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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16L
管理番号 1204011
審判番号 無効2008-800190  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-29 
確定日 2009-08-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2650176号発明「配管結合装置及び配管結合方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2650176号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
(1)本件特許第2650176号に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は,平成4年8月21日に出願され,平成9年5月16日にその請求項1及び2に係る発明について特許権の設定登録がされたものである。
(2)これに対して,請求人は,本件特許発明は,甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,したがって,本件特許発明は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。
(3)被請求人は,平成20年12月12日及び平成21年2月27日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。このうち先の訂正請求は,特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされるところ,後の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の訂正の内容は,本件特許発明の明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに訂正しようとするものである。

2.訂正の可否に対する判断
(1)被請求人が求めた訂正の内容は,下記アないしクのとおり訂正することを求めるものである。
ア 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における「各スリットの先端側の拡管部をかしめて内側へ折り込み,」を,「各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,」と訂正する。
イ 訂正事項b
同請求項1における「該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に係止させ」を,「該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって,」と訂正する。
ウ 訂正事項c
同請求項1における「両配管が結合されたことを特徴とする配管結合装置」を,「該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され,該かしめにより,該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,さらに,隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることでがたつきが阻止され,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持されたことを特徴とする配管結合装置」と訂正する。
エ 訂正事項d
同請求項2における「各スリットの先端側の拡管部をかしめて内側へ折り込み,」を,「各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,」と訂正する。
オ 訂正事項e
同請求項2における「スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に係止させ」を,「スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合方法であって,」と訂正する。
カ 訂正事項f
同請求項2における「両配管が結合させることを特徴とする配管結合方法」を,「該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さを,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成し,該かしめにより,該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とを接触させた状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,さらに,該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて該両配管を結合することでがたつきが阻止され,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密を保持させることを特徴とする配管結合方法。」と訂正する。
キ 訂正事項g
特許明細書の段落【0007】を以下のように訂正する。
「各スリットの先端側の拡管部をかしめて内側へ折り込み,該スリットの先端側の側壁部を該屈曲膨出部の側面に係止させ」を「各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって,」と訂正する。
また,「両配管が結合されたことを特徴とする配管結合装置」を,「該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され,該かしめにより,該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,さらに,隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることでがたつきが阻止され,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持されたことを特徴とする配管結合装置」と訂正する。
ク 訂正事項h
特許明細書の段落【0008】を以下のように訂正する。
「各スリットの先端側の拡管部を内側に折り込むようにかしめるだけで」を「各スリットの先端側におけるスリットから拡管部の先端までの部位を内側に折り込むようにかしめるだけで」と訂正する。
また,「容易に2本の配管を気密に結合することができる。」を「屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,屈曲膨出部が両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向するスリットの側壁部との間に挟持され,両配管の結合部分の内側で前記環状シール材が圧縮された状態となるため,容易に2本の配管を気密に結合することができる。」と訂正する。
加えて,「また,折り込まれた各スリットの側壁部が内側の屈曲膨出部の側面に係止されるため,2本の配管は抜けを完全に阻止して確実に結合される。」を「また,折り込まれた各スリットの側壁部が内側の屈曲膨出部の側面に押圧係止され,屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,屈曲膨出部が,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向するスリットの側壁部との間に挟持され,さらに,隣り合うスリット間の円周方向の長さより長く形成されたスリットの側壁部が屈曲膨出部の側面に押圧係止されるため,2本の配管は抜けを完全に阻止するとともにがたつきを阻止して確実に結合される。」と訂正する。

(2)訂正の可否について
ア 訂正事項a,dについて
上記訂正事項a,dは,請求項1,2に記載の各スリットの先端部の拡管部のかしめの態様を「スリットから該拡管部の先端までの部位」に限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0016】の「配管2における拡管部2cのスリット2dより先端部に,…スリット2dの先端部側の拡管部2c…を内側にかしめて」の記載及び図2の記載から自明であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
イ 訂正事項b,eについて
上記訂正事項b,eのうち,「該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させ」との訂正は,請求項1,2に記載のスリットの側壁部と屈曲膨出部の側面との関係を「押圧」係止させると限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0017】に「内側に折り込まれた各スリット2dの側壁部が内側の屈曲膨出部1bの側面を押圧して係止する状態となり」と記載されているところから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また,「配管結合装置であって,」及び「配管結合方法であって」との訂正は,文章構成の便宜上,発明の名称を追加したものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項c,fについて
上記訂正事項c,fのうち,「該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され,」との訂正は,請求項1,2に記載のかしめを形成するためのスリットの構成を限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0013】の「拡管部2cの周囲に,円周角度で約60°の長さを持つ4本のスリット2dが,約30°の間隔で設けられる。」との記載及び図1,2の記載から自明であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また,「該かしめにより,」との訂正は,請求項1,2においてスリットの側壁部と環状平面部とによる屈曲膨出部の挟持構造を明確化したものであり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0017】に「内側に折り込まれた各スリット2dの側壁部が内側の屈曲膨出部1bの側面を押圧して係止する状態となり,…挟持され」と記載されているところから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
加えて,「該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で,」及び「該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とを接触させた状態で,」との訂正は,請求項1,2において「当接する」と記載された環状平面部と屈曲膨出部との関係について明確化したもので,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0014】の「先端直管部1aを配管2の拡管部2a?2c内に,屈曲膨出部1bが拡管部の環状平面部Aに当接するまで挿入する。」との記載及び図2の記載から自明であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
さらに,「該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,」との訂正は,請求項1,2において「当接する」と記載された環状平面部と屈曲膨出部との関係及び「係止」と記載されたスリットの側壁部との関係を限定したものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0017】の「屈曲膨出部1bが環状平面部Aとスリット2dの側壁部との間に挟持され」との記載及び図2の記載から自明であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また,「さらに,隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて」及び「さらに,該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて」との訂正は,請求項1,2における屈曲膨出部に対するスリットの側壁部の支持構成を限定するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0013】,【0017】の記載及び図1,2の記載から自明であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
そして,上記訂正事項fの「両配管を結合」との訂正は,「両配管が結合」との記載に対し誤記を訂正するものであり,誤記の訂正を目的とするものに該当し,本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「出願当初の明細書等」という。)の記載から自明な事項であって,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内のものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
さらに,「がたつきが阻止され」との訂正は,両配管の関係を明確化したものであり,明りょうでない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0017】に「両配管1,2の抜けやがたつきが完全に阻止され,結合が完了する。」と記載されているところから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また,「該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持」との訂正は,スリットの先端部の拡管部をかしめた後の環状シール材の状態及び両配管の関係を明確化したものであり,明りょうでない記載の釈明又は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,本件特許明細書の段落【0017】の「結合部分の内側では,環状シール材3が適当荷重により圧縮された状態となり,結合部の気密は保持される。」と記載されるところから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
エ 訂正事項g,hについて
上記訂正事項g,hは,上記訂正事項a?fの訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるための訂正であり,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,かつ,上記訂正事項a?fと同様,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)以上のとおりであるから,上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書の規定に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件訂正発明
上記のとおり,本件訂正請求による訂正を認めるので,訂正後の本件特許発明(以下「本件訂正発明」という。)は,訂正された特許請求の範囲の記載によれば,次のとおりのものと認められる。
【請求項1】一方の配管の端部に形成され,内側に設けられた環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部と,
他方の配管の端部に形成され,該拡管部の内側に挿入される先端直管部と,
該先端直管部の付根部に外側に膨出して形成され,前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部と,
該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材とを備え,
他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で,各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって,
該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され,
該かしめにより,該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,さらに,隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることでがたつきが阻止され,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持されたことを特徴とする配管結合装置。(以下「本件訂正発明1」という。)
【請求項2】 一方の配管の端部の内側に環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部を形成し,
他方の配管の端部に該拡管部の内側に挿入される先端直管部を形成し,該先端直管部の付根部に外側に膨出し,かつ前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部を形成し,
該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材を配し,他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で,各スリットの先端側の拡管部における該スリットから先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合方法であって,
該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さを,隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成し,該かしめにより,該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とを接触させた状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し,さらに,該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて該両配管を結合することでがたつきが阻止され,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密を保持させることを特徴とする配管結合方法。(以下「本件訂正発明2」という。)
なお,請求項1,2に記載された「一方の端部」は,「一方の配管の端部」の明らかな誤記と認められるので,本件訂正発明を上記のとおり認定した。(この点については,被請求人も第1回口頭審理調書の【本件発明について】の1で認めている。)

4.請求人の主張の概要
これに対して,請求人は,以下に示す第1,第2及び第3の理由により,本件訂正発明1及び2の特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効にすべきであると主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出している。

第1の理由(無効理由1)
本件訂正発明1及び2は,甲第1号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて(無効理由1-1),又は甲第1号証,甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて(無効理由1-2),又は甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて(無効理由1-3),当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第2の理由(無効理由2)
本件訂正発明1及び2は,甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて(無効理由2-1),又は甲第4号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて(無効理由2-2),又は甲第4号証,甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて(無効理由2-3),当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第3の理由(無効理由3)
本件訂正発明1及び2は,甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明のうち,いずれか2以上のものに基づいて(無効理由1,2を除く),当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(証拠方法)
甲第1号証:実願昭60-85159号(実開昭61-200985号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実公昭36-1647号公報
甲第3号証:実願昭59-168160号(実開昭61-82192号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭49-72152号(実開昭51-2734号)のマイクロフィルム
甲第5号証:特公平3-11935号公報
甲第6号証:実公昭53-51992号公報
甲第7号証:トヨタ スープラの修理書,p.8-23(昭和61年2月発行のブレーキブースタの分解図及び組立図)
甲第8号証:特開昭55-76207号公報
甲第9号証:西独国特許出願公開第1908878号明細書(1969年)
甲第10号証:実願平2-88154号(実開平4-46294号)のマイクロフィルム
甲第11号証:実願昭63-101921号(実開平2-23269号)のマイクロフィルム
甲第12号証:実公平6-11277号公報

5.被請求人の主張の概要
一方,被請求人は,本件訂正発明1及び2は,甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,その特許は無効とされるべきものではない旨主張している。

6.甲各号証の記載事項
(1)甲第10号証
甲第10号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「本考案は,主として自動車用空調装置に使用するパイプ接続器に関し,自動車産業分野及び空調機器分野に広く応用できるものである。」(明細書1頁17?19行)
・「本考案を第1図及び第2図,第3図,第4図に示す実施例により説明する。1端側に溶接やロー付けによりパイプ2Bを連結した接続器本体1の他端側の対向位置を切りこんで,第4図に明示する如く対向面に明けられた止め金具挿嵌溝穴4を設ける。また,内周面に大小径2段の小径段部3と大径段部3’を形成し,小径段部3にOリング5を嵌合し,その背後に小径バックアップリング6を嵌着して固定し,大径段部3’の奥壁は挿嵌したパイプ2Aの先端部に形成された凸縁8のストッパーを構成する。
接続するパイプ2Aは第5図に示す如く先端部を成形加工して凸縁8を形成し,接続器本体1に挿入されたこのパイプ2Aの凸縁8の先端側と接続器本体1の内周面の小径段部3との間に,Oリング5及び小径バックアップリング6を介在させ,Oリング5によりパイプ2Aをガスシールする。Oリング5と小径バックアップリング6は,第6図に示す如くパイプ2Aの先端部に嵌着させた状態で接続器本体1の開口部に挿入し,Oリング5をパイプ2Aと小径段部3との間に介在させてもよい。
前記止め金具挿嵌溝穴4には,第3図及び第4図に示す如く弾性止め金具7を着脱可能に挿嵌し,挿入されたパイプ2Aの先端部の凸縁8の後面に当接させると共に,パイプ2Aの外周面に挟接させてパイプ2Aを固定する。この弾性止め金具7は・・・止め金具挿嵌溝穴4に挿嵌した時,パイプ2Aの凸縁8の後面に圧接して間隙を無くするため第9図に示す如く凸縁8との接触側を巾広くしてもよい。」(同書4頁16行?6頁8行)
・「第11図は接続器本体1の内周面の小径段部3にOリング5を嵌着し,バックアップリング6は省略して大径段部3’に奥壁に突き当るパイプ2Aの凸縁8によりOリング5を固定する構造である。」(同書6頁17?20行)
・「(7)考案の効果
本考案は,スパナ等の回動,締付け工具類を全く使用せずに,パイプ挿入組付け時及びパイプ取外し時には小さな力による押入操作だけで容易にパイプを接続取りつけし,かつ取り外しできるものである。また,接続器本体内に内圧がかかった時には高圧にも耐えられる構造のパイプ接続器である。
従って,作業が困難な自動車のエンジンルーム等の狭い所におけるパイプの接続及び取外しに適し,作業能率を著しく向上する実効を有する。」(同書7頁20行?8頁10行)
・第3図,第4図,第11図等には,パイプ2Bを連結した接続器本体1において,その内周面に形成された大径段部3’より先端側に,円周方向に沿って2つの止め金具挿嵌溝穴4を設ける態様が示されている。
・第5図,第11図等には,パイプ2Aの先端部に,接続器本体1の内側に挿入される直管部を形成するとともに,該直管部の付根部に凸縁8を外側に膨出して環状に形成する態様が示されている。
・第1図,第11図には,パイプ2Aの凸縁8の先端側の面と接続器本体1の大径段部3’の面とが接触した状態で,該凸縁8を両パイプ2A,2Bの軸線方向で大径段部3’と弾性止め金具7との間に挟持する態様が示されている。
また,同図には,接続器本体1とパイプ2Aの先端の直管部との間に,Oリング5が圧縮状態で介在される態様が示されている。
・第4図には,止め金具挿嵌溝穴4の円周方向の長さが,隣り合う2つの止め金具挿嵌溝穴4間の円周方向の長さより長く形成された態様が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第10号証には,以下の事項からなる発明(以下「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。
「パイプ2Bの1端側に連結され,内周面に形成された大径段部3’と該大径段部3’より先端側で円周方向に沿って設けられた2つの止め金具挿嵌溝穴4とを有する接続器本体1と,
パイプ2Aの先端部に形成され,該接続器本体1の内側に挿入される直管部と,
該直管部の付根部に外側に膨出して形成され,前記大径段部3’に突き当たる環状の凸縁8と,
該接続器本体1と該直管部との間に圧縮状態で介在されるOリング5とを備え,
パイプ2Aの端部をパイプ2Bと連結された接続器本体1に挿入した状態で,止め金具挿嵌溝穴4に弾性止め金具7を挿嵌し,該弾性止め金具7を該凸縁8の後面に圧接させるパイプ接続器であって,
該止め金具挿嵌溝穴4の円周方向の長さは,隣り合う2つの止め金具挿嵌溝穴4間の円周方向の長さより長く形成され,
該凸縁8の先端側の面と大径段部3’の面とが接触した状態で,該凸縁8を,両パイプの軸線方向で該大径段部3’と弾性止め金具7との間に挟持し,さらに,該弾性止め金具7を凸縁8の後面に圧接させて両パイプ2A,2Bが結合されることで固定され,該接続器本体1と該直管部との間にOリングを圧縮状態で介在させてパイプ2Aをガスシールしたパイプ接続器。」

(2)甲第9号証
甲第9号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。(訳は請求人提出の翻訳文による。)
・「本発明では,設置位置で薄肉管どうしを接続するのに特に利点のある,すなわち溶接具その他の複雑な工具を使用する必要のない,新しい改良された管継手を実現することを課題とする。」(翻訳文1頁4?6行)
・「図1に描かれた連結スリーブ10は口径が同じである二つの管11と12を取り外し可能に接続するためのものである。連結スリーブは,双方の管が一定の遊びをもって望遠鏡のように差し込まれるところの円筒状の中間部位12を有し,そして両端に拡管した円筒状の部位13が形成されており,この部位に,端から少し離して,周囲を取り巻く四つのスリット14がある。管と連結スリーブの拡管した円筒状の部位13との間の環状の空間は,Oリング15または別のシール部品,およびその外側でスリットを入れられた締結リング16を受ける。後者の締結リングは管に付けられた溝17に着座される。この管の溝は連結スリーブの中のスリット14より内側にある。締結リング16は連結スリーブ内に保持されていて,締結リングを導き入れた後にスリーブ壁がスリット14の外側で放射方向内向きに曲折され,その結果,図1の上部に図示するように,その曲折部により締結リングから外側にスリーブが外れるのを防ぐストッパーを形成することになる。」(同1頁21行?2頁1行)

7.無効理由1-3(甲10と甲9との組合せ)について
(7-1)本件訂正発明1について
(1)請求人の主張
本件訂正発明1は,甲第10号証の発明において,弾性止め金具に代えて甲第9号証に記載されたかしめ構造を採用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)被請求人の主張
甲第10号証のパイプ接続の構成は,そもそも弾性止め金具という別体部品を用いてパイプ2Aと接続器本体1とを結合している点で,本件訂正発明1と異なり,したがって,同号証にはかしめの構成が記載されていない。
また,同号証には,止め金具挿嵌溝穴4が該溝穴間の円周方向の長さより長く形成されているが,該溝穴は弾性止め金具7を挿嵌するための穴であり,かしめを形成するためのスリットとは用途・機能が異なるから,本件訂正発明1の「複数のスリット」の構成を開示していない。
さらに,甲第9号証においては,かしめ後のスリット14の側壁部と締結リング16との間にはわずかに隙間が形成され,本件訂正発明1の「スリットの側壁部を屈曲膨出部の側面に押圧係止させる」構成が記載されていない。また,同号証には,スリットの円周方向の長さを,隣り合う複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成する構成も記載されていない。
したがって,甲第10号証及び甲第9号証に記載された発明を組み合わせても,本件訂正発明1の「強固な結合が実現でき,別部品を用いることなく好適に抜けを阻止できるとともに,がたつきを阻止できる」という作用効果を奏することはできず,本件訂正発明1は当業者が容易に発明できるものではない。
(3)当審における対比・判断
ア 対比
本件訂正発明1と甲10発明とを対比すると,
後者における「パイプ2B」は,その機能・作用からみて前者における「一方の配管」に相当し,以下同様に,「1端側」は「端部」に,「連結され」は「形成され」に,「内周面に形成された大径段部3’」は「内側に設けられた環状平面部」に,それぞれ相当している。
また,後者の「2つの止め金具挿嵌溝穴4」と前者の「複数のスリット」とは,「複数の切欠き部」との概念で共通する。
さらに,後者の「接続器本体1」は前者の「拡管部」に相当し,以下同様に「パイプ2A」は「他方の配管」に,「先端部」は「端部」に,「直管部」は「先端直管部」又は「直管部」に,「突き当たる」は「当接する」に,「凸縁8」は「屈曲膨出部」に,「介在される」は「介装される」に,「Oリング5」は「環状シール材」に,それぞれ相当している。
加えて,後者の「凸縁8の後面に圧接させる」態様は,前者の「屈曲膨出部の側面に押圧係止させる」態様に相当しているから,後者の「止め金具挿嵌溝穴4に弾性止め金具7を挿嵌し,該弾性止め金具7を凸縁8の後面に圧接させる」態様と,前者の「各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる」態様とは,「所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させる」との概念で共通する。
また,後者の「パイプ接続器」は前者の「配管結合装置」に相当する。
そして,後者の「凸縁8の先端側の面と大径段部3’の面とが接触した状態で,該凸縁8を,両パイプの軸線方向で該大径段部3’と弾性止め金具7との間に挟持し,さらに,該弾性止め金具7を凸縁8の後面に圧接させて両パイプ2A,2Bが結合される」態様と,前者の「かしめにより,屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向するスリットの側壁部との間に挟持し,さらに,隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合される」態様とは,「屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部と所定の部材との間に挟持し,さらに,所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合される」との概念で共通する。
さらに,後者の「固定され」と前者の「がたつきが阻止され」とは,「所定の関係にされ」との概念で共通する。
加えて,後者の「接続器本体1と直管部との間にOリングを圧縮状態で介在させてパイプ2Aをガスシールした」態様は,前者の「両配管の結合部分の内側で環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持された」態様に相当する。

したがって,本件訂正発明1と甲10発明とは,
「一方の配管の端部に形成され,内側に設けられた環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数の切欠き部とを有する拡管部と,
他方の配管の端部に形成され,該拡管部の内側に挿入される先端直管部と,
該先端直管部の付根部に外側に膨出して形成され,前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部と,
該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材とを備え,
他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で,所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって,
該切欠き部の円周方向の長さは,隣り合う該複数の切り欠部間の円周方向の長さより長く形成され,
該屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部と所定の部材との間に挟持し,さらに,所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることで所定の関係にされ,該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり,該両配管の結合部分の気密が保持された配管結合装置。」の点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点1]
切欠き部に関し,本件訂正発明1では「(かしめを形成するための)スリット」であるのに対し,甲10発明では「(弾性止め金具を挿嵌するための)止め金具挿嵌溝穴」である点。
「相違点2]
「所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させる」態様に関し,本件訂正発明1では,「各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み,該スリットの側壁部を」屈曲膨出部の側面に押圧係止させるのに対し,甲10発明では,「止め金具挿嵌溝穴4に弾性止め金具7を挿嵌し,該弾性止め金具7を」屈曲膨出部の側面に押圧係止させる点。
「相違点3」
「屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部と所定の部材との間に挟持し,さらに,所定の部材を屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合される」態様に関し,本件訂正発明1では,「かしめにより」,屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で,該屈曲膨出部を,両配管の軸線方向で該環状平面部と「これに対向するスリットの側壁部」との間に挟持し,さらに,「隣り合う該スリットの間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部」を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されるのに対し,甲10発明では,「かしめにより」形成され「(環状平面部に対向する)隣り合うスリットの間の円周方向の長さより長く形成されたスリットの側壁部」の構成を備えず,これに代わるものとして「弾性止め金具」を採用している点。
[相違点4]
両配管の「所定の関係」に関し,本件訂正発明1では「がたつきが阻止され」るのに対し,甲10発明では「固定され」る点。

イ 相違点に対する判断
そこで,上記各相違点につき以下検討する。
・相違点1?3について
甲第9号証には,配管結合装置において,一方の配管(「連結スリーブ10」が相当)の端部に複数のスリット(「4つのスリット14」が相当)を有する拡管部(「拡管した円筒状の部位13」が相当)を形成し,他方の配管(「管11」が相当)の端部付近に該配管に対し軸線方向の相対移動が制限された環状部材(「締結リング16」が相当)を配置するとともに端部に直管部を形成し,他方の配管の端部を一方の配管の拡管部に挿入した状態で,拡管部における各スリットの先端側の部位をかしめて(「曲折する」ことが相当)内側へ折り込み,スリットの側壁部(「曲折部」が相当)を環状部材の側面に係止させる(曲折部が,締結リング16からスリーブ10が外れるのを防ぐストッパーとして作用することが相当)ことにより,配管を結合することが開示されている。
なお,甲第9号証において,かしめて形成されたスリットの側壁部(曲折部)と環状部材(締結リング)との配置関係について,第1図等をみても必ずしも明確ではないが,曲折部が締結リングからスリーブが外れるのを防ぐストッパーとして作用するためのものである以上,スリットの側壁部は,環状部材の側面との間に実質的な間隙のない係止状態にあると解するのが自然である。
そして,甲第9号証に開示された技術は,甲10発明と同様,配管結合装置の技術分野に属するものであり,また,機械装置における部品点数の削減は,一般的な技術課題といえるから,甲10発明において,そのような一般的な技術課題を踏まえ,甲第9号証に開示された技術を採用して,拡管部の環状平面部との間で屈曲膨出部を挟持するために,止め金具挿嵌溝穴に弾性止め金具を挿入することに代えて,拡管部に複数のスリットを設け,該スリットの先端側の部位をかしめて内側に折り込み,スリットの側壁部を屈曲膨出部の側面に係止させるよう構成することは,当業者が容易に想到し得ることである。
その際,スリットの側壁部を屈曲膨出部の側面に「押圧係止」させることも,弾性止め金具が凸縁の後面を「圧接」する甲10発明を踏まえて,当然に考慮されるべき事項であり,当業者が容易に採用し得る事項である。
なお,スリットの側壁部により「押圧係止」する構成について,本件特許明細書に具体的な構造は何ら記載されていないが,第1回口頭審理において被請求人は,「屈曲膨出部の側面に傾斜が存在することから押圧作用が働く」旨を主張している(第1回口頭審理調書,【本件発明について】の4参照)。そうであれば,管の端部に屈曲膨出部を形成する際にその側面に傾斜ができることは,当業者に自明な事項と解さざるを得ないところ,甲10発明も管の端部に屈曲膨出部(凸縁)を形成したものであるから,その側面に傾斜が形成されることになるのは自明ということができる。そうすると,この点からも,甲10発明に甲第9号証に開示された技術を採用して,スリットの側壁部で屈曲膨出部の側面を係止する際に,「押圧係止」するよう構成することは,当業者が容易になし得る事項といえる。
加えて,拡管部に複数のスリットを設けるに際し,スリットの長さをどの程度にするかは,かしめ加工の容易性や管の材質,強度等種々の観点から適宜選択すべき事項であって,スリットの側壁部を隣り合う該スリット間の円周方向の長さより長く形成する点は,単なる設計事項に過ぎない。
したがって,甲10発明において,甲第9号証に開示された技術を採用して,相違点1?3に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。
・相違点4について
甲10発明においても,弾性止め金具が屈曲膨出部(凸縁)の側面(後面)に「圧接」しているから,両配管(2A,2B)のがたつきが阻止されているということができる。
したがって,上記相違点4は実質的な相違点ではない。
なお,仮に相違点4が実質的な相違点である場合,すなわち甲10発明が「スリットの側壁部」で屈曲膨出部の側面を押圧係止するものではないとしても,「相違点1?3について」で検討したように,甲10発明に甲第9号証に開示された技術を採用して,スリットの側壁部で屈曲膨出部の側面を「押圧係止」するよう構成することが当業者に容易であるところ,「押圧係止」すれば両配管の「がたつきが阻止」されることは,当然に奏される作用効果に過ぎない。したがって,甲10発明において,相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

また,本件訂正発明1の全体構成により奏される作用効果は,甲10発明及び甲第9号証に開示された技術から予測し得る程度のものと認められる。
よって,本件訂正発明1は,甲10発明及び甲第9号証に開示され技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお,被請求人は,(ア)甲第10号証のものは,弾性止め金具という別体部品を用いて配管を結合するものであるから,別体部品を用いない本件訂正発明1と相違すること,(イ)本件訂正発明1において,スリットの円周方向の長さを,隣り合う複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成する点は,設計事項とはいえない,すなわち,スリットの長さやスリット間の長さ単体の寸法を設定するものではなく,スリットの長さとスリット間の長さの相対関係を規定するものであるから,当業者の通常の創作能力の発揮とはいえない旨を主張する。
しかし,上記(ア)の点について検討すると,上記のとおり,機械装置において構成部品点数の削減は一般的な技術課題であるから,甲10発明を見た当業者がそのような技術課題を踏まえて,別体部品を用いない「かしめ構造」による配管結合構造を採用することは,容易に想到し得ることである。
また,上記(イ)の点について検討すると,被請求人も認めるように,スリット間の長さにもその強度を確保するため技術常識から定まる下限値が存在する。そして,一定の定められた円周長さのもとで,スリットの長さを決めることは,見方を変えればスリット間の長さを決めることといえるから,結局,両者の関係を勘案しながら設計するのが通常の手法と解される。そうすると,スリットの長さとスリット間の長さとのバランスを勘案しながら,両者の最適な比率を求めることは,当業者の通常の創作能力の発揮であって,設計的事項といわざるを得ない。
以上のとおり,被請求人の上記主張は,いずれも採用できない。

(7-2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,本件訂正発明1の「配管結合装置」を「配管結合方法」として表現したものであって,その構成要件を比べてみても両者は実質的に異なるところはなく,単に発明のカテゴリーが相違するに過ぎない。
したがって,本件訂正発明2も,本件訂正発明1についてと同様の理由により,甲10発明及び甲第9号証に開示された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.むすび
以上のとおりであるから,無効理由1には理由があり,本件訂正発明1及び2は,甲第10号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これらの特許は,いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
配管結合装置及び配管結合方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に形成され、内側に設けられた環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部と、
他方の配管の端部に形成され、該拡管部の内側に挿入される先端直管部と、
該先端直管部の付根部に外側に膨出して形成され、前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部と、
該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材とを備え、
他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で、各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み、該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって、
該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは、隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され、
該かしめにより、該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で、該屈曲膨出部を、両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し、さらに、隣り合う該スリット間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることでがたつきが阻止され、該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり、該両配管の結合部分の気密が保持されたことを特徴とする配管結合装置。
【請求項2】
一方の端部の内側に環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部を形成し、
他方の配管の端部に該拡管部の内側に挿入される先端直管部を形成し、該先端直管部の付根部に外側に膨出し、かつ前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部を形成し、
該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材を配し、他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で、各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み、該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合方法であって、
該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さを、隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成し、該かしめにより、該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とを接触させた状態で、該屈曲膨出部を、両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し、さらに、該スリット間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて該両配管を結合することでがたつきが阻止され、該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり、該両配管の結合部分の気密を保持させることを特徴とする配管結合方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用暖房装置の温水配管の結合等に使用する配管結合装置及び配管結合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、温水配管の結合装置として、図3、図4に示すように、一方の配管11の端部に環状の屈曲膨出部11aを形成すると共に、その先方に先端直管部11bを形成し、他方の配管12の端部にフランジ部12bを有する拡管部12aを設け、一方の配管11の先端直管部11bを他方の配管12の拡管部12aに、環状シール材13を介装した状態で挿入し、そのフランジ部12bを屈曲膨出部11aに当接させ、フランジ部12bと屈曲膨出部11aの外周にばね材からなるC字形のばね結合部材14を嵌着して、結合させる装置が、従来、知られている(実公昭56-20627号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この種の配管結合装置は、ばね結合部材14を嵌着して配管を結合させるため、組付は容易であるが、ばね結合部材14の外れを防止するために、結合部分の上に押えカバー15を嵌着する必要があった。このため、ばね結合部材14や押えカバー15の接続部品が必要となり、製造コストを増大させる問題があった。
【0004】また、別の配管結合装置として、上記他方の配管の拡管部にスリット状の切欠を設け、両配管の端部を嵌合した状態で、外側から略C形のばね部材を切欠に嵌め込み、そのばね部材の内側で、内側に嵌挿された配管の屈曲膨出部を係止して結合する装置が、従来、知られている(実開昭51-2734号公報)。
【0005】この配管結合装置においても、ばね部材を嵌着して配管を結合させるため、組付は容易であるが、ばね部材の外れを防止するために、結合部分の上に押えカバー15を嵌着する必要があり、ばね部材や押えカバーの接続部品が別に必要となって、製造コストを増大させる問題があった。
【0006】本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、別の接続部分を必要とせず、簡単に低コストで配管を結合することができる配管結合装置及び配管結合方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の配管結合装置は、一方の端部に形成され、内側に設けられた環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部と、他方の配管の端部に形成され、該拡管部の内側に挿入される先端直管部と、該先端直管部の付根部に外側に膨出して形成され、前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部と、該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材とを備え、他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で、各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み、該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合装置であって、該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さは、隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成され、該かしめにより、該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とが接触した状態で、該屈曲膨出部を、両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し、さらに、該スリット間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて両配管が結合されることでがたつきが阻止され、該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり、該両配管の結合部分の気密が保持された配管結合装置とした。また、本発明の配管結合方法では、一方の端部の内側に環状平面部と該環状平面部より先端側で円周方向に沿って配設された複数のスリットとを有する拡管部を形成し、他方の配管の端部に該拡管部の内側に挿入される先端直管部を形成し、該先端直管部の付根部に外側に膨出し、かつ前記環状平面部に当接する環状の屈曲膨出部を形成し、該拡管部と該直管部との間に圧縮状態で介装される環状シール材を配し、他方の配管の端部を一方の配管の該拡管部に挿入した状態で、各スリットの先端側の拡管部における該スリットから該拡管部の先端までの部位をかしめて内側へ折り込み、該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させる配管結合方法であって、該かしめを形成するための該スリットの円周方向の長さを、隣り合う該複数のスリット間の円周方向の長さより長く形成し、該かしめにより、該屈曲膨出部の環状平面部側の面と該環状平面部の面とを接触させた状態で、該屈曲膨出部を、両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向する該スリットの側壁部との間に挟持し、さらに、該スリット間の円周方向の長さより長く形成された該スリットの側壁部を該屈曲膨出部の側面に押圧係止させて該両配管を結合することでがたつきが阻止され、該両配管の結合部分の内側で該環状シール材が圧縮された状態となり、該両配管の結合部分の気密を保持させる配管結合方法とした。
【0008】
【作用及び発明の効果】この様な構成の配管結合装置および配管結合方法では、一方の配管の拡管部における各スリットの先端側におけるスリットから拡管部の先端までの部位を内側に折り込むようにかしめるだけで、屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で、屈曲膨出部が両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向するスリットの側壁部との間に挟持され、両配管の結合部分の内側で前記環状シール材が圧縮された状態となるため、容易に2本の配管を気密に結合することができる。また、折り込まれた各スリットの側壁部が内側の屈曲膨出部の側面に押圧係止され、屈曲膨出部の環状平面部側の面と環状平面部の面とが接触した状態で、屈曲膨出部が、両配管の軸線方向で該環状平面部とこれに対向するスリットの側壁部との間に挟持され、さらに、隣り合うスリット間の円周方向の長さより長く形成されたスリットの側壁部が屈曲膨出部の側面に押圧係止されるため、2本の配管は抜けを完全に阻止するとともにがたつきを阻止して確実に結合される。さらに、従来使用していたような、ばね部材や押えカバー等の別の接続部品を必要とせず、低コストで配管の結合を行うことができる。
【0009】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0010】図1、図2は本発明を適用した自動車用暖房装置における温水配管の結合装置を示している。1は上流側の配管、2は下流側の配管であり、両者共に同じ径を有し、例えばアルミニウム合金で形成される。配管1の端部には先端直管部1aが形成され、その先端直管部1aの付根部に外側に膨出した環状の屈曲膨出部1bが形成される。
【0011】配管2の端部は3段にわたって拡径加工され、第1の拡管部2a、第2の拡管部2b、そして第3の拡管部2cが先端に向って順に径を大きくするように形成される。拡管部2bと2c間の内周面には環状平面部Aが形成され、配管2内に配管1の端部を挿入した際、その屈曲膨出部1bが環状平面部Aに当接する。また、配管2内に配管1の端部を挿入した際、配管1の先端直管部1aが配管2の拡管部2aの内側に殆ど隙間なく嵌合するように、各管の外径及び内径が設定されている。
【0012】配管2の拡管部2bの内周部は、配管1の先端直管部1aに外嵌された環状シール材3を所定量だけ圧縮するように、その内径が設定される。また、拡管部2cの内径は、配管1の屈曲膨出部1bがその内側に殆ど隙間なく嵌合される程度に設定される。先端直管部1aと拡管部2b間に介装される環状シール材3としては、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム等のOリングが使用される。
【0013】さらに、配管2の拡管部2cには、複数のスリット2dが円周方向に沿って形成される。ここでは、拡管部2cの周囲に、円周角度で約60°の長さを持つ4本のスリット2dが、約30°の間隔で設けられる。これらのスリット2dは配管1、2の厚さ程度の幅を有し、スリット2dの先端側の側面位置は、配管1の端部が配管2内に挿入されて、屈曲膨出部1bが拡管部内周の環状平面部Aに当接した際、屈曲膨出部1bの根元面と略一致するように設定される。
【0014】上記構成の配管1と配管2は、図2に示すように結合される。即ち、環状シール部材3を配管1の先端直管部1aの元部に外嵌させた状態で、先端直管部1aを配管2の拡管部2a?2c内に、屈曲膨出部1bが拡管部の環状平面部Aに当接するまで挿入する。
【0015】この状態で、配管1の先端直管部1aは拡管部2aの内部に嵌合され、拡管部2bの内側に嵌入した環状シール材3は内外周部から押圧され所定量だけ圧縮された状態となる。
【0016】そして、この状態で、配管2における拡管部2cのスリット2dより先端部に、外部から中心に向う荷重をかけ、スリット2dの先端部側の拡管部2c(ここでは4箇所)を内側にかしめて、拡管部2cの4箇所の内面が配管1の外周面に当接するまで折り入れる。
【0017】これによって、図2に示すように、内側に折り込まれた各スリット2dの側壁部が内側の屈曲膨出部1bの側面を押圧して係止する状態となり、屈曲膨出部1bが環状平面部Aとスリット2dの側壁部との間に挟持され、両配管1、2の抜けやがたつきが完全に阻止され、結合が完了する。このとき、結合部分の内側では、環状シール材3が適当荷重により圧縮された状態となり、結合部の気密は保持される。
【0018】なお、上記実施例では、本発明をアルミニウム合金製の温水配管の結合に適用したが、黄銅など他の金属や合成樹脂製等の種々の配管の結合に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す配管結合部の分解斜視図である。
【図2】配管結合部の部分断面付き斜視図である。
【図3】従来の配管結合装置の斜視図である。
【図4】従来の配管結合装置の断面図である。
【符号の説明】
1、2-配管、
1a-先端直管部、
1b-屈曲膨出部、
2a,2b,2c-拡管部、
2d-スリット、
3-環状シール材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-06-18 
結審通知日 2009-06-23 
審決日 2009-07-07 
出願番号 特願平4-222992
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (F16L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小菅 一弘谷口 耕之助  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 田良島 潔
片岡 弘之
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2650176号(P2650176)
発明の名称 配管結合装置及び配管結合方法  
代理人 井口 亮祉  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 永井 聡  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 井口 亮祉  
代理人 窪田 卓美  
代理人 永井 聡  

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