許を受けることができないものであり(無効理由2)、特許法123条第1項第第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 被請求人の主張の趣旨
被請求人は、答弁書等において、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めて、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載したものであり、また本件特許発明1は明確である旨、主張している。

第4 請求及び答弁の理由の概要
1 請求人の請求理由の概要
審判請求書、平成19年3月26日付けで提出された弁駁書、平成19年5月23日付けで提出された意見書、平成19年7月20日付けで提出された口頭審理陳述要領書、及び平成19年8月23日付けで提出された上申書の趣旨からみて、請求人の主張の要点は、概略以下のとおりである。

(1)無効理由1
(無効理由1-1)
本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、「記憶装置に自動起動スクリプトを記憶させる」主体であると解釈すべきであり、この手段は当然ながらROM又は読み書き可能な記憶装置とは異なる構成要素である。しかしながら、自動起動スクリプトを記憶装置に記憶させる主体(手段)は、発明の詳細な説明のどこにも記載がない。
以上のように、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないから特許法第36条第6項第1号規定により特許を受けることができない。

(2)無効理由2
(無効理由2-1)
本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」において、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置」はマスクROMを含むものであるから、本件特許発明1は、マスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段を含むものである。しかしながら、マスクROMは、製造時に所定のデータを書き込むもので、マスクROM製造後には一切データの書き込みはできないものであるから、製造後のマスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段を備える本件特許発明1は、発明特定事項に技術的欠陥があり、特許を受けようとする発明が明確でない。
以上のように、本件特許発明1は明確でないから特許法第36条第6項第2号規定により特許を受けることができない。

2 被請求人の答弁の理由の概要
平成19年2月2日付けで提出された答弁書並びに訂正請求、平成19年5月21日付けで提出された手続補正書、平成19年7月20日付けで提出された口頭審理陳述要領書、及び平成19年8月10日付けで提出された上申書の趣旨からして、被請求人の主張の要点は、概略以下のとおりである。
(1)無効理由1
(無効理由1-1)
本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、請求項1の全体の記載に基づいて解釈する限り、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」、すなわち、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段」とほぼ同義となるものと解され、また本件特許の審査経過からしても、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味することが示されている。
したがって、本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味するものである以上、該構成要件は、本件明細書の例えば【0030】及び【0031】欄の記載、並びに図1の記載に裏付けられているものであるから、特許法36条6項第1号の規定に違背しない。

(2)無効理由2
(無効理由2-1)
本件特許発明1の発明特定事項「自動起動スクリプトを記憶する手段」とは、自動起動スクリプトを記憶させる「主体」ではなく、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」であると解釈すべきであり、また、「ROMに自動起動スクリプトを記憶する」のは、着脱式デバイスの製造時であれば足り、請求項1記載の発明の課題がスクリプトに記述されたプログラムの自動実行にある(本件特許公報【0012】欄)ことに照らせば、本件特許発明1が備える主な記憶装置は、ROMのみでもよく、ユーザが実行時に任意にデータを保存するための「読み書き可能な記憶装置」を更に備えることを要しないから、本件特許発明1は、特許法36条6項第2号の規定に違背しない。

第5 当審の判断
1 無効理由1-1についての判断
本件特許発明1の発明特定事項である「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という請求項1に記載された文言の解釈について検討する。
(1)本件請求項1の記載を全体として捕らえると、本件請求項1の「着脱式デバイス」は、「所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の汎用周辺機器インタフェースに着脱されるものであって、前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に「前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信」するなどして、「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」を備えるものである。
したがって、「自動起動スクリプト」は、「所定の種類の機器」を用いる場合にはその機器に記憶され、コンピュータによって起動されるものであり、同様に、本件請求項1の「着脱式デバイス」を用いる場合には、着脱式デバイスに記憶され、コンピュータによって起動されるものである。
そして、本件請求項1の「着脱式デバイス」は、「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置を備え」るものであり、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する」と記載されていることに照らせば、「自動起動スクリプト」は着脱式デバイスの主な記憶装置であるROM又は読み書き可能な記憶装置に記憶されるものである。

(2)ところで、一般に「手段」とは、「目的を達するための具体的なやり方」を意味するものである(広辞苑第6版)ところ、本件特許発明1における「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が、「前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段」、「前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能な記憶装置へのアクセスを受ける手段」とともに併記されたものであることからすれば、上記「記憶する手段」が、「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するのか、それとも本件特許発明1全体の目的を達するための構成要素の一つを意味するのか、いずれに解することも可能であって、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合に当たる。

(3)そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して、本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」の解釈につき検討する
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
・【背景技術】
「近年、半導体技術やインターネットの普及進歩に伴って各種コンピュータの普及が進み、周辺機器の接続方式も多様化している。この結果、コンピュータの機種を問わず適用可能な汎用周辺機器インタフェースが必要とされ、その具体的規格の一例としてUSB(Universal SerialBus)インタフェースが提案された。また、各種コンピュータの小型軽量化と持ち運び(モバイル)用途の拡大により、着脱自在な外部記憶装置も必要とされ、その一つとして、前記USBインタフェースでパソコンに容易に接続できるメモリデバイスであるUSBメモリの人気が高まっている…」(段落【0002】)
・【発明が解決しようとする課題】
「しかしながら、USBメモリに格納してある目的のデータやソフトウェアを利用するには、それらに辿り着くまでの操作が面倒であり、特にUSBメモリの使用頻度が多いほど煩雑さが増す問題点があった。」(段落【0008】)
・「例えば、USBメモリ内のデータを使うには、ユーザは、USBメモリをパソコンに挿入するだけでなく、OS(Operating System。基本ソフト)の画面で『マイコンピュータ』→『リムーバブルディスク』→『目的の操作』のように順番に選択肢をたどっていく操作か、又は、キーボードを用いてファイル名を指定して実行させるなど、相応の煩雑な手順が必要であった。」(段落【0009】)
・「本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、その目的は、使い勝手の優れた着脱式デバイス及びプログラムの起動方法を提供することである。」(段落【0010】)
・【課題を解決するための手段】
「この態様では、USBメモリなど他の種類のデバイスであっても、ホスト側からの問い合わせに対し、CD-ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号を擬似的に返信させる。このため、装着検出用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインストールしておかなくても、デバイス装着時に、スクリプトに記述されたプログラム実行など所望の処理が自動実行される。これにより、デバイスの専用ソフトウェアなどを手動でインストールするまでもなく、デバイスの様々な機能や使い方を実現できる。…」(段落【0012】)
・【発明を実施するための最良の形態】
「〔1.第1実施形態の概略構成〕…第1実施形態は、コンピュータ1に着脱して用いる着脱式複合デバイス(以下『複合デバイス』と呼ぶ)2であり、コンピュータ1は、汎用周辺機器インタフェースとしてUSBを備える。すなわち、コンピュータ1は、USBポート10と、USBホストコン
トローラと、USBのための必要なデバイスドライバを備え、コンピュータ1を以下、USBに関して『ホスト側』や『コンピュータ側』のようにも呼ぶ。」(段落【0017】)
・「〔2-2.擬似認識〕ところで、OSによっては(例えばマイクロソフト〔登録商標〕社のウインドウズ〔登録商標〕シリーズ)、所定の種類のデバイス(例えばCD-ROM)にメディアが挿入されたことを契機として、そのメディア上の所定のスクリプトファイル(例えば『Autorun.inf』)を実行する。コンピュータ1は、そのようなOSを備えるコンピュータであるものとする。」(段落【0029】)
・「また、USBでは、ホスト側は、USBに装着されたかもしれないデバイスに対し、機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流しており、新たにUSBに装着された機器は、この問い合わせ信号に対して自分が該当する機器の種類を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させる。したがって、コンピュータ1は、所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトをスクリプト実行部11が実行するものである。」(段落【0030】)
・「そこで、USBデバイス側制御部3の認識制御部32は、USBに接続された際に、ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し、CD-ROMである旨の信号を擬似的に返信する。…」(段落【0031】)
・「すなわち、着脱式デバイス2すなわちUSBメモリは本来はスクリプト実行の対象とはならない種類のデバイスであるが、ホスト側からの問い合わせに対し、認識制御部32が、CD-ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号を擬似的に返信する。」(段落【0032】)
・「このため、装着検出用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインストールしておかなくても、デバイス装着時に、スクリプトに記述されたプログラム実行など所望の処理が自動実行される。これにより、デバイスの専用ソフトウェアなどを手動でインストールするまでもなく、デバイスの様々な機能や使い方を実現できる。また、ユーザが管理者権限を持たないためソフトウェアをインストールできないコンピュータ上でも、着脱式デバイスからの所望のプログラムの自動起動が容易に実現される。」(段落【0033】)
(イ)以上の記載によれば、本件特許発明1は、USBメモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に、煩雑な手動操作を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させることを課題とするものであり、かかる課題の解決手段として、自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し、コンピュータからの問い合わせに対してCD-ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによって、コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを起動させるという構成を備えたものであることが認められる。
そして、かかる解決手段を実現するためには、自動起動スクリプトは、着脱式デバイスがコンピュータに接続されたときにコンピュータから読み出すことが可能な状態でデバイスの記憶装置内に記憶されていることが必要であり、かつ、それで足りる。
そうすると、ROM等の記憶装置が、その製造時に自動起動スクリプトを記憶するものであっても、上記解決手段を実現するのに何ら差し支えなく、また、ROM等の記憶装置の製造後に自動起動スクリプトを記憶させなければならないとすることは、上記解決手段の実現にとって特段の意味を有しないものである。
(ウ)したがって、本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」という文言は、「ROM又は読み書き可能な記憶装置に自動起動スクリプトを記憶する」という目的を達するための具体的なやり方を意味するものと解すべきではなく、本件特許発明1の目的を達するための構成要素の一つとして「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能な記憶装置に記憶されている状態であること」を意味するものと解釈すべきである。

(4)以上のような本件請求項1の解釈を前提として、「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」に対応する記載が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているかについて検討する。
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
・「…複合デバイス2は、コンピュータのUSBポート10に着脱するもので、 この例では、主な記憶装置として読み書き可能なフラッシュメモリ4を備えるが、主な記憶装置として小型ハードディスクドライブやROMを用いてもよい。…」(段落【0018】)
・「…フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3…が設定される。そして、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)…が各単位デバイスとなっている。」(段落【0021】)
・「…USBデバイス側制御部3の認識制御部32は、USBに接続された際に、ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し、CD-ROMである旨の信号を擬似的に返信する。この擬似的返信は、複数の単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについて行う。また、CD-ROM領域R3のCD-ROMドライブHには、前記自動起動スクリプトSにより起動される自動起動プログラムPを格納しておく。」(段落【0031】)
・「このため、装着検出用の常駐プログラムをコンピュータ側に予めインストールしておかなくても、デバイス装着時に、スクリプトに記述されたプログラム実行など所望の処理が自動実行される。…」(段落【0033】)
・「なお、第1実施形態では、自動起動スクリプトS中に自動起動プログラムPの実行を指定しておく。…」(段落【0038】)
(イ)また、本件特許明細書の図1には、CD-ROM領域R3のCD-ROMドライブHに自動起動スクリプトSが記憶されている状態が記載されている。
(ウ)以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、(a)着脱式デバイスの「主な記憶装置」として「ROM 」又は「読み書き可能なフラッシュメモリ4」などの記憶装置が用いられること、(b)これらの記憶装置の記憶領域には「CD-ROM領域R3」が設定されていること、(c)CDROM領域R3のCD-ROMドライブHには「自動起動スクリプトSにより起動される自動起動プログラムP」が格納されていること、(d)複数の単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについて、ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し、CD-ROMである旨の信号(擬似信号)の返信が行われること、(e)擬似信号の返信の結果、デバイス装着時にスクリプトに記述されたプログラムが自動実行されることが記載されている。
これらの記載に照らせば、自動起動プログラムPのみならず、自動起動プログラムPを起動する自動起動スクリプトについてもROM又は読み書き可能な記憶装置内の「CD-ROM領域R3」に記憶されていることは明らかである。
(エ)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が実質的に記載されているものである。

(5) 以上のとおり、本件特許発明1の特許については、本件特許明細書に記載していないと言えないから、請求人の主張する無効理由1-1によって、本件特許発明1を無効とすることはできない。

2 無効理由2-1についての判断
(1)本件請求項1の「ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」については、その技術的意義が一義的に明確に理解することができないものであって、発明の詳細な説明の記載を参酌した結果、「自動起動スクリプトがROM又は読み書き可能な記憶装置に記憶されている状態」であることを意味するものと解されることは、前記1において検討したとおりである。

(2) 以上より、特許を受けようとする発明の技術的課題を解決するために必要な事項が本件請求項1に記載されているかについて検討する。
(ア)前記1(3)(イ)において検討したとおり、本件特許発明1は、USBメモリ等の着脱式デバイスをコンピュータに接続した際に、煩雑な手動操作を要することなく自動起動スクリプトに記述された所定のプログラムを自動実行させることを課題とするものであり、かかる課題の解決手段として、自動起動スクリプトを着脱式デバイスの記憶装置内に予め記憶し、コンピュータからの問い合わせに対してCD-ROMドライブなど自動起動スクリプト実行の対象機器である旨の信号(擬似信号)を返信することによって、コンピュータが着脱式デバイスの記憶装置内に記憶された自動起動スクリプトを起動させるという構成を備えたものであることが認められる。
(イ)そして、本件請求項1には、着脱式デバイスは(a)「主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置」を備え、(b)「所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェース」に着脱されるものであって、(c)前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に自動起動スクリプトが記憶され、(d)「前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信するとともに、前記汎用周辺機器インタフェース経由で繰り返されるメディアの有無の問い合わせ信号に対し、少なくとも一度はメディアが無い旨の信号を返信し、その後、メディアが有る旨の信号を返信」すること(擬似信号の返信)により、前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させ、(e)前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能な記憶装置へのアクセスを受けるものであることが記載されている。
(ウ)したがって、本件請求項1には、本件特許発明1の技術的課題を解決するために必要な事項が記載されているものであるから、本件請求項1の記載は「特許を受けようとする発明が明確である」との要件に適合しているものである。

(3)以上のとおり、本件特許発明1の特許は、特許法36条6項2号に適合してなされたものであるから、請求人の主張する無効理由2-1によって、本件特許発明1を無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その3分の2を請求人が、3分の1を被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 -------------------------------
(参考:平成19年10月23日付け審決)
審決

無効2006- 80234

愛知県名古屋市中区錦2丁目4番3号
請求人 株式会社 ハギワラシスコム

愛知県名古屋市中区錦二丁目9番27号 名古屋繊維ビル
代理人弁理士 足立 勉

東京都千代田区麹町二丁目10番地 イトーピア麹町AAビル2F
被請求人 株式会社 サスライト

東京都港区虎ノ門一丁目2番8号 虎ノ門琴平タワー 三好内外国特許事務所
代理人弁理士 三好 秀和

東京都港区虎ノ門1-2-8 虎ノ門琴平タワー 三好内外国特許事務所
代理人弁理士 豊岡 静男

東京都港区虎ノ門一丁目2番8号 虎ノ門琴平タワー 三好内外国特許事務所
代理人弁理士 小西 恵

上記当事者間の特許第3766429号発明「着脱式デバイス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
訂正を認める。
特許第3766429号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理 由
第1.手続の経緯
本件特許3766429号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成14年10月28日に出願した特願2002-313425号の一部を平成17年8月4日に新たな特許出願としたものであって、平成18年2月3日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成18年11月14日に審判請求人 株式会社ハギワラシスコムより、本件特許明細書の請求項1及び2に係る発明について特許無効の審判が請求され、これに対して、被請求人 株式会社サスライトより平成19年2月2日付けで答弁書の提出及び訂正請求がなされ、請求人より平成19年3月26日付けで弁駁書が提出されるとともに、当審より平成19年4月18日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して請求人より平成19年5月21日付けで手続補正がなされ、被請求人から平成19年5月23日付けで意見書が提出され、請求人及び被請求人よりそれぞれ平成19年7月20日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、平成19年7月20日に第1回口頭審理が実施され、被請求人より平成19年8月10日付けで上申書の提出がなされるとともに、請求人より平成19年8月23日付けで上申書の提出がなされたものである。

第2.訂正の適否について
1.訂正の内容
平成19年2月2日付けの訂正請求に対して、当審より平成19年4月18日付けで訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して請求人より平成19年5月21日付けで手続補正がなされており、前記平成19年2月2日付けの訂正請求及び平成19年5月21日付けの手続補正によると、特許権者が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項2を次のとおり訂正する。
「【請求項2】
主な記憶装置として読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイスであって、
所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱され、 前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信する手段と、
前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスと、 コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段と、
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。」

(2)訂正事項b
b1.本件特許明細書の段落【0013】の記載を「請求項2の発明は、所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱され、主な記憶装置として読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイスであって、前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信する手段と、前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスと、コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段と、を備えたことを特徴とする。」と訂正する。

b2.本件特許明細書の段落【0021】の記載を「このようなハブ分けにより、フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3と、読み書き可能領域R4及びR5が設定される。そして、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスとなっている。」と訂正する。

b3.本件特許明細書の段落【0022】の記載を「また、読み書き可能領域R5上には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され、これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も個別に単位デバイスを構成している。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)特許請求の範囲の訂正の適否
訂正事項aは、訂正前の請求項2に記載された「着脱式デバイス」が備える主な記憶装置を「ROM又は読み書き可能な記憶装置」から「読み書き可能な記憶装置」に限定するとともに、訂正前の請求項2に記載された「複数の単位デバイス」について、「複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」との限定を付加し、読み書き可能な単位デバイスが複数あることを明確化するものであるから、特許請求の範囲の減縮または明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するといえる。
そして、上記訂正内容は、本件特許明細書の段落【0018】、【0021】、【0022】の記載並びに図1の記載に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
そして、上記訂正事項aの訂正内容は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)発明の詳細な説明の記載の訂正の適否
訂正事項b1は、上記の特許請求の範囲の請求項2の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するといえる。
そして、訂正事項b1は、上述したように本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

訂正事項b2は、本件特許明細書の段落【0021】における記載「・・・CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスとなっているが、それら領域自体を単位デバイスとしてもよい。」から、「が、それら領域自体を単位デバイスとしてもよい」を削除するものであり、USBデバイス側制御部3のハブ分け部31が、単一の複合デバイス2において、コンピュータ1側とのデータ授受を割り振る「単位デバイス」について、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスに相当することを明確化したものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するといえる。
そして、訂正事項b2は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項b3は、本件特許明細書の段落【0022】における記載「また、読み書き可能領域R5上には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され、これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も一つの単位デバイスを構成している。なお、リムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」を個別に単位デバイスとしてもよい。」において、「なお、リムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」を個別に単位デバイスとしてもよい。」を削除し、「これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も一つの単位デバイスを構成している。」を「これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も個別に単位デバイスを構成している。」と訂正するものであり、USBデバイス側制御部3のハブ分け部31が、単一の複号デバイス2において、コンピュータ1側とのデータ授受を割り振る「単位デバイス」について、読み書き可能領域R5上に設定される3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」、「F」、「G」)のそれぞれが各単位デバイスに相当することを明確化したものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するといえる。
そして、訂正事項b3は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、並びに、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので当該訂正を認める。

第3.本件訂正後の特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1及び2に係る発明については、上記訂正を認容することができるから、本件訂正後の発明は、訂正明細書の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)である。

「【請求項1】
主な記憶装置としてROM又は読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイスであって、
所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱され、
前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段と、
前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信するとともに、前記汎用周辺機器インタフェース経由で繰り返されるメディアの有無の問い合わせ信号に対し、少なくとも一度はメディアが無い旨の信号を返信し、その後、メディアが有る旨の信号を返信して、前記コンピュータに前記自動起動スクリプトを起動させる手段と、
前記コンピュータから前記ROM又は読み書き可能な記憶装置へのアクセスを受ける手段
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。

【請求項2】
主な記憶装置として読み書き可能な記憶装置を備えた着脱式デバイスであって、
所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータの汎用周辺機器インタフェースに着脱され、 前記汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信する手段と、
前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスと、
コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段と、
を備えたことを特徴とする着脱式デバイス。」

第4.当事者の主張及び証拠方法
1.請求人の主張及び証拠方法
(1)請求人の主張の趣旨
本件特許発明1及び本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものでないから特許法第36条第6項第1号規定により特許を受けることができないものであり(無効理由1)、また本件特許発明1及び本件特許発明2は明確でないから特許法第36条第6項第2号規定により特許を受けることができないものであり(無効理由2)、また本件特許発明2は甲第3号証に係る先願明細書等に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり(無効理由3)、特許法123条第1項第2号および第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2)証拠方法
甲第1号証:本件特許掲載公報(特許第3766429号)
甲第2号証:平成17年11月21日付けで提出された意見書
甲第3号証:特願2002-252749号(特開2003-178017号公報)
甲第4号証:平成17年11月21日付けで提出された手続補正書
甲第5号証:特許庁の審判便覧54-01「訂正審判の請求の対象、訂正のできる範囲」
甲第6号証:特許庁の審判便覧54-10「訂正の可否決定上の判断及び事例」
甲第7号証:特許庁の特許・実用新案審査基準第II部第2章 新規性・進歩性第1?5頁

なお、審判請求人は、弁駁書を提出する際に上記甲第5号証?甲第7号証を提出している。

2.被請求人の主張
(1)被請求人の主張の趣旨
被請求人は、答弁書等において、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めて、本件特許発明1及び本件特許発明2は発明の詳細な説明に記載したものであり、また本件特許発明1及び本件特許発明2は明確であり、また本件特許発明2は、甲第3号証に係る先願明細書等に記載された発明と同一でない旨、主張している。

第5.請求及び答弁の理由の概要
1.請求人の請求理由の概要
審判請求書、平成19年3月26日付けで提出された弁駁書、平成19年5月23日付けで提出された意見書、平成19年7月20日付けで提出された口頭審理陳述要領書、及び平成19年8月23日付けで提出された上申書の趣旨からみて、請求人の主張の要点は、概略以下のとおりである。

(1)無効理由1
(無効理由1-1)
本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、「記憶装置に自動起動スクリプトを記憶させる」主体であると解釈すべきであり、この手段は当然ながらROM又は読み書き可能な記憶装置とは異なる構成要素である。しかしながら、自動起動スクリプトを記憶装置に記憶させる主体(手段)は、発明の詳細な説明のどこにも記載がない。

(無効理由1-2)
本件特許発明2に関して、自動起動スクリプトを実行する機器としてCD-ROMとしてしかホストに認識されていない着脱式デバイスに、リムーバブルディスクやHDDなどデータの変換が不要な種類の他の単位デバイスにデータを容易に保存することができる構成は、発明の詳細な説明に記載されていない。

以上のように、本件特許発明1及び本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものでないから特許法第36条第6項第1号規定により特許を受けることができない。

(2)無効理由2
(無効理由2-1)
本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」において、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置」はマスクROMを含むものであるから、本件特許発明1は、マスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段を含むものである。しかしながら、マスクROMは、製造時に所定のデータを書き込むもので、マスクROM製造後には一切データの書き込みはできないものであるから、製造後のマスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段を備える本件特許発明1は、発明特定事項に技術的欠陥があり、特許を受けようとする発明が明確でない。

(無効理由2-2)
発明の詳細な説明の段落【0014】の請求項2特有の作用効果の記載から、CD-ROMと擬似認識させる単位デバイスを含む本件着脱式デバイス内にデータを保存するためにROMを使用することが包含されると解釈し得るが、ROMは読み出し専用のメモリであり、ユーザが任意にデータを保存できるものではない。即ち、訂正前の請求項2記載の発明特定事項「ROM又は読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」において、「ROM」に技術的欠陥、矛盾があり、特許を受けようとする発明が明確でない。

(無効理由2-3)
本件特許発明2の発明特定事項「単位デバイス」の技術的意義が不明確である。例えば、本件特許明細書の段落【0021】?【0022】に、
「【0021】
このようなハブ分けにより、フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3と、読み書き可能領域R4及びR5が設定される。そして、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスとなっているが、それら領域自体を単位デバイスとしてもよい。
【0022】
また、読み書き可能領域R5には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され、これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も一つの単位デバイスを構成している。尚、リムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」を個別に単位デバイスとしてもよい。」と記載されているように、図1の構成において、単位デバイスが、ドライブ「E」「F」「G」の全部であっても、それぞれであっても、或いは領域R3乃至R5の領域そのものであってもよいとしているが、その技術的意義が不明確なため、本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が明確でない。

さらに、本件特許発明2の「単位デバイス」が、「前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」であることからすると、本件特許発明2は、読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスを2つのみ備える態様を含む。
しかしながら被請求人は、答弁書第13頁第5?9行において、「かかる訂正により、本件特許発明2の「複数の単位デバイス」は、自動起動のための領域(実施例ではCD-ROM領域R3)を用いる単位デバイスの他、さらに複数の読み書き可能な記憶領域(実施例では読み書き可能領域R4及びR5)を用いる複数の単位デバイスを含むものとなった。」と主張していることから、単位デバイスは少なくとも3つ存在するはずであるが、「単位デバイスを2つのみ備える」態様を含む本件特許発明2と答弁書での主張内容との間で齟齬が生じている。
さらに、本件特許公報の【課題を解決するための手段】中の段落【0014】に「この態様では、CD-ROMと擬似認識させる単位デバイスを含むデバイス内にデータを保存したい場合であっても、実際のCD-ROMの特殊なファイルシステムを考慮する必要は無く、リムーバブルディスクやHDDなどデータの変換が不要な種類の他の単位デバイスにデータを容易に保存することができる。」との記載があるが、本件特許発明2は、「CD-ROMと擬似認識させる単位デバイス」を必ず備えているとは言えないため、発明の構成と効果との間で不整合が生じている。
このように、本件特許発明2の発明特定事項「単位デバイス」の技術的意義が不明確であり、本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が明確でない。

(無効理由2-4)
本件特許発明2の発明特定事項「仮想的なディスクドライブ」の技術的意義が明確でなく、発明が不明確である。
すなわち、すなわち、本件特許明細書を参酌すると、「仮想的なディスクドライブ」は、コンピュータからの機器の種類を問い合わせる信号に対し、リムーバブルディスクドライブ(「D」「E」「F」「G」)として認識させることを前提とする。
しかしながら、リムーバブルディスクドライブである旨の信号を返信しない以上(少なくともその明示の記載がない以上そのように解せざるを得ない)、コンピュータにより、リムーバブルディスクドライブとして認識されないことから、リムーバブルディスクドライブが、いつ、どのような条件により、あるいはどのようにして顕在的になるかが明確でない以上、「仮想的な」の技術的意義が全く不明確である。
どのような意味で仮想的であるのか不明なリムーバブルディスクドライブを仮想的なディスクドライブに包含し規定する本件特許発明2は、「仮想的なディスクドライブ」の技術的意味に欠陥があり、発明が不明確である。

以上のように、本件特許発明1及び本件特許発明2は明確でないから特許法第36条第6項第2号規定により特許を受けることができない。

(3)無効理由3
甲第3号証に係る先願明細書等に記載された発明は、本件特許発明2の構成要件を具備し、実質的に同一発明である。また先願と本件特許発明2の発明者は同一ではなく、また、本件特許発明2の出願時点において、先願と本件特許発明2の出願人が同一でもないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

2.被請求人の答弁の理由の概要
平成19年2月2日付けで提出された答弁書並びに訂正請求、平成19年5月21日付けで提出された手続補正書、平成19年7月20日付けで提出された口頭審理陳述要領書、及び平成19年8月10日付けで提出された上申書の趣旨からして、被請求人の主張の要点は、概略以下のとおりである。

(1)無効理由1
(無効理由1-1)
本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、請求項1の全体の記載に基づいて解釈する限り、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」、すなわち、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段」とほぼ同義となるものと解され、また本件特許の審査経過からしても、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味することが示されている。
したがって、本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味するものである以上、該構成要件は、本件明細書の例えば【0030】及び【0031】欄の記載、並びに図1の記載に裏付けられているものであるから、特許法36条6項第1号の規定に違背しない。

(無効理由1-2)
本件特許発明2については、当業者の技術常識をもって、本件特許明細書及び図1を読めば、ホスト側がリムーバブルディスク領域を認識することは明らかであり、また本件明細書の段落【0020】?【0028】の記載により、ハブが読み書き可能領域に複数のドライブを設定する態様は明確である。
よって、本件特許発明2には、特許法36条6項第1号の規定に違背しない。

(2)無効理由2
(無効理由2-1)
本件特許発明1の発明特定事項「自動起動スクリプトを記憶する手段」とは、自動起動スクリプトを記憶させる「主体」ではなく、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」であると解釈すべきであり、また、「ROMに自動起動スクリプトを記憶する」のは、着脱式デバイスの製造時であれば足り、請求項1記載の発明の課題がスクリプトに記述されたプログラムの自動実行にある(本件特許公報【0012】欄)ことに照らせば、本件特許発明1が備える主な記憶装置は、ROMのみでもよく、ユーザが実行時に任意にデータを保存するための「読み書き可能な記憶装置」を更に備えることを要しないから、本件特許発明1は、特許法36条6項第2号の規定に違背しない。

(無効理由2-2)
請求項2記載の発明の構成要件を「前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域のそれぞれを用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」と訂正したことにより、本件特許発明2の構成要件から、ROMにユーザデータが保存される場合が削除されたから、本件特許発明2は、特許法36条6項第2号の規定に違背しない。

(無効理由2-3)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】を、「このようなハブ分けにより、フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3と、読み書き可能領域R4及びR5が設定される。そして、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスとなっている。」に、段落【0022】を、「また、読み書き可能領域R5上には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され、これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も個別に単位デバイスを構成している。」にそれぞれ訂正したことにより、本件特許発明2の発明特定事項「単位デバイス」は、発明の詳細な説明の記載とも整合するものとなり、また、「単位デバイス」が、着脱式デバイスの記憶装置内の複数区画のそれぞれを用いる仮想的ディスクドライブであってホストからアクセス先として認識される単位であることは明確である。
さらに、本件特許発明2の発明特定事項「前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」には、「CD-ROMと擬似認識させる単位デバイス」は明示的に含まれていないが、本件特許発明2においては、「前記汎用周辺機器インターフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信する手段」が備えられている一方、「自動起動スクリプトを記憶する記憶領域」がどこにあるかは特定していない。
そして自動起動スクリプトを記憶する領域については、物理的にROM領域にあってもよい。したがって、「単位デバイスを2つのみ備える」態様を含む本件特許発明2は、明確であり、また「単位デバイス」の意味及び技術的意義は明確であり、本件特許発明2は特許法36条6項第2号の規定に違背しない。

(無効理由2-4)
本件特許発明2における「仮想的なディスクドライブ」は、「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々」に対応するものであって、ホストはこの複数の記憶領域内の各ディスクドライブに対してアクセスするものと規定されているのであるから、その技術的意義は明確である。

(3)無効理由3
甲第3号証の先願明細書における段落【0014】、【0015】、【0020】、及び【0025】?【0029】の記載から、先願明細書等においては、リムーバブルディスクとして認識させる領域はデータ部16のみであり、他の領域をリムーバブルディスクとして認識させることは開示されていないと解するのが相当である。
そして、前記「データ部16」は、甲第3号証の先願明細書における段落【0018】及び【0019】の記載からは、単一の読み書き可能領域として開示されているのみであり、明細書及び図面のいずれを参照しても、複数の読み書き可能領域としては記載されておらず、また技術常識に照らしても甲第3号証における「データ部16」は複数の読み書き可能領域を備える必然性もないから複数の読み書き可能領域として記載されているに等しいともいえない。
従って、本件特許発明2は、構成要件「前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイスと、」において、甲第3号証の先願明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に該当しない。

第6.当審の判断
1.無効理由1についての判断
(1)無効理由1-1についての判断
本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、「前記ROMに、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」を態様として含むものである。そして、「前記ROM」については、平成19年7月20日に行われた口頭審理において被請求人に確認したとおり、マスクROMを態様として含むものである。(平成19年7月20日に行った口頭審理の際に作成した「第1回口頭審理調書」を参照。)
してみれば、本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、「マスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段」を態様として含むものである。そして、「着脱式デバイス」が備える前記手段がマスクROMに、前記自動起動スクリプトを記憶すると解される。
したがって、本件特許発明1は、着脱式デバイスが備える前記手段がマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという態様を含むと解釈される。
そして、本件特許発明1の「着脱式デバイス」が備えるマスクROMは、製造後のマスクROMを前記「着脱式デバイス」に備えたものと解される。
しかしながら、「マスクROM」は、製造時において、データをICの回路パターンとして作りこむものであることからすると、本件特許発明1の「着脱式デバイス」が備える前記手段が、製造時ではなく、製造後のマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという構成は、当業者にとって自明なものではなく、本件特許明細書の段落【0018】に「また、複合デバイス2は、コンピュータのUSBポート10に着脱するもので、この例では、主な記憶装置として読み書き可能なフラッシュメモリ4を備えるが、主な記憶装置として小型ハードディスクドライブやROMを用いてもよい。」とROMを用いることが記載されているが、本件特許発明1の含む構成要件すなわち、「着脱式デバイス」が備えるROMに、自動起動スクリプトを記憶する手段についての、具体的な構成については、記載がない。
なお、被請求人は、本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、請求項1の全体の記載に基づいて解釈する限り、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」、すなわち、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段」とほぼ同義となるものと解され、また本件特許の審査経過からしても、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味することが示されていると主張する。
仮に、被請求人の主張のように、「ROMに、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」を、「ROMに、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段(客体)」と同義であると仮定しても、「ROMに自動スクリプトを記憶する記憶手段(客体)」が具体的に、本件特許発明1の着脱式デバイスのどの構成要素に対応するのか、発明の詳細な説明には記載がない。
したがって、本件特許発明1の特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

(2)無効理由1-2についての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】における記載
「USBデバイス側制御部3では、ASICなどカスタムチップのワイヤードロジックにより、又は、CPUと組込みプログラム若しくはマイクロプログラムなどの組合せにより、図1に示す以下のように作用する各構成要素が実現され、また、コンピュータ1では、OS等のプログラムの作用により図1に示す以下のように作用する各構成要素が実現される。」こと、及び段落【0020】における記載
「〔2-1.ハブ分け〕
USBデバイス側制御部3のハブ分け部31は、単一の複合デバイス2において、コンピュータ1側とのデータ授受を、複数のデバイス(それぞれ「単位デバイス」と呼ぶ)に割り振る作用(以下「ハブ分け」と呼ぶ)を果たすことで、複数の機能を容易に実現するハブ手段である。ハブ分けの具体的態様としては、
(1)USB汎用ハブを小型化してデバイス内部に設ける。
(2)単一のデバイスのUSBコントローラに、複数のデバイスコンポーネントを管理させる。
(3)ASIC等のカスタムチップや、汎用CPUと組込みプログラムなど、LSIにより、ハブや各単位デバイスの各USBコントローラをエミュレートする。
や適宜これらを組み合わせるなどが考えられるが、ここではUSBコントローラのエミュレータであるものとする。」ことからすると、
発明の詳細な説明に記載された「USBデバイス側制御部」は、ASICなどカスタムチップのワイヤードロジックにより、又は、CPUと組込みプログラム若しくはマイクロプログラムなどの組合せにより、図1に示される各構成要素が実現されるものであって、
「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」は、ハブや各単位デバイスの各USBコントローラをエミュレートするエミュレータであって、仮想的に複数のデバイスコンポーネント(すなわち、「単位デバイス」)を管理し、コンピュータ1側とのデータ授受を、複数の「単位デバイス」に割り振ることができる、すなわち、コンピュータ1側に前記「単位デバイス」を標準的なリムーバブルディスクとして認識させていると解される。
してみると、段落【0030】における記載「また、USBでは、ホスト側は、USBに装着されたかもしれないデバイスに対し、機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流しており、新たにUSBに装着された機器は、この問い合わせ信号に対して自分が該当する機器の種類を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させる。」を参酌すると、前記ハブや各単位デバイスの各USBコントローラをエミュレートするエミュレータである「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」がホスト側からの標準的な機器の種類の問い合わせに対して自分が該当する機器の種類(すなわち、標準的なリムーバブルディスク)を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させていると解される。
そして、前記「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」が、本件特許発明2の発明特定事項「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」に対応することは明らかである。
なお、【0031】における記載「そこで、USBデバイス側制御部3の認識制御部32は、USBに接続された際に、ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し、CD-ROMである旨の信号を擬似的に返信する。この擬似的返信は、複数の単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについて行う。」からすると、CD-ROM領域R3のみについては、前記USBデバイス側制御部3の認識制御部32が、CD-ROMである旨の擬似的返信を、行なうことで、CD-ROM領域R3をCD-ROMと認識させていると解される。
そうすることで、段落【0021】に記載されているように「フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3と、読み書き可能領域R4及びR5が設定」されるとともに、段落【0021】?【0022】に記載されているように、「CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)」が各単位デバイスとなり、また「読み書き可能領域R5上には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され」ると認められる。
以上のように、本件特許発明2が備える「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」と「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」とが、着脱式デバイスが備える仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスにデータを容易に保存する構成をなしているとともに、本件特許発明2の着脱式デバイスが備える、リムーバブルディスクやHDDなどデータの変換が不要な種類の他の単位デバイスにデータを容易に保存することができる構成が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていると認められる。
なお、請求人は、発明の詳細な説明の段落【0031】における記載「そこで、USBデバイス側制御部3の認識制御部32は、USBに接続された際に、ホスト側からの機器の種類の問い合わせ信号に対し、CD-ROMである旨の信号を擬似的に返信する。この擬似的返信は、複数の単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについて行う。」及び段落【0030】における記載「また、USBでは、ホスト側は、USBに装着されたかもしれないデバイスに対し、機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流しており、新たにUSBに装着された機器は、この問い合わせ信号に対して自分が該当する機器の種類を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させる。」を鑑みると、USBに接続された際に、ホスト側から送信された「機器の種類の問い合わせ信号」に対してCD-ROM領域R3のみについて擬似的返信を行ない、その後、ホスト側から、他の領域(リムーバブルディスク領域R4,R5)に対して「機器の種類の問い合わせ信号」が送信されること、及びその問い合わせに対し機器の種類を回答することに関し、一切言及がなく、したがって、ホスト側はCD-ROM領域R3に関する単位デバイスについてはその存在を認識するが、他の単位デバイスについて、少なくともOSはドライブとしてその存在を認識することができないと主張するが、
段落【0031】の記載によると、「認識制御部32」は、複数の単位デバイスのうちCD-ROM領域R3のみについてCD-ROMである旨の信号を擬似的に返信するものであり、そして、段落【0020】の記載によると、「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」が、ハブや各単位デバイスの各USBコントローラをエミュレートすることで、仮想的に複数のデバイスコンポーネント(すなわち、「単位デバイス」)を管理し、コンピュータ1側とのデータ授受を、複数の「単位デバイス」に割り振る、すなわちコンピュータ1側に前記「単位デバイス」を標準的なリムーバブルディスクとして認識させており、したがって、段落【0030】における記載「また、USBでは、ホスト側は、USBに装着されたかもしれないデバイスに対し、機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流しており、新たにUSBに装着された機器は、この問い合わせ信号に対して自分が該当する機器の種類を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させる。」を参酌すると、前記「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」の各単位デバイスの各USBコントローラのエミュレータが、標準的なリムーバブルディスク領域R4,R5について、ホスト側からの標準的な機器の種類の問い合わせに対して、自分が該当する機器の種類、すなわち、標準的なリムーバブルディスクである旨の応答をすることで、コンピュータ1側に前記「単位デバイス」を標準的なリムーバブルディスクとして認識させていると解されることは、当業者にとって、明らかである。
したがって、本件特許発明2について、明細書に記載していないとは言えないから、請求人の主張する無効理由1-2によって、本件特許発明2の特許を無効とすることはできない。

2.無効理由2についての判断
(1)無効理由2-1についての判断
前記「1.無効理由1についての判断」の「(1)無効理由1-1についての判断」において指摘したように、本件特許発明1の発明特定事項「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、「マスクROMに自動起動スクリプトを記憶する手段」を態様として含むものである。そして、「着脱式デバイス」が備える前記手段がマスクROMに、前記自動起動スクリプトを記憶すると解される。
したがって、本件特許発明1は、着脱式デバイスが備える前記手段がマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという態様を含むと解釈される。
そして、本件特許発明1の「着脱式デバイス」が備えるマスクROMは、製造後のマスクROMを前記「着脱式デバイス」に備えたものと解される。
しかしながら、「マスクROM」は、製造時において、データをICの回路パターンとして作りこむものであることからすると、本件特許発明1の「着脱式デバイス」が備える前記手段が、製造時ではなく、製造後のマスクROMに前記自動起動スクリプトを記憶するという構成は、当業者にとって自明なものではなく、したがって、本件特許発明1の発明特定事項すなわち、「着脱式デバイス」が備える、ROMに自動起動スクリプトを記憶する手段は不明確であり、本件特許発明1は明確でない。
なお、被請求人は、本件特許発明1の構成要件「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」は、請求項1の全体の記載に基づいて解釈する限り、着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」、すなわち、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段」とほぼ同義となるものと解され、また本件特許の審査経過からしても、「前記ROM又は読み書き可能な記憶装置に、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」が着脱式デバイス側に備えられた自動起動スクリプトを記憶する「客体」を意味することが示されていると主張する。
仮に、被請求人の主張のように、「ROMに、前記自動起動スクリプトを記憶する手段」を、「ROMに、前記自動起動スクリプトを記憶する記憶手段(客体)」と同義であると仮定しても、「ROMに自動スクリプトを記憶する記憶手段(客体)」が具体的に、何を意味するのか、依然として明確でない。
したがって、本件特許発明1の特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

(2)無効理由2-2についての判断
本件特許発明2の発明特定事項は、ROMにユーザデータが保存される場合が削除された「読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」であることから、本件特許発明2は、特許法36条6項第2号の規定に違背していない。
したがって、請求人の主張する無効理由2-2によって、本件特許発明2の特許を無効とすることはできない。

(3)無効理由2-3についての判断
本件特許発明2の発明特定事項「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」及び「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」とを参酌すると、本件特許発明2における「単位デバイス」が、着脱式デバイスの読み書き可能な記憶装置内の複数の記憶領域の各々を用いる仮想的ディスクドライブであって、ホストコンピュータからアクセス先として認識される単位であることは、明らかであり、訂正明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】における記載「このようなハブ分けにより、フラッシュメモリ4の記憶領域には、CD-ROM領域R3と、読み書き可能領域R4及びR5が設定される。そして、CD-ROM領域R3上に設定されるCD-ROMドライブ(ドライブレター「H」)や、読み書き可能領域R4上に設定されるリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「D」)が各単位デバイスとなっている。」、及び、段落【0022】における記載「また、読み書き可能領域R5上には、ハブ分け部31の作用により3つのリムーバブルディスクドライブ(ドライブレター「E」「F」「G」)が設定され、これら3つのリムーバブルディスクドライブ「E」「F」「G」も個別に単位デバイスを構成している。」とも整合するものである。そして、読み書き可能領域にドライブが複数ある場合に、そのドライブ全部をまとめて単位デバイスとする態様を含まない本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が明確である。
さらに、読み書き可能な記憶領域R4及びR5を用いる構成は、単なる実施例に過ぎない。したがって、実施例において、単位デバイスが少なくとも3つ存在することをもって、「単位デバイスを2つのみ備える」態様を含む、本件特許発明2が明確でないということは言えない。
また、本件特許発明2は、
「汎用周辺機器インタフェース」に「所定の種類の機器が接続されると、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するコンピュータ」の前記汎用周辺機器インタフェースに着脱される着脱式デバイスであって、
前記着脱式デバイスの備える「汎用周辺機器インタフェースに接続された際に前記コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号に対し、前記所定の種類の機器である旨の信号を返信する手段」が、前記「コンピュータ」に「所定の種類の機器」が接続されたと認識させて、その機器に記憶された自動起動スクリプトを実行するものであることは明確である。
そして、前記着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた「複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイスであって、複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」に、データを保存する構成であることも明確である。
したがって、請求人の主張する無効理由2-3によって、本件特許発明2の特許を無効とすることはできない。

(4)無効理由2-4についての判断
本件特許発明2の発明特定事項「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」を参酌すると、「仮想的なディスクドライブ」は、「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々」を用いる単位デバイスであることは明確である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】における記載
「USBデバイス側制御部3では、ASICなどカスタムチップのワイヤードロジックにより、又は、CPUと組込みプログラム若しくはマイクロプログラムなどの組合せにより、図1に示す以下のように作用する各構成要素が実現され、また、コンピュータ1では、OS等のプログラムの作用により図1に示す以下のように作用する各構成要素が実現される。」、及び段落【0020】における記載
「〔2-1.ハブ分け〕
USBデバイス側制御部3のハブ分け部31は、単一の複合デバイス2において、コンピュータ1側とのデータ授受を、複数のデバイス(それぞれ「単位デバイス」と呼ぶ)に割り振る作用(以下「ハブ分け」と呼ぶ)を果たすことで、複数の機能を容易に実現するハブ手段である。ハブ分けの具体的態様としては、
(1)USB汎用ハブを小型化してデバイス内部に設ける。
(2)単一のデバイスのUSBコントローラに、複数のデバイスコンポーネントを管理させる。
(3)ASIC等のカスタムチップや、汎用CPUと組込みプログラムなど、LSIにより、ハブや各単位デバイスの各USBコントローラをエミュレートする。
や適宜これらを組み合わせるなどが考えられるが、ここではUSBコントローラのエミュレータであるものとする。」からすると、
前記「単位デバイス」は、ASICなどカスタムチップのワイヤードロジックにより、又は、CPUと組込みプログラム若しくはマイクロプログラムなどの組合せにより、各構成要素が実現されたものであり、ハブや各単位デバイスの各USBコントローラは、ASIC等のカスタムチップや、汎用CPUと組込みプログラムなど、LSIによりエミュレートされたものである。
したがって、このようにエミュレートされた論理的なデバイスコンポーネントを「仮想的」と称することは、当業者にとって、慣用的になされるものである。
また、本件特許発明2の発明特定事項「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」が、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】に記載された「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」に対応することは明らかである。
そして、前記「USBデバイス側制御部3のハブ分け部31」がまさしく、コンピュータ側に「仮想的なディスクドライブ」である「単位デバイス」を認識させるものであることから、段落【0030】における記載「また、USBでは、ホスト側は、USBに装着されたかもしれないデバイスに対し、機器の種類の問い合わせ信号を繰返し周期的にUSB回線上に流しており、新たにUSBに装着された機器は、この問い合わせ信号に対して自分が該当する機器の種類を回答することにより、ホスト側に自らの接続を認識させる。」を参酌すると、前記「ハブ分け部31」が、コンピュータに対して、前記「仮想的なディスクドライブ」である「単位デバイス」が標準的なリムーバブルディスクである旨の応答をすることで、コンピュータ側に前記「単位デバイス」を標準的なリムーバブルディスクとして認識させていると解されることは、当業者にとって、明らかである。
したがって、本件特許発明2の発明特定事項「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」が、「着脱式デバイスの中の前記読み書き可能な記憶装置内に設けられた複数の記憶領域の各々を用いる仮想的なディスクドライブである複数の単位デバイス」をコンピュータ側に認識させることも、明確である。
したがって、請求人の主張する無効理由2-4によって、本件特許発明2の特許を無効とすることはできない。

3.無効理由3についての判断
(1)甲第3号証の記載事項
甲第3号証は、本件特許のもとの出願の出願日(平成14年10月28日)前の平成14年8月30日に出願された他の出願(優先日、平成13年9月17日)であって、本件特許のもとの出願の出願後に公開された特願2002-252749(特開平2003-178017号公報)であって、その願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書等」という)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイスは、パソコン本体のUSBポートに接続されると、パソコン本体からのデバイス検出に対してCD-ROM及びリムーバブルディスクを認識させる信号に変換して返信し、その後、CD-ROMと認識された部分に記憶されている自動起動プログラムを起動して、例えば電子メールプログラムを本デバイスに記憶される設定ファイル内の設定に従って動作させ、送受信メール、添付ファイルも本デバイス内のリムーバブルディスクと認識された部分に記憶するものであり、外出先のパソコンでユーザ専用のメーラーを簡易に利用でき、更に送受信メールの内容を本デバイスに記憶しているので、セキュリティを向上させることができるものである。
【0012】本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイスについて図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイスの概略構成ブロック図である。本実施の形態に係るプログラム内蔵のUSBデバイス(本デバイス)1は、図1に示すように、処理手段となるCPU(Central Processing Unit )11と、メモリ12と、インタフェース17とから基本的に構成されている。
【0013】次に、本デバイスにおける動作を具体的に説明する。CPU11は、メモリ12内に格納された必要なパラメータを読み取って、同様に格納されているプログラムを読み込んで動作させ、得られたデータをメモリ12に出力する。また、CPU11は、パソコンのUSB(Universal Serial Bus)ポートに接続するインタフェース17を介してパソコンとのデータの送受を行う。
【0014】メモリ12は、擬似返信変換プログラムを格納する領域13と、自動起動プログラムを格納する領域14と、電子メールプログラムを格納する領域15と、送受信メール、その他文書等のデータを格納するデータ部16とを備えている。また、メモリ12は、上記各領域の他、本デバイス1を利用するためのパスワードの入力を促し、また入力されたパスワードの正誤の判定を行うパスワード処理プログラムを格納する領域(図示せず)を備えている。
【0015】領域13に格納されている擬似返信変換プログラムは、パソコンのUSBポートから入力される接続デバイスを検出するための信号に対して、通常ならばUSBデバイスである旨の信号を返信することになるが、この擬似返信変換プログラムでは、デバイスをCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory )及びリムーバブルディスクであると擬似的に認識させる信号に変換して返信する処理を行うものである。
【0016】領域14に格納されている自動起動プログラムは、パソコンが当該領域14をCD-ROMと擬似的に認識した場合に、自動的に起動する処理を行うものである。この自動起動プログラムは、Autorun.inf といったもので、メモリ12内の設定ファイル(図示せず)内の設定を読み込んで予め定められた環境下で特定のプログラム(本デバイス1では電子メールプログラム)を起動する。ここでの設定は、LAN(Local Area Network )環境でのインターネット接続をデフォルトとし、オプションとしてダイヤルアップ接続も可能な設定も保持することができる。
【0017】尚、自動起動プログラムをオプションとすることも可能である。つまり、擬似返信変換プログラムで本デバイス1をCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させた場合に、メモリ12内のフォルダを開いて、電子メールプログラムを手動にて起動させてもよい。
【0018】領域15に格納されている電子メールプログラムは、本デバイス1の所有者のアカウント、パスワードを設定ファイルから読み込み、この所有者専用として動作するメーラーである。通常のメーラーと相違する点は、送受信メールを本デバイス1内のメモリ12のデータ部16に記憶し、また、電子メールに添付されるファイル等もデータ部16に記憶するようになっている。従って、パソコン本体に送受信メールが残ることがない。また、電子メールプログラムの設定ファイルは、所有者関連の情報が設定されるため、メモリ12のデータ部16に記憶される。
【0019】データ部16は、送受信メール、添付ファイル、その他のデータを記憶するものである。電子メールプログラムの設定ファイルをデータ部16に記憶させるようにしてもよい。
【0020】ここで、擬似返信変換プログラム、自動起動プログラム、電子メールプログラム、設定ファイル等は、隠しフォルダに納められ、表示されないようになっている。また、これらプログラム等は、削除・編集が為されないように、プロテクトされている。
【0021】インタフェース17は、USBポートとの接続を行うものである。従って、インタフェース17は、USBポートから入力されるデータをCPU11に適合するようデータ形式の変換を行い、また、CPU11から入力されるデータをUSBポートで扱うデータ形式に変換する処理を行うものである。尚、USBは、1.5メガビット/秒(Mbps)の帯域幅を持つシリアルバスのことであり、周辺機器をマイクロコンピュータに接続するためのものである。
【0022】次に、本デバイス1における処理について図2を参照にしながら説明する。図2は、本デバイス1内のCPU11による処理の概略を示すフローチャートである。まず、本デバイス1がパソコンのUSBポートに挿入されると、パソコン本体から接続デバイスを検出する信号がインタフェース17を介してCPU11に入力される。
【0023】すると、CPU11は、領域13に格納されている擬似返信変換プログラムを動作させる(S1)。擬似返信変換プログラムは、CPU11に入力された検出信号に対してCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる信号に変換してパソコン本体に返信する。」

(イ)「【0026】本デバイス1において、擬似返信変換プログラムは、基本的には、メモリ12における領域のうち、自動起動プログラムが格納された領域14をCD-ROMとして認識させる領域として設定し、データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設定している。
【0027】すなわち本デバイス1のCPU11は、自動起動プログラムを自動的に起動させる処理を行わせる他、当該プログラムが削除・編集が為されないようにするため、当該プログラムの格納された領域14をCD-ROMと認識させ、データの読み出し・書き込みが頻繁に行われるデータ部16をリムーバブルディスクとして認識させる制御を行っている。このためCD-ROM認識信号には、領域14をCD-ROMとして認識させる旨の制御命令が含まれており、またリムーバブルディスク認識信号には、データ部16をリムーバブルディスク認識信号として認識させる旨の制御命令が含まれている。
【0028】また、擬似返信変換プログラムは、擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識させるようにしてもよい。この場合、CD-ROM認識信号には、上記各領域をCD-ROMと認識させる旨の制御命令を含ませる必要がある。
【0029】CD-ROM認識信号及びリムーバブルディスク認識信号が入力されると、パソコンは、これらの信号の対応する領域をCD-ROM又はリムーバブルディスクとしてそれぞれ認識し、以後本デバイスへのアクセスが可能な状態となる。」

(ウ)「【0031】自動起動プログラムは、当該プログラムの格納されている領域が、パソコンでCD-ROMと認識された場合に自動的に起動する処理を行うものである。自動起動プログラムを動作させるために、本デバイスでは、自動起動プログラムの格納されている領域14をCD-ROMと認識させるよう、擬似返信変換プログラムにおいて設定している。自動起動プログラムは、予め設定ファイルに設定されたインターネット接続環境に従って通信接続を行い、領域15に格納された電子メールプログラムを動作させる(S4)。」

(2)先願明細書等に記載された発明の認定
(ア)の段落【0011】における記載「プログラム内蔵のUSBデバイスは、パソコン本体のUSBポートに接続される」、段落【0012】における記載「プログラム内蔵のUSBデバイス(本デバイス)1は、図1に示すように、処理手段となるCPU(Central Processing Unit )11と、メモリ12と、インタフェース17とから基本的に構成されている」、及び段落【0013】における記載「CPU11は、パソコンのUSB(Universal Serial Bus)ポートに接続するインタフェース17を介してパソコンとのデータの送受を行う。」、並びに「メモリ」が読み書き可能であり、「USBデバイス」がパソコンのUSBポートに着脱可能であることが自明であることからすると、
先願明細書等には、主な記憶装置として読み書き可能なメモリを備えたパソコンのUSBポートに着脱可能なUSBデバイスが記載されている。
また、(ウ)の段落【0031】における記載「自動起動プログラムは、当該プログラムの格納されている領域が、パソコンでCD-ROMと認識された場合に自動的に起動する処理を行うものである。」からすると、
前記パソコンは、周辺装置のCD-ROMの接続を認識すると、そのCD-ROMに記憶された自動起動プログラムを実行するものであると解される。
また、(ア)の段落【0015】における記載「擬似返信変換プログラムでは、デバイスをCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory )及びリムーバブルディスクであると擬似的に認識させる信号に変換して返信する処理を行うものである。」、段落【0022】における記載「本デバイス1がパソコンのUSBポートに挿入されると、パソコン本体から接続デバイスを検出する信号がインタフェース17を介してCPU11に入力される。」、及び段落【0023】における記載「CPU11は、領域13に格納されている擬似返信変換プログラムを動作させる(S1)。擬似返信変換プログラムは、CPU11に入力された検出信号に対してCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる信号に変換してパソコン本体に返信する。」からすると、
前記USBデバイスは、USBポートに接続された際に前記パソコンからの接続デバイスを検出する信号に対し、CD-ROMと認識させる信号を返信する擬似返信変換プログラムを備える。
さらに、(ア)の段落【0014】における記載「メモリ12は、擬似返信変換プログラムを格納する領域13と、自動起動プログラムを格納する領域14と、電子メールプログラムを格納する領域15と、送受信メール、その他文書等のデータを格納するデータ部16とを備えている。」、及び(イ)の段落【0026】における記載「本デバイス1において、擬似返信変換プログラムは、基本的には、メモリ12における領域のうち、自動起動プログラムが格納された領域14をCD-ROMとして認識させる領域として設定し、データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設定している。」からすると、
前記USBデバイスの中の前記読み書き可能なメモリは、そのメモリ内に設けられた複数の領域を備えるとともに、仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる領域を備えると解される。
ここで、前記複数の領域について検討するに、(ア)の段落【0014】における記載「メモリ12は、擬似返信変換プログラムを格納する領域13と、自動起動プログラムを格納する領域14と、電子メールプログラムを格納する領域15と、送受信メール、その他文書等のデータを格納するデータ部16とを備えている。」から、メモリは、擬似返信変換プログラムを格納する領域13と、自動起動プログラムを格納する領域14と、電子メールプログラムを格納する領域15と、送受信メール、その他文書等のデータを格納するデータ部16を備えている。
そして、(ア)の段落【0019】における記載「データ部16は、送受信メール、添付ファイル、その他のデータを記憶するものである。電子メールプログラムの設定ファイルをデータ部16に記憶させるようにしてもよい。」及び(イ)の段落【0026】における記載「データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設定している。」からすると、前記データ部は、送受信メール、添付ファイル、電子メールプログラムの設定ファイル、及びその他のデータを記録する仮想的にリムーバブルディスクと認識させる領域である。
また、(ア)の段落【0017】における記載「本デバイス1をCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させた場合に、メモリ12内のフォルダを開いて、電子メールプログラムを手動にて起動させてもよい。」からすると、電子メールプログラムが格納された領域15は、パソコンから認識され、アクセスされる領域である。
また、電子メールプログラムは、そもそもパソコン上で実行されるものであることからも、パソコンからアクセスされる領域に格納されることは、明らかである。
そして、読み書き可能なディスクに設けたフォルダまたはファイルを保護するために、隠しフォルダ属性または隠しファイル属性を設定したり、また読み取り専用属性を設定することで、ユーザが間違えて編集/削除できないようにすることが、当業者にとって技術常識であることを参酌すれば、(ア)の段落【0020】における記載「ここで、擬似返信変換プログラム、自動起動プログラム、電子メールプログラム、設定ファイル等は、隠しフォルダに納められ、表示されないようになっている。また、これらプログラム等は、削除・編集が為されないように、プロテクトされている。」については、
上記擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15とは、ともにパソコンから認識され、アクセスされる領域であって、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定でき、その際に当該フォルダまたはファイルに隠しフォルダ属性または隠しファイル属性を設定し、当該プログラムに読み取り専用属性を設定することで、プロテクトされていると解されることは明らかである。
そして、上記のように設定すれば、擬似返信変換プログラム、及び電子メールプログラムが誤って、削除・編集されないことからも、上記解釈は妥当である。
そして、(イ)の段落【0028】における記載「また、擬似返信変換プログラムは、擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識させるようにしてもよい。」とあるのは、プロテクトの目的を達成するためにはCD-ROMと認識させてもよいから、上記態様以外に、領域13及び領域15を「CD-ROMとして認識させる」態様にしてもよいことを記載しているものと解することが相当である。
してみれば、データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設定するとともに、領域13及び領域15についても、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定することが、実質的に先願明細書等に記載されているものと解される。
したがって、前記USBデバイスの中の前記読み書き可能なメモリは、そのメモリ内に設けられた複数の領域の各々を用いる仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数の領域を備えるとともに、複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと認識させる領域を備えることが、実質的に先願明細書等に記載されているものと解される。
そして、(ア)の段落【0013】における記載「CPU11は、パソコンのUSB(Universal Serial Bus)ポートに接続するインタフェース17を介してパソコンとのデータの送受を行う。」、(イ)の段落【0029】における記載「パソコンは、これらの信号の対応する領域をCD-ROM又はリムーバブルディスクとしてそれぞれ認識し、以後本デバイスへのアクセスが可能な状態となる。」、及び(ウ)の段落【0031】における記載「自動起動プログラムは、予め設定ファイルに設定されたインターネット接続環境に従って通信接続を行い、領域15に格納された電子メールプログラムを動作させる」等の記載からすると、
前記USBデバイスは、パソコンと前記仮想的にCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる複数の領域との間のデータ授受を可能とする手段を備えていると解される。

したがって、先願明細書等には、以下の発明(以下「先願明細書等に記載された発明」という)が実質的に記載されていると解される。

主な記憶装置として、読み書き可能なメモリを備えたパソコンのUSBポートに着脱可能なUSBデバイスであって、
CD-ROMの接続を認識すると、そのCD-ROMに記憶された自動起動プログラムを実行するパソコンのUSBポートに着脱され、
前記USBポートに接続された際に前記パソコンからの接続デバイスを検出する信号に対し、前記CD-ROMと認識させる信号を返信する擬似返信変換プログラムと、
前記USBデバイスの中の前記読み書き可能なメモリ内に設けられた複数の領域の各々を用いる仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数の領域であって、複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと認識させる領域と、
パソコンと前記仮想的にCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる複数の領域との間のデータ授受を可能とする手段と、
を備えたことを特徴とするUSBデバイス。

(3)本件特許発明2との対比
そこで、本件特許発明2と先願明細書等に記載された発明とを対比すると、
先願明細書等に記載された発明の「メモリ」、「USBデバイス」、「CD-ROM」、「自動起動プログラム」、「パソコン」、「USBポート」、「パソコンからの接続デバイスを検出する信号」、「擬似返信変換プログラム」、及び「メモリ内に設けられた複数の領域」、は、それぞれ、本件特許発明2の「記憶装置」、「着脱式デバイス」、「所定の種類の機器」、「自動起動スクリプト」、「コンピュータ」、「汎用周辺機器インタフェース」、「コンピュータからの機器の種類の問い合わせ信号」、「返信する手段」、及び「記憶装置内に設けられた複数の記憶領域」に相当すると認められる。
そして、先願明細書等に記載された発明の「仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる複数の領域」について、仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる領域とは、まさしくパソコンに仮想的にCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識させる単位デバイスであることから、本件特許発明2の「仮想的なディスクドライブである単位デバイス」に相当すると認められる。
同様に、先願明細書等に記載された発明の「複数の読み書き可能な領域を含むリムーバブルディスクと認識させる領域」は、本件特許発明2の「複数の読み書き可能な記憶領域を含む単位デバイス」に相当すると認められる。
そして、先願明細書等に記載された発明の「パソコンと前記仮想的にCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる複数の領域との間のデータ授受を可能とする手段」は、実質的に、パソコンと前記仮想的にCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる複数の領域との間のデータ授受を、前記仮想的にCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させる各領域に割り振るものであることから、本件特許発明2の「コンピュータ側とのデータ授受を、前記各単位デバイスに割り振るハブ手段」に相当すると認められる。
してみると、本件発明2の構成は、すべて先願明細書等に記載された発明に示されているものであって、本件発明2は、先願明細書等に記載された発明と同一ということになる。

(4)被請求人の主張について
被請求人は、平成19年8月10日付けの上申書において、以下の点を主張する。

(主張その1)「擬似返信変換プログラムは、基本的には、メモリ12における領域のうち、自動起動プログラムが格納された領域14をCD-ROMとして認識させる領域として設定し、データ部16をリムーバブルディスクとして認識させる領域として設定しており、パソコンは、これらの信号の対応する領域をCD-ROM又はリムーバブルディスクとしてそれぞれ認識し、以後本デバイスへのアクセスが可能な状態となるのであるから、パソコンに擬似返信させる領域は基本的には領域14及びデータ部16のみと解され、他の領域13、15は、パソコンには認識されない領域となる。
このことは、本件特許明細書において、「【0023】さらに、フラッシュメモリ4の記憶領域には、ホスト側からアクセス可能な上記のようなUSB上の単位デバイスとは別に、USBデバイス側制御部3のアクセス部34からのみ直接管理及び読み書き可能な管理領域R1及び制限領域R2が設定される。
【0024】ここで、領域R1やR2については、OSからの通常の認識や書き込み・削除等のアクセスは禁じ、例えば管理領域R1には領域管理用の情報などを置く。また、制限領域R2については、後述する自動起動プログラムPのみにUSBデバイス側制御部3を通じた書き込み、削除等のアクセスを許し、メーラー等のアプリケーションソフトウェアなどを置く。これによりそれらソフトウェアについて、誤消去や違法コピーから保護する。」と記載されているように、OSからの通常の認識や書き込み・削除等のアクセスを禁じるために、ホストからアクセスできない管理領域R1及び制限領域R2を設けていることからも理解されよう。
そして、先願明細書の段落【0020】に記載されているように、擬似返信変換プログラム、電子メールプログラムは、削除・編集が為されないように、プロテクトされている必要があるところ、上記のようにパソコンからアクセスできないようにすればその目的は達成できることからも、上記解釈は妥当である。」

(主張その2)「先願明細書の段落【0028】の、「また、擬似返信変換プログラムは、擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識させるようにしてもよい。」との記載は、次のように解釈できる。
すなわち、基本的には、これら領域はプロテクトのためパソコンからアクセスできない領域としているが、先願明細書の段落【0027】の、「当該プログラムが削除・編集が為されないようにするため、当該プログラムの格納された領域14をCD-ROMと認識させ、」との記載、及び、本件特許明細書の段落【0025】の、「なお、デバイス上で保護すべき情報は、制限領域R2に代えて、例えばホスト側からUSB上の単位デバイスとして閲覧可能であるが書込禁止の領域を設定し、そのような領域に置いてもよい。」との記載から理解できるように、プロテクトの目的を達成するためにはCD-ROMと認識させてもよいから、基本的な態様以外に、領域13、15を、「CD-ROMとして認識させる」態様にしてもよいことを記載しているものと解される。
これに対し、領域13、15をリムーバブルディスクとして認識させることは、プログラムが削除・編集が為される可能性が生じるとして、先願明細書では想定されていないのである。」

(主張その3)「以上のことから、先願明細書においては、リムーバブルディスクとして認識させる領域はデータ部16のみであり、他の領域をリムーバブルディスクとして認識させることは開示されていないと解するのが相当である。」

ここで、上記被請求人の主張を検討する。
まず、(主張その1)について検討するに、先願明細書の段落【0017】における記載「本デバイス1をCD-ROM及びリムーバブルディスクと認識させた場合に、メモリ12内のフォルダを開いて、電子メールプログラムを手動にて起動させてもよい。」からすると、明らかに、電子メールプログラムが格納された領域15は、パソコンからCD-ROM又はリムーバブルディスクと認識され、アクセスされる領域である。
また、電子メールプログラムは、そもそもパソコン上で実行されるものであることからも、パソコンからアクセスされる領域に格納されることは、明らかである。
そして、読み書き可能なディスクに設けたフォルダまたはファイルを保護するために、隠しフォルダ属性または隠しファイル属性を設定したり、また読み取り専用属性を設定することで、ユーザが間違えて編集/削除できないようにすることが、当業者にとって技術常識であることを参酌すれば、先願明細書の段落【0020】における記載「ここで、擬似返信変換プログラム、自動起動プログラム、電子メールプログラム、設定ファイル等は、隠しフォルダに納められ、表示されないようになっている。また、これらプログラム等は、削除・編集が為されないように、プロテクトされている。」については、
上記擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15とは、ともにパソコンから認識され、アクセスされる領域であって、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定でき、その際に当該フォルダまたはファイルに隠しフォルダ属性または隠しファイル属性を設定し、当該プログラムに読み取り専用属性を設定することで、プロテクトされていると解されることは明らかである。
そして、上記のように設定すれば、擬似返信変換プログラム、及び電子メールプログラムが誤って、削除・編集されないことからも、上記解釈は妥当である。
したがって、領域13及び領域15について、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定でき、その際に前記領域13及び領域15に隠しフォルダ属性、隠しファイル属性を設定するとともに、プログラムに読み取り専用属性等を設定してデータを保護することが、実質的に先願明細書等に記載されているものと解されるものである。
他方、被請求人は、上記領域13及び領域15について、パソコン側からアクセス可能領域ではなく、USBデバイス側制御部のアクセス部からのみ直接管理及び読み書き可能な管理領域及び制限領域であると主張している。
しかしながら、仮に上記領域13及び領域15が、パソコンからアクセスできない領域であるならば、上記領域13及び領域15をパソコンからアクセスできる「CD-ROM」として認識させることはできない、すなわち、「擬似返信変換プログラムは、擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識させる」(先願明細書の段落【0028】)ようにできないものである。
そして、先願明細書等には、上記領域13及び領域15が、USBデバイス側制御部のアクセス部からのみ直接管理及び読み書き可能な管理領域及び制限領域であることについて、全く記載されておらず、かつ、その記載から自明なものではない。
したがって、被請求人の主張その1は採用することができない。

次に(主張その2)について検討するに、前記主張その1で検討したように、領域13及び領域15について、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定でき、その際に前記領域13及び領域15に隠しフォルダ属性、隠しファイル属性を設定するとともに、プログラムに読み取り専用属性等を設定してデータを保護することが、実質的に先願明細書等に記載されているものと解されるものである。
すなわち、領域13及び領域15について、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定する場合は、前記領域13及び領域15に隠しフォルダ属性、隠しファイル属性を設定するとともに、プログラムに読み取り専用属性等を設定してデータを保護することを先願明細書で想定していると解される。
そして、先願明細書の段落【0028】における記載「また、擬似返信変換プログラムは、擬似返信変換プログラムが格納された領域13と、電子メールプログラムが格納された領域15をCD-ROMとして認識させるようにしてもよい。」とあるのは、プロテクトの目的を達成するためにはCD-ROMと認識させてもよいから、上記態様以外に、領域13及び領域15を「CD-ROMとして認識させる」態様にしてもよいことを記載しているものと解することが相当である。
したがって、前記領域13及び領域15をリムーバブルディスクと認識させることは、先願明細書で想定されていると解される。
よって、被請求人の主張その2は採用することができない。

最後に(主張その3)について検討するに、上記で検討したように、データ部16及び領域14は、それぞれリムーバブルディスク及びCD-ROMとして認識させる領域であると解せられるとともに、領域13及び領域15についても、リムーバブルディスクと認識させる領域として設定できることが、実質的に先願明細書等に記載されているものと解されるものである。
したがって、先願明細書において、リムーバブルディスクとして認識させる領域はデータ部16だけでなく、他の領域13及び領域15についても、リムーバブルディスクとして認識させることが実質的に開示されいると解するのが相当である。
よって、被請求人の主張その3は採用することができない。

以上のように、被請求人の主張は、採用することはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本件特許発明2は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許発明2の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件特許発明2の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件特許発明2は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許発明2の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1の特許は、特許法第36条第6項第1項及び第2号の規定に違反してなされたものであり、本件特許発明2の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

平成19年10月23日

審判長 特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
--------------------------------------------------------------------------------

〔審決分類〕P1113.161-ZA (G06F)
375
 
審理終結日 2009-04-16 
結審通知日 2009-04-21 
審決日 2007-10-23 
出願番号 特願2005-226629(P2005-226629)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 石田 信行
鈴木 匡明
登録日 2006-02-03 
登録番号 特許第3766429号(P3766429)
発明の名称 着脱式デバイス  
代理人 小西 恵  
代理人 三好 秀和  
代理人 足立 勉  
代理人 豊岡 静男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ