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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1202707
審判番号 不服2007-7007  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2009-08-20 
事件の表示 平成 9年特許願第160352号「凍結真空乾燥方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月 2日出願公開、特開平10-314276号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成9年5月15日の出願であって、平成19年2月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年4月4日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成19年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のように補正された。
「凍結真空乾燥を行わない内容物と凍結真空乾燥を行う内容物とを充填・密封して無菌状態とするに際し、
容易開封性仕切部により分離して結合した無菌の複数室分離容器の凍結真空乾燥を行わない無菌の内容物を充填した室を密封し、次いで他の室に無菌環境で凍結真空乾燥を行う無菌の内容物を充填しこの室を開封した状態で、冷却し内容物を凍結して真空に保持し、凍結乾燥した後密封することを特徴とする凍結真空乾燥方法。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「凍結真空乾燥方法」について、「凍結真空乾燥を行わない内容物と凍結真空乾燥を行う内容物とを充填・密封して無菌状態とするに際し」用いる方法であることを特定する限定を付加したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-84572号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

記載事項A.
「凍結乾燥食品をプラスチックフィルム製袋内に密着状態で真空包装した食品収容部及び上記凍結乾燥食品を復元するに要する水をプラスチックフィルム製袋内に封入した復元用水収容部とからなる包装体であって、上記食品収容部と上記復元用水収容部とはプラスチックフィルムの熱溶着帯にて区切られており、上記熱溶着帯は、上記復元用水収容部を押し潰すことによりその一部が剥離して、上記復元用水収容部内の水が上記食品収容部内に流入可能な通水孔を形成するようになしてあることを特徴とする復元用水付き凍結乾燥食品包装体。」(【請求項1】)

記載事項B.
「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、・・・また、乾燥食品は、その保存性の高さから非常食としての価値があるが、乾燥食品の復元には必ず飲料可能な水が必要である。しかし、災害時のような場合には飲料水の確保が難しい場合が多い。」(段落【0003】)

記載事項C.
「本発明の復元用水付き凍結乾燥食品包装体によれば、凍結乾燥食品を真空包装した食品収容部とはフィルムの熱溶着帯にて区切られたプラスチックフィルム製袋内に水が封入してあり、この水が封入されたプラスチックフィルム製袋(復元用水収容部)を押し潰すことにより、上記熱溶着帯の一部が剥離し、食品収容部と復元用水収容部との間に通水孔が形成される。その結果、食品収容部内の真空が解除され、復元用水収容部内の水が瞬時にして食品収容部内に浸入し、凍結乾燥食品は短時間で水戻しされ食し得る状態に復元される。また、本発明の復元用水付き凍結乾燥食品包装体には、復元用水が具備されているので、飲料可能な水を準備する必要はない。」(段落【0006】)

記載事項D.
「本実施例の復元用水付き凍結乾燥食品包装体は、図1及び図2に示す如く、凍結乾燥食品11をプラスチックフィルム製袋12内に密着状態で真空包装した食品収容部1と、復元用水21をプラスチックフィルム製袋22内に封入した復元用水収容部2とから構成され、上記食品収容部1と上記復元用水収容部2とは、プラスチックフィルムの熱溶着帯3によって区切られている。
そして、上記熱溶着帯3には、その略中央部分に、他の部分のシール強度(凍結乾燥食品11を真空包装する際のシール強度及び復元用水21を封入する際のシール強度)よりもシール強度の小さい通水孔形成部31を設けてある。」(段落【0008】、【0009】)

記載事項E.
「また、真空包装される上記凍結乾燥食品11は特に制限されるものではなく、本発明はあらゆる凍結乾燥食品に適用することができる。・・・」(段落【0012】)

ここで、記載事項A.及びD.に、凍結乾燥食品包装体は、プラスチックフィルム製袋に水を収納する復元用水収容部2と凍結乾燥食品を収納する食品収容部1とが熱溶着帯3で区切られる旨記載されている。
そして、記載事項B.に、「しかしながら、・・・また、乾燥食品は、その保存性の高さから非常食としての価値があるが、乾燥食品の復元には必ず飲料可能な水が必要である。しかし、災害時のような場合には飲料水の確保が難しい場合が多い。」とあり、収容される水は、飲料可能な水を示唆する記載がなされ、その理由として、乾燥食品の保存性を損なうことなく使用できるようにすることが記載されているのであるから、保存性のある水である。ここで保存性との記載及び食品であることから、保存中に細菌等が増殖しないものを使用することが当然であり、乾燥食品及び水は、その程度はさておき、細菌の存在を放置して包装するとは考えがたく、保存に適した菌の状態の乾燥食品及び水が包装され、保存に適した菌の状態で保存されると解するのが自然である。
そして、凍結乾燥食品を密着状態で真空包装し、水を復元用水収容部2に封入することは、それぞれ密封すると解すべきでである。
次に、記載事項D.に、「・・・食品収容部1と上記復元用水収容部2とは、プラスチックフィルムの熱溶着帯3によって区切られている。
そして、上記熱溶着帯3には、その略中央部分に、他の部分のシール強度(凍結乾燥食品11を真空包装する際のシール強度及び復元用水21を封入する際のシール強度)よりもシール強度の小さい通水孔形成部31を設けてある。」と記載されており、食品収容部1と復元用水収容部2とは、熱溶着帯3により区切られていることが記載され、この熱溶着帯3にはシール強度の小さい通水孔形成部31があり、通水孔形成部31は復元用水収容部2を押し潰すことで水を通過させるものであるから、熱溶着帯3は容易に分離を開封できる仕切となっているといえる。
さらに、記載事項C.に、「・・・この水が封入されたプラスチックフィルム製袋(復元用水収容部)を押し潰すことにより、上記熱溶着帯の一部が剥離し、食品収容部と復元用水収容部との間に通水孔が形成される。その結果、食品収容部内の真空が解除され、・・・凍結乾燥食品は短時間で水戻しされ食し得る状態に復元される。・・・」と記載され、使用時に水と凍結乾燥食品とを接触させて、短時間で水戻しできるのであるから、その製造にあたり、水と凍結真空乾燥をそれぞれ収容する時点で混在することなく包装されると解すべきであり、両収容部の間に形成される容易に開封できる熱溶着帯3は、収容前に形成され、食品収容部1と復元用水収容部2とが分離状態に一体に形成されているものが用いられるもの認められる。
また、「凍結乾燥食品11を真空包装する際のシール強度及び復元用水21を封入する際のシール強度」(記載事項D.参照)と、凍結乾燥食品11を収納した食品収容部1と復元用水21を収納した復元用水収容部2とは、それぞれシール即ち密封することが記載され、それがそれぞれ開封した状態で収容・充填がなされることは自明の事項であり、引用例1の記載は、そのような収納・充填後に密封されるものと解される。
したがって、引用例1の記載より、
容易に開封できる熱溶着帯3により分離して結合した復元用水収容部2と食品収容部1のうち、復元用水収容部2に凍結真空乾燥を行わない保存に適した菌の状態の水を充填した復元用水収容部2を密封すること、
凍結乾燥食品包装体の熱溶着帯3にて区切られることで得られた食品収容部1に凍結乾燥食品を充填・密封すること、
を把握可能であり、前述のとおり、保存性を考慮することから、これらの収容・密封にあたり、使用する各収容部も細菌が存在することを敢えて許容するものを使用して行うとは考えがたく、それらは程度の差こそあれ保存に適した菌の状態のものが使用されるものと解すべきである。
さらに、食品収容部の凍結乾燥食品は、「凍結乾燥食品11をプラスチックフィルム製袋12内に密着状態で真空包装した」(記載事項D.参照)及び「食品収容部内の真空が解除され、復元用水収容部内の水が瞬時にして」(記載事項C.参照)と記載されていることから、食品収容部は真空状態で密封されると解される。
なお、記載事項E.に、「また、真空包装される上記凍結乾燥食品11は特に制限されるものではなく、本発明はあらゆる凍結乾燥食品に適用することができる。・・・」とあり、引用例1の食品包装体は、特定の食品のみに限定されることなく利用可能であることが記載され、これを内容物の特定のないものに適用することを排除すべき特段の記載はない。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が実質的に記載されている。

「水と凍結乾燥食品とを充填・密封して保存に適した菌の状態とするに際し、
容易に開封できる熱溶着帯により分離して結合した保存に適した菌の状態の復元用水収容部と食品収容部のうち、保存に適した菌の状態の水を充填して復元用水収容部を密封すること、
他の収容部である食品収容部に、保存に適した菌の状態の凍結乾燥食品を充填し真空に保持して食品収容部を密封すること、
からなる凍結乾燥食品包装体の製造方法。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-306216号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

記載事項F.
「凹部を有しているプラスチック成形体の前記凹部内に、凍結乾燥予製液を充填し、前記プラスチック成形体を凍結真空乾燥装置内に入れて真空下で凍結乾燥を行い、凍結乾燥終了後、前記凍結乾燥装置内に乾燥不活性ガスを導入して大気圧に戻し、その場で前記プラスチック成形体の上面に気体遮蔽性と熱接着性を備えたシール材を熱接着して凍結乾燥製剤を前記凹部内に密閉するようにしたことを特徴とする凍結乾燥製剤の製造方法。」(【請求項1】)

記載事項G.
「【産業上の利用分野】本発明は、医薬(治療薬)や試薬(臨床検査薬)等を凍結乾燥により製剤する方法及びその方法を実施するための凍結真空乾燥装置に関する。」(段落【0001】)

記載事項H.
「図3は、本発明の製造方法を示す工程説明図であり、この図で一例として、ヒト体液LDH(乳酸脱水素酵素)測定用試薬の凍結乾燥方法について説明する。まず、・・凍結乾燥予製液11を調製し、プラスチック成形体9の各凹部10内に所定量を充填した(図3(a)参照)。次に、この成形体9に気体遮蔽性と熱接着性を備えたシール材12(例えば、ポリエチレンとアルミニウム箔のラミネート材)を被せて図1の凍結真空乾燥装置の真空容器1内に入れた(図3(b)参照)。真空下で凍結乾燥を行って上記試薬の凍結乾燥製剤13を得た後、真空容器1内にガス導入口8より乾燥窒素ガスを導入して真空容器1内を大気圧に戻した(図3(c)参照)。その後、シール板2を昇降装置7にて下降させ、アルミ鋳込みヒーター5によって成形体9にアルミラミネート材12を熱接着し、凍結乾燥製剤13を前記各凹部10内に密封した(図3(d)参照)。また、得られた凍結乾燥製剤の安定性を評価するため、図3(c)の状態で凍結真空乾燥装置外に取り出し、大気雰囲気中で成形体9にアルミラミネート材12を熱接着したものも作成した。」(段落【0014】)

引用例2には、記載事項G.に、「医薬(治療薬)や試薬(臨床検査薬)等を凍結乾燥により製剤する方法・・・凍結真空乾燥装置に関する。」と記載され、凍結真空乾燥行う物である医薬(治療薬)や試薬(臨床検査薬)等の凍結真空乾燥が記載されている。
そして、記載事項F.及びH.をみると、その方法として、凹部を有するプラスチック成形体を用いることが記載され、凹部に凍結乾燥予製液を充填しプラスチック成形体を凍結真空乾燥装置内に入れて真空下で凍結乾燥を行うとしており、このとき、プラスチック成形体の凹部には、シール材が被せられているものの溶着されてはいないので、開封状態であり、凍結乾燥後密閉され、凍結乾燥製剤は、プラスチック成形体の凹部に凍結乾燥状態で収容されるとされている。
これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「凍結乾燥製剤が凍結真空乾燥を行うことにより得られるものであり、凍結乾燥予製液を凹部に充填しこの凹部を開封した状態で、冷却し凍結乾燥予製液を凍結して真空に保持して凍結乾燥後密閉する凍結乾燥製剤の凍結真空乾燥方法。」

3-2.対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、機能または作用等からみて、引用発明1の「水」は、本願補正発明の「凍結真空乾燥を行わない内容物」に相当し、また、本願補正発明の「凍結真空乾燥を行う内容物」は、特定用途の物に特定される物ではなく、引用発明1の「凍結乾燥食品」は、凍結真空乾燥を行うことにより得られたものであり、包装体の内容物であるから、本願補正発明の「凍結真空乾燥を行う内容物」に相当する。
そして、引用発明1の「復元用水収容部」は、その構造、機能または作用等からみて、本願補正発明の「内容物を充填した室」に相当し、以下同様に、「食品収容部」は「他の室」に、「容易に開封できる熱溶着帯」は「容易開封性仕切部」に、それぞれ相当し、引用発明1が「復元用水収容部」と「食品収容部」とで複数室に分離されていることは、本願補正発明が「複数室分離容器」と特定されることと差異がない。
また、本願補正発明の「内容物」及び「複数室分離容器」に係る「無菌」との特定と、引用発明1の「水」、「凍結乾燥食品」及び各「収容部」が「保存に適した菌の状態」であることとは、ともに「保存に適した菌の状態」である点で共通している。また、引用発明1の「凍結乾燥食品包装体の製造方法」と本願補正発明の「凍結真空乾燥方法」とは、包装体製造方法である点で共通する。
そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両発明は次の点で一致する。

(一致点)
「凍結真空乾燥を行わない内容物と凍結真空乾燥を行う内容物とを充填・密封して保存に適した菌の状態とするに際し、
容易開封性仕切部により分離して結合した保存に適した菌の状態の複数室分離容器の凍結真空乾燥を行わない保存に適した菌の状態の内容物を充填した室を密封すること、
他の室に保存に適した菌の状態の凍結真空乾燥を行う内容物を充填して真空に保持して密封すること、
を含む包装体製造方法。」

そして、両発明は発明は次の点で相違している。
(相違点1)
本願補正発明を特定する「保存に適した菌の状態」は「無菌」であるのに対して、引用発明1の「保存に適した菌の状態」は無菌かどうか明らかでない点。

(相違点2)
本願補正発明は、凍結真空乾燥を行う内容物が無菌環境で凍結真空乾燥を行うものであり、無菌の内容物を充填しこの室を開封した状態で、冷却し内容物を凍結して真空に保持し、凍結乾燥した後に密封する凍結真空乾燥方法であるのに対して、引用発明1は、凍結真空乾燥された凍結乾燥食品を収容して真空に保持して食品収容部を密封する凍結乾燥食品包装体の製造方法であり、食品収容部で凍結真空乾燥を行うことの記載はない点。

(相違点3)
本願補正発明は、凍結真空乾燥を行わない内容物を充填した室を密封し、次いで他の室の内容物を充填し密封するという手順が定められているに対し、引用発明1は、復元用水収容部と食品収容部とは、それぞれ収容密封するものの、その手順が定められていない点。

3-3.相違点の判断
以下、各相違点について検討する。
(相違点1について)
保存に適した菌の状態として、無菌を選択することは、特段の例示を待つまでもなく周知の事項であり、その内容物が特定用途のもの等に限定されることと併せて無菌と特定するのであれば、更なる検討を要するとしても、現請求項1には、凍結真空乾燥を行わない内容物、凍結真空乾燥を行う内容物ともに、その用途は定められておらず、さらに、内容物を特定の物に限定する特定を有するものではないので、保存に適した菌の状態として無菌を選択することは、当業者が必要に応じて適宜選定し得た事項であって、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用発明2の「凍結乾燥製剤」は本願補正発明の「凍結真空乾燥を行う内容物」に相当し、「凹部」は「室」に相当し、引用発明2の「密閉」は本願補正発明の「密封」と同義であるから、引用発明2は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、「室に凍結真空乾燥を行う内容物を充填しこの室を開封した状態で、冷却し内容物を凍結して真空に保持し、凍結乾燥した後密封する凍結真空乾燥方法。」と言い換えることができる。
ところで、引用発明1は、食品収容部に凍結真空乾燥された凍結乾燥食品を真空に収容するものであるから、公知の何れかの凍結真空乾燥方法が採用されることにより製造されることは、当業者にとって明らかな事項である。そうすると、引用発明1において、凍結乾燥食品の製造方法として引用発明2の凍結真空乾燥方法を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、引用発明2の凍結乾燥製剤として、医薬(治療薬)や試薬(臨床検査薬)が例示されていることから、細菌等の存在に特段の配慮をせずに製造するとは考えがたく、引用発明1も保存に適した菌の状態にあることを考慮すれば、内容物や凍結真空乾燥の工程も、無菌の状態で実施することは当業者が容易に想到する事項であり、しかも、凍結真空乾燥の工程を無菌環境下で行うことは、原審の査定に指摘されるように周知の事項(参考例 特開平8-327229号公報)である。
したがって、引用発明1に、引用発明2及び周知の技術を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3について)
引用発明1も凍結真空乾燥を行わない内容物を充填した室を密封すること及び他の室の内容物を充填し密封することに相当する2つの工程を復元用水収容部及び食品収容部への収容及び密封として有するものであり、特段の事情がない限り、これらの工程の手順は二者択一の事項である。
そして、本願補正発明は、その各内容物が特定のものに限定されているわけではなく、各内容物の量の相互関係も定まってはおらず、それぞれを無菌とする殺菌の手段についても何も特定されていないのであるから、それらが定まるものあれば、それらとの関係から更なる検討を要することがありえるとしても、本願補正発明は、これら特定を有するものではないので、相違点3に係る手順は当業者が適宜選定し得た事項にすぎない。

なお、請求人は、各内容物の殺菌処理の手法の差異を論拠として、本願補正発明が進歩性を有する旨主張しているが、本願補正発明は、それらを発明特定事項とするものではなく、相違点3及びその判断は、上述のとおりであるが、もし仮に、それらを考慮するとしても、複数に分離した容器のそれぞれの内容物の一方に加圧湿熱殺菌を施し、他の内容物に紫外線照射、電子線照射による殺菌処理を施す場合、加圧湿熱殺菌を施す内容物を殺菌・密封した後、他の内容物に紫外線照射、電子線照射による殺菌処理を施し密封することが周知の技術(参考例 特開平9-99042号公報の段落【0016】、【0017】)であることは、原査定の理由が述べるとおりであり、これら手順の特定も周知の技術に基づいて当業者が容易になしえた事項にすぎない。

そして、本願補正発明の効果は、各引用発明及び周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別ものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の平成18年10月26日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「容易開封性仕切部により分離して結合した無菌の複数室分離容器の凍結真空乾燥を行わない無菌の内容物を充填した室を密封し、次いで他の室に無菌環境で凍結真空乾燥を行う無菌の内容物を充填しこの室を開封した状態で、冷却し内容物を凍結して真空に保持し、凍結乾燥した後密封することを特徴とする凍結真空乾燥方法。」

IV.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された各引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

V.対比・判断
本願発明は、前記II.1の本願補正発明から、「凍結真空乾燥方法」を限定する「凍結真空乾燥を行わない内容物と凍結真空乾燥を行う内容物とを充填・密封して無菌状態とするに際し」との記載を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2,3-3に記載したとおり、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-25 
結審通知日 2009-06-26 
審決日 2009-07-07 
出願番号 特願平9-160352
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61J)
P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智弥  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 高木 彰
岩田 洋一
発明の名称 凍結真空乾燥方法  
代理人 原田 卓治  
代理人 坂本 徹  

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