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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1205786
審判番号 不服2006-25987  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 特願2002-537004「広帯域音声コーデック復号器における高周波拡張階層符号化」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月25日国際公開、WO02/33697、平成16年 4月22日国内公表、特表2004-512562〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年10月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年4月17日にその翻訳文である国内書面が提出されるとともに、平成17年11月17日に手続補正書が提出され、これに対し平成18年3月31日付けで拒絶の理由が通知され、平成18年7月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成18年8月14日付けで拒絶査定され、同年11月16日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.補正後の本願発明
平成18年7月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし28に記載された発明は以下のとおりである。

「【請求項1】 活動的な音声の期間を有する入力信号を実行する方法であって、
高周波数成分と低周波数成分とを有する合成された音声信号を送信するために、
符号化と音声合成化の過程で、前記入力信号が高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、
該低周波数帯域の音声の特徴であるパラメータが、前記合成された音声の処理された模擬信号、さらには高周波数成分を送信するために模擬信号を処理するために使用され、
前記方法が、
能動的な音声期間中に第1の規格化係数によって前記処理された人工信号を規格化する工程と、
非能動的な音声期間中に第1の規格化係数により前記処理された人工信号を規格化する工程
とを含み、
前記第1の規格化係数が入力信号の高周波数帯域の特徴であり、
前記第2の基準化係数が入力信号の低周波数帯域の特徴である
方法。
【請求項2】 前記処理された人工信号が、合成された音声の高周波数成分の特徴である周波数範囲でフィルターをかけられた信号を送信するために、ハイパスフィルターをかけてなる請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記周波数範囲が、6.4?8.0kHzの範囲である請求項2記載の方法。
【請求項4】 前記入力信号が、合成された音声の高周波数成分に特有の周波数範囲でフィルターをかけた信号を送信するために、ハイパスフィルターをかけ、前記第1の規格化係数が評価されてなる請求項1記載の方法。
【請求項5】 前記非活動的な音声期間が、音声残存期間と快適なノイズ期間とを含み、前記音声残存期間中に処理された人工信号を計量化するために、第2の規格化係数が、フィルターをかけられた信号から評価されてなる請求項4記載の方法。
【請求項6】 前記合成された音声の低周波数成分が入力信号の符号化された低周波数帯域から再構成され、音声ハングオーバ期間中に処理された擬似信号を規格化するための第2の規格化係数が合成された音声の低周波数成分から評価される請求項5記載の方法。
【請求項7】 快適なノイズ期間中に処理された擬似信号を規格化するための前記第2の規格化係数が、合成された音声の低周波数成分から評価される請求項6記載の方法。
【請求項8】 符号化されたビットストリームを符号化するための受信端末に伝送する工程をさらに含み、当該符号化されたビットストリームが第1の規格化係数を示すデータを含む請求項6記載の方法。
【請求項9】 前記符号化されたビットストリームが、音声ハングオーバ期間中に処理された擬似信号を規格化するための第2の規格化信号を示すデータを含む請求項8記載の方法。
【請求項10】 前記処理された擬似信号を規格化するための第2の規格化係数が受信端末に送信される請求項8記載の方法。
【請求項11】 前記第2の規格化係数が合成された音声の低周波数成分から決定された傾斜係数を示す請求項6記載の方法。
【請求項12】 前記快適なノイズ期間中に処理された擬似信号を規格化するための第2の規格化係数が、合成された音声の低周波数成分から決定されるスペクトル傾斜係数を示す請求項7記載の方法。
【請求項13】 前記第1の規格化係数が、処理された擬似信号からさらに評価される請求項4記載の方法。
【請求項14】 活動的な音声期間および非活動的な音声期間を監視するために入力信号に基づいて活動的な音声情報を送信する工程をさらに含んでなる請求項1記載の方法。
【請求項15】 前記音声パラメータが、入力信号の低周波数帯域の特徴である線形予測コード係数を含む請求項1記載の方法。
【請求項16】 能動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有する入力信号を符号化し、かつ復号化するための音声信号の送信および受信システムであって、
高周波数成分と低周波数成分とを有する合成された音声信号を送信するために、
前記入力信号が、符号化および音声合成処理により高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、
前記入力信号の低周波数帯域の特徴である音声パラメータが、合成された音声の高周波数帯域成分を送信するために、受信機内で擬似信号を処理するために使用され、
前記システムが、
前記入力信号に応答して、前記入力信号の高周波数帯域の特徴である第1の基準化係数を送信するための送信機内の第1の手段と、
前記送信機から符号化されたビットストリームを受信するための受信機内のデコーダであって、当該符号化されたビットストリームが第1の規格化係数を示すデータを含む音声パラメータを含み、
前記音声パラメータに応答して第2の規格化係数を送信するための第2の手段であって、前記処理された人工信号を非活動的な音声期間中に該第2の規格化係数によって基準化し、前記処理された擬似信号を活動的な音声期間中に前記第1の規格化係数によって規格化するための第2の手段
とを備え、
前記第1の規格化係数が前記入力信号の高周波数帯域の特徴であり、前記第2の規格化係数が前記入力信号の低周波数帯域の特徴である
システム。
【請求項17】 前記第1の手段が、前記入力信号をハイパスフィルタにかけ、合成された音声の高周波数成分に対応する周波数範囲を有するフィルタにかけられた入力信号を送信するためのフィルタ手段を備え、前記第1の基準化係数が当該フィルタにかけられた入力信号から評価される請求項16記載のシステム。
【請求項18】 前記周波数範囲が6.4?8.0kHzの範囲である請求項17記載のシステム。
【請求項19】 合成された信号の高周波数成分に対応する周波数成分に対応する周波数範囲でハイパスフィルタにかけられたランダムノイズを送信し、当該ハイパスフィルタにかけられたランダムノイズに基づいて前記第1の規格化係数を修正するための第3の手段を備えてなる請求項17記載のシステム。
【請求項20】 前記入力信号に応答して、送信機に活動的な音声期間と非活動的な音声期間とを監視するための音声活動検出モジュールをさらに備えてなる請求項16記載のシステム。
【請求項21】 前記第1の規格化係数に応答して、送信機に符号化された第1の規格化係数を送信するための利得量子化モジュールであって、送信するための符号化されたビットストリーム中の符号化された第1の規格化係数を示すデータを含んでなる請求項16記載のシステム。
【請求項22】 前記第1の規格化係数に応答して、送信機に符号化された第1の規格化係数を送信するための利得量子化モジュールであって、送信するための符号化されたビットストリーム中の符号化された第1の規格化係数を示すデータを含んでなる請求項19記載のシステム。
【請求項23】 活動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有する入力信号を符号化するための方法であって、当該入力信号が高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、合成された音声の高周波数成分を送信するための擬似信号を処理するためにデコーダに音声パラメータを使用できるように、低周波数帯域の特徴である音声パラメータを含む符号化されたビットストリームを送信するために、前記入力信号の低周波数帯域に基づく規格化係数が、非活動的な音声期間中に処理された擬似信号を規格化するために使用され、
前記エンコーダが、
前記入力信号に応答して、前記入力信号をハイパスフィルターにかけ、ハイパスフィルターにかけられた信号を合成された音声の高周波数成分に対応する周波数範囲で送信し、さらに当該ハイパスフィルターにかけられた信号に基づく規格化係数を送信するための手段と、
前記規格化係数に応答して、前記規格化係数を示す符号化された信号を符号化されたビットストリームで送信し、その結果デコーダが符号化された信号を受信することができ、前記活動的な音声期間中に処理された擬似信号を規格化するために規格化係数を使用してなるエンコーダ。
【請求項24】 高周波数成分と低周波数成分とを有する合成された音声を送信するために、符号化されたビットストリームをデコーダに送信するように構成された移動局であって、
前記符号化されたビットストリームが入力信号を示す音声データを含み、該入力信号が活動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有し、高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、当該音声データが前記入力信号の低周波数帯域の特徴である音声パラメータを含み、その結果デコーダが該音声パラメータに基づいて合成された音声の低周波数成分を送信し、かつ合成された音声の低周波数成分に基づいて、該音声パラメータに基づく擬似信号を着色し、規格化係数によって着色された擬似信号を規格化することができ、
非活動的な音声期間中に合成された音声の高周波数成分を送信するために、
前記移動局が、
合成された音声の高周波数成分に対応する周波数範囲で入力信号をハイパスフィルターにかけ、さらにハイパスフィルターにかけられた信号に基づいて規格化係数を送信するためのフィルターと、
さらに規格化係数に応答して、符号化されたビットストリーム中で規格化係数を示す符号化された信号を送信して、その結果デコーダが規格化係数に基づいて活動的な音声期間中に着色された擬似信号を規格化することができる量子化モジュール
とを備えてなる移動局。
【請求項25】 高周波数成分と低周波数成分とを有する合成された音声を送信するために、移動局からの入力信号を示す音声データを含む符合化されたビットストリームを受信するように構成された電気通信ネットワークの素子であって、
当該入力信号が活動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有し、該入力信号が高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、当該音声データが、当該入力信号の低周波数帯域の特徴である音声パラメータと、当該入力信号の高周波数帯域の特徴である利得パラメータとを含み、該合成された音声の低周波数成分が音声パラメータに基づいて送信され、
前記素子が、
前記利得パラメータに応答して、第1の規格化係数を送信するための第1機構と、
前記音声パラメータに応答して、擬似信号を合成し、ハイパスフィルターにかけ、合成され、ハイパスフィルターにかけられた擬似信号を送信するための第2機構と、
前記第1の規格化係数と音声データに応答して、入力信号の高周波数帯域の特徴である第1の規格化係数と、当該第1の規格化係数に基づく第2の規格化係数および合成された音声の低周波数成分の特徴である音声パラメータとを含む組合せ規格化係数を送信するための第3機構と、
前記合成され、ハイパスフィルターにかけられた擬似信号と組合せ規格化係数とに応答して、活動的な音声期間中と非活動的な音声期間中に、合成され、ハイパスフィルターにかけられた擬似信号を、それぞれ第1の規格化係数と第2の規格化係数とによって規格化するための第4機構
とを備えてなる素子。
【請求項26】 活動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有する入力信号を示す符号化されたビットストリームを復号するためのデコーダであって、
合成された音声信号を送信するために、当該合成された音声信号が高周波数成分と低周波数成分とを有し、該高周波数成分が人工信号を使用して合成され、符号化と音声合成化の過程で、前記入力信号が高周波数帯域と低周波数帯域とに分割され、前記符号化されたビットストリームが該入力信号の高周波数帯域の音声の特徴であるパラメータを示す第1のデータおよび該入力信号の低周波数帯域の音声の特徴である第2のデータを含み、前記デコーダが、
処理された人工信号を送信するために、前記第2のデータに基づき前記人工信号を処理する処理手段と、
能動的な音声期間中に、第1のデータに基づき第1の規格化係数によって前記処理された人工信号を規格化し、非能動的な音声期間中に、第2のデータに基づき第2のパラメータデータにより前記処理された人工信号を規格化するための規格化手段とを備えるデコーダ。
【請求項27】 前記処理された人工信号に応答して、合成された音声信号の高周波数成分の特徴である周波数範囲でハイパスフィルタ信号を送信するためのフィルタ手段をさらに備えてなる請求26記載のデコーダ。
【請求項28】 前記合成された音声信号の低周波数成分が入力信号の符号化された低周波数帯域から再構成され、処理された擬似信号を規格化するための第2の規格化係数が合成された音声の低周波数成分から評価される請求項26記載のデコーダ。」

2.原査定の理由
原審において、平成18年3月31日付けで通知した拒絶の理由のうち、「理由A」は、本願は、平成17年11月17日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものであって、その中で次の各点を指摘している。
「(1)各請求項及び明細書の記載においては、原文において同一の用語が用いられている部分に対して、異なる訳がされており、発明を不明確なものとしている(例えば、「active speech periods」との用語は、「活動的な音声の期間」及び「能動的な音声期間」と訳されている。)。
(2)請求項に記載された「規格化係数」とは、いかなる係数であるか不明であるし、「人工信号を規格化する」、「規格化係数が評価され」るとは、いかなる処理を示すものか、技術的に不明確である。
(3)請求項において、信号、工程等に付された図面の引用数字は、符号器におけるものと復号器におけるものとの区別なく付されており、請求項の記載をより不明確なものとしている。
(4)請求項に記載された「人工信号を計量化する」とは、いかなる処理を示すものか、技術的に不明確である。
(5)請求項の記載は、必ずしもGSMを前提としたものとは理解されないことから、「快適なノイズ期間」、「音声ハングオーバ期間」等のGSMに特有の構成と本願発明との関係が不明確である。
(6)請求項11の記載は、主語を含んでおらず、日本語として不明確である。
(7)請求項25に係る発明は、「電気通信ネットワークの素子」と記載されているが、「電気通信ネットワークの素子」とは、いかなるものを指し、また、電気通信ネットワークといかなる関係にあるのか不明確である。」

また、原審における平成18年8月14日付けの拒絶査定は、この出願は上記拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶をすべきものである、というものであり、その「備考」欄には、上記拒絶の理由の「理由A」に関連して次のとおり記載されている。

「【請求項1-28について】(第36条第4項及び第36条第6項第2号)
本願発明は、平成18年7月3日付け手続補正によって補正されたものであるが、当該補正は、引用数字の削除を主たる目的とするものであって、実質的に補正されているとは認められない。
そして、先の拒絶理由通知書に記載した(理由A)に対し、出願人は、意見書において種々の主張をしているが、これらの主張は、請求の範囲の記載に基づくものではなく、(理由A)の(1、2、4、5、7)を始めとする不明確な記載が依然として散見される。
したがって、先の拒絶理由通知書に記載した(理由A)は解消していない。」

3.当審の判断
(1)本願の請求項1には、「音声期間」に関し、「活動的な音声の期間」とともに、「能動的な音声期間」及び「非能動的な音声期間」との表現が用いられているが、「能動的」あるいは「非能動的」との表現がどのような技術的概念を意味するのか不明りょうである。
この点に関し、発明の詳細な説明の記載には、例えば、以下の記載がある。(下線は当審において付した。以下、同様。)
ア 「[発明の要旨]
分散音声システムにおける合成された音声の質を高めることが本発明の主要な目的である。この目的は、たとえば、活動状態の音声期間中に合成された音声の高い方の周波数成分を合成する際に着色され、高域フィルタにかけられた擬似信号の倍率を求めるために、6.0kHzから7.0kHzの範囲内にある元の音声信号の中の高周波成分の入力信号特性を使用することによって達成できる。非活動状態の音声期間中、倍率は、合成された音声信号の低い方の周波数成分によって求めることができる。」(段落【0012】)
イ 「したがって、本発明の第1態様は、活動状態の音声期間と非活動状態の音声期間を有する入力信号をコード化、復号し、さらに高い周波数成分とさらに低い周波数成分を有する合成音声信号を提供するための音声符号化の方法であり、そこでは入力信号が、コード化および音声合成プロセスにおいてさらに高い周波数バンドおよびさらに低い周波数バンドに分割され、さらに低い周波数バンドの音声関連パラメータ特性が、合成された音声信号のさらに高い周波数成分を提供するための擬似信号を処理するために使用される。該方法は、
活動状態の音声期間中に第1倍率で処理された擬似信号を尺度化する工程と、
非活動状態の音声期間中に第2倍率で処理された擬似信号を尺度化し、そこでは第1倍率が入力信号のさらに高い周波数バンドの特性であり、第2倍率が合成された音声のさらに低い周波数成分の特性である工程と、を備える。」(段落【0013】)
ウ 「現在のGSM音声コーデックでは、非音声期間中の無線伝送は、不連続伝達(DTX)機能によって一時停止される。DTXは、さまざまなセルのあいだの干渉を削減し、通信システムの容量を高めるために役立つ。DTX機能は、入力信号100が音声を表現しているのか、あるいは雑音を表現しているのかを判断するために音声活動検出(VAD)アルゴリズムに依存し、送信機が活動状態の音声期間中にオフになるのを妨げる。VADアルゴリズムは参照番号98で示される。さらに、送信機が非活動状態音声期間中にオフにされると、接続が終わっているという印象を排除するために、「快適雑音」(CN)と呼ばれる最小量の背景雑音が受信機によって提供される。VADアルゴリズムは、非活動状態の音声期間が検出された後に、ハングオーバまたは持ち越し時間として知られる一定の期間が許されるように設計される。」(段落【0030】)
エ 「したがって、本発明に対して、活動状態の音声のあいだの倍率gscaledは、方程式4にしたがって推定できる。しかしながら、活動状態の音声から非活動状態の音声への遷移の後、この利得パラメータは、ビットレートの制限および伝送システムのために、快適雑音ビットストリーム内では伝送できない。したがって、非活動状態の音声では、倍率は、従来の技術の広帯域コーデック復号器で実施されたように、元の音声信号を使用せずに受信端で求められる。したがって、利得は非活動状態音声のあいだ、基層信号から非明示的に推定される。対照的に、明示的な利得量子化は、高周波拡張階層の信号に基づき音声期間中使用される。活動状態音声から非活動状態音声への遷移中、さまざまな規格化倍率(利得)の切り替えが、合成された信号に可聴過渡現象を引き起こす可能性がある。これらの可聴過渡現象を軽減するために、規格化倍率(利得)を変更するために利得適応モジュール16を使用することが可能である。」(段落【0031】)
これらの記載から、特許請求の範囲の請求項1に記載された「活動的な音声の期間」については、発明の詳細な説明に記載された「活動状態の音声期間」に対応すると認められるが、「能動的な音声期間」及び「非能動的な音声期間」については対応する記載がなく、発明の詳細な説明の記載を参照しても、「能動的な音声期間」及び「非能動的な音声期間」の技術的概念が明確でない。
したがって、請求項1及び同請求項を引用する請求項2ないし15の発明は明確でない。
また、請求項16には、「能動的な音声期間と非活動的な音声期間とを有する入力信号を符号化」という表現が、また、請求項26には、「能動的な音声期間」及び「非能動的な音声期間」という表現が用いられており、請求項16、26及びこれらの請求項を引用する請求項17ないし22、27、28の発明も、請求項1の発明と同様に、不明確である。

(2)請求項1には、「模擬信号」及び「前記処理された人工信号」との表現が用いられているが、発明の詳細な説明の記載を参照しても、「擬似信号」との表現は用いられているものの、「模擬信号」及び「人工信号」については記載がなく、「模擬信号」及び「人工信号」がどのような関係にあるのか不明確である。
したがって、請求項1及び同請求項を引用する請求項2ないし15の発明は明確でない。
また、請求項16には、「擬似信号」及び「人工信号」との表現が、また、請求項26には、「人工信号」との表現がそれぞれ用いられており、請求項1の発明と同様に、請求項16、26及びこれらの請求項を引用する請求項17ないし22、27、28の発明も、請求項1の発明と同様に、不明確である。

(3)特許請求の範囲の請求項1には、「能動的な音声期間中に第1の規格化係数によって前記処理された人工信号を規格化」、「非能動的な音声期間中に第1の規格化係数により前記処理された人工信号を規格化」、「前記第1の規格化係数が入力信号の高周波数帯域の特徴」及び「第2の基準化係数が入力信号の低周波数帯域の特徴」と記載されている。
上記記載について、発明の詳細な説明の記載を参照すると、例えば以下の記載がある。
オ 「ランダムノイズは、最初に、以下により規格化され、
e scaled=sqrt[{excT(n)exc(n)}/{eT(n)e(n)}]e(n) (1)
ここで、e(n)はランダムノイズを表し、exc(n)はLPC励振を示す。」(段落【0008】)
カ 「したがって、本発明の第1態様は、活動状態の音声期間と非活動状態の音声期間を有する入力信号をコード化、復号し、さらに高い周波数成分とさらに低い周波数成分を有する合成音声信号を提供するための音声符号化の方法であり、そこでは入力信号が、コード化および音声合成プロセスにおいてさらに高い周波数バンドおよびさらに低い周波数バンドに分割され、さらに低い周波数バンドの音声関連パラメータ特性が、合成された音声信号のさらに高い周波数成分を提供するための擬似信号を処理するために使用される。該方法は、
活動状態の音声期間中に第1倍率で処理された擬似信号を尺度化する工程と、
非活動状態の音声期間中に第2倍率で処理された擬似信号を尺度化し、そこでは第1倍率が入力信号のさらに高い周波数バンドの特性であり、第2倍率が合成された音声のさらに低い周波数成分の特性である工程と、を備える。」(段落【0013】。再掲)
キ 「高周波成分112と134のエネルギーは、以下にしたがって利得等化ブロック14によってハイバンド信号倍率g scaledを求めるために使用され、
gscaled=sqrt{(ShpTShp)/(ehpTehp)} (4)
ここで、Shpは6.0から7.0kHzの帯域通過フィルタにかけられた元の音声信号112であり、ehpはLPC合成(着色済み)帯域フィルタにかけられたランダムノイズ134である。参照数字114により示される倍率gscaledは、利得量子化モジュール18によって量子化され、受信端が音声信号の構築のためにランダムノイズを規格化するための規格化倍率(利得)を使用できるように、コード化されたビットストリーム内で伝送できる。」(段落【0029】)
ク 「したがって、本発明に対して、活動状態の音声のあいだの倍率gscaledは、方程式4にしたがって推定できる。しかしながら、活動状態の音声から非活動状態の音声への遷移の後、この利得パラメータは、ビットレートの制限および伝送システムのために、快適雑音ビットストリーム内では伝送できない。したがって、非活動状態の音声では、倍率は、従来の技術の広帯域コーデック復号器で実施されたように、元の音声信号を使用せずに受信端で求められる。したがって、利得は非活動状態音声のあいだ、基層信号から非明示的に推定される。対照的に、明示的な利得量子化は、高周波拡張階層の信号に基づき音声期間中使用される。活動状態音声から非活動状態音声への遷移中、さまざまな規格化倍率(利得)の切り替えが、合成された信号に可聴過渡現象を引き起こす可能性がある。これらの可聴過渡現象を軽減するために、規格化倍率(利得)を変更するために利得適応モジュール16を使用することが可能である。本発明によれば、音声活動判定(VAD)アルゴリズムのハングオーバ期間が開始すると、適応が開始する。その目的のため、VAD判定を表す信号190が利得適応モジュール16に提供される。さらに、不連続伝送(DTX)のハングオーバ期間は、利得適応にも使用される。DTXのハングオーバ期間後、元の音声信号なしで求められる利得が利用できる。利得を調整するための全体的な利得適応は、以下の方程式にしたがって実施でき、
gtotal=αgscaled+(1.0-α)fest (5)
この場合、festは方程式3で決定され、符号115によって示され、αは以下によって指定される適応パラメータである。
a=(DTXhangover count)/7 (6)
したがって、活動状態の音声中、DTXハングオーバカウントは7に等しいため、αは1.0に等しい。活動状態の音声から非活動状態の音声への過渡現象中、DTXハングオーバカウントは7から0に低下する。したがって、該過渡現象中、0<α<1.0である。音声の非活動状態のあいだ、または第1快適雑音パラメータの受信後、α=0である。」(段落【0031】)
ケ 「図3に図示されたように、利得適応がエンコーダ内ですでに実施されている場合には、デコーダ内の関連する利得適応機能は、逆量子化された利得144(α=1.0およびα=0.5の場合のgtotal)を、VAD決定信号190を必要とせずに、快適雑音期間の始まりの時点で推定された規格化利得fest(α=0)に切り替えることである。しかしながら、利得適応が、非音声信号の始まりを示す信号190内で提供されるVADフラグの後のDTXハングオーバ期間中にデコーダ内だけで実施される場合には、利得適応ブロック40は方程式5による規格化利得gtotalを求める。このようにして、不連続伝送の始まりで、利得適応ブロック40は、それが利得パラメータ118を受信しないときに、参照番号145によって示されるように、推定される規格化利得festを使用して過渡現象を取り除く。したがって、利得適応モジュール40によって提供されるような規格化利得146は、方程式5にしたがって求められる。」(段落【0037】)
しかしながら、上記発明の詳細な説明の記載には、「規格化」の用語は用いられているが、「規格化係数」及び「基準化」あるいは「基準化係数」の記載はない。また、上記発明の詳細な説明の記載には、「規格化」あるいは「規格化係数」とともに、「利得パラメータ」、「倍率」、「利得」、「規格化利得」、「規格化倍率(利得)」、「利得適応」、「尺度化」等の類似する様々な表現が用いられており、各用語相互の関連又は同一性が不明りょうである。
したがって、「規格化」、「規格化係数」、「基準化」あるいは「基準化係数」の用語の概念は明確でない。
更に、前記のとおり「規格化」、「基準化」等の用語の概念が明確でないことから、「能動的な音声期間中に第1の規格化係数によって前記処理された人工信号を規格化」、「非能動的な音声期間中に第1の規格化係数により前記処理された人工信号を規格化」、「前記第1の規格化係数が入力信号の高周波数帯域の特徴」及び「第2の基準化係数が入力信号の低周波数帯域の特徴」との記載の意味も明確でない。
よって、請求項1及び同請求項を引用する請求項2ないし15の発明は明確でない。
また、同様に、「規格化」、「基準化」等の用語が用いられている請求項16ないし28の発明も明確でない。

この点に関し、請求人は、平成18年3月31日付けの拒絶の理由に対する同年7月3日付けの意見書において、「(3)理由Aについて」として、次のように主張している。
「「規格化」とは、低周波数帯域の音声パラメータによって着色された人工雑音である処理された人工信号によって実行されることを意味しておるのであります。
しかしながら、審査官殿は「規格化する」および「規格化係数」の意味が不明確であると述べておられます。
規格化するとは乗じることであり、規格化係数とは「適応利得」のことであります。
前述の式(5)「gtotal=αgscaled+(1.0-α)fest」によって計算された適応利得は、活動的な音声期間中では規格化されたgに等しく、非活動的な音声期間中ではfestに等しい(段落番号[0031]参照)のであります。
したがって、本願の請求項中に記載されたこれらの用語の意味は明確であると思料いたします。」
しかしながら、「規格化係数」が「適応利得」(発明の詳細な説明には、「利得適応」の用語は用いられているが、「適応利得」の用語は用いられていないため、「利得適応」のことと解釈した。)に相当することは、発明の詳細な説明には明示されておらず、また、発明の詳細な説明には、「規格化係数」とともに、「利得パラメータ」、「倍率」、「利得」、「規格化利得」、「規格化倍率(利得)」、「利得適応」、「尺度化」等、類似する様々な表現が用いられており、「規格化係数」が一義的に「適応利得」に相当すると理解することはできない。また、技術常識から「規格化」あるいは「規格化係数」の意味を解釈しても、「規格化係数」が「適応利得」に相当すると解することはできない。
したがって、上記主張によっても、「規格化」あるいは「規格化係数」の用語の概念が明確であるとはいえない。

(4)上記(1)ないし(3)において指摘した事項の他、請求項1に記載された「入力信号を実行」における「実行」の意味、「第1の規格化係数が・・・の特徴」及び「第2の規格化係数が・・・の特徴」との表現における「特徴」の意味、「能動的な音声期間中に第1の規格化係数によって前記処理」と「非能動的な音声期間中に第1の規格化係数により前記処理」といずれも「第1の規格化係数」によって処理している点も不明りょうである。
また、請求項6に記載された「人工信号を計量化」、請求項4ないし7、13、17、27に記載された「評価」の技術的意味も不明りょうである。
更に、請求項25における「電気通信ネットワークの素子」との記載では、「電気通信ネットワーク」と「素子」との関係が不明である。

(5) 以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし28の発明は明確であるとはいえず、特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない。

なお、原審において、前掲「2.」のとおり、平成18年3月31日付けの拒絶の理由において、本願に係る外国語でなされた国際特許出願の明細書において同一の用語が用いられている部分に対して異なる翻訳がされている点等を具体例をあげて指摘し、更に、平成18年8月14日付けの拒絶査定の備考欄においても、前記拒絶の理由は依然として解消されていない旨指摘しており、拒絶理由通知後に加え、審判請求時にも反論又は補正の機会があったにもかかわらず、請求人からは、前掲「2.(2)」及び「2.(5)」の指摘事項について、平成18年7月3日付けの意見書又は平成19年2月13日付けの審判請求理由についての手続補正書(方式)において反論がなされるとともに、平成18年7月3日付けの手続補正書により前掲「2.(3)」及び「2.(6)」の指摘事項に対応した補正がなされたものの、これら以外の指摘事項については、適切な補正がなされなかった。
特許法第36条第6項2号に規定する要件については、本来、拒絶の理由を正しく理解し、適切な補正を行えば、解消される可能性があるものであるが、本件については、上記のとおり、2回の補正の機会があったにもかかわらず、請求人は適切な対応を行う努力を怠ったものであり、この上更なる補正の機会を与えることは、他の特許出願の審査・審判との関係において、著しく公平性を欠くと言わざるを得ない。
よって、上記のとおり判断した。

4.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていないので、その余の拒絶の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-26 
結審通知日 2008-07-01 
審決日 2008-07-14 
出願番号 特願2002-537004(P2002-537004)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 剛史間宮 嘉誉  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 井上 健一
板橋 通孝
発明の名称 広帯域音声コーデック復号器における高周波拡張階層符号化  
代理人 朝日奈 宗太  

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