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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1205792
審判番号 無効2008-800126  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-07-04 
確定日 2009-10-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第2963869号発明「真空浸炭方法および装置ならびに浸炭処理製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2963869号についての手続の概要は、以下のとおりである。
平成 7年 3月29日 国内優先出願(特願平7-72043号)
平成 8年 3月25日 特許出願
平成11年 1月12日 拒絶理由通知
平成11年 3月 5日 意見書・手続補正書
平成11年 7月27日 特許査定
平成12年 4月19日 異議申立
平成13年 1月12日 取消理由通知
平成13年 6月15日 異議決定
平成20年 7月 4日 無効審判請求
平成20年10月 8日 答弁書
平成20年11月18日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成20年12月 3日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成20年12月 3日 口頭審理
平成20年12月15日 上申書(請求人)

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4の記載は次のとおりである。
「【請求項1】鋼材よりなるワークを、真空浸炭炉の加熱室内で真空加熱するとともに、該加熱室内に浸炭用ガスを供給して浸炭処理を行なう真空浸炭方法であって、前記浸炭用ガスとしてアセチレン系ガスを使用するとともに、前記加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を行なうことを特徴とする真空浸炭方法。
【請求項2】前記アセチレン系ガスがアセチレンガスよりなることを特徴とする請求項1記載の真空浸炭方法。
【請求項3】前記浸炭用ガスにガス状の窒素源を添加して浸炭処理を行なうことを特徴とする請求項1または2記載の真空浸炭方法。
【請求項4】鋼材よりなるワークを加熱する加熱室を備えた真空浸炭炉と、前記加熱室内にアセチレン系ガスを供給する浸炭用ガス源と、前記加熱室内を真空排気する真空排気源とを備え、1kPa以下の真空状態で真空浸炭を行なうことを特徴とする真空浸炭装置。」

第3 請求人が主張する無効理由
請求人は、「特許第2963869号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、無効理由として以下の2つを挙げている。
1 無効理由1
本件特許の請求項1及び4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。」という効果を得られない場合があるから、請求項1及び4に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法36条6項1号に規定する条件を満たしていない。
また、請求項2及び3は、請求項1の従属項であり、請求項1の構成要素の全てを具備している。したがって、請求項2及び3も特許法36条6項1号の規定を満たしていない。
2 無効理由2
本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が、請求項1及び4に記載された発明を、実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されていないため、特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項2及び3は請求項1の従属項であり、請求項1の構成要素を全て具備している。したがって、請求項2及び3も、特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。
よって、これらの理由により、本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、特許法123条1項4号の規定により、無効とされるべきである。

第4 請求人の主張の要点
1 無効理由1(特許法36条6項1号違反)について
本件明細書の記載によれば、従来の真空浸炭方法は、「煤の発生が多く、メンテナンス作業が繁雑で汚い」「炉の加熱室内へのワークの挿入量を減らしてガス量を増さないと均一浸炭が困難である」「ワークの小径の深い孔や狭い隙間への浸炭が不充分である」「設備費が高く、特殊用途への使用に限定される」「ガス浸炭に比べて生産性が低く、処理コストが高い」等の問題点を抱えていたこと、さらに、積載ワークの間隔が不十分であったり、ワークに小径の深い孔や狭い隙間がある場合には、ワーク全体に亘って均一に浸炭しようとしても、孔の深い内部や狭い隙間は勿論、隣接ワークが近すぎる場合においては充分な浸炭深さが得られず、浸炭深さのバラツキが避けられないという問題があったことが認められる。
本件発明の課題は、これらの問題を解決しようとするものであって、その効果は、【発明が解決しようとする課題】欄及び【発明の効果】欄の記載、特に段落【0037】の記載から、下記A?Cの3つである。
A:煤の発生を抑える。
B:深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。
C:使用するガス量や熱量を削減する。
これらの効果については、効果B「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。」が、【発明の効果】欄の最初(段落【0030】【0031】)に記載されていると認められる。また、効果A「煤の発生を抑える。」が、段落【0033】【0034】に記載されていると認められ、その冒頭の接続詞は「また」である。更に、効果C「使用するガス量や熱量を節減する。」が、段落【0035】【0036】に記載されていると認められ、その冒頭の接続詞は「さらに」である。
上記接続詞の「また」は並列(対等の関係にあることを示す)の用途に用いられる接続詞であり、同「さらに」は添加(別の物事を付け加える)の用途に用いられる接続詞である。これらの接続詞には、複数の中からいずれかを選ぶという選択的機能は存在しない。従って、段落【0030】?【0036】に記載されている本件発明の効果A?Cは、同時に得られるものである。
なお、効果Bは、【発明の効果】欄の最初に記載されており、本件発明の最重要不可欠な効果であると認められる。
一方、本件明細書に添付された図4は、本件発明による真空浸炭方法を実施した場合の炉内圧力に対する浸炭深さの関係および煤発生状況を示すグラフである。この図4及び段落【0059】?【0061】の記載から、炉内圧力と浸炭深さの関係について、下記のことが理解できる。
a:炉内圧力約0.08kPa以下の場合:良(内外均一)
b:炉内圧力約0.08kPa?約0.3kPaの場合:やや良
c:炉内圧力約0.3kPa以上の場合:不良(内外不均一)
即ち、炉内圧力約0.3kPa以上の場合は、上記発明の効果B(深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。)が得られないことを、図4は明確に示している。また、段落【0060】に記載の説明も同様である。
なお、本件発明の明細書及び図面には、炉内圧力約0.3kPa以上の場合(1kPa以下の全ての場合)において、発明の効果Bが得られることは全く開示されておらず、また、その示唆もない。
ところが、請求項1及び4に記載された発明の構成要素である、加熱室内の圧力(炉内圧力)は「1kPa以下」である。故に、請求項1及び4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の効果Bを得られない場合がある(炉内圧力0.3kPa?1kPaの場合)。
従って、請求項1及び4に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項2及び3は、請求項1の従属項であり、請求項1の構成要素の全てを具備している。従って、請求項2及び3も、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

知財高裁(大合議)平成17年11月11日判決平成17年(行ケ)第10042号判決は、明細書のサポート要件について、
「...特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。...」及び「...そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、...」と判示する。
請求人は、本件発明の請求項1は、ワークについて、単に「鋼材よりなるワーク」と記載されているのみであり、「鋼材」であること以外にワークを限定的に解釈できる記載が一切無いことを根拠とし、請求項1に記載された「鋼材よりなるワーク」は、「深い凹部を有する」ことが必須ではないと考える。
ただし、請求項1に記載された発明は、深い凹部を有するワークに対しては、その効果が得られない(本件発明の課題を解決できない)場合がある。請求人は、このことにより、請求項1に記載された発明が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないことを主張するものである。
即ち、上述したとおり、「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。」は、本件発明の重要な効果の一つである。ところが、明細書の【発明の実施の形態】の欄の【0059】?【0061】及び図4に記載されている実施例においては、真空浸炭炉の加熱室内が約0,3?1kPaの場合において、この発明の効果が得られることを否定している。かつ、段落【0047】?【0055】及び図2,3に記載された他の実施例及び段落【0062】?【0063】及び図5に記載されたやはり他の実施例は、炉内圧力が0.1kPa以下或いは0.02kPa以下の場合に、「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。」効果が得られたことを開示しているが、これらの炉内圧力以上において、この効果が得られることを開示あるいは示唆するものではない。また、その他の発明の詳細な説明の全体(図面も含む)を通して、真空浸炭炉の加圧室内が約0.3?1kPaの場合において、「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する。」という効果が得られることを示唆する記載も一切ないし、かつ、当業者が出願時の技術常識に照らしてもこの効果が得られる(課題が解決できる)と認識できるものでもない。
従って、請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できる(本件発明の効果が得られる)と全く認識できず、特許請求の範囲(請求項1?4)に記載された発明は、上記判決が判示するとおり、明細書のサポート要件を満たしていない。

なお、被請求人は平成20年10月8日付答弁書において、ワークが深い凹部を有さない、あるいは浅い凹部の場合には、「ワークの各部を均一に浸炭する」という効果が炉内圧力1kPa以下で得られることは、明細書中に記載されている旨主張している。
しかし、被請求人がワークが深い凹部を有しない場合に得られると主張するこの効果も、明細書中でサポートされていない。
被請求人は、この効果について、図4の折線Bを拠り所として主張をしているが、失当である。即ち、図4の折線Bは、この図中に描かれているワーク表面の一点(B点)について、炉内圧力に対する浸炭深さを示すものであり、この折線Bをもってワーク表面全体が均一の浸炭深さになっていることを示すものではない。従って、被請求人が主張するこの効果に対しても、請求項1?4に記載された発明は、明細書のサポート要件を満たしていない。

2 無効理由2について
上記1に記載したとおり、図4に開示されている実施例は、炉内圧力1kPa以下の全圧力範囲において、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭するという本件発明の効果Bが得られないことを示している。
なお、図5に開示されている他の実施例は、本件発明の効果Bが得られている。ただし、その炉内圧力の値は、1kPaよりもかなり低い0.02kPaである。従って、この実施例も、炉内圧力1kPa以下の全圧力範囲において、効果Bが得られることを示すものではない。
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明および図面に説明開示されている実施例は、炉内圧力1kPa以下の全圧力範囲において、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭するという本件発明の効果Bが得られるものではない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の全体を通し、炉内圧力1kPa以下の全範囲において、この効果Bを得るための条件等の開示がないし、その示唆すらない。
従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が、請求項1及び4に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されていないため、特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項2及び3は請求項1の従属項であり、請求項1の構成要素を全て具備している。従って、請求項2及び3も、特許法36条4項に規定する要件を満たしていない。

第5 被請求人の反論の要点
本件特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているし、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が請求項1乃至4に記載された発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから、特許法36条4項に規定する要件を満たしており、請求人の主張は理由のないものである。

1 無効理由1(特許法36条6項1号違反)について
請求人は、本件特許発明の明細書又は図面には、炉内圧力が1kPa以下の全ての場合において、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭することができるという効果が示されておらず、本件特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された上記効果を得られない場合があるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず、また本件特許請求の範囲の請求項2および3は請求項1の従属項であるから、同様に同項同号に規定する要件を満たしていないと主張するが、以下に述べる理由により理のないものである。
請求人は、本件特許明細書の図4は、炉内圧力約0.3kPa以上の場合には、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭することができるという効果が得られていないと主張しているが、これは明細書の段落【0059】に記載されているように、特定の内径、深さ、外径及び長さのサンプルに対して、特定の温度、保持時間、浸炭時間、拡散時間を所定の時間とした場合における浸炭処理結果を示したものである。
実際に浸炭を行う場合には、深い凹部を有するワークのみならず、浅い凹部を有するワークや凹部を有さないワークに対して浸炭を行う場合もある。本件明細書の従来技術に関する段落【0015】には、従来のメタン系ガスを浸炭用ガスとして使用する真空浸炭では、積載ワークの間隔が不充分であったり、ワークに小径の深い孔や狭い隙間がある場合には、ワーク全体に亘って均一に浸炭しようとしても、孔の深い凹部や狭い隙間は勿論、隣接ワークが近すぎる場合においては充分な浸炭深さが得られず、浸炭深さのバラツキが避けられなかったことが記載されている。つまり、請求項1乃至4に記載された発明はこれら種々のワークに対して浸炭処理を行う方法であって、深い凹部を有するワークに浸炭を施す場合について限定したものではない。
請求項1乃至4に記載された発明の技術的思想は浸炭用ガスとしてアセチレン系ガスを使用するとともに、加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を行うことを中核とするものである。そして、請求項1乃至4に記載された発明においては、ワークについて何も規定されていない。請求人の主張は、請求項1乃至4に記載された発明の構成を、ワークについて付加的な限定解釈することを前提とした独自の見解であって、到底採用されるべきものではない。
この点、本件異議申立(異議2000-71554)において、異議申立人は、請求人と同旨の主張をしたが、審判合議体は、「本件発明1および4(請求項1および4に係る発明を指す)は、(中略)本件明細書の発明の詳細な説明中、特に段落【0019】(問題を解決するための手段)以下の記載において具体的に説明されており、なおかつ、本件発明1及び4について、特定の内径、深さ、外径及び長さのサンプルに対して、特定の温度、保持時間、浸炭時間、拡散時間の場合のものに限定して解釈すべき特段の根拠も見当たらない。従って、特許異議申立人の上記主張は採用できない。」と判断した。
すなわち、本件明細書に記載されている「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って均一に浸炭する」という効果は、ワーク(処理部材)が深い凹部を有する場合には、その内壁面を含めて均一に浸炭するが、深い凹部を有さない、あるいは浅い凹部の場合には部材表面を均一に浸炭することができるという効果を奏するものであるということができる。
このように考えると、「ワークの各部を均一に浸炭する」という効果が1kPa以下で得られることは、明細書中に記載されているといえる。
具体的には、段落【0033】、【0034】及び【0060】の記載から、1kPa以下の場合にほぼ一定の浸炭深さが得られることは明細書に明確に記載されている。(なお、図4には浸炭状況として、「良(内外均一)」「やや良」と記載されているが、これは閉端孔とワーク表面との内外の浸炭状況の均一性を示すものであり、ワーク表面についての浸炭は、【0059】に記載されているように、図4の折線Bによって示されている。)
そして、【0059】に記載されているような特に深い凹部を有するワークの場合には、0.3kPa以下にすることが望ましいことがさらに記載されており(【0060】等)、また、段落【0034】には、炉内の分解後の分解生成ガスを減らす、すなわち、炉内圧力を下げることで一層浸炭用ガス分子の平均自由行程が伸びそれがワークの各部の均一浸炭が達成され易くなることが説明されていることになるから、このようなより低い圧力条件においては、深い凹部を有するワークであっても内外均一性が達成され易くなることも、本件特許の明細書に理論的な根拠をもって示されている。
従って、請求項1乃至4に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は失当である。

請求人が引用する、知財高裁(大合議)平成17年11月11日判決平成17年(行ケ)第10042号事件と本件発明は事案が全く相違する。この事案の特許は、特性値を示す二つの技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであって、当該特許明細書には、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載されていなかったものである。
これに対して、本件明細書においては、特定のワーク(図3及び図4に示すワーク)について、請求項に記載されている1kPa以下で均一浸炭ができることが示されているとともに、炉内の分解後の分解生成ガスを減らす、すなわち、炉内圧力を下げることで一層浸炭用ガス分子の平均自由行程が伸び、それがワークの各部の均一浸炭に貢献できることが理論的に記載されている。この記載からすれば、さらに深い凹部を有するワークについては、炉内圧力をさらに低くすることによって、ワークの各部の均一浸炭が達成され易くなることが理解できるものである。
つまり、本件明細書においては、請求項記載の発明と具体的な開示との間に、請求項に記載されている数値の技術的意義が当業者に理解できる程度に記載されているということができるものである。

2 無効理由2(特許法36条4項違反)について
請求人は、本件明細書の図4は、炉内圧力約0.3kPa以上の場合には深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭することができるという効果が得られていないことを示していると主張し、同図4の折線Bについてはワーク表面の一点(B点)についての浸炭深さを示すものであり、この折線をもってワーク表面全体が均一の浸炭深さになっていることを示すものではないと主張し、また、図5に開示されている他の実施例では上記の効果が得られているが、これは1kPaよりも低い0.02kPaの場合を示すものであり、これも炉内圧力1kPa以下の全範囲において、上記効果が得られることを示すものではないと主張し、発明の詳細な説明の全体を通して、炉内圧力1kPa以下の全範囲において上記効果が得られるための条件等の開示がないし、その示唆もない旨、主張している。
しかし、上記「1 無効理由1(特許法36条6項1号違反)について」で述べたとおり、請求項1乃至4に記載された発明は鋼材よりなる種々のワークに対して浸炭処理を行う方法であって、深い凹部を有するワークに浸炭を施す場合について限定したものではない。
また、「ワークの各部を均一に浸炭する」という効果が1kPa以下で得られることは、上述のとおり、本件特許の明細書の段落【0033】、【0034】に理論的な根拠とともに記載されている。
また、段落【0059】には、折線Bはワークサンプル表面における浸炭深さの変化を表すものであると明確に記載されており、ワーク表面の一点(B点)についての浸炭深さを示すものではない。
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が請求項1乃至4に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから、これが特許法36条4項に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は失当である。

第6 当審の判断
1 無効理由1(特許法36条6項1号違反)について
請求人は、提出した無効審判請求書及び口頭審理陳述要領書によれば、本件特許発明の請求項1及び4に記載された「鋼材よりなるワーク」は「深い凹部を有する」ことが必須ではないとしている。
一方、被請求人も、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないと規定する特許法70条1項を挙げて、「鋼材よりなるワーク」が「深い凹部を有する」ことは必須ではないとしている。
すなわち、当事者双方は、請求項1及び4に記載された「鋼材よりなるワーク」には、深い凹部を有するものの他、浅い凹部を有するワーク、或いは凹部を有さないワーク等の様々な形態の鋼材よりなるワークが含まれるとしているのである。
上記のような解釈の下で、請求人は、0.3kPa以上、1kPa以下の範囲においては、本件発明の効果B、すなわち「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する」なる効果が得られない場合があるから、本件特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された発明は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないと主張しているので、以下、考察する。

発明が解決しようとする課題、発明の効果Bに関して、本件明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】...従来の浸炭方法によれば、...依然として下記のような問題点を抱えている。
【0009】すなわち、
1.煤の発生が多く、メンテナンス作業が繁雑で汚い、...
3.ワークの小径の深い孔や狭い隙間への浸炭が不充分である、....」(特許第2963869号公報の4欄1?10行)
(イ)「【0015】また、従来の...真空浸炭では、積載ワークの間隔が不充分であったり、ワークに小径の深い孔や狭い隙間がある場合には、ワーク全体に亘って均一に浸炭しようとしても、孔の深い内部や狭い隙間ハ(審決注;「隙間は」の誤記である。)勿論、隣接ワークが近すぎる場合においては充分な浸炭深さが得られず、...例えば、...ワークに内径4mmで深さ28mmの孔があけられている場合、ワーク外周面での有効浸炭深さが0.51mm程度であるのに対し、孔の底部の有効浸炭深さは0.30mm程度となっていた。」(同4欄43?5欄4行)
(ウ)「【0018】本発明は、...深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭することができるとともに、使用するガス量や熱量も少なくて済む真空浸炭方法...を提供することを目的とする。」(同5欄17?22行)
(エ)「【0032】そして、この浸炭の均一性は炉内圧力を低くするほど顕著になる。ちなみに、内径をDとする閉端孔を備えたワークに対して浸炭処理を行なって、この閉端孔の開口端から深さLの範囲に亘って形成されたとするとき、炉内圧力を0.02kPaとして浸炭処理を行なった場合、上記深さLの値が、L/D比で36にまで達した。さらに炉内圧力を低くすれば、全浸炭深さのほぼ等しい領域の深さLの値を、L/D比で50程度にまですることができる。」(同7欄10?19行)
(オ)「【0037】...本発明による浸炭方法では、...従来の真空浸炭方法に比べて、煤の発生を抑えて、深い凹部の内壁面をも含めてワークの各部を均一に浸炭でき、...」(同8欄10?15行)
(カ)「【0042】【発明の実施の形態】...【0049】第2工程 加熱室2を真空排気源Vによって0.05kPaまで真空排気しながら、第1ワークM1を所定温度(900℃)まで真空加熱し、その後、浸炭ガス源Cからアセチレンガスを加熱室2内に供給して(このとき、加熱室2内は0.1kPaとなる)、浸炭処理を行なう。...【0054】このように浸炭処理が施されるワークの一例として、図3に断面図で示すような、外径寸法を20mm長さを30mmとして、内径6mm、深さ28mmの閉端孔11と、内径4mm、深さ28mmの閉端孔12とを備えたワークサンプル10を、幅400mm、長さ600mm、高さ50mmの治具に300個並置し、...処理した場合、各ワークの有効浸炭深さt_(0)は0.51mm前後であったのに対し、小径の閉端孔12の底部の有効浸炭深さt_(2)は0.49mm前後であった。」(同8欄45行?10欄23行)
(キ)「【0055】...また、上記ワークサンプル10に対し、長さをほぼ2倍にしたサンプルに、内径4mm、深さ50mmの閉端孔を設け、同様に浸炭処理しても、外周面での有効浸炭深さと孔底部の有効浸炭深さとの差を0.03mm前後の範囲に抑えることができ、...」(同10欄27?33行)
(ク)「【0058】そして、加熱室内を低圧にすればする程、本発明の方法の効果を増大させることができ、...望ましくは、加熱室内を0.3kPa以下、さらに望ましくは0.1kPa以下に減圧して、浸炭処理を行なうことが好ましい。」(同11欄5?11行)
(ケ)「【0059】図4は、内径6mm、深さ27mmの閉端孔を備えた外径20mm、長さ30mmのサンプル(SCM415)に対して...浸炭処理を施した場合の炉内圧力に対する浸炭深さの関係および煤発生状況を示すグラフである。...折線Bはワークサンプルの表面における浸炭深さの変化をそれぞれ表すグラフである。」(同11欄12?21行)
(コ)「【0060】図4から明らかなように、サンプルの表面に関しては、炉内圧力が1kPa以下のときは、ほぼ一定の浸炭深さが得られる。しかしながら、閉端孔の内外を均一に浸炭するためには、炉内圧力を0.3kPa以下にすることが望ましい。」(同11欄22?26行)
(サ)「【0062】図5は、内径3.4mm、深さ175mmの閉端孔を備えた外径20mm、長さ182mmの寸法を有するサンプル(SCM415)に本発明の浸炭方法を実施して浸炭層を形成した状態を示す断面図と、浸炭の均一性を表すグラフである。この場合、炉内温度930℃、炉内圧力0.02kPa、...
【0063】図5から明らかなように、閉端孔の内壁面における全浸炭深さがほぼ等しい(2.1mm)領域が閉端孔の入口から122mmの深さに達し、深さ156mmの位置で浸炭深さがゼロになった。...このように、炉内圧力が低くなるに伴って、浸炭の均一性も増大している。...」(同11欄29行?12欄10行)
(シ)図4:「本発明による真空浸炭方法を実施した場合の炉内圧力に対する浸炭深さの関係を示すグラフ」であって、外径20mm、長さ30mmの円柱の一端面から内径6mm、深さ27mmの閉端孔が形成されたワークの断面図が併記され、円柱外周面の1点から引出線が描かれ、その先にBと記載されている。
(ス)図5:「本発明による真空浸炭方法を実施したサンプルにおける全浸炭層を示す断面図と浸炭深さの均一性を示すグラフ」であって、外径20mm、長さ182mmの円柱の一端面から内径3.4mm、深さ175mmの閉端孔が形成されたサンプルの断面図が描かれている。

以上の摘記部分を俯瞰してみると、(ア)では、「小径の深い孔」と「狭い隙間」を並列に論じて、これらが存在するワークについて、従来の浸炭方法では均一な浸炭深さが得られなかったことを述べ、(イ)においては、加えて「隣接ワーク」が近すぎる場合にも同様の問題があったことを述べている。すなわち、(ア)及び(イ)では、「小径の深い孔」や「狭い隙間」があるワーク、また、複数個のワークを炉内で同時に浸炭処理するに際しては、それらの間隔が小さすぎて結果的に「狭い隙間」を構成するような場合においては、従来の浸炭方法では均一な浸炭深さが得られなかったことを述べているものといえる。
また、(ウ)及び(オ)においては、「深い凹部の内面を(も)含めて均一に浸炭」させることが、本発明の目的及び効果であることを述べている。
さらに、(エ)、(カ)、(キ)、(ケ)及び(サ)では、内径や深さの異なる孔を有する種々の形態のワークについて、炉内圧力を0.02kPa及び0.1kPaで浸炭処理した例が記載されている。
そして、(エ)、(ク)及び(サ)には、加熱室内(炉内)圧力が低い程、本件発明の効果が増大し、浸炭深さの均一性が得られることが明記あるいは示唆されている上、(コ)には、「サンプルの表面に関しては、炉内圧力が1kPa以下のときは、ほぼ一定の浸炭深さが得られる」旨、明記されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、ワークの外表面については、均一な浸炭深さが得られることは勿論、さらに、深い凹部の内壁面が存在するような、例えば閉端孔を有するワークについても、外表面と内壁面とも、均一に浸炭処理するためには、炉内圧力をより低くして浸炭を行なうことが必要であることを、一貫して述べているものと認められる。
このことを踏まえて、請求項1をみると、同項には、深い凹部の内壁面の無いワーク(例えば、外周面しかないワークなど)や浅い凹部のあるワーク、あるいは深い凹部の内壁面のあるワークなど、様々な形態が想定される「鋼材からなるワーク」を「加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を行なう」旨規定されているのであって、「深い凹部の内壁面を有する鋼材からなるワーク」を「加熱室内を1kPaの真空状態として浸炭処理を行なう」旨、規定されたものではないし、ましてや、「深い凹部の内壁面を有するワーク」を「加熱室内を0.3?1kPa以下の範囲の真空状態で浸炭処理を行なう」旨規定されたものでもない。
以上によれば、請求項1に係る発明は、様々な形態の「鋼材からなるワーク」に対して、「加熱室内を1kPa以下」の「真空状態として浸炭処理を行なう」ことで、「煤の発生を抑える」(請求人が主張する「効果A」)、「使用するガス量や熱量を削減する」(請求人が主張する「効果C」)、及び、少なくともワークの外表面を均一に浸炭するという効果を、いずれも奏するものといえる。
しかしながら、請求人が「効果B」として主張する、「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する」ことについては、上述したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、外表面と内壁面とも均一に浸炭処理するためには、炉内圧力をより低くして浸炭を行なうことが必要であり、より低い圧力とすることにより均一性が増大し、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭するという効果を奏し得るものであって、請求人が「効果B」として主張するような、加熱室内の「1kPa以下」の全ての圧力下で、深い凹部の内壁面を含めて均一に浸炭するという効果を奏するとは解されない。

請求人は、知財高裁(大合議)平成17年11月11日判決平成17年(行ケ)第10042号を引用して、
「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない」とし、「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである」との判示事項を引用して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【発明の実施の形態】の欄に記載されている実施例は、真空浸炭炉の加熱室内が約0.3?1kPaの場合において、本件発明の重要な効果の一つである「深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭する」という効果が得られることを否定しているから、請求項1に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本発明の課題を解決できると全く認識できず、特許請求の範囲(請求項1?4)に記載された発明は、明細書のサポート要件を満たしていない旨、主張している。

上記引用事項に照らすならば、本件特許の請求項1に記載された発明は、「鋼材からなるワークを加熱室内を1kPa以下の真空状態として浸炭処理を行なう」ものであるが、発明の詳細な説明の記載によれば、深い凹部の内壁面を有さないワークなどについては、1kPa以下の圧力で、かつ1kPa近傍の圧力下で均一な浸炭処理が達成され、また、上述したように、「加熱室内を1kPa以下」のより低い適切な圧力とした場合に、該圧力に応じた均一度で、深い凹部の内壁面を含めてワーク全体に亘って各部を均一に浸炭するという効果を奏し得るものであって、請求人が「効果B」として主張するような、加熱室内の「1kPa以下」の全ての圧力下で、深い凹部の内壁面を含めて均一に浸炭するという効果を奏するとは解されない。そして、該効果を奏し得る実施例として記載されている、図3に示されたような内径6mmと4mm、深さ28mmの閉端孔を有するサンプルについては、0.05kPaで浸炭処理することで、ワークの有効浸炭深さ0.51mm前後であったのに対し、小径の閉端孔の底部の有効浸炭深さは0.49mm前後が得られ、また、内径4mm、深さ50mmの閉端孔を有するサンプルについても、外周面と孔底部の有効浸炭深さとの差を0.03mm前後の範囲内に抑えることができるものである。
また、図4に示されたような、内径6mm、深さ27mmのサンプルについては、閉端孔の内外を均一に浸炭するには、炉内圧力が0.3kPa以下にすることが望ましいこと、さらには、図5に示す内径3.4mm、深さ175mmのサンプルについては、0.02kPaで浸炭処理することにより、閉端孔の内壁面における全浸炭深さがほぼ等しい(2.1mm)領域が閉端孔の入口から122mmの深さに達したことが記載されている。
要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、様々な形態を有する鋼材よりなるワークについて、その形態に応じて、1kPa以下の適切な炉内圧力とすることにより、ワーク表面全体、すなわち、ワークが深い凹部の内壁面を有する場合には、その内壁面も含めた全体にわたって、均一な浸炭処理を行うことができることが、多くの実施例をもって明確に記載されているのであるから、明細書のサポート要件を満たしている。

したがって、本件特許の請求項1乃至4に記載された発明が特許法36条6項1号に違反してされたものであるとすることはできない。
また、請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明も、同様に、特許法36条6項1号に違反するものではない。

2 無効理由2(特許法36条4項違反)について
本件発明における「鋼材よりなるワーク」には、「深い凹部の内壁面を有する」などの限定条件を付すことなく解釈すべきであるという点で、当事者双方に争いはなく、鋼材よりなるワークの形状・形態としてはあらゆるものが考えられることになる。
それらの内、「深い凹部の内壁面」や「狭い隙間」を有するものについては、無効理由1についての項で示した摘記事項(コ)に記載されるように、「炉内圧力を0.3kPa以下にすることが望ましい」ことを明言している。
したがって、本件特許は、「鋼材よりなるワーク」の内、閉端孔の内面のような、深い凹部の内壁面をも、外表面とともに均一に浸炭しようとする場合には、0.3kPa以下の炉内圧力を推奨しているのであって、0.3?1kPaの炉内圧力で深い凹部の内壁面を含めて均一に浸炭することは、本件発明の望ましい態様ではないことが明らかである(但し、ワークに存在する凹部が深くなかったために、0.3?1kPaの炉内圧力範囲で本件発明方法による内外壁面の均一な浸炭が実現する可能性はある)。
そもそも、本件明細書の記載に基づいて、深い凹部の内壁面を有するワークについては、0.3kPa以下まで真空状態を高める必要があり、0.3?1kPaでは、深い凹部の内壁面まで均一に浸炭することができないと、請求人が理解できたことこそが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を満たしていることの証左の一つであるともいうことができる。
すなわち、当業者が本件発明を実施するに際しては、発明の詳細な説明や図4及び図5等に記載された種々の内径と深さを有するサンプルを用いた実施例から得られた結果を、自身が浸炭しようとするワークの形態に当てはめて、所望する浸炭結果が得られ、かつ、煤の発生を抑え、さらに、使用するガス量や熱量を節減できるような炉内圧力やその他の浸炭条件を想到することができるのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1乃至4に記載された発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているものであり、特許法36条4項に規定する要件を満たしていないという請求人の主張は失当である。

さらに請求人は、図4に記載された折線Bは、同図中のサンプルの1点B点について、炉内圧力に対する浸炭深さを示すものであり、この折線Bをもってワーク表面全体が均一の浸炭深さになっていることを示すものではないから、被請求人が、ワークが深い凹部を有しない場合に得られると主張する「ワークの各部を均一に浸炭する」という効果さえも、明細書中でサポートされていない旨、主張している。
しかしながら、本件明細書の【0059】には、「折線Bはワークサンプル表面における浸炭深さの変化を表すものである」旨、明記されている上、図中の1点Bについて、その位置に関する詳細な記載がない以上、B点は外表面を代表する1点として図示されていると解するのが妥当である。
さらに、図4記載の実施例が、深い凹部がある場合のワークについて、その外表面と当該凹部の深い内壁面との浸炭の均一性を課題としている以上、外表面の位置の違いによる浸炭の不均一は、当然にあってはならないレベルの問題であり、折線Bが1点Bのみの浸炭深さの変化を表し、それ以外の外表面の点がB点とは異なる深さまで浸炭されているということは、図4に係る実施例の前提条件以前の問題であって、採用できるものではない。
したがって、本件の請求項1乃至4に記載された発明の特許が、特許法36条4項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。
また、請求項1を引用する請求項2及び3についても、同様に、特許法36条4項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由によっては、本件の請求項1乃至4に係る特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-15 
結審通知日 2009-01-20 
審決日 2009-02-02 
出願番号 特願平8-67937
審決分類 P 1 123・ 537- Y (C23C)
P 1 123・ 536- Y (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 鈴木 正紀
市川 裕司
登録日 1999-08-06 
登録番号 特許第2963869号(P2963869)
発明の名称 真空浸炭方法および装置ならびに浸炭処理製品  
代理人 佐竹 弘  
代理人 中島 知子  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  
復代理人 渋谷 淑子  
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