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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1200735
審判番号 不服2007-26862  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2009-07-15 
事件の表示 特願2004-204469「生物測定学ベースの認証機能を有する可搬装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月24日出願公開、特開2005- 50328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯

本願は、平成16年7月12日の出願(シンガポール国優先権主張2001年6月28日)であって、平成19年2月27日付けで通知した拒絶理由通知書に対し、平成19年6月6日付けで意見書および手続補正書が提出されたが、拒絶理由通知書に記載された理由により平成19年6月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成19年10月1日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.補正後の本願発明

平成19年6月6日付けの手続補正書により、特許請求の範囲の全文が補正され、新たな請求項1?14となったが、その内、請求項7の記載は次のとおりである。

【請求項7】
ホストコンピュータとの間でデータを転送することにおいて、ユーザにより使用するための種類の可搬データ記憶装置であって、
マイクロプロセッサと、
データの少なくとも8MBの記憶容量を有し、マイクロプロセッサに結合された不揮発性メモリと、
マイクロプロセッサに結合され、これによって制御される生物測定学ベースの認証モジュールであって、生物測定学ベースの認証モジュールがユーザのアイデンティティを認証する場合に、ユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが許可され、そうでないユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが拒否される認証モジュールと、
コントローラを有するホストコンピュータのソケットに直接可搬データ記憶装置を挿入し、ホストコンピュータとユーザのアイデンティティの認証に従う不揮発性メモリとの間でデータを交換する一体の雄コネクタとを備え、
ユーザが指を転がしてその連続した部分を生物測定学ベースの認証モジュールと接触させるように、生物測定学ベースの認証モジュールが感知動作中回転可能であり、それによってユーザの指紋の連続した部分を感知する可搬データ記憶装置。

3.拒絶査定の概要

拒絶査定は、平成19年2月27日付けで通知した拒絶理由通知書に記載された理由によってなされたものである。
拒絶理由通知書に記載された理由の概要は以下のとおりである。

[拒絶理由の概要]
この出願の1?24の全請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


1.国際公開第01/23987号パンフレット
2.特開2001-118046号公報
3.特開平8-263631号公報
4.特開2000-331166号公報
5.特開平11-184992号公報
6.特開2001-59701号公報

そして、拒絶査定においては、周知技術を示す刊行物として、次の刊行物が提示されている。
7.特開平2000-200248号公報
8.「ワンランク上の快適・楽しいデジタルライフを目指せ!
今注目の新世代メディア&メモリー」
(注:刊行物番号は当審決において付与)

4.引用刊行物記載の発明

原査定の拒絶の理由で引用された刊行物の内、刊行物2(特開2000-118046号公報)には、図面とともに、以下(ア)から(エ)に示す事項が記載されている。

(ア)「【解決手段】 電子データ記憶媒体はデータターミナルによりアクセスされる。処理ユニット2は、メモリデバイス3、指紋センサ4、および入/出力インターフェース回路5に接続されている。処理ユニット2は、入/出力インターフェース回路5を起動してデータターミナルから受け取ったデータファイルと指紋参照データをメモリデバイス3に記憶するプログラミングモードと、ユーザがアクセスする権限があることを照合すると入/出力インターフェース回路5を起動してデータファイルをデータターミナルに転送するデータ検索モードとで選択的に動作可能である。 」 (【要約】の項)

(イ)「【請求項1】 データターミナルによりアクセスされる電子データ記憶媒体において、
データファイル、および該データファイルにアクセスする権限を授与された人の指紋を走査することにより得られた指紋参照データを記憶するメモリデバイスと、
前記電子データ記憶媒体のユーザの指紋を走査して、指紋走査データを生成するようにされた指紋センサと、
前記データターミナルとの通信を確立するように動作可能な入/出力インターフェース回路と、
前記メモリデバイス、指紋センサ、および入/出力インターフェース回路に接続されて、
前記入/出力インターフェース回路を起動して、前記データターミナルからデータファイルと指紋参照データを受け取り、そのデータファイルと指紋参照データを前記メモリデバイスに記憶するプログラミングモードと、
前記指紋センサから指紋走査データを受け取り、該指紋走査データを前記メモリデバイスの指紋参照データと比較し、電子データ記憶媒体のユーザが前記メモリデバイスに記憶されたデータファイルにアクセスする権限があるか否かを照合し、電子データ記憶媒体のユーザが前記メモリデバイスに記憶されたデータファイルにアクセスする権限があることを照合すると、前記入/出力インターフェース回路を起動してデータファイルを前記データターミナルに転送するデータ検索モードと、
で選択的に動作可能である処理ユニットと、を有することを特徴とする電子データ記憶媒体。
【請求項2】 前記メモリデバイス、前記入/出力インターフェース回路および前記処理ユニットが設けられたカード本体をさらに有する請求項1に記載の電子データ記憶媒体。 」

(ウ)「【0010】
図1を参照すると、本発明に好ましい実施形態により、電子データ記憶媒体は外部コンピュータ9によりアクセスされるようにされており、カード本体1、処理ユニット2、メモリデバイス3、指紋センサ4、入/出力インターフェース回路5、ディスプレーユニット6、電源7、およびファンクションキーセット8を含むように示されている。
【0011】
メモリデバイス3は、フラッシュメモリデバイスなどであり、カード本体1に設けられ、データファイル、参照パスワード、およびデータファイルにアクセスする権限を有する人の指紋を公知の方法で走査することによって得られた指紋参照データを記憶している。データファイルは画像ファイルまたはテキストファイルとすることができる。 」

(エ)「【0013】
入/出力インターフェース回路5は、PCMCIAまたはRS232インターフェースなどであり、カード本体1に設けられ、外部コンピュータ9との通信を確立するように動作可能である。
【0014】
処理ユニット2は、カード本体1に設けられ、メモリデバイス3、指紋センサ4および入/出力インターフェース回路5に接続されている。処理ユニット2は次のモードで選択的に動作可能である。
プログラミングモード:処理ユニット2が入/出力インターフェース回路5を起動して、外部コンピュータ9からデータファイルと指紋参照データを受け取り、そのデータファイルと指紋参照データをメモリデバイス3に圧縮形式で記憶し、メモリデバイス3の記憶容量を増加する。
データ検索モード(data retrieving mode):処理ユニット2が指紋センサ4から指紋走査データを受け取り、該指紋走査データをメモリデバイス3の指紋参照データの少なくとも1つのセグメントと比較し、電子データ記憶媒体のユーザがメモリデバイス3に記憶されたデータファイルにアクセスする権限があるか否かを照合(verify)し、電子データ記憶媒体のユーザがメモリデバイス3に記憶されたデータファイルにアクセスする権限があることを照合すると、入/出力インターフェース回路5を起動してデータファイルを外部コンピュータ9に転送する。
データリセットモード:データファイルと指紋参照データをメモリデバイス3から消去する。 」

したがって、これらを総合すれば、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物2には、次の(オ)なる発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)

[引用発明]
(オ)外部コンピュータとの間でデータを転送するものであり、ユーザがメモリデバイスに記憶されたデータファイルにアクセスする権限があることを照合する種類の電子データ記憶媒体であって、
カード本体1、データを記憶するためのフラッシュメモリからなるメモリデバイス3、指紋センサ4、および入/出力インターフェース回路5と、これらに接続される処理ユニット2、および、これらを搭載するカード本体1で構成され、
入/出力インターフェース回路5は、PCMCIAまたはRS232インターフェースなどのプロトコルで動作可能であり、
ユーザがメモリデバイスに記憶されたデータファイルにアクセスする権限があることの照合が指紋センサおよび処理ユニットによりなされ、データファイルにアクセスする権限があることを認証する場合にデータの転送が可能になり、そうでない場合に転送が許可されないものであるカード形状の電子データ記憶媒体。

5.本願発明と引用例発明との対比

(1)本願発明における構成要件と引用例発明における構成要件を対比すると、引用発明における「外部コンピュータ」は本願発明における「ホストコンピュータ」に相当する。
「フラッシュメモリ」は、不揮発性メモリの一種であるから、本願発明における「不揮発性メモリ」は引用発明における「フラッシュメモリ」の単なる上位概念である。
また、引用発明における電子データ記憶媒体は「カード形状」であるから、「可搬」であることは明らかである。

(2)また、本願発明(請求項7)においては、「ユーザが指を転がしてその連続した部分を生物測定学ベースの認証モジュールと接触させるように、生物測定学ベースの認証モジュールが感知動作中回転可能であり、それによってユーザの指紋の連続した部分を感知する」と記載されていることから、「生物測定学ベースの認証モジュール」とは、「指紋センサ」を意味することが明らかである。
なお、本願発明の実施例について、段落0013に、「認証するための認証エンジン12はマイクロプロセッサ12とは分離したプロセッサとして構成される。」あるいは、「しかしそれは可搬装置70内にではなく、ホストプラットフォーム90内に配置される。換言すると、本発明の技術的範囲において、認証エンジン12が可搬装置70内に配置される必要はない。その代り、認証エンジン12が配置される場所は設計選択肢となり、したがって本発明が使用されることのできる種々の適用に適合するようにフレキシブルに設計することが可能である。」との記載からも、認識のための認識エンジンは「認識モジュール」とは別個の存在であり、「生物測定学ベースの認証モジュール」が単なるセンサであることが推察される。

一方、引用発明は、「指紋センサ」以外の認証のための機能を全て「処理ユニット」の一部の機能としており、指紋センサと処理ユニットで協同することにより認識が実行されるものである。
そして、通常、認識処理演算を実行するためには、プロセッサやマイクロプロセッサを用いることが常套手段であることを鑑みれば、引用発明における「処理ユニット」は該「プロセッサ」あるいは「マイクロプロセッサ」を備えているものであり、認識処理が「処理ユニット」が含む「プロセッサ」あるいは「マイクロプロセッサ」で実行されているものといえる。

そうすると、引用発明も、実質的に「マイクロプロセッサ」と「マイクロプロセッサに結合され、これによって制御される生物測定学ベースの認証モジュール」で構成されているといえる。

(3)したがって、本願発明と引用例発明とを対比すると、次の(カ)の点で一致し、(キ)?(ケ)の点で相違する。

[一致点]
(カ)ホストコンピュータとの間でデータを転送することにおいて、ユーザにより使用するための種類の可搬データ記憶装置であって、
マイクロプロセッサと、
データを記憶するための、マイクロプロセッサに結合された不揮発性メモリと、
マイクロプロセッサに結合され、これによって制御される生物測定学ベースの認証モジュールであって、生物測定学ベースの認証モジュールがユーザのアイデンティティを認証する場合に、ユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが許可され、そうでないユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが拒否される認証モジュールと、
を備えた可搬データ記憶装置。

[相違点]
(キ)本願発明が「コントローラを有するホストコンピュータのソケットに直接可搬データ記憶装置を挿入し、ホストコンピュータとユーザのアイデンティティの認証に従う不揮発性メモリとの間でデータを交換する一体の雄コネクタとを備え」ているのに対し、引用発明では、入/出力インターフェース回路がPCMCIAまたはRS232インターフェースなどのプロトコルで動作可能であることが明らかであるものの、コネクタについては特に言及されていない点。

(ク)本願発明における生物測定学ベースの認証モジュールが「ユーザが指を転がしてその連続した部分を生物測定学ベースの認証モジュールと接触させるように、生物測定学ベースの認証モジュールが感知動作中回転可能であり、それによってユーザの指紋の連続した部分を感知する」ものであるのに対し、引用発明では単に「指紋センサ」としているだけで、その詳細構造について言及されていない点。

(ケ)本願発明において、不揮発性メモリの記憶容量が、「少なくとも8MB」を有するものであるのに対し、引用発明では記憶容量について特に言及されていない点。

6.相違点の判断

上記相違点(キ)について検討する。
カードの形態の記憶媒体をコンピュータに接続する場合に、通常は何らかのコネクタを用いて相互が接続される。コネクタを用いないで直接接続することよって使用できないことはないが、それではカード形態にすることの意味がない。
また、引用発明は「PCMCIAまたはRS232インターフェースなどのプロトコルで動作可能」なものであるが、通常、「PCMCIA」または「RS232」のインターフェースプロトコルで接続する場合には、「PCMCIA」や「RS232」対応のコネクタを用いることが普通である。
可搬型の記憶装置に「PCMCIA」または「RS232」対応のコネクタを用いた場合に、記憶媒体側のコネクタが必ずしも「雄コネクタ」とはいえないが、2つの装置をコネクタで結合する場合に、そのどちら側を「雄」(反対側を雌)」にするかは設計的事項にすぎない。
また、2つの装置をコネクタで結合する場合に、各装置にコードを介してコネクタを設けるか、コネクタを直接装置に設けるかも、状況に応じて決めれば良いだけの設計的事項にすぎない。
なお、拒絶査定において提示された刊行物7(特開平2000-200248号公報)に記載されているように、コンピュータのソケットに直接挿入し、コンピュータとユーザ不揮発性メモリとの間でデータを交換する一体の雄コネクタとを備えた可搬データ記憶装置は周知である。

上記相違点(ク)について検討する。
拒絶理由通知において提示された刊行物3(特開平8-263631号公報)には、ユーザが指を転がしてその連続した部分を接触させるように、センサが感知動作中回転可能であり、それによってユーザの指紋の連続した部分を感知する指紋入力装置の発明が記載されている。
本願発明は、引用発明における「指紋センサ」をそのような公知の指紋入力装置に単に置き換えたものにすぎない。

上記相違点(ケ)について検討する。
メモリの記憶容量をどの程度とするかは単なる設計的事項にすぎない。
本願明細書には大容量を得るための格別の構成が記載されているわけでもなく、また、本件出願時において、8MB程度の不揮発性メモリ自体は周知である。

そして、これら相違点を総合的に考慮しても当業者が想到し難い格別のものであるとすることはできず、本願発明の効果についてみても、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるともいえない。

したがって、本願発明(請求項7に係る発明)は、刊行物2に記載された発明にそのような周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものと判断される。

7.むすび

以上のとおり、本願請求項7に係る発明は、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項1から請求項6および請求項8から14に係る各発明について特に検討するまでもなく、本願が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとした拒絶査定は妥当なものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-12 
結審通知日 2009-02-17 
審決日 2009-03-02 
出願番号 特願2004-204469(P2004-204469)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯田 清司  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 千葉 輝久
伊藤 隆夫
発明の名称 生物測定学ベースの認証機能を有する可搬装置  
代理人 中村 誠  
代理人 白根 俊郎  
代理人 峰 隆司  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 橋本 良郎  
代理人 風間 鉄也  

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