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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1204460
審判番号 不服2007-23721  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-30 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 特願2004-276675「プリント配線板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月3日出願公開、特開2005-57298〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年12月9日(国内優先権主張、平成9年1月10日)を出願日とする特願平9-361961号の一部を、平成16年9月24日に新たな出願とした、分割に係る特許出願であって、平成19年2月26日付けで拒絶理由が通知されたところ、その指定期間内の平成19年5月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年7月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成19年8月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、法定期間内の平成19年9月28日付けで、その特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたものである。

【2】補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年9月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」ともいう)を却下する。
[理由]
本件補正後の特許請求の範囲の【請求項1】には、
「上記絶縁基板の表面に、熱硬化型樹脂からなるソルダーレジストを印刷すると共にソルダーレジストの一部を上記導通用孔の内部に進入させ、次いで、該ソルダーレジストを熱硬化させて、・・・絶縁被膜を形成し、次いで、該絶縁被膜における開口部形成部分にレーザーを照射して、・・・開口部を形成することにより、導体回路の端部以外の一部を露出させる」との特定事項が記載されている。

一方、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という)には、【図8】,【図9】及びそれらの関連記述において、
段落【0089】
「各絶縁層351、352の表面は、ソルダーレジスト306により被覆されている。導通用孔331、332の内壁及び底部は、金属めっき膜323により被覆されている。導体用孔331、332の内部には、ソルダーレジスト306の一部が進入している。」
段落【0094】
「次いで、図9に示すごとく、絶縁層351の表面をソルダーレジスト306により被覆するとともに、ソルダーレジスト306の一部を導通用孔331の内部に進入させてその内部を孔埋めする。」
段落【0095】
「次いで、図8に示すごとく、絶縁層351の上面に、他の絶縁層352を積層して絶縁基板305を得る。即ち、絶縁層351の上面に、プリプレグ、銅箔を積層、圧着する。次いで、銅箔をエッチングして、導体パターン326、ボンディングパッド327及び搭載部370を形成する。次いで、絶縁層352にレーザー光を照射して、導通用孔332を形成する。このとき、導通用孔332の底部は、内部の導体パターン325に至らしめる。次いで、化学めっき法及び電気めっき法を行うことにより、導通用孔332の内壁及び底部に金属めっき膜323を形成する。」
段落【0096】
「次いで、絶縁層352の表面をソルダーレジスト306により被覆するとともに、ソルダーレジスト306の一部を導通用孔332の内部に進入させて孔埋めする。このとき、ボンディングパッド327は、露出させたままとする。以上により、プリント配線板341を得る。」
とは記載されてはいるものの、上記特定事項、すなわち要約すると、
「絶縁基板の表面に、熱硬化型樹脂からなるソルダーレジストを印刷すると共にソルダーレジストの一部を導通用孔の内部に進入させ、次いで、該ソルダーレジストを熱硬化させて絶縁被膜を形成し、次いで、該絶縁被膜における開口部形成部分にレーザーを照射して開口部を形成することにより、導体回路の端部以外の一部を露出させる」ことは記載も示唆もされていない。

したがって、上記特定事項は、当初明細書等には記載されておらず、またそれらの記載から自明な事項であるとも認められないので、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、審判請求人が平成19年9月28日付けでした手続補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】この出願の発明
平成19年9月28日付けの手続補正は、前記【2】段落のとおり却下されたので、この出願の請求項1?5に係る発明は、平成19年5月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものと認められ、そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおり、
「【請求項1】絶縁基板の表面に導体回路を形成し、次いで、上記絶縁基板の表面に、熱硬化型樹脂からなるソルダーレジストを印刷し、次いで、該ソルダーレジストを熱硬化させて、100ppm/℃以下の熱膨張係数を有する絶縁被膜を形成し、次いで、該絶縁被膜における開口部形成部分にレーザーを照射して、上記開口部形成部分の絶縁被膜を焼き切り開口部を形成することにより、導体回路の端部以外の一部を露出させることを特徴とするプリント配線板の製造方法。」である。

【4】引用例及び周知例
[1]引用例1;特開平8-298368号公報(原審の拒絶理由通知で提示された引用文献1である)の記載事項
段落【0005】の【課題を解決するための手段】に、
(引1a)「・・・硬化収縮、塗膜のクラック発生を防止し、また、均一塗膜形成を可能にし、該塗料をプリント配線板全面に均一に塗膜形成し、熱硬化した後、・・・レーザー光が照射され、その部分の塗膜を取り除く方法によるため、塗膜の境目におけるブリードの問題は全くなく、また、各種特性を自在に有する塗膜が選択的に形成できる」と記載され、
段落【0006】に、
(引1b)「本発明における熱硬化性樹脂組成物とは、公知のエポキシ樹脂」と記載され、
段落【0011】に、
(引1c)「熱硬化性樹脂組成物と粉体は、公知のロール混練や撹拌により、均一に混合する。塗料の粘度は 200?600poise/25℃が好適である。プリント配線板表面への塗布は、公知のスクリーン印刷」と記載され、
段落【0012】に、
(引1d)「レーザー照射により、不必要な部分の塗膜を選択的に除去する場合、一般的に除去すべき部分は、プリント配線板の表面に形成された導体回路の一部分のみである事がほとんどである」と記載され、
段落【0013】に、
(引1e)「・・・レーザーは、最も好ましくは、炭酸ガスレーザーであり、エキシマレーザーも使用しうる。レーザー光は、そのエネルギー強度とパルス数により、除去する樹脂層の厚さを高精度で調整できる為、塗膜を除去する部分の下面が金属の導体回路の一部分であれば、塗膜のみを完全に除去できる」と記載され、
段落【0015】に、
(引1f)「・・・耐クラック性の優れた可とう性で高耐熱性の選択的形成、・・・選択的レジスト膜の形成を容易に実行できる」と記載され、
段落【0021】に、
(引1g)「この塗料をスクリーン印刷によりプリント板表面に塗布し、180 ℃、30分間加熱、硬化させた」と記載されている。

[2]引用例2;特開平5-198953号公報(原審の拒絶理由通知で提示された引用文献5である)の記載事項
段落【0075】に、
(引2a)「実施例9.エピコート#828(油化シェルエポキシ(株)製のビスフェノール系エポキシ樹脂)64.8部(重量部、以下同様)およびPSM-4327(郡栄化学工業(株)製のフェノール樹脂)35.2部を90℃に加熱しながら融解し、シリカ粒子(新日本化学(株)製、粒径12μm)120.0部を均一に分散後、2E4MZ (イミダゾール、触媒)0.12部を混合し、充填材含有エポキシ樹脂を得た」と記載され、
段落【0076】に、
(引2b)「次に、サンドブラスト処理を行ったPESフィルム(三井東圧(株)製、ポリエーテルスルホン:熱可塑製フィルム厚さ50μm)に、加熱融解した上記充填材含有エポキシ樹脂を50μmの厚さに塗布し、充填材含有エポキシ樹脂9aと熱可塑性フィルム9bとの構成体を得た」と記載され、
段落【0077】に、
(引2c)「厚さ1mmの基板1(三菱瓦斯化学(株)製EPL-170、銅の厚さ35μm)を通常の方法で複数の導体配線からなる第一導体層2を形成した。次に、前記充填材含有エポキシ樹脂9aと熱可塑性フィルム9bとの構成体を重ね、加熱ロールにより90℃でラミネート後、80℃で 2時間+150℃で2時間の条件で硬化して絶縁層9を形成した。この絶縁層表面の平滑性は良好であった」と記載され、
段落【0078】に、
(引2d)「次に、CO_(2)ガスレーザーにて、1パルス(パルス幅・40マイクロ秒)0.2?0.4ジュールの条件で絶縁層を直径0.2mmに孔明けし、前記第一導体層2を構成する一部の導体配線の表面を露出させる開口4を形成した状態の絶縁層とした」と記載され、
段落【0081】に、
(引2e)「この3層配線基板を、260℃のハンダ中に10秒間浸漬し、室温下で5分間放置する操作を1サイクルとして、5サイクル繰り返した後、導体層のハガレ及びクラックを調べたが異常は認められなかった」と記載され、
段落【0082】に、
(引2f)「絶縁層の熱膨張率を測定したところ、充填材含有エポキシ樹脂は、2.8(×10^(-5)/℃)であり、充填材含有エポキシ樹脂9aと熱可塑性フィルム9bとの構成体は、3.9(×10^(-5)/℃)であり、熱可塑性フィルムは、5.4(×10^(-5)/℃)であり、通常の樹脂の7.0(×10^(-5)/℃)に比べ小さい値であった」と記載されている。

[3]周知例1;特開平6-85091号公報の記載事項
項目【特許請求の範囲】に、
(周1a)「【請求項1】多層配線の層間絶縁膜において、絶縁膜が、硬化前の粘度1万ポアズ以下で、かつ硬化前後の体積収縮率が5%以下の耐熱性熱硬化樹脂からなることを特徴とする層間絶縁膜。
【請求項2】絶縁膜が、熱膨張率が5×10^(-5)/℃以下の耐熱性熱硬化樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の層間絶縁膜。
【請求項3】耐熱性熱硬化樹脂が脂肪族環状エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の層間絶縁膜。」と記載され、
段落【0001】の【産業上の利用分野】に、
(周1b)「本発明はLSIや多層配線板などに使用できる平坦性、耐熱性に優れた層間絶縁膜に関する」と記載され、
段落【0003】の【発明が解決しようとする課題】に、
(周1c)「本発明の目的は塗布及び硬化が容易で硬化時の歪みが小さく基板との接着性、平坦性かつ耐熱性に優れた層間絶縁膜を提供することにある」と記載され、
段落【0012】に、
(周1d)「樹脂を層間絶縁膜に用いる場合、樹脂の熱膨張率は一般に基板や配線材料に比べ熱膨張率が大きいため、層間絶縁膜形成後の部品作製プロセス時の熱サイクルや実使用環境での熱サイクルで歪みがかかり、層間絶縁膜と基板や配線部分との間で膨れが生じたり、ほがれが生じる場合が多い。このため、樹脂の熱膨張率をできるだけ小さくすることが望ましい。主成分が脂肪族環状エポキシ樹脂からなる耐熱性熱硬化樹脂の場合、熱膨張率を5×10^(-5)/℃以下に小さくすることができる」と記載されている。

[4]周知例2;特開昭61-283671号公報の記載事項
第1頁左下欄第6?9行に、
(周2a)「熱硬化性樹脂、無機充填剤、添加剤及び溶剤からなる電気絶縁被覆塗料において、その塗膜の熱膨張係数が1×10^(-5)/℃以下であることを特徴とする電気絶縁被覆塗料」と記載され、
第1頁左下欄第12?14行に、
(周2b)「本発明は、ハイブリッドICなどに使用されるベアチップ型ICに好適に使用される電気絶縁被覆塗料に関するものである」と記載され、
第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第1行に、
(周2c)「熱硬化性樹脂にはフェノール樹脂,エポキシ樹脂,シリコン樹脂,メラミン樹脂,ポリイミド樹脂などがあげられ、・・・作業性、電気特性、耐熱性、価格、純度などの観点からフェノール樹脂,エポキシ樹脂が好ましく」と記載され、
第3頁左下欄第4?12行に、
(周2d)「各ペーストをディスペンサーに注入して30μの太さの金線ワイヤボンディングしたMOS型ICチップ上にボンディング金線を完全にカバーするよう0.5mlずつドロップコートした後180℃2時間焼成し硬化させた。このようにして得られた試料を-40℃と150℃との冷熱サイクルを100回くり返す熱衝撃試験を行い金線ボンディングの破断によるICの不良発生率を調べた。この結果・・・本発明に係る塗料はその塗膜の熱膨張係数が1×10^(-5)/℃以下であるのでボンディングの破断がなく、信頼性が高い」と記載されている。

【5】当審の判断
[1]引用例の発明等
(1)引用例1について、
上記(引1d)の、「プリント配線板の表面に形成された導体回路」の記載から、プリント配線板自体が絶縁性基板もしくは絶縁処理された基板に導体を所定の形態に付設したものであることが技術常識であることを考慮すれば、
(a)「絶縁基板の表面に導体回路を形成」した点の開示を認定できる。

上記(引1c),(引1f)の、「熱硬化性樹脂組成物と粉体は、プリント配線板表面への塗布は、公知のスクリーン印刷」,「選択的レジスト膜の形成を容易に実行できる」の記載から、
(b)「絶縁基板の表面に、熱硬化性樹脂からなるレジストを印刷」した点の開示を認定できる。

上記(引1g),(引1a)の、「この塗料をスクリーン印刷によりプリント板表面に塗布し、180 ℃、30分間加熱、硬化させた」,「塗料をプリント配線板全面に均一に塗膜形成し、熱硬化した後レーザー光が照射され、その部分の塗膜を取り除く方法によるため、塗膜が選択的に形成できる」という記載から、
(c)「レジストである塗料を熱硬化させて、塗膜を形成」した点の開示を認定できる。

上記(引1d),(引1e)の、「レーザー照射により、不必要な部分の塗膜を選択的に除去する場合、一般的に除去すべき部分は、プリント配線板の表面に形成された導体回路の一部分のみである」,「レーザー光は、そのエネルギー強度とパルス数により、除去する樹脂層の厚さを高精度で調整できる為、塗膜を除去する部分の下面が金属の導体回路の一部分であれば、塗膜のみを完全に除去できる」という記載から、レーザー照射により樹脂層である塗膜を除去することは、当該膜を焼き切ることであるから、
(d)「塗膜における開口部形成部分にレーザーを照射して、上記開口部形成部分の塗膜を焼き切り開口部を形成することにより、導体回路の一部を露出させる」ことの開示が認定できる。

前記(a)?(d)の内容から、引用例1には、
「絶縁基板の表面に導体回路を形成し、絶縁基板の表面に、熱硬化性樹脂からなるレジストを印刷して、該レジストを熱硬化させて、塗膜を形成し、当該塗膜における開口部形成部分にレーザーを照射して、上記開口部形成部分の塗膜を焼き切り開口部を形成することにより、導体回路の一部を露出させるプリント配線板の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という)が開示されていると認められる。

(2)引用例2について、
上記(引2a),(引2b)の、「ビスフェノール系エポキシ樹脂64.8部およびフェノール樹脂35.2部を90℃に加熱しながら融解し、充填材含有エポキシ樹脂を得た」,「サンドブラスト処理を行ったPESフィルムに、加熱融解した上記充填材含有エポキシ樹脂を塗布し、充填材含有エポキシ樹脂と熱可塑性フィルムとの構成体を得た」との記載から、
(a)「絶縁フィルムにエポキシ樹脂を塗布した構成体を得た」点の開示が認定できる。

上記(引2c),(引2f)の、「厚さ1mmの基板を通常の方法で複数の導体配線からなる導体層を形成した。次に、エポキシ樹脂と熱可塑性フィルムとの構成体を重ね、加熱ロールにより90℃でラミネート後、80℃で 2時間+150℃で2時間の条件で硬化して絶縁層を形成した」,「絶縁層の熱膨張率を測定したところ、エポキシ樹脂は、2.8(×10^(-5)/℃)であり、通常の樹脂の7.0(×10^(-5)/℃)に比べ小さい値であった」との記載から、
(b)「エポキシ樹脂硬化物の熱膨張率は、28ppm/℃であり、通常の樹脂の70ppm/℃に比べ小さい値」である点の開示が認定できる。

前記(a),(b)の内容から、引用例2には、
(引2z)「絶縁フィルムに塗布したエポキシ樹脂硬化物の熱膨張率は、28ppm/℃であり、通常の樹脂の70ppm/℃に比べ小さい」という技術事項が開示されていると認められる。

[2]本願発明と引用発明
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「熱硬化性樹脂」は本願発明の「熱硬化型樹脂」に相当する。
引用発明における、樹脂組成物のレジスト膜はハンダに対する濡れ性がないので、当該レジスト膜は「ソルダーレジスト」といえる。
引用発明でいう、塗料は熱硬化性樹脂組成物と粉体からなっており、それ自体ソルダーレジストとなるものであり、塗布された塗料の熱硬化物としての塗膜は絶縁被膜として機能するから、「ソルダーレジストを熱硬化させて、絶縁被膜を形成」したものといえる。
ゆえに、両者は、「絶縁基板の表面に導体回路を形成し、次いで、上記絶縁基板の表面に、熱硬化型樹脂からなるソルダーレジストを印刷し、次いで、該ソルダーレジストを熱硬化させて、絶縁被膜を形成し、次いで、該絶縁被膜における開口部形成部分にレーザーを照射して、上記開口部形成部分の絶縁被膜を焼き切り開口部を形成することにより、導体回路の一部を露出させることを特徴とするプリント配線板の製造方法」である点で一致する。
一方、本願発明では、熱硬化型樹脂を硬化させた絶縁被膜を「100ppm/℃以下の熱膨張係数を有する」ものとしているのに対して、引用発明では、その絶縁被膜の熱膨張係数についての特定がない点(相違点1)と、本願発明では、導体回路の「端部以外の一部」を露出させるのに対して、引用発明では、単に「導体回路の一部を露出させる」としている点(相違点2)とで、両者は相違している。

[3]相違点1,2の検討
(1)相違点1について、
上記周知例2(特開昭61-283671号公報)にも示された如く1986年の時点で既に、(周2a),(周2c)熱硬化性エポキシ樹脂を主成分とする絶縁被覆塗料において、(周2d)加熱硬化させた塗膜の熱膨張係数が10ppm/℃以下であるものの熱サイクル試験の結果は良いことが提示されており、かつ、上記周知例1で一般的に認識されているように、(周1d)樹脂の熱膨張率は一般に基板や配線材料に比べ大きいため、熱サイクルで歪みがかかるため、樹脂の熱膨張率をできるだけ小さくすることが望ましく、(周1c),(周1a)「塗布及び硬化が容易で基板との接着性に優れた、熱膨張率が50ppm/℃以下の熱硬化樹脂からなる絶縁膜」が周知である。
とすれば、引用例2の上記(引2z)「絶縁フィルムに塗布したエポキシ樹脂硬化物の熱膨張率は、28ppm/℃であり、通常の樹脂の70ppm/℃に比べ小さい」という技術事項からして、前記した周知の事項を考慮すると、本願発明での、熱硬化型樹脂を硬化させた絶縁被膜の熱膨張係数を100ppm/℃以下にした点には、特段の技術的意義はなく、当業者が適宜に設定できた程度のものと認められる。

(2)相違点2について、
レーザー照射にて導体回路上の絶縁被膜を除去して、導体回路の一部を露出させるということは、少なくとも導体回路の一端部は露出させないことを意味するが、敢えて他端部を露出させるような形態で絶縁被膜を開口することを選択する理由がなく、引用発明における「導体回路の一部を露出させる」に際して、導体回路の中央部を露出させること、すなわち、導体回路の「端部以外の」一部を露出させることは、当業者が容易に想到できたものと認められる。

【6】むすび
以上のとおりであるから、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用例1,2及び周知例1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-24 
結審通知日 2009-07-28 
審決日 2009-08-10 
出願番号 特願2004-276675(P2004-276675)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H05K)
P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 川真田 秀男
粟野 正明
発明の名称 プリント配線板及びその製造方法  
代理人 高橋 祥泰  

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