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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1204540
審判番号 不服2006-5844  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-30 
確定日 2009-10-01 
事件の表示 特願2001-287595「環境マネジメント方法、環境マネジメント支援装置、および、プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 4日出願公開、特開2003- 99577〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成13年9月20日の出願であって,平成17年11月15日付けで拒絶理由通知がなされ,これに対して,平成18年1月23日付けで意見書の提出と共に手続補正がなされたが,平成18年2月20日付けで拒絶査定がなされた。これに対し,同年3月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされ,同年4月25日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年4月25日付けの補正について
まず,平成18年4月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから,新規事項の追加には当たらず,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
また,本件補正は,平成17年11月15日付けで通知された拒絶の理由Aに示す事項についてするものであり,同法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当し,同法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。
よって,本件補正は適法になされたものである。

3.本願発明について
上述のとおり,本件補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「コンピュータを用いて環境マネジメントをおこなうための環境マネジメント方法であって、
所定の事業活動に関わる各事業体で発生する環境負荷を定量的に示す環境指標とインベントリ情報を含む環境負荷情報が前記各事業体を示す識別情報と対応づけられて蓄積されたデータベースから前記環境負荷情報を取得する環境負荷情報取得ステップと、
前記各事業体が産出する付加価値を示す付加価値情報を含む財務情報と前記各事業体を示す識別情報とが対応づけられて蓄積されたデータベースから、前記環境負荷情報取得ステップで取得した環境負荷情報に対応づけられている識別情報に対応する前記財務情報を取得する財務情報取得ステップと、
前記環境負荷情報取得ステップで取得した環境指標と、前記財務情報取得ステップで取得した付加価値情報に示される付加価値との比を算出することで前記各事業体のバランス値を算出するバランス算出ステップと、
前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別し、当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する判別ステップと、
財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップと、
を備えることを特徴とする環境マネジメント方法。」

4.原査定の拒絶の理由について

原査定の平成17年11月15日付けの拒絶理由通知書により通知した拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
『A.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第29条第1項柱書、特許法第36条第4項、および特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本願の各請求項の記載では、その手段や手順(ステップ)が、いずれも漠然と機能的・作用的に記載されているにとどまり、各ステップで情報を取得したり、値を算出する際の処理に係る具体的な算出に係る定義や、その算出処理に係る情報処理のしくみやシステム上の具体的な機構などについて記載されておらず、技術的な裏付けに基づく記載でもないから、その算出に係る思想としても、情報処理としての具体的な技術思想としても、いずれも不明確な記載となっている。
とくに、これらのマネジメントのための機能を具現化するための装置や情報処理における具体的なしくみ(例えばソフトウエアおよびハードウエア資源が協動してなされる具体的な構成等)が、実体的な事項として全く記載されていないことから、実質的に実体を持たない“アイデア”としてのみ提示された経営手法上の取り決めに相当する。
そのため、本願に示されるこれらの手順は、単なる経営手法上の手順としての一連の概略的な取り決めであって、マネジメント等における一般的な計算の機能や手順の考え方を示しただけにすぎないから、発明の前提となるべき「コンピュータソフトウエア」としての具体的なしくみを根拠として構成されているものということができない。
したがって、本願発明は、具体的な技術的思想および技術上の構成(ソフトウエアおよびハードウエア資源が協動してなされる具体的な情報処理の構成等)に基づいておらず、一般的な概略的な考え方の提示にとどまる記載であるため、その根幹となる構成部分についての具体的技術的思想そのものが不明確であって、発明における構成についても、その特徴点における自然法則を利用した技術的思想を構成するに至っていない。
(以下,略)』

また,平成18年2月20日付けの拒絶査定により示された拒絶の理由の概要は,以下のとおりである。
『この出願については、平成17年11月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
(中略)
(記載不備)
また、出願人は、同日付けの意見書において、特許法第29条第1項柱書、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第2号に係る拒絶理由が解消した旨を主張している。

出願人から提出された意見書および補正書の内容をよく検討したが、出願人が意見書で行っている指摘は、形式的な点における記載不備の解消のための補正であって、補正の請求項の記載を参酌しても、実質的な面からみて、請求項に係る発明については、依然として成立性を十分に満たすものにはなっていない。
本件出願の請求項1-6に係る発明は、コンピュータ・ソフトウエア関連発明すなわち、その発明に提示される機能手段を実施する際に、ソフトウエア(コンピュータの動作に関するプログラム)を必要とする発明であると認められ、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるか否かの判断に際し、ソフトウエア関連発明に特有の判断、取扱いが必要なものと認められる。 (詳しくは、審査基準(平成12年12月)第VII部第1章「コンピュータ・ソフトウエア関連発明」の2.2.1を参照。)
ソフトウエア関連発明において、その思想が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、請求項に係る発明において、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源(例えば、中央演算処理装置等の具体的手段、メモリ等の記憶手段)を用いて具体的に実現されていること、つまり、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されていることが求められる。
これは、コンピュータソフトウエアとして示される各機能手段が、コンピュータにおける実体的な側面からみて、物理的な根拠や具体的なしくみを有し、技術的な形質によって示される具象的な機能手段であることを要する旨を説諭している。なぜなら、コンピュータソフトウエアにおける機能が、コンピュータの技術や実体的な側面から見て観念的、抽象的、もしくは実体的なしくみを伴わない形而上的なものである場合、その機能は、たとえ形式的にハードウエア手段として記載されていたとしても、人間の観念によって形成される形式的機能であって、その動作原理や、物理的な実体的構成を直接的に示すものではなく、技術的な寄与、もしくは物理的な性質に起因する根拠を十分に有しておらず、本質的な意味で自然法則を利用した技術的思想の概念を満たすものにはならないからである。換言すれば、提示される各機能部においては、外部から見た形式的な機能的動作を示すだけでは足りず、どの機能がどのようにして具現されているかといった、より技術的な根拠を有していなければならない。
出願人によれば、本願発明は、各事業体で発生する環境負荷を示す環境負荷情報、各事業体で産出される付加価値を示す付加価値情報、財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案を示す提案情報をデータベースに蓄積し、蓄積された環境負荷情報と付加価値情報とを用いて、環境負荷と付加価値とのバランスを事業体単位で算出し、算出したバランスに応じた改善提案をデータベースから取得して出力することが特徴点であるとしている。
しかしながら、この特徴点を形成している最も重要な機能である
(a)蓄積された環境負荷情報と付加価値情報とを用いて、環境負荷と付加価値とのバランスを事業体単位で算出する機能
(b)算出したバランス値に応じた(バランス値に基づいて改善が必要な事業体を判別し、バランス値を最適化するための)改善提案をデータベースから取得して出力する機能
が、それぞれ具体的にどのような演算処理によって具現されるものであるかが極めて漠然としており、実質的で技術的なしくみがどうなっているのかも理解することができない。

本願の明細書中の第28-37段落の記載を参照すると、
「【0028】まず制御部110は、財務情報データベース130にアクセスし、対象となる事業体の財務情報を取得する(ステップS201)。
【0029】制御部110はさらに、環境情報データベース120にアクセスし、対象となる事業体のインベントリ情報を取得する(ステップS202)。
【0030】制御部110は、ステップS201,S202で取得した財務情報およびインベントリ情報に基づいて、対象事業所の現況を分析する(ステップS203)。この現況分析処理を図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0031】制御部110は、ステップS201で取得した財務情報を参照し、当該事業体の財務状況で改善できる点があるか分析する(ステップS210)。ここでは、財務情報に基づいて、例えば、著しく単価の高い原材料はないか、収益の低い製造物は何か、などを分析する。
【0032】分析の結果、改善すべき点がある場合(ステップS210:Yes)、制御部110は提案情報データベース140にアクセスし、当該分析結果に対応する提案情報(例えば、「原材料**の原価価格を抑える必要あり」など)を取得する(ステップS211)。ここで、例えば、通信回線などを介して外部のデータベースにアクセスするなどし、例えば、単価の高い原材料について、その世界的な市場価格情報を取得し、より安価な提供業者を検索するなどの付加的な処理を行ってもよい。また、通信回線などを通じて、社内あるいは社外の経営コンサルタント部門に財務情報を提供し、そこから提案情報を取得するようにしてもよい。
【0033】分析の結果、財務状況について改善すべき点がない場合は(ステップS210:No)は、ステップ212に進む。
【0034】制御部110は、ステップS202で取得したインベントリ情報を参照し、当該事業体の環境負荷について改善できるか分析する(ステップS212)。例えば、著しく排出量の多い環境負荷物質がないか、などを分析する。
【0035】分析の結果、改善すべき点がある場合(ステップS212:Yes)、制御部110は提案情報データベース140にアクセスし、当該分析結果に対応する提案情報(例えば、「CO2排出量を削減する必要あり」など)を取得する(ステップS213)。
【0036】分析の結果、環境負荷について改善すべき点がない場合は(ステップS212:No)は、ステップ213をスキップし、図5に示すフローに戻る。
【0037】制御部110は、ステップS211またはS213で取得した提案情報を、出力部160(例えば、ディスプレイ装置)に出力するなどして、提示し(ステップS204)、処理を終了する。」
等のように、制御部が、財務情報およびインベントリ情報に基づいて対象事業所の現況を分析し、改善すべき点がある場合には、提案情報データベースにアクセスし、分析結果に対応する提案情報を取得する、という機能の考え方の概要が提示説明されているだけで、その肝心の計算・演算過程におけるコンピュータ内部における演算動作の様子などの情報処理動作としての具体性が完全に欠落しており、たとえば、分析のための機能をどのように実現しているか、提案情報を取得する機能はどのように実現されているのか、といった点が客観的に再現可能な技術的なしくみとして理解可能な程度に記載されておらず、機能実現手段についての技術的構成の開示が不十分であると考えられる。
つまり、コンピュータ上におけるソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されていると理解できる程度の具体的な開示を伴っていないものである。
以上から、本願の請求項に係る記載においても明細書中においても、最も重要で肝心な部分である、分析機能と提案情報取得機能が、一般的な作用のみによって手順的・作用的に記載されているだけであって、そのための機能がいかなるハードウエア資源を伴って、どのような情報処理のしくみによって実現されるものかなど、本願の機能実現に関する具体的な技術的構成が実質的に記載されていないから、請求項における記載では、本願の目的遂行に必要な一連の機能が、どのように実現されているかといった技術的な根拠部分を、一つのまとまりのある具体的な技術的思想として理解することはできない。
すなわち、単に機能的な手順からなる形式的手段を列記したり、「制御部が・・・する」というような構成上の記載では、発明の技術思想を具体的に記載したことにはならない。 (この本願の記載不備は、例として「ビジネス関連発明に対する判断事例集(平成15年4月)」(http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/bijinesu/biz_case_study.htm)に示される事例1請求項3,事例2請求項2,事例3請求項1等と同趣旨な事由に該当する。)
そのため、本願に示されている記載では、その各手段の動作のみが手順的に特定されているだけであるから、これらの手段によって、システム全体がどのように所定の機能を実現しようとしているかといった、肝心の技術的構成部分を具体的に特定するものではなく、発明の前提となるべき「コンピュータソフトウエア」としての具体的なしくみを伴って記載されていない。
したがって、本願発明は、本願の目的を実現するための主要な機能構成部分において、具体的な技術的思想、および技術上の構成(ソフトウエアおよびハードウエア資源が協動してなされる具体的な情報処理の構成等)に基づいていないから、形式的な手段と一般的な機能・作用の提示にとどまる手順が提示されただけであって、自然法則を利用した具体的な技術的思想を構成していない。
よって、先に通知した拒絶理由の記載不備通知に対して、いずれも本質的に指摘事項が解消されたものということができないから、出願人の主張を受け入れることができない。』

5.請求人の主張
平成18年4月25日付けの手続補正書(方式)により補正された平成18年3月30日付けの審判請求書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりである。
『(i)補正後の請求項について
本願出願人は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源の情報処理手段に基づく具体的な技術的しくみが明確となるよう請求項1、4、6等を補正いたしました。
(中略)
(4)むすび
以上説明いたしましたように、本手続補正書と同日に提出した手続補正書による補正は適法な補正であり、当該補正によって本願の各請求項は情報処理としての具体的な技術思想を示しております。』

また,当審における平成20年12月8日付けの審尋に対する平成21年2月9日付けの回答書における審判請求人の主張の概要は以下のとおりである。
『【回答の内容】
本願出願人は、平成18年2月28日付(発送日)で発せられた本願に対する拒絶査定に対し、平成18年3月30日付で審判請求書を提出するとともに、平成18年4月25日付で手続補正書を提出して請求項の補正をおこないました。これにより、本願は特許法第162条による審査(前置審査)を受け、前置報告書に基づく審尋が平成20年12月9日付(発送日)で発せられました。審判請求人は、前置報告書に基づく審尋に対し、以下のように意見を申し上げます。

本願発明は、出願当初の本願明細書における段落0017に記載しているように、LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)の分野において環境負荷指標を算出する方法として一般的なEPS(Environment Priority Strategies for Product Design)を用いて、環境指標としてのELU(Environment Load Unit)を算出しています。
つまり、EPSなどのような一般的な基準に基づいた環境指標算出動作をCPUなどから構成されている制御部110におこなわせることは、本願明細書にその演算動作の詳細を記載するまでもなく、当業者であれば実施することが可能です。
そして、本願明細書における「バランス値」とは、分析対象の事業体について算出した環境指標(ELU値)と、当該事業体が産出する付加価値との比であることを、出願当初の本願明細書における段落0025に記載しております。
つまり、出願当初の本願明細書における段落0025に記載しているように、CPUなどから構成されている制御部110に「付加価値/ELU」を演算させることでバランス値を算出することができます。
すなわち、本願明細書には、バランス値の算出にかかる演算動作が、当業者であれば実施できる程度に具体的に記載されております。
ここで、例えば、企業グループのような複数の事業体全体の環境影響を評価する場合、事業体毎に算出したバランス値を用いることで、改善が必要な事業体を容易に選出することができます。
つまり、出願当初の本願明細書における段落0026に記載しているように、CPUなどから構成されている制御部110が、各事業体について算出されたバランス値の平均を算出し、平均値以下のバランス値となっている事業体を改善対象事業体として選出します。 このように、本願明細書には、改善対象事業体を選出する際の情報処理にかかる演算動作が、当業者であれば実施可能な程度に具体的に記載されております。
こうして選出された改善対象事業体について、改善できる点があるか分析しますが、環境指標(ELU値)と付加価値(すなわち、財務情報)との比であるバランス値に基づいて改善対象事業体が選出されているので、選出された事業体についての財務情報を分析することで、改善すべき点を見出すことができます。
例えば、出願当初の本願明細書における段落0031に記載しているように、当該事業体の財務情報に基づいて、「著しく単価の高い原材料はないか」、「収益の低い製造物は何か」、などを分析することができます。
これらの分析内容は一例ですが、前者の例の場合、ハードウェア資源である財務情報データベース130に蓄積されている全事業体についての財務情報を参照することで、同一の原材料についての単価を比較することができ、これにより、改善対象事業体において著しく単価の高い原材料の有無を容易に判別することができます。また、後者の例の場合も、財務情報テーブル(図3参照)に格納されている原材料費や売上原価、売上総利益などから製造物毎の収益性を求めることができます。
このような分析動作をCPUなどから構成されている制御部110におこなわせることは、その演算動作の詳細を記載するまでもなく、当業者であれば実施することが可能です。 また、ここでの分析内容は一例であり、事業内容や事業規模などに応じて、任意の分析内容とすることができるものです。よって、分析にかかる演算動作は一義的に規定できるものではなく、当業者が本発明をいかように実施するかによって適宜設計し得るものです。 このような分析により、改善対象事業体毎に問題点を見出すことができるので、見出された問題点に対応する提案情報を、種々の提案情報が予め蓄積されている提案情報データベース140から取得して提示することで、当該事業体について、環境経営の改善を促すことができます。
分析された問題点に基づいて対応する提案情報を選択する動作をCPUなどから構成されている制御部110におこなわせることは、その動作の詳細を記載するまでもなく、当業者であれば容易に実施することができるものです。
本願発明は、財務情報を要素にした演算で算出したバランス値に基づいて改善が必要な事業体を選出し、選出された事業体について財務情報に基づいた分析をおこなうことで、環境負荷の絶対値のみに依らない付加価値を考慮した環境影響評価を実現するものです。 ここで、バランス値の算出要素となる環境負荷情報と財務情報は、出願当初の本願明細書における段落0012、0013、図2、図3に記載されているように、ハードウェア資源であるデータベースに格納されており、CPUなどから構成されている制御部110が、これらのデータベースから必要な情報を取得して演算することは、図1に示しているような装置構成から明らかです。
そして、本願明細書には、バランス値の算出にかかる演算動作、および、バランス値に基づいて改善対象事業体を選出する情報処理の動作が、当業者であれば実施できる程度に具体的に記載されており、選出された事業体についての分析についても、当業者であればその演算動作を想到し得る事例が記載されております。
以上のように、本願明細書には機能実現手段についての技術的構成が十分に開示されており、拒絶理由に該当いたしません。よって、本願に対する原査定は妥当ではなく、本願発明は特許されるべきものであると思慮いたします。』

6.当審の判断

6-1.実施可能要件(特許法第36条第4項に規定する要件)について

6-1-1.本願明細書の記載
上記2.で摘示したように,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある(下線は当審で付加,以下同じ。)。
「前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別し、当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する判別ステップと、財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップと、を備えることを特徴とする環境マネジメント方法。」

特許請求の範囲の上記記載と,本願の発明の詳細な説明の段落【0001】?【0013】の記載によれば,本願発明の目的は,従来は,製造業において、中心となる事業体だけが環境負荷低減の取り組みを行っても、事業活動全体での環境負荷の低減を達成することができないため,複数の事業体によりなされる事業活動において、各事業体で発生する環境負荷と、売上総利益などの事業体が産出する付加価値とのバランスに基づいて、経営効率の向上及び/又は環境負荷低減のための改善をすべき事業体がいずれであるかを判別することにより、効率的且つ実効的な環境マネジメントを実施すると共に,さらに,改善が必要と判別された事業体について、その事業体の財務状況および環境負荷の状況を分析し、分析結果に基づいた提案の提示をすることにより、環境マネジメントの結果を効率的な経営に反映させることにあるものと理解できる。

ところで,特許法36条第4項(実施可能要件)は,当業者が,明細書及び図面に記載された事項と出願時(優先日)の技術常識に基づき,請求項に係る発明を容易に実施することができる程度に,発明の内容を明確かつ十分に開示することを求める。
明細書及び図面に記載された事項と出願時の技術常識とに基づいて,当業者が発明を実施しようとした場合に,どのように実施するかが理解できないとき(例えば,どのように実施するかを発見するために,当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤等を行う必要があるとき)は,実施可能要件は満たされない。

そこで,次に,本願発明の構成である,「前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別し、当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する判別ステップ」(以下,「判別ステップ」という。)と,
「財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップ」(以下,「提案ステップ」という。)が,本願の明細書及び図面に記載された事項に基づいて,当業者が実施できるものであるか否かについて検討する。

6-1-2.「判別ステップ」について
本願明細書の段落【0023】?【0031】,【0034】には,「判別ステップ」の具体例が記載されている。

まず,当該「判別ステップ」のうち,「前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別」するステップについては,平成21年2月9日付けの回答書において,審判請求人が「本願明細書には、改善対象事業体を選出する際の情報処理にかかる演算動作が、当業者であれば実施可能な程度に具体的に記載されております。」と主張しているとおり,本願明細書に記載されている。

次に,「当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する」ステップについて,本願明細書の段落【0027】?【0031】,【0034】に記載されており,その記載内容は,「制御部100は、ステップS104で改善対象として選出した事業体に対する改善提案処理(ステップS200)を実行する。(中略)まず制御部110は、財務情報データベース130にアクセスし、対象となる事業体の財務情報を取得する(ステップS201)。(中略)制御部110はさらに、環境情報データベース120にアクセスし、対象となる事業体のインベントリ情報を取得する(ステップS202)。(中略)制御部110は、ステップS201,S202で取得した財務情報およびインベントリ情報に基づいて、対象事業所の現況を分析する(ステップS203)。この現況分析処理を図6に示すフローチャートを参照して説明する。(中略)制御部110は、ステップS201で取得した財務情報を参照し、当該事業体の財務状況で改善できる点があるか分析する(ステップS210)。ここでは、財務情報に基づいて、例えば、著しく単価の高い原材料はないか、収益の低い製造物は何か、などを分析する。(中略)制御部110は、ステップS202で取得したインベントリ情報を参照し、当該事業体の環境負荷について改善できるか分析する(ステップS212)。例えば、著しく排出量の多い環境負荷物質がないか、などを分析する。」ことが示されている。

本願明細書の段落【0027】?【0031】,【0034】に示された内容は,制御部が、財務情報およびインベントリ情報を取得し,財務情報とインベントリ情報に基づいて当該事業体の財務状況で改善できる点を分析するという機能の考え方の概略だけであり,平成21年2月9日付けの回答書において,審判請求人は,当該機能を実施する例として,「著しく単価の高い原材料はないか」と「収益の低い製造物は何か」について分析内容を例示しつつ,分析にかかる演算動作が当業者にとって適宜設計し得るものと主張しているが,分析動作において,財務情報に含まれる原材料や原材料費,売上原価,売上総利益と,インベントリ情報に含まれる環境負荷物質のうち,いずれのものを分析対象に選定するかは,当業者が分析に際して適宜決定し得る事項であって,当業者が理解できるものとしても,分析のための具体的な処理を,コンピュータ内部における計算・演算過程で実現するための具体的な情報処理までは,当業者が理解できる程度に本願明細書に記載されていない。

6-1-3.「提案ステップ」について
本願明細書の段落【0032】,【0035】,【0036】には,「財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップ」について,「分析の結果、改善すべき点がある場合(ステップS210:Yes)、制御部110は提案情報データベース140にアクセスし、当該分析結果に対応する提案情報(例えば、「原材料**の原価価格を抑える必要あり」など)を取得する(ステップS211)。ここで、例えば、通信回線などを介して外部のデータベースにアクセスするなどし、例えば、単価の高い原材料について、その世界的な市場価格情報を取得し、より安価な提供業者を検索するなどの付加的な処理を行ってもよい。また、通信回線などを通じて、社内あるいは社外の経営コンサルタント部門に財務情報を提供し、そこから提案情報を取得するようにしてもよい。(中略)分析の結果、改善すべき点がある場合(ステップS212:Yes)、制御部110は提案情報データベース140にアクセスし、当該分析結果に対応する提案情報(例えば、「CO2排出量を削減する必要あり」など)を取得する(ステップS213)。(中略)制御部110は、ステップS211またはS213で取得した提案情報を、出力部160(例えば、ディスプレイ装置)に出力するなどして、提示」することが示されている。

本願明細書の段落【0032】,【0035】,【0036】に示された内容は,制御部が、提案情報データベースを利用して,分析結果に対応する提案情報を取得し,出力するという機能の考え方の概略だけであり,平成21年2月9日付けの回答書において,審判請求人が「分析された問題点に基づいて対応する提案情報を選択する動作をCPUなどから構成されている制御部110におこなわせることは、その動作の詳細を記載するまでもなく、当業者であれば容易に実施することができるもの」と主張しているが,当該主張は,制御部が備える機能を説明しているにすぎず,当該機能を実現するための処理として,提案情報データベースのデータ構造がどのようなもので,制御部は,どのような情報処理により,当該提案情報データベースから必要な提案情報を取得し,出力するのか等が何ら記載されていないため,当該処理がコンピュータ内部のどのような計算・演算過程で実現されるのか,具体的な情報処理が当業者が理解できるように本願明細書に開示されていない。

6-1-4.まとめ
したがって,上記6-1-2.及び6-1-3.で検討したとおり,請求人の主張を検討しても,本願発明の構成である,「前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別し、当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する判別ステップ」と,「財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップ」が,本願の明細書及び図面に記載された事項に基づいて,当業者が実施できるものと認められず,拒絶査定時に示された「制御部が、財務情報およびインベントリ情報に基づいて対象事業所の現況を分析し、改善すべき点がある場合には、提案情報データベースにアクセスし、分析結果に対応する提案情報を取得する、という機能の考え方の概要が提示説明されているだけで、その肝心の計算・演算過程におけるコンピュータ内部における演算動作の様子などの情報処理動作としての具体性が完全に欠落しており、たとえば、分析のための機能をどのように実現しているか、提案情報を取得する機能はどのように実現されているのか、といった点が客観的に再現可能な技術的なしくみとして理解可能な程度に記載されておらず、機能実現手段についての技術的構成の開示が不十分であると考えられる。つまり、コンピュータ上におけるソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されていると理解できる程度の具体的な開示を伴っていないものである。」との判断は適当であって,本願発明は,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

6-2.特許請求の範囲の記載要件(特許法第36条第6項第2号に規定する要件)について

上記2.で摘示したように,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある(下線は当審で付加,以下同じ。)。
「前記バランス算出ステップで算出したバランス値に基づいて、改善が必要な事業体がいずれであるかを判別し、当該事業体についての前記財務情報と前記インベントリ情報とに基づいて改善点を分析する判別ステップと、財務効率化及び/又は環境負荷低減のための提案情報を蓄積するデータベースから、前記判別ステップで判別された事業体の改善内容に対応する提案情報を取得して出力する提案ステップと、を備えることを特徴とする環境マネジメント方法。」

上記の「判別ステップ」と「提案ステップ」については,それぞれ「事業体の改善内容」と「提案情報」を得るという発明を特定するための事項に達成すべき結果が含まれているものの,上記6-1.で判断したとおり,本願明細書には,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので,当該「判別ステップ」と当該「提案ステップ」の記載では,発明の範囲に属する具体的な工程が想定できないため,本願発明は不明確であり,特許請求の範囲において,特許を受けようとする発明が明確に記載されていない。

6-3.まとめ
したがって,本願発明は,発明の詳細な説明に,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,さらに,特許請求の範囲において,特許を受けようとする発明が明確に記載されていない。

7.むすび
以上のとおり,本願発明は,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので,特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない。
さらに,本願発明は,特許請求の範囲において,特許を受けようとする発明が明確に記載されていないので,特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-29 
結審通知日 2009-08-04 
審決日 2009-08-18 
出願番号 特願2001-287595(P2001-287595)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G06Q)
P 1 8・ 537- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 幸一猪瀬 隆広  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 清田 健一
齋藤 哲
発明の名称 環境マネジメント方法、環境マネジメント支援装置、および、プログラム  
代理人 木村 満  

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