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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200625545 審決 特許
不服200624530 審決 特許
不服20069599 審決 特許
無効2007800042 審決 特許
不服200818112 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
管理番号 1200681
審判番号 無効2007-800230  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-19 
確定日 2009-06-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3699680号発明「無水ミルタザピン結晶およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3699680号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許3699680号に係る発明についての出願は,平成12年9月28日に特願2001-540093号として出願され,平成17年7月15日に特許権の設定の登録がなされた。
これに対して,請求人より,平成19年10月19日に本件無効審判の請求がなされ,指定期間内である平成20年2月8日付けで被請求人より訂正請求がなされたものである。

II.訂正請求について
1.訂正の内容
平成20年2月8日付けの訂正請求は,特許第3699680号の明細書を本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり,すなわち,下記(1)ないし(4)のとおり訂正することを求めるものである。

(1)特許第3699680号における特許請求の範囲の請求項1を,
「【請求項1】
含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶。」と訂正する。
(2)特許第3699680号における特許請求の範囲の請求項3を,
「【請求項2】
ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法。」と訂正する。
(3)訂正前の請求項2,5,7?11を削除し,残りの請求項の項番を繰り上げる。これに伴い,訂正後の請求項3は,請求項2を引用し,訂正後の請求項4は,請求項2 または3を引用するように訂正する。
(4)出願当初明細書第2頁第4行?同頁下から第5行(特許公報第3頁第7?23行)に記載の「本発明によれば, …(略) … が提供される。」を,
「本発明によれば,
(1)含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶,および(2)ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法,が提供される。」と訂正する。

2.訂正の可否
これらの訂正事項について検討する。上記(1)の訂正は,訂正前の請求項1に記載された「低吸湿性無水ミルタザピン結晶」との事項に,補正前の請求項2に記載された「含水量が0.5重量%以下である」との限定を付するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
次に,上記(2)の訂正は,訂正前の請求項3に記載された「低吸湿性無水ミルタザピン結晶」との事項に,補正前の請求項2に記載された「含水量が0.5重量%以下である」との限定を付するとともに,訂正前の請求項3に記載された「乾燥させる」との事項に,出願当初明細書第7頁第15?18行の記載に基づき「90?105℃で」という限定を付するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
次に,上記(3)の訂正は,請求項の削除及びこれに伴う請求項の項番の繰り上げと引用請求項の訂正を行うものであり,特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
次に,上記(4)の訂正は,特許請求の範囲の訂正に伴い,発明の詳細な説明の項を訂正するものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
また,上記訂正(1)ないし(4)が,いずれも,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。

3.むすび
以上のとおりであるから,上記訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書並びに同条第5項の規定によって準用する特許法第126第3及び4項の規定に適合するので,訂正を認める。

III.当事者の主張
請求人は,「特許3699680号の請求項1ないし4(訂正後の請求項)に係る発明の特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,無効理由1及び4として,以下の主張をしている。なお,審判請求書に記載した無効理由2,3,5は,取り下げられた(第1回口頭審理調書)。
(無効理由1)
本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に違背するものであり,また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件請求項1?4に記載された発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないことから,特許法第36条第4項に違反して特許されたものであるから,特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

(無効理由4)
本件特許発明1は,甲第1号証に記載された発明と同一であり,また少なくとも甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるから,特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反して特許されたものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

そして,証拠方法として,以下の甲第1?12号証及び参考資料1?6を提出した。
甲第1号証:米国特許第4062848号公報
甲第2号証:Journa1 of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals ,Vol , XXVII,No.9,1055?1068頁,1989年
甲第3号証:Maria De wi1dt氏とMariavan Hoof氏の宣誓書
甲第4号証-1」:N.V.オルガノン社からModern Pharmaceutica1 Companyへの請求書(Invoice059982)
甲第4号証-2:N.V.オルガノン社からNeopharm LTD への請求書(Invoice061940)
甲第4号証-3:N.V.オルガノン社からDonmed phmaceutica1s(PTY)への請求書 (Invoice063484)
甲第4号証-4:N.V.オルガノン社からA1 Moji1 Drug Companyへの請求書 (1nvoice064881)
甲第4号証-5:N.V.オルガノン社からA1 Moii1 Drug Companyへの請求書(Invoice067867)
甲第5号証:Fe1ix C.A.M.Ver1aar氏の宣誓書
甲第6号証:Catherine Crow1ey氏の宣誓供述書
甲第7号証:Ivan Reijniers氏の宣誓供述書
甲第8号証:Maria Kirchho1tes氏の宣誓供述書
甲第9号証:Robert Geertman氏の宣誓書
甲第10号証:Mariavan Hoof氏の宣誓書
甲第11号証:特開平10-53576号公報
甲第12号証:特公平6-15556号特許公報
参考資料1:米国特許出願No.10/74 3,740の審査において出願人(本件特許権者)が米国特許商標庁へ提出した意見書のコピー
参考資料2:「特許・実用新案審査基準:第I部第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」
参考資料3: 実験報告書
参考資料4:参考資料3のX線回折(図2)のグラフを分離しスケールを拡大したグラフ
参考資料5:口頭審理資料
参考資料6:甲第1号証の追試試験結果

一方,被請求人は,「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め,請求人の主張する無効の理由及び証拠方法によっては,本件特許を無効にすることができないと主張している。
そして,無効理由1の本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に違背するものであるとの主張に対して,以下のとおり主張している。
(1)訂正後の請求項1に係る発明(物の発明)について
請求人は,同様の条件で製造した無水ミルタザピン結晶でも,使用するミルタザピンの中間体の種類によっては,得られる無水ミルタザピンが目標とする吸湿量を達成できる場合と達成できない場合が生じることになるにもかかわらず,本件請求項1は,「25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である」及び「低吸湿性」という特性ないしは達成すべき結果のみを構成要件として規定するものであり,特定の技術的手段が構成要件として反映されていない,と主張したいようであり,これを理由に,「本件特許発明1は広汎に過ぎ,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと実質的に対応しないものであるから,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである」と主張している。
しかし,そもそも,特許法第36条第6項第1号の要件は,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものか否かが問われるものであり,本件特許発明1は,低吸湿性無水ミルタザピン結晶という物の発明であり,該発明の課題は,かかる物を提供することである。そして,詳細に一般的説明を行った上で,実施例7に具体的に請求項に係る物を提供した例を示している。してみると,当業者にとって,低吸湿性無水ミルタザピン結晶の提供という課題を解決する手段については,当該明細書の記載から十分に認識できるものであるというべきである。従って,特許法第36条第6第1号に違背するものではない。
(2)訂正後の請求項2?4に係る発明(製造方法の発明)について
請求人は,縷々述べているが,要約すると,(1)ミルタザピン水和物を乾燥する方法や条件について何の限定もされていないこと,(2)特定の条件から得られたミルタザピン水和物を使用することが必須と認められること,を指摘し,これに対し,本件特許発明2?4には,発明の課題を解決するための手段が反映されていないから,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり,特許法第36条第6項第1号に違背すると主張している。
しかしながら,(1)のミルタザピン水和物を乾燥する条件については,前記した訂正請求により,90?105℃で乾燥させることを規定した。乾燥の方法は,乾燥温度が規定されれば,当業者が適宜選択できるものであり,特段の規定を要するものではない。(2)について,請求人は実施例7と比較例3との対比から特定の条件から得られたミルタザピン水和物を使用することが必須であると主張している。しかし,比較例3は,粗製ミルタザピンをtert-ブチルメチルエーテルに溶解させた後,濃縮することにより共沸脱水して得られた結晶に対して乾燥させているものであり,この場合には所望のものが得られないことを示したに過ぎない。そして,前記したように,本発明の実施例7によれば,ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることにより,所望の低吸湿性無水ミルタザピン結晶が得られることが明らかにされているのであるから,本発明には,発明の課題を解決するための手段は十分に反映されており,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて請求するものではない。従って,特許法第36条第6項第1号に違背するものではない。

そして,参考資料として参考資料A及びBを提出した。
参考資料A:THE MERCK INDEX 13版,2001年,1108頁6230の項
参考資料B:特開平7-309830号公報

IV.本件特許発明
特許第3699680号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明は,訂正後の本件特許明細書(以下,「本件明細書」という)の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)

「【請求項1】
含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶。
【請求項2】
ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法。
【請求項3】
ミルタザピン水和物を粉砕した後に,乾燥する請求項2記載の無水ミルタザピン結晶の製造方法。
【請求項4】
ミルタザピン水和物の結晶を減圧下で加熱して乾燥させる請求項2または3記載の無水ミルタザピン結晶の製造方法。」

V.当審の判断
請求人は無効理由1として,本件特許発明1ないし4は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないので,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に違背するものであると主張しているので以下に検討する。

1.本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
ア)課題について
本件明細書の第1頁下から2行?第2頁14行には,「ミルタザピンの純度を高める方法としては,ミルタザピンを石油エーテルなどから再結晶させる方法が提案されている(米国特許第4,062,848号明細書)。・・・また,このミルタザピンの結晶は,吸湿性を有するため,乾燥条件下でないと取扱いおよび保存ができないという欠点がある。従って,粗製のミルタザピンから・・・,および吸湿性が低いミルタザピン結晶の開発が待ち望まれている。本発明の目的は,前記従来技術に鑑みてなされたものであり,・・・および低吸湿性を有する無水ミルタザピン結晶およびその製造方法・・・を提供することである。」と,また,「発明を実施するための最良の形態の項」第5頁46行?48行には,「かくして得られるミルタザピン結晶は,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときであっても,吸湿量が0.6重量%以下であるという格別顕著に優れた性質を発現するものである。」と記載されている。
イ)製造方法について
低吸収性の無水ミルタザピン結晶の製造方法として,本件明細書の第6頁19行?21行に「低吸湿性の無水ミルタザピン結晶は,前記のようにして含水溶媒から結晶化させて得られたミルタザピン水和物の結晶を乾燥させることによって容易に製造することができる。」と記載されている。
そして,ミルタザピン水和物の結晶の製造方法については,第4頁下から12行?第6頁16行に,「ミルタザピン水和物の結晶は,例えば,粗製ミルタザピンを出発物質として使用することにより,以下のようにして容易に調製することができる。なお,粗製ミルタザピンは,純度が99%以下程度のものであり,例えば,米国特許第4,062,848号明細書に記載されている方法によって調製することができる。より具体的には,・・・粗製ミルタザピンからミルタザピン水和物の結晶を製造するにあたって,まず,粗製ミルタザピンを溶媒に溶解させる。溶媒としては,例えば,・・・などの低級アルコール;・・・などのエーテル;・・・などのケトン;・・・などのエステル;・・・などの非プロトン性有機溶媒などの水溶性有機溶媒と,水との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒のなかでは,メタノール,エタノールなどの低級アルコールが好ましい。なお,水溶性有機溶媒100重量部に対する水の量は,・・・溶媒の量は,・・・粗製ミルタザピンを溶媒に溶解させる際の温度は,・・・また,色相を改善するために,・・・次に,脱色炭を濾別し,・・・結晶形を揃えるために,0?10℃程度の温度まで冷却することが好ましい。次に,得られたミルタザピン溶液には,結晶析出の観点から,水を粗製ミルタザピン・・・滴下することが好ましい。その後,得られた溶液を0?5℃程度の温度に冷却し,結晶形を揃えるために,ミルタザピン水和物の結晶の種晶をその溶液に添加してもよい。・・・得られたミルタザピン水和物の結晶の平均粒子径は,通常,60?150μmであるが,必要により,ハンマーミルなどの粉砕機で粉砕してもよい。」と記載されている。
そして,ミルタザピン水和物の結晶を乾燥させて低吸湿性無水ミルタザピン結晶を製造する方法については,第6頁19行?第7頁22行に,「低吸湿性の無水ミルタザピン結晶は,前記のようにして含水溶媒から結晶化させて得られたミルタザピン水和物の結晶を乾燥させることによって容易に製造することができる。・・・ミルタザピン水和物の結晶を乾燥する前には,その乾燥を効率よく行なうことができるようにするために,ミルタザピン水和物の結晶を粉砕することが好ましい。・・・ミルタザピン水和物の結晶の粉砕を効率よく行なうために,該ミルタザピン水和物の結晶を予備乾燥させることが好ましい。・・・・乾燥は,加熱下で行なうことが好ましい。この場合,加熱温度は,・・・より好ましくは90?105℃であることが望ましい。乾燥を減圧下で行なうことにより,さらに乾燥時間を短縮させることができる。・・・ミルタザピン水和物の結晶の乾燥は,得られる無水ミルタザピン結晶の水分量が0.5重量%以下,好ましくは0.3重量%以下となるまで行なうことが,得られる無水ミルタザピン結晶に,優れた低吸湿性を付与する観点から望ましい。かくして得られるミルタザピン結晶は,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときであっても,吸湿量が0.6重量%以下であるという格別顕著に優れた性質を発現するものである。」と記載されている。
ウ)製造実験例について
製造実験例としては,本件明細書第8頁1行?第20頁25行に,「調製例〔粗製ミルタザピンの製造〕,実施例1?11,比較例1?3,製造例1」が記載されている。このうち,無水ミルタザピンの製造実験例は,実施例2?5,7,9?11及び比較例3である。
そして,「25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量」については,本件明細書第13頁2行?10行に,「次に,実施例7および比較例3で得られたミルタザピンの結晶をシャーレに入れ,相対湿度が75%で室温が25℃の恒温室内に入れ,その結晶の吸湿量の変化を調べた。その結果を第2図に示す。なお,吸湿量は,式:
〔吸湿量(重量%)〕=〔吸湿後の結晶の重量(g)-吸湿前の結晶の重量(g)〕÷〔吸湿前の結晶の重量(g)〕×100
によって求められる。
第2図に示された結果から,実施例7で得られた無水ミルタザピン結晶は,比較例3で得られたミルタザピン結晶と対比して,500時間経過後における吸湿量が非常に低く,低吸湿性に著しく優れていることがわかる。」と記載されており,図2が願書に添付されている。図2には,各時間経過後の吸湿量(%)の値は数値としては記載されていないが,グラフからは,実施例7の試料の500時間後の吸湿量(%)は約0.5%,比較例3の試料の500時間後の吸湿量(%)は,約1.8%であると読み取れる。
なお,これ以外に,各製造実験例における,「25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量」に関する記載はない。
そして,実施例7及びその出発物質の製造例である実施例6,参考例3は,以下のとおり記載されている。
「実施例6
製造例1で得られた粗製ミルタザピン120gをメタノール360mLに溶解させ,脱色炭1.2gを添加して脱色し,濾過した後,メタノール12mLで脱色炭を洗浄した。その後,20?30℃で,攪拌下,イオン交換水1116mLを滴下し,1時間熟成した。
次に,その溶液を0?5℃で1時間冷却し,濾過した後,メタノール43.2mLとイオン交換水129.6mLとを混合した液温が0?5℃の液で結晶を洗浄した。この結晶を60℃で乾燥してミルタザピン1/2水和物の結晶121.25gを得た(収率97.7%)。
実施例7
実施例6で得られたミルタザピン1/2水和物の結晶を1330?1862Paの減圧下で90?95℃で乾燥した。得られた無水ミルタザピン結晶の水分量をカール・フィッシャー法で測定したところ,0.1重量%であった。また,その融点は114?116℃であった。
比較例3
製造例1で得られた粗製ミルタザピンを米国特許第4,062,848号明細書に記載の方法に準じて再結晶させた。すなわち,製造例1で得られた粗製ミルタザピン20gをtert-ブチルメチルエーテル140mLに加熱溶解させ,脱色炭0.2gおよびセライト0.2gを添加して脱色濾過し,その溶液の量が41.2gとなるまで濃縮し,これにtert-ブチルメチルエーテル5.4gを添加し,3℃まで冷却して結晶化した。その後,濾過し,50℃で乾燥してミルタザピンの結晶16.5gを得た。
次に,この結晶10gを石油エーテル(沸点:40?60℃)200mLに加熱溶解し,0?5℃に冷却してミルタザピンの結晶4gを得た。
得られたミルタザピンの結晶を1330?1995Paの減圧下,90?95℃で乾燥し,その水分量をカール・フィッシャー法で測定したところ,0.1重量%であった。」

2.本件特許発明1について
本件特許発明1は,「含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶」であり,本件明細書の実施例7において得られる含水量が0.1重量%,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が,図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶に限定されるものではなく,「含水量が0.5重量%以下である」,「25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である」という含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶を対象とするものである。(この点については,被請求人も平成20年7月18日付けの上申書第3頁において,実施例7はあくまでも一例である旨主張している。)
そして,本件特許発明1は,上記1.ア)に記載されているとおり,ミルタザピンの結晶が有する,吸湿性を有するため乾燥条件下でないと取扱いおよび保存ができないという欠点を解消するため,低吸湿性のミルタザピン結晶を提供するという課題を解決するものである。
ところで,特許が,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たした特許出願に対してなされたといえるためには,請求項に係る発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものであることが必要である。
そうすると,本件特許発明1が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるといえるためには,本件明細書の発明の詳細な説明において,実施例7において得られる低吸湿性無水ミルタザピンだけでなく,上記含水量及び吸湿量に関する要件を充足する低吸湿性無水ミルタザピン全体について,低吸湿性のミルタザピン結晶を提供するという本件特許発明1の課題を解決することができることを当業者が認識できるように記載されていることが必要である。そして,上記の低吸湿性のミルタザピン結晶を提供するという課題を解決することができると当業者が認識できるように記載されているためには,本件特許発明1の低吸湿性無水ミルタザピン結晶は新規な物質であるから,上記含水量及び吸湿量に関する要件を充足する低吸湿性無水ミルタザピン全体について公知物質から製造することができることを当業者が認識できるように記載されていることが必要である。
そこで,本件明細書の発明の詳細な説明が,実施例7において得られる低吸湿性無水ミルタザピンだけでなく,上記含水量及び吸湿量に関する要件を充足する低吸湿性無水ミルタザピン全体について公知物質からの製造することができることを当業者が認識できるように記載したものであるかどうかについて検討する。
上記1.イ)のとおり,低吸収性の無水ミルタザピン結晶の製造方法として,公知物質である粗製ミルタザピンを出発物質として,含水溶媒から結晶化させてミルタザピン水和物の結晶を得て,得られたミルタザピン水和物を乾燥させる低吸収性の無水ミルタザピン結晶の製造工程が示されている。そして,ミルタザピン水和物の結晶化方法については,含水溶媒としては,水溶性有機溶媒と水との混合溶媒を用いること,水溶性有機溶媒としては,代表的な溶媒名を挙げて,低級アルコール,エーテル,ケトン,エステル,非プロトン性有機溶媒が用いられることがそれぞれの代表的な各溶媒名とともに記載され,低級アルコールが好ましいことが記載されている。
さらに,水溶性有機溶媒に対する水の量,ミルタザピンに対する溶媒の量,溶媒に溶解させる温度等についての通常の,あるいは好ましい範囲が記載されている。さらに,粗製ミルタザピンを溶媒に60?80℃の温度で溶解した場合には,得られるミルタザピン水和物の純度を向上させる観点から,粗製ミルタザピン溶液に,水を添加することが好ましいこと及びその添加量,色相を改善するために粗製ミルタザピン溶液に脱色炭を適宜添加し,攪拌することが好ましいことが記載されている。
そして,結晶化に関しては,得られたミルタザピン溶液には,結晶析出の観点から,水を粗製ミルタザピンに対して等量から10倍量滴下することが好ましいこと,その後,得られた溶液を0?5℃程度の温度に冷却し,結晶形を揃えるために,ミルタザピン水和物の結晶の種晶をその溶液に添加してもよいことなどが記載されている。
そして,得られたミルタザピン水和物を乾燥させることによって低吸収性の無水ミルタザピン結晶を得る方法に関しては,乾燥を効率よく行なうことができるようにするために,ミルタザピン水和物の結晶を予備乾燥し,粉砕することが好ましいこと,乾燥は,加熱下で行なうことが好ましい。この場合,加熱温度は,より好ましくは90?105℃であることが望ましいこと,乾燥を減圧下で行なうことにより,さらに乾燥時間を短縮させることができること,ミルタザピン水和物の結晶の乾燥は,得られる無水ミルタザピン結晶の水分量が0.5重量%以下,好ましくは0.3重量%以下となるまで行なうことが,得られる無水ミルタザピン結晶に,優れた低吸湿性を付与する観点から望ましいことが記載されている。
そして,「かくして得られるミルタザピン結晶は,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときであっても,吸湿量が0.6重量%以下であるという格別顕著に優れた性質を発現するものである。」と記載されているが,本件明細書に記載された低吸収性の無水ミルタザピン結晶の製造方法において,ミルタザピンの結晶化工程における含水溶媒の種類や組成比,晶析温度等の結晶化条件,ミルタザピン水和物の乾燥工程における乾燥温度,乾燥時間等の乾燥条件として,どのような条件を選定,組み合わせることにより,どのような吸湿量の無水ミルタザピン結晶が得られるのかについては全く説明がなされていない。
また,本件明細書に記載された製造方法によれば,特に条件を選定しなくとも,本件特許発明の課題である「25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下」である低吸湿性ミルタザピン結晶の製造ができることを示す理論的な説明もない。
そして,製造実験例としては,実施例6で製造したミルタザピン1/2水和物の結晶を1330?1862Paの減圧下で90?95℃で乾燥させることによる,含水量が0.1重量%であり,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造実施例が,実施例7として唯一つ記載されているのみである。
一方,一般に,結晶の特性は再結晶工程や後処理の違いにより変動する。実際,本件明細書においても,粗製ミルタザピンを,含水溶媒を使用せず,tert-ブチルメチルエーテル,次いで,石油エーテルから結晶化して得たミルタザピン結晶を,含水量が0.1重量%となるまで乾燥させることにより得た比較例3の無水ミルタザピン結晶は,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量は約1.8重量%であり,上記の吸湿量に関する要件の上限値である0.5重量%の3倍量にあたる。
しかしながら,上記のとおり,本件明細書には,実施例7として記載されている含水量が0.1重量%,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が,図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶については製造実験例が記載されているものの、それ以外の上記含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するの低湿性無水ミルタザピン結晶全体について,粗製ミルタザピンを出発物質として,含水溶媒から結晶化させてミルタザピン水和物の結晶を得て,得られたミルタザピン水和物を含水量が0.5重量%以下になるまで乾燥するという本件明細書に記載された低吸収性無水ミルタザピン結晶の製造方法によって製造することができると理解できる理論的な説明も,そして,このことを実験的に裏付けることができる製造実験データのいずれも記載されていない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施例7として記載されている,含水量が0.1重量%であり,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶に限らず,上記含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶について,公知物質からの製造することができることを当業者が認識できるように記載したものであるとはいえない。
したがって,本件特許発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

なお,被請求人は,平成20年8月12日付けの上申書で本件明細書の実施例11の追試実験を行い,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量吸水量が0.14重量%であり,実施例11の無水ミルタザピン結晶が上記の吸湿量に関する要件を充足するものであることを示そうとしているが,出願後に提出された資料により,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという本件明細書の記載不備を補うことはできない。

3.本件特許発明2について
本件特許発明2は,「ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法。」であり,本件明細書の実施例7において得られる含水量が0.1重量%,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が,図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法に限定されるものではなく,含水量及び吸湿量に関する上記の要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶を対象とする製造方法の発明である。
しかしながら,上記「2.特許発明1について」において述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施例7として記載されている低吸湿性無水ミルタザピン結晶に限らず,上記含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶について,公知物質からの製造することができることを当業者が認識できるように記載したものであるとはいえないものであり,乾燥温度を90?105℃に特定する本件特許発明2が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないことは明らかである。

4.本件発明3について
本件特許発明3は,他の請求項を引用せずに記載すれば,「ミルタザピン水和物を粉砕した後に,ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法。」であり,本件明細書の実施例7において得られる含水量が0.1重量%,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が,図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法に限定されるものではなく,含水量及び吸湿量に関する上記の要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶を対象とする製造方法の発明である。
しかしながら,上記「2.特許発明1について」において述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施例7として記載されている低吸湿性無水ミルタザピン結晶に限らず,上記含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶について,公知物質からの製造することができることを当業者が認識できるように記載したものであるとはいえないものであり,乾燥前にミルタザピン水和物を粉砕し,乾燥温度を90?105℃に特定する本件特許発明3が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないことは明らかである。

5.特許発明4について
本件特許発明4は,他の請求項を引用せずに記載すれば,「ミルタザピン水和物の結晶を減圧下で90?105℃で乾燥させることを特徴とする,または,ミルタザピン水和物を粉砕した後に,ミルタザピン水和物の結晶を減圧下で90?105℃で乾燥させることを特徴とする,含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法」であり,本件明細書の実施例7において得られる含水量が0.1重量%,25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下,500時間保存したときの吸湿量が,図2に示される値(約0.5重量%)である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法に限定されるものではなく,含水量及び吸湿量に関する上記の要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶を対象とする製造方法の発明である。
しかしながら,上記「2.特許発明1について」において述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施例7として記載されている低吸湿性無水ミルタザピン結晶に限らず,上記含水量及び吸湿量に関する要件をいずれも充足するすべての低吸湿性無水ミルタザピン結晶について,公知物質からの製造することができることを当業者が認識できるように記載したものであるとはいえないものであり,乾燥を減圧下に行い,乾燥温度を90?105℃に特定する,または,乾燥前にミルタザピン水和物を粉砕し,乾燥を減圧下に行い,乾燥温度を90?105℃に特定する本件特許発明4が本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないことは明らかである。

VI.むすび
以上のとおりであるから,本件特許発明1ないし4は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないので,本件特許発明1ないし4についての特許は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当する。
審判に関する費用については,特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
無水ミルタザピン結晶およびその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶。
【請求項2】
ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする、含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法。
【請求項3】
ミルタザピン水和物を粉砕した後に、乾燥する請求項2記載の無水ミルタザピン結晶の製造方法。
【請求項4】
ミルタザピン水和物の結晶を減圧下で加熱して乾燥させる請求項2または3記載の無水ミルタザピン結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、無水ミルタザピン結晶およびその製造方法、ならびにミルタザピン水和物の結晶およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、抗鬱剤として有用な低吸湿性を有する無水ミルタザピン結晶およびその製造方法、ならびに該無水ミルタザピン結晶の製造中間体として有用なミルタザピン水和物の結晶およびその製造方法に関する。
背景技術
ミルタザピンの純度を高める方法としては、ミルタザピンを石油エーテルなどから再結晶させる方法が提案されている(米国特許第4,062,848号明細書)。
しかし、この方法に、純度が95?99%程度の粗製ミルタザピンを用いた場合には不純物が油状で析出するため、ミルタザピンの結晶化が阻害され、しかも高純度を有するミルタザピンを結晶化させることが困難となるという欠点がある。
また、このミルタザピンの結晶は、吸湿性を有するため、乾燥条件下でないと取扱いおよび保存ができないという欠点がある。
従って、粗製のミルタザピンから高純度を有するミルタザピンを効率よく製造することができる製法の開発、および吸湿性が低いミルタザピン結晶の開発が待ち望まれている。
本発明の目的は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、粗製ミルタザピンから高純度ミルタザピンを効率よく製造しうる方法、および低吸湿性を有する無水ミルタザピン結晶およびその製造方法、ならびに該無水ミルタザピン結晶の製造中間体として有用なミルタザピン水和物の結晶およびその製造方法を提供することである。
発明の開示
本発明によれば、
(1)含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶、および
(2)ミルタザピン水和物の結晶を90?105℃で乾燥させることを特徴とする、含水量が0.5重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶であって、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下である低吸湿性無水ミルタザピン結晶の製造方法、
が提供される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の実施例1で得られたミルタザピン水和物の結晶の赤外吸収スペクトルを示す図である。
第2図は、本発明の実施例7および比較例3で得られた無水ミルタザピン結晶の吸水量の経時変化を示す図である。
第3図は、本発明の実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶のX線回折図である。
第4図は、本発明の実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶の分子構造図である。
第5図は、本発明の実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶のa軸方向の結晶構造図である。
第6図は、本発明の実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶のb軸方向の結晶構造図である。
第7図は、本発明の実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶のc軸方向の結晶構造図である。
第8図は、本発明の実施例10で得られた無水ミルタザピン結晶のX線回折図である。
第9図は、本発明の実施例9で得られた無水ミルタザピン結晶を粉砕させたときの粒子の顕微鏡写真である。
第10図は、本発明の実施例9で得られた無水ミルタザピン結晶を粉砕させた後、乾燥させたときの粒子の顕微鏡写真である。
発明を実施するための最良の形態
本明細書において、無水ミルタザピン結晶の「無水」とは、実質的にミルタザピン結晶が水分を含有していないことを意味する。より具体的には、無水ミルタザピン結晶の水分量は、0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下であることが充分な低吸湿性を付与する観点から望ましい。
本発明の低吸湿性無水ミルタザピン結晶は、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときの吸湿量が0.6重量%以下であるので、結晶の取扱い及び製剤化が容易になり、保存安定性が向上する。
無水ミルタザピン結晶の原料化合物としては、ミルタザピン水和物の結晶を用いることができる。
ミルタザピン水和物の結晶としては、式(I):

(式中、nは1?5の整数を示す)
で表されるものが挙げられる。式中、nは2または3であることが好ましい。なかでも、nは2であること、即ち、ミルタザピン1/2水和物の結晶が、結晶性、取扱性および保存安定性の観点から好ましい。このミルタザピン1/2水和物の結晶は、X線回折において、回折角(2θ)が9.28、14.36、20.46および26.92であるときに、特有の回折ピークを有するものである。
ミルタザピン水和物の結晶は、例えば、粗製ミルタザピンを出発物質として使用することにより、以下のようにして容易に調製することができる。なお、粗製ミルタザピンは、純度が99%以下程度のものであり、例えば、米国特許第4,062,848号明細書に記載されている方法によって調製することができる。
より具体的には、本発明に用いられる粗製ミルタザピンとは、粗製ミルタザピン2gをメタノール10mLに溶解させ、10mm石英セルにて波長600nmにおける吸光度および波長400nmにおける透過率を測定装置〔(株)島津製作所製、UV-2500PC〕で測定したときに、波長600nmにおける吸光度が0.1以上であり、波長400nmにおける透過率が30%以下であって、かつ色差計〔日本電色工業(株)製、色差計Z-300A〕で測定したときの色差計でのb値が10以上であるものをいう。
粗製ミルタザピンからミルタザピン水和物の結晶を製造するにあたって、まず、粗製ミルタザピンを溶媒に溶解させる。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル;アセトンなどのケトン;酢酸メチルなどのエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機溶媒などの水溶性有機溶媒と、水との混合溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒のなかでは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールが好ましい。なお、水溶性有機溶媒100重量部に対する水の量は、収率の向上ならびに純度および色相の改善の観点から、50?2000重量部、好ましくは80?1000重量部であることが望ましい。
溶媒の量は、収率の向上ならびに純度および色相の改善の観点から、通常、ミルタザピン100重量部に対して50?3000重量部、好ましくは50?2000重量部、より好ましくは100?1000重量部であることが望ましい。
粗製ミルタザピンを溶媒に溶解させる際の温度は、特に限定がないが、不純物を不溶物として析出させ、効率よく除去する観点から、通常、0?80℃、好ましくは0?60℃、さらに好ましくは0?10℃であることが望ましい。
なお、粗製ミルタザピンを60?80℃の温度で溶媒に溶解させた場合には、得られるミルタザピン水和物の純度を向上させる観点から、粗製ミルタザピンを溶媒に溶解させて得られた粗製ミルタザピン溶液に、水を添加することが好ましい。水の量は、純度および色相の改善の観点から、溶媒100重量部に対して10?100重量部程度であることが好ましい。
また、色相を改善するために、粗製ミルタザピン溶液に脱色炭を適宜添加してもよい。脱色炭の使用量は、純度及び色相の改善の観点から、粗製ミルタザピン100重量部に対して、0.5?10重量部程度であることが好ましい。
次に、色相を改善するために、この脱色炭を添加した粗製ミルタザピン溶液の液温を0?70℃、好ましくは0?30℃程度の温度で10?60分間攪拌することが好ましい。
次に、脱色炭を濾別し、該脱色炭をメタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸メチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの水溶性有機溶媒で洗浄し、結晶形を揃えるために、0?10℃程度の温度まで冷却することが好ましい。
次に、得られたミルタザピン溶液には、結晶析出の観点から、水を粗製ミルタザピン100重量部に対して100?1000重量部程度の量で滴下することが好ましい。その後、得られた溶液を0?5℃程度の温度に冷却し、結晶形を揃えるために、ミルタザピン水和物の結晶の種晶をその溶液に添加してもよい。この種晶の量は、特に限定されないが、組成ミルタザピン100重量部に対して0.05?1重量部程度であればよい。
なお、ミルタザピンを溶解し、晶析させる操作においては、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行なうことが着色を防ぐ観点から好ましい。
なお、得られたミルタザピン水和物の結晶を濾取した後には、必要により、例えば、メタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒、水、または該水溶性有機溶媒と水との混合溶媒で洗浄し、次いで乾燥させてもよい。かくしてミルタザピン水和物の結晶が得られる。得られたミルタザピン水和物の結晶の平均粒子径は、通常、60?150μmであるが、必要により、ハンマーミルなどの粉砕機で粉砕してもよい。
次に、前記ミルタザピン水和物の結晶から、無水ミルタザピン結晶を製造する方法について説明する。
低吸湿性の無水ミルタザピン結晶は、前記のようにして含水溶媒から結晶化させて得られたミルタザピン水和物の結晶を乾燥させることによって容易に製造することができる。この無水ミルタザピン結晶は、X線回折において、回折角(2θ)が9.14、9.38、14.16、18.46、18.56および20.56であるときに、特有の回折ピークを有するものである。
なお、ミルタザピン水和物の結晶を乾燥する前には、その乾燥を効率よく行なうことができるようにするために、ミルタザピン水和物の結晶を粉砕することが好ましい。この粉砕は、生成したミルタザピン水和物の結晶を濾過した後に行なうが、ミルタザピン水和物の結晶の粉砕を効率よく行なうために、該ミルタザピン水和物の結晶を予備乾燥させることが好ましい。予備乾燥は、ミルタザピン水和物の結晶を40?80℃の温度に1?6時間程度加熱することによって行なうことができる。
粉砕は、例えば、ハンマーミル、カッターミル、アトマイザーなどの粉砕機を用いて行なうことができる。粉砕は、粉砕後のミルタザピン水和物の結晶の平均粒子径が10?70μm、好ましくは20?60μm程度となるように行なうことが望ましい。なお、この平均粒子径の測定は、(株)島津製作所製、SALD1100を用い、媒体として水、また分散剤としてトリトンX-100(ローム・アンド・ハース社製、商品名)を用いて行なうことができる。
乾燥は、加熱下で行なうことが好ましい。この場合、加熱温度は、乾燥時間を短縮させる観点およびミルタザピン水和物の変質を回避する観点から、70?110℃、好ましくは85?110℃、より好ましくは90?105℃であることが望ましい。
乾燥を減圧下で行なうことにより、さらに乾燥時間を短縮させることができる。減圧度は、強力な真空ポンプを使用せずに、短時間で乾燥を行なう観点から、1.33?13300Pa、好ましくは10?6650Pa、より好ましくは100?1995Paであることが望ましい。
ミルタザピン水和物の結晶の乾燥は、得られる無水ミルタザピン結晶の水分量が0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下となるまで行なうことが、得られる無水ミルタザピン結晶に、優れた低吸湿性を付与する観点から望ましい。
かくして得られるミルタザピン結晶は、25℃および相対湿度75%の空気中で大気圧下、500時間保存したときであっても、吸湿量が0.6重量%以下であるという格別顕著に優れた性質を発現するものである。
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、ミルタザピン水和物の結晶を出発物質として、低吸湿性の無水ミルタザピン結晶を容易に工業的規模で製造することができる。
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
調製例〔粗製ミルタザピンの製造〕
300mL容のフラスコに、濃硫酸144gを仕込んだ後、2-(4-メチル-2-フェニルピペラジン-1-イル)ピリジン-3-メタノール40gを添加し、30?40℃で8時間攪拌した。
得られた反応混合物を、水258.8gを仕込んだ1L容のフラスコ内に滴下し、次いで水28.8gでフラスコ内を洗浄した。次に、この反応混合物のpHを25%水酸化ナトリウム水溶液で約1.8とし、脱色炭1.9gで脱色し、濾過し、水38gで洗浄した。
次に、この洗浄後の溶液にトルエン60mLを添加し、次いで約50℃の25%水酸化ナトリウム水溶液を添加してこの溶液のpHを8.3とした。その後、この溶液を75?80℃で水層と有機層の二層に分液した。有機層に、55?60℃でヘプタン41gを滴下した後、0?5℃に冷却した。同温度で、1時間攪拌し、濾過した。
得られた結晶を、トルエン40gとヘプタン31gの冷混合溶媒(約0?5℃)で洗浄し、60℃で減圧乾燥したところ、黄色の粗製ミルタザピン31.7gが得られた。その収率は84.6%であり、高速液体クロマトグラフィーによる純度(以下、HPLC純度という)は97.5%であった。
実施例1
粗製ミルタザピン(HPLC純度:98.4%)76gをエタノール186gに60℃で溶解し、これに水228gと脱色炭760mgを添加し、70?75℃で30分間保温した。この溶液を濾過し、脱色炭をエタノール6.2gで洗浄した後、得られた濾液および洗浄液を20?30℃に冷却した。
次に、この溶液に、水714gを30分間かけて滴下し、0?5℃で1時間冷却し、結晶を濾過し、エタノール15gと水80gの冷混合溶媒(約0?5℃)で洗浄した。その後、この結晶を70℃で乾燥して、ミルタザピン水和物の結晶77.05gを得た。得られたミルタザピン水和物の物性は、以下のとおりであった。
(1)水分量:2.3重量%
(2)HPLC純度:99.6%
(3)融点:121?123℃
(4)赤外吸収スペクトル:第1図に示す。
実施例2
実施例1で得られたミルタザピン水和物71gをtert-ブチルメチルエーテル356gに50℃で溶解し、常圧で55℃の温度で水とtert-ブチルメチルエーテルとを共沸脱水し、tert-ブチルメチルエーテル255.3gを留去した。
次に、この溶液を0?5℃に冷却し、30分間熟成し、濾過した。得られた結晶を冷tert-ブチルメチルエーテル(約0?5℃)52gで洗浄し、乾燥して白色のミルタザピン52gを得た。このミルタザピンのHPLC純度は、99.9%であった。
実施例3
実施例1で得られたミルタザピン水和物5gを減圧下で55℃で2時間予備乾燥させた。水分量は2.6重量%であった。
次に、この予備乾燥させたミルタザピン水和物を乳鉢で粉砕し、平均粒子径〔測定装置:(株)島津製作所製、SALD1100、媒体:水、分散剤:トリトンX-100(ローム・アンド・ハース社製、商品名)にて測定、以下同じ〕が20.97μmの粉末を得た。
この粉末を90℃で1333Paの減圧下で6時間乾燥したところ、水分量が0.4重量%となった。その乾燥後の粉末の平均粒子径を調べたところ、41.2μmであった。
実施例4
実施例1で得られたミルタザピン水和物5gを減圧下で55℃で2時間予備乾燥させた。水分量は2.8重量%であった。
次に、この予備乾燥させたミルタザピン水和物を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が52.87μmの粉末を得た。
この粉末を90℃で1333Paの減圧下で10時間乾燥したところ、水分量が0.25重量%となった。その乾燥後の粉末の平均粒子径を調べたところ、110.4μmであった。
実施例5
実施例1で得られたミルタザピン水和物5gを減圧下で55℃で2時間予備乾燥させた。水分量は2.7重量%であった。
次に、この予備乾燥させたミルタザピン水和物を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が47.7μmの粉末を得た。
この粉末を90℃で1333Paの減圧下で4時間乾燥したところ水分量が0.4重量%となり、さらに3時間乾燥したところ水分量が0.27重量%となった。その乾燥後の粉末の平均粒子径を調べたところ、110.4μmであった。
比較例1
粗製ミルタザピン(HPLC純度:98.4%)10gをトルエン13gに75℃で加熱溶解させ、脱色炭500mgで脱色し、濾過した後、0?5℃に冷却して晶析させた。その後、濾過して結晶を回収し、乾燥してミルタザピン8.1gを得た。色相は淡黄色で、メタノールに溶解しない不溶物が含まれていた。このミルタザピンのHPLC純度は、98.8%であった。
比較例2
粗製ミルタザピン(HPLC純度:98.4%)10gをtert-ブチルメチルエーテル15gに55℃で溶解し、脱色炭500mgで脱色し、濾過し、0?5℃に冷却して晶析した。
得られた結晶を濾過し、乾燥してミルタザピン8.6gを得た。得られたミルタザピンの色相は淡黄色で、メタノールに溶解しない不溶物が含まれていた。このミルタザピンのHPLC純度は、98.2%であった。
製造例1
精製濃硫酸5027.9gを仕込んだ反応容器に、窒素雰囲気で、米国特許第4,062,848号明細書に記載の方法に準じて調製した1-(3-ヒドロキシメチルピリジル-2-イル)-2-フェニル-4-メチルピペラジン1396.8gを攪拌下、0?30℃で分割して添加した。添加後、反応容器内の温度を30?40℃で8時間保温した。
次に、得られた生成物を高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)で分析した結果、反応溶液中にはミルタザピンが98.1%生成していた。
この反応溶液に、0?5℃で水8660gを滴下し、さらに水1397gを添加した。その後、この反応溶液に、水酸化ナトリウム3143gを水9428gに溶解させた溶液を30℃以下の温度で滴下し、pHを1?2に調整した。次に、その反応溶液に、20?30℃で脱色炭67gを添加して脱色し、濾過し、水1330gで脱色炭を洗浄した。濾液に、トルエン2095gを添加して洗浄し、トルエン層を分液し、水層にトルエン2095gを添加し、次いで水2810gに水酸化ナトリウム936を溶解させた溶液を50℃以下の温度で滴下し、pHを8以上とした。その後、75?80℃で分液し、有機層を分取した。
次に、この有機層に、50?60℃でヘプタン2095mLを滴下し、結晶を析出させ、0?5℃に冷却した後、1時間熟成した。濾過後、トルエン1600mLとヘプタン1600mLを混合して0?5℃に冷却した液で結晶を洗浄し、粗製ミルタザピン〔波長600nmにおける吸光度:2.4154、波長400nmにおける透過率:0.01%、色差計のb値:22.0〕1111.8gを得た。
得られた粗製ミルタザピンの収率は85%であり、HPLC純度は99.0%であった。
実施例6
製造例1で得られた粗製ミルタザピン120gをメタノール360mLに溶解させ、脱色炭1.2gを添加して脱色し、濾過した後、メタノール12mLで脱色炭を洗浄した。その後、20?30℃で、攪拌下、イオン交換水1116mLを滴下し、1時間熟成した。
次に、その溶液を0?5℃で1時間冷却し、濾過した後、メタノール43.2mLとイオン交換水129.6mLとを混合した液温が0?5℃の液で結晶を洗浄した。この結晶を60℃で乾燥してミルタザピン1/2水和物の結晶121.25gを得た(収率97.7%)。
実施例7
実施例6で得られたミルタザピン1/2水和物の結晶を1330?1862Paの減圧下で90?95℃で乾燥した。得られた無水ミルタザピン結晶の水分量をカール・フィッシャー法で測定したところ、0.1重量%であった。また、その融点は114?116℃であった。
比較例3
製造例1で得られた粗製ミルタザピンを米国特許第4,062,848号明細書に記載の方法に準じて再結晶させた。すなわち、製造例1で得られた粗製ミルタザピン20gをtert-ブチルメチルエーテル140mLに加熱溶解させ、脱色炭0.2gおよびセライト0.2gを添加して脱色濾過し、その溶液の量が41.2gとなるまで濃縮し、これにtert-ブチルメチルエーテル5.4gを添加し、3℃まで冷却して結晶化した。その後、濾過し、50℃で乾燥してミルタザピンの結晶16.5gを得た。
次に、この結晶10gを石油エーテル(沸点:40?60℃)200mLに加熱溶解し、0?5℃に冷却してミルタザピンの結晶4gを得た。
得られたミルタザピンの結晶を1330?1995Paの減圧下、90?95℃で乾燥し、その水分量をカール・フィッシャー法で測定したところ、0.1重量%であった。
次に、実施例7および比較例3で得られたミルタザピンの結晶をシャーレに入れ、相対湿度が75%で室温が25℃の恒温室内に入れ、その結晶の吸湿量の変化を調べた。その結果を第2図に示す。なお、吸湿量は、式:
〔吸湿量(重量%)〕=〔吸湿後の結晶の重量(g)-吸湿前の結晶の重量(g)〕÷〔吸湿前の結晶の重量(g)〕×100
によって求められる。
第2図に示された結果から、実施例7で得られた無水ミルタザピン結晶は、比較例3で得られたミルタザピン結晶と対比して、500時間経過後における吸湿量が非常に低く、低吸湿性に著しく優れていることがわかる。
実施例8
粗製ミルタザピン(HPLC純度:99.0%)1195.46gをメタノール4728gに0?5℃で溶解し、これに脱色炭12gを添加し、5℃で15分間攪拌した。この溶液を0?5℃で濾過した後、イオン交換水4065gを濾液に流入し、種晶100mgを加えた。0?10℃でイオン交換水9707gを滴下し、結晶化させた。0?5℃で1時間攪拌し、結晶を濾過し、メタノール340gとイオン交換水1291gの混合液(液温:0?5℃)で結晶を洗浄した。減圧下(4?5.3kPa)、50?60℃で水分量が3.5重量%以下となるまで乾燥し、粉砕機(ハンマーミル)で粉砕し、平均粒子径が20μmのミルタザピン水和物の結晶を得た。
粉砕前のミルタザピン水和物の結晶のX線回折を調べた。その結果を第3図に示す。また、X線回折の測定条件を以下に示す。
〔X線回折の測定条件〕
▲1▼測定装置:理学電機(株)製、A7RV)
▲2▼照射X線:CuKα線
▲3▼加速電圧:30kV
▲4▼加速電流:15mA
X線回折の結果に基づいて、結晶パラメータを求めた。その結果は、以下のとおりである。
▲1▼結晶系:単斜晶系
▲2▼ブラベー格子:Primitive(単純)
▲3▼空間群:(P2_(1)/α)
▲4▼Z値:4
▲5▼格子パラメーター
a=9.006(1)Å
b=17.309(2)Å
c=9.801(1)Å
β=106.07(1)°
V=1468.1(4)Å^(3)
以上の結果に基づいて最小二乗法による精密化を行ない、原子座標、等方性温度因子(Beq)および占有率(occ)、異方性温度因子、原子間(結合)距離、結合角度、ならびにねじれ角を求めた。
原子座標、等方性温度因子および占有率を表1に、異方性温度因子を表2に、原子間(結合)距離を表3に、結合角度を表4、ねじれ角を表5に示す。





以上の結果に基づいて、実施例8で得られたミルタザピン水和物の分子構造図を第4図に示す。
また、実施例8で得られたミルタザピン水和物のa軸方向、b軸方向およびc軸方向の結晶構造図をそれぞれ第5図、第6図および第7図に示す。
なお、各図中、水素原子は幾何学的に計算したものである。また、水分子の水素原子位置は、電子密度からは決定することができなかった。
以上の結果から、実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶の空間群はP2_(1)/αであり、対称中心を有し、ラセミ体で存在していることがわかる。
なお、水分子の酸素原子位置は、電子密度分布から推定した。電子密度分布を調べたところ、対称中心の近傍の2カ所に存在確率の高い位置があることがわかった。この距離は1.75Åであり、酸素原子のファンデルワールス半径1.4Åとの比較から考えると、2個の酸素原子が1.75Åの距離で存在しているものとは考えられがたい。したがって、水分子の酸素原子は、これら2カ所に1個ずつ同時に存在しているのではなく、無秩序(おそらく時間的)に2カ所のいずれかに存在しているものと推定される。
そこで、これら2カ所に酸素が存在していると仮定し、その占有率をパラメータとして変化させて精密化を行った。その結果、占有率は0.5付近で集束した。
このことから、1個の酸素原子がこれら2カ所に無秩序な状態で存在していると考えられる。最終的には、占有率を0.5に固定し、他のパラメータを精密化した。
また、水分子の占有率が0.5であることから、結晶中のミルタザピン分子と水分子のモル比は2:1となった。
また、結晶中では、ミルタザピン分子の窒素原子と水分子の酸素原子との間に水素結合が形成されていた(図中において、破線で示される結合)。その結合距離は、以下のとおりであった。なお、O(1)^(*)は、O(1)を対称操作で移動させた原子である。
N(1)・・・・O(1):2.752(7)Å
N(1)・・・・O(1)^(*):2.968(7)Å
実施例9
実施例8で得られたミルタザピン水和物を50?60℃の雰囲気中で17時間乾燥させたところ、その含水率が2.2%となった。さらに、85?95℃の雰囲気中で23時間乾燥させると、含水率が0.58%の無水ミルタザピン結晶(平均粒子径:118μm)が得られた。
次に、この無水ミルタザピン結晶を粉砕し、平均粒子径59μmの結晶を得た。得られた結晶の顕微鏡写真(倍率×200)を第9図に示す。
次に、得られた結晶を85?95℃の雰囲気中で6時間乾燥させたところ、含水率が0.14%となり、さらに95?105℃の雰囲気中で7時間乾燥させると、含水率が0.050%となった。その無水ミルタザピン結晶を平均粒子径は、130μmであった。得られた乾燥後の結晶の顕微鏡写真(倍率×200)を第10図に示す。
以上の結果から、破砕した無水ミルタザピンの結晶は、乾燥させることにより、成長したことがわかる。
実施例10
実施例8で得られたミルタザピン水和物の結晶を600?1333Paの減圧下、85?105℃の温度で乾燥したところ、乾燥開始から6時間後の含水量が0.46重量%、10時間後の含水量が0.3重量%である無水ミルタザピン結晶999.5gを得た。得られた無水ミルタザピン結晶の物性は、以下のとおりである。
(1)水分量:0.3重量%
(2)HPLC純度:99.8%
(3)粉末X線回折(理学電気(株)製、商品名:ミニフレックス、CuKα線、30kV、15mV):結果を第8図に示す。
実施例11
窒素雰囲気下、メタノール332kgに粗製ミルタザピン(HPLC純度98.8%)84kgを2?4℃で、35分間攪拌し、溶解させ、これに脱色炭1kgを添加し、2?4℃で30分間攪拌した。0?2℃で濾過した後、イオン交換水285kgを30分間で濾液に流入し、種晶80gを加えた。5?7℃でイオン交換水682kgを滴下し、結晶化させた。1?5℃で65分間攪拌し、結晶を濾過し、メタノール24kgとイオン交換水90.8kgの混合液(液温0?5℃)で結晶を洗浄した。その結果、湿結晶93.3kgが得られた。その乾燥重量は80.5kgであった。
メタノール297.1kgに窒素雰囲気下で湿結晶87kgを加え、2.8℃で攪拌し、さらにメタノール24kgを加え、攪拌し、溶解させ、これに脱色炭1kgを添加し、3.3℃で15分間攪拌した。3.4℃で濾過した後、イオン交換水255kgを45分間で濾液に滴下し、種晶80gを加えた。5?7.8℃でイオン交換水666kgを75分間かけて滴下し、2.6?5℃で40分間攪拌した後、濾過した。得られた結晶をメタノール21.6kgとイオン交換水81.2kgの混合液(液温2.6℃)で洗浄し、湿結晶83.9kgを得た。266?533Paの減圧下、60?95℃で11時間乾燥し、ミルタザピン水和物72.5kgを得た。その収率は89.5%であった。
次に、得られた結晶をアトマイザーで粉砕した。粉砕した結晶54.3kgをさらに133?400Paの減圧下で90?95℃で7時間乾燥し、無水ミルタザピン52.5kgを得た。その無水ミルタザピンの結晶の純度は99.997%であった。得られた結晶の平均粒子径は、25.5μmであり、嵩密度は動が0.27g/mLであり、静が0.51g/mLであった。また、波長600nmにおける吸光度は0.0048であり、波長400nmにおける透過率は98.84%であり、色差計のb値は2.42であった。
産業上の利用可能性
本発明の製造方法によれば、吸湿性がほとんどない安定な無水ミルタザピン結晶を簡便な工業的方法により製造することができるという効果が奏される。
また、本発明の無水ミルタザピン結晶は、優れた低吸湿性を有するものであるので、例えば、抗鬱剤として好適に使用しうるものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-04-08 
結審通知日 2009-04-13 
審決日 2009-05-01 
出願番号 特願2001-540093(P2001-540093)
審決分類 P 1 113・ 537- ZA (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡辺 仁  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 弘實 謙二
星野 紹英
登録日 2005-07-15 
登録番号 特許第3699680号(P3699680)
発明の名称 無水ミルタザピン結晶およびその製造方法  
代理人 細田 芳徳  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小野 誠  
代理人 渡邉 千尋  
代理人 坪倉 道明  
代理人 細田 芳徳  
代理人 川口 義雄  
代理人 山本 健策  
代理人 大崎 勝真  
代理人 金山 賢教  

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