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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1200962
審判番号 不服2006-2927  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-16 
確定日 2009-07-23 
事件の表示 平成10年特許願第141870号「自動取引システムおよび自動取引装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月10日出願公開,特開平11-338942〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は,平成10年5月22日の出願であって,平成16年11月19日付けで拒絶理由が通知され,平成17年1月28日に手続補正書が提出され,平成18年1月13日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成18年2月16日に審判請求がされるとともに,平成18年3月17日に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成18年3月17日に提出された手続補正書よる補正(以下「本件補正」という。)の却下

〔補正却下の決定の結論〕

本件補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容と補正目的の適否
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1及び2において,補正前は「携帯情報端末装置」とされていたものを,「顧客が所有する携帯情報端末装置」とする補正内容を含むものである。これは,補正前の発明特定事項である「携帯情報端末装置」を,「顧客が所有する」との文言により更に限定するものであるから,特許法17条の2第4項2号の規定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当する。

そこで,以下に,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(独立特許要件)について,検討する。

2 独立特許要件の充足性について
2-1 本願補正発明
本願補正発明は,平成18年3月17日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「金融機関等の店舗に設置される自動取引装置で取り扱う種々の取引の入力項目情報を顧客が所有する携帯情報端末装置に予め入力しておき,その携帯情報端末装置から自動取引装置に入力項目情報を送信して,自動取引装置が受信した入力項目情報を確認キーおよび入力し直しキーとともに入力データ確認画面に表示し,該確認キーが押下されたことを検知すると該入力項目情報に基づいて各種取引を行なうようにし,該入力し直しキーが押下されたことを検知すると入力処理後に各種取引を行うようにしたことを特徴とする自動取引システム。」

2-2 引用刊行物の記載と引用発明
(1)引用刊行物の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平7-105293号公報(引用刊行物)には,次の記載がある(下線は当審で付加)。
ア 発明の背景等
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,取引装置に入力するデータを前もって入力することのできる携帯用装置を有した取引装置を用いた取引方法と装置に関する。
【0002】【従来の技術】近年,銀行などの金融機関においては,現金自動取扱装置(以下ATM)を設置し,利用者の要求する預金引出し,預金預入れ,記帳,振込みなどの取引を自動的に行っている。
【0003】従来のATMによる自動取引では,例えば,特開昭59-149583号公報に記載されているように,取引の操作を,すべて同一のATMで操作していたが,ATMの利用者の増加や取引件数の増加によって,利用者を非常に待たせることが多く,利用者のイライラなどの不快感の原因になっていた。
【0004】取引の時間については,取引データの入力にかかる時間と,そのあとのATMの貨幣払出や通帳記入などの機構の動作時間と,終了後の次の人に替わるところでの交代時間とがある。このうち,取引データの入力にかかる時間は,利用者に入力してもらうデータであり,振込みなどの入力項目が多いものもあり,人による入力の速さの違いもあって,なれない人の入力では,非常に時間のかかるものであった。また,給料日のあとでは,利用者も多く,必然的に,待ちの行列も長くなり,待ち時間も長くなっていた。また,それによって,うしろで待っている人のイライラの原因になっていた。」

イ 発明の目的
「【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,取引装置での利用者の待ち時間に携帯用装置で取引データの入力をしてもらい,利用者の番になったら,携帯用装置を取引装置に接続して携帯用装置の中のデータを取引装置に入力し,必要があれば,さらに取引装置の操作をするという形で取引装置の利用をする,すなわち,待ち時間の間に取引データの入力をしてもらうことによって,取引装置での入力でかかっている時間を短縮し,次に取引装置を使おうと待っている利用者の待ち時間の短縮を計るものである。」

ウ 実施例
「【0025】図2は,本発明によるATM3の外観図である。31はカード挿入口,32は通帳,明細書口,33はタッチセンサ付きディスプレイ,34は貨幣入出金口,35は携帯用装置接続口である。以後,カードは磁気カードであるがカードとのみ称することとする。
【0026】図3は,本発明による携帯用装置6の外観図である。61はディスプレイ,62はキー,63はカード読み取り口である。」
「【0041】次に,携帯用装置を利用したケースでの処理を図6,図5を用いて説明する。
【0042】携帯用装置6で入力できる取引は,通帳なし引出し,通帳あり引出し,振込みであり,携帯用装置を使って取引データの入力を前もって行い,その携帯用装置をATM3に接続してデータを渡すわけである。・・・」

エ 実施例において,携帯用装置を用いて振込みを行う場合の手順
「【0044】今,利用者は携帯用装置6で,ディスプレイ61を見て,キー62によって取引を指定する。携帯用装置6は,取引を判定し(S60),通帳なし引出しであればS61へ進み,通帳あり引出しであればS64へ進み,振込みであればS67へ進む。」
「【0047】S67では,振込み先データの入力要求をディスプレイ61に行い,それによって,利用者は,振込み先データの入力をキー62を用いて行う(S67)。続いて,金額データの入力要求のメッセージをディスプレイ61に行い,それによって,利用者は,金額データの入力をキー62を用いて行い(S68),処理を終了する。この状態で利用者は携帯用装置6をもって待ちの列に並んでいる。
【0048】この状態で,利用者の順番が来たとき,ATM3へ行き,ATM3の携帯用装置接続口35に携帯用装置6を接続する。
【0049】これによって,ATM3では,携帯用装置があるか否かを判断して(S1),あるのでS2へ進み,携帯用装置のデータを受信し(S2),そのデータの中の取引を判定し(S3),通帳なし引出しならS4へ,通帳あり引出しならS14へ,振込みならS29へ進む。」
「【0052】S29では,携帯用装置を使用した取引であるか否かを判定し(S29),今,携帯用装置を使用した取引であるのでS32へ進み,貨幣の入力要求のメッセージをタッチセンサ付きディスプレイ33に行い,それによって,利用者は貨幣を貨幣入出金口34から入力し(S32),ATM3は入力されたデータをホストコンピュータに問合せて結果を受信し(S33),明細書を印字し(S34),明細書を通帳,明細書口32から放出し(S35),処理を終了する。」

オ 実施例の変形例
「【0062】上記実施例では,携帯用装置接続口35についての形状は述べなかったが,できうれば,現在ワイヤレス電話の充電に使われているような点接触式の接続にして,コネクタにいちいち差し込まなくてもよいものであった方がよい。そうすれば,携帯用装置6を携帯用装置接続口35に接続するのに手間がかかるというようなこともなく,手軽に接続ができる。また,接続口の摩耗,破損の点からもそうする方がよい。また,携帯用装置6は電池式でも,充電式でもよい。充電式ならば,携帯用装置置場4は,現在ワイヤレス電話の充電に用いられているような充電器に接続するものであればよい。
【0063】また,上記実施例では,携帯用装置6は,カードをカード読み取り口63に沿って読ませるものであったが,図7のようにカード読み取り口63の替わりにカード挿入口64を持ち,ここへカードを挿入し,中で,カードのデータを読み取るものであってもいい。この様な携帯用装置6を使うときには,図5のS10,S21の,携帯用装置6ありの取引(Yのケース)で携帯用装置6でのカード放出と携帯用装置6から放出されたカードを取り忘れないようにというメッセージが必要である。その他は同じである。
【0064】また,上記実施例は,携帯用装置に磁気カードデータを読み取らせるものであったが,カードそのものが,磁気カードの個人情報を有し,かつ,図6のフローチャートのようなデータ入力ができるものであり入力データを保持し,かつ,ATM3に接続あるいは挿入できるもの,例えば入力データ保持機能を持ったカード状の装置であってもよい。この様なカード状の装置も携帯用装置と考える。」

(2)引用発明
上記ア?エの記載から,引用刊行物には,金融機関の店舗に設置される自動取引装置において,取引項目の入力に要する時間を短縮するために,携帯用装置6を用意しておき,顧客にこの携帯用装置を用いてあらかじめ取引項目のデータを入力してもらい,入力済みの携帯用装置を自動取引装置に接続して入力に必要なデータを伝達し,これによって各種取引を行うようにしたもの(以下「引用発明」という。)が開示されているといえる。

また,上記オの特に段落【0064】記載から,引用発明に係る「携帯用装置」は,カード自体に,取引項目のデータの入力とそのデータを保持する機能を持たせ,このカードを自動取引装置に挿入又は接続するようにしてもよく,その場合,このカード自体が「携帯用装置」になると理解できる。そして,ここでいう「カード」とは,顧客が所有するカード(例:銀行カード)を意味することが明らかである。

2-3 対比
(1)本願補正発明にいう「携帯情報端末装置」について,本願明細書には積極的に定義されていないが,発明の目的と,本願明細書の3頁13,14行(段落【0007】)の「・・・例えば携帯電話やPHSやモバイルコンピュータ等の携帯情報端末装置・・・」との記載からみて,データの入力,データの保持,データの出力が行える携帯装置であればよく,引用発明の,携帯用装置としての「カード」も,本願補正発明の「携帯情報端末装置」に含まれるものと認められる。

(2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

ア 一致点
金融機関等の店舗に設置される自動取引装置で取り扱う種々の取引の入力項目情報を顧客が所有する携帯情報端末装置に予め入力しておき,その携帯情報端末装置から自動取引装置に入力項目情報を送信して,自動取引装置が受信した入力項目情報に基づいて各種取引を行なうようにしたことを特徴とする自動取引システム。

イ 相違点
本願補正発明では,入力項目情報を確認キーおよび入力し直しキーとともに入力データ確認画面に表示し,該確認キーが押下されたことを検知すると各種取引を行うようにし,入力し直しキーが押下されたことを検出すると,入力処理を行った後に,各種取引を行うようにしているのに対し,引用発明においては,入力項目の確認や入力し直しについては言及がない点。

2-4 相違点についての検討
(1)引用発明は,自動取引装置において,取引項目情報をあらかじめ携帯情報端末に入力しておくことにより,自動取引装置を用いてデータの入力を行う手間を省くことを目的とするものであるが,これまでどおり,携帯情報端末を用いないで,顧客が自ら自動取引装置にデータを入力することもできるようになっていることは,本願明細書の段落【0033】?【0040】の記載及び図2(タッチセンサ付きディスプレイを備える)から明らかである。この場合,自動取引装置のディスプレイに表示された項目を選択したり,金額データを入力することにより,取引に必要なデータが入力される。

(2)携帯情報端末による入力を選択した場合に,携帯情報端末から取引項目情報を受信した後,これらのデータに基づいて実際に取引処理を行うまでの間に自動取引装置が行う手順について,引用刊行物に記載はないけれども,取引項目情報は誤りがあってはならないものであることと,上に述べたように,自動取引装置には従来の表示機能及び入力機能が備わっていることを考えると,携帯情報端末から入力された取引項目情報を,いったん確認のために表示し,誤りがある場合に,正しい内容のものに入力し直すことができるようにすることは,当業者が自然に思いつくことといえる。引用発明にそのような機能を持たせることは,当業者が容易になし得る設計変更にすぎない。
したがって,上記相違点に係る構成は,当業者が容易に想到できたものである。

2-5 なお,以上の検討は,引用刊行物には顧客が携帯情報端末を所有する場合が開示されているとの認定を前提とするものであるが,店舗が携帯情報端末を所有するとの前提に立ったとしても,上の結論は左右されない。
すなわち,本願明細書の4頁20行以下(段落【0009】)に記載されているように,本願補正発明に係る携帯情報端末の記憶部270(図3参照)には,各種取引の入力・通信プログラムが格納してあり,取引項目の入力を誘導し,その入力項目を自動取引装置に送信する機能を有している。この点,引用発明に係る携帯情報端末と,技術的に何ら異なるところがない。
したがって,このような携帯情報端末を店舗側に備えておくか,顧客の所有とするかは,営業上の手法の問題であって,そこには,技術的な問題を論じる余地はない。

2-6 以上の次第で,本件補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条5項の規定に違反するので,同法159条1項ににおいて読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正(平成18年3月17日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成17年1月28日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。

「金融機関等の店舗に設置される自動取引装置で取り扱う種々の取引の入力項目情報を携帯情報端末装置に予め入力しておき,その携帯情報端末装置から自動取引装置に入力項目情報を送信して,自動取引装置が受信した入力項目情報を確認キーおよび入力し直しキーとともに入力データ確認画面に表示し,該確認キーが押下されたことを検知すると該入力項目情報に基づいて各種取引を行なうようにし,該入力し直しキーが押下されたことを検知すると入力処理後に各種取引を行うようにしたことを特徴とする自動取引システム。」

2 引用発明
上記第2-2(2)で認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,1で見たように, 本願補正発明は,補正前の「携帯情報端末装置」を,「顧客が所有する携帯情報端末」に限定したものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,この限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは,上記第2-4で検討したとおりであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-25 
結審通知日 2009-05-26 
審決日 2009-06-10 
出願番号 特願平10-141870
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 貝塚 涼  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 小林 義晴
清田 健一
発明の名称 自動取引システムおよび自動取引装置  
代理人 金倉 喬二  
代理人 金倉 喬二  

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