• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16J
管理番号 1203038
審判番号 不服2006-13162  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-22 
確定日 2009-09-04 
事件の表示 平成10年特許願第224217号「分割型ブーツ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月18日出願公開、特開2000- 18385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項に新たに実施の形態を追加した、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成10年8月7日(優先日、平成10年4月28日、出願番号:特願平10-117671)の出願であって、平成18年5月15日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年6月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたところ、当審において、平成20年1月11日(起案日)付けで平成18年6月22日付け手続補正は決定をもって却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年2月12日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたところ、当審において平成20年4月28日(起案日)付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年5月27日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成10年11月4日付け、平成18年3月16日付け、平成20年2月12日付け及び平成20年5月27日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は以下のとおりのものである。

「【請求項2】
円周方向所要箇所に軸方向に延びる分割部(42)を有するブーツ(4)の全体がポリウレタン系熱可塑性エラストマで成形され、
前記分割部(42)で円周方向に互いに対向する分割端部(43,44)にそれぞれブーツ(4)の断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な雄型係合突条(45)及び雌型係合溝(46)が形成され、
前記分割端部(43,44)は、内側にのみ突出し、前記ブーツ本体(1)の肉厚に比べ厚い肉厚とし、
前記雄型係合突条(22)は、首部(22a)と、この首部(22a)の先端に拡張形成された頭部(22b)とを有し、前記雌型係合溝(31)は、前記雄型係合突条(22)と対応する断面形状を呈しており、
前記分割端部(43,44)が前記雄型係合突条(45)及び雌型係合溝(46)同士で雌雄係合される際に、その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して、雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着されることを特徴とする分割型ブーツ。」

3.本願発明2に係る優先権主張に関する検討
本願発明2は、上記のとおりのものである。
ここで、本願発明2に対する国内優先権主張の適否について検討すると、まず、形式的にみて、本願発明2の実施の態様である、「ブーツ本体と第一及び第二の係合部材とを熱可塑性エラストマからなる一体ものとしたタイプ」は、国内優先権主張のもととなった特願平10-117671に係る願書に添付した明細書又は図面に明記されたものではなく、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成10年8月7日の出願時に新たに追加されたものと解せられる。
次に実体的にみると、国内優先権主張のもととなった特願平10-117671に係る願書に添付した明細書又は図面には、その特許請求の範囲、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の実施の形態、及び図面の記載からみて、「軸方向両端に取付部を有し円周方向所要個所に軸方向に延びる分割部を有するブーツ本体と、前記分割部で円周方向に互いに対向する分割端部にそれぞれ一体的に埋設され前記ブーツ本体の断面形状に沿って延在された熱可塑性エラストマからなる第一及び第二の係合部材とを備え、この第一及び第二の係合部材は互いに雌雄嵌合されると共にその嵌合面同士が互いに溶着又は融着されることを特徴とする分割型ブーツ。」としたことにより課題を解決したものと解することができ、その実施の態様として、「ゴムからなるブーツ本体の分割端部に、これとは別部材である熱可塑性エラストマからなる第一及び第二の係合部材を埋設したタイプ」のものが記載されていると認めることができるものの、上述のとおり「ブーツ本体と第一及び第二の係合部材とを熱可塑性エラストマからなる一体ものとしたタイプ」の実施の態様は記載も示唆も全くされておらず、しかも上記記載内容から自明な事項と言えるものでもない。
してみると、本願発明2は、国内優先権主張のもととなる特願平10-117671に係る願書に添付した明細書又は図面に記載されたものでなく、また当該記載内容から当業者に自明のものということもできないものである。
よって、本願発明2については、特願平10-117671号に基づく国内優先権主張の効果は認められない。
そこで、本願発明2は、本願の現実の出願日である平成10年8月7日に出願がなされたものとして、刊行物に記載された発明との対比・判断を行う。

4.本願出願前日本国内において頒布された引用刊行物
(4-1)刊行物a
当審において先に通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭61-10483号(実開昭62-122925号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物a」という。)には、「フレキシブルブーツ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ア〕「筒状ブーツの開口部一端から他端に至る側部が分断され、被覆する所定ジョイント側面から装着せしめるフレキシブルブーツにおいて、一方の分断端面から突設され、自身の側面に沿って係止段部を膨出形成し、この係止段部から先端に向って窄むテーパーを付した帯状の差込片を延設し、差込片の係止段部に係合する張出片を自身の開口内側縁に突設した嵌合凹部を他方の分断端面に沿って延設したことを特徴とするフレキシブルブーツ。」(実用新案登録請求の範囲参照。)
〔イ〕「[作用]
すなわち、この考案によれば、差込片を嵌合凹部内に強制嵌合したときに、差込片の係止段部が嵌合凹部の張出片に係合して差込片が固定され、接着剤が乾燥してブーツ側部が完全に密封されるまで差込片の抜脱を防止し、差込片全体を一定の幅で確実に接着するものである。」(第2ページ第3行?第9行参照。)
〔ウ〕「尚、この考案フレキシブルブーツは、合成ゴム材など可撓性を有する材質で形成し、特に嵌合凹部5の開口部分は、差込片2を強制嵌入したときに、自身の弾性で元の開口形状に復元するようにしてある。」(第6ページ第2行?第6行参照。)
〔エ〕「而してこの考案を装着するには、所定の接着剤を差込片2に塗布し、或いは嵌合凹部5に充填した後に、差込片2を嵌合凹部5内に強制的に差込んで、ドライブシャフト8及び等速ジョイントのハウジング9等に所定の緊締ベルト7を用いて固定する。」(第6ページ第9行?第14行参照。)
〔オ〕「すなわち、筒状ブーツの開口部一端から他端に至る側部が分断され、被覆する所定ジョイント側面から装着せしめるフレキシブルブーツにおいて、一方の分断端面から突出し、自身の側面に沿って係止段部3が膨出形成され、この係止段部3から先端に向かって窄むテーパー4を付した帯状の差込片2を延設し、差込片2の係止段部3に係合する張出片6を自身の開口内側縁に突設した嵌合凹部5を他方の分断端面に沿って延設したことにより、差込片2と嵌合凹部5とを嵌合させるのみで、分断端面を接合させた状態に固定できる。したがって、分断端面に接着剤を塗布して接合し、接着剤の乾燥硬化を待ってこれを密封する際に、差込片2と嵌合凹部5とを嵌合させるのみで良く、ブーツ1装着後の密封作業を極めて容易に行なえる。」(第6ページ第18行?第7ページ第12行参照。)
〔カ〕また、特に第2図の記載から、「差込片2は、首部と、この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し、嵌合凹部5は、前記差込片2と対応する断面形状を呈して」いることが見てとれる。
〔キ〕また、上記摘記事項〔エ〕及び第3図の記載から、「ブーツ1は、軸方向両端に取付部を有している」ことが見てとれる。

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物aには、次の発明(以下、「刊行物aの発明」という。)が記載されているものと認める。

《刊行物aの発明》
「円周方向所要箇所に軸方向に延びる分断部を有するブーツ1の全体が合成ゴム材など可撓性を有する材質からなり、
前記分断部で円周方向に互いに対向する分断端部にそれぞれブーツ1の断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な差込片2及び嵌合凹部5が形成され、
前記分断端部は、前記ブーツ1の肉厚と同等の肉厚とし、
前記差込片2は、首部と、この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し、前記嵌合凹部5は、前記差込片2と対応する断面形状を呈しており、
前記分断端部が前記差込片2及び嵌合凹部5同士で雌雄係合される際に、その接合面となる部分に、接着剤により、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに接着されるフレキシブルブーツ。」

(4-2)刊行物b
当審において先に通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-96318号公報(以下、「刊行物b」という。)には、「樹脂製自在軸継手用ブーツ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ク〕「この際、使用する成形材料の種類としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。」(段落【0023】参照。)

(4-3)刊行物c
当審において先に通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-150656号公報(以下、「刊行物c」という。)には、「ブーツのブロー成形装置及びその製造方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔ケ〕「ブーツの材質は、熱可塑性エラストマーであって、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーおよびポリアミド系エラストマー等が使用される。これらは、弾性プラスチックの性質を有するものである。」(段落【0042】参照。)

(4-4)刊行物d
当審において先に通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-177972号公報(以下、「刊行物d」という。)には、「ドライブシャフト用組立式ブーツ」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔コ〕「次に図2は図1上のBーB’断面図であり、上半の斜線分は上半片1の断面、下半の斜線分は下半片2の断面である。また1’は上半片1に付帯する突起帯の断面、2’は下半片2に付帯する突起帯の断面、更に1”は上半片1に付帯する溝帯の断面、2”は下半片2に付帯する溝帯の断面である。
次に図3は図2上のAーA’断面であり左側の斜線部分は突起帯1’の断面、右側の斜線部分は突起帯2の断面である。次に図4は図2上における結合部の拡大図である。この図で見るごとく突起帯は二重顎となっており、入りやすく抜け難い構造を備えている。」(段落【0009】及び【0010】参照。)
〔サ〕また、図2及び図4の記載から、「結合部は、内側にのみ突出し、ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし」たことが見てとれる。

(4-5)刊行物e
当審において先に通知した拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭64-40322号公報(以下、「刊行物e」という。)には、「二輪車用チューブの接合方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。
〔シ〕「尚、ここで二輪車用チューブの素材として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる場合について、好適な接着剤を例示すれば、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の単独又は混合溶剤をそのまま用いるか、あるいはかかる溶剤に更に熱可塑性ポリウレタン樹脂を適宜溶解させたもの等が挙げられる。」(第3ページ右下欄第3行?第10行参照。)

5.対比
本願発明2と刊行物aの発明とを対比すると、機能及び構成から見て刊行物aの発明の「分断部」は本願発明2の「分割部」に相当し、以下同様に、「ブーツ1」は「ブーツ本体」に、「分断端部」は「分割端部」に、「差込片2」は「雄型係合突条」に、「嵌合凹部5」は「雌型係合溝」に、「首部」は「首部」に、「頭部」は「頭部」に、「フレキシブルブーツ」は「分割型ブーツ」に、それぞれ相当する。そして、刊行物aの発明の「合成ゴム材など可撓性を有する材質」は、ブーツの材料であって、可撓性を有する材質という限りにおいて、本願発明2の「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」に対応するものである。また、刊行物aの発明の接着剤による「接着」は、樹脂の接合手段という限りにおいて、本願発明2の溶剤による「溶着」に対応するものである。
したがって、本願発明2の用語に倣って記載すると、両者は、
「円周方向所要箇所に軸方向に延びる分割部を有するブーツの全体が可撓性を有する材質で成形され、
前記分割部で円周方向に互いに対向する分割端部にそれぞれブーツの断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な雄型係合突条及び雌型係合溝が形成され、
前記雄型係合突条は、首部と、この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し、前記雌型係合溝は、前記雄型係合突条と対応する断面形状を呈しており、
前記分割端部が前記雄型係合突条及び雌型係合溝同士で雌雄係合される際に、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに接合される分割型ブーツ。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願発明2は、「ブーツの全体がポリウレタン系熱可塑性エラストマで成形され」たものであるのに対し、刊行物aの発明は、ブーツ全体の材料は「合成ゴム材など可撓性を有する材質」であって、これを特に「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」とは特定していない点。
[相違点2]
本願発明2は、「前記分割端部は、内側にのみ突出し、前記ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚と」されているのに対し、刊行物aの発明は、分割端部は、内側にも外側にも突出しておらず、ブーツ本体の肉厚と同等の肉厚とされている点。
[相違点3]
本願発明2は、雄型係合突条及び雌型係合溝同士の互いの雌雄係合による合せ面の接合手段が、溶剤による「溶着」であって、しかも「前記分割端部が前記雄型係合突条及び雌型係合溝同士で雌雄係合される際に、その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して、雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着される」ものであるのに対し、刊行物aの発明は、接着剤による「接着」である点。

6.当審の判断
上記各相違点について、以下に検討する。
[相違点1]について
そもそも、ブーツ全体の材料として何を選択するかは、求められる種々の要求を考慮して当業者が適宜選択すべき事項であるところ、刊行物b及び刊行物cには、ブーツ全体の材料として「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」を用いることが記載されている(それぞれ、上記摘記事項〔ク〕及び〔ケ〕を参照。)。
してみると、刊行物aの発明及び上記刊行物b及びcに記載の事項に接した当業者であれば、刊行物aの発明において、ブーツ全体の材料として「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」を採用して上記相違点1に係る本願発明2の構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである。
[相違点2]について
分割型ブーツにおいて、その分割端部の肉厚をブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とするか否か、そして厚くする場合には、全体的に厚くするのか、一方に突出させて厚くするのか等は、当業者が適宜選択する設計事項と認められるところ、刊行物d(特に、図2及び図4参照。)には、当に「分割端部は、内側にのみ突出し、ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし」たものが開示されている。
してみると、刊行物aの発明及び上記刊行物dに記載の事項に接した当業者であれば、刊行物aの発明において、「分割端部は、内側にのみ突出し、ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし」て上記相違点2に係る本願発明2の構成とすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである。
[相違点3]について
樹脂の接合方法として、接着剤による接着、溶剤による溶着は、いずれも例示するまでもない周知慣用手段であり、当業者は、その接合する部材の材料等に応じて適宜好適な接合方法を採用し得ることはいうまでもない。
また、溶剤による溶着を採用する際には、当業者は適宜その接合する部材の材料に応じて好適な「溶剤」を選択することが必要であるが、この点に関して、刊行物e(上記摘記事項〔シ〕参照。)には、二輪車用チューブの接合方法に関するものではあるものの、「ポリウレタン系熱可塑性エラストマ」という材料に好ましい溶剤として「ジメチルホルムアミド溶剤」が一例として例示されている。
そして、接合面全体に溶剤を行きわたらせるために、その接合面となる部分に液状の溶剤を滴下して毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることは、例示するまでもない一般的な周知慣用手段にすぎない。
してみると、刊行物aの発明及び上記刊行物eに記載の事項に接した当業者であれば、刊行物aの発明の互いの雌雄係合による合せ面の接合手段として、「接着剤による接着」に代えて上記周知慣用手段である「溶剤による溶着」を採用し、その際にブーツ全体の材料に適した溶剤(「ジメチルホルムアミド溶剤」)を選択し、その接合面となる部分に溶剤を滴下して毛細管現象により接合面全体に行きわたらせるようにすることは、格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである。そして、そのようにしたものが、「前記分割端部が前記雄型係合突条及び雌型係合溝同士で雌雄係合される際に、その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して、雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着される」ものとなることは明らかである。

そして、本願発明2の総合的な作用・効果をみても、上記刊行物aないしeに記載された発明に接した当業者が予測できる範囲内のものであって、格別のものということはできない。組合せによって、単なる総和以上の当業者に予測不能な新たな作用・効果が生じているものと認めることもできない。

したがって、本願発明2は、刊行物aないしeに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成20年5月27日付け意見書(2、本願発明が特許されるべき理由、<理由1>に対して、(2)ないし(12)を参照。)において、
『(2)構成要件上の違い
審判官殿が引用された刊行物1乃至8には、本願発明の構成要件の一部である下記事項については、何等開示されていない。
「ポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなるものであって、前記分割端部は、内側にのみ突出し、前記ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし、この第一及び第二の係合部材に、それぞれ前記ブーツ本体の断面形状に沿ってその軸方向全域に延びると共に互いに雌雄係合可能な雄型係合突条及び雌型係合溝が形成され、
前記雄型係合突条は、首部と、この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し、前記雌型係合溝は、前記雄型係合突条と対応する断面形状を呈しており、この雄型係合突条と雌型係合溝同士が互いに雌雄係合される際に、その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して、雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着される」点。
(3)作用効果上の違い
本願発明は、上記各刊行物に開示されていない構成要件とすることによって、各刊行物によっては期待することの出来ない、「第一及び第二の係合部材は、ブーツ本体の断面形状に沿って連続して延びるものであるため結合状態が安定し、しかもこの第一及び第二の係合部材はジメチルホルムアミド溶剤による溶着によって、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの連続組織を介して接合されるので、前記分割部がその全長にわたって完全に密閉され、優れたシール性を確保することができる。また、前記接合部がポリウレタン系熱可塑性エラストマーの連続組織からなるためその疲労耐久性も向上し、前記シール性を長期にわたって維持することができる。」(【0056】記載)効果を発揮するものである。
(4)刊行物1との違い
審判官殿が認定の通り、刊行物1には、「「合成ゴム材など可撓性を有する材質からなり軸方向両端に取付部を有し円周方向所要箇所に軸方向に延びる分断部を有するブーツ1の前記分断部で円周方向に互いに対向する分断端部にそれぞれ前記ブーツ1の断面形状に沿って延在された第一及び第二の係合部を備え、この第一及び第二の係合部に、それぞれ前記ブーツ1の断面形状に沿ってその軸方向全域に延びると共に互いに雌雄係合可能な差込片2及び嵌合凹部5が形成され、この差込片2と嵌合凹部5同士が互いに雌雄係合されると共にその互いの雌雄係合による合せ面が互いに接着剤により接合されるフレキシブルブーツ。」が開示されていることは認める。
ブーツの材質は、合成ゴムであり、本願発明の溶剤により溶着させる技術を適用できないこと明らかである。
また、刊行物3に開示されている発明は、刊行物1と同様、接着剤を使用して接合するもので、本願発明の従来技術に相当するものである。【0003】記載。
このため、刊行物3に開示されている発明は、接着剤層が疲労によってクラック等の劣化を生じ、自在継手内のグリースが漏洩する問題を惹起するものである。【0004】記載。
更に、分割端部の形状は、本願の比較例4に相当するもので、シール性及び耐久性が本願発明に比べ劣ること明らかである。本願図11参照。
(5)刊行物2、3との違い
刊行物2、3は、本願発明の分割ブーツに係るものではなく、単にブーツ材料を網羅的に記載しているに過ぎない。
(6)刊行物4との違い
審判官殿が御指摘の様に、肉厚部は開示されているが、従来技術における、接着面の剥がれを防止するために、接着面を互いに異極として着磁させ、磁石の吸着作用により、剥がれを防止せんとするもので、その問題点・課題において、本願発明とは全く相違する。
(7)刊行物5との違い
確かに、審判官殿が指摘のように、刊行物5には、熱可塑性合成樹脂からなるブーツの分割面を超音波等により溶着する点は記載されているが、その分割面は図3に示す様な単純形状であり、本願の比較例3に相当するもので、シール性及び耐久性が本願発明に比べ劣ること明らかである。本願図11参照。
また、超音波等によって熱溶着させる方法は、分割ブーツのような複雑形状で、かつ限られた作業空間では、本願発明の溶剤により溶着させるものに比べ、作業効率が悪い。
(8)刊行物6との違い
本願発明は、自在継手用の補修用としての分割ブーツの装着方法であり、狭い作業空間で、短時間で、複雑な蛇腹形状のものを接合しなければならないものである。 一方、引用文献6は、チューブを生産する際の、チューブ端部同士の接合に係る技術であり、作業空間や作業時間の拘束が無い状態で、チューブという極めて単純な形状の接合に係るものであり、本願発明とは、技術分野及び技術的基盤を全く異にする。
このことは、本願発明では採用困難な、高周波、超音波等によって熱溶着させる方法でもさしつかない旨記載していることからも明らかである。
また、引用文献6は、本願発明の複雑な蛇腹形状の分割面部分を毛細管現象を利用して接合する考え方が、全く入る余地の無い技術である。
(9)刊行物7との違い
刊行物7に開示された発明は、分割面に点在させたおす結合部と係合めす部とを結合させ、物理的な結合力のみによって、分割面の一体化を図る技術に係るもので、本願発明とは、その構成及び効果において全く相違する。
(10)刊行物8との違い
刊行物8に開示された発明は、ゴム状弾性体で形成された、小径リング部と大径リング部との間が蛇腹部とされ、前記小径リング部から大径リング部まで直線状に分割部が形成され、該分割部が厚肉部とされるとともにシールファスナーが配され、該シールファスナーが、前記一方の分割部の端縁に沿つて形成され、先端に膨出係止部を備えた帯状の咬合凸条部と、他方の分割部の端縁に沿つてゴム状弾性体で形成され、前記咬合凸条部と咬合する咬合溝を備えた帯状の被咬合部とからなる構造である自在継手用ブーツである。
そして、咬合溝に埋設した挟持インサート8により、咬合凸条部を挟持することによって、分割面の一体化を図る技術に係るもので(【0022】記載)、本願発明とは、その構成及び効果において全く相違する。
特に、刊行物8に開示された発明は、咬合凸条部5または被咬合部9にシリコーンオイルを塗布して咬合作業を行い、取外す場合は、強制的に咬合凸条部5と被咬合部9との咬合状態を解除するもので、本願発明の様に、分割面を溶着してブーツ全体を均一・一体化を図り、シール性と耐久性の良好な分割型ブーツとは技術的基盤を全く異にする。
(11)対比・判断の誤り
審判官殿は、「刊行物5には、熱可塑性合成樹脂からなる割りブーツにおいて、「溶着」により接合することが記載されている(上記摘記事項〔ス〕参照。)。」旨指摘している。
しかし、その記載内容は「・・・超音波、振動、電磁波あるいは熱などを適宜方法により加えることによって溶着される。」であり、溶着と記載はされているが、内容は融着であること明らかである。
従って、審判官殿は、刊行物5の開示内容を、本願発明と同じ溶剤による溶着と認定した、認定判断の誤りがある。
(12)各刊行物を組み合わせることの困難性ついて
審判官殿は、「請求項1に係る発明は、刊行物1ないし8に記載された発明に基づいて、請求項2に係る発明は、刊行物1ないし6に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、両者とも特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」旨指摘されているが、刊行物を6件以上組み合わせなければ、本願発明に至らないこと自体で、十分進歩性があるものである。
更に、審判官殿は、刊行物5の認定判断を誤っている。
従って、各刊行物を組み合わせたとしても、本願発明になり得ないこと明らかである。』
と主張しているので、これら(2)ないし(12)の点について以下に検討する。

(2)ないし(10)について
これらのうち特に(2)、(3)は、請求項1に係る発明について主張しており、本願発明2(請求項2に係る発明)についてのものではないが、請求項2に係る発明の構成要件の一部である「ポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなるものであって、前記分割部で円周方向に互いに対向する分割端部にそれぞれブーツの断面形状に沿って延び互いに雌雄係合可能な雄型係合突条及び雌型係合溝が形成され、
前記分割端部は、内側にのみ突出し、前記ブーツ本体の肉厚に比べ厚い肉厚とし、
前記雄型係合突条は、首部と、この首部の先端に拡張形成された頭部とを有し、前記雌型係合溝は、前記雄型係合突条と対応する断面形状を呈しており、この雄型係合突条と雌型係合溝同士が互いに雌雄係合される際に、その接合面となる部分にジメチルホルムアミド溶剤を滴下して、雌雄係合時にこの溶剤を毛細管現象により接合面全体に行きわたらせることにより、その互いの雌雄係合による合せ面が互いに溶着される」点が、いずれか一つの刊行物に開示されたものではない旨、一つ一つの刊行物に記載されたものとは違いがある旨、一つ一つの刊行物に記載された発明の作用効果とは異なる作用効果を有する旨の主張自体は認める。
しかしながら、刊行物2ないし4及び6(本審決の刊行物bないしe)に記載の各引用箇所に係る技術事項を刊行物aの発明に適用する(組み合わせる)ことができることは、上記「6.当審の判断」にて述べたとおりである。
なお、刊行物7及び8については、請求項1に係る発明にのみ引用したものであるので、本願発明2に無関係である。
(11)について
先の拒絶理由において刊行物5(実願平4-30897号(実開平5-83532号)のCD-ROM)を引用した趣旨は、「刊行物5には、熱可塑性合成樹脂からなる割りブーツにおいて、「溶着」により接合することが記載されている(上記摘記事項〔ス〕参照。)。」とあるように、割りブーツの分割面を、接着剤を用いることなしにこれに代わる手段として「溶着」により接合することが行われていることを示すためであって、「溶剤による溶着」を示すために引用したわけではない。
なお、「溶着」なる用語は、溶剤による溶着(「溶剤溶着」とも称する)、熱による溶着(「熱溶着」、「熱融着」とも称する)を包含する概念としても慣用されているものであるが、単に熱溶着のことを意味する用語としても使用されること、本願発明2では「溶剤による溶着」としていることが明らかであることを踏まえ、論理付けに不用であると判断したので本審決においては引用しなかった。
(12)について
刊行物を6件以上組み合わせなければ本願発明に至らないこと自体で、十分進歩性がある旨主張するが(本審決においては、本願発明2について刊行物を5件引用している。)、上記「6.当審の判断」にて、それぞれの相違点について検討したとおりであって、それぞれの刊行物に記載の事項を刊行物aの発明に組み合わせることを妨げる特段の事情も認められず、またその組み合わせる総数(5件)が著しく多数であるとも言えないので、当該主張は採用できない。
なお、刊行物5については、上記「(11)について」で述べたとおりである。

上述のとおりであるから、本願発明2は、刊行物aないしeに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.むすび
以上のとおり、本願発明2(本願の請求項2に係る発明)は、刊行物aないしeに記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項(請求項1)に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-10 
結審通知日 2008-06-11 
審決日 2008-06-24 
出願番号 特願平10-224217
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏原 郁昭  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官
山岸 利治
戸田 耕太郎
発明の名称 分割型ブーツ  
代理人 高塚 一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ