• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A63B
審判 一部無効 2項進歩性  A63B
管理番号 1203618
審判番号 無効2008-800060  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-04-03 
確定日 2009-09-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3796620号発明「社交ダンス用フォーム矯正具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第3796620号の請求項1?5に係る発明についての出願は、平成12年7月13日に特許出願(特願2000-213175号)され、平成17年9月9日付けの拒絶理由通知に対して平成17年11月8日付けで手続補正書が提出された後、平成18年4月28日にその発明について特許の設定登録(請求項の数5)がなされた。
そして、平成20年4月3日にオーラテック株式会社より無効審判が請求され、平成20年7月2日付けで被請求人である松田小夜子より答弁書が提出され、平成20年8月25日付けで審判請求人より弁駁書が提出されたものである。

第2.本件特許発明

本件特許第3796620号の請求項1?5に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】 上体矯正部(1)と、踊り手(10)の右手又は左手をパートナーと組する場合を想定した規定の位置(A)に保持し得るように前記上体矯正部(1)に備わるハンド保持部(3)とから構成し、
前記上体矯正部(1)は、踊り手(10)の鳩尾部分に当接するリング状部位(2)と、該リング状部位(2)から下方に垂下する支持板(5)とを備え、
前記支持板(5)の下端部は、踊り手(10)の正面側に支持手段(6,13)を介して保持されており、前記リング状部位(2)は、前記ハンド保持部(3)により保持されている手以外の踊り手(10)の手をパートナーと組する場合を想定した規定の背面位置(G)に添えることが可能な奥行きを有していることを特徴とする社交ダンス用フォーム矯正具。
【請求項2】 前記ハンド保持部(3)は、前記上体矯正部(1)において取付手段を介して着脱自在に構成してあることを特徴とする請求項1記載の社交ダンス用フォーム矯正具。
【請求項3】 前記上体矯正部(1)に、踊り手(10)の頭部(12)の位置を上体(11)姿勢に合わせて直立に保持し得るヘッド保持部(8)を備えたこと特徴とする請求項1又は2記載の社交ダンス用フォーム矯正具。
【請求項4】 請求項1又は2、3記載の上体矯正部(1)は、パートナー(15)の上体(16)を社交ダンスを踊る際の規定の位置に保持するために背面側部分(18)が嵌合手段(9,17)により着脱可能に形成してあることを特徴とする社交ダンス用フォーム矯正具。
【請求項5】 前記上体矯正部(1)には、踊り手(10)の左右の上腕部(21,22)をパートナーと組する場合を想定した規定の位置に保持することが可能な上腕部保持手段(19,20)が設けてあることを特徴とする請求項1又は2、3、4記載の社交ダンス用フォーム矯正具。」(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)

第3.当事者の主張

1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、本件特許発明1,2,4及び5の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件特許発明1,2,4及び5は、請求人が甲第1号証?甲第7号証として提示した各刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許発明1,2,4及び5の特許を無効とすべきである趣旨の主張をしている。
また、請求人は、平成20年8月25日付け弁駁書において、審判請求書の一部を訂正し、本件特許発明1は、新たに追加した甲第8号証の記載を参照すれば甲第1号証に記載された発明と同一であると言えるとの主張、甲第2号証に記載された発明と同一であるとの主張、新たに提示した甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明と同一であるとの主張、新たに提示した甲第11号証に記載された発明を組み合わせることで当業者が容易に想到できたものであるとの主張を追加している。
さらに、本件特許発明2は、甲第3号証または甲第4号証に記載された発明と、新たに提示した甲第11号証に記載された発明とから容易に発明をすることができたものであるとの主張を追加している。
そして、証拠方法として次の甲第1号証?甲第11号証を提出している。

(証拠方法)
請求人は、審判請求時に甲第1号証?甲第7号証を提示し、審判請求書の提出後に甲第2号証の22,23頁と甲第8号証?甲第11号証を提示している。

甲第1号証:篠田学、「篠田学のダンス・イラストレッスン」、モダン出版株式会社、1999年1月15日(請求人が提示したのは、24,25,44,45,48,49,52,53頁)
甲第2号証:金沢正太、「プロが教えないダンス上達講座・モダン編」、株式会社白夜書房、1998年12月15日(請求人が提示したのは、28,29頁)
甲第3号証:特開平9-192279号公報
甲第4号証:実開昭61-103167号公報
甲第5号証:特開平10-76025号公報
甲第6号証:特開平3-155856号公報
甲第7号証:実開昭63-184070号公報
(以上、審判請求書において提示)

甲第2号証:金沢正太、「プロが教えないダンス上達講座・モダン編」、株式会社白夜書房、1998年12月15日(請求人が提示したのは、22,23頁)
甲第8号証:特許第2953359号公報
甲第9号証:実開平5-35161号公報
甲第10号証:特開平9-234157号公報
甲第11号証:特開平10-216031号公報
(以上、弁駁書において提示)

2.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件特許発明1,2,4及び5は、特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず、本件特許発明1,2,4及び5の特許は無効でないとの趣旨の主張をしている。

第4.甲第1号証ないし甲第11号証

1.甲第1号証(「篠田学のダンス・イラストレッスン」)

甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「男性が右手でつくるホールドの重要な意味は、女性のいるスペースをつくることです。
まず、右肩を引いて、右ひじを出します。左ひじよりも右ひじの方が前にあることに注目してください。そして右手首を中指よりも前に出すことによって、女性のいるスペースができあがります。あとはこの位置をくずさずに一曲踊り続ければよいのです。
私はこれを《五角形のホールド》と呼んでいます。従って、ホールドの形が三角形になったり、または四角形になると、女性にとって居心地の悪いホールドになってしまいます。」(44頁上段の10行?同頁下段の3行)
(1b)「正しい組み方ができたら、男性のリードが正しく伝わるために最も重要な「フレーム」について説明しましょう。
テニスのラケットを思い浮かべてください。ラケットには楕円形のフレームがあり、その中にガットという網が張られ、そのガットでボールを打ちます。その時、いくら強打してもラケットが何ともないのは、まわりのフレームがしっかりしているからです。
ダンスにおけるフレームとは、ホールドした右手の先から腕、背中を通って、左手の指先までを指します。フレームの右手指先と左手の間隔を常に一定に保つことが踊りを美しく見せ、踊りやすい、くずれないホールドをつくる重要なポイントなのです。」(48頁1?19行)
(1c)49頁には、「◎踊りやすく、くずれないしっかりしたフレームのイメージ」との文章が記載されるとともに、男性がホールドを作る姿勢の図と、その図の上にテニスラケットが図示されている。
(1d)「男性の右手の中指は、常に自分のおへその前(身体の中央)においておくことが大切です。私は一人で練習(シャドー)する時に、レコードのEP盤などを右手中指とおへその間に挟んで練習しました。」(52頁7?12行)
(1e)53頁の左下方には、「レコードのEP盤などを使って練習しよう」との文章が記載されるとともに、男性が右手中指と身体と間にレコードを挟んで、ホールドを作る姿勢の練習を行っているのが図示されている。

甲第1号証の前記記載(1a)から、男性が右手で作るホールドの姿勢を把握することができる。
甲第1号証の前記記載(1b)には、概略、フレーム(右手指先から腕、背中を通って左手指先まで)の右手指先と左手の間隔を常に一定に保つことは、くずれないホールドを作る重要なポイントであることが記載されており、また、ホールドを作ったときのフレームがしっかりしていることの重要性が、テニスのラケットのフレームがしっかりしていることに例えて説明されている。
したがって、甲第1号証の前記記載(1b)と前記記載(1c)とから、ホールドを作ったときの男性のフレームのイメージは、テニスのラケットをイメージするとよいことが把握できるものの、「第5.当審の判断」で後述するように、テニスのラケットをダンスの練習に使用することについては記載も示唆もされていない。
また、甲第1号証の前記記載(1d)と前記記載(1e)とから、右手の中指は、自分のおへその前の位置に置いておくことが重要であり、一人で練習する時に、レコードのEP盤などを右手中指とおへその間に挟んで練習するとよいことが把握できる。

したがって、甲第1号証には、前記記載事項を含む甲第1号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「右手のホールドを作る姿勢の練習において、レコード盤を右手中指とおへその間に挟んで使用する点。」

2.甲第2号証(「プロが教えないダンス上達講座・モダン編」)

甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)22頁には、「膝は伸ばし切らずいつも軽く前に曲げておきましょう」との文章と共に、ダンスをする姿勢の2人が図示され、23頁には、テーマとして「頭のテッペンから尾てい骨まで、背骨に鉄筋を通せ」、「男性は、襟首のところをクレーンで吊り上げられていろ」と記載されるとともに、それらのテーマに関して、正太とチー坊の会話が記載されている。
(2b)「(3)ホールドの基本[男性]
正太「組む順序が分かったら、次はキレイで大きく、かつ居心地の良いホールドについて考えてみよう。まず男性の注意点からだ」

【男性のホールド】
1)左右の肘が、ボディからなるべく遠くになるようにブン抜く。左右の肘のフロアーからの高さは、同じにする
2)左グリップは、常に体の前方に位置するように保っておく
3)水平に延ばした左前腕を90度に立て、それ以上内側には折り込まない
[80度ではだめ。あくまでも90度に]
4)左グリップの中には、生卵を入れる。グリップを強く握り過ぎると、卵は潰れるし、弱いと落ちてしまう。落とさず、潰さずの強さで握る。
5)左グリップの高さは、男性の口から目の高さがちょうどいい。上げ過ぎない。ただし女性が小さい場合は、女性に合わせて調節する
6)左右の肘は常に肩よりもやや前方に置く
7)左ホールドよりも右ホールドを出来るだけ広く作る
8)右肘と右のこめかみを出来るだけ離す
9)腕の下側に緊張感を通してホールドする。でっかい“中華鍋”を下から持ち上げるつもりで作る。※A
10)グリップは腋の下の筋肉(広背筋)でする。指先だけでしない。※B
11)女性の右肘関節を通して前方を見る
12)右手の指は5本とも揃える
13)右手は下から女性の背中をすくう

※A・・中華鍋を下から抱えるように
正太「ホールドの緊張感を作るときに、腕の上側に緊張感を通してはだめだよ。これだと肩が盛上がりやすいし、女性に対して被って行く感じになっちゃうから、女性に重い思いをさせることになる」
チー坊「だから、ホールドの緊張感は腕の下側に通さなくてはいけないの。例えば、大きくて重い“中華鍋”を下から抱えるとするでしょ。このとき、腕にはどんな力が働くかしら?」
正太「鍋を落とさないように、腕全体が下から支えようとするよね。これと同じように、女性を下からサポートしていくホールドでなくてはいけないよ」
チー坊「そのために、男性の右手は女性の背中の肉を下から“すくい上げて”くれるようなフィーリングが必要なの」
正太「“上げて寄せて”ってCMは聞いたことあるな?まあ、力を入れないこと。軽く触っているだけでいいんだ」」(28頁上段の13行?29頁下段の7行、なお、丸印の3を、当審では「(3)」と表記した。)

甲第2号証の前記記載(2b)には、男性がホールドを作るときに注意すべき事項が記載されており、男性の左手に関する注意事項が2)?5)に記載され、男性の右手に関する注意事項が8)?10),12),13)に記載されている。

したがって、甲第2号証には、前記記載事項を含む甲第2号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「男性が右手でホールドを作るときの注意点として、大きな中華鍋を下から持ち上げるつもりでホールドを作るとよい点、及び、ベルトをしたズボンを履いてダンスをする点。」

3.甲第3号証(特開平9-192279号公報)

甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3a)「装置の骨格をなす支柱を伸縮自在にし、小型に折り畳み携帯できるようにした請求項1のダンス姿勢矯正装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)
(3b)「本発明のダンス練習用装置は、小型に折り畳むことができ、主として踊り手の腕または手に取り付けて使用する。そして、従来の器具と異なり下記の如く、踊り手に生じた問題点を個別にランプ等で警告できるので、ダンスの正しい姿勢や動きを、個々の踊り手の技量に応じて、いち早く身に付けさせることが出来る。
(1)正しいホールドが崩れた場合、すなわち、左右どちらかの腕が下がったり、伸び縮みした時に、個別に警告を発することが出来る。
(2)正しいホールドは維持しているものの、踊っている際に、体全体が前方もしくは後方に傾いてしまった場合、個別に警告を発することが出来る。」(段落【0006】)
(3c)「図1は、本発明のダンス練習用姿勢矯正装置の一実施例の模式的構成図である。棒状の水平支柱4には、踊り手に警告を発するランプ1,2と目印3,3′が取り付けてあり、この水平支柱は、調節ネジ付きの留め金具5で棒状の縦支柱6に固定される。その際、水平支柱4と縦支柱6は、携帯ラジオ等のアンテナの如く伸縮自在なものにして、上記のランプや目印(それら自体も自由に動かせる)の位置を任意に設定でき、且つ装置自体も小型に折り畳めるようにしてある。そして、この縦支柱6は、自由に曲げて固定することの出来る棒状のフレキシブル・シャフト7を介して、踊り手の手または腕に装置を取り付ける為の固定グリップ8と接合する。」(段落【0008】)
(3d)「そして、男女の踊り手が一緒に組んで踊る場合には、正しい姿勢を維持する上で、男性のホールドや顔の向きが極めて重要であって、それらが崩れた場合には直ちに女性の踊り手にも悪影響を及ぼすことが多いので、前記の各実施例に記したセンサー類を使用する場合は、主として男性に取り付けるのが効果的である。」(段落【0024】)
(3e)「また、上述した例はいずれも、本発明装置を腕もしくは手に装着して使用するものであったが、本装置はこれに限らず、踊り手の上半身に付けた治具などに取り付けて使用することも勿論可能である。」(段落【0025】)

甲第3号証の前記記載(3b)及び前記記載(3c)とから、甲第3号証に記載される「ダンス練習用姿勢矯正装置」は、正しい姿勢を維持するための目印、正しい姿勢が崩れた場合を検知する検知手段、及び、正しい姿勢が崩れた場合に踊り手に警告をする警告手段を、水平支柱4と縦支柱6に備えたものであり、固定グリップによって踊り手に取り付けられることが把握できる。
また、甲第3号証の前記記載(3a)から、甲第3号証に記載される「ダンス練習用姿勢矯正装置」の「支柱」は、伸縮自在であることが把握できる。
また、甲第3号証の前記記載(3e)から、甲第3号証に記載される「ダンス練習用姿勢矯正装置」は、踊り手の上半身に付けた治具などに取り付けて使用することが可能であることが把握できる。

したがって、甲第3号証には、前記記載事項を含む甲第3号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「正しい姿勢を維持するための目印と、正しい姿勢が崩れた場合を検知する検知手段と、正しい姿勢が崩れた場合に踊り手に警告をする警告手段とを、水平支柱4と縦支柱6に備えたダンス練習用姿勢矯正装置を、固定グリップによって踊り手に取り付ける点。」

4.甲第4号証(実開昭61-103167号公報)

甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4a)「教習性の背中にあてがうことができる背板と、この背板に設けられかつ教習生の腕にあてがわれる腕板と、この腕板の自由端部に設けられ教習生の腕を保持する保持具と、前記背板の下端部に設けられ該背板を教習生の背中に装着することができる帯状の取付け体とから成る社交ダンスなどの姿勢矯正具。」(実用新案登録請求の範囲の1)
(4b)「背板は柔軟性を有する材料で細長い板状に形成され、教習生の後頭部を支持することができる比較的幅広の頭支持部と、該背板の中央部寄りの一側面に突出形成された腕板取付部と、該背板の下端部に形成され取付け体を挿通しながら該取付け体を任意の位置に固定することができる複数の案内溝孔とから成ることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の社交ダンスなどの姿勢矯正具。」(実用新案登録請求の範囲の2)
(4c)「腕板は背板に着脱自在に設けられていることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の社交ダンスなどの姿勢矯正具。」(実用新案登録請求の範囲の5)
(4d)「第1図ないし第5図の実施例において、1は社交ダンスのレッスンをする場合に教習生の背中に固定的に取付け、教習生の基本姿勢、腕位置などを正しく保つことができる姿勢矯正具である。」(明細書の5頁19行?6頁2行)

したがって、甲第4号証には、前記記載事項を含む甲第4号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「教習性の背中にあてがわれる背板と、この背板に着脱自在に設けられかつ教習生の腕にあてがわれる腕板と、背板の下端部に設けられ背板を教習生の背中に装着することができる帯状の取付け体とから構成された社交ダンスなどの姿勢矯正具。」

5.甲第5号証(特開平10-76025号公報)

甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「ラケット本体において、シャフト3でフレーム1とグリップ2を切断し、再び両者を結合組み立てるか、又は切断端を蝶番12か蝶番様物質で接続するか、又は同目的両者物質を個々に作製して組合わすかしてなることを特徴とするラケット。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(5b)「この発明はテニス用ラケットに関するものである。」(段落【0001】)

したがって、甲第5号証には、前記記載事項を含む甲第5号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「フレームとグリップとが着脱自在なテニス用ラケット。」

6.甲第6号証(特開平3-155856号公報)

甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(6a)「肩関節を機能的肢位に保持するための装具であって、該機能的肢位における上肢と体躯側面腸骨稜との間に嵌る断面視概ね直角三角形状のクッション袋と、体躯に捲回して該クツション袋を支持するベルト体と、該クッション体上部に載置される上肢を支持するための上肢支持体とを有するものであることを特徴とする肩関節装具。」(特許請求の範囲の1)

したがって、甲第6号証には、前記記載事項を含む甲第6号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「ベルト体を用いて体に装着され、上肢を支持する上肢支持体を有する肩関節装具。」

7.甲第7号証(実開昭63-184070号公報)

甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(7a)「背当て部材1を肩からかける形状の背負い部材2によつて保持するように構成した社交ダンス姿勢矯正器。」(実用新案登録請求の範囲)
(7b)「第1実施例の背負い部材(2)に腕を保持するための腕保持部材(3)を取り付けたものである。」(明細書の3頁8?9行)

したがって、甲第7号証には、前記記載事項を含む甲第7号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「背負い部材2によって背当て部材1を背中側に保持し、腕保持部材3を背負い部材2に設けた社交ダンス姿勢矯正器。」

8.甲第8号証(特許第2953359号公報)

甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(8a)「このフェース2の厚さは全域にわたって14mm以上(好ましくは20?50mm)となっており、フェース最大厚部分Tにおける厚みがラケットフレーム全体において最大となっている。この最大厚部分Tの厚さtは20?50mmとりわけ25?40mmとするのが好ましい。」(段落【0014】)
(8b)「本発明において、テニスラケットのラケット長さは670?690mmとするのが好ましい。また、フェースの軸方向長さは300?360mmとするのが好ましい。フェースのグリップ側端部からフェースの最大幅位置Wまでの軸方向長さLは150?180mmとりわけ160?170mmとするのが好ましい。」(段落【0017】)

したがって、甲第8号証には、前記記載事項を含む甲第8号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「フェースの厚さが全域にわたって14mm以上で、ラケット長さが670?690mm、フェースの軸方向長さが300?360mmであるテニスラケット。」

9.甲第9号証(実開平5-35161号公報)

甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
(9a)「本考案は、テニス用のラケットフレームあるいはバドミントン用のラケットフレームに装着されるフレーム用の保護体に関し、特にその構造を改良することにより、ガットの保護と同時にフレームの保護及び振動減衰性を向上させるようにしたものである。」(段落【0001】)
(9b)「そこで、本考案のフレーム用保護体は以下の構成とした。
即ち、ガット保護用の筒部と、該筒部をつなぐ帯部とから成るフレーム用保護体にあっては、該帯部が中空部を有する構成としたものである。」(段落【0005】)

したがって、甲第9号証には、前記記載事項を含む甲第9号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「ガット保護用の筒部と該筒部をつなぐ帯部とから成るフレーム用保護体を、テニス用のラケットフレームあるいはバドミントン用のラケットフレームに装着される点。」

10.甲第10号証(特開平9-234157号公報)

甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
(10a)「鍋本体に取っ手を取り付けた炒め鍋であって、鍋本体は、平面状の底面とこの底面の取っ手の反対側のみにわずかに立ち上げたステージ部とからなる底面部と、この底面部から立ち上げた側面とからなるものである炒め鍋。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

したがって、甲第10号証には、前記記載事項を含む甲第10号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「平面状の底面とこの底面の取っ手の反対側のみにわずかに立ち上げたステージ部とからなる底面部と、この底面部から立ち上げた側面とからなる鍋本体に、取っ手が取り付けられた鍋。」

11.甲第11号証(特開平10-216031号公報)

甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
(11a)「この発明は、鍋と取っ手とを着脱式にした装置に関するものである。」(段落【0001】)

したがって、甲第11号証には、前記記載事項を含む甲第11号証全体の記載から、以下の事項が開示されていると認める。
「鍋と取っ手とを着脱可能とする点。」

第5.当審の判断

1.本件特許発明1について
「第3.当事者の主張」の「1.請求人の主張」で示したように、請求人は、審判請求後に請求の理由をいくつか追加しているので、まず(1)で、審判請求時の主張について検討し、その後の(2),(3)で、追加された主張について検討する。

(1)審判請求書において、請求人は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が本件特許発明1を容易に発明することができた旨の主張をしているので、それについて検討する。
請求人が提示する甲第1号証?甲第7号証において、本件特許発明1が有する発明特定事項である「リング状部位(2)」に相当し得る部材として、甲第1号証及び甲第5号証に記載される「テニスラケット」と、甲第1号証に記載される「レコード」と、甲第2号証に記載される「中華鍋」が示されているので、「テニスラケット」、「レコード」、「中華鍋」のそれぞれについて以下検討する。

(1A)「テニスラケット」に関する記載について
・甲第1号証
甲第1号証において、テニスラケットに関する記載は、前記記載(1b)と前記記載(1c)であり、請求人は、審判請求書において「さらに第49頁にはパートナーの腹部付近の前後の厚みに近いテニスのラケットのフレーム部分と、フレーム部分からテニスのグリップ部分が図示され、リーダーが社交ダンスを練習する時、棒状に伸びたテニスのラケットが踊り手であるリーダーの左手ハンド位置を保持することを練習するのに有効な道具であることを示している。」と主張しているので、この点について検討する。
甲第1号証は、ダンスを踊るときに気を付ける注意点について、複数の項目に分けて説明されており、前記記載(1b)と(1c)の記載のある48?49頁で示されている注意点は、48頁右欄に太字で記載される「15 男性の右手指先と左手指先の間隔を常に一定にする。」であり、甲第1号証の前記記載(1b)及び(1c)は、この注意点を具体的に説明するための記載であることは明らかである。
そして、甲第1号証の前記記載(1b)には、フレーム(踊り手の右手指先から腕、背中を通って左手指先までの身体)(以下、テニスラケットのフレームと区別するために、踊り手の右手指先から腕、背中を通って左手指先までのことを、当審では「身体のフレーム」ということとする。)の右手指先と左手の間隔を常に一定に保つことが、くずれないホールドを作る重要なポイントであることが示され、さらに、ホールドを作ったときの「身体のフレーム」がしっかりしていることの重要性が、テニスラケットのフレームがしっかりしていることに例えて説明されている。
したがって、甲第1号証の前記記載(1b)からは、ホールドを作ったときの「身体のフレーム」をしっかりとすることは、テニスラケットのフレームがしっかりしていることと同様に重要であるということを示していると解することができる。
そうすると、甲第1号証に記載の「テニスラケット」は、練習用具として使用されるものではなく、ダンスをしている踊り手自身の「身体のフレーム」に対応するものとして記載されていると認められる。
よって、甲第1号証の記載から、テニスラケットを使用してダンス練習をすることは想定できるものではない。

また、甲第1号証の前記記載(1c)には、ホールドを作る姿勢の男性とテニスラケットが重ねて記載されているが、図と共に、文章で「◎踊りやすく、くずれないしっかりしたフレームのイメージ」と記載されていることから、この図は、しっかりした「身体のフレーム」を作るためのイメージとして、テニスラケットをイメージするとよいことを示しているといえる。
さらに、この図には、踊り手である男性がテニスラケットを抱えることは示されておらず、テニスラケットが男性の右腕よりも紙面上側に位置するように記載されていることからしても、この図は、しっかりした「身体のフレーム」を作るためのイメージとして、テニスラケットをイメージするとよいことを示しているといえるのであって、この図からもテニスラケットを使用してダンス練習をすることは想定できない。

したがって、甲第1号証の前記記載(1b)、(1c)には、ホールドを作る姿勢の練習のためにテニスラケットを使用することは記載されていないし、また、これらの記載をみても、ホールドを作る姿勢の練習のためにテニスラケットを使用することが示唆されているともいえない。

・甲第5号証
また、甲第5号証には、テニスラケットを使用してダンス練習をすることについて何らの記載も示唆もされていないから、甲第5号証の記載からホールドを作る姿勢の練習のためにテニスラケットを使用することが示唆されているとはいえない。

・甲第8号証
さらに、請求人は、甲第8号証に記載されているテニスラケットのサイズと人間の身体の長さを比較すると、テニスラケットのフレームサイズが人の胴回りのサイズに近く、テニスラケットのグリップ長が人の肘から握った手の先までの長さに近いことをもって、甲第1号証に記載のテニスラケットをダンス練習具として引用したことに正当性があると主張しているが、前記したように、甲第1号証にはテニスラケットを用いてダンスの練習をすることについて何ら記載も示唆もされていないのであるし、甲第8号証は単にテニスラケットのサイズが記載されているだけであり、テニスラケットを用いてダンスの練習をすることについて何ら記載も示唆もされていないのであるから、甲第1号証や甲第8号証のテニスラケットに関する記載を見た当業者といえども、テニスラケットをダンス用フォーム矯正部として使用することを想起できるとは言えないものである。

以上のように、甲第1,5,8号証からは、テニスラケットをダンス用フォーム矯正部として使用することを想起できるとはいえないのであるから、甲第1号証や甲第5号証のテニスラケットの記載や甲第8号証のテニスラケットのサイズの記載から、当業者が本件特許発明1を容易に想到できたとは言えない。

(1B)「レコード」に関する記載について
甲第1号証において、レコードに関する記載は、前記記載(1d)と前記記載(1e)であり、これらの記載について検討する。
前記したように、甲第1号証は、ダンスを踊るときに気を付ける注意点について、複数の項目に分けて説明されており、前記記載(1d)と(1e)の記載のある52?53頁で示されている注意点は、52頁右欄に太字で記載される「17 男性右手の中指は、常におへその前から動いてはいけない。」であり、甲第1号証の前記記載(1d)及び(1e)は、この注意点を具体的に説明するための記載であることが把握できる。
そして、甲第1号証の前記記載(1d)の記載から、踊り手の上体の向きが変わった場合であっても、レコードを使用して練習することで、右手の中指が常におへその前に維持されることが把握できる。
しかしながら、前記記載(1d)と前記記載(1e)の記載は、いずれも身体の上体に対する右手の位置をおへその前の位置に維持することについての記載であって、踊り手の左手を保持する手段を設けることを記載または示唆するものではないし、踊り手の左手を保持する手段をレコードに取り付けることを記載または示唆するものでもない。
甲第4号証や甲第7号証には、腕を保持する手段を有するダンスの姿勢矯正具が記載されているものの、いずれの甲号証に記載される姿勢矯正具も、姿勢矯正具を装着した状態でパートナーと踊ることが出来るものであって、姿勢矯正具を装着した踊り手の背中側に姿勢矯正具の軸等の部材が位置するものであるから、甲第1号証に記載されるような踊り手の胸部側に保持されるレコードに、甲第4号証や甲第7号証に記載される踊り手の背中側に位置する姿勢矯正具を接続することを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、甲第1,4,7号証を参照したとしても、フォーム矯正部として使用するレコードにハンド保持部を接続することは、当業者といえども想起できず、甲第1号証のレコードの記載や甲第4,7号証の姿勢矯正具の記載から、当業者が本件特許発明1を容易に想到できたとは言えない。

(1C)「中華鍋」に関する記載について
甲第2号証において、中華鍋に関する記載は、前記記載(2b)であり、この記載について検討する。
甲第2号証の前記記載(2b)には、男性がホールドを作るときに注意すべき事項が記載されており、ホールドを作ったときの右手に関する注意事項として、中華鍋を下から持ち上げるつもりでホールドを作ることが記載されている。
前記記載(2b)での中華鍋の記載は、中華鍋を下から抱えることをイメージしてホールドを作ることが記載されていると解釈するのが自然であって、ホールドを作るときの練習に中華鍋を使用することが記載されていると解釈できるものではない。
しかしながら、請求人は、当該記載に基づいて、ホールドを作るときの練習に中華鍋を使用することを当業者が容易に想到し得ると主張しているので、さらに検討することとする。

甲第2号証の前記記載(2b)には、ホールドを作るときの右手と左手に関する注意事項が記載され、左手については、「2)常に体の前方に位置するように保っておく」、「3)水平に延ばした左前腕を90度に立て、それ以上内側には折り込まない[80度ではだめ。あくまでも90度に]」、「4)左グリップの中には、生卵を入れる。グリップを強く握り過ぎると、卵は潰れるし、弱いと落ちてしまう。落とさず、潰さずの強さで握る。」、「5)左グリップの高さは、男性の口から目の高さがちょうどいい。上げ過ぎない。ただし女性が小さい場合は、女性に合わせて調節する」と記載されているが、いずれにも左手を保持するための手段が記載されているものではないし、左手を保持するための手段を設けることを示唆するものでもない。
また、前記の「(1B)レコードに関する記載について」で示したのと同様に、甲第4号証や甲第7号証には、腕を保持する手段を有するダンスの姿勢矯正具が記載されているものの、いずれの甲号証に記載される姿勢矯正具も、姿勢矯正具を装着した状態でパートナーと踊ることが出来るものであって、姿勢矯正具を装着した踊り手の背中側に姿勢矯正具の軸等の部材が位置するものであるから、甲第2号証に記載されるような踊り手の胸部側に保持される中華鍋に、甲第4号証や甲第7号証に記載される踊り手の背中側に位置する姿勢矯正具を接続することを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
したがって、甲第2,4,7号証を参照したとしても、フォーム矯正部として使用する中華鍋にハンド保持部を接続することは、当業者といえども想起できず、甲第2号証の中華鍋の記載や甲第4,7号証の姿勢矯正具の記載から、当業者が本件特許発明1を容易に想到できたとは言えない。

以上の(1A)?(1C)で検討したとおり、本件特許発明1が有する発明特定事項である「リング状部位(2)」に相当する部材となり得る「テニスラケット」、「レコード」、「中華鍋」のどの場合においても、本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえないものである。

(2)次に、弁駁書において、請求人は、甲第1号証に記載される「テニスラケット」、甲第2号証に記載される「中華鍋」、甲第9号証に記載される「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」、甲第10号証に記載される「鍋」は、本件特許発明1のすべての発明特定事項を有している旨の主張をしているので、これらの「テニスラケット」、「中華鍋」、「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」、「鍋」が、本件特許発明1と同一であるかについて検討する。

(2A)「テニスラケット」について
請求人は、甲第1号証に記載されるテニスラケットのフレーム部分には厚みがあるので、フレームの一部がリング状部位であり、また、フレームの他の一部が支持板である旨の主張をし、甲第1号証に記載されるテニスラケットが、本件特許発明1の発明特定事項である「前記上体矯正部(1)は、踊り手(10)の鳩尾部分に当接するリング状部位(2)と、該リング状部位(2)から下方に垂下する支持板(5)とを備え」との構成を有しているとの趣旨の主張をしているので、まず、その点について検討する。
テニスラケットは、通常、「社交ダンス用フォーム矯正具」として認識されていないことを鑑みれば、テニスラケットを社交ダンス用フォーム矯正具として使用することは、何かしらのきっかけがあって初めて思い至ること、つまり、何かしらのきっかけがない場合には思い至らないことといえるのであるから、甲第1号証に、テニスラケットを社交ダンス用フォーム矯正具として使用することが記載も示唆もされていないことからすると、甲第1号証に記載のテニスラケットを「社交ダンス用フォーム矯正具」と称すること自体不可能なのであって、それらが同一であるとはいえないものである。
よって、本件特許発明1と甲第1号証に記載される「テニスラケット」とは同一であるとはいえない。

(2B)「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」について
甲第9号証に記載される「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」についても、前記「(2A)「テニスラケット」について」で示したのと同様であって、甲第9号証に、フレーム用保護体が取り付けられるテニス用のラケットまたはバドミントン用のラケットを、ダンス練習に使用することについて記載も示唆もされていないことからすると、甲第9号証に記載されるフレーム用保護体が取り付けられたラケットを「社交ダンス用フォーム矯正具」と称すること自体不可能なのであって、それらが同一であるとはいえないものである。
よって、本件特許発明1と甲第9号証に記載される「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」とは同一であるとはいえない。

(2C)「中華鍋」及び「鍋」について
甲第2号証に記載される「中華鍋」や、甲第10号証に記載される「鍋」についても、前記「(2A)「テニスラケット」について」で示したのと同様であって、甲第2号証に、フレーム用保護体が取り付けられるテニス用のラケットまたはバドミントン用のラケットを、ダンス練習に使用することについて記載も示唆もされていないこと、また、甲第10号証に、鍋をダンス練習に使用することについて記載も示唆もされていないこと、からすると、甲第2号証に記載される「中華鍋」や甲第10号証に記載される「鍋」を、「社交ダンス用フォーム矯正具」と称すること自体不可能なのであって、それらが同一であるとはいえないものである。
よって、本件特許発明1と、甲第2号証に記載される「中華鍋」や甲第10号証に記載される「鍋」とは同一であるとはいえない。

以上の(2A)?(2C)で検討したとおり、本件特許発明1は、甲第1号証に記載される「テニスラケット」、甲第2号証に記載される「中華鍋」、甲第9号証に記載される「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」、甲第10号証に記載される「鍋」と同一であるとはいえない。

(3)また、弁駁書において、請求人は、甲第11号証に記載されるような深い側面の中華鍋等において、軽量化、低コスト化の観点から、ダンス器具として不必要な部位を除去することは自然の推考で、支持板を周回しない形状とすることは容易であるとも主張しているので、この点についても検討する。
テニスラケットや中華鍋をダンス練習具として使用することについて記載されていないことは、前記「(1A)「テニスラケット」に関する記載について」及び前記「(1C)「中華鍋」に関する記載について」で示したとおりである。また、甲第1号証?甲第11号証のいずれにも、フレーム用保護体が取り付けられたラケットや鍋をダンス練習具として使用することについて記載されていないことは明らかである。
したがって、それらテニスラケットや中華鍋等をダンス練習具として使用することが想定できないのであるから、どこが不必要であるかも想定できないのであって、不必要な部位を除去してリング状部位とは別の支持板を形成することは、当業者であっても容易に想到することができたとはいうことができない。
また、甲第2号証の記載から中華鍋をダンス練習具として使用することが容易であったとしても、前記「(1C)「中華鍋」に関する記載について」で検討したように、フォーム矯正部として使用する中華鍋にハンド保持部を接続することは、当業者といえども想起することはできないのであるから、支持板を周回しない形状とすることが容易であるかを検討するまでもなく、当業者が本件特許発明1を容易に想到できたとはいうことができない。

(4)本件特許発明1についてまとめると、甲第1号証?甲第11号証において、本件特許発明1の「リング状部位(2)」に対応する部材として考えられるのは、「テニスラケット」、「レコード」、「中華鍋」、「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」、「鍋」のみであって、前記(1)?(3)でそれぞれの場合についての容易性、同一性を検討し、いずれの場合も本件特許発明1と同一でなく、また、本件特許発明1を容易に想到できたものでないといえるのであって、まして、本件特許発明1は「リング状部位(2)」以外の他の構成が加えられている以上、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明と同一でなく、また、それらの発明から当業者が容易に想到できたものでもない。
そして、前記のごとく請求人が弁駁書で追加する主張をもってしても、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第11号証に記載される「テニスラケット」、「レコード」、「中華鍋」、「フレーム用保護体が取り付けられたラケット」、「鍋」と同一であるともいえないし、甲第1号証?甲第11号証に記載される構成から容易想到であるともいえない。

2.本件特許発明2について
本件特許発明2は、「前記ハンド保持部(3)は、前記上体矯正部(1)において取付手段を介して着脱自在に構成してある」との発明特定事項を有しており、ハンド保持部が着脱自在である点を検討する。
本件明細書の段落【0008】には、「前記ハンド保持部は、前記上体矯正部において取付手段を介して着脱自在に構成しておけば、社交ダンスのフォームの変更や、あるいは踊り手が男女どちらであっても対応する形態のものを適宜取付け可能になるとともに、本矯正具の持ち運びの際においても、前記ハンド保持部を上体矯正部から取り外してバックなどの中にコンパクトに収納することができる。」と記載されていることから、ハンド保持部が着脱可能というのは、ハンド保持部を上体矯正部に対して左右の位置を変更することや、移動時に嵩張らないために取り外しが可能にしたことを示しているのであって、ハンド保持部を有しない社交ダンス用フォーム矯正具を想定しているものでないことは明らかである。
そうすると、本件特許発明2は、本件特許発明1を特定する事項を全て含み、さらに「前記ハンド保持部(3)は、前記上体矯正部(1)において取付手段を介して着脱自在に構成してある」との発明を特定する事項を付加したものであるから、本件特許発明1が、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明と同一でなく、また、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明から容易に想到できたものでもない以上、本件特許発明2が、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明と同一でなく、また、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明から容易に想到できたものでもないことは明らかである。

3.本件特許発明4及び5について
本件特許発明4及び5は、本件特許発明1を特定する事項を全て含み、さらに他の発明を特定する事項を付加したものであることは明らかである。
したがって、本件特許発明1が、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明と同一でなく、また、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明から容易に想到できたものでもない以上、本件特許発明4及び5が、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明と同一でなく、また、甲第1号証?甲第11号証に記載される発明から容易に想到できたものでもないことは明らかである。

第6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1,2,4及び5を無効とすることはできない。
また、他に、本件特許発明1,2,4及び5を無効とする理由は発見できない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-29 
結審通知日 2008-10-02 
審決日 2008-10-15 
出願番号 特願2000-213175(P2000-213175)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A63B)
P 1 123・ 113- Y (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 納口 慶太  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 菅藤 政明
江成 克己
登録日 2006-04-28 
登録番号 特許第3796620号(P3796620)
発明の名称 社交ダンス用フォーム矯正具  
代理人 宮田 信道  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ