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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25J
管理番号 1203295
審判番号 不服2006-16809  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2009-09-10 
事件の表示 平成 9年特許願第296265号「リニアモータ式チャック」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月27日出願公開、特開平11-114865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成9年10月14日の特許出願であって、同18年2月7日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月14日に手続補正がなされ、同年6月26日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年8月3日に本件審判の請求がなされ、同年9月1日に明細書を対象とする手続補正がなされ、当審において同19年12月25日付けで拒絶理由が通知され、同20年3月7日に手続補正がなされ、同年3月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月2日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成20年3月7日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「通電方向を切換可能なコイルと、該コイルの内部に往復動可能に収容され、複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて、その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し、上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータと;
上記磁石駆動体と一体に往復動する移動体と;
ワークを把持する複数のフィンガと;
これらのフィンガの開閉を案内する案内機構と;
上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換する変換機構と;
上記コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラと;
を備えていることを特徴とするリニアモータ式チャック。」

3.刊行物記載の発明
これに対し、本願出願前に頒布された刊行物であって、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平5-77187号公報(以下「刊行物1」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0009
「【課題を解決するための手段】上記課題は、ロボットの先端に取り付けられ、駆動手段により所定数のフィンガでワークを把持するハンド装置において、前記駆動手段の直線方向の移動により、該直線方向と異なる方向に前記所定数のフィンガを移動させ、該所定数の各フィンガの同じ又は異なる移動量で前記ワークを把持させる差動手段を設けることにより解決される。」

イ.段落0015?0018
「図1(A),(B)においてハンド装置4は、ロボット1の所定数のアーム3a?3cの先端に取り付けられるもので、機構部5及びフィンガ6a,6bにより構成される。機構部5は、駆動手段7及び差動手段8により構成される。
駆動手段7は、駆動ロッド11がバネ12を介在させて電磁ソレノイド13により直線移動で駆動される。すなわち、フィンガ6a,6bの閉時の駆動源が電磁ソレノイド13であり、駆動ロッド11を図面上で上方に移動させる。また、フィンガ6a,6bの開時の駆動源がバネ12であり、付勢力により駆動ロッド11を下方に移動させる。
差動手段8は、駆動ロッド11の先端に、回転ボール14a,14bにより回動可能(自在軸継手)な2枚の平行フランジ15a,15bによる差動ジョイント部が設けられる。このフランジ15a,15b間に、軸16a,16bにより回転可能なリンク手段であるリンク17a,17bの一端に形成された球状の連結片18a,18bが位置して、自在軸継手を構成する。
一方、フィンガ6a,6bは、ガイドブロック20a,20bを有し、それぞれ2つのガイド溝21a1 ,21a2 ,21b1 ,21b2 が形成されて、ガイド22a,22bに沿って摺動する。そして、ガイドブロック20a,20bにはフィンガジョイント部である凹部23a,23bが形成され、該凹部23a,23b内にリンク17a,17bの他端に形成された球状の連結片18b,19bが回転可能に位置する。」

上記記載を、技術常識を踏まえ、本願発明に照らして整理すると、上記刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「閉時の駆動源となる電磁ソレノイド13、開時の駆動源となるバネ12とからなる駆動手段7と;
上記駆動手段7により往復動する駆動ロッド11と;
ワークを把持する複数のフィンガ6a,6bと;
これらのフィンガの開閉を案内するガイド22a,22bと;
上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換するリンク手段と;
を備えているワークを把持するハンド装置。」

同じく、当審で通知した拒絶理由に引用された実願平5-47477号(実開平7-17488号)のCD-ROM(以下「刊行物2」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【産業上の利用分野】
本考案はチャックに関し、特に容器のキャップを着脱自在に保持するキャップチャック機構に好適に利用できるものである。」

イ.段落0010?0011
「把持部材としては、把持手段の内側に被把持物を導入する方向と平行に設けられた柱状の爪でも良く、平面を有する把持部とそれを支える腕部からなるアームでも良く、円筒状の内面を有する凹部を複数に分割した形状のものでも良く、要は、物を把持できる形態のものであればよい。また、把持部材は複数であればあらゆる数をとることができる。
駆動源としては、エアーシリンダ装置でも良く、回転モータやリニアモータを含む電気モータでも良く、あらゆる種類のソレノイドでも良く、要は把持部材を動かす動力を把持手段に与えるものであればよい。なお、ここで言う駆動源とはクランクハンドルのように人力を機械運動に変換する装置を含む広い概念である。」

上記記載を、技術常識を踏まえ、整理すると、上記刊行物2には、次の事項(以下「刊行物2事項」という。)が記載されているものと認められる。
「チャックの駆動源は、把持部材を動かす動力を把持手段に与えるものであればよく、エアーシリンダ装置、回転モータ、リニアモータ、ソレノイドをその例とするもの。」

同じく、当審で通知した拒絶理由に引用された特開平6-38486号公報(以下「刊行物3」という。)には、次のように記載されている。

ア.段落0001
「【産業上の利用分野】本発明は、制御機器、電子機器、工作機械等において電気エネルギーを電磁作用により往復運動エネルギー等に変換させる可動磁石式アクチュエータに関する。」

イ.段落0027?0028
「図1及び図2は本発明の第1実施例を示す。これらの図において、1は軟磁性体の円筒状ヨークであり、該円筒状ヨーク1の内側に3連のコイル2A,2B,2Cが配置され、磁石可動体3を摺動自在に案内するためのガイド筒体4を構成する絶縁樹脂等の絶縁部材で円筒状ヨーク1に固着されている。磁石可動体3は、同極対向配置の2個の円柱状希土類永久磁石5A,5Bと、これらの永久磁石5A,5B間に固着される円柱状軟磁性体6とからなり、それらの永久磁石5A,5B及び軟磁性体6は接着剤等で相互に一体化されている。前記3連のコイル2A,2B,2Cは永久磁石5A,5Bの磁極間を境にして相異なる方向に電流が流れる如く結線されている。すなわち、中央のコイル2Bは軟磁性体6及び永久磁石5A,5BのN極を含む端部を囲み、両側のコイル2A,2Cは、永久磁石5A,5BのS極を含む端部をそれぞれ囲むことができるようになっており、かつ中央のコイル2Bに流れる電流の向きと、両側のコイル2A,2Cの電流の向きとは逆向きである(図1の各コイルに付したN,Sを参照)。なお、永久磁石5A,5Bの外側端面には必要に応じて推力を外部に伝達するためのピン7等が図1の仮想線の如く設けられる。・・・。
この第1実施例では、各コイル2A,2B,2Cの外周側に軟磁性体の円筒状ヨーク1が設けられているため、磁石可動体3の表面磁束密度の垂直成分は、図14に示す如く、さらに増大する。・・・。推力F4の向きは、図1の極性では、磁石可動体3が右方向に移動する向きであり、各コイルの電流を反転させれば磁石可動体3の推力の向きも反転する。・・・。」

ウ.段落0032
「なお、上記各実施例では、2個の同極対向の永久磁石と両永久磁石間の軟磁性体で磁石可動体3を構成したが、3個以上の同極対向の永久磁石と両永久磁石間の軟磁性体で磁石可動体を構成してもよく、これに対応させてコイル数も4個以上とすることができる。」

エ.図1、図3
コイル2A,2B,2C内部に収容され、永久磁石5A,5Bの磁極の対向部分が、常にコイル2Bと対向するように配置されている磁石可動体3が看取できる。

ここで「通電方向を反転」は「通電方向を切換」と言うことができる。

上記記載を、技術常識を踏まえ、整理すると、上記刊行物3には、次の事項(以下「刊行物3事項」という。)が記載されているものと認められる。

「通電方向を切換可能なコイル2A,2B,2Cと、該コイルの内部に往復動可能に収容され、複数の磁石5A,5Bが同一の磁極を軸方向に対向させて、その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石可動体3とを有し、上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石可動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されている可動磁石式アクチュエータと、上記磁石可動体と一体に往復動するピン7。」

4.対比・判断
刊行物1発明の「閉時の駆動源となる電磁ソレノイド13、開時の駆動源となるバネ12とからなる駆動手段7と;上記駆動手段7により往復動する駆動ロッド11」と、本願発明の「通電方向を切換可能なコイルと、該コイルの内部に往復動可能に収容され、複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて、その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し、上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータと;上記磁石駆動体と一体に往復動する移動体」とは、「駆動源と;駆動源により往復動する移動体」である限りにおいて、一致する。
刊行物1発明の「ガイド22a,22b」、「リンク手段」は、それぞれ本願発明の「案内機構」、「変換機構」に相当する。
刊行物1発明の「ワークを把持するハンド装置」と、本願発明の「リニアモータ式チャック」とは、「チャック」である限りにおいて、一致する。

そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致する。
「駆動源と;
駆動源により往復動する移動体と;
ワークを把持する複数のフィンガと;
これらのフィンガの開閉を案内する案内機構と;
上記移動体の往復動をフィンガの開閉動作に変換する変換機構と;
を備えているチャック。」

そして、以下の点で相違する。
本願発明は、「通電方向を切換可能なコイルと、該コイルの内部に往復動可能に収容され、複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて、その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体とを有し、上記コイルへの通電方向を切換えることによって上記磁石駆動体が上記コイルの内部を逆方向に移動するように構成されているリニアモータと;上記磁石駆動体と一体に往復動する移動体」と、「上記コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラと」を有する「リニアモータ式チャック」であるが、刊行物1発明は、「閉時の駆動源となる電磁ソレノイド13、開時の駆動源となるバネ12とからなる駆動手段7と;上記駆動手段7により往復動する駆動ロッド11」を有する「ワークを把持するハンド装置」である点。

相違点について、検討する。
刊行物1発明の「ワークを把持するハンド装置」の駆動源は、移動体を往復動させるものであれば、刊行物2事項に示されるごとく、適宜選択しうることは当然のことである。
また、駆動源としてリニアモータは周知であり、刊行物2事項にも一例として示されている。
よって、刊行物1発明の駆動源をリニアモータとすることは、適宜選択しうる事項にすぎない。
製造にあたっては、リニアモータの具体的構造が必要であるところ、刊行物3事項の「可動磁石式アクチュエータ」は、リニアモータの具体的構造に関するものである。
そして、刊行物3事項の「磁石可動体3」、「ピン7」が、それぞれ刊行物1発明の「磁石駆動体」、「移動体」に相当する。
したがって、刊行物1発明の駆動源をリニアモータとし、その具体的構造として刊行物3事項のものとすることは、設計的事項にすぎない。
また、リニアモータにおいて、コイルへの通電量を制御することによってトルクが変わることは、刊行物3の段落0028、拒絶理由で引用した特開平5-187412号公報の段落0007にみられるごとく周知であり、これにより「フィンガによるワークの把持力」が調節されることは明らかである。
フィンガによるワークの把持力が調節されることが望ましいことは当然であるから、調節に必要な部材である「コイルへの通電量を制御することによって上記フィンガによるワークの把持力を調節するコントローラ」を設けることは、適宜なしうる事項にすぎない。
以上、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、刊行物3事項、周知技術により、当業者が容易に発明をすることができたと認められる。

請求人は、平成20年6月2日の意見書において、「本願発明1におけるリニアモータ式チャックは、コイルの内部に往復動可能に収容され、複数の磁石が同一の磁極を軸方向に対向させて、その磁極の対向部分が常に上記コイルと対向するように関係付けられて配置された磁石駆動体を有しているため、チャックの把持力の大きさが磁石駆動体の移動により変化することがなく、磁石駆動体がどの位置にあっても通電量に応じたチャックの把持力が発生するので、その把持力は通電量を制御することにより任意に調節することができ、把持力制御のためにフィードバック制御をする必要がないものである。」なる効果を主張するとともに、「本件拒絶理由に引用された引用文献に記載のものは、いずれも本願発明の構成のごく一部のみを開示するものであり、たとえ本願発明1の構成がそれぞれ部分的に公知であったとしても、本願発明1はそれらの結合に特徴を有するものであるから、それらに基づいて容易に想到できるものではない。」と主張する。
しかし、請求人が主張する効果は、刊行物3事項のリニアモータも、本願発明のリニアモータと同様の構造を有することから、「コイルへの通電量を制御することによってトルクが変わる」という周知技術により、予想される効果にすぎず、格別なものとは認められない。
また、「結合」による格別な技術的意義が生じるとも認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項、刊行物3事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-13 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願平9-296265
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二階堂 恭弘大山 健  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 槻木澤 昌司
鈴木 孝幸
発明の名称 リニアモータ式チャック  
代理人 堀 宏太郎  
代理人 吉迫 大祐  
代理人 林 宏  
代理人 林 直生樹  

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