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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1206357
審判番号 不服2007-6002  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-27 
確定日 2009-10-30 
事件の表示 特願2000-381865「誘電体磁器組成物及びこれを用いた積層セラミックコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月 5日出願公開、特開2002-187770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年12月15日の出願であって、平成18年1月30日付けで拒絶理由が起案され、同年3月31日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成19年1月26日付けで拒絶査定が起案され、同年2月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月27日に明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成21年6月18日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、平成21年8月11日に回答書の提出がなされたものである。

II.平成19年3月27日付け手続補正について
平成19年3月27日付け手続補正は、補正前の請求項1乃至3を削除し、補正前の請求項4?6をそれぞれ新たな請求項1?3とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の「特許法第36条第5項に規定する請求項の削除」に該当するので、補正要件を充足する。

III.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明は、平成19年3月27日に補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項を発明特定事項とするものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】 主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マンガン、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化バナジウム及び酸化モリブデンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1?3モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?5モル、酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計0.5?5モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01?0.1モル、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で1?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.1?1モル、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンをTa_(2)O_(5)、WO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.01モル≦Ta_(2)O_(5)+WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モルであることを特徴とする誘電体磁器組成物。」

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願は、平成18年1月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶すべきものである。」であり、平成18年1月30日付け拒絶理由通知書に記載の理由2は、この出願の請求項1-7に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

V.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開2000-311828号公報(公開日平成12年11月7日)、以下、「引用例1」という。):
(イ)「 組成式Ba_(m) TiO_(2+n) で表され、前記組成式中のmが0.995≦m≦1.010であり、nが0.995≦n≦1.010であり、BaとTiとの比が0.995≦Ba/Ti≦1.010である主成分と、
酸化シリコンを主成分として含む焼結助剤である第2副成分と、
その他の副成分とを少なくとも有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記第2副成分を除いて、前記主成分と、その他の副成分のうちの少なくとも一部とを混合し、仮焼前粉体を準備する工程と、
前記仮焼前粉体を仮焼きして仮焼済粉体を準備する工程と、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分に対する各副成分の比率が所定モル比である誘電体磁器組成物を得る工程と、
を有する誘電体磁器組成物の製造方法。」(【請求項1】)、
(ロ)「前記第2副成分が(Ba,Ca)_(x) SiO_(2+x) (ただし、x=0.8?1.2)で表される組成を有し、
前記その他の副成分が、
MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr_(2)O_(3) から選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも一種)を含む第4副成分と、
MnOを含む第5副成分とを少なくとも有し、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1?3モル、
第2副成分:2?12モル、
第3副成分:0.1?3モル、
第4副成分:0.1?10.0モル(ただし、第4副成分のモル数は、R単独での比率である)、
第5副成分:0.05?1.0モルである誘電体磁器組成物を得ることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。」(【請求項3】)、
(ハ)「第3副成分(V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3) )の含有量が少なすぎると、破壊電圧が低下し、容量の温度特性がX7R特性の規格を満足しにくくなる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、初期の絶縁抵抗が低くなる傾向にある。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。」(【0038】)
(ニ)表1の資料番号E1について、仮焼時の組成(mol)として、主成分BaTiO_(3 )100、第1副成分MgO 2.1 、第3副成分V_(2)O_(5 )0.1、第4副成分Dy_(2)O_(3) 4.2、第5副成分MnO 0.375が示されている。(【0108】)、
(ホ)表2の資料番号E1について、塗料化時に追加添加する成分の組成(mol)として第2副成分(BaCa)SiO_(3) 3、が示されている。(【0109】)
(ヘ)「評価表1?4に示すように、本発明の実施例では、全てX7R特性およびB特性を満足できることが確認できた。また、比較例1であるサンプル番号A11と、実施例1であるサンプル番号A1?A10、B1,B2、C1?C10、D1?D9、E1、E2およびF1?F3とを比較することで、実施例の方が、IRの加速寿命が長く、直流電界下での静電容量の経時変化が少なく、直流電界下での静電容量半減電界が高いことが確認できた。」(【0127】)、

(2)刊行物2(特開平5-109319号公報、以下、「引用例2」という。):
(ト)「 BaTiO_(3 ) : 94.0?99.0モル%
Ta_(2)O_(5) : 0.5? 3.0モル%
ZnO : 0.5? 3.0モル%
の範囲からなることを特徴とする高誘電率誘電体磁器組成物。」(【請求項1】 )、
(チ)「またBaTiO_(3)が99.0モル%を超えると誘電体素体が焼結せず、測定不能となる(試料No.1参照)。Ta_(2)O_(5) が0.5モル%未満であれば、これまた同様に誘電体素体が焼結せず、測定不能となったり(試料No.1参照)、静電容量温度変化率が大きい(試料No.7参照)。
Ta_(2)O_(5) が3.0モル%を超えると、比誘電率が低くなったり(試料No.9参照)、静電容量の温度変化率が大きくなったりする(試料No.4参照)。ZnOが0.5モル%未満であれば誘電体素体が焼結せず測定不能となったり(試料No.1参照)、静電容量温度変化率が大きくなったりする(試料No.4参照)。」(【0015】?【0016】)、
(リ)「【発明の効果】本発明の誘電体磁器組成物では、比誘電率が約2000?4600という高い値を有し、誘電体損失は1.2%以下という小さな値であり、静電容量の温度変化率はEIAJに規定するX7R特性のみならず、X8R特性をも満足し、さらに抗折強度の強い優れた特性の高誘電率誘電体磁器組成物を得ることができる。」(【0047】)

VI.引用発明の認定
引用例1の記載事項(イ)におけるm及びnの値をそれぞれ範囲内の1として同(イ)を表示すると「組成式BaTiO_(3) で表される主成分と、
酸化シリコンを主成分として含む焼結助剤である第2副成分と、
その他の副成分とを少なくとも有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記第2副成分を除いて、前記主成分と、その他の副成分のうちの少なくとも一部とを混合し、仮焼前粉体を準備する工程と、
前記仮焼前粉体を仮焼きして仮焼済粉体を準備する工程と、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分に対する各副成分の比率が所定モル比である誘電体磁器組成物を得る工程と、
を有する誘電体磁器組成物の製造方法」が記載され、及び同(ロ)のxの値を範囲内の1として表示すると「前記第2副成分が(Ba,Ca)SiO_(3)で表される組成を有し、
前記その他の副成分が、
MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr_(2)O_(3) から選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも一種)を含む第4副成分と、
MnOを含む第5副成分とを少なくとも有し、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1?3モル、
第2副成分:2?12モル、
第3副成分:0.1?3モル、
第4副成分:0.1?10.0モル(ただし、第4副成分のモル数は、R単独での比率である)、
第5副成分:0.05?1.0モルである誘電体磁器組成物を得ることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物の製造方法」が記載され、同(イ)は、同(ロ)において引用形式で記載されているからこれを併せて表示すると同(ロ)には「組成式BaTiO_(3) で表される主成分と、
酸化シリコンを主成分として含む焼結助剤である第2副成分と、
その他の副成分とを少なくとも有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記第2副成分を除いて、前記主成分と、その他の副成分のうちの少なくとも一部とを混合し、仮焼前粉体を準備する工程と、
前記仮焼前粉体を仮焼きして仮焼済粉体を準備する工程と、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分に対する各副成分の比率が所定モル比である誘電体磁器組成物を得る工程と、
を有する誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記第2副成分が(Ba,Ca)SiO_(3) で表される組成を有し、
前記その他の副成分が、
MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr_(2)O_(3) から選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも一種)を含む第4副成分と、
MnOを含む第5副成分とを少なくとも有し、
前記仮焼済粉体に、前記第2副成分を少なくとも混合し、前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、
第1副成分:0.1?3モル、
第2副成分:2?12モル、
第3副成分:0.1?3モル、
第4副成分:0.1?10.0モル(ただし、第4副成分のモル数は、R単独での比率である)、
第5副成分:0.05?1.0モルである誘電体磁器組成物を得る」ことが記載されている。
したがって、引用例1には、組成物として
「組成式BaTiO_(3) で表される主成分100モルに対する各副成分の比率が、
MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr_(2)O_(3) から選択される少なくとも1種を含む第1副成分:0.1?3モル、
(Ba,Ca)SiO_(3)で表される第2副成分:2?12モル、
V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分:0.1?3モル、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも一種)を含む第4副成分:0.1?10.0モル(ただし、第4副成分のモル数は、R単独での比率である)、
MnOを含む第5副成分:0.05?1.0モルである誘電体磁器組成物」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

VII.対比・検討
本願発明と引用例1発明とを対比すると、本願発明と引用例1発明は、ともに「誘電体磁器組成物」に関し、引用例1発明の「組成式BaTiO_(3) で表される主成分100モルに対する各副成分の比率」、「MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr_(2)O_(3) から選択される少なくとも1種を含む第1副成分:0.1?3モル」、「V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分:0.1?3モル」、「Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも一種)を含む第4副成分:0.1?10.0モル(ただし、第4副成分のモル数は、R単独での比率である)」及び「MnOを含む第5副成分:0.05?1.0モル」は、それぞれ、本願発明の「主成分としてチタン酸バリウムを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合」、「酸化マグネシウムをMgO換算で1?3モル」、「酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンをWO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.1モル≦WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モル」、「酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?5モル」及び「酸化マンガンをMnO換算で0.1?1モル」に相当する。引用例1の記載事項(ニ)及び(ホ)に「第3副成分V_(2)O_(5 )0.1」の組成の資料が開示され、酸化バナジウムを必須成分として混合することも引用例1発明は含むので、引用例1発明の「V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分:0.1?3モル」は、本願発明の「酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01?0.1モル」にも相当する。そして、引用例1発明の「(Ba,Ca)SiO_(3)で表される第2副成分:2?12モル」は、本願発明の「酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計2?5モル」及び「酸化ケイ素をSiO_(2)換算で2?5モル」に相当することも明らかである。さらに、引用例1発明が副成分として「酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化バナジウム及び酸化モリブデンを含有」することも明らかである。
したがって、本願発明と引用例1発明とは、「主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ケイ素、酸化マンガン、酸化タングステン、酸化バナジウム及び酸化モリブデンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1?3モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?5モル、酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計2?5モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01?0.1モル、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で2?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.1?1モル、酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンをWO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.1モル≦WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モルである誘電体磁器組成物。」で一致し、次の点で相違する。
(A)本願発明は、副成分として「酸化タンタルを含有する」のに対して、引用例1発明では、副成分として「酸化タンタルを含有していない」点、
(B)本願発明は、「酸化タンタル、酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンをTa_(2)O_(5)、WO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.01モル≦Ta_(2)O_(5)+WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モルである」であるのに対して、引用例1発明では、「V_(2)O_(5),MoO_(3)およびWO_(3)から選択される少なくとも1種を含む第3副成分:0.1?3モル」とされている点、
相違点(A)及び相違点(B)は、いずれも酸化タンタルの含有に関するものであるから、以下で併せて検討する。
本願発明が副成分として「酸化タンタル」を含有する技術的意義は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)に「【0025】酸化タンタル:Ta_(2)O_(5)換算で0.01?1.0モル 酸化タンタルは酸化バナジウムと同様容量の経時変化を改善する。また誘電率を若干高める効果がある。酸化タンタルが0.01モル未満ではそのような作用を得ることが困難となり、1.0モルを超えると初期絶縁抵抗の低下を招く。よって酸化タンタルの含有量はTa_(2)O_(5)換算で0.01?1.0モルとした。」と記載され、本願発明が「酸化タンタル、酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンをTa_(2)O_(5)、WO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.01モル≦Ta_(2)O_(5)+WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モルである」であるとする技術的意義は、当初明細書に「【0029】酸化タンタル、酸化タングステン、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンの総量は、Ta_(2)O_(5)、WO_(3)、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)に換算したときに、0.01モル≦Ta_(2)O_(5)+WO_(3)+V_(2)O_(5)+MoO_(3)≦1.0モルを満たす必要がある。酸化モリブデンも酸化タンタル?酸化バナジウムと同等の機能を有している。これらの酸化物を総量で0.01モル以上含有することにより、直流電界下での容量の経時変化を改善するとともに、絶縁破壊電圧を向上させる。上記酸化物の総量が1.0モルを超えると初期絶縁抵抗の極端な低下を招く。」と記載され、いずれにおいても、酸化タンタルが酸化バナジウムと同等の機能を有し、効果を奏することが窺える。
そして、引用例2にはBaTiO_(3)が94.0?99.0モル%の範囲からなる高誘電率誘電体磁器組成物においてTa_(2)O_(5) を0.5? 3.0モル%として比誘電率を高くするとともに静電容量の温度変化率を少なくし、EIAJに規定するX7R特性を満足しようとするものであり、後述する本願明細書段落【0048】に記載されている本願発明の効果と共通するということができる。
例えば、本願の出願前に頒布されたことが明白な特開2000-103668号公報(以下、「周知例1」という。)にはチタン酸バリウム系固溶体に関し、「表5、6から明らかなように、主成分中の添加成分として、さらにD(ただし、DはV,Nb,Ta,Mo,W,YおよびScから選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物)を含有させることにより、積層セラミックコンデンサの内部電極としてNiなどの卑金属を用いることができ、誘電率が200以上で300kHz、100Vp-pの条件下でのtanδが0.7%以下で、静電容量の温度特性がJIS規格で規定するB特性およびEIA規格で規定するX7R特性を満足するものが得られ、しかも、10kV/mmの高い電界強度で使用したときに、絶縁抵抗が静電容量との積(CR積)で表した場合に、室温で11000Ω・F以上と高い値を示す。さらに、150℃、DC25kV/mmの加速試験において、平均寿命時間が900時間以上と長い。」(【0072】)と記載されるように、チタン酸バリウム主成分に添加成分として「V,Nb,Ta,Mo,W,YおよびScから選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物)を含有させることにより」積層セラミックコンデンサとして望ましい効果を奏することが知られている。さらに、誘電体磁器組成物において絶縁抵抗性や絶縁破壊強度を大きくするバナジウム酸化物に代えてタンタル酸化物を用いることについては、特開平4-112413号公報(以下、「周知例2」という。)の特許請求の範囲(3)及び発明の詳細な説明の関連箇所や特開平9-12361号公報(以下、「周知例3」という。)の請求項7及び発明の詳細な説明の関連箇所に記載されている。
したがって、チタン酸バリウム誘電体セラミック組成物の分野においてTa酸化物がV酸化物等と置換可能であることは、引用例2、周知例1乃至3に記載された技術事項によれば周知技術であるということができ、引用例1発明においてこの周知技術を適用することを妨げる特段の事情も存在しない。
してみれば、引用例1発明において上記の相違点A及び相違点Bにかかる特定事項を採用することは、当業者であれば容易に想到することができたものというべきである。
本願発明の「【発明の効果】以上説明したように本発明の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを主成分として、副成分の希土類として酸化ディスプロシウムを含有させたことから、比誘電率が高く、還元雰囲気中での低温焼成が可能である。また、X7R特性を満足し、かつ温度に対する誘電損失が極めて少なく、金属ニッケルを内部電極として用いた積層セラミックコンデンサの誘電体材料に用いた際に、構造欠陥が少なく、しかもバイアス特性の優れ、高温負荷寿命が長い積層セラミックコンデンサを得ることができる。」(【0048】)については、引用例1発明の効果(記載事項(ヘ)参照)と比較しても格別顕著なものとすることはできない。

VIII.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明及び引用例2、周知例1乃至3に記載された技術事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-04 
結審通知日 2009-09-07 
審決日 2009-09-18 
出願番号 特願2000-381865(P2000-381865)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 木村 孔一
安齋 美佐子
発明の名称 誘電体磁器組成物及びこれを用いた積層セラミックコンデンサ  
代理人 末成 幹生  
代理人 末成 幹生  

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