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審決分類 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A63F
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A63F
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A63F
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A63F
管理番号 1202915
審判番号 無効2008-800149  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-11 
確定日 2009-08-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3274408号発明「遊技機の回路基板ボックス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3274408号の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1及び2」という。)についての主な手続は、以下のとおりである。

平成10年 2月17日 特許出願(特願平10-052848号)
原特許出願(特願平5-085228号)
原出願日(平成5年3月19日)
平成14年 2月 1日 特許の設定登録
平成14年10月15日 特許異議申立(異議2002-72514号)
平成15年 6月17日 訂正請求
平成15年 9月30日 特許異議の決定(取消)
平成15年11月12日 取消決定に対する訴え(平成15年行(ケ)500号)
平成16年 6月14日 訂正審判請求(訂正2004-39135号)
平成16年 8月17日 訂正の審決(認容)
平成16年11月11日 特許異議の決定(維持)
平成20年 8月11日 無効審判請求
平成20年12月 1日 被請求人より答弁書提出
平成21年 2月25日 請求人より弁駁書提出

第2.審判請求書の主張
1.概要
請求人「日本電動式遊技機特許株式会社」は、本件特許を無効とする、との審決を求め、審判請求書において、以下のとおり主張している。
(1)本件特許は願書に添付した明細書又は図面の訂正が特許法第126条第3項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第8号により無効とすべきものである。
(2)本件特許は特許法第126条第5項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第8号により無効とすべきものである。
そして、請求人は証拠方法として甲第1?29号証(以下「甲1?29」という。)を提出している
なお、本件特許は原出願日が平成5年3月19日であって、適用法は平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)となるので、上記主張(1)は「本件特許は願書に添付した明細書又は図面の訂正が改正前特許法第126条第1項ただし書きの規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第7号により無効とすべきものである。」として、また、上記主張(2)は「本件特許は改正前特許法第126条第3項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第7号により無効とすべきものである。」として審理した。

2.証拠方法
甲1 :平成16年8月17日確定の訂正の審決(特許審決公報)
甲2 :平成16年11月11日付けの異議決定謄本
甲3 :特許第3274408号公報
甲4 :特開平4-231987号公報
甲5 :実願昭53-144006号(実開昭55-62085号)のマイクロフィルム
甲6 :実公平2-38370号公報
甲7 :実願昭50-125035号(実開昭52-39529号)のマイクロフィルム
甲8 :実公昭57-33587号公報
甲9 :実公昭61-5014号公報
甲10:実公昭45-13095号公報
甲11:実願昭54-73784号(実開昭55-172109号)のマイクロフィルム
甲12:実願平1-137636号(実開平3-75153号)のマイクロフィルム
甲13:実願昭54-130370号(実開昭56-46554号)のマイクロフィルム
甲14:実願昭54-164697号(実開昭56-81853号)のマイクロフィルム
甲15:実願昭55-88124号(実開昭57-11760号)のマイクロフィルム
甲16:特開平1-139363号公報
甲17:実願昭61-106465号(実開昭63-13871号)のマイクロフィルム
甲18:グリコ乳業株式会社のホームページの抜粋
甲19:実願昭61-98744号(実開昭63-3915号)のマイクロフィルム
甲20:実公平3-12653号公報
甲21:実公平2-37717号公報
甲22:実公昭60-27412号公報
甲23:実公平2-10547号公報
甲24:実公平4-1583号公報
甲25:実公平4-3333号公報
甲26:実公昭63-6047号公報
甲27:実願昭53-91825号(実開昭55-9550号)のマイクロフィルム
甲28:特開平5-41466号公報
甲29:特開平5-42790号公報

3.改正前特許法第126条第1項ただし書き違反について
請求項1に関する「当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着される」との訂正は、「突出部」自体の弾性変形も包含し、かつ、固着完了後における固着片の弾性変形による固着状態の保持をも包含するにもかかわらず、甲第3号証(以下「本件基準明細書」という。)には、これらに関する記載は一切ない(審判請求書第23頁末行?第25頁第23行の主張)。

4.改正前特許法第126条第3項違反について
(1)本件特許発明1の分説(審判請求書第5頁)
a.遊技機に設けられる回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックスにおいて、
b.該回路基板ボックスには、前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段を設け、
c.前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、
d.当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される
e.ことを特徴とする遊技機の回路基板ボックス。

(2)本件特許発明2の分説(審判請求書第5頁)
f.前記回路基板ボックスは、前記回路基板のハンダ面が外部から透視し得る
g.ことを特徴とする請求項1記載の遊技機の回路基板ボックス。

(3)本件特許発明1と甲4に記載の発明との相違点(審判請求書第27頁)
<相違点1>
甲4に記載の発明(以下「甲4発明」という。)が上記分説cの「前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成され」という構成を備えていない点。
<相違点2>
本件特許発明1では上記分説dのように「当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着される」のに対し、甲4発明では爪部47、係合爪部51、60が弾性変形することにより係合孔43、49、58に係合固着されることは明記されていない点。
<相違点3>
甲4発明が上記分説dの「当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」という構成を備えていない点。

(4)各相違点の検討(審判請求書第27?32頁)
<相違点2について>
本件特許発明1とは分野が異なるものの、甲5?13に開示されるように、固着片に相当する部分の弾性変形に伴う弾性力を利用して容器の固着・固定或いは密閉を行う技術は従来周知の技術であるから、相違点2に係る本件特許発明1の構造を採用することは当業者の単なる設計事項に過ぎない。
<相違点1及び3について>
甲4発明の少なくとも爪部47は透明カバー体45の側壁外側に突設され、かつ、下方へ伸びて形成されており、該爪部47を破壊すれば、爪部47と係合孔43との係合を解除できるのは当然である。そして、本件特許発明1とは分野が異なるものの、甲14?18に開示されるように、密封・密閉容器の突出部分を破壊・切断して密封解除する技術は、従来周知の技術であるから、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることに格別の困難性は認められない。
甲4発明の「封印シール81」はその破損から不正開封を容易に発見できるように封印するものである、そして、甲19?29に開示されるように、内部に収納物を収納した収納体を封印する技術に関して、構成部品の一部若しくは全部を破壊しない限り内部のものを取り出せないようにし、構成部品の一部若しくは全部の破壊によって不正行為の痕跡・形跡が残るようにすることは、従来周知の技術であるから、相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることに格別の困難性は認められない。

(5)本件特許発明2について(審判請求書第32頁)
甲4には上記分説fの「回路基板ボックスは、前記回路基板のハンダ面が外部から透視し得る」ように構成される点がすでに開示されているので、本件特許発明2は甲4発明に甲5?29に記載の周知の発明を組み合わせることで、当業者が容易に成し得る程度のものに過ぎない。

第3.被請求人の主張
1.概要
被請求人「株式会社三共」は、「本件無効審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求め」(答弁の趣旨)、答弁書において平成16年6月14日付けの訂正審判請求による訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、訂正後の本件特許発明1及び2が進歩性を欠くとの請求人の主張は失当であるから、請求人が提出した証拠及びその理由によって本件特許発明1及び2の特許を無効とすることはできないと主張している。

2.改正前特許法第126条第1項ただし書き違反について
請求人は、請求項1について行った「当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着される」の訂正について、「「突出部」自体の弾性変形も包含し、かつ、固着完了後における固着片の弾性変形による固着状態の保持をも包含するにもかかわらず、本件基準明細書には、これらに関する記載は一切ない。」と主張するが、本件基準明細書の段落【0024】の記載や図1Bの記載からみて、係止垂下片66の爪部66aが傾斜面57bに沿って弾性変形しながら下方に移動する際に、その突出部が上記U字状に曲折された部分で弾性変形することは自明である。(第2頁下から6行目?第4頁第3行)

3.改正前特許法第126条第3項違反について
(1)請求人は、本件特許発明1は、甲4発明に、甲5?29に記載の周知の発明を組み合わせることで、当業者が容易に成し得る程度のものに過ぎず、進歩性を欠くものである旨主張するが、甲4には爪部47や係合爪部51、60がいずれも係合孔43、49、58に係合等した状態で外部からの操作により遊技制御メイン基板37の包囲(被覆)を解除できないことを示す記載はない。(第4頁第7行?第5頁第13行)

(2)請求人は、本件特許発明1と甲4発明とを対比して、相違点1?3を挙げているが、これ以外に「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックス(「基板ケース」とあるが誤記と認める。)における回路基板の被覆状態を解除できない固着手段」の点(相違点4)でも相違している。(第5頁第14?19行)

(3)甲4発明の爪部47(係合爪部51、60も同様)は、本件特許発明1における「切断」を行うことを前提にしておらず、その記載から「切断」を行うことの必要性を汲み取ることもできないので、仮に切断作業を簡単に行うために「突出部」を設けることが周知であるとしても、本来切断する必要のない甲4発明の爪部47に対して、切断作業を簡単に行うための周知技術を適用することは論理的にみてあり得ないことである。(第5頁第20行?第8頁第17行)

(4)請求人は、甲4発明の「封印シール81」が本件特許発明1の「当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」構成に相当するかの如く主張するが、甲4発明の「封印シール81」を剥がしても、爪部47や係合爪部51、60と係合孔43、49、58との係合等の状態を解除しない限り、遊技制御メイン基板37の被覆状態は解除できない。(第8頁第18行?第9頁下から3行目)

(5)請求人のいう甲19?29に記載される「周知技術」は、内部に収納物を収納した収納体を封印する技術に関するものである。
これに対し、甲4発明の爪部47(係合爪部51、60)と係合孔43(係合孔49、58)から成る固定手段は、透明カバー体45と基板収容ボックス本体46とを結合するためのものであって、切断を行うことを前提に設けられたものではないから甲4発明は封印とは何ら関係がなく、その封印とは関係のない固定手段に収納体を封印する技術に関する周知技術を適用することには阻害要因がある。(第9頁下から2行目?第11頁第20行)

(6)本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備えているので、本件特許発明1について述べた理由により、当業者が容易に発明できたものではない。(第13頁第6?11行)

第4.弁駁書の主張
1.改正前特許法第126条第1項ただし書き違反について
甲2の異議決定においては、「固着片」の上方に突出した部分が、固着片が弾性固着する際の弾性付与機能及び箱体開封に際しての切断箇所としての機能の両機能を具備するとの認定を受けているが、本件基準明細書(甲3)の段落【0024】には、「爪部66a」が弾性変形するとあるだけで、「固着片」の上方に突出した部分が、固着片が弾性固着する際の弾性付与機能を有するとは記載されていない。(第2頁第10行?第4頁第2行)

2.改正前特許法第126条第3項違反について
(1)被請求人は、本件特許発明1と甲4発明との相違点4として「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段」を挙げている。
被請求人は「固着手段」が外部から「操作」できないものとする一方、切断可能な「固着手段」の突出部の「切断」を「操作」から除外しているが、「切断」も外部から触れるという点で外部からの「操作」と変わりはない。
そうすると、甲4発明の爪部47や係合爪部51、60は外部から触れて「操作」することも「切断」することも可能であるが、本件特許発明1における「固着手段」の「突出部」と何等変わりはない。(第4頁第7?24行)

(2)本件特許発明1における「固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着される」点は、添付の参考例(特開平5-42249号公報)の段落0026、図4、図6(B)、図7(A)(B)においても開示されている。(第4頁下から5行目?第8頁第5行)

(3)被請求人は、甲19?29は遊技機とは無関係である旨主張するが、甲2(異議決定)において挙げられている特開昭52-46982号公報も遊技機とは異なる分野のものである。そして、甲19?29は遊技機とは分野が異なるが、収納体を封印する技術に関して、構成部品の一部若しくは全部を破壊しない限り内部のものを取り出せないようにし、不正行為の痕跡・形跡が残るようにする技術が周知事項であることを証するものであるとともに、遊技機の分野で変造ROMなどの不正を未然に防止する必要性のあることは当業者にとっては常識であるから、回路基板ボックスを不正行為の痕跡・形跡が残る構成にするために、甲19?29に記載の周知技術を適用することに格別の困難性は認められない。(第8頁第6行?第9頁第4行)

第5.改正前特許法第126条第1項ただし書き違反(訂正の可否)について
1.訂正事項
平成16年6月14日の訂正審判請求は、本件基準明細書を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、次の訂正事項1?4を含んでいる。

訂正事項1:本件基準明細書、請求項1記載の
「 遊技機に設けられる回路基板を被覆する回路基板ボックスにおいて、
該回路基板ボックスは、回路基板を被覆するための構成部品に係る所定の部位を破壊しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段を設けると共に、前記所定の部位を外部に突出して設けたことを特徴とする遊技機の回路基板ボックス。」を、
「 遊技機に設けられる回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックスにおいて、
該回路基板ボックスには、前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段を設け、 前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除されることを特徴とする遊技機の回路基板ボックス。」と訂正する(下線部が訂正箇所)。

訂正事項2:本件基準明細書、段落【0004】記載の
「【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明においては、遊技機に設けられる回路基板を被覆する回路基板ボックスにおいて、該回路基板ボックスは、回路基板を被覆するための構成部品に係る所定の部位を破壊しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段を設けると共に、前記所定の部位を外部に突出して設けたことを特徴とするものである。」を、
「【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明においては、遊技機に設けられる回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックスにおいて、該回路基板ボックスには、前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段を設け、前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除されることを特徴とするものである。」と訂正する(下線部が訂正箇所)。

訂正事項3:本件基準明細書、段落【0005】記載の
「回路基板を被覆するための構成部品に係る所定の部位を破壊しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段が設けられているので、内部に被覆される回路基板を取り出すには、回路基板ボックスの一部又は全部を破壊する以外に方法はなく、仮に回路基板ボックスの一部が破壊されていれば、不正な処理が行われたことが直ちに分かる。また、所定の部位が外部に突出して設けられているので、破壊作業を簡単に行なうことができ、検査を簡単に行なうことができると言う利点がある。」を、
「回路基板を被覆するための構成部品に係る切断部位を切断しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段が設けられているので、内部に被覆される回路基板を取り出すには、回路基板ボックスの一部又は全部を破壊する以外に方法はなく、仮に回路基板ボックスの一部が破壊されていれば、不正な処理が行われたことが直ちに分かる。また、切断部位が回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されているので、切断作業を簡単に行なうことができ、検査を簡単に行なうことができると言う利点がある。」と訂正する(下線部が訂正箇所)。

訂正事項4:本件基準明細書、段落【0039】記載の
「【発明の効果】以上、説明したところから明らかなように、本発明においては、回路基板を被覆するための構成部品に係る所定の部位を破壊しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段が設けられているので、内部に被覆される回路基板を取り出すには、回路基板ボックスの一部又は全部を破壊する以外に方法はなく、仮に回路基板ボックスの一部が破壊されていれば、不正な処理が行われたことが直ちに分かる。また、所定の部位が外部に突出して設けられているので、破壊作業を簡単に行なうことができ、検査を簡単に行なうことができると言う利点がある。」を、
「【発明の効果】以上、説明したところから明らかなように、本発明においては、回路基板を被覆するための構成部品に係る切断部位を切断しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段が設けられているので、内部に被覆される回路基板を取り出すには、回路基板ボックスの一部又は全部を破壊する以外に方法はなく、仮に回路基板ボックスの一部が破壊されていれば、不正な処理が行われたことが直ちに分かる。また、切断部位が回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されているので、切断作業を簡単に行なうことができ、検査を簡単に行なうことができると言う利点がある。」と訂正する(下線部が訂正箇所)。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち「回路基板を被覆する回路基板ボックス」について、「回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックス」とする訂正は、本件基準明細書の段落【0017】の記載に基づくものであって、「回路基板ボックス」を「箱体とカバー体とからなる」ものに限定するものである。
次に、訂正事項1のうち「回路基板を被覆するための構成部品に係る所定の部位を破壊しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段を設けると共に、前記所定の部位を外部に突出して設けた」について、「前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段を設け、
前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」とする訂正は、本件基準明細書の段落【0019】、【0021】、【0024】、【0025】の記載及び図1(A)?(C)に基づくものであって、かつ、「外部に突出して設けた」「構成部品に係る所定の部位」を「カバー体より上方に突出した突出部」に限定し、「破壊しない限りその被覆状態を解除することができない」を「外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない」及び「切断にて前記被覆状態が解除される」に限定し、「固着手段」を「固着部」及び「固着片」からなるものに限定するものである。
ここで、訂正事項1に関して、訂正後の各構成が本件基準明細書に記載した事項の範囲内であるかについて、さらに検討を加える。
a.「箱体とカバー体とからなる回路基板ボックス」とする点
上記段落【0017】の「しかして、回路基板ボックス50は、遊技制御回路基板70を収納支持する箱体51と、該箱体51の上面を閉塞するカバー体60とから組付構成され」という記載から、標記の点が本件基準明細書に記載した事項の範囲内であることは明らかである。

b.「前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着する」点
上記段落【0019】の「箱体51の長手方向両側壁内側には、係止突起57が形成されている。この係止突起57は、カバー体60を箱体51に被覆したときにカバー体60の裏面に垂下形成される係止垂下片66と係合するようになっており、この係止突起57と係止垂下片66との係合状態は、外部から操作してその係合状態を解除することができない固着手段を構成している。」という記載、上記段落【0021】の「カバー体60には、下方に向かって垂下される係止垂下片66が形成されている。」という記載、上記段落【0024】の「係止垂下片66は、・・・その下端に外側に突設する爪部66aが形成されている。」という記載、上記段落【0024】の「係止突起57は、その上面が傾斜面57aとなっており、その下部が鋭角的に切り込まれた係合面57bとなっている。」という記載及び上記段落【0024】の「爪部66aと係合面57bとが係合した状態となる。」という記載から、箱体51の長手方向両側壁内側に形成されている係止突起57、カバー体60に形成されている係止垂下片66及び係止垂下片66の下端に形成されている爪部66aは、それぞれ本件特許発明1の「箱体に設けた固着部」、「カバー体に設けられている固着片」及び「固着片先端の係合部位」であるということができ、爪部66aと係止突起57の係合面57bとが係合した状態となることは「固着部」と「係合部位」を固着することにほかならないから、標記の点は本件基準明細書に記載した事項の範囲内である。

c.「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段」とする点
上記段落【0019】の「箱体51の長手方向両側壁内側には、係止突起57が形成されている。この係止突起57は、カバー体60を箱体51に被覆したときにカバー体60の裏面に垂下形成される係止垂下片66と係合するようになっており、この係止突起57と係止垂下片66との係合状態は、外部から操作してその係合状態を解除することができない固着手段を構成している。」という記載における「カバー体60を箱体51に被覆したときに」、「外部から操作して」及び「その係合状態を解除することができない」は、上記段落【0025】の「このように、本実施形態においては、回路基板ボックス50が遊技制御回路基板70を含む箱体51やカバー体60の複数の構成部品によって組み付け構成される・・・」という記載を合わせて考えると、本件特許発明1の「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに」、「外部からの操作によって」及び「回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない」と同じことを意味する記載である。
そうしてみると、上記段落【0019】の記載における、カバー体60を箱体51に被覆したときに・・・外部から操作してその係合状態を解除することができない固着手段は、本件特許発明1の「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段」にほかならないから、標記の点は本件基準明細書に記載した事項の範囲内である。

d.「前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されて」いる点
上記段落【0019】の「カバー体60の裏面に垂下形成される係止垂下片66」という記載、上記段落【0024】の「図1(B)に示すように、係止垂下片66は、カバー体60に形成された貫通穴66bを貫通して一旦上方に突出された後U字状の曲折されてカバー体60の上面と一体的に接続されて形成され、その下端に外側に突設する爪部66aが形成されている。」という記載及び図1(B)によれば、係止垂下片66は、カバー体60の上面より一旦上方に突出された後、U字状に曲折されてカバー体60に形成された貫通穴66bを貫通し、カバー体60の裏面に垂下して下端に外側に突設する爪部66aが形成されたものであると認められる。
そうしてみると、係止垂下片66(固着片)には、カバー体60の上面から爪部66a(係合部位)までの間(途中位置)にカバー体60(回路基板ボックスのカバー体)の上面より上方に突出された部分(突出部)が形成されていることが分かるから、標記の点は本件基準明細書に記載した事項の範囲内である。

e.「当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」点
上記段落【0024】には「係止垂下片66の爪部66aが傾斜面57aに沿って弾性変形しながら下方に移動し、遂には、爪部66aと係合面57bとが係合した状態となる。」と記載されているが、同段落【0024】の「係止突起57は、・・・その下部が鋭角的に切り込まれた係合面57bとなっている」という記載や図1(B)等を勘案すれば、爪部66aと係合面57bとが係合した状態においては、爪部66aの根元に係合面57bの先端部が位置する、言い換えると、少なくとも係止突起57側面の下部と係止垂下片66側面の爪部66a近傍とが接触するものということができる。
そうしてみると、上記段落【0024】の記載によれば、爪部66aと係合面57bとが係合した状態となる直前には、爪部66aが係止突起57側面の下部に位置しているところ、この時に爪部66a以外の係止垂下片66が弾性変形していないとすれば、その直後においても係止突起57側面と爪部66a以外の係止垂下片66との位置関係はほとんど変わらないから、爪部66aのみが弾性変形してほとんど平らな状態になっていることとなり不合理である。
すなわち、上記段落【0024】の記載によれば、爪部66a以外の係止垂下片66のどこかが弾性変形すると考える方が合理的である。
請求人は審判請求書において訂正事項1により、「突出部」自体の弾性変形が包含され、固着完了後における固着片の弾性変形による固着状態の保持も包含されると主張し(第24頁(1)参照)、弁駁書においても、「固着片」の上方に突出した部分が、固着片が弾性固着する際の弾性付与機能を有するとは記載されていない旨主張しているが(第3頁第8?10行参照)、訂正後の請求項1には「突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着される」と記載されており、“突出部が弾性変形する”及び“固着片が弾性変形することにより固着状態を保持する”と限定しているわけではなく、「固着片が弾性変形する」及び「弾性変形することにより・・・固着される」という事項については、本件基準明細書に記載した事項の範囲内であるから、上記請求人の主張は採用できない。
次に、上記段落【0024】の「係止垂下片66と係止突起57の係合状態は、係止垂下片66の爪部66aを内側に移動させなければならないが、回路基板ボックス50の外側からこのような移動操作はできないので、一旦カバー体60を箱体51に装着した後には、簡単にカバー体60を箱体51から外すことはできない。しかして、これを外そうと思えば、図1(B)に示すように回路基板ボックス50に対して外部に突出している部分をB-B線に沿ってニッパ等で切断して図1(C)に示すように、係止垂下片66をカバー体60から分離させなければならない。」という記載及び上記段落【0025】の「カバー体60を組み付けたときに係止垂下片66と係止突起57とからなる固着手段が設けられているので、内部に被覆される遊技制御回路基板70を取り出すには、カバー体60の一部である係止垂下片66の回路基板ボックス50に対して外部に突出している部位を切断する以外に方法はなく」という記載からみて、本件特許発明1の「突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」点が、本件基準明細書に記載した事項の範囲内であることは明らかである。
以上のとおりであるから、標記の点は本件基準明細書に記載した事項の範囲内である。

(2)訂正事項2?4について
訂正事項2?4は、訂正後の特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載が整合するように、本件基準明細書の段落【0004】、【0005】、【0039】の記載を訂正するものであって、全て上記訂正事項1に対応するものとなっている。
よって、訂正事項2乃至4は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正事項1?4は、いずれも特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的としており、かつ、本件基準明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
したがって、本件特許は、願書に添付した明細書又は図面の訂正が改正前特許法第126条第1項ただし書きの規定に違反してされたものではないから、同法第123条第1項第7号により無効とすべきものということはできない。

第6.改正前特許法第126条第3項違反(進歩性の有無)について
1.本件特許発明1
本件特許発明1は平成16年6月14日の訂正審判請求書に添付した訂正明細書及び図面(以下「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 遊技機に設けられる回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックスにおいて、
該回路基板ボックスには、前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない固着手段を設け、
前記固着片の前記係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除されることを特徴とする遊技機の回路基板ボックス。」

2.証拠方法
請求人が証拠方法として提出した甲1?29は、上記第2.2.に記載したとおりである。
(1)甲4発明
甲4(特開平4-231987号公報)には、図面とともに、
「【0004】また、遊技機が正常に動作しない原因の他の例としては、遊技制御基板に含まれている電子装置を不正に改造して、遊技機を不正に動作させる場合があり、このような場合においても、その不正改造の痕跡が前記遊技制御基板を見ることにより肉眼で容易に発見できるような場合であっても、従来においては、基板用収容体内に収容された遊技制御基板を肉眼で見ることができないため、このような不正改造を容易に発見することが困難となる欠点があった。
【0013】図4は、この発明の第1実施例を備えたパチンコ遊技機の内部構造を示す全体背面図である。遊技盤の裏側には、MPU,RAMやROM等が実装された制御メイン基板を収容した基板ケース17が取り付けられている。
【0020】図1は、基板ケース17の構造を示す分解斜視図である。基板ケース17は、基板収容ボックス本体46、透明カバー体45および開閉カバー体48を備えている。・・・
【0022】基板収容ボックス本体46には、係合孔43が設けられており、透明カバー体45に設けられた爪部47がその係合孔43に挿入される。また、基板収容ボックス本体46に設けられた係合孔58には、透明カバー体45に設けられた係合爪部60が係合する。さらに、基板収容ボックス本体46に設けられた係合孔49には、透明カバー体45に設けられた係合爪部51が係合する。係合孔43、49、58、爪部47、係合爪部51、60によって、透明カバー体45は基板収容ボックス本体46に固定される。これにより、透明カバー体45と基板収容ボックス本体46とで構成される包囲体で遊技制御メイン基板37を包囲し、遊技制御メイン基板37を外部から触れることができないようにしている。透明カバー体45と基板収容ボックス本体46とにわたって封印シール81が貼られる。基板収容ボックス本体46には、採光窓75が設けられている。採光窓75を設けた理由は後で説明する。」
と記載されている。
これらの記載及び図面等からみて、甲4には、
「 遊技制御メイン基板37を包囲する基板収容ボックス本体46と透明カバー体45を備えている基板ケース17において、
該基板ケース17には、前記基板収容ボックス本体46に設けた係合孔43、49及び58と、前記透明カバー体45に設けられている爪部47及び係合爪部51、60とを係合することにより、前記透明カバー体45が前記基板収容ボックス本体46に固定され、前記透明カバー体45と前記基板収容ボックス本体46とにわたって封印シール81が貼られる
パチンコ遊技機の基板ケース17。」
の発明(甲4発明)が開示されていると認めることができる。

(2)甲5記載の技術
甲5(実願昭53-144006号(実開昭55-62085号)のマイクロフィルム)には、弾性を有するU字状のリブ7を係止リブ8に係合して電池蓋を取付けるキャビネットが開示されている。

(3)甲6記載の技術
甲6(実公平2-38370号公報)には、U字状の変形部7に爪5が形成され、該爪5を突部6に係合させてロックを行う電池蓋3が開示されている。

(4)甲7記載の技術
甲7(実願昭50-125035号(実開昭52-39529号)のマイクロフィルム)には、ケース蓋2の先端2bが溝1bに係合するようにケース蓋2を常に押している弾性舌片部1aを備える電池ケース1が開示されている。

(5)甲8記載の技術
甲8(実公昭57-33587号公報)には、ソケット本体1に係止突起5が形成された一対の係止片4を設け、ソケットを装着する装着基板Aの装着孔Bに一対の係止片4を挿入すると弾性力によって係止突起5が装着孔Bの周縁部に係止されるソケットが開示されている。

(6)甲9記載の技術
甲9(実公昭61-5014号公報)には、ピン接続部7を接触子挿入穴4内に挿入すると弾性部材6の係止部5が弾性変形し、完全に挿入されると係止部5がピン接続部7の凹部10の前部と係合するコネクタが開示されている。

(7)甲10記載の技術
甲10(実公昭45-13095号公報)には、蓋体2に本体1の係止部5と係合する凹溝10を穿設した突片11を突設した合成樹脂製容器が開示されている。

(8)甲11記載の技術
甲11(実願昭54-73784号(実開昭55-172109号)のマイクロフィルム)には、容体1および蓋体6に蓋体6の閉姿勢を保持すべく相互に係止する係止片5および10をそれぞれに設けた合成樹脂製コンパクト容器が開示されている。

(9)甲12記載の技術
甲12(実願平1-137636号(実開平3-75153号)のマイクロフィルム)には、蓋体Bの側縁にフランジ部1cに係止する係止部20を成形したプラスチック製の蓋付容器が開示されている。

(10)甲13記載の技術
甲13(実願昭54-130370号(実開昭56-46554号)のマイクロフィルム)には、蓋Bの外側縁7の内面に本体Aの環状突起2を勘合させる環状切欠溝71を設けたプラスチック製の密閉容器が開示されている。

(11)甲14記載の技術
甲14(実願昭54-164697号(実開昭56-81853号)のマイクロフィルム)には、キャップ2の頂壁21に肉薄のヒンジ22を形成し、ヒンジ22に連ねて周壁23へ一対の肉薄破断線24を縦設し、角に爪掛け突部25を突設し、内容物を取り出す時には爪掛け突部25に爪を掛けて強く引き上げ、肉薄破断線24を破断させる封印容器が開示されている。

(12)甲15記載の技術
甲15(実願昭55-88124号(実開昭57-11760号)のマイクロフィルム)には、硬質プラスチックよりなる帯状板(1)の両側縁に互いに対向するコ状係合縁(2)を付設し、その縁内に容器(5)における外向フランジ(6)を嵌合係止し、帯状板(1)の他の両側縁に舌片(3)を突設し、それを下向折曲した封印効果を備える容器(5)が開示されている。

(13)甲16記載の技術
甲16(特開平1-139363号公報)には、空間1を蓋5でシールする容器において、蓋5の突き出た部分を蓋引きはがし用のつまみとし、そのつまみを引っ張ると第2の継ぎ目9が破壊されて、第1の継ぎ目6の境界線8に達するまで蓋5を引きはがすことができ、空間1の内容物を流出させることを可能とする技術が開示されている。

(14)甲17記載の技術
甲17(実願昭61-106465号(実開昭63-13871号)のマイクロフィルム)には、小型容器1の外向きフランジ2の張出部4に対応する蓋片5の張出部6に、蓋片5を引裂いて抽出口9を開口させるための摘み片9を突設する技術が開示されている。

(15)甲18記載の技術
甲18(グリコ乳業株式会社のホームページの抜粋)には、容器の底につけた突起を折ってプリンを容器から出し易くしたプリン容器が開示されている。

(16)甲19記載の技術
甲19(実願昭61-98744号(実開昭63-3915号)のマイクロフィルム)には、薬、菓子等の内容物を収納するための箱において、開封に際しては、天板(11)に設けた開封部(10)を破って内容物を取り出すようにして、使用前に内容物に対する不正使用を防止できる技術が開示されている。

(17)甲20記載の技術
甲20(実公平3-12653号公報)には、紙材により組み立てられた箱体の開口縁に形成したフラップの一辺に、この一辺と交差する複数の切れ目又は開口を形成し、フラップを閉じて接着テープにより箱体を封緘した後にその接着テープを剥がすと、切れ目又は開口の切断縁からフラップが破壊され、開梱の形跡が残される技術が開示されている。

(18)甲21記載の技術
甲21(実公平2-37717号公報)には、化粧用壜容器等を収容する外装容器において、一旦開封すると帯部6が切断されてしまうために、開封の事実が明らかとなり、最終消費者が自ら開封するまでは内容物の未使用が保証される技術が開示されている。

(19)甲22記載の技術
甲22(実公昭60-27412号公報)には、ガス等のメーター用の封印具において、本体部12の肉薄部16をさらに凹溝20によって一部的に極く肉薄に形成することにより、封印体Aをこじ開けようとすると破壊されて不正開封を発見できるようにする技術が開示されている。

(20)甲23記載の技術
甲23(実公平2-10547号公報)には、電力量計器等の閉鎖箇所を固定する固定金具を封印する封印具において、張出片部2の内壁面に切込溝8を設けることにより、封印具の張出片部2等を動かそうとすれば、張出片部2の先端部分が切離され、不正行為が行われたことが明瞭に看取されるようにする技術が開示されている。

(21)甲24記載の技術
甲24(実公平4-1583号公報)には、計器箱の不正な開閉を防止するための封印具において、封印具本体1の水平片部2及び垂直片部3の表面に圧潰し易いように先鋭状としたリブ7を突設することにより、封印具を回そうとする行為によりリブ7の形が崩れて不正を行おうとした跡が残るようにする技術が開示されている。

(22)甲25記載の技術
甲25(実公平4-3333号公報)には、積算電力計等の封印ねじの頭部を隠蔽させる封印具において、本体部材1の外側壁2の上部を肉薄にすることにより、不正行為に伴う衝撃が加えられると封印具を修復不能に破断されるようにして不正行為があったことを速やかに発見できるようにする技術が開示されている。

(23)甲26記載の技術
甲26(実公昭63-6047号公報)には、合成樹脂製のキャップにおいて、嵌合されたキャップを開栓方向に回動させると、キャップのスカート2に設けられた上部弱化ライン3aが破壊されるようにして、内容物の詰め替えなどの不正が防止できる技術が開示されている。

(24)甲27記載の技術
甲27(実願昭53-91825号(実開昭55-9550号)のマイクロフィルム)には、通信機器の筐体の封印機構において、封印キャップの外周に溝11が形成されており、開封時には治具を用いて溝11に沿って切断する技術が開示されている。

(25)甲28記載の技術
甲28(特開平5-41466号公報)には、半導体装置において、半導体素子をモールド樹脂3で覆う技術が開示されている。

(26)甲29記載の技術
甲29(特開平5-42790号公報)には、ICカードにおいて、チップ状部品4を樹脂モールド部5で封入する技術が開示されている。

3.本件特許発明1と甲4発明との対比
そこで、本件特許発明と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「パチンコ遊技機」は、本件特許発明1の「遊技機」に相当し、以下同様に、
「遊技制御メイン基板37」は「遊技機に設けられる回路基板」に、
「包囲する」は「被覆するための」に、
「基板収容ボックス本体46」は「箱体」に、
「透明カバー体45」は「カバー体」に、
「を備えている」は「とからなる」に、
「基板ケース17」は「回路基板ボックス」に、
「係合孔43、49及び58」は「固着部」に、
「係合する」は「固着する」に、それぞれ相当する。
また、甲4の記載全体から見て、次のことがいえる。
a.甲4発明の「爪部47及び係合爪部51、60」は、図面から見て先端部分に「係合孔43、49及び58」と係合する部分があるので、いずれも本件特許発明1の「固着片」又は「固着片先端の係合部位」に相当するものということができる。

b.甲4発明は、「係合孔43、49及び58」と「爪部47及び係合爪部51、60」とを係合することにより、「透明カバー体45」が「基板収容ボックス本体46」に固定されるものであるから、甲4発明の「基板ケース17」には、「基板収容ボックス本体46」と「透明カバー体45」を一旦組み付けたときに固定する固着手段を設けているということができる。

以上を総合すると、両者は、
「 遊技機に設けられる回路基板を被覆するための箱体とカバー体とからなる回路基板ボックスにおいて、
該回路基板ボックスには、前記箱体に設けた固着部と前記カバー体に設けられている固着片先端の係合部位とを固着することにより、前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに固定する固着手段を設けている遊技機の回路基板ボックス。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]本件特許発明1の「固着手段」は、「前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない」ものであるのに対して、甲4発明の「固着手段」は、「前記基板収容ボックス本体46<本件特許発明1の「箱体」に相当>と「透明カバー体45」<本件特許発明1の「カバー体」に相当>を一旦組み付けたときに、基板ケース17における遊技制御メイン基板37の包囲状態を解除できない構造とはなっていない点。

[相違点2]本件特許発明1は、「カバー体に設けられている固着片」について、「係合部位までの途中位置の形状は、前記回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されており、当該突出部を含む固着片が弾性変形することにより前記係合部位と前記箱体の固着部とが固着されると共に、当該突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」ものとなっているのに対し、甲4発明は「爪部47及び係合爪部51、60」について格別その形状や「爪部47及び係合爪部51、60」との係合のさせ方、外し方に関して特定されていない点。

4.当審の判断
[相違点1について]
甲4発明は「封印シール81」が貼られるものであるが、この「封印シール81」は基板ケース17の外側に貼り付けるものであるから剥すことができないものではなく、剥してしまえば、爪部47及び係合爪部51、60を外部から触れて操作することにより、基板収容ボックス本体46と透明カバー体45を分離することができ、基板収容ボックス本体46と透明カバー体45を破壊することなく基板ケース17を開け、その後にもとの状態に戻すことができるものであって、本件特許発明1の固着手段のように前記箱体と前記カバー体を一旦組み付けたときに外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できないというものではない。
この点については、請求人も、甲4発明は爪部47や係合爪部51、60を外部から触れて操作することが可能なものであると認めている(弁駁書の第4頁第21、22行)。
そして、本件特許発明1は本件特許明細書の段落【0003】に記載されるように、「封印紙を剥し、内部のROMを交換して再度封印紙を貼り付ける不正行為」が行われないようにすることを、発明が解決しようとする課題としているものである。
請求人はまた、上記第4.2.(1)に記載したとおり、弁駁書の第4頁7(2)(i) において、
「 被請求人は、「固着手段」が外部から「操作」できないものとする一方、切断可能な「固着手段」の突出部の「切断」を「操作」から除外しているが、「切断」も外部から触れるという点で外部からの「操作」と変わりはない。
そうすると、甲4発明の爪部47や係合爪部51、60は外部から触れて「操作」することも「切断」することも可能であるが、本件特許発明1における「固着手段」の「突出部」と何等変わりはない。」と主張している。
しかし、請求項1における「外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない」という記載と「突出部の切断にて前記被覆状態が解除される」という記載は、上記第5.2.(1)に記載したとおり、それぞれ本件基準明細書の記載に基づいて訂正されたものであり、かつ、それらの記載が矛盾しないものであることは発明の詳細な説明全体の記載からみて明らかであって、「操作」が広義には「切断」を含むものであるとしても、請求項1における「操作」は操作後に処理工作が行われたことが直ちに分かることのないような操作を意味するものであって、少なくとも「固着片の切断」は除かれているものと認められる。
よって、甲4発明の爪部47や係合爪部51、60が、本件特許発明1における「固着手段」の「突出部」と何等変わりはないという請求人の主張は採用できず、また、固着手段自体を固着後は「外部からの操作によって回路基板ボックスにおける回路基板の被覆状態を解除できない」ようにすることが、遊技機の分野において従来公知でも周知でもない以上、甲14?18に記載されるように密封・密閉容器の突出部分を破壊・切断して密封解除する技術が従来周知であり、甲19?29に記載されるように内部に収納物を収納した収納体を封印する技術に関して構成部品の一部若しくは全部を破壊しない限り内部のものを取り出せないようにする技術が従来周知であったとしても、甲4発明の「係合孔43、49及び58」と「爪部47及び係合爪部51、60」を、外部からの操作によって基板ケース17における遊技制御メイン基板37の包囲状態を解除できないような構成にしようとすることが当業者にとって容易であったということはできない。

[相違点2について]
甲4発明の爪部47及び係合爪部51、60<本件特許発明1の「カバー体に設けられている固着片や固着片先端の係合部位」に相当>は、「係合孔43、49及び58」<本件特許発明1の「箱体に設けた固着部」に相当>との係合のさせ方が明らかではないが、それらが係合することにより「透明カバー体45は基板収容ボックス本体46に固定される」(段落【0022】)こと、甲5?13に記載されるように樹脂等の弾性変形によって係合が行われ容器を固着・固定する技術は従来周知であることを考慮すると、甲4発明の爪部47及び係合爪部51、60が弾性変形することにより該爪部47及び係合爪部51、60と係合孔43、49及び58との係合が行われるようにして、透明カバー体45を基板収容ボックス本体46に固定(固着)することは当業者が容易に想到し得る。
しかし、上記[相違点1について]の項で述べたように、甲4発明の爪部47及び係合爪部51、60は外部から触れて操作することにより、基板収容ボックス本体46と透明カバー体45を分離することができるものであるから、その爪部47及び係合爪部51、60を切断し易くして基板ケース17における遊技制御メイン基板37の包囲状態を解除しようという発想は生じないと判断される。
したがって、甲14?18に記載されるように密封・密閉容器の突出部分を破壊・切断して密封解除する技術が従来周知であり、甲19?29に記載されるように内部に収納物を収納した収納体を封印する技術に関して構成部品の一部若しくは全部を破壊しない限り内部のものを取り出せないようにする技術が従来周知であったとしても、甲4発明の爪部47及び係合爪部51、60の一部に突出部を形成し、該突出部の切断によって基板ケース17における遊技制御メイン基板37の包囲状態が解除されるように構成にしようとすることが当業者にとって容易であったということはできない。

そして、本件特許発明1の該固着手段の構成により、本件特許明細書の【0039】に記載されるように「回路基板を被覆するための構成部品に係る切断部位を切断しない限りその被覆状態を解除することができない固着手段が設けられているので、内部に被覆される回路基板を取り出すには、回路基板ボックスの一部又は全部を破壊する以外に方法はなく、仮に回路基板ボックスの一部が破壊されていれば、不正な処理が行われたことが直ちに分かる。また、切断部位が回路基板ボックスのカバー体より上方に突出した突出部として形成されているので、切断作業を簡単に行なうことができ、検査を簡単に行なうことができると言う利点がある。」という甲4発明では得られない格別の効果を奏するものである。

以上検討したことから、本件特許発明1は、甲4発明に甲5?29に記載の周知技術を組み合わせることで当業者が容易に想到し得たものではない。

5.本件特許発明2
本件特許発明2は本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 前記回路基板ボックスは、前記回路基板のハンダ面が外部から透視し得ることを特徴とする請求項1記載の遊技機の回路基板ボックス。」

請求人は、甲4には「回路基板ボックスは、前記回路基板のハンダ面が外部から透視し得る」ように構成される点が開示されているので、本件特許発明2は甲4発明に甲5?29に記載の周知の発明を組み合わせることで、当業者が容易に成し得る程度のものに過ぎないと主張している。
確かに、甲4の段落【0042】には「遊技制御メイン基板37全体を透明カバー体で覆ってもよい。このようにすれば、遊技制御メイン基板37の裏面(つまり、電子部品同士を接続する配線パターンが形成されている面)を、封印を剥がすことなく検査することができる。」と記載されているので、甲4には「回路基板ボックスは、前記回路基板のハンダ面が外部から透視し得る」ように構成される点が開示されていると認められるが、本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備えているので、上記4.で述べたと同じ理由により、甲4発明に甲5?29に記載の周知技術を組み合わせることで当業者が容易に想到し得たものではない。

6.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び2は、甲4発明及び甲5?29に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
したがって、本件特許は、願書に添付した明細書又は図面の訂正が改正前特許法第126条第3項の規定に違反してされたものではないから、同法第123条第1項第7号により無効とすべきものということはできない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1及び2の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-11 
結審通知日 2009-06-18 
審決日 2009-06-30 
出願番号 特願平10-52848
審決分類 P 1 113・ 841- Y (A63F)
P 1 113・ 856- Y (A63F)
P 1 113・ 853- Y (A63F)
P 1 113・ 851- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 英司土屋 保光  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 深田 高義
伊藤 陽
登録日 2002-02-01 
登録番号 特許第3274408号(P3274408)
発明の名称 遊技機の回路基板ボックス  
代理人 池垣 彰彦  
代理人 振角 正一  
代理人 根本 恵司  
代理人 杉山 猛  
代理人 梁瀬 右司  
代理人 川下 清  
代理人 加治 信貴  

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