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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24J
管理番号 1206019
審判番号 不服2007-15697  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-06 
確定日 2009-10-26 
事件の表示 特願2002-344481号「熱交換用鋼管杭及び地中熱利用装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年6月24日出願公開、特開2004-177012号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成14年11月27日に出願されたものであって、本願の請求項1に係る発明は、平成21年7月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載の、次のとおりのものである。

「杭ねじ込み用螺旋翼を杭本体の外周面に1巻き以上突設し、前記杭本体の先端が閉塞された鋼管杭であって、
残土の発生がない回転埋設方式で土砂を前記杭本体の側面に押し出し圧縮して埋設され、前記杭本体の中空部内に熱媒体を流入する送り管と、杭内から熱媒体を流出する還り管とを備え、前記送り管と前記還り管とが連続的につながった熱交換用配管を有することを特徴とする地熱利用用の熱交換用鋼管杭。」(以下「本願発明」という。)


2.先願明細書に記載された発明

当審が平成21年6月5日付けで通知した拒絶の理由において引用された、本願の出願の日前である平成13年12月18日の特許出願であって、特願2002-354514号の国内優先権の主張の基礎とされ、本願の出願後である平成15年9月5日に特開2003-247792号公報(以下「公開公報」という。)により出願公開がされた、特願2001-384034号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」及び「先願図面」という。)には、次の技術事項が記載されている。

a.「建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中に回転圧入して埋設し、回転圧入鋼管杭の先端または中途に底蓋を設け密閉し、貯水可能とし、回転圧入鋼管杭の内部に注水配管・取水配管を設置したことを特徴とする地中埋設温度成層型蓄熱水槽。」(先願明細書の【請求項1】、公開公報の【請求項1】)

b.「先端に掘削羽根を取付けた大口径の鋼管製水槽に回転力と下向きの力を付加して地中に回転圧入させて埋設し、底部に底蓋を設け密封し、貯水可能とし、内部に注水配管・取水配管を設置したことを特徴とする地中埋設温度成層型蓄熱水槽。」(先願明細書の【請求項2】、公開公報の【請求項2】)

c.「予め底蓋を取付けた回転圧入鋼管杭または鋼管製水槽を回転圧入させて埋設することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の地中埋設温度成層型蓄熱水槽。」(先願明細書の【請求項6】、公開公報の【請求項9】)

d.「第1の発明は、地下埋設温度成層型蓄熱水槽において、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中に回転圧入して埋設し、回転圧入鋼管杭の先端または中途に底蓋を設け密閉し貯水可能とし、回転圧入鋼管杭の内部に注水配管・取水配管を設置したことを特徴とする。」(先願明細書の段落【0006】、公開公報の段落【0007】)

e.「本発明の底部に掘削羽根を溶接した鋼管製水槽は、回転圧入により地中に埋設することができるため、地下掘削の必要がなく、施工時間を短縮でき、施工コストが安価となる。
本発明の建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を地中埋設温度成層型蓄熱水槽として使用する場合には、さらに施工コストが安価になるとともに、基礎杭として高い支持力が得られる。
本発明の底部先端に掘削羽根を取付けた鋼管製水槽と回転圧入鋼管杭からなる蓄熱水槽の地中への埋設には、事前に孔を掘削する必要がないため、掘削土砂や掘削泥水が発生せず、その処理コストがないので、施工コストが安価になる。また、埋設時と逆回転させれば撤去も容易であるため、リサイクルも可能である。
本発明の底部先端に掘削羽根または掘削歯を有する鋼管製水槽は、回転圧入鋼管杭を蓄熱槽とする場合に比べ、構造的な支持力が必要ないため、鋼管の厚さが薄くてよく、材質的に低強度だが耐食性の高いステンレス等を使用することも可能である。さらに、大口径の鋼管の埋設が可能なため、大容量の蓄熱水槽を安価に製作することが可能である。
・・・。
本発明の温度成層型蓄熱水槽は、地中深く埋設され、地中深くは外気の影響を受けず、その周囲が土砂で覆われており、断熱効果が期待できるため熱エネルギーのロスが少なく、断熱に要するコストは安価になる。
・・・。
本発明における地中埋設温度成層型蓄熱水槽は、建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭の一部または全部を蓄熱水槽として利用すると共に、建物の屋外または前記建物の基礎杭の間の鋼管製蓄熱水槽を配置し、連結使用することもできる構成としているため、地下を有効に活用して大量の蓄熱媒体としての水を蓄えることができるとともに、その上部空間も他用途に有効に活用することができる。」(先願明細書の段落【0013】、公開公報の段落【0021】)

f.「図1,図2では、掘削羽根は、螺旋状羽根として示されているが、回転圧入に適したものであれば、掘削羽根の形状、その設置位置は、他のどのようなものでもよい。」(先願明細書の段落【0014】)
「掘削羽根3は…回転圧入鋼管杭1の下端部から離れながら螺旋状に上昇し、…ほぼ1周程度周回するように形成されている。」(公開公報の段落【0025】)、「掘削羽根3の形状、設置位置については、回転圧入に適するものであれば、図2、図3に示すような螺旋状羽根をはじめとして、どのようなものでもよい。」(公開公報の段落【0030】)

g.「回転圧入鋼管杭1を回転圧入する過程で、掘削羽根3で掘削された土砂の一部は、回転圧入鋼管杭1の周囲に排土され、回転圧入鋼管杭1の回転により、その外周に圧密される。また、掘削土砂の一部は、掘削羽根3の内側開放部4から杭内に浸入する。地盤・土壌の状況により異なるが、土砂の浸入は、図1の5で示した範囲(概ね杭全長の40?50%)である。土砂浸入上部を蓋で密閉し、蓄熱水槽の底蓋7とすることにより、蓄熱水槽の水深は図1の6で示される範囲(概ね杭全長の50?60%)となる。より深い水深を確保したい場合は、杭内部に浸入した土砂を排除して確保してもよい。回転圧入鋼管杭1の上部には、建物の下部構造としてのフーチング2が構築される。鋼管杭蓄熱水槽の内部には、注水配管9、取水配管10を設置する。蓄熱水槽の配管端部は、温度成層を形成した熱媒体としての水から効率良く蓄熱および蓄熱回収を行うため、一方は蓄熱水槽底部近傍、他方は蓄熱水槽の高水位レベル近傍に配置する。」(先願明細書の段落【0015】、公開公報の段落【0029】)

h.「熱源機11で製造した冷水または温水は、蓄熱時は、蓄熱ポンプ13を運転し、地下埋設温度成層型蓄熱水槽との間で循環する。空調時には、冷温水ポンプ14を運転し、負荷側に循環する。蓄熱回収時には、蓄熱回収1次ポンプ15と蓄熱回収2次ポンプ16を運転し、地下埋設温度成層型水槽内の冷水または温水を熱交換器12に循環し、同時に負荷側の冷水または温水も熱交換器12に循環しながら熱交換して熱回収する。」(先願明細書の段落【0022】、公開公報の段落【0044】)

i.「本発明の構成により以下のような効果が得られる。
(1)蓄熱性能の高い地下埋設温度成層型蓄熱水槽を安価に構築できる。
(2)建物を支持する基礎杭としての回転圧入鋼管杭を蓄熱水槽として利用すれば、より安価に地下埋設温度成層型蓄熱水槽を構築できる。
(3)蓄熱性能の高い地下埋設温度成層型蓄熱水槽を、平面的に少ない面積で構築でき、蓄熱水槽が全て地下に埋設されるため、上部空間を有効に活用できる。
(4)回転圧入鋼管杭は、高い支持力が得られるため、建物の基礎杭としての本来の性能を損なわない。
(5)地下埋設温度成層蓄熱水槽は、回転圧入により地中に埋設されるので、事前に孔を掘削する必要がなく、掘削土砂・掘削泥水の処理を必要としない。
(6)地下深く埋設されるため、断熱効果が期待でき蓄熱水槽の熱エネルギーロスを低減でき、断熱にようするコストを安価にできる。」(先願明細書の段落【0029】、公開公報の段落【0051】)

上記記載事項及び先願図面の図3、6(公開公報の図4、7)を総合すると、先願明細書には、次の発明が記載されていると認められる。

螺旋状の掘削羽根3を回転圧入鋼管杭1の外周面に取付け、回転圧入鋼管杭1の先端に底蓋7を設けた回転圧入鋼管杭1であって、
掘削土砂が発生しない回転圧入により土砂を回転圧入鋼管杭1の周囲に排土しその外周に圧密して埋設され、回転圧入鋼管杭1の内部に蓄熱媒体としての水を注水する注水配管9と、回転圧入鋼管杭1の内部から水を取水する取水配管10とを備えた、外気の影響を受けない地中深く埋設され、熱交換に用いられる回転圧入鋼管杭1。
(以下「先願発明」という。)


3.対比

本願発明と先願発明とを対比する。
先願発明における「螺旋状の掘削羽根3」は、本願発明における「杭ねじ込み用螺旋翼」に相当し、以下同様に、「取付け」は「突設し」に、「回転圧入鋼管杭1」は「鋼管杭」に、「回転圧入鋼管杭1の先端に底蓋7を設けた」は「杭本体の先端が閉塞された」に、「掘削土砂が発生しない回転圧入により土砂を回転圧入鋼管杭1の周囲に排土しその外周に圧密して埋設」は「残土の発生がない回転埋設方式で土砂を杭本体の側面に押し出し圧縮して埋設」に、「回転圧入鋼管杭1の内部」は「杭本体の中空部内」に、「蓄熱媒体としての水を注水する注水配管9」は「熱媒体を流入する送り管」に、「回転圧入鋼管杭1の内部」は「杭内」に、「水を取水する取水配管10」は「熱媒体を流出する還り管」に、それぞれ相当する。
また、先願発明における「注水配管9」及び「取水配管10」は、摘記事項g,hより、蓄熱水槽とされた回転圧入鋼管杭内の冷水または温水を、熱交換器に循環させて熱交換するために用いられるものであるから、本願発明における「熱交換用配管」に相当するものと言える。
さらに、本願発明における「地熱利用用」との発明特定事項に関して、本願明細書の段落【0002】には、「地中の温度は一年中にわたって温度変化が少ない。そのため、夏季は気温に対して地中の温度が低く、冬季は気温に対して地中の温度が高い。そこで、夏季もしくは冬季において杭を利用し、地中と地上との間で熱交換を行う…地中熱利用装置が提案されている」と記載されていることから、本願発明でいう「地熱利用」とは、気温の影響を受けない地中の熱を利用することであると解されるから、先願発明における「外気の影響を受けない地中深く埋設され、熱交換に用いられる回転圧入鋼管杭1」は、本願発明における「地熱利用用の熱交換用鋼管杭」に相当するものと言える。
すると、本願発明と先願発明とは、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
杭ねじ込み用螺旋翼を杭本体の外周面に突設し、前記杭本体の先端が閉塞された鋼管杭であって、
残土の発生がない回転埋設方式で土砂を前記杭本体の側面に押し出し圧縮して埋設され、前記杭本体の中空部内に熱媒体を流入する送り管と、杭内から熱媒体を流出する還り管とを備えた熱交換用配管を有する、地熱利用用の熱交換用鋼管杭。

<相違点>
1)「杭ねじ込み用螺旋翼」を、本願発明では杭本体の外周面に「1巻き以上
」突設したものであるのに対し、先願発明においては「1巻き以上」突設
したものであるか否か不明である点。
2)「送り管」と「還り管」が、本願発明では「連続的につながった」もので
あるのに対し、先願発明ではつながったものではない点。


4.当審の判断

上記相違点について検討する。

<相違点1) について>
先願図面の図2(公開公報の段落【0025】の「掘削羽根3は…ほぼ1周程度周回するように形成されている」との記載(摘記事項e参照)、公開公報の図3)の開示に鑑みれば、先願発明における「杭ねじ込み用螺旋翼(掘削羽根3)」は、杭本体の外周面に「ほぼ1巻き」となるように形成されるものであることは当業者にとり明らかである。
一方、杭ねじ込み用螺旋翼を備えた回転埋設方式の鋼管杭の技術分野において、杭ねじ込み用螺旋翼を1巻き以上突設することは、従来より周知の技術である。(例えば、当審より通知した拒絶の理由において挙げた実願平2-87579号(実開平3-54825号)のマイクロフィルムあるいは特開平7-127055号公報等参照。)
そして、上記のように周知の「1巻き以上」の杭ねじ込み用螺旋翼を備えた本願発明が、「ほぼ1巻き」の杭ねじ込み用螺旋翼(掘削羽根3)を備えた先願発明に比し、格別な効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明において、相違点 1) に係る発明特定事項を備えた点は、単なる周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではないから、上記相違点 1) は、発明の技術思想を具体化するに際して、当業者が適宜採用し得る設計上の微差に過ぎない。

<相違点2) について>
熱交換用配管を有する地熱利用用の熱交換用鋼管杭の技術分野において、杭内に設けられる該熱交換用配管を、送り管と還り管とが「連続的につながった」ものとすることは、従来より周知の技術である。(例えば、原査定の拒絶の理由において引用された、特開平8-184063号公報の段落【0026】及び図4あるいは特開平1-123951号公報等参照。)
また、上記周知例として挙げた特開平8-184063号公報において、他の実施例として、杭内の配管がつながっていないものが示されていること(段落【0016】及び図1参照)、及び、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の段落【0012】には、「杭の内部に設置する熱交換用の配管は、杭内に熱媒体を流入する送り管と杭内から熱媒体を流出する還り管を備えていれば良く、杭内の配管は、連続的につながっていても、繋がっていなくても良い。」と記載されていることからも、杭内に設けられる熱交換用配管を、連続的につながったものとすること、及び、つながっていないものとすることは、従来より、互いに置換可能な周知の技術として当業者に認識されていたことは明らかである。
そして、配管が連続的につながった場合の、つながっていない場合に対する利点として、本願の当初明細書の段落【0014】に「配管が、杭の内部空間で連通している場合には、配管を通す熱媒体と、杭の内部空間を埋める充填材は同一である必要はな」いと記載され、上記特開平8-184063号公報の段落【0026】には「本実施例では、熱媒体が液体である場合に、基礎杭4が水密に構成されている必要がないという利点がある」と記載されていることを裏返してみれば、熱媒体と、杭の内部空間を埋める充填材とが同一の液体である場合には、配管が連続的につながったものとつながっていないものとは、その効果において特段の差がないと解されるところ、本願発明においては、用いられる熱媒体及び充填材について何ら限定はないし、平成21年7月27日付けで補正された本願明細書の段落【0018】には、「配管を通す熱媒体は、水、オイル、不凍液、空気などである。また、…充填材としては、水、オイル、不凍液、…等が挙げられる。」として、熱媒体と充填材が同一の液体である場合を排除していないのであるから、配管をつながったものとすることによって、本願発明が先願発明に比し何ら格別の効果を奏するものとは言えない。
したがって、本願発明において、相違点 2) に係る発明特定事項を備えた点は、単なる周知技術の置換であって、新たな効果を奏するものではないから、上記相違点 2) は、発明の技術思想を具体化するに際して、当業者が適宜選択し得る設計上の微差に過ぎない。

よって、本願発明と先願発明との間の相違点 1) , 2) は共に、発明の技術思想の具体化に際しての設計上の微差に過ぎないから、本願発明は、先願発明と実質的に同一である。


5.むすび

したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-19 
結審通知日 2009-08-25 
審決日 2009-09-07 
出願番号 特願2002-344481(P2002-344481)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (F24J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長崎 洋一
渋谷 知子
発明の名称 熱交換用鋼管杭及び地中熱利用装置  
代理人 中川 裕幸  
代理人 特許業務法人中川国際特許事務所  

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