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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2009800253 | 審決 | 特許 |
無効2008800185 | 審決 | 特許 |
無効2010800015 | 審決 | 特許 |
無効200680040 | 審決 | 特許 |
無効2007800097 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 A23L 審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 A23L 審判 全部無効 2項進歩性 A23L 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A23L |
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管理番号 | 1205424 |
審判番号 | 無効2008-800186 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-09-25 |
確定日 | 2009-09-24 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3109519号発明「超強力小麦粉含有改質小麦粉とそれを用いた小麦粉食品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3109519号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許第3109519号の請求項1?4に係る発明についての出願は,平成11年6月11日に出願され,平成12年9月14日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。 2.請求人は,平成20年9月25日付審判請求書,平成21年2月4日付弁駁書及び平成21年3月11日付弁駁書を提出し,本件の請求項1?4に係る発明の特許は,以下の理由により無効とされるべきものであると主張している。 無効理由1: 本件発明は,甲第1号証に記載された発明と同一であり,特許法第29条第1項第3号に該当し,本件特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。 無効理由2 本件発明は,甲第1?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 無効理由3: 本件特許は,特許法第36条第4項又は第6項第1号若しくは第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものである。 そして請求人は,証拠方法として以下の甲第1?9号証を提出している。 甲第1号証:Can. J. Plant Sci.,60,737-739 (1980) 甲第2号証:長尾精一著「世界の小麦の生産と品質 -下巻- 各国の小麦」,第113- 114頁,輸入食糧協議会事務局,平成10年10月28日発行) 甲第3号証:Quality of Western Canadian wheat,1997 甲第4号証:Y. Inoue and W. Bushuk, Cereal Chemistry. 69(4), 423-428 (1992) 甲第5号証:特開平8-80155号公報(出願人:松谷化学工業) 甲第6号証:特開平9-271313号公報(出願人:松谷化学工業) 甲第7号証:長尾精一著「小麦とその加工」,第122-123,220-221,237頁,株式会社建帛社,昭和59年発行 甲第8号証:船附雅子,北海道農業研究センター研究報告N0.183,「小麦粉の生地物性を強める低分子量グルテニンタンパク質の同定とその育種的利用に関する研究」,2005年11月 甲第9号証:食品総合研究所 平成10年度 研究成果情報 3)研究及び技術開発に有効な情報 「29.スワンソン式ピン型ミキサーを使用した製パン性の簡易評価法の開発」 北海道農業試験場畑作研究センター麦育種研究室 研究担当者:高田兼則,入来規雄,桑原達雄 3.これに対して,被請求人は,平成20年12月15日付で訂正請求書を提出して本件明細書の訂正を求めると共に,同日付答弁書及びその平成21年2月21日付補正書,平成21年4月17日付答弁書並びに平成21年6月16日付上申書を提出し,本件審判の請求は成り立たない旨主張している。 そして被請求人は,証拠方法として以下の乙第1?58号証を提出している。 乙第1号証:農林省農林経済局統計調査部:第38次農林省統計表(昭和38年) p. 128-. 129 乙第2号証: http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/seisan_bunkakai/06shiryou.pdf#search=’生産量 国産小麦 統計’ 乙第3号証:農林省農林経済局統計調査部:第38次農林省統計表(昭和38年) p. 681 乙第4号証: http://www.toukei.maff.go.jp/dijest/mugisoba/mugisoba03-03/mugisoba03-03.html 乙第5号証: http://www.zenkokubeibaku.or.jp/mugi/jyukyuu/jyukyuu2.pdf#search=’麦の用途別需要量’ 乙第6号証: http://www.beibaku.net/wheat/20_komugi/h20_mugi_03.pdf" 乙第7号証: http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_zyukyu_kakaku/pdf/kakaku.pdf#search= ’小麦 国際価格 シカゴ グラフ’ 乙第8号証:http://www.beibaku.net/wheat/20_komugi/h20_mugi_09.pdf#search= ’小麦をめぐる情勢’ 乙第9号証:Yamauchi et al: Food Preservation Science, 29, 211-220 (2003) 乙第10号証: Yamauchi et al: Food Sci.Technol. Res., 7, 120-125 (2001) 乙第11号証:井上好文編集:製パン技術資料No.669,p17,社団法人日本パン技術研究所 乙第12号証:http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2002/hokkaido/ho030.htm 乙第13号証:Yamauchi et al : The Proceeding of 52nd RACI Cereal Chemistry Conference, p.28, Christchurch, New Zealand 乙第14号証:特開2003-61603(出願人:独立行政法人農業技術研究機構) 乙第15号証:Yamauchi et al : The Proceeding of Starch Update 2003 : The 2nd Conference on Starch Technology, Pattaya, Thailand (2003.7) 乙第16号証:http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2002/hokkaido/ho031.htm 乙第17号証:特開2004-208560(出願人:独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構) 乙第18号証:特開2004-208561(出願人:独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構) 乙第19号証:http://www.zenkokubeibaku.or.jp/nyuusatsu/21kouhyou.pdf#search=’民間流通麦の入札 21年産’ 乙第20号証:http://www.zenkokubeibaku.or.jp/nyuusatsu/21rakusatsu01.pdf 乙第21号証:http://www.zenkokubeibaku.or.jp/nyuusatsu/21rakusatsu02.pdf 乙第22号証:http://www.sinanoya.com/buckweet/wheatpricing.html. 乙第23号証: http://shop.tomizawa.co.jp/category/data.php?fCategory=01&sCategory=09 乙第24号証:農研機構北海道農業研究センターで測定した各種小麦粉について各種ピンミキサーを用いて測定したミキシングピークタイムのデータ 乙第25号証:American Association of Cereal Chemists (AACC):Approved Methods of the AACC, Method 54-40A, The Association, St.Paul, MN (1991) 乙第26号証:農研機構北海道農業研究センターで測定した各種小麦粉について各種ピンミキサーを用いて測定したミキシングピークタイムのデータの相関グラフ 乙第27号証:Takata et al:Food Sci. Technol. Res., 9, 67-72 (2003) 乙第28号証:乙第27号証のTable3のデータのピーククイム(PT(min))と破断力(BF(N))の相関関係を示したグラフ 乙第29号証: http://www.hort.purdue.edu/newcrop/proceedings1999/v4-015a.html#wheat 乙第30号証:http://www.paudo.com/flour/maker/index.html 乙第31号証:http://www.panaderia.co.jp/materials/flour/flour7/index.html 乙第32号証:山内ら:日本食品科学工学会誌,47,46-49(2000) 乙第33号証:ピン型ミキサーに関する説明書(P社) 乙第34号証:AACC Method 10-09 Page l of 6 乙第35号証:Swanson, C. 0. and Working E. B. 1926. Cereal Chemistry 3(2):65-83 乙第36号証:パーカーコーポレーション社『マイクロミキサー』の資料 乙第37号証:パーカーコーポレーション社『100-200グラムミキサー』の資料 乙第38号証:パーカーコーポレーション社ホームページ 乙第39号証:Seguchi, S., Hayashi, M., Kanenaga, K., Ishihara, C. and Noguchi, S. 1998. Cereal Chemistry 75(1) :37 乙第40号証:Ohm, J. B., Chung, O. K. and Deyoe, C. W. 1998. Cereal Chemistry 75(1) :156-157 乙第41号証:Lu, X. and Seibu, P. A. 1998. Cereal Chemistry 75(2):200-201 乙第42号証:Vemulapalli, V., Miller, K. A. and Hoseney, R. C. 1998. Cereal Chemistry 75(4) :439-442 乙第43号証:Hayman, D' Anne, Hoseney, R. C., and Faubion, J.M. 1998. Cereal Chemistry 75(5) :581 乙第44号証:Kadharmestan, C, Baik, B.-K., and Czuchajowska, Z. 1998. Cereal Chemistry 75(5):762-763 乙第45号証:Bejosano, F. P. and Corke, H. 1998. Cereal Chemistry 75(2):171 乙第46号証:Delwiche, S. R., Graybosch, R. A., and Peterson. C. J. 1998. Cereal Chemistry 75(4) :412-413 乙第47号証:日本製粉「ゴールデンショット」の出ているホームページ http://www.nippn.co.jp/products/professional/pro/detail1.html 乙第48号証:昭和産業株式会社の「パイオニア」の出ているホームページ http://www.showa-sangyo.co.jp/seifun/f_bread.html 乙第49号証:日清製粉「キング」,「ゴールデンショット」,「パイオニア」に関する記載のあるホームページ http://www.panaderia.co.jp/php/flour/flour/_list.php?status=move&cp=10 乙第50号証:American Association of Cereal Chemists (AACC) Approved Methods of the AACC Method 54-21, The Association, St.Paul, MN (1991 乙第51号証:日清製粉の「K青鶏」の出ているホームページ http://www.panaderia.co.jp/php/flour/flour/_list.php?status=move&cp=10 乙第52号証:追加実験の結果(第1表) 乙第53号証:Kilborn et al., Cereal Chem., 50, 70-75 (1973) 乙第54号証:Kilborn et al., Cereal Chem., 49, 48-51 (1972) 乙第55号証:乙第53号証のFig5及びFig6のデータをグラフ化したもの(図1) 乙第56号証:乙第54号証のTable IIのデータをグラフ化したもの(図2) 乙第57号証:Journal of Cereal Science 26 (1997) 177-178 乙第58号証:Cereal Chemistry, Vol.64, No.4 (1987) 269-270 第2 訂正請求についての判断 1.訂正事項 平成20年12月15日付訂正請求の内容は,本件明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり,具体的な訂正事項は以下の通りである。 (1)訂正事項1:請求項1に「通常市販強力粉の1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上」とあるのを「通常市販強力小麦粉の1.2倍以上」と訂正する。 (2)訂正事項2:請求項1に「示す品種・系統」とあるのを「示す,超強力小麦品種・系統」と訂正する。 (3)訂正事項3:請求項1に「1%以上」とあるのを「5%以上80%以下」と訂正する。 (4)訂正事項4:請求項1に「含有すること」とあるのを「含有する,超強力小麦粉と,中力小麦粉,強力小麦粉,ライ小麦粉又はそば粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であること」と訂正する。 (5)訂正事項5:請求項2に「通常市販強力粉の1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上」とあるのを「通常市販強力小麦粉の1.2倍以上」と訂正する。 (6)訂正事項6:請求項2に「示す品種・系統」とあるのを「示す,超強力小麦品種・系統」と訂正する。 (7)訂正事項7:請求項2に「10%以上」とあるのを「10%以上40%以下」と訂正する。 (8)訂正事項8:請求項2に「含有すること」とあるのを「含有する,超強力小麦粉と,中力小麦粉又は強力小麦粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であること」と訂正する。 (9)訂正事項9:請求項4に「パン類,菓子類,麺類」とあるのを「パン類,麺類」と訂正する。 (10)訂正事項10:明細書の段落0006に「1%以上、更に好ましくは5%以上」とあるのを「5%以上」と訂正する。 (11)訂正事項11:明細書の段落0007に「通常市販強力粉(商品名 日清製粉カメリヤ等)の1.2倍以上,更に好ましくは,1.5倍以上」とあるのを「通常市販強力小麦粉(商品名 日清製粉カメリヤ)の1.2倍以上」と訂正する。 (12)訂正事項12:明細書の段落0007に「を示す小麦粉のことである。」とあるのを「を示す小麦粉のことである。本発明でいう通常市販強力小麦粉とは,日清製粉(株)製の市販強力小麦粉(商品名 カメリヤ)のことである。」と訂正する。 (13)訂正事項13:明細書の段落0007に「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (14)訂正事項14:明細書の段落0008に「小麦粉すべて」とあるのを「小麦粉」と訂正する。 (15)訂正事項15:明細書の段落0008に「ライ麦,ライ小麦,トウモロコシ,あわ,ひえ,きび等の,もともと生地の柔らかい雑穀類」とあるのを「ライ小麦等の穀類」と訂正する。 (16)訂正事項16:明細書の段落0008に「1%以上」とあるのを「5%以上」と訂正する。 (17)訂正事項17:明細書の段落0008に「小麦粉,上記各種穀類粉等の1種又は2種以上であり,特に限定はない。」とあるのを「中力小麦粉ないし強力小麦粉等である。」と訂正する。 (18)訂正事項18:明細書の段落0012に「パン類,ホットケーキ,スポンジケーキ,ドーナッツ,パイ,ビスケット,クッキー,クラッカー等の菓子類,パスタ,中華麺,そば,素麺等の麺類」とあるのを「パン類,中華麺の麺類」と訂正する。 (19)訂正事項19:明細書の段落0020に「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (20)訂正事項20:明細書の段落0023「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (21)訂正事項21:明細書の段落0024に「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (22)訂正事項22:明細書の段落0025に「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (23)訂正事項23:明細書の段落0027に「Windcat」とあるのを「Wildcat」と訂正する。 (24)訂正事項24:明細書の段落0028に「パン類,菓子類,麺類」とあるのを「パン類,麺類」と訂正する。 (25)訂正事項25:明細書の段落0017の表2の比較例3の「製パン配合」の中力粉(ホクシン),超強力粉,市販外麦強力粉の欄に「- - 100」とあるのを「100 - -」と訂正する。 (26)訂正事項26:明細書の段落0018の表3の比較例6?10の各々の上から3行目に「超強力粉」とあるのを「市販外麦強力粉」と訂正する。 2.訂正事項についての判断 (1)上記の訂正事項のうち,訂正事項1,2,5,6,10?12,14?18,24については,明りようでない記載の釈明,訂正事項13,19?23,25,26については,誤記の訂正,訂正事項3,4,7?9については,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。また,この訂正は,願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内でするものであるし,それにより実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとはいえない。 (2)請求人の主張について 請求人は,上記の訂正事項のうち,訂正事項1,5,11,及び12について,それが不適法なものであると主張するので,これらの訂正事項に関し請求人が主張する点についてさらに検討する。 ア 訂正事項1,5及び11について (ア)請求人は,この訂正事項について,「通常市販強力粉」から「通常市販強力小麦粉」への訂正は,意味が変わらず,明りようでない記載の釈明に該当しないと主張する。 (イ)しかし,「通常市販強力粉」の「通常市販強力小麦粉」への訂正は,強力粉が小麦粉であることを記載上明らかにしたものであり,明りようでない記載の釈明ではないとはいえない。 (ウ)したがって,この訂正は明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。 イ 訂正事項11について (ア)請求人は,この訂正事項について,上記ア(ア)のほかに,以下のように主張する。 ・明細書の段落【0007】の「カメリヤ等」を「カメリヤ」にする訂正は,「通常強力粉」の定義を変更するものであり,新規事項である。 ・「カメリヤ」のたんぱく含量は,乙第30号証によれば,11.8%に過ぎず,この含量は,「化学大辞典」(共立出版株式会社,1989年8月15日,697頁,「こむぎ 小麦」の項)によれば中力粉に該当するから,この訂正は矛盾しており,不明確にするものである。 (イ)しかし,訂正前は,「通常の強力粉(商品名,日清製粉カメリヤ等)」と,括弧書き内の「カメリヤ」が通常の強力粉として記載されており,それが例示であったとしても,唯一記載されている例である「カメリヤ」を通常強力粉の基準とすることができることは記載されていたと認められるから,この訂正が新規事項を導入するものであるということはできない。 (ウ)また,たんぱく含量については,強力粉か中力粉かについての明確な規格が存在するとはいえず,その強度は,形成されるグルテンの量のみならずその質にも左右されるものである(五十嵐脩ら編「丸善食品総合辞典」丸善株式会社,平成10年3月25日発行,「小麦粉」の項を参照。)。甲第4号証にも,蛋白含量の同じB-Dの小麦粉がその強さにおいて,超強力から強力の範囲で相違していることが記載されている(424頁右欄下から18?10行)。したがって,たんぱく含量のみから「カメリヤ」が中力粉であるという請求人の主張は採用できない。 (エ)したがって,この訂正に特に矛盾はなく,これにより明細書の記載が不明瞭になるものでもない。 ウ 訂正事項12 (ア)請求人は,この訂正事項について,以下のように主張する。 ・明細書の段落【0007】の市販強力粉の定義が「カメリヤ」であるとする記載を追加する訂正は,「通常強力粉」の定義を変更するものであり,新規事項である。 ・「強力粉」という用語に格別の不明瞭さはないから,この訂正は明りようでない記載の釈明には該当しない。 (イ)しかし,上記イ(イ)と同様の理由により,訂正前の段落【0007】には,「カメリヤ」を通常強力粉の基準とすることができることは記載されていたと認められるから,この訂正が新規事項を導入するものであるということはできない。 (ウ)また,この訂正はミキシング時間の基準となる「通常市販強力小麦粉」を,より明確にしたものと認められるから,明りようでない記載の釈明に相当するものと認められる。 3.小括 以上の通りであるから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであり,適法な訂正と認める。 第3 本件発明 以上の通りであるから,本件発明は,平成20年12月15日付訂正請求書に添付された訂正明細書の,特許請求の範囲の請求項1?4に記載された以下の通りのものと認められる(以下,「本件発明1」?「本件発明4」という。)。 「【請求項1】 ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を示す,超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を5%以上80%以下含有する,超強力小麦粉と,中力小麦粉,強力小麦粉,ライ小麦粉又はそば粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であることを特徴とする改質小麦粉。 【請求項2】 ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を示す,超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を10%以上40%以下含有する,超強力小麦粉と,中力小麦粉又は強力小麦粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であることを特徴とする改質小麦粉。 【請求項3】 請求項l又は2記載の改質小麦粉を用いて製造されたことを特徴とする小麦粉食品。 【請求項4】 小麦粉食品がパン類、麺類であることを特徴とする請求項3記載の小麦粉食品。」 第4 無効理由1について 1.請求人の主張 請求人は,本件発明1?4は,甲第1号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当すると主張する。 2.甲第1号証の記載 (1)甲第1号証(Can. J. Plant Sci.、60、737-739 (1980))には,以下の事項が記載されている。 ア「カナダ等級システムにおける有用クラスの小麦品種であるグレンレアは、混合した小麦粉からのパンの製造における(グルテンが)弱い小麦(weak wheats)に(グルテンの強さを)付加する能力(ability to “carry”)において、CWレッドスプリングの品種よりも優れている。収穫の多さと製粉性に加えて、この特徴は、(グルテンが)弱い小麦(weak wheats)しか生育しない小麦に当該能力を付加する(ability to “carry”)ために輸入する市場において極めて有用なものである。」(第737頁上欄の要約の項) イ「グレンレアは、製パン性において、CWレッドスプリング品種とは異なっている。このために、マルキス(Marquis)の下位品種と判定された。 有用な小麦の市販サンプル(主にグレンレア品種)は、同等なグレードのレッドスプリング品種に比べて、蛋白質含量が若干少なく、かつα-アミラーゼ活性が高い(Grain Research Laboratory 1978)。グレンレアのこの低い蛋白質含量は、収穫量が多くなるためであろうと考えられていた。製パン特性(例えば、パンの容積)は、実際的な蛋白質含量の範囲を超えている殆どのパン用小麦の蛋白質含量に直接的に比例している(Finney and Barmore 1948)。グレンレアとマルキス(Marquis)タイプの品種と大きな相違は、グルテンの強靭さである。カナダでの実験では、グレンレアは『超強力』な変種であるとされた。我々の知見では、この主な理由は、遺伝子型で特徴付けられる、不溶性グルテニンに対する可溶性の比率の低さである(Orth and Bushuk 1972)。この特性のために、この品種は、通常の製パン試験における一定のミキシング時間ではグルテンを適度に形成することが不充分となり、パン容積が異常に低くなる。しかしながら、もしグレンレアを最適なパン生地が形成する条件で製パン試験を行ったならば、CWレッドスプリングクラスとして認定されている変種であるマニトウ(Manitou)と実質的に同じような製パン性を示すであろう。」(第737頁左欄下から2行目?同頁右欄下から9行目) ウ「超強カグレンレアタイプの小麦の非常に興味有る特性は、『混合』製パン試験(”blend” baking test)において弱い小麦に能力を付加することである。50/50の混合試験において、グレンレアは、100%グレンレアを用いた通常の試験よりもずっと良い結果を与える。さらに、混合性能においてグレンレアとCWレッドスプリング品種のひとつと比較したときに、通常グレンレアはずっと良い結果を与える。 我々は、グレンレアの能力を付加する特性について更に詳細な製パン試験を行った。グレンレア(小麦蛋白量12.5%と14.0%)及びニーパワ(Neepawa)(小麦蛋白量12.4%と14.1%)の2種の品種における4種の小麦粉を、強力粉(HRS)として使用した。混合する小麦粉として、ソフトホワイトウインター品種のフレデリック(蛋白含量10.1%)を用いた。リミックス製パン法(”remix” baking formula)により行った(Irvine and McMulIan 1960)。パン吸水(baking absorption)は、ファリノグラフ吸水よりも少ない4%単位であった。 HRS小麦粉が10%?90%含有される混合された小麦粉について試験した。試験した4種の小麦粉の全てにおいて、パン吸水(baking absorption)は、HRS小麦粉の含有量が増加するに伴って実質的に直線的に増加した。低蛋白含量(12.5%と12.4%)のものについては、グレンレアの吸水率はニーパワよりも3%少なかった。しかし、高蛋白含量(14.0%と14.1%)のもについては、ふたつのものはほぼ同じであった。 パンの容積を混合小麦粉のHRS小麦粉の含有率(%)についてプロットすると、グレンレアの曲線は約70-80%のところにピークを有していた(図1参照)。一方、ニーパワの混合小麦粉については、ほぼ直線的であり、HRS小麦粉の含有量が増加するに伴って(同時、に蛋白含有量の増加に伴って)増加した。二つの蛋白レベルを比較したときに、HRS小麦粉の含有率が80-90%以下の場合には、グレンレアの混合粉のほうが、ニーパワの混合粉よりも良かった。 これらの結果は、混合小麦粉において、カナダのHRS小麦粉は、より弱い小麦粉に実質的な容積(proportion)を付与する能力を有しており、同じ製パン性を得るためにはニーパワよりもグレンレアの方が少量ですむことを示唆している。例えば、12.5%のHRS小麦粉においては、23%のグレンレアが、50%のニーパワにほぼ匹敵している(図1参照)。ニーパワと同じ付与能力を得るためには、通常はより多い蛋白含量が必要とされる。このファクターはイギリスのような輸入国にとっては、重要な経済的な示唆をしている。即ち、カナダの小麦は『安全性』及び『能力の付加(carrying ability)』を提供するために輸入されるということである。それゆえに、このような市場に向けて、グレンレアタイプのハードレッドスプリング小麦の有用性を知らしめる努力がなされるべきである。」(第737頁右欄下から8行目?第738頁右欄第8行) (2)引用発明の認定 甲第1号証において,混合する一方の小麦粉として用いられた「グレンレア」の小麦粉は,「超強カグレンレアタイプ」と記載されており,本件訂正特許明細書においては,「本発明でいう超強力粉とは,ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉(…)のl.2倍以上のミキシング時間(…)を示す小麦粉のことである。……このような性質を示す代表的小麦品種・系統としては,Glenlea……等が挙げられるが,……」(【0007】)と記載されていることからみて,甲第1号証記載の「グレンレア」の小麦粉は,本件発明で用いている「ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を示す品種・系統の超強力小麦粉」に相当する。 そして,「グレンレア」の小麦粉と混合されている「ソフトホワイトウインター品種のフレデリック」は,乙第29号証の記載からみて,薄力粉に相当するものと認められるが,甲第1号証に記載されている「混合小麦粉において、カナダのHRS小麦粉は、より弱い小麦粉に実質的な容積(proportion)を付与する能力を有しており…」(738頁左欄下から12?6行)という記載の「より弱い小麦粉」に相当するものと認められる。 そして,甲第1号証において,「グレンレア」の小麦粉は,10?90%の10%刻みの含有量で混合されたのであるから,本件発明1の「5%以上80%以下」及び本件発明2の「10%以上40%以下」に相当する含有比のものが記載されているものと認められる。 また,このような混合小麦粉が,より弱い小麦粉の性質を改質していることは明らかであり,また,そのような改質がパン用の小麦粉としての使用を目的としたものであることも明らかである。 上記のことから,甲第1号証には, 「ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を示す,超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を5%以上80%以下,あるいは10%以上40%以下含有する,超強力小麦粉と,より弱い小麦粉を混合したパン用改質小麦粉」及び,「それを用いて製造されたパン」 が記載されているものと認められる。 3.対比 本件発明1と甲第1号証に記載された事項とを比較すると,本件発明1の「中力小麦粉,強力小麦粉」は,超強力小麦粉に対して「より弱い小麦粉」に相当するから,両者は, 「ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉のl.2倍以上のミキシング時間を示す,超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を5%以上80%以下含有する,超強力小麦粉と,より弱い小麦粉を混合したパン用改質小麦粉。」である点で一致するが,以下の点で一応相違する。 相違点:「弱い小麦粉」が,本件発明1では,「中力小麦粉,強力小麦粉」であるのに対し,甲第1号証に記載された具体例では薄力粉である点 4.判断 (1)本件発明1について 甲第1号証には,上記記載事項から明らかなように,「グレンレア」の小麦粉には,混合した小麦粉からのパンの製造において弱い小麦に強さを付加する能力があり、弱い小麦しか生育しない場合に,小麦に当該能力を付加するために輸入することが有用である旨の記載がある(要約)。 甲第1号証において行われている製パン試験は,このような能力を詳細に評価するために行われたものと認められ,その評価のために,最も弱い薄力粉が用いられたものとも考えられるが,甲第1号証には,中力小麦粉又は強力小麦粉についての明確な記載はない。 しかし,甲第1号証には,「グレンレア」の小麦粉には,混合した場合に「より弱い」小麦粉に強さを付与する能力があることが記載され,小麦粉はその強さによって,一般的には,強力粉,中力粉及び薄力粉に大別されるから,超強力粉に対して「より弱い」小麦粉としては,薄力粉以外に中力粉や強力粉が極めて容易に想起されるというべきである。そして,このような強さは小麦粉中のグルテンの含有量や性質によって決まることは技術常識であるから,薄力粉以外のより弱い小麦粉,すなわち中力粉や強力粉と混合した場合であっても,超強力粉には当然そのような強さを付与する能力があることは明らかである。 とすれば,甲第1号証の記載に接した当業者であれば,実験で用いられた薄力粉に限らず中力粉や強力粉に対しても,超強力粉を混合して製パン性が向上できることは自然に理解できるところである。 したがって,この点は実質的な相違点とは認められず,本件発明1は甲第1号証に記載されている発明であると認められ,本件発明1は,特許法第29条第1項第3号に該当する。 (2)本件発明2について 本件発明2は,本件発明1の超強力小麦粉の配合比「5%以上80%以下」を「10%以上40%以下」に限定し,超強力小麦粉と混合する穀粉からライ小麦粉及びそば粉を除いたものと認められる。しかし,前記2(2)で認定したとおり,甲第1号証には,超強力粉を10%以上40%以下混合したものも記載されており,この限定により、本件発明2と甲第1号証に記載された事項との間に相違が生じるものではない。 したがって,本件発明2も甲第1号証に記載されている発明であると認められ,特許法第29条第1項第3号に該当する。 (3)本件発明3及び4について 本件発明3及び4は,本件発明1又は2の改質小麦粉を用いて製造された小麦粉食品,又はパン類,麺類の発明である。 甲第1号証には,前記2(2)で認定したとおり,改質小麦粉を用いて製造されたパンも記載されているものと認められるから,本件発明3及び4も甲第1号証に記載されている発明であると認められ,特許法第29条第1項第3号に該当する。 (4)被請求人の主張 ア 被請求人は,本件発明1?4の新規性につき,概略以下のように主張する。 (ア)甲第1号証において,グレンレアと混合している小麦粉フレデリックは薄力粉であり,本件発明で混合している中力粉,強力粉等とは異なるものである。 (イ)甲第1号証では,グレンレアとフレデリックとの混合粉は,ニーパワ強力粉100%相当の小麦粉の製パンレベルには全く達していない。 (ウ)甲第1号証記載のリミックス法は非常に特殊な製パン法であり,評価もloaf容積評価しかしておらず,総合的評価がされていないからパンの品質が不明である。 (エ)甲第1号証は,超強力小麦粉と中力粉ないし強力粉等による改質小麦粉の製パン性及び製麺性の改善については全く言及していない。 (オ)本件特許発明は,甲第1号証の内容では到底達成できない,市販強力粉のパン等と同等又はそれ以上の高品質のパン等を製造すること,そのための小麦粉を提供することを可能とするものであり,甲第1号証に記載された発明と同一のものではない。 イ しかし,上記4.で述べたように,甲第1号証には,具体例としては,グレンレアを薄力粉と混合したものしか記載されていないものの,全体の記載をみれば,グレンレアをより弱い小麦粉,すなわち中力粉や強力粉と混合することにより強さを付与することができ,製パン性も向上するという技術思想は読み取れるのであるから,本件発明1?4は甲第1号証に記載された発明であるということができ,本件発明の効果が甲第1号証に記載されているか等は,本件発明の新規性の判断には無関係である。 しかも,仮に本件発明1?4の効果について検討したとしても,「第5」で後述するように,本件発明1?4の効果が従来技術からは予測できない程度の顕著なものであるということもできない。 ウ したがって,被請求人の主張は採用できない。 (5)小括 以上の通りであるから,本件発明1?4に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 第5 無効理由2について 上記「第5」で述べたとおり,本件発明1?4が甲第1号証に記載された発明である以上,本件発明1?4が,甲第1?7号証の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるという請求人の主張については論ずる余地はないが,念のため,前記で認定した相違点が実質的な相違点であると仮定した場合についても以下に判断を示す。 1.本件発明1及び2について (1)甲第1号証には,上記記載事項から明らかなように,「グレンレア」の小麦粉には,混合した小麦粉からのパンの製造において弱い小麦に強さを付加する能力があり、弱い小麦しか生育しない場合に,小麦に当該能力を付加するために輸入することが有用である旨(要約)及び,「グレンレア」の小麦粉が,より弱い小麦粉に実質的な容積を付与する能力を有していること(738頁左欄下から12?6行)が記載されている。 そして,「より弱い小麦」とは,超強力粉と比較して弱いという意味であり,この記載に接した当業者であれば,小麦粉はその強さによって,一般的には,強力粉,中力粉及び薄力粉に大別されるから,超強力粉に対して「より弱い」小麦粉として,薄力粉以外に中力粉や強力粉を極めて容易に想起するものといえる。また,小麦粉の強さは小麦粉中のグルテンの含有量や性質によって決まることは技術常識であるから,薄力粉以外の弱い小麦粉,例えば中力粉や強力粉と混合した場合であっても,当然そのような能力があることは容易に予想しうることである。 すなわち,甲第1号証の記載に接した当業者であれば,記載された超強力粉を中力粉や強力粉に混合することに強く動機づけられるというべきである。 そして,そのように本件発明1及び2に至る強い動機付けが存在する場合においては,進歩性の存在を推認するために必要な効果の顕著性は極めて高いものが要求されるというべきである。しかし,本件明細書の記載をみても,得られた改質小麦粉が,超強力小麦粉と,それと混合する中力粉,強力粉等のそれぞれの性質からは予想できる範囲(すなわちそれらの中間的性質)を超える顕著な効果を,本件発明の範囲全体において奏することを示す記載はない。(なお,本件明細書の製パン試験結果を見ても,最も重要な食感・食味に関する評価はないし,また,評価結果も,中華麺の評価も含めると,「かなり不良」,「不良」,「わずか不良」,「やや良」,「少し良」,「良」,「かなり良」,「非常に良」というものが記載されているが,その基準も不明である。) したがって,本件発明1及び2は,甲第1号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)しかも,甲第2号証(長尾精一著「世界の小麦の生産と品質 -下巻- 各国の小麦」、第1 1 3 - 1 1 4頁、輸入食糧協議会事務局、平成10年10月28日発行))には,カナダ・ウェスタン・エクストラ・ストロング・レッド・スプリング小麦が、硬質赤色春小麦品種の中で特に生地(グルテン)の力が強い品種で構成され,Glenleaが主要品種であること,及び、力の弱い粉に配合して補強剤として使う用途があることが記載され, 甲第3号証(Quality of Western Canada Wheat 1997)には,「カナダ・ウエスタン・エキストラ・ストロング小麦は,混合用途や特殊な製パン用途に適した強力なグルテンを持っている硬質の赤色春小麦である。」(2頁「カナダ小麦の7種」についての記載の3番目)と記載され, 甲第5号証(特開平8-80155号公報)には,冷凍生地についてではあるが,「小麦粉は一般にパンの製造に使用されている蛋白質含量が約11?13重量%の強力小麦粉を用いることができ、パンの種類によっては準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉を強力小麦粉に代えて、又はその一部として混用することもできる。尚好ましいのは強力小麦粉単独又はこれと上記その他の小麦粉との混用である。更に原料穀粉を蛋白質含量が14重量%以上の超強力小麦粉を10?40重量%含有する小麦粉にすると、生地の冷凍耐性が更に向上して好ましい。」(【0015】)と,超強力粉を他の強力粉等と混合してパンの製造に用いることが記載され,また, 甲第6号証には,パンの製造において,小麦粉に混合する澱粉の含量が多かったり,小麦粉の一部を(蛋白質含量の少ない)ライ麦粉等で置き換える場合に,蛋白質含量の多い小麦粉を使用して蛋白質含量を所定の範囲とすること(【0029】)及び実施例1で用いた蛋白質含量11.6%の小麦粉の代わりに,超強力小麦粉(蛋白質含量14.5%)と薄力小麦粉(8.0%)を混合して用いること(【0051】)が記載されている。 ている。 これらの甲第2,3,5及び6号証の記載からみれば,本件特許の出願前において,グレンレア等の超強力小麦粉を他の小麦粉と混合して補強目的等で用いることは周知であり,特に,混合する他の小麦粉が薄力粉に限られるいう技術常識があるということもできないし,薄力粉以外の強力粉等の小麦粉と混合することも甲第5号証に明記されている。このような技術水準の下では,甲第1号証に記載されたグレンレアと混合する小麦粉として,中力粉や強力粉に想到することは極めて容易になし得ることである。そして,本件発明1及び2の効果は,上記(1)で述べたように,予期できないほど顕著なものであるということはできない。 したがって,本件発明1及び2は,甲第1?3,5及び6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2.本件発明3及び4について 本件発明3及び4は,本件発明1又は2の小麦粉を用いて製造されたパン類等の小麦粉食品であるが,強度を改質した小麦粉をパン類の製造に用いることは,甲第1号証にも記載されている。また,小麦粉を用いて食品を生産すること(本件発明3)はもちろん,中力粉や強力粉をさらに補強した小麦粉の用途として,原料小麦粉に所定の強度が要求されるパン類等(本件発明4)は極めて自然な用途である。 そして,上記1.で述べたように,その効果は,予期できないほど顕著なものであるということはできない。さらに,本件発明3及び4は,パンや中華麺に限定されない食品であるから,本件明細書に記載されたパン及び中華麺に関する具体例に基づいて,その顕著な効果を主張することはできない。 したがって,本件発明3及び4も,甲第1号証の記載に基づいて,又は,甲第1?3,5及び6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.被請求人の主張 (1) 被請求人は,本件発明の進歩性について,概略,以下のように主張する。 ア 甲第1号証の記載からは,超強力粉を中力粉,強力粉と混合した場合,どのような製パン性等を持つかは全く未知のものである。 イ 本件発明は,甲第1?7号証には記載されていない,特定の超強力粉と中力小麦粉,強力小麦粉等の改質小麦粉について,通常のルーチンの検討を遙かに上回る格別の実験を重ねた結果,実用化可能なパン用,中華麺用改質小麦粉を開発したものであり,当業者が容易に想到したものとはいえない (2)しかし,甲第1号証の記載からは,グレンレアがより弱い小麦粉に対して強さを付与する能力は,そのグルテンの強靱さに基づくものであることが容易に理解でき,中力粉や強力粉に混合した場合もそれに強さが付与され,製パンに適していない強度が不足しているそれらの小麦粉に対して,強さが付与されることは容易に予測しうることである。(なお,グレンレアが特異な例であるとか,中力粉,強力粉と混合した場合の製パン特性が不明であるという主張は,本件発明の範囲全体にわたる効果がごく一部の具体例からは明らかではないということにもなりかねず,実施可能要件やサポート要件を否定しかねない主張である。)。 また,グレンレアと中力小麦粉,強力小麦粉との混合粉の製パン特性を明らかにするために過度の実験が必要であるという主張は,そのような実験がなぜ過度の実験であるのかが不明である。 (3)したがって被請求人の主張は採用することができない。 4.小括 以上の通りであるから,本件発明1?4は,甲第1号証に記載された発明であるとはいえない場合であっても,甲第1号証の記載に基づいて,又は,甲第1?3,5及び6号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1?4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。 第6 無効理由3について 1.請求人の主張 請求人は,「ピン型ミキサー」がどのようなミキサーであるのか,どう使用するのか,及び「ミキシング時間」の測定条件,測定方法,評価方法について,本件明細書には一切記載がないから,本件明細書は当業者が本件発明を容易に実施できる程度に(「当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に」の意味と解される。)記載されておらず(実施可能要件),本件の特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載されたものではなく(サポート要件),また,本件の請求項の記載が明確でない(明確性要件)と主張する。 そこで,まず,本件発明1を特定する事項である「 ピン型のミキサーで通常強力粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力粉」が,明確であるか否かについて検討する。 2.被請求人の主張 請求人の主張に対して,被請求人は,以下のように主張している。 (1)「ピン型ミキサー」は,出願時に,当業者の間で製パン実験に用いるものとして広く知られている。また,「ピン型ミキサー」は,米国公定法で用いるミキサーであり(乙第25号証),同じ装置,同じ条件で比較すれば,ミキシング時間はほぼ同一となる。したがって,所定の「ピン型ミキサー」で,測定した小麦粉サンプルのミキシング時間を基準として,強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉を特定することは可能である。 (2)小麦粉生地のミキシング時間は,ピン型ミキサーの種類,回転数,クリアランス等の条件により変化するが,小麦粉間の相対比は,条件が変わってもほとんど変化しないことがこれまでの穀物科学の知見から明らかになっている。また,そのことは,実験により検証された(乙第24及び26号証)。したがって,相対時間で評価すれば,どのようなピンミキサーを用いても超強力小麦粉を明確に判別することが出来る。 3.判断 (1)「ピン型ミキサー」の明確性 ア 被請求人の主張 被請求人は,以下のことから,例え明細書中に記載がなくとも「ピン型ミキサー」がどのような装置であるかは当業者の間では技術常識であると主張する。 (ア)製粉・製パン分野でのAACC(American Association of Cereal Chemists)が編集し,公定法となっている「Approved Methods of the AACC」では,ストレートドウ法やミキソグラフ法用のミキサーとしてピン型ミキサーを用いることが記載されている(乙第25号証)。 (イ)「Approved Methods of the AACC」で採用されているミキサーは,現在,National Mfg. Co., Lincolon,NE(以下「N社」という。)が製造販売しており,国内で流通しているピン型ミキサーは,N社製のものに限られており仕様の変更もない(乙第33号証)から,したがって,現在,国内の関係者が採用しているピン型ミキサーの大多数は,N社製のピン型ミキサーである, (ウ)「ピン型ミキサー」という用語は,学術論文において特定の装置を意味するものとして慣用されている(乙第57及び58号証)。 イ 「ピン型ミキサー」について ピン型ミキサーについては,小麦粉生地の混合に用いられることが,例えば,本件特許の出願前に頒布された乙第25及び35号証にも記載されており,それがどのような装置であるのかについても周知であったものと認められる。したがって,「ピン型ミキサー」の細部の構成がどのようなものであるかは別として,それがどのようなタイプのミキサーであるのかという点については,当業者は明確に理解できるものと認められる。 ウ 「特定の装置」について しかし,被請求人が,「ピン型ミキサー」が特定の装置,具体的にはN社の製品を意味するものであると主張しているのだとすれば,その点については以下の理由により採用できない。 (ア)AACCは米国の団体であり,そこで定める公定法が世界的に採用されているということはできない。また,特許明細書の場合には,発明の効果を明らかにするためには,従来技術と対比して同じ測定条件での効果を確認すれば足りるのであって,発明を明確に特定するためには該公定法によらなければ不可能であるという事情もないのであるから,特に公定法を用いる必要はない。 したがって,AACCの定める公定法において,N社製のピン型ミキサーを用いるという記載があるからといって,我が国における特許明細書においては,記載がなくともN社製のピン型ミキサーが用いられているということはできない。 (イ)乙57,58号証には,生地のミキシングにN社製のピンミキサーを用いたことが記載されているが,だからといって,それ以外のピンミキサーが用いられないことを示すものではない。 (ウ)また,例えば,Cereal Chemistry, 51(4), 1974, p.500-508,Cereal Chemistry, 51(5), 1974, p.592-595及びFood Australia, 47(2), Feb 1995, p.66-70に,小麦粉生地のミキシングに用いる実験室用ピンミキサーとして,Grain Research Loboratory製のGRL-200等が記載されており,その他,同様のピン型ミキサーとしてはHobart Manufacturing 製のA-120なども知られている(J. Nutr. 110, 1980, p.2272-2283)ように,学術文献において用いられている「ピン型ミキサー」は,N社製のものに限られるわけではない。 (エ)とすれば,本件明細書に記載された「ピン型ミキサー」がN社製のものを意味するということはできない。 (2)ピン型ミキサーの種類,ミキシング条件とミキシング時間の小麦粉間の相対比 ア 以上のように「ピン型ミキサー」にもいろいろな種類があり(N社製の製品に限っても,乙第25号証には,10g用と35g用の2種類があることが記載され,回転数としては,被請求人が乙第24号証の実験で採用した回転数とは異なる88±2回という速度が記載されているし,別件無効審判事件である無効2008-80018号事件において被請求人から乙第22号証として提出された「Approved Methods of the AACC 10-10B 1991」には,1ポンド用,100g用及び10g用の3種類があることが記載され,ピンを追加することもあることが記載されている。また,回転数や生地の水分量などの測定条件も幅があるものと認められる。 とすれば,「ピン型ミキサー」の種類や測定条件についての具体的記載のない本件明細書の記載から,「ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉」が明確であるというためには,ミキシング(ピーク)時間が「ピン型ミキサー」の種類や測定条件によって変化せず一定であることが必要である。 イ 被請求人の主張 被請求人は,この点について,以下のことから本件発明1の「ミキシングタイム」は明確であると主張する。 (ア)その後の実験結果(乙第24及び26号証)によれば,異なるミキシング時間を有する小麦粉を,異なるミキサー及び回転数でミキシングした結果,対象の小麦粉(カメリヤ)に対する相対的ピーク時間はほぼ同一であり,これは出願後のデータではあるものの科学的事実である。 (イ)国内で流通しているピン型ミキサーは,N社製のものに限られている。仕様の変更もない(乙第33号証)。とすれば実験日時に関わらず,同様の条件で測定すれば,同様の「実験事実」が得られると推量される。 (ウ)ピン型ミキサーによる測定条件,測定方法については,明細書中に記載がなくとも,AACCの公定法(乙第25及び50号証)に即した条件で測定が行われるべきことは,当業者にとって技術常識であり,この公定法に従って製パン・測定を行った事例が数多く散見される(乙第39?46号証)。 (エ)乙第53及び54号証の結果をグラフ化した乙第55及び56号証によれば,異なる回転数(2値)のミキシング時間には高い相関がある。 ウ 乙第24号証及び乙第26号証について (ア)乙第25号証に記載されたAACCの公定法によれば,35gミキサーの場合の回転速度としては,ミキソグラムで88±2回転が推奨されているが,乙第24及び26号証には,その範囲のデータは記載がない。 (イ)また,乙第24号証に記載されたピーク時間のデータ,特に35g用ピンミキサー(150rpm)のデータは,乙第26号証のグラフに基づくものと認められるが,特に,「VictoriaINTA」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」については,記載されたグラフのピークは曖昧であって,なぜこの数値をピーク時間と判断したのかが不明である。また,「ホクシン」,「ゴールデンヨット」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」については,その数値が乙第13号証のグラフに記載されたものと乙第11号証の表に記載された数値とが,若干ではあるが異なっている。 (ウ)さらに,各超強力粉の市販強力粉(カメリヤ)に対する各条件におけるピーク時間の相対比をみると,例えば,「Wild Cat」,「VictoriaINTA」,「北海261号」,「北海259号」,「北海260号」において,その最大値と最小値との差が,0.09,0.11,0.18,0.17,0.15である。 また,同様に,被請求人が実験結果として提出した乙第52号証によれば,例えば,「スーパーカメリヤ」,「K青鶏」,「N龍舟」,「クードシャンス」においては,その相対比の最大値と最小値との差は,0.18,0.16,0.19,0.14である。 本件発明1が,市販強力粉に対して1.2倍以上,すなわち0.2倍多いミキシング時間を示す小麦粉を本件発明1の発明特定事項としているときに,ミキシング条件によってこの程度の差が存在するということは,発明を特定する上で無視することが出来ない程度の差であると認められる。 エ AACCの公定法について AACCの公定法については,上記(1)ウ(ア)で述べた通りの理由により,その測定の仕方に関する具体的記載が全くない本件明細書における試験が,同公定法によって試験されていることは明らかであるとはいえない。 オ 乙第53?56号証について 被請求人は,乙第53?56号証を提出して,異なる回転数でのデータの相関係数rが高いことを以て,ミキシング時間の相対比に大きな変化はないと主張している。 しかし,例えば,乙第53号証の表2の試料3と4とを比較すると,そのミキシング時間の相対比は,140回転では1.17であるのに対し,110回転では1.38でありかなり相違している。また,乙第55号証をみても130回転でのミキシング時間が6分のところでは,回帰直線からかなり離れたデータが存在していることが見て取れる。 例え,全データの相関係数が高くとも,部分的にピーク時間の相対比がある程度異なるデータがあれば,ミキシングピーク時間が「ピン型ミキサー」の種類や測定条件によって変化せず一定であるとはいえない。 カ 本願の出願時における技術常識 仮に,被請求人の主張するように,ミキシングピーク時間の相対比が一定であることが科学的事実であるとした場合であっても,発明が明確であるか否かは,明細書の記載に基づき出願時の技術常識を参酌して判断すべきものであるから,そのような科学的事実が,それが本件特許の出願時において技術常識である必要がある。つまり,本件発明1が明細書の記載から明確に把握できるというためには,ピン型ミキサーの種類やミキシング条件にかかわらず,ミキシング時間の小麦粉間の相対比がほとんど変化しないということが本件特許の出願時において技術常識であり,それらを特定するまでもなく,「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」というものを明確に理解できる必要がある。 しかし,被請求人の提出した証拠をみても,この点が技術常識であることを示すものはない。 キ 以上のことから,本件発明の発明特定事項である「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」という記載は不明確であり,本件発明1自体が不明確である。 また,同様の理由により,本件発明1が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されているものとはいえず,本件発明1が発明の詳細な説明に記載したものであるということもできない。 ク その他 (ア)請求人は, ・「通常強力粉」がどのような特性のものであるかは本件明細書中に一切記載されていない, ・「1.2倍以上,好ましくは1.5倍以上」については,1.2倍以上であれば足りるのか,1.5以上でなければならないのかについて,必ずしも明確な記載とはいえない, とも主張しているので,この点についても判断すると以下の通りである。 (イ)「通常強力粉」については,「強力粉」という語は,食品分野において慣用されている用語であって,特に特性を記載しなければ不明確な用語であるとは認められないし,「通常」とは,「普通であること。なみ。通例。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」という意味であって,特殊なものは含まれないという程度の特定であると認められるから,「通常強力粉」というものがどのようなものであるのかを理解することが困難であるとまではいえない。(なお,「通常強力粉」について,本件訂正明細書には,「本件発明1でいう通常強力粉とは,日清製粉(株)製の市販通常強力小麦粉(商品名 カメリア)のことである。」という定義が記載されている。) (ウ)また,「好ましくは」という記載については,平成20年12月15日付訂正により,「好ましくは1.5倍以上」という記載が削除されたから,請求人の主張には理由がない。 (エ)したがって,これらの点によっては,本件発明が明確でないということはできない。実施可能要件及びサポート要件についても同様である。 ケ 本件発明2?4について 本件発明2は,本件発明1をさらに限定したものであって,「ピン型のミキサーで強力粉の1.2倍以上のミキシングピーク時間を有する超強力粉」という発明特定事項を同様に含むものであり,本件発明3及び4も本件発明1又は2の改質小麦粉を用いて製造されたパン類等の食品であって同様である。したがって,本件発明2?4についても,本件発明1と同様の理由により明確であるとはいえず,また,実施可能要件及びサポート要件も満たしていない。 コ 小括 以上のように,本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は,特許法第36条第6項第1号並びに第2号,及び同条第4項(平成14年改正前のもの)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。 第7 むすび 以上のように,本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は,特許法第29条第1項第3号に該当する発明についてされたものであり,仮に,該発明が新規性を有する発明であるとした場合であっても,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから,同法第123条第2号に該当する。また,本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は,特許法第36条第4項並びに第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから同法第123条第4号に該当する。 したがって,本件特許の請求項1?4に係る発明の特許は,無効とすべきものである。 審判に対する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。 よって,結論の通り審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 超強力小麦粉含有改質小麦粉とそれを用いた小麦粉食品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す、超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を5%以上80%以下含有する、超強力小麦粉と、中力小麦粉、強力小麦粉、ライ小麦粉又はそば粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であることを特徴とする改質小麦粉。 【請求項2】ピン型ミキサーで通常市販強力小麦粉の1.2倍以上のミキシング時間を示す、超強力小麦品種・系統の超強力小麦粉を10%以上40%以下含有する、超強力小麦粉と、中力小麦粉又は強力小麦粉を混合したパン用又は中華麺用改質小麦粉であることを特徴とする改質小麦粉。 【請求項3】請求項1又は2記載の改質小麦粉を用いて製造されたことを特徴とする小麦粉食品。 【請求項4】小麦粉食品がパン類、麺類であることを特徴とする請求項3記載の小麦粉食品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、超強力小麦粉(以下、超強力粉という)を含有する改質小麦粉に関し、更に詳しくは、グルテンの弱い粉に超強力粉を一定量混合することによって、小麦粉中のグルテンの改質を行ない、得られた強力的性質を持った改質小麦粉とそれを用いて製造された小麦粉食品に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 これまで、日本においては、パン、中華麺用の高品質の小麦粉の生産が十分でないため、カナダ、米国等からかなりの量の高品質の強力小麦を輸入して使用している。しかしながら、一方で、ポストハーベストの問題や国内自給率向上等の観点から、国内小麦粉を使用してパン、中華麺等を生産する努力がなされており、潜在的な国内産強力小麦粉の需要はかなりのものがあると考えられている。 【0003】 このように国産強力小麦粉の需要は、大きいと考えられるが、その供給状況は、気候等が強力小麦品種の栽培に適してないこと、国内で栽培可能な強力小麦粉用の優良品種が十分揃っていないことから、輸入小麦粉に比べ十分でないのが現状である。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 このような状況から、国内産各種小麦粉銘柄を有効利用して高品質の強力粉を作出する技術の確立が強く望まれているが、現状では、外麦強力粉、グルテン、デンプン、卵白等の添加による改質(特開平9-271313号公報、特開平8-51918号公報)がなされている程度であり、十分な改質技術が確立されていない状況である。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記の問題を解決するための国内で安定生産が可能である、うどん用の中力粉、パン用の強力粉等に適当量の超強力粉を混合することによって高品質の強力粉を作出できるのではないかと考え、小麦粉の改質について鋭意研究した結果、本発明を完成した。 【0006】 即ち、本発明は、強力粉としての品質の十分でない国産小麦粉に5%以上の超強力粉を混合することによって国産小麦粉のグルテンの性質を改質し、得られた高品質の改質強力小麦粉とそれを用いて製造された小麦粉食品を提供するものである。 【0007】 【発明の実施の形態】 本発明でいう超強力粉とは、ピン型のミキサーで通常市販強力小麦粉(商品名日清製粉カメリヤ)の1.2倍以上のミキシング時間(ミキシング時のモーターの電流値のピークまでの時間)を示す小麦粉のことである。本発明でいう通常市販強力小麦粉とは、日清製粉(株)製の市販強力小麦粉(商品名 カメリヤ)のことである。このような性質を示す代表的小麦品種・系統としては、Glenlea、Wildcat、Bluesky、Victoria INTA、カンザス州立大学育成系統KS831957、北海道農業試験場育成系統PC-338、ホクレン農業協同組合連合会育成系統HW-2号等が挙げられるが、どのような品種、系統からの小麦粉でも、上記のような性質を示すものであれば、本発明の超強力粉に包含される。 【0008】 本発明で超強力小麦粉を添加して改質する小麦粉としては、高品質の外麦強力粉よりグルテン強度の弱い小麦粉が含まれる。日本の小麦では、チホク、ホクシン、タイセツ、ホロシリ、タクネ、ハルヒカリ、ハルユタカ、春のあけぼの、ナンブコムギ、コユキコムギ、農林61号、西海180号等が挙げられるが、品種、系統には特に限定はない。また、穂発芽等により低アミロ化しグルテンの劣化した小麦粉やそば、ライ小麦等の穀類の粉の改質にも本発明は有効である。本発明の改質小麦粉とは、超強力粉を5%以上、更に好ましくは10%以上含有する粉のことであり、超強力粉を混合する粉は中力小麦粉ないし強力小麦粉等である。 【0009】 本発明でいう小麦粉の改質とは、超強力粉をグルテン等のタンパク質の弱い粉に適量混合しエキステングラフでの抗張力を高くすることである。超強力粉の添加量としては、日本の代表的うどん用の小麦のチホク、ホクシン、農林61号からの中力粉の場合、10%?40%添加が適当であり、更に好ましくは20%?30%である。ハルヒカリ、ハルユタカ、春のあけぼの等の国産強力粉の場合、10%?20%添加が適当である。いずれにしろ、混合粉生地の物性を見ながら、最適な添加量を各混合組み合わせにより決定すればよい。 【0010】 上記の適量の超強力小麦粉を国産の各種小麦粉に添加することによって混合粉のミキシング時間は市販強力粉並の時間まで長くなり、物性的性質もほぼ市販強力粉並に改質される。 【0011】 超強力粉を一部添加することによってグルテン等タンパクの弱い粉の性質が改質される理由については、詳細は不明であるが、本来強力粉以上にエクステンソグラフの抗張力の非常に大きい超強力粉を混合することによって、弱い粉のグルテン分子の一部に超強力粉のグルテンが入り、グルテン分子が高分子化し生地の弾性的性質が改善されると推定される。 【0012】 本発明の小麦粉食品とは、小麦粉に、その他の穀粉、油脂、糖類、粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、及び各種酵素類等の原料の全部または一部に、水、その他の物を加えて混合し製造された生地を蒸す、焼く、揚げる、煮る等の加熱調理をすることによってできる食品のことである。例えば、デニッシュペーストリー、菓子パン、食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール等のパン類、中華麺の麺類が包含される。 【0013】 〔実施例〕 次に表1?4に示す実施例(比較例を含む)に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。 【0014】 ▲1▼実施例1?4、比較例1、2について 表1に示す配合で種々の量の超強力粉を混合した小麦粉について、ノータイ法で製パンを行ない山型食パンを製造し、製パンの評価を行なった。なお、本発明のすべての実施例、比較例において、配合は小麦粉100に対する重量部で示した。製パン評価は、5人のパネラーによる生地の分割、成型時の状態、内相、食感等の評価と菜種置換法による比容積により行った。 【0015】 以下に、製パン工程を示す。 ・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする ・分割、丸目:生地量100gずつ手分割、丸目 ・ベンチ :30℃、20分 ・成型 :モルダー、シーターにて成型 ・ホイロ :温度38℃、湿度85%、70分 ・焼成 :200℃、25分 【0016】 【表1】 【0017】 【表2】 【0018】 【表3】 【0019】 【表4】 【0020】 表1の結果から、中力粉(ホクシン)に超強力粉(Wildcat)を混合した場合5%程度でもやや製パン性が改善され、10%以上添加した場合には、比較例のホクシン100%の小麦粉に比べ製パン性の改善が顕著であり、比容積は10%添加でほぼ市販外麦強力粉に近い値となり、20%以上では市販外麦強力粉以上であった。 【0021】 ▲2▼実施例5?10、比較例3?5について 表2に示す配合で、中力粉(ホクシン)に種々の種類の超強力粉を混合した小麦粉について、ストレート法で製パンを行い、山型食パンを製造し、表1と同様の製パン評価を行った。製パン工程は、以下に示す工程以外ノータイム法と同様に行った。 ・ミキシング後の発酵:30℃,90分 ・ホイロ :温度38℃、湿度85%、55分 【0022】 表2の結果から、中力粉(ホクシン)に30%各種超強力粉を添加した混合粉では、いずれの小麦粉でも、その製パン性は、比較例3のホクシン100%の小麦粉に比べ非常に優れており、市販外麦強力粉と同等かそれ以上の製パン性を示した。これより、超強力的性質を示す小麦粉であれば、品種、系統にあまり関係なく改善効果があることが判る。 【0023】 ▲3▼実施例11?15、比較例6?10表3に示すように低アミロ化して製パン性の低下した小麦粉と通常製パン性が極端に悪い雑穀粉に超強力粉(Wildcat)をそれぞれ40%、80%添加した混合粉について、実施例1?4、比較例1、2と同条件で製パン評価を行い比較例と比較した。 【0024】 表3の結果から、各種低アミロ化した小麦粉、雑穀粉に適当量超強力粉(Wildcat)粉を混合した混合粉の製パン性は全般に良好であり、市販外麦強力粉を添加した混合粉に比べその評価は良好であった。特に雑穀入りの混合粉では、通常比容積大のパンを製造することは非常に難しいと言われているが、超強力粉の混合によりかなり比容積大のパンが製造できることが判った。 【0025】 ▲4▼実施例16?19、比較例11、12 表4に示す配合で、中力粉(ホクシン)に種々の量の超強力粉(Wildcat)を混合した小麦粉について、以下に示す方法で中華麺を製造し、生麺、ゆで麺の官能評価を行った。なお、評価は、3人のパネラーにより行った。 【0026】 以下に中華麺の製造工程を示す。 ・ミキシング:縦型ミキサー、低速1分、中低速7分 ・ロール操作:荒延1回、ロール間隙 3.0mm 複合2回、ロール間隙 3.0mm 圧延1回目、ロール間隙 2.2mm 圧延2回目、ロール間隙 1.8mm 圧延3回目、ロール間隙 最終麺厚が1.4mmになるように調節 ・切り出し :切刃20番、麺の長さ25cm前後 ・ゆで :沸騰水中で約4分 なお、麺の評価は、生麺の場合切り出し直後、ゆで麺の場合ゆで直後にそれぞれ行った。 【0027】 表4の結果から、中力粉(ホクシン)への超強力粉(Wildcat)の10%,20%の添加で、その中華麺評価は、中力粉100%の比較例に比べ顕著に改善され、外麦中華麺用粉の麺に非常に近いか、それ以上の評価となった。以上の結果から、グルテンの弱いうどん用の中力粉に適当量の超強力粉を混合することによって、強力粉的性質を示す外麦中華麺用粉に近い特性を持つ小麦粉を作成できることが判った。 【0028】 【発明の効果】 以上説明したように本発明の超強力小麦粉含有改質小麦粉とそれを用いた小麦粉食品によれば、主に、グルテンの弱い小麦の性質を改質することができる。本発明により、高品質の強力粉の十分生産できない国や地域においても、国内産や地域産の麦を有効に利用して、強力的性質の小麦粉を作出することが簡単に可能になる。その結果、従来外麦強力粉を主に用いて製造されていたパン類、麺類を国内産、地域産の小麦を用いて製造することが可能になり、国内産、地域産小麦の需要拡大に多大の寄与が期待される。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2009-07-29 |
結審通知日 | 2009-07-31 |
審決日 | 2009-08-11 |
出願番号 | 特願平11-165119 |
審決分類 |
P
1
113・
113-
ZA
(A23L)
P 1 113・ 121- ZA (A23L) P 1 113・ 853- ZA (A23L) P 1 113・ 856- ZA (A23L) P 1 113・ 537- ZA (A23L) P 1 113・ 536- ZA (A23L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 恵理子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
深草 亜子 平田 和男 |
登録日 | 2000-09-14 |
登録番号 | 特許第3109519号(P3109519) |
発明の名称 | 超強力小麦粉含有改質小麦粉とそれを用いた小麦粉食品 |
代理人 | 須藤 政彦 |
代理人 | 須藤 政彦 |
代理人 | 牛山 直子 |
代理人 | 佐伯 裕子 |
代理人 | 佐伯 憲生 |