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審決分類 |
審判 査定不服 原文新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F |
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管理番号 | 1206281 |
審判番号 | 不服2007-21121 |
総通号数 | 120 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-31 |
確定日 | 2009-10-29 |
事件の表示 | 特願2003-278033「曲面の曲率演算方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日出願公開、特開2005- 44156〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 1.手続の経緯の概要 本願は、 平成15年7月23日付けの出願であって、 平成17年3月15日付けで審査請求がなされ、 平成18年10月18日付けで拒絶理由通知(平成18年10月24日発送)がなされ、 同年12月11日付けで手続補正書が提出されると共に、同日付けで意見書が提出され、 平成19年6月29日付けで拒絶査定(平成19年7月3日発送)がなされたものの、 同年7月31日付けで審判請求がなされ、 平成21年6月22日付けで拒絶理由通知(平成21年6月23日発送)がなされ、 同年8月21日付けで手続補正書が提出されると共に、同日付けで意見書が提出されたものである。 2.拒絶理由、補正等の内容 (1)平成18年12月11日付けの手続補正の内容 上記平成18年12月11日付けの手続補正(以下「本件補正1」と記す。)は特許請求の範囲を次の通りに補正するものである。 「【請求項1】 3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において、 3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられ、該曲面の近くの3次元点が中心点として指定されたときに、中心点の近傍内に複数の3次元点の標本点をとり、その標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標を標本値として求め、その標本値から曲面の曲率を求める演算方法。」 (2)当審拒絶理由通知の内容 上記平成21年6月22日付けで通知された拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」と記す。)は、特許法第17条の2第1項第3号の最後に受けた拒絶理由通知に相当するものであり、その理由は次の通りのものである。 「 理 由 1.平成18年12月11日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下当初明細書等と記す。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 上記手続補正は、特許請求の範囲を 「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において、 3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられ、該曲面の近くの3次元点が中心点として指定されたときに、中心点の近傍内に複数の3次元点の標本点をとり、その標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標を標本値として求め、その標本値から曲面の曲率を求める演算方法。」 と補正するものである。 しかしながら、本願発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであることは、当初明細書等には記載されておらず、また当初明細書等の記載から自明な事項でもない。 なお、当初明細書等の発明の詳細な説明の段落【0002】には「計測された3次元形状は、形状表面上の離散的な計測点の集合で表される。計測システムで光源を走査したり、画像センサを用いたりする場合が多いことから、計測点は2次元の整数座標で表される格子状に得られている場合が多い。」との記載があるが、これは【背景技術】として「曲面全体が2次元の座標パラメータで記述される代数関数で記述できる場合」「曲面が三角パッチ等で多面体近似されている場合」と並んで説明される1従来技術に過ぎないものであって、段落【0006】?【0017】にかけて「本発明」として説明される演算方法においても、当該1従来技術が適用される旨の記載は当初明細書等の何処にも見あたらない。 しかも、段落【0002】においては、この記載に続いて「数値微分で曲率を計算することができるが、計算に用いる領域が計測点の密度に依存し、雑音の多い結果が得られることが多い。」との否定的な記載が有ることから見て、本願発明において「3次元形状曲面」を「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものとすることは考え難いものである。また、本願発明は「標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標を標本値として求め」るものであるところ、当該「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ようなものであっては、当該「法線」「足」を明確に定めることは出来ないのであるから、この点からみても、本願発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであるとは考え難いものであり、これが当初明細書等の記載から自明であるとは到底認め得るものではない。 なお、当該補正がなされた明細書、特許請求の範囲又は図面における請求項1に記載した事項は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、当該発明については新規性、進歩性等の特許要件についての審理を行っていない。 2.この出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1に「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において」との事項が限定されているが、本願発明の詳細な説明において「本発明」として説明される「演算方法」が、係る事項を採用したものである旨の記載も示唆も見あたらない。(上記理由1.参照) 従って、請求項1に係る発明は本願発明の詳細な説明に記載されたものではない(特許法第36条第6項第1号違反)。 また、このため、本願発明の詳細な説明で「本発明」として説明されるものは、本願請求項1に係る発明ではなく、他に本願請求項1に係る発明を説明する記載もみあたらないので、本願発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものである(特許法第36条第4項第1号違反)。 (2)請求項1に「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において」とあり、さらに「その標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標を標本値として求め」る旨の記載がある。 しかしながら、「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ようなものにおいて、「法線」「足」とは如何に定義される「線」「点」を意味するのかが明確でない(「標本点」と「離散的な計測点」とを結んでも「法線」にはならず、「離散的な計測点」は「足」にはならない。)。 従って、請求項1に係る発明は明確でない(特許法第36条第6項第2号違反)。 また、この点は発明の詳細な説明にも何ら記載されておらず、当業者が本願発明を実施しようとした場合に、どの様に「法線」「足」を算出するかを理解することも不可能である。 従って、この点からみても、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものである(特許法第36条第4項第1号違反)。 」 (3)平成21年8月21日付けの手続補正の内容 上記平成21年8月21日付けの手続補正(以下「本件補正2」とも記す。)は特許請求の範囲を次の通りに補正しようとするものである。 「【請求項1】 3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において、 3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられて、任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており、 一つの3次元点が中心点として指定されたときに、中心点の近傍内に複数の3次元点の標本点をとり、その標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め、その標本値から曲面の曲率を求める演算方法。」 (4)意見書の内容 上記平成21年8月21日付けの意見書(以下単に「意見書」と記す。)における請求人の主張の概要は以下の通りである。 「【意見の内容】 (1)平成21年6月22日付けの拒絶理由通知によれば、審判長は、 理由1:平成18年12月21日付け手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、 理由2:発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない、 との認定をされました。出願人は、拒絶理由の趣旨に鑑みて、別途提出の手続補正書により、特許請求の範囲の記載を明確にすると共に、以下の通り意見を申し述べます。 (2)別途提出の手続補正書により、請求項1を以下のように補正致しました。 [請求項1] 3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において、 3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられて、任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており、 一つの3次元点が中心点として指定されたときに、中心点の近傍内に複数の3次元点の標本点をとり、その標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め、その標本値から曲面の曲率を求める演算方法。 (3)理由1について: イ)審判長は、『本願発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであることは、当初明細書等には記載されておらず、また当初明細書等の記載から自明な事項でもない』と認定されます。しかし、審判請求人は、審判長のこのご認定を納得することができません。 本願明細書の段落[0006]には、『本発明では、3次元空間中の曲面に対して、曲面上に限定されない3次元空間中の近傍領域を用いて、曲面の曲率を求めることを目的としている。仮定する物体の形状データとしては、3次元空間の点から最も近い点が求められるならば、表裏の区別ができるような向き付曲面として記述できるデータに広く一般的に適用できる。』と記載してありました。 さらには、[実施例2]として段落[0016]には、『実データに対してサンプリングの密度を変えて曲率を計算した結果を図2に示す。実データの周囲の各格子点において、データ面に最も近い点と法線を求め、サンプリングを行う。』と記載されていました。 先の補正の「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものとは、段落[0016]に記載の物体の形状データについてのものであり、また、実施例2として記載されていた「実データ」を明確に定義したものであります。 さらには、拒絶理由通知でも認定されますように、段落[0002]には、『計測された3次元形状は、形状表面上の離散的な計測点の集合で表される。』との記載もありました。本願発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであることは、当初明細書等には記載されていたと認定されるべきと考えます。 ロ)審判長は、本願の[背景技術]に記載されているものは、従来技術に過ぎず、本発明とは関係ないかの如く述べられます。しかし、請求項には、本発明の特徴だけでなく、その前提技術についても記載されるべきであることは言うまでもないことです。本願請求項1においても、審判長が認定されるような従来技術を、前提技術として、「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において、」として記載したものです。この補正は、平成18年10月18日付拒絶理由に対して、本発明は、単なる数学的な解法ではないことを明らかにするために、本発明の前提とする技術を限定したものであります。 (4)理由2について: イ)審判長は、『「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法において」との事項が限定されているが、本願発明の詳細な説明において「本発明」として説明される「演算方法」が、係る事項を採用したものである旨の記載も示唆も見あたらない。』と認定されます。 しかし、この点について十分明確に説明されていることは上述の通りです。しかも、それ自体は、本発明の前提とする公知の技術であります。格別に詳細な説明が必要であるとは考えられません。 ロ)審判長は、『「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ようなものにおいて、「法線」「足」とは如何に定義される「線」「点」を意味するのかが明確でない』と認定されます。 請求項1において「3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられて、任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められて」いることを明確にしました。 (5)以上のことよりして、拒絶理由は、全て解消されたものと確信しておりますので、 再度の審理をお願い申し上げる次第です。」 なお、本願当初明細書の段落【0016】には「実データ・・・行う。」なる記載はないので、上記意見書の記載「段落[0016]」は「段落[0017]」の誤記と認められる。 第2.平成21年8月21日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年8月21日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正2の内容 平成21年8月21日付けの手続補正(本件補正2)は、特許請求の範囲について、上記第1.2.(1)の特許請求の範囲から、上記第1.2.(3)の特許請求の範囲に補正しようとするものである。 2.本件補正2が新規事項の追加であるか否かついて (1)本件補正2について検討するに、当該補正は特許請求の範囲の請求項1を、その発明を特定するための事項として、次の技術的事項を含むものに補正しようとするものである。 <技術的事項1> 「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める演算方法」であること。 <技術的事項2> 「任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており」、「標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め」ること。 (2)そこで、以下に上記技術的事項1、2について、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」と記す。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かについて検討する。 <技術的事項1について> 上記技術事項1は、本発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであることを限定するものであるが、上記当審拒絶理由通知(上記第1.2.(2))の理由1.においても指摘した通り、本発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものであることは、当初明細書等には記載されておらず、また当初明細書等の記載から自明な事項でもない。 なお、この点に関し、請求人は上記第1.2.(4)の「(3)理由1について」の「イ)」及び「ロ)」記載の主張をしている。 そこで、これらの主張について検討する。 <イ)の主張について> イ)の主張は段落【0006】記載の「表裏の区別ができるような向き付曲面として記述できるデータ」及び段落【0017】の「実データ」が段落【0002】に記載される「形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ものであるとの主張をするものであるが、当初明細書の段落【0002】に記載される「形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ものが、当初明細書の段落【0006】記載の「表裏の区別ができるような向き付曲面として記述できるデータ」や段落【0017】の「実データ」であるとの記載も示唆も当初明細書等には見あたらない。 また、段落【0006】の「向き付曲面として記述できるデータ」も段落【0017】の「実データ」も、「曲面の近くの3次元点」から「最も近い点」が「法線の足」となるようなものでなければならないものであるところ、技術常識に照らしてみれば「離散的な計測点」に「法線」なるものは定義出来ず、また、「曲面の近くの3次元点」から「最も近い」「離散的な計測点」が「法線の足」に一致するわけでもないのであるから、該「向き付曲面として記述できるデータ」や「実データ」が「離散的な計測点」であることは、技術常識に反するものであり、これが技術常識に照らして明らかな事項とは到底認め得るものではない。また、「点」は裏表の区別の無いものであるから、「離散的な計測点」を「向き付曲面として記述」することも、技術常識に照らして明らかな事項とは到底認め得るものではない。 従って、意見書の(3)のイ)の主張をもって、上記技術的事項1が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認めることはできない。 <ロ)の主張について> 「ロ)」の主張は、本願の「背景技術」が本発明の「前提技術」である旨の主張であるが、「背景技術」は本発明に関連する技術であるからといって、本発明と同一の構成を有するとは限らない。また、例え、本発明が「背景技術」を前提にこれを改良するものであるとしても、どの「背景技術」のどの部分を改良せずにそのまま残すのかが明細書中で明示されていなければ、本発明のどこが「背景技術」と同じであるのかを導きだすことはできない。 本願当初明細書を検討するに、その段落【0001】?【0005】において【背景技術】が開示され、段落【0006】?【0017】に本発明が説明されているものである。そして、この段落【0006】?【0017】には、本発明の何処の部分が、上記【背景技術】として開示される複数の技術のうちのどの技術の何処の部分と同じに構成されている等の記載は全く見いだせないので、本発明における「3次元形状曲面」として【背景技術】として開示のもののうちのいずれかが採用されている旨の事項を、当初明細書等の記載から導き出せるものではない。 そして、上記<イ)の主張について>に於いても述べたように、技術常識に照らしてみれば【背景技術】として開示の「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ものを、本発明における「3次元形状曲面」とすることが、明らかな事項であるとは到底認め得るものではない。 従って、意見書の(3)のロ)の主張をもって、上記技術的事項1が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認めることもできない。 <技術的事項2について> 上記技術的事項2の「任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており」、「標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め」ることも、当初明細書等には記載されておらず、また当初明細書等の記載から自明な事項でもない。 なお、当該技術事項2の根拠に付いての釈明は意見書等には無く、当該事項に関連する記載を、当初明細書の記載に求めるに、段落【0009】に「本手法では3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付曲面が与えられているとする。任意の3次元点から曲面上で最も近い点と法線方向が求められさえすれば、その計算機内での表現は問わない。」との記載が見いだせる。しかしながら、この記載によれば、「向き付曲面が与えられている」ものの「最も近い点と法線方向」が求められていることが記載されているわけではない。 また、当初明細書には【特許請求の範囲】等に「指定」された「中心点の近傍内に複数の3次元点の標本点をとり、この標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標を標本値として求め」ることが記載されており、当該「求め」た後の状態は、「この標本点から曲面に下ろした法線の方向と足の座標」が「求められて」いる状態になるものの、「任意の3次元点から前記曲面に下ろした法線の方向と足の座標が求められて」いる状態になるわけではない。 また、既に「任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められて」いる状態で、さらに「標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め」ることは、技術常識に照らしてみても、極めて奇異で冗長な処理であり、到底自明な事項と認め得るものでは無い。 (3)以上の通りであるので、本件補正2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。 3. 本件補正2の目的・独立特許要件についての検討 (1)本件補正2の目的 次に、本件補正2の目的について検討するに、意見書においては「出願人は、拒絶理由の趣旨に鑑みて、別途提出の手続補正書により、特許請求の範囲の記載を明確にすると共に、以下の通り意見を申し述べます。」と説明しているが、本件補正2は補正前における「3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられ」との記載を「3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられて、任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており、」との記載に補正する補正事項、すなわち、請求項1の限定的減縮を目的とする補正事項を含むものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものにも該当する。 (2)独立特許要件 そこで、本件補正2後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて、以下に検討する。 ア.補正後の請求項1に係る発明は「曲面」が「離散的な計測点の集合で表される」もので「前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており」、かつ「求め」るものである。しかしながら、「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ものにおいて、「法線」とは如何に定義されるのかが明確でない。そして、このため「法線方向」も明確なものでは無い。 また、本願発明の詳細な説明においても「曲面」が「離散的な計測点の集合で表される」場合の「法線」について明確な定義がなされているわけでは無い。 従って、補正後の請求項1に係る発明は明確でなく、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、この点は発明の詳細な説明にも何ら記載されておらず、当業者が本願発明を実施しようとした場合に、どの様に「法線」ひいては「法線方向」を算出するかを理解することも不可能である。 従って、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が補正後の請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない。 イ.補正後の請求項1に係る発明は「曲面」が「離散的な計測点の集合で表される」もので「前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められており」、かつ「求め」るものである。そして、この場合には、「複数の3次元点の標本点」に「最も近い点」は「複数の3次元点の標本点」に「最も近い」「計測点」となると解されるが、計測点の密度によっては「複数の3次元点の標本点」に「最も近い」「計測点」が重複し、Δciが0になってしまうのであるから、例え「法線方向」なるものを算出できたとしても、曲率の計算が不可能となることは明らかである。そして、このことは、段落【0008】の「計測点の密度に依存せずに、曲率を計算できる」とする効果と矛盾する。 従って、本願発明の詳細な説明は、補正後の請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(委任省令要件)を満たしていない。 ウ.補正後の請求項1に係る発明は「任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められて」いるものでありながら「その標本点から曲面に下ろした法線の方向と最も近い点の座標を標本値として求め」ると言うものである。 しかしながら、このような冗長な構成を採用することに如何なる技術上の意義があるのかを説明する記載が発明の詳細な説明には無い。 従って、本願発明の詳細な説明は、補正後の請求項1に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)よって、仮に本件補正2が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであると仮定した場合には、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 4.むすび 以上の通り、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 さらに、仮に本件補正2が同特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであると仮定しても、本件補正2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。 従って、本件補正2は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。 よって、上記補正却下の決定の結論の通り決定する。 第3.本願の特許要件について 1.手続きの経緯 本願の手続きの経緯の概略は上記第1.1.記載の通りのものであり、さらに、平成21年8月21日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下された。 従って、本願の特許請求の範囲は、上記第1.2.(1)の本件補正1により補正された特許請求の範囲の記載の通りのものである。 なお、明細書に対する補正は無く、本願の明細書は願書に最初に添付した明細書の通りのものである。 そこで、上記当審拒絶理由通知で指摘した拒絶の理由が解消されているか否かについて以下に検討する。 2.平成18年12月11日付け手続補正書の適否(理由1.)について (1)本件補正1の内容 上記本件補正1は特許請求の範囲について、上記第1.2.(1)記載の特許請求の範囲に補正するものであり、 「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものである旨、すなわち、上記第2.2.(2)の「技術的事項1」と同一の事項を追加しようとするものである。 (2)当審判断 上記当審拒絶理由通知の理由2で指摘したとおり、本願発明における「3次元形状曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された」ものである旨の記載は当初明細書等には記載されておらず、また当初明細書等の記載から自明な事項でもない。 請求人はこれに対し、特許請求の範囲を上記第1.2.(3)記載の特許請求の範囲に補正しようとし、上記第1.2.(4)の「(3)理由1について」の通り主張している。 しかしながら、平成21年8月21日付けの手続補正は上記第2.のとおり却下された。 そして、上記第2.2.(2)の<技術的事項1について>で述べたように、意見書における主張をもって、上記技術的事項1が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であると認めることはできないものである。 (3)小結 従って、本件補正1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。 3.本願特許請求の範囲及び明細書の記載要件(理由2)について (1)理由2.(1)について 本願発明の詳細な説明の記載を詳細に再検討しても、「本発明」として説明される「演算方法」が、「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める」ものである旨の記載も示唆も見あたらない。 この点に関し請求人は、理由1に対する主張を援用して、「しかし、この点について十分明確に説明されていることは上述の通りです。しかも、それ自体は、本発明の前提とする公知の技術であります。格別に詳細な説明が必要であるとは考えられません。」と主張している。 しかしながら、上記第2.2.(2)の<技術的事項1について>で述べたように、上記技術的事項1は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内のものではなく、本願明細書は願書に最初に添付した明細書の通りのものであるから、「本発明」として説明される「演算方法」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される計測された3次元形状曲面の不変特徴量としての曲率を求める」ものである旨の記載は、本願発明の詳細な説明に記載されているものでない。 また、それ自体が公知技術であったとしても、当該公知技術を採用した技術的思想について特許を受けようとする以上は、発明の詳細な説明において当該公知技術の採用を裏付ける説明が必要であることは、特許法第36条の趣旨から見て明らかであり、公知の技術であるから詳細な説明が必要でないとの主張は到底認容し得るものではない。 従って、請求項1に係る発明は本願発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)理由2.(2)について 当審拒絶理由通知の理由2.(2)については、請求人は 「ロ)審判長は、『「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ようなものにおいて、「法線」「足」とは如何に定義される「線」「点」を意味するのかが明確でない』と認定されます。 請求項1において「3次元空間中の表裏の区別が出来る向き付き曲面が与えられて、任意の3次元点から前記曲面上で最も近い点と法線方向が求められて」いることを明確にしました。」 と、平成21年8月21日付けの手続補正を前提とした主張をしているが、この補正は上記第2.のとおり却下された。 従って、「「曲面」が「3次元形状表面上の離散的な計測点の集合で表される」ようなものにおいて、「法線」「足」とは如何に定義される「線」「点」を意味するのかが明確でない」とした点は、未だ解消されておらず、また、意見書においても、その釈明のなされていないものである。 従って、本願請求項1に係る発明は明確でなく、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、この点は発明の詳細な説明にも何ら記載されておらず、当業者が本願発明を実施しようとした場合に、どの様に「法線」「足」を算出するかを理解することも不可能である。 従って、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)小結 従って、この出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。 4.むすび 以上のとおり、平成18年12月11日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、この出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。ものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-08-31 |
結審通知日 | 2009-09-01 |
審決日 | 2009-09-16 |
出願番号 | 特願2003-278033(P2003-278033) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
WZ
(G06F)
P 1 8・ 55- WZ (G06F) P 1 8・ 562- WZ (G06F) P 1 8・ 536- WZ (G06F) P 1 8・ 537- WZ (G06F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 稔 |
特許庁審判長 |
山崎 達也 |
特許庁審判官 |
宮司 卓佳 石井 茂和 |
発明の名称 | 曲面の曲率演算方法及びプログラム |