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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200515641 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1200181
審判番号 不服2006-11836  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-08 
確定日 2009-07-09 
事件の表示 特願2003-384393「ドラスタチン誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-149538〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯および本願の特許請求の範囲の記載
本願は,平成5年5月10日(パリ条約による優先権主張 1992年5月20日,米国 1992年11月25日,米国)を国際出願日とする特願平5-519851号の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成15年11月13日に新たな特許出願としたものであり,平成18年3月9日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成18年6月8日付で拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり,同日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には,以下のとおり記載されている。

「[請求項1] 抗腫瘍活性を有する医薬調剤において、製薬学的に認容性の担持剤および式I:
[R^(1)R^(2)N-CHX-CO]-A-B-[D]t-[E]u-[F]v-[G]w-K I
〔式中、R^(1)およびR^(2)は-CH_(3)、-CH_(2)CH_(3)、-CH_(2)CH_(2)CH_(3)または-CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(3)であり、
Xは-CH(CH_(3))_(2)であり、
Aはバリルであり、
BはN-メチル-バリルであり、
DおよびEはプロリルであり、
tおよびuは1であり、
vおよびwは0であり、
Kはヒドロキシまたは式R^(5)-N-R^(6)のアミノ部分であり、この場合R^(5)およびR^(6)は、それぞれ水素または置換されていてもよいC_(1)?C_(7)アルキルである]で示されるペプチドまたはその生理的に認容される酸との塩の治療に有効な量を含有する、抗腫瘍活性を有する医薬調剤。」


第2 原査定の拒絶理由
これに対して,原査定の拒絶の理由の一つは,次のとおりである。

「この出願は、明細書の記載が下記の点で、特許法第36条第4項又は第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

(4)請求項11には、請求項1記載の化合物を含有する医薬調剤の発明が記載されている。一方、発明の詳細な説明の記載には、上記化合物を医薬調剤として使用することについてはその可能性が示唆されているに留まり、in vivoの実験等により上記化合物を医薬調剤として使用可能なことを裏付ける実施例等の記載はなく、発明の詳細な説明の記載からでは、上記化合物を医薬調剤として使用できることを確認することができない。したがって、上記請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施できる程度に記載されていると認めることができない。請求項10、12に係る発明も同様である。 」


第3 当審の判断
1.本願発明1について
平成18年6月8日付手続補正書により補正された請求項1に記載された発明(以下,「本願発明1」という。)は,上記拒絶の理由が通知された,補正前の請求項11に記載された発明の「医薬調剤」について,その「式Iの化合物」を限定したものに相当する。

本願発明1は,抗腫瘍活性を有する医薬調剤に係るものであり,その有効成分の一般式の置換基の定義によれば,Aはバリルであり,BはN-メチル-バリルであり,DおよびEはプロリルであり,tおよびuは1であり,かつ,vおよびwは0である。また,N-CHCH(CH_(3))_(2)-COはValと表記できることから,
「抗腫瘍活性を有する医薬調剤において、製薬学的に認容性の担持剤および式I:
R^(1)R^(2)-Val-Val-N-メチル-Val-Pro-Pro-K
〔式中、R^(1)およびR^(2)は-CH_(3)、-CH_(2)CH_(3)、-CH_(2)CH_(2)CH_(3)または-CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(3)であり、
Kはヒドロキシまたは式R^(5)-N-R^(6)のアミノ部分であり、この場合R^(5)およびR^(6)は、それぞれ水素または置換されていてもよいC_(1)?C_(7)アルキルである]
で示されるペプチドまたはその生理的に認容される酸との塩の治療に有効な量を含有する、抗腫瘍活性を有する医薬調剤。」といいかえることができる。

また,本願発明1の医薬調剤に含有されるペプチド化合物の置換基R^(1)およびR^(2)は,4種類のアルキル基からそれぞれ独立して選択可能なだけでなく,「R^(5)およびR^(6)は、それぞれ水素または置換されていてもよいC^(1)?C^(7)アルキルである」と記載され,C^(1)?C^(7)アルキルである場合の置換基R^(5)およびR^(6)については,置換する基の種類は特定されていないことから,本願発明1の医薬調剤に含有されるペプチド化合物には,多様な構造を有する化合物が包含されている。

2.本願の発明の詳細な説明の記載
(1)本願の発明の詳細な説明の段落【0138】には,「本発明の化合物は,たとえば次に記載の方法を含めた通常の方法により抗ガン活性について分析することができる。」と記載され,細胞毒性を測定する標準的方法の例としてMTTアッセイ法が記載されている。また,段落【0140】には,「試験化合物を異種移植を行ったマウスに投与することによりその抗腫瘍効果について評価した。」等と記載され,さらに段落【0141】には「本発明による新規化合物は,前記したアッセイ系において試験管内での良好な活性および前記した生体内系で抗腫瘍活性を示した。」と記載されている。
しかしながら,これらの記載は,出願当初の請求項1に記載された発明である,本願発明1よりも更に膨大な選択肢を含む化合物全体に関する記載であって,具体的にどのような化合物について具体的にどのような条件でこれらの試験を行ったところ,どのような活性がどの程度確認できたか等について,何ら記載されておらず,薬理データに相当するものは記載されていない。

なお,上記明細書段落【0140】および【0141】には,「評価した」および「(抗腫瘍活性を)示した」と過去形で記載されているが,本願の原出願の国際出願時の明細書にはいずれも「are conducted」(第108頁下から5行)および「show」(第109頁第19行)と現在形で記載されており,本願明細書におけるこれらの記載は,誤訳された原出願の当初明細書の記載をそのまま分割出願としているものと認められ,このことからは,このような試験が実際に行われていたわけではないことがうかがわれる。

(2)また,本願の発明の詳細な説明の段落【0074】?【0076】には,「本発明の化合物は,哺乳動物にこの化合物を投与することにより,充実性腫瘍(略)または血液の悪性腫瘍(略)の阻止,または他の治療のために使用することができる。(略)
(略)典型的な毎日の投与量は,経口投与の場合,体重1KGあたり5?250ミリグラムであり,腸管外投与の場合,体重1kgあたり1?100ミリグラムである。
この新規の化合物は,通常固体または液体の調剤学的投与形態,たとえば非被覆または(フィルム-)被覆錠剤,カプセル剤,粉剤,顆粒剤,坐剤または溶液で投与することができる。(略)」として,投与量や投与方法,製剤化のための事項等が記載されているが,上記(1)で述べたとおり,薬理データに相当する記載はなされていない。

3.判断
一般に,含有する物質の名称や化学構造だけからその有用性を予測することが困難である医薬発明については,明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要がある。
このような医薬発明の実施可能要件(平成2年改正前特許法第36条第3項)ついては,東京高裁平成8年(行ケ)第201号判決においても,下記のように判示されている。
「明細書には,その技術文献としての性格上,当業者が容易に発明の実施をすることができる程度にその発明の目的,構成とともに,その特有の効果を具体的に記載すべきところ(特許法第36条第3項),医薬についての用途発明においては,一般に,物質名,化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項が有る程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり,それがされていない発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条3項に違反するものといわなければならない。」

一方,本願発明1の医薬調剤に含まれるとして記載される各ペプチド化合物は,公知の抗腫瘍活性化合物であるドラスタチン15と,「Val-Val-N-メチル-Val-Pro-Pro」という共通の構造を有するものであるが,N末端Valのアミノ基の置換基およびC末端のProと結合する基が相違する化合物である。
本願の各ペプチド化合物は,その両端の構造がドラスタチン15とは異なるものであり,しかも,本願明細書段落【0001】には,ドラスタチン15と類似構造を有する同じく公知の抗腫瘍活性化合物であるドラスタチン10については,「構造体内での変化が僅かであっても,活性の損失が完全に生じうることが記載されている。(Biochemical Pharmacology, 第40巻,No.8,第1859?1864頁,1990)」と記載されているように,類似構造を有するドラスタチン15においても僅かに構造が異なれば,その活性に変化が生じうることが,本出願願時の技術常識であったということができる。
すると,ドラスタチン15については,本願出願時において抗腫瘍活性を有することが知られていたとしても,本願の各ペプチド化合物がドラスタチン15と同様の活性を有するとは推認できないし,また,本願の各ペプチド化合物がそのような活性を有することについて,本願明細書には合理的な説明もなされていない。すなわち,本願の多様なペプチド化合物については,そもそも抗腫瘍活性を有するものであるか,また,仮にそのような活性を有するものであるとしても,いかなる条件下でどの程度の活性を有するものであるか,本願出願時の技術常識からみて不明であるといえる。

以上のとおりであるから,抗腫瘍活性を有するかどうか不明である多様なペプチド化合物を含有する医薬調剤に係る発明である本願発明1については,本願明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載が必要であるにもかかわらず,上記「2.」で指摘のとおり,本願の発明の詳細な説明にはそのような記載はなされていない。

したがって,本願の発明の詳細な説明には,当業者が容易に請求項1に係る発明を実施できる程度に,その目的,構成および効果が記載されているとはいえない。

4.請求人の主張について
(1)請求人は,本願の審判請求書の手続補正書等において,以下のように主張し,実験データを提出している。
「以下にまとめました出願人作成の追加実験データならびに物件提出書により参考資料1として提出した出願人からの追加実験データから明確に示される通り,本発明による新規のペプチドまたは該ペプチドと生理的に許容される酸との塩を製薬学的に許容性の担持剤と一緒に含有する,抗腫瘍活性を有する医薬調剤は,白血病,OVCAR卵巣癌およびLOXヒトの悪性黒色腫に対して良好な抗腫瘍活性を有しています。」

(2)特許法第36条第4項の規定する「本願の発明の詳細な説明に,当業者が容易に請求項に係る発明を実施できる程度に,その目的,構成および効果を記載」するとは,出願時の技術常識を前提として解されるものである。医薬発明についても,出願時の技術常識を考慮しても,医薬として機能すると推認できる程度に発明の詳細な説明が記載されていない場合には,その後にその点が明らかにされたとしても,本願の発明の詳細な説明に,当業者が容易に医薬発明を実施することができる程度に,その目的,構成,および効果が記載されているとはいえない。

この点は,前述の東京高裁平成8年(行ケ)第201号判決においても,下記のように判示されている。
「また,原告指摘の現行の審査基準「第1部 明細書,第1章 明細書の記載要件,5.留意事項(3)」の「発明の詳細な説明に記載された発明の効果を奏さない旨の拒絶理由に対し,出願人はその効果を奏することを意見書又は実権成績証明書等により反論・釈明することができる。そして,それらにより実質的に効果を奏することが確認できた場合は特許法第36条第4項違反とはならない。」との定めの趣旨は,その前の箇所(1)の記載と合わせて理解すれば,特許請求の範囲の一部については効果を確認する具体例の記載があるが,それだけではその余の部分の効果を確認できない旨の拒絶理由に対し反論・釈明をすることができる旨を定めたものであり,当初の明細書に裏付けとして具体例の記載が全くない場合についてまで,意見書又は実験成績報告書等による反論・釈明をし得ることを定めたものとは認められないから,現行の審査基準も,原告の主張の裏付けとなるものではない。」

(3)したがって,本願出願時の明細書等の記載に基づかない追加実験データを提出することにより,本願の発明の詳細な説明には,当業者が容易に請求項1に係る発明を実施できる程度に,その目的,構成および効果が記載されていたという請求人の上記主張自体,採用できない。

(4)しかも,請求人の提出した追加実験データおよび物件提出書をみても,たとえば追加実験データに「下記の例の化合物」として列挙される化合物に含まれる21,29,30等は,そもそもその化学構造自体がいかなるものか不明ではあると共に,IC_(50)[M]は>10^(-4)と表記されており,これらの化合物が細胞毒性を有するものであることが,明らかであるとはいえない。
また,上記「2.」で指摘のとおり,本願発明1は多様な構造を有する化合物を含有する医薬調剤に係る発明であるところ,追加実験データに具体的に記載される化合物234,2,37,38,50,230等の特定の構造を有する化合物についての結果をもって,上記非常に様々な化合物が抗腫瘍活性を有するものであることが,明らかであるとはいえない。
したがって,仮に,請求人の提出した追加実験データを参酌したとしても,本願の請求項1に記載される多様な化合物が抗腫瘍活性を有するものであるとは認められないため,本願の発明の詳細な説明には,当業者が容易に請求項1に係る発明を実施できる程度に,その目的,構成および効果が記載されていたということはできない。


第4 むすび
したがって,本願は,本願の請求項1に記載の発明について,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明および他の拒絶理由については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-09 
結審通知日 2009-02-13 
審決日 2009-02-25 
出願番号 特願2003-384393(P2003-384393)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二田村 明照  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
光本 美奈子
発明の名称 ドラスタチン誘導体  
代理人 山崎 利臣  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
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