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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A01N |
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管理番号 | 1205075 |
判定請求番号 | 判定2009-600027 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2009-07-14 |
確定日 | 2009-10-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2686591号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号カタログ及びその説明書に示す「作物の植え付け・播種用土壌の改善方法」は、特許第2686591号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨・手続の経緯 本件判定請求は、平成21年7月14日にされたものであり、その請求の趣旨は、判定請求書の記載からみて、同請求書に添付されたイ号カタログ及びイ号説明書に示す「作物の植え付け・播種用土壌の改善方法」は、特許第2686591号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 当審は、平成21年8月3日付けで判定請求書副本を被請求人に送付したところ、被請求人より、平成21年9月28日に答弁書が提出された。 第2 本件発明 本件発明は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、これを構成要件に分説すると、次のとおりである。 A.濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を B.1反当り2000?2500Lの割合で土壌に撒布することにより C.土壌中の微生物を選択的に除菌し、 D.該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法。 (以下、順に「構成要件A」?「構成要件D」という。) 第3 イ号方法の特定 1 請求人によるイ号方法の説明 請求人は、「イ号説明書」において、イ号方法について、次のように記載している。 「(2)「作物の播種・定植前に使用する場合」の使用方法について (a)よって、イ号カタログに於いて弊社が製造・販売する「品名・クリーンアルファ」は、「安定化二酸化塩素(ClO_(2))・25%」の使用方法○1(当審注;○付き数字を表す。以下同様。)?○4中、本件特許発明の「土壌植栽用の活性化方法」に相当するのは、カタログ最終頁記載の「作物の播種・定植前に使用する場合」である。 (b)そして、同使用方法の具体的実施方法は、カタログ最終頁の○1?○6図に図示されるとともに前記したこの各図の実施方法の説明による。 (c)以下、本件特許発明の構成要件に沿って、前記方法の構成要件を記載する。 (a-1)「安定化二酸化塩素(ClO_(2))・25%」(製品名・シルブライト25)10Lを水2000Lにて希釈し(原液を200倍に希釈し)(○1図) (a-2)「作土俵面(当審注;「表面」の誤記と認められる。)に1m^(2)あたり希釈液を2Lの割合で散布する(10aにつき原液10L使用)」」(○2図) (b-1)「表層から下層土にまで徐々に浸透するように撒布後3日間はそのまま放置する。(○3図) (b-2)「微生物資材や肥料の作土への投入を散布後5?7日経過してから行う。」(○4図) (b-3)「有用微生物が増殖して土壌分解や窒素放出に働いて、作物に最適な土壌環境になります。」(○5図) (c-1)「散布後10日以上経過してから、作物の植え付け・播種を開始する。」(○6図)」 そして、以上の記載に基づき、請求人は、イ号方法を次のとおりであるとしている。 「a.濃度1250ppmの二酸化塩素水溶液(a-1)を1反当たり2000Lの割合(a-2)で散布する。 b.表層から下層土まで徐々に浸透するように、散布後3日間はそのまま放置(b-1)し、散布後5?7日経過後、微生物資材や肥料の投入を行い(b-2)、有用微生物を増殖するとともに土壌分解および窒素放出することにより、作物に最適な土壌環境に改善する。 c.作物の植え付け・播種用土壌の改善方法。」 2 検討 イ号方法の構成として、「濃度1250ppmの二酸化塩素水溶液」を特定できるか否かについて、その根拠とされる上記1における「(a-1)「安定化二酸化塩素(ClO_(2))・25%」(製品名・シルブライト25)10Lを水2000Lにて希釈し(原液を200倍に希釈し)」という記載に基づき、以下検討する。 判定請求書の甲第2号証の1?甲第2号証の4の記載からみて、「安定化二酸化塩素(ClO_(2))・25%」として用いられる「製品名・シルブライト25」は、「亜塩素酸ナトリウム(NaClO_(2))の25%水溶液」である。 そうすると、上記「(a-1)「安定化二酸化塩素(ClO_(2))・25%」(製品名・シルブライト25)10Lを水2000Lにて希釈し(原液を200倍に希釈し)」とは、 「亜塩素酸ナトリウム(NaClO_(2))の25%水溶液10Lを水2000Lにて希釈し(原液を200倍に希釈し)」ということになる。 ここで、25%は250000ppmであるから、亜塩素酸ナトリウム(NaClO_(2))の濃度を計算すると、1250ppm(=250000ppm×(10/2000))となる。 しかし、この濃度は、亜塩素酸ナトリウム(NaClO_(2)、分子量90.5)の濃度であるから、二酸化塩素(ClO_(2)、分子量67.5)の濃度に換算し直すと、932ppm(=1250ppm×(67.5/90.5))となる。 よって、イ号説明書で示される「作物の植え付け・播種用土壌の改善方法」における二酸化塩素水溶液の濃度は、請求人の主張する「1250ppm」ではなく、「932ppm」であると認められる。 一方、イ号方法のその他の構成は、上記1に記載されたとおりのものと認められる。但し、上記a.における「散布」とは、上記1における「(a-2)」の記載からみて、「作土表面に散布」であるといえる。 よって、イ号方法は、次の構成よりなるものであると認められる。 a.濃度932ppmの二酸化塩素水溶液を b.1反当たり2000Lの割合で作土表面に散布し、 c.表層から下層土まで徐々に浸透するように、散布後3日間はそのまま放置し、散布後5?7日経過後、微生物資材や肥料の投入を行い、有用微生物を増殖するとともに土壌分解および窒素放出することにより、作物に最適な土壌環境に改善する d.作物の植え付け・播種用土壌の改善方法。 (以下、順に「構成a」?「構成d」という。) 第4 対比・判断 以下、イ号方法が本件発明の構成要件を充足するか否かについて、分説した項目ごとに分けて判断する。 1 構成要件Aの充足性について (1)本件発明の構成要件Aの技術的意義について 本件発明の構成要件Aにおける「濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を」について、特許明細書を参酌すると、次の記載がある。 a「【従来の技術】土壌中には植物病原性微生物である糸状菌や、該糸状菌を抑制して植物の病気感染を防ぐ放線菌および窒素を固定して肥料とする細菌(例えばマメ科植物に寄生する根粒菌)等の微生物が生息しているが、土壌処理に際して用いる除菌剤の殺菌力が弱いものでは有害な菌を充分に除くことができず、またクロルピクリンやトラペックサイド油剤等の強力な除菌剤では植栽に有効な菌までも除去してしまう欠点があった。その上、これらの従来の各種除菌剤は刺激臭が強く、人畜にも有害なものがあり、また、ビニールシートで土壌を覆ってその間に施さなければならない等、農作業状の面からも問題があった。」(段落【0002】) b「【発明が解決しようとする課題】上記のような実情に鑑み、本発明の目的は、植栽上有効な菌を充分に土壌中に残存せしめ、有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化できると共に、臭気が少なく、人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供することである。」(段落【0003】) c「【課題を解決するための手段】本発明によれば、種々研究の結果、これらの目的は特定濃度範囲の二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤を撒布することにより達成できることが確かめられた。」(段落【0004】) d「【実施例】濃度60,000ppmの二酸化塩素水溶液20Lを約2,000Lの水により希釈し、濃度約600ppmの二酸化塩素水溶液を作り、この希釈液を土壌一反当り約2,000?2,500Lの割合で撒布した。撒布後、二酸化塩素がほぼ消失するまで約2週間放置し、土壌を乾燥させた後、施肥し、植物を栽培した。放置、乾燥後の土壌中の微生物の数を調査した結果、次の表1に示す通りであった。」(段落【0006】) e「【表1】 」(段落【0007】) f「上記表1から明らかなように、二酸化塩素約600ppmの水溶液による処理では植栽に有効な細菌は、処理前が土壌1g当り、2,200万個であったものが39,000個に減少し、放線菌は430万個から24,000個に減少しているが、この程度の残存数では植栽上有効であり大きな悪影響は見られないのに対し、有害な菌である糸状菌は処理前の10万個から60個に著しく減少し、充分に土壌の活性化が行われたことが確かめられた。この土壌を1例として苗床に使用して野菜の栽培を行ったところ、極めて良好な結果が得られた。」(段落【0008】) g「上記実施例とほぼ同様にして作製した約500ppmの二酸化塩素水溶液で除菌処理したところ、土壌中の糸状菌の残存率が上記600ppmの場合の約2倍となり、充分な除菌効果が得られなかった。また、約700ppmの二酸化塩素水溶液では、植栽に有効な上記細菌や放線菌まで除菌されてしまい、所期の活性化の目的を達成することができなかった。」(段落【0009】) h「【発明の効果】本発明は上述の如く濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより、実施例の表1に示すように植栽に有効な細菌および放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめると共に、植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化を行い、作物の成育に極めて良好な結果を得ることができ、また二酸化塩素は水に非常に溶け易く、本発明においてはその水溶液を使用したので、従来、土壌の殺菌に使用されているクロールピクリンの如く土壌に施した後、人体に悪影響を及ぼすガスの放散を防ぐためビニルシート等で土壌の表面を覆うような手数が不要となり、手軽に撒布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上、水溶液であるため有害なガスの発生もなく安全に作業することができ、また水溶液であるため、上記選択的除菌のため、容易かつ精確にその濃度を調整できる等の優れた利点を有している。」(段落【0010】) 上記記載事項によれば、本件発明は、「植栽上有効な菌を充分に土壌中に残存せしめ、有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化できると共に、臭気が少なく、人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供する」(摘示b)ことを課題としており、「濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより、植栽に有効な細菌および放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめると共に、植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化」(摘示h)を行うことができるという効果を奏するものであるといえる。また、二酸化塩素水溶液の濃度が500?700ppmの範囲外である場合には、「所期の活性化の目的を達成することができな」いといえる(摘示g)。 (2)出願経過の参酌 また、本件特許の出願経過を参酌すると、被請求人(出願人)は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1?2についての平成8年4月16日付けの拒絶理由に対し、平成8年6月18日付けの手続補正書において、請求項1を二酸化塩素水溶液の濃度を特定(500?700ppm)した植栽用土壌の活性化方法に補正すると共に、同日付けの意見書の(1)において、 「本発明は特定濃度の二酸化塩素水溶液を使用することにより土壌中の微生物を選択的に除菌してその活性化を画ることを目的としたもので、上述の如く濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより、実施例の表1に示すように、植栽に有効な細菌および放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめると共に、植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化を行い、作物の成育に極めて良好な結果を得ることができたものであります。」と主張している。 さらに、平成8年8月26日付けの拒絶査定に対する平成8年6月18日付けの審判請求時に、同日付けの手続補正書において、請求項1における二酸化塩素水溶液を撒布する際の撒布割合を特定(1反当たり2000?2500Lの割合)すると共に、審判請求書の第4頁第6?9行において、 「本願発明は、そのような公知例のように、単に殺菌等に用いるというだけでなく、植栽上有害な微生物と有益な微生物を選択的に除菌できるようにした特定の濃度範囲、撒布割合を要旨とするものであり、このような点は従来全く知られていなかった事項である。」と主張している。 上記出願経過に照らせば、被請求人が本件発明において「濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を」と限定的に補正した趣旨は、本件発明は、「植栽上有効な菌を充分に土壌中に残存せしめ、有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化できると共に、臭気が少なく、人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供する」という課題を解決するために、二酸化塩素水溶液の濃度範囲及び撒布割合を特定したものであることを明確にし、上記拒絶理由において引用された刊行物である引用文献1(特開平1-171425号公報。判定請求書の甲第5号証に同じ。)における「二酸化塩素ガス含有空気を吹き込むことを特徴とする土壌殺菌法」との差異を明確にしたものと認められる。 (3)イ号方法の構成aについて 一方、イ号方法の二酸化塩素水溶液の濃度は「932ppm」であり、「500?700ppm」の範囲外であることは明らかであり、上記(1)及び(2)を参酌しても、「932ppm」が、「500?700ppm」を充足するとすべき事情は存在しない。 (4)被請求人の主張について 被請求人は、平成21年9月28日付けの答弁書の第4頁(2)(え)において、 「すなわち、イ号発明における二酸化塩素濃度は、本件特許発明の稀釈液よりも高いけれども、1反当たりに散布される二酸化塩素(ClO_(2))の総量は、僅かに6.5%多いだけであって殆ど同じであって、結局、土壌に作用する二酸化塩素(ClO_(2))の総量は同じであるから、判定請求人が挙げる相違点(a)は、何ら相違点ではなく、・・」と主張する。 しかしながら、本件発明は、「濃度500?700ppmの二酸化塩素水溶液を」撒布することを構成要件とする方法の発明であり、「総量」を構成要件とする発明ではないから、被請求人の上記主張は採用できない。 (5)まとめ よって、イ号方法の構成aは、本件発明の構成要件Aを充足しない。 2 構成要件Bの充足性について イ号方法の構成bにおける「作土表面に散布」は「土壌に撒布」であることは明らかであり、また、イ号方法の構成bにおける「1反当たり2000Lの割合」は、本件発明の構成要件Bにおける「1反当り2000?2500Lの割合」を充足する。 よって、イ号方法の構成bは本件発明の構成要件Bを充足する。 3 構成要件Cの充足性について (1)イ号方法の構成cについて イ号方法の構成cには、「選択的に除菌」するとの特定はなく、イ号カタログを参酌しても、「選択的に除菌」されているか否か明確ではないが、二酸化塩素水溶液の散布後に、「微生物資材や肥料の投入を行い、有用微生物を増殖する」ということは、「選択的に除菌」するというよりは、むしろ、いったん土壌中の微生物を除菌した後に、微生物資材を投入することにより、該微生物資材中の有用微生物を増殖させている蓋然性が高いものと認められ、少なくとも、微生物を選択的に除菌することが明らかであるとはいえない。 また、イ号方法と本件発明の散布条件が同一であるのであればともかく、上記2で述べたように、イ号方法と本件発明とは、二酸化塩素水溶液の濃度が異なり、特許明細書の記載(摘示g)によれば、濃度932ppmの二酸化塩素水溶液を1反当たり2000Lの割合で作土表面に散布すれば、植栽に有効な細菌まで除菌されてしまうことが明らかであるから、イ号方法において、実質的に「選択的に除菌」されているともいえない。 (2)被請求人の主張について 被請求人は、平成21年9月28日付けの答弁書の第6頁(3)(う)において、 「すなわち、イ号カタログの2頁の記載では、・・・「微生物資材」の投入がなくても、クリーンアルファ溶液を散布したことによって、土壌中に「有効好気性土壌菌類の活性を高め・増殖を図ることができる」ことが記載されているのであり、・・・最終頁の○4図における記載は、「微生物資材の作土への投入」が必須のものであると断定できないことは勿論である。・・・ もし、・・・選択的除菌作用を無視し、無差別に除菌するものであるとすれば、「有効好気性土壌菌類が安定に存在」することなど出来ないはずであって、判定請求人の主張に理由が無いことは明らかである。」と主張している。 しかしながら、イ号カタログの2頁の記載からでは、「有効好気性土壌菌類」が、土壌に残存するものであるのか、投入される微生物資材であるのか、明りょうであるとはいえないから、イ号方法が「選択的に除菌」されていることを示すとはいえず、被請求人の上記主張は採用できない。 (3)まとめ よって、イ号方法の構成cは本件発明の構成要件Cを充足しない。 4 構成要件Dの充足性について イ号方法の構成dにおける「作物の植え付け・播種用土壌の改善方法」は、土壌を作物の植え付けや播種に使用し、該土壌を作物に最適な環境に改善することを意味するから、「土壌の改善方法」は「土壌の活性化方法」であるということができ、「作物の植え付け」は「植栽」であることは明らかであるから、「土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法」であるといえる。 よって、イ号方法の構成dは、本件発明の構成要件Dを充足する。 第5 まとめ 以上のとおり、イ号方法は、本件発明の構成要件A及びCを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないものである。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
イ号カタログ |
判定日 | 2009-10-16 |
出願番号 | 特願平5-354743 |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(A01N)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 今村 玲英子 |
特許庁審判長 |
唐木 以知良 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 松本 直子 |
登録日 | 1997-08-22 |
登録番号 | 特許第2686591号(P2686591) |
発明の名称 | 植裁用土壌の活性化方法 |
代理人 | 奈良 武 |
代理人 | 亀川 義示 |