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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E05D
管理番号 1206904
審判番号 無効2007-800125  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-03 
確定日 2009-07-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3489668号「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年2月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10085号平成20年5月30日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3489668号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
(1)本件特許第3489668号の請求項1に係る発明についての出願は平成11年5月31日に出願され、平成15年9月11日付で手続補正がなされ、同年11月7日にその発明について特許権の設定登録がなされたものであり、平成19年4月9日にその発明に対して訂正審判(訂正2007-390044号)が請求され、同年7月5日にその発明について訂正認容の審決がなされ確定したものである(訂正認容後の明細書を以下「基準明細書」という。)。
(2)請求人は、同年同月3日に訂正認容後の請求項1に係る発明についての特許に対して無効審判を請求し、平成20年2月22日にその特許を無効とする審決がなされた。
(3)それに対し、被請求人は、同年3月10日に知的財産高等裁判所に上記特許を無効とする審決の取消を求める訴え(平成20年(行ケ)第10085号事件)を提起し、同年4月1日に訂正審判(訂正2008-390036号)を請求したところ、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定に基づく審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10085号事件、平成20年5月30日決定)がなされ確定し、その後、被請求人は同法第134条の3第2項により指定された期間内である同年6月23日に訂正請求書を提出して訂正(以下「本件訂正」という。)を求め、上記同年4月1日付の訂正審判は、同法第134条の3第4項の規定により、取り下げられたものとみなすこととなった。

なお、請求人は、同年7月30日に弁駁書を提出し、被請求人は同年8月29日に答弁書を提出した。

第2.訂正の可否について
本件訂正は、訂正事項1(特許請求の範囲の請求項1の訂正)、訂正事項2(発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】の訂正)、訂正事項3(発明の詳細な説明の段落【0017】及び【0021】の訂正)及び訂正事項4(発明の詳細な説明の段落【0025】の訂正)からなるものである。

1.訂正事項1について
(1)訂正事項1の訂正の内容は次のとおりである。
訂正事項(1a)
請求項1において、「の何れか一方に、」を「のうち、第2突き合わせ端面には」と訂正し、「他方には」を「第1突き合わせ端面には」と訂正する。

訂正事項(1b)
請求項1において、「第1ディスクは筒状本体と、その」を「第1ディスクは、筒状本体と、前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の」と訂正し、「露呈状態となるよう内嵌して」を「露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って」と訂正し、「摺動ディスクとからなり」の後に「前記摺動ディスクは前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し、」を挿入する。

訂正事項(1c)
請求項1において、「前記第1ディスクの筒状本体は、」の前に「前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され、」を挿入する。

訂正事項(1d)
請求項1において、「延びており、」を「延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており、」と訂正する。

訂正事項(1e)
請求項1において、「摺動ディスクには前記の係嵌凸部か係嵌凹所を設けて」を「摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて、」と訂正し、「前記第2ヒンジ筒内で前記第2ディスクの係嵌凹所か係嵌凸部に係嵌する」を「前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は、前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌する」と訂正する。

訂正事項(1f)
請求項1において、「抜け止め弾性爪を設け、」の後に「前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、」を挿入する。

(2)訂正事項1に関する当審の判断
訂正事項(1a)について
訂正事項(1a)は、訂正前に「係嵌凹所」を「第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面の何れか一方に」設けられたとしていた構成を訂正後に「第2ディスクの第2突き合わせ端面に」設けられるとする構成に限定し、かつ、訂正前に「係嵌凸部」を「第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面」の「他方に」設けられたとしていた構成を訂正後に「第2ディスクの第2突き合わせ端面に」設けられるとする構成に限定するものであるから、係嵌凸部と係嵌凹部の位置を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、本件の図3-6及び基準明細書の段落【0017】の記載によれば「第2突き合わせ端面(13a)には係嵌凹所(13b)を所定の周角度位置にあって複数個設け、第1突き合わせ端面(12a)には上記係嵌凹所(13b)に対して、コイルスプリング(14)による弾力により係合する複数の係嵌凸部(12b)を設け」ることが開示されているといえるから、訂正事項(1a)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

訂正事項(1b)について
訂正事項(1b)は、摺動ディスクのスライド用切込み溝に内嵌する部分の延出位置をディスク本体の周面に限定すると共に、摺動ディスクはディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続しているとの限定をしているので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、本件の図5に示された、第1ディスク(12)には、ディスク本体と称し得る部分の存在が認められるとともに、ディスク本体の周面から延びる部分の存在も認められ、また、本件の図1(B)には、「第1ディスク(12)は、筒状本体(12A)と、前記筒状本体(12A)に内嵌するディスク本体と前記筒状本体(12A)の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝(12d)に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体(12A)内で前記スライド用切込み溝(12d)に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスク(12B)とからなり、前記摺動ディスク(12B)は前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面(12a)を有し」ている構成が示されているから、訂正事項(1b)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

訂正事項(1c)について
訂正事項(1c)は、摺動ディスク側の第1の突き合わせ端面と筒状本体外にある第2ディスクの第2の突き合わせ端面との突き合わせを許すようにディスク本体とスライド用切込み溝に内嵌するようにディスク本体の周面から延びる部分が筒状本体内にあることに限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、本件の図1(B)から、係嵌凸部(12b)と係嵌凹所(13b)とが係嵌状態であることが把握される。そして、基準明細書の【図面の簡単な説明】の「【図2】図1(B)に係る組立完成時における横断平面図である。」との記載を踏まえると、図2に示されたものにおいても、係嵌凸部(12b)と係嵌凹所(13b)とが係嵌状態であるといえ、しかも摺動ディスク(12B)の第1突き合わせ端面(12a)が前記筒状本体(12A)外にある第2ディスク(13)の第2突き合わせ端面(13a)に突き合わさるように前記筒状本体(12A)内に配置されているといえる。したがって、訂正事項(1c)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

訂正事項(1d)について
訂正事項(1d)は第1ディスクの筒状本体が第2ヒンジ筒内に延びている構成について、第1ヒンジ筒(10)と第2ヒンジ筒(11)との間を跨っていることを明らかにするものであるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的にするものといえる。
そして、本件の図1(B)及び図2には、第1ディスク(12)の筒状本体(12A)は、第2ヒンジ筒(11)内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒(10)と第2ヒンジ筒(11)との間を跨っている態様が示されている。また、願書に最初に添付した図1(B)及び図2にも同じ態様が示されている。したがって、訂正事項(1d)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

訂正事項(1e)について
訂正事項(1e)は、係嵌凸部と係嵌凹部との係嵌位置を筒状本体の外部に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、上記「訂正事項(1c)について」で述べたとおり、図2において、係嵌凸部(12b)と係嵌凹所(13b)とが係嵌状態であるといえ、しかも、図2においては、「第1ディスク(12)の摺動ディスク(12B)の第1突き合わせ端面(12a)には筒状本体(12A)の開口部から突出するように係嵌凸部(12b)を設けて、前記筒状本体(12A)の開口部から突出する前記係嵌凸部(12b)は、第2ヒンジ筒(11)内で且つ前記第1ディスク(12)の筒状本体(12A)の外部で第2ディスク(13)の係嵌凹所(13b)に係嵌するといえる。したがって、訂正事項(1e)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

訂正事項(1f)について
訂正事項(1f)は、係嵌組成体内におけるコイルスプリングの配置を特定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、本件の図2には、筒状本体(12A)において、摺動ディスク(12B)がある側とは反対側の側端部の内側にはコイルスプリングの一端部を受ける内鍔が認められるから、同図には、コイルスプリング(14)は、その両端が前記摺動ディスク(12B)と筒状本体(12A)の摺動ディスク(12B)とは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように第1ディスクの筒状本体(12A)内に配置される構成が示されているといえる。したがって、訂正事項(1c)は、基準明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものと認められる。

さらに、訂正事項1における訂正事項(1a)ないし(1f)は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかと認められる。

以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、基準明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2.訂正事項2について
(1)訂正事項2の訂正の内容は次のとおりである。
訂正事項(2a)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「の何れか一方に、」を「のうち、第2突き合わせ端面には」と訂正し、「他方には」を「第1突き合わせ端面には」と訂正する。

訂正事項(2b)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「第1ディスクは筒状本体と、その」を「第1ディスクは、筒状本体と、前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の」と訂正し、「露呈状態となるよう内嵌して」を「露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って」と訂正し、「摺動ディスクとからなり、」の後に「前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し、」を挿入する。

訂正事項(2c)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「前記第1ディスクの」の前に「前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され、」を挿入する。

訂正事項(2d)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「延びており、」を「延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており、」と訂正する。

訂正事項(2e)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「摺動ディスクには前記の係嵌凸部か係嵌凹所を設けて」を「摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて、」と訂正し、「前記第2ヒンジ筒内で前記第2ディスクの係嵌凹所か係嵌凸部に係嵌する」を「前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は、前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌する」と訂正する。

訂正事項(2f)
発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】において、「抜け止め弾性爪を設け、」の後に「前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、」を挿入する。

(2)訂正事項2に関する当審の判断
訂正事項2における訂正事項(2a)ないし(2f)は、いずれも特許請求の範囲の請求項1における訂正事項1に対応して基準明細書の【課題を解決するための手段】を訂正するものである。したがって、訂正事項2は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、基準明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正事項3について
(1)訂正事項3の訂正の内容は次のとおりである。
訂正事項(3a)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「の何れか一方に、」を「のうち、第2突き合わせ端面13aには」と訂正し、「他方には」を「第1突き合わせ端面12aには」と訂正する。

訂正事項(3b)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「第1ディスク12は筒状本体12Aと、その」を「第1ディスク12は、筒状本体12Aと、この筒状本体12Aに内嵌するディスク本体と筒状本体12Aの」と訂正し、「露呈状態となるよう内嵌して」を「露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体12A内でスライド用切込み溝12dに沿って」と訂正し、「摺動ディスク12Bとからなっている。」の後に「摺動ディスク12Bは、ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面12aを有する。」を挿入する。

訂正事項(3c)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「そして」の前に「摺動ディスク12Bのディスク本体とディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、係嵌凸部12bと係嵌凹所13bとの係嵌状態で摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aが筒状本体12A外にある第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに突き合わさるように前記筒状本体12A内に配置されている。」を挿入する。

訂正事項(3d)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「延びており、」を「延びて第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11との間を跨っており、」と訂正する。

訂正事項(3e)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「摺動ディスク12Bには図示の如く前記の係嵌凸部12bか、図示されていない係嵌凹所13bを設けて」を「摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面には図示の如く前記の係嵌凸部12bを設けて、」と訂正し、「第2ディスク13の係嵌凹所13bか、図示されていない係嵌凸部12bに係嵌する」を「且つ第1ディスク12の筒状本体12Aの外部で第2ディスク13の係嵌凹所13bに係嵌する」と訂正し、段落【0021】の「または係嵌凸部12b」を削除する。

訂正事項(3f)
発明の詳細な説明の段落【0017】において、「抜け止め弾性爪13cを設けるようにする。」の後に「コイルスプリング14は、その両端が摺動ディスク12Bと筒状本体12Aの摺動ディスク12Bとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように第1ディスク12の筒状本体12A内に配置されている。」を挿入する。

(2)訂正事項3に関する当審の判断
訂正事項3における訂正事項(3a)ないし(3f)は、いずれも特許請求の範囲の請求項1における訂正事項1に対応して基準明細書の段落【0017】及び【0021】を訂正するものである。したがって、訂正事項3は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、基準明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

4.訂正事項4について
(1)訂正事項4の訂正の内容は次のとおりである。
訂正事項(4a)
発明の詳細な説明の段落【0025】において、「係嵌組成体は第1ディスクを筒状本体と、その」を「係嵌組成体における第1ディスクは、筒状本体と、この筒状本体に内嵌するディスク本体と筒状本体の」に訂正し、「露呈状態となるように嵌合して」を「露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って」と訂正する。

訂正事項(4b)
発明の詳細な説明の段落【0025】において、「係散」を「係嵌」に訂正する。

(2)訂正事項4に関する当審の判断
訂正事項(4a)は、特許請求の範囲の請求項1における訂正事項1に対応して基準明細書の段落【0025】を訂正するものである。したがって、
訂正事項(4a)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、基準明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
そして、訂正事項(4b)は、誤記の訂正を目的とするものであることは明らかであり、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでることも明らかで、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

5.本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項第1号の特許請求の範囲の減縮、同項第2号の誤記の訂正及び同項第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするもので、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3.本件発明
本件訂正後の本件請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と、第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し、当該連装の第1、第2ヒンジ筒には別途組成済の係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するだけで係嵌状態に保持するようにし、当該組成済の係嵌組成体は、上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを、第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し、第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち、第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け、第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して、コイルスプリングによる弾力により係合する複数の係嵌凸部を設け、第1、第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸部の係嵌凹所への係嵌を、他の係嵌凹所へ切り替えるようにし、上記の第1ディスクは、筒状本体と、前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとからなり、前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し、前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され、前記第1ディスクの筒状本体は、前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており、前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて、前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は、前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に、前記第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け、前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、さらに順次連装されている当該第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記コイルスプリングをその弾力によって前記の摺動ディスクに弾接して、当該摺動ディスクと前記したスライド用切込み溝の奥端縁との間に、前記係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して上記第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されており、前記第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と、当該端面から突設された係止爪部に形成の前記抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は、前記の如く第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されていることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置。」

第4.当事者の主張
1.請求人の主張
これに対して、請求人は、次の無効理由その1-3を挙げて、本件発明についての特許は、無効とすべきである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証を提出している。

無効理由その1
無効理由その1は、審判請求書及び平成20年1月23日に実施した口頭審理の第1回口頭審理調書(以下「口頭審理調書」という。)によれば、次の(1)-(3)で示した理由からなるものと認められる。
(1)本件発明の特許は、平成15年9月11日付け手続補正書による補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、平成14年改正前特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。
(2)本件発明の特許は、訂正2007-390044号で認容された訂正が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではないため、特許法第126条第3項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきである。
(3)本件発明の特許は、訂正2007-390044号で認容された請求項1に係る発明に進歩性がなく独立特許要件を備えていないため、特許法第126条第5項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきである。

無効理由その2
本件発明は甲第1、5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲第7-23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

無効理由その3
本件発明は甲第5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲第7-23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:円井義弘、「平成19年第0104号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書(謄本)」、平成19年4月9日作成
甲第2号証:「ASTELパーソナルハンディホン保証書 アステルショップ神辺店」、10年3月20日(お買上げ日)
甲第3号証:鳥取三洋電機株式会社情報通信事業本部、「フリーストップヒンジ」、97-09-29
甲第4号証:鳥取三洋電機株式会社情報通信事業本部、「クリップヒンジ」、97-09-29
甲第5号証:円井義弘、「平成19年第0102号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の構造等に関する事実実験公正証書(謄本)」、平成19年4月9日作成
甲第6号証:円井義弘、「平成19年第0103号折畳み式携帯電話用ヒンジ装置の等に関する事実実験公正証書(謄本)」、平成19年4月9日作成
甲第7号証:特開平10-153214号公報
甲第8号証:意匠登録第1039131号公報
甲第9号証:意匠登録第1039132号公報
甲第10号証:実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマイクロフィルム
甲第11号証:韓国公開特許第1998-042991号公報
甲第12号証:米国特許第4645905号明細書
甲第13号証:実開昭60-10924号公報
甲第14号証:実開昭60-147804号公報
甲第15号証:実開昭62-2828号公報
甲第16号証:実開昭63-66910号公報
甲第17号証:実開平2-87109号公報
甲第18号証:実開平3-78495号公報
甲第19号証:実開平3-96423号公報
甲第20号証:特開平5-44713号公報
甲第21号証:実開平6-49676号公報
甲第22号証:実開平6-87715号公報
甲第23号証:登録実用新案第3036010号公報

なお、平成19年11月9日付の弁駁書と共に提出された甲第24号証(特開平9-195611号公報)、甲第25号証(特開平8-298538号公報)、甲第26号証(特開平9-32846号公報)、甲第27号証(特開平11-41328号公報)及び甲第28号証(西島孝喜、「明細書の記載、補正及び分割に関する運用の変遷」、2007年2月7日)並びに平成20年7月30日付の弁駁書と共に提出された甲第24号証(参考図3)、甲第25号証(欧州特許出願公開第445559号明細書)及び甲第26号証(特開平10-288217号公報)は、いずれも参考資料として扱うこととした(口頭審理調書参照。)。

2.被請求人の主張
一方、被請求人は、次のとおり本件発明の特許は維持される旨を主張し、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している。

無効理由その1について
(1)平成15年9月11日付け手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(2)訂正2007-390044号で認容された訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(3)訂正2007-390044号で認容された請求項1に係る発明は、独立特許要件を備えているものである。

無効理由その2について
本件発明は甲第1、5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲第7-23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

無効理由その3について
本件発明は甲第5及び6号証に示される本件出願前に公然実施をされた発明並びに甲第7-23号証に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(証拠方法)
乙第1号証:ソテック株式会社、「会社案内」及び「技術資料-圧縮コイルばねの計算式」、[online]、[平成19年9月27日検索]、インターネット
乙第2号証:実願昭54-21292号(実開昭55-121544号)のマイクロフィルム


第5.無効理由の検討
1.無効理由その3について
まず、無効理由その3について検討する。
(1)甲第5、10、11、17及び20号証
(1-1)甲第5号証には、添付された写真とともに、以下の事項が記載されている。
・「1台の折畳み式携帯電話(本件携帯電話)を取り出し、これが事実実験の対象機器の本件携帯電話である旨告げたので、」(第2頁第8-10行)

・「(2)次に、小名主任が本件携帯電話の本体(各種のキーが設けられている筐体部分)の裏側の蓋を開け、収納された電池パックを取り外すと、収納スペースの底面に
『<エクセレントシルバー>
[R ] WZAGO258691
[T ] P98-7018-0
機器名称 デジタル・ムーバN206S
HYPER
申請者 日本電気株式会社
製造年月 1998/5
NTT DoCoMo
… 』
等と記された白地のフィルム様の表示票が貼付され、同表示票には、本件携帯電話は、『デジタル・ムーバN206S HYPER』という名称で西暦1998年5月に日本電気株式会社(NEC)により製造されたという趣旨の表示がなされていた(末尾添付の写真3、4参照)。」(第2頁第18行-第3頁第16行)

・「本件携帯電話は、外観上、格別損傷箇所や異常な状況は見当たらず、何らの支障もなく折畳み状態から見開き角度を順次広げて概ね水平近くなるまで見開き状態にすることができることを本職において現認した(末尾添付の写真1、2参照)。」(第4頁第4-8行)

・「(6)『止め輪』とか、『Eリング』と呼ばれている環状になった金具が嵌め込まれている。」(第9項第2-4行)

・「(7)続いて、小名主任が左右の筒状部から突き出ている前記突起部分の各先端部を、工具を用いて順次外側の方向に押すと、本件ヒンジ装置がそれぞれ外側に押し出されて取り外された(末尾添付の写真21、22参照)。」(第9頁第15-19行)

・「『外周部異形固定カム』も、銀色の金属様の材質で作られており、その形状等は末尾添付の写真24、32、37のとおりである。外周部に不規則な凹凸があり(注:「凹凸あり」は誤り。)、『軸』が圧入された側の面上には、半径の異なる同心円弧状の二筋の溝が向かい合うように穿設され、その溝の軌道それぞれの両端部には、同じ大きさの半球状の窪みが穿たれている。そして、その半球状の窪みの深さは、いずれも溝の深さよりも一段深くなっている。」(第15頁第7-15行)

・「『ボールハウジング』は、樹脂様の材質で作られており、軸部分と『ボール』を保持する台座部分からなっている。その形状等は末尾添付の写真33、34、38のとおりである。軸部分は円筒形状をなし、その外周部上には、縦(軸線方向)に2本の凹線が走っている。台座部分は、軸部分よりもひとまわり大きく、その端面(『外周部異形固定カム』に面する外周縁部)は太いマツタケ(きのこ)のような形状をなし、若干の厚みを有している。そして、マツタケのような形状をしている外周縁部上には、金属製の光沢のある白金色の『ボール』2個が組み込まれているほか、中心を貫通した軸孔とともに、3個の円形の窪みも存在し、2個の『ボール』の脱着は可能になっている(末尾添付の写真34参照)。」(第18頁第15行-第19頁第9行)

・「『ばね』は、銀色の金属様の材質で作られており、その形状等は末尾添付の写真35のとおりである。コイル状をなし、『軸』が『ばね』の中心部を貫通するとともに、『ばね』の一方の端は『ボールハウジング』の台座部の『ボール』が組み込まれている外周縁部(端面)の裏側(内側)にある溝に、他方の端は『筒状ケース』の『軸』頭部側の端面の裏側(内側)にある溝にそれぞれ組み付く形で『ボールハウジング』内に組み込まれている。」(第20頁第15行-第21頁第4行)

・「『筒状ケース』は、樹脂様の材質で作られており、その形状等は末尾添付の写真36、39、40のとおりである。円筒形状をなし、その外周部には、縦(軸線方向)に2本の凹線が軸線方向に平行に向かい合うような位置に走っている。内側には『ボールハウジング』外周部の2本の凹線と嵌合するように凸条部が、軸線方向に平行に向かい合うような状態で形成されている。」(第21頁第10-17行)

・「(1) 本件ヒンジ装置を分解し、装置を構成する各部材の組付き順序に従って横に並べた状況は、末尾添付の写真42のとおり(但し、写真の右端に写っている黒色のリングは前記の『ゴムシート』)である。」(第22頁第10-14行)

・写真5、6、21、22及び44には、「キー側筐体に固設した第1筒状部」、「第1筒状部の軸線と直交状である第1周側端縁部」、「ディスプレー側筐体に固設した第2筒状部」、「第2筒状部の軸線と直交状である第2周側端縁部」及び「第1周側端縁部と第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設すること」が示されている。

・写真17-23には、「外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させること」及び「連装の第1、第2筒状部には組成状態で第2筒状部から第1筒状部向きに抜き出し可能なヒンジ装置を第1筒状部から第2筒状部へ貫入して、外周異形固定カムから突出した軸の突起部分の溝にEリング(注:「止め輪」ともいう。)を設けることにより保持するようにしたこと」が示されている。

・写真19、21及び22には、「第1筒状部に筒状ケースを内嵌し、第2筒状部に外周部異形固定カムを内嵌すること」が示されている。

・写真33、34、38及び39には、「ボールハウジングの第1突き合わせ端面」及び「第1突き合わせ端面には窪みに対して、係合する2個のボールを設けること」が示されている。

・写真32、37及び42には、「外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面」及び「第2突き合わせ端面には窪みを所定の周角度位置にあって4個設けること」が示されている。

・写真22、23、24及び40には、「ボールハウジングは、ボールと窪みとの係嵌状態で前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面が筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状ケース外に配置され」ることが示されている。

・写真22、23、24及び40には、「ボールハウジングの第1突き合わせ端面にはボールと窪みとの係嵌状態で筒状ケースの開口部から突出するように前記ボールを設けて、前記筒状ケースの開口部から突出する前記ボールは、前記筒状ケースの外部で外周部異形固定カムの窪みに係嵌する」ことが示されている。

・写真30及び42には、「順次連装されている外周部異形固定カム、ボールハウジング、ばね、筒状ケースに対して軸を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記外周部異形固定カム、ボールハウジング、ばね、筒状ケースが一体となるよう構成されていること」が示されている。

・写真17-19には、「第2筒状部の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部」及び「抜け止め周縁部でヒンジ装置の軸の突起部分の溝にEリング(注:「止め輪」ともいう。)が嵌め込まれていること」が示されている。

・写真21及び22には、「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」が示されている。

そして、甲第5号証の第2頁第18行-第3頁第16行の記載及び添付された写真3、4の内容を総合すると、甲第5号証の対象製品であるN206Sという折畳み式携帯電話のヒンジ装置が本件出願前に公然実施をされたものであると認めることができ、この点については被請求人も争っていない(口頭審理調書に記載の被請求人の陳述「甲第5号証中のNEC製のN206Sという折畳み式携帯電話のヒンジ装置が公然実施されたものであるという点は認める。」を参照。)。

甲第5号証の上記記載事項及び添付された写真内容を総合すると、本件出願前に公然実施をされたものとして、次の発明を認めることができる。
「キー側筐体に固設した第1筒状部の軸線と直交状である第1周側端縁部と、ディスプレー側筐体に固設した第2筒状部の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し、当該連装の第1、第2筒状部には組成状態で第2筒状部から第1筒状部向きに抜き出し可能なヒンジ装置を第1筒状部から第2筒状部へ貫入して、外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分の溝にEリングを設けることにより保持するようにし、当該ヒンジ装置は、上記の第1筒状部に筒状ケースを、第2筒状部には外周部異形固定カムを夫々内嵌し、ボールハウジングの第1突き合わせ端面と外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面のうち、第2突き合わせ端面には窪みを所定の周角度位置にあって4個設け、ボールハウジングの第1突き合わせ端面には上記窪みに対して、係合する2個のボールを設け、前記ボールハウジングは、前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面が筒状ケース外にある外周部異形固定カムの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状ケース外に配置され、前記ボールハウジングの第1突き合わせ端面には前記ボールと窪みとの係嵌状態で前記筒状ケースの開口部から突出するように前記ボールを設けて、前記筒状ケースの開口部から突出する前記ボールは、前記筒状ケースの外部で前記外周部異形固定カムの窪みに係嵌するようにすると共に、前記外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させ、前記ばねは、その両端が前記ボールハウジングとボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側とにそれぞれ係合するように前記筒状ケース内に配置され、さらに順次連装されている当該外周部異形固定カム、ボールハウジング、ばね、筒状ケースに対して軸を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記外周部異形固定カム、ボールハウジング、ばね、筒状ケースが一体となるよう構成されており、第2筒状部の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部でヒンジ装置の軸の突起部分の溝にEリングが嵌め込まれるように形成されている折畳み式携帯電話の第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置。」(以下「公然実施発明」という。)

(1-2)甲第10号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「図において附号1A、1Bは蝶番の取付け片を示し、此れ等取付け片は互いに隣接する縁部で対称的に形成された筒状部2A、2Bを介して軸3、3により回動自在に連結されている。 而して此の実施例では下方の軸3の先端は筒状部2Aの中間で終つており、そして此の筒状部2Aの空白部分にはスプリング4を介して係止盤5が上下方向に摺動自在に装着されている。 此の係止盤5は第2図に示す様にその上面に上方に突出した突条部6を有し、そして此の突条部6の両側部分は前記筒状部2Aの開口縁部に形成した一対の長溝7に係入されており、此れにより係止盤の回動が阻止されている。 又前記筒状部(注:「突状部」は誤り。)2Aの端面に相対する他方の係止片の筒状部2Bの開端面には前記突条部6の先端が係入する比較的浅い一対の凹陥部8が形成されている。 此の両者の係合は設定された力の範囲内で筒状部2A、2Bの相関的な回動を阻止しそして設定以上の回動力が加えられると前記両者の係合がはずれその回動制限が解除される様な形状及び寸法に形成されている。 従つて前記突条部の先端は丸味をもたす事が要求され又此れに係合する凹陥部8は浅い円弧に形成する事が好ましい。
本考案では以上の様に構成されているので取付け片1、1の相対的な回動運動中において、係止盤5の突条部6が筒状部2Bの凹陥部8に係入すると此の係止盤を押し上げるスプリングの圧力及び此れ等係合部分の形態によつて定められた範囲内で両取付け片1A、1Bの相対的な回動が制限され、此れにより此の蝶番を使用せる扉等の回動を所定の位置で一たん停止させる事が出来るものである。」(明細書第2頁第2行-第3頁第13行)

・第1及び2図には、「筒状部2Bの第2突き合わせ端面に、凹陥部8を設けること」、「係止盤5の第1突き合わせ端面には筒状部2Bの第2突き合わせ端面の凹陥部8に対して、スプリング4による弾力により係合する突条部6を設けること」、「筒状部2Aの側端縁から軸線方向へ欠設された長溝に露呈状態となるよう内嵌して軸線方向へスライド自在とした係止盤5」及び「スプリングをその弾力によって係止盤5に弾接すること」が示されている。

(1-3)甲第11号証の第6図(a)、(b)及び(c)には、「弾性部材30は、その両端が第2部材28とハウジング24の第2部材28の反対側の側端部の止め突起48とにそれぞれ係合する」ことが示されている。

(1-4)甲第17号証の第2図には、「枢支ピン7が弾性を有すること」が示され、第3図には、「リンク杆3の基端から突設された枢支ピン7の抜け止め面との間に形成された長さLの離間箇所は、アーム6の板厚寸法と略等しい長さに形成されていること」が示され、また、第2及び3図には、「枢支ピン7を取付孔11に押込むだけで、ガタ付きなく係合すること」が示されている。

(1-5)甲第20号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「【0009】また、リンクプレートから延出される係合片をボス部に挿入し、ボス部の開口端部に係合片の先端に設けた係合爪を係止する。係合爪には開口端部と係止する部分にテーパ面が設けられている。つまり、係合爪が開口端部に係止されると係合片がボス部中心に向かって(注:「中心向かって」は誤り。)撓み、係合爪8のテーパ面9と開口端部3とは軸方向(図1a上下方向)にがたつきなく係合する。」

・「【0013】7はリンクプレート5から延出される複数の係合片であり、係合片7の先端にはボス部2の開口端部3と係合する係合爪8が設けられている。係合爪8には開口端部3と当接する位置にテーパ面9が設けられている。このテーパ面9は中央部11から外側部12に向かってリンクプレート5からの距離が遠くなるように設定されており、且つ、ボス部2の高さをHa、リンクプレート5から中央部11までの高さをHb、リンクプレート5から外側部12までの高さをHcとすると、それぞれの高さの関係は
【0014】
【数1】Hc>Ha>Hb
となるように設定されている。」

(2)対比
本件発明と公然実施発明とを対比すると、公然実施発明の「キー側筐体」は本件発明の「第1部材」に相当し、以下同様に、「第1筒状部」は「第1ヒンジ筒」に、「ディスプレー側筐体」は「第2部材」に、「第2筒状部」は「第2ヒンジ筒」に、「筒状ケース」及び「ボールハウジング」からなるものは「第1ディスク」に、「外周部異形固定カム」は「第2ディスク」に、「窪み」は「係嵌凹所」に、「4個」は「複数」に、「2個」は「複数」に、「筒状ケース」は「(第1ディスクの)筒状本体」に、「ボールハウジング」は「(第1ディスクの)摺動ディスク」に、「ばね」は「コイルスプリング」に、「軸」は「軸杆」に、「折畳み式携帯電話」は「折り畳み式機器」にそれぞれ相当する。

また、一般に、折畳み式携帯電話は、通話時には開状態で保持され、携帯時には閉状態で保持されるものであるから、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」が、「開閉保持」機能を有することは明らかというべきである。したがって、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」は、本件発明の「開閉保持用ヒンジ装置」に相当する。

次に、公然実施発明の「ヒンジ装置」は「組成状態で第2筒状部から第1筒状部向きに抜き出し可能」であることから、組み立ての際においても、「別途組成済」の状態で第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するものと認められる。

そして、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」が「開閉保持」機能を有することから、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」が、第1ヒンジ筒に第1ディスクが回転状態で内嵌されるとは認められないし、第2ヒンジ筒に第2ディスクが回転状態で内嵌されるとも認められない。したがって、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」は「第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを内嵌し」かつ「第2ヒンジ筒に回転止め状態で第2ディスクを内嵌する」ものと認められる。
また、公然実施発明の「第1、第2筒状部及びヒンジ装置からなる装置」が「開閉保持」機能を有することから、公然実施発明において「第1、第2部材の閉時と開時にボールの係嵌凹所への係嵌を、他の係嵌凹所へ切り替える」ものと認められる。

さらに、公然実施発明の「ヒンジ装置」と本件発明の「係嵌組成体」は、「組成体」の概念で共通し、公然実施発明の「ボール」と本件発明の「係嵌凸部」は、「係嵌凸状部」の概念で共通し、公然実施発明の「外周部異形固定カムから軸の突起部分を突出させ」と本件発明の「第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け」は「第2ディスクには抜け止め部材を設け」の概念で共通し、公然実施発明の「ボールハウジングとは反対側の軸の頭部側の端面の裏側」と本件発明の「筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔」は「摺動ディスクとは反対側の係合部材」の概念で共通する。

すると、本件発明と公然実施発明は次の点で一致する。
「第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と、第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し、当該連装の第1、第2ヒンジ筒には別途組成済の組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入して保持するようにし、当該組成済の組成体は、上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを、第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し、第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち、第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け、第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して、係合する複数の係嵌凸状部を設け、第1、第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸状部の係嵌凹所への係嵌を、他の係嵌凹所へ切り替えるようにし、前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸状部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸状部を設けて、前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸状部は、前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に、前記第2ディスクには抜け止め部材を設け、前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記摺動ディスクとは反対側の係合部材とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、さらに順次連装されている当該第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されている折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置。」

一方で、本件発明と公然実施発明は、組成体を第2ヒンジ筒へ貫入して保持するための構成、係嵌凹所及び係嵌凸状部の係合のための構成並びに係嵌凹所及び係嵌凸状部の係合する場所に関する構成において相違する(それぞれの構成における相違点をそれぞれ「相違点1」、「相違点2」及び「相違点3」という。)。
各相違点は次のとおりである。

<相違点1>
・組成体に関し、本件発明では、第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入「するだけで係嵌状態に」保持される「係嵌組成体」であるのに対し、公然実施発明では、第1ヒンジ筒(第1筒状部)から第2ヒンジ筒(第2筒状部)へ貫入「して、外周部異形固定カムから突出した軸の突起部分にEリングを設けることにより」保持される「ヒンジ装置」である点。
・抜け止め部材に関し、本件発明においては、「抜け止め弾性爪」であるのに対し、公然実施発明においては、「軸の突起部分」である点。
・係合部材に関し、本件発明においては、「筒状ケースの側端部の内鍔」であるのに対し、公然実施発明においては、「軸(軸杆)の頭部側の端面の裏側」である点。
・本件発明においては、「第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と、当該端面から突設された係止爪部に形成の抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は、第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されている」構成を有するのに対して、公然実施発明においては、かかる構成を有していない点。

<相違点2>
・係嵌凸状部に関し、本件発明においては、「係嵌凸部」であるのに対し、公然実施発明においては、「ボール」である点。
・係嵌凹所及び係嵌凸状部の係合に関し、本件発明では、「コイルスプリングによる弾力により」なされる構成であるのに対し、公然実施発明では「ばね」はあるもののかかる構成について明確にされていない点。
・摺動ディスクに関し、本件発明においては、筒状本体の「側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした」ものであると特定されるのに対し、公然実施発明においてはかかる特定がない点。
・第1突き合わせ端面に関し、本件発明においては、「ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している」のに対し、公然実施発明においては、かかる構成を有さない点。
・係嵌凸状部と係嵌凹所との係嵌状態で第1突き合わせ端面が配置される箇所について、本件発明においては、筒状本体内であるのに対し、公然実施発明においては、筒状ケース(筒状本体)外である点。
・本件発明は、「コイルスプリングをその弾力によって摺動ディスクに弾接して、当該摺動ディスクとスライド用切込み溝の奥端縁との間に、係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して」いる構成を有するのに対して、公然実施発明は、かかる構成を有していない点。

<相違点3>
・本件発明は、「第1ディスクの筒状本体は、第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨って」いる構成を有しているのに対して、公然実施発明は、かかる構成を有するか否か不明である点。
・係嵌凸状部に関し、本件発明においては、第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するのに対し、公然実施発明においては、かかる構成を有するか否か不明である点。

(3)判断
まず、上記相違点1について検討する。
物同士を係合する技術分野において、甲第17号証及び甲第20号証に開示されているとおり、貫入方向の先端に設けた係止爪部(甲第17号証の「枢支ピン」、甲第20号証の「係合片」が相当。)を抜け止め周縁部(甲第17号証の「取付孔」、甲第20号証の「ボス部」が相当。)に貫入する(甲第17号証の「押込む」、甲第20号証の「挿入する」が相当。)だけで係嵌状態に保持する(甲第17号証の「ガタ付きなく係合する」、甲第20号証の「がたつきなく係合する」が相当。)構成とすること、及び、「端面から突設された係止爪部に形成の抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は、抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法(甲第17号証の「長さL」、甲第20号証の「リングプレートから中央部までの高さHb?リングプレートから外側部までの高さHc」が相当。)に形成されている」構成とすることは周知技術である。利便性向上のための係合の容易化は、物同士を係合する技術分野において当業者が考慮してしかるべき自明な課題であり、この課題に鑑みて、公然実施発明に上記周知技術を適用することは、当業者にとり格別のことではない。そして、公然実施発明において、抜け止め弾性爪を第2ディスクに設けることは当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜なし得る設計的事項に過ぎず、また、係合部材を「筒状ケース(「ハウジング」が相当。)の側端部の内鍔(「止め突起」が相当。)」とすることは甲第11号証に開示されているように周知技術といえるから、この周知技術を公然実施発明に適用することは当業者が適宜なし得たことと認められる。
したがって、公然実施発明において、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることは当業者にとって容易である。

次に、上記相違点2について検討する。
ヒンジの技術分野において、甲第10号証に開示されるとおり、「第1突き合わせ端面(「係止盤の上面」が相当。)には第2突き合わせ端面(「筒状部2Bの開端面」が相当。)の係嵌凹所(「凹陥部」が相当。)に対して、コイルスプリング(「スプリング」が相当。)による弾力により係合する係嵌凸部(「突条部」が相当。)を設け」る構成、「筒状本体の側端縁(「筒状部2Aの端面」が相当。)から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝(「長溝」が相当。)に露呈状態で内嵌するようにディスク本体(「係止盤」が相当。)から径方向に延びる部分(「突条部」の径方向に延びる部分が相当。)とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスク(「係止盤」が相当。)」、「コイルスプリングをその弾力によって摺動ディスクに弾接」する構成及び「摺動ディスクとスライド用切込み溝の奥端縁との間に」、前記摺動ディスクのストローク距離と「同等長以上の離間貫通空所を形成して」いる構成を備えることは周知技術といえる。
そして、摺動する物同士を係嵌する場合の具体的構成は、使用条件等を考慮して、当業者が好適なものとして適宜選定し得るものと認められるから、公然実施発明において、上記周知技術を適用することは当業者にとり、格別の困難性を伴うものとは認められず、摺動ディスクとスライド用切込み溝の奥端縁との間に、係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成することも当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜なし得ることであるとともに、ディスク本体から径方向に延びる部分をディスク本体の周面から径方向に延びるものとしたり、ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している構成とすることも、その構成に格別の技術的意義を見出せない以上、当業者が格段の困難性を伴うことなく適宜改変し得ることと認められる。
したがって、公然実施発明に上記周知技術を適用して上記相違点2に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

さらに、上記相違点3について検討する。
本件発明の「第1ディスクの筒状本体は、第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨って」いる構成の技術的意義は、訂正明細書中に何等記載されていないが、被請求人の口頭審理における主張を参酌すれば、「ヒンジ筒同士の径方向のズレがなくなる」ことにあるものと認められる。
ところで、ヒンジ筒同士の径方向のズレをなくすことは、ヒンジ装置において、当然に要求されるべき課題であり、公然実施発明においても、第1ディスクの係嵌凸部を第2ディスクの係嵌凹所に係嵌する構成を有することから、第1ディスクと第2ディスクとの径方向のズレは生じないものと解されるが、かかる係嵌する空間を、第1ヒンジ筒内、第2ヒンジ筒内あるいは第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒の境界付近のいずれに設けてもヒンジ機能を実現できると認められるので、上記の課題の下で、係嵌する空間の選定は当業者がヒンジ装置の使用条件等を考慮して適宜行い得るものと認められる。
したがって、公然実施発明において、「第1ディスクの筒状本体は、第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びており、前記第1ディスクの摺動ディスクには係嵌凸部か係嵌凹所を設けて前記第2ヒンジ筒内で第2ディスクの係嵌凹所か係嵌凸部に係嵌する」構成を採用することは、当業者が通常の創作能力の範囲内で適宜なし得たことと認められ、上記構成を採用することにより引用発明の「係嵌凸状部(係嵌凸部)」は「第2筒状部(第2ヒンジ筒)内で外周部異形固定カム(第2ディスク)の窪み(係嵌凹所)に係嵌する」構成となるので、上記相違点3に係る本件発明の構成とすることは当業者にとり格段のこととは認められない。

そして、本件発明の全体構成から奏される効果も、公然実施発明及び上記周知技術から当業者であれば予測し得る範囲内のものである。

したがって、本件発明は、公然実施発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

(4)無効理由その3のまとめ
したがって、無効理由その3には、理由があるというべきである。

2.無効理由その2について
次に無効理由その2について検討する。
上記「無効理由その3について」で示したとおり、本件発明は、甲第5号証の公然実施発明、甲第10号証に開示される周知技術並びに甲第17及び20号証に開示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、上記「無効理由その3について」で検討した証拠は審判請求人が無効理由その2で示した証拠に全て含まれるものであるから、無効理由その2にも理由があるというべきである。

3.無効理由その1について
最後に、無効理由その1(1)-(3)について検討する。
まず、無効理由その1(1)について検討する。
平成15年9月11日付け手続補正書による補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることは、その段落【0011】及び【図2】から明らかであるから、無効理由その1(1)には、理由がないというべきである。
次に、無効理由その1(2)について検討する。
訂正2007-390044号で認容された訂正が、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることは、その段落【0015】、【0019】、【0023】及び【図2】から明らかであるから、無効理由その1(2)には、理由がないというべきである。
最後に、無効理由その1(3)について検討する。
本件訂正が認められるものである以上、本件訂正前の基準明細書の請求項1に係る発明が、独立特許要件を備えているか否かの判断を行うことに意味があるとは認められない。したがって、無効理由その1(3)については判断は行わない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、無効理由その2及び3により、本件発明の特許は、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と、第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し、当該連装の第1、第2ヒンジ筒には別途組成済の係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するだけで係嵌状態に保持するようにし、当該組成済の係嵌組成体は、上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを、第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し、第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち、第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け、第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して、コイルスプリングによる弾力により係合する複数の係嵌凸部を設け、第1、第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸部の係嵌凹所への係嵌を、他の係嵌凹所へ切り替えるようにし、上記の第1ディスクは、筒状本体と、前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとからなり、前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し、前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され、前記第1ディスクの筒状本体は、前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており、前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合わせ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて、前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は、前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に、前記第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け、前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、さらに順次連装されている当該第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記コイルスプリングをその弾力によって前記の摺動ディスクに弾接して、当該摺動ディスクと前記したスライド用切込み溝の奥端縁との間に、前記係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して上記第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されており、前記第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と、当該端面から突設された係止爪部に形成の前記抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は、前記の如く第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されていることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は折り畳み式計算機、パーソナルコンピュータ、携帯電話機、ワードプロセッサーなどの折り畳み機器にあって、その機器本体に開閉自在なるよう枢着されたカバーを、閉成時と任意の開成角度とにあって夫々の状態を保持でき、しかも適度の力で当該保持状態を解除することにより、カバーの開閉操作を円滑に行い得るようにした折り畳み式機器のカバーに係る広角度開閉保持可能なヒンジ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】前掲携帯電話機などにあって、その機器本体を閉成しているカバーが不本意に開成したり、開成時のカバーが使用中に閉成してしまったりすることを防止するのに、係止爪やマグネットなどを用いる旧来のロック手段によるときは、デザイン、実装上の制約、コスト高や操作性などの諸点で満足すべき結果が得られていない。そこで当該欠陥を解消するため、既に特開平7-11831号公報に記載の提案がなされている。
【0003】上記提案のものは、図7ないし図10によって以下説示するような構成を有している。すなわち図7と図8により理解される通り、機器本体1とカバー2とが、ヒンジ3によって任意の開成角度α°だけ開閉自在に枢着され、当該ヒンジ3は機器本体1に固設の本体ヒンジ筒1aと、カバー2に固設のカバーヒンジ筒2aとを具備し、図8の如く本体ヒンジ筒1aの本体当接端面1bとカバーヒンジ筒2aのカバー当接端面2bとは、カバー2の開閉に際し摺接自在となっている。
【0004】そして、本体ヒンジ筒1aには、回転止め状態にして軸線方向へはスライド自在なるよう固定ディスク4が内嵌され、このために本体ヒンジ筒1aの内周面に設けたガイドリブ1cに、固定ディスク4のガイド溝4aが係合されている。一方カバーヒンジ筒2aには、これまた回転止め状態で可動ディスク5が内嵌され、このために図示例ではカバーヒンジ筒2aの奥行内面における溝2cに、可動ディスク5の端面に形成したリブ5aが係合されている。
【0005】さらに、当該従来例では上記固定ディスク4の固定突き合せ端面4bと、可動ディスク5の可動突き合せ端面5bの何れか一方、図示例では固定突き合せ端面4bに、図9(A)(C)および図10により理解される通り、係嵌凹所6が複数個(3個)、所定の周角度位置N1、N2、N3(カバー2の開成角度α°によって決定される位置)にあって設けられており、他方すなわち図示例では図9(B)(D)と図10に開示の如く、上記の係嵌凹所6に対して図10ではコイルスプリング7に基づく弾力により係合することになる複数個(2個)の係嵌凸部8が、所定の周角度位置P1、P2にあって可動突き合せ端面5bから突出されている。
【0006】ここで上記のコイルスプリング7は図10に示されている通り、固定ディスク4の固定突き合せ端面4bとは反対側にあって、外向きに開口された収納空洞4cに収納されていると共に、本体ヒンジ筒1aの外側から挿入した螺杆9を、コイルスプリング7から固定ディスク4そして可動ディスク5を貫通して、その螺部先端9aをカバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着させるようにしている。ここで図中9bは螺杆9の頭部を示している。このため、コイルスプリング7は、その弾力により固定ディスク4を可動ディスク5側へ弾圧して、これにより係嵌凹所6に係嵌凸部8が係合することで、固定突き合せ端面4bが可動突き合せ端面5bに対して圧接することになる。
【0007】従って、図10から理解されるように、カバー2を開動させることで、カバーヒンジ筒2aと共に可動ディスク5が回動すると、その可動突き合せ端面5bから突設されている係嵌凸部8が、図9(E)に示す如く係嵌凹所6から円周方向へ脱出し、この際、コイルスプリング7の弾力に抗して固定ディスク4が、図10の左側へ移動することとなり、係嵌凸部8の先端部が、固定突き合せ端面4b上を摺動して円周方向へ回動することになる。
【0008】このため、図9にあって可動ディスク5の前記周角度位置P1、P2における係嵌凸部8が、カバー2の閉止状態では、固定ディスクの周角度位置N1、N2における係嵌凹所6に係嵌されているが、当該カバー2を開成角度α°だけ開成した際には、上記一対の係嵌凸部8が、夫々周角度位置N3、N1の周角度位置における係嵌凹所6に、その係嵌を切り替え得ることになる。
【0009】以上の如く構成することで、当該従来例によるときは、係止爪やマグネットによるロックに比し、カバー2が機器本体1に対し閉時および開時にあって、不本意に回動してしまうことがないようにすることができ、またカバー2を必要に応じ簡易に開閉操作でき前掲旧来例の欠陥を大幅に改善することができる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように上記従来のヒンジ装置によるときは、望ましい効果を発揮し得ることになるが、前掲図8等によって理解される通り、これを組み付けるためにはカバー2内にカバーヒンジ筒2aを係合して、溝2cにリブ5aを係嵌し、一方機器本体1には固定ディスク4を嵌合して、ガイドリブ1cにガイド溝4aを係嵌する。さらにコイルスプリング7を固定ディスク4に嵌装した後、螺杆9をコイルスプリング7に挿通することで当該螺杆9の螺部9aを、カバーヒンジ筒2aの底部2dに刻設した螺止孔2eに螺着することで、当該螺杆9の頭部9bによってコイルスプリング7の押縮による弾力により固定ディスク4を押圧し、これによりその固定突き合わせ端面4bを、可動ディスク5の可動突き合わせ端面5bに圧接するといった組み付け作業を行わねばならない。
【0011】本発明は上記の如き欠陥を解消しようとするもので、まず予め係嵌組成体なるものを、必要な各種の部材を組み込むことで組成済としておくのであり、当該係嵌組成体には順次連装の第2(可動)ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1(固定)ディスクに装入された軸杆は、抜け止め状態にて固定してしまうことで、コイルスプリングの弾力によって上記の摺動ディスクを第2(可動)ディスクに弾接させ、摺動ディスクと前記第1(固定)ディスクにおけるスライド用切込み溝の奥端縁との間に離間貫通空所を形成しておくことで、第2部材(カバー)の開閉動に際して軸線方向へ移動されることとなる摺動ディスクが、上記の離間貫通空所内で移動可能となるように一体化された構成を具備させておくのである。そして、ここで重要なことは第1部材(機器本体)の第1ヒンジ筒と、第2部材(カバー)の第2ヒンジ筒とを軸合わせ状態とし、当該両筒に上記の係嵌組成体なるものを、別途何等の操作を付加することなく、単に一回の差し込み操作により嵌合するだけで、第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒に連通係嵌された当該係嵌組成体が、その第2ディスクを第2ヒンジ筒に対して軸線方向何れに対しても抜け止め状態にて係止され、これにより第1部材と第2部材との開閉自在なる枢着状態を確保し、かくして折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジにつき、その組み立てを一作動だけで簡易迅速に完成させ、その作業性を画期的に向上させ得るようとするのが、第1の目的である。
【0012】さらに本発明では上記の目的を達成するだけではなしに、このような特殊な目的を達成させようとする係嵌組成体自体の構成をも、前記した第1ディスクは筒状本体と摺動ディスクとにより構成するだけでなく、当該筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝には、摺動ディスクが露呈状態となるよう内嵌することで軸線方向へスライド自在なるよう構成するのであり、このことにより、当該係嵌組成体の組み立て作業性とか小型化を実現可能にしようとするのが第2の目的である。
【0013】本発明で重要なことは、また、第1ヒンジ筒に第1ディスクを回転止め状態で内嵌することによりこの両者が一体回転するようにし、かつ、第2ヒンジ筒には第2ディスクをこれまた回転止め状態にて内嵌することで、この両者も一体回転するようにしたことである。これに加え本発明は、係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入して係嵌状態に保持した際、第2ディスクの基板部と抜け止め係止爪との離間箇所に、第2ヒンジ筒の抜け止め周縁部なるものを落とし込み状態にて係嵌させるようにしている。従って当該係嵌状態の保持が、軸線両方向に対して確実化されるだけでなく、上記の如く抜け止め周縁部と、第2ディスクとが一体的に回転するよう構成することで、両者間の不本意な係嵌状態の離脱が抑止され、これによって当該係嵌組成体が第1、第2ヒンジ筒から不本意に脱出することを高い信頼性をもって防止しようとしている。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は所期の目的を達成するために下記の課題解決手段を特徴とする。すなわち本発明の請求項1に係る折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置は、第1部材に固設した第1ヒンジ筒の軸線と直交状である第1周側端縁部と、第2部材に固設した第2ヒンジ筒の軸線と直交状である第2周側端縁部とを対向させて同一軸線上に連装配設し、当該連装の第1、第2ヒンジ筒には別途組成済の係嵌組成体を第1ヒンジ筒から第2ヒンジ筒へ貫入するだけで係嵌状態に保持するようにし、当該組成済の係嵌組成体は、上記の第1ヒンジ筒に回転止め状態で第1ディスクを、第2ヒンジ筒には回転止め状態で第2ディスクを夫々内嵌し、第1ディスクの第1突き合わせ端面と第2ディスクの第2突き合わせ端面のうち、第2突き合わせ端面には係嵌凹所を所定の周角度位置にあって複数個設け、第1突き合わせ端面には上記係嵌凹所に対して、コイルスプリングによる弾力により係合する複数の係嵌凸部を設け、第1、第2部材の閉時と開時に上記係嵌凸部の係嵌凹所への係嵌を、他の係嵌凹所へ切り替えるようにし、上記の第1ディスクは、筒状本体と、前記筒状本体に内嵌するディスク本体と前記筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するように前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して前記筒状本体内で前記スライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとからなり、前記摺動ディスクは、前記ディスク本体の端面と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している前記第1突き合わせ端面を有し、前記摺動ディスクのディスク本体と前記ディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記摺動ディスクの第1突き合わせ端面が前記筒状本体外にある第2ディスクの第2突き合わせ端面に突き合わさるように前記筒状本体内に配置され、前記第1ディスクの筒状本体は、前記第2ヒンジ筒内に回転可能状態で延びて前記第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒との間を跨っており、前記第1ディスクの摺動ディスクの第1突き合せ端面には前記係嵌凸部と係嵌凹所との係嵌状態で前記筒状本体の開口部から突出するように前記係嵌凸部を設けて、前記筒状本体の開口部から突出する前記係嵌凸部は、前記第2ヒンジ筒内で且つ前記第1ディスクの筒状本体の外部で前記第2ディスクの係嵌凹所に係嵌するようにすると共に、前記第2ディスクには抜け止め弾性爪を設け、前記コイルスプリングは、その両端が前記摺動ディスクと前記筒状本体の摺動ディスクとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように前記第1ディスクの筒状本体内に配置され、さらに順次連装されている当該第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体に対して軸杆を貫装することで、抜け止め状態にて固定することにより、上記コイルスプリングをその弾力によって前記の摺動ディスクに弾接して、当該摺動ディスクと前記したスライド用切込み溝の奥端縁との間に、前記係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所を形成して上記第2ディスク、摺動ディスク、コイルスプリング、第1ディスクの筒状本体が一体となるよう構成されており、前記第2ディスクの基板部における第2突き合わせ端面の反対側に設けられた端面と、当該端面から突設された係止爪部に形成の前記抜け止め弾性爪との間に形成された離間箇所は、前記の如く第2ディスクと共に回転するようにした第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設した抜け止め周縁部が係嵌挟持されるような寸法に形成されていることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明につき図1?図6によって以下詳記すると、図1の(A)によって理解される通り、折り畳み式機器の第1部材Aにおける一端縁部にあって突設された第1ヒンジ筒10と、第2部材Bの一端縁部にあって突設された第2ヒンジ筒11と、これらの第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とに嵌入係止される予め組成済として用意された係嵌組成体Cとによって構成されている。ここで図示例では第1部材Aが機器本体であり、第2部材Bは機器本体に対して開閉自在であるカバーを選定しているが、もちろん、これとは逆に第1部材Aをカバーとし、第2部材Bを機器本体として特定するようにしてもよい。
【0016】上記の第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11とは、同一軸線上にあって、これと直交状に形成された第1ヒンジ筒10の第1周側端縁部10aと、同様にして形成されている第2ヒンジ筒11の第2周側端縁部11aとが対向状態にて摺接自在であり、第1、第2ヒンジ筒10、11に係嵌組成体Cを貫入することで上記の第1ヒンジ筒10には、図1(B)(C)、図2そして図3で理解される通り、回転止め状態で係嵌組成体Cにおける第1ディスク12が内嵌され、第2ヒンジ筒11には、これまた回転止め状態で第2ディスク13が夫々内嵌されることになる。さらに、第1ディスク12の第1突き合わせ端面12aと、第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aのうち、第2突き合わせ端面13aには係嵌凹所13bを所定の周角度位置にあって複数個だけ設け、第1突き合わせ端面12aには上記係嵌凹所13bに対して、コイルスプリング14による弾力により係合する複数の係嵌凸部12bが設けられ、第1、第2部材A、Bの閉時と開時にあって、上記係嵌凸部12bの係嵌凹所13bへの係嵌を、他の係嵌凹所13bへ切り替え得るようにしてある。
【0017】本発明では上記の如き開閉保持用ヒンジ装置にあって、上記した係嵌組成体Cにおける第1ディスク12は、筒状本体12Aと、この筒状本体12Aに内嵌するディスク本体と筒状本体12Aの側端縁12cから軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝12dに露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体12A内でスライド用切込み溝12dに沿って軸線方向へスライド自在に嵌装した摺動ディスク12Bとからなっている。摺動ディスク12Bは、ディスク本体の端面とディスク本体の周面から径方向に延びる部分の端面とが平面的に連続している第1突き合わせ端面12aを有する。摺動ディスク12Bのディスク本体とこのディスク本体の周面から径方向に延びる部分とは、係嵌凸部12bと係嵌凹所13bとの係嵌状態で摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aが筒状本体12A外にある第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに突き合わさるように筒状本体12A内に配置されている。そして第1ディスク12の筒状本体12Aは、第2ヒンジ筒11内に回転可能状態で延びて第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11との間を跨っており、第1ディスク12の摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面には図示の如く前記の係嵌凸部12bを設けて第2ヒンジ筒11内で且つ第1ディスク12の筒状本体12Aの外部で第2ディスク13の係嵌凹所13bに係嵌するようにすると共に、前記第2ディスク13には抜け止め弾性爪13cを設けるようにする。コイルスプリング14は、その両端が摺動ディスク12Bと筒状本体12Aの摺動ディスク12Bとは反対側の側端部の内鍔とにそれぞれ係合するように第1ディスク12の筒状本体12A内に配置されている。さらに本発明における係嵌組成体Cにあっては、順次連装されている上説の第2ディスク13、第1ディスク12における摺動ディスク12Bそしてコイルスプリング14、第1ディスク12における筒状本体12Aに対して軸杆15を貫入することで、抜け止め状態にて固定するのである。このようにすることにより、上記のコイルスプリング14の弾力によって、前記の摺動ディスク12Bにおける第1突き合わせ端面12aを第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aに弾接状態とする。
【0018】上記の弾接により摺動ディスク12Bと前記したスライド用切込み溝12dにおける奥端縁12eとの間にあって、係嵌凸部12bと同等長以上の離間貫通空所Sが、図1(B)において明示の如く形成されることになる。ここで上記の構成説明中で明示の通り、前記の第1ヒンジ筒10に対する筒状本体12Aの回転止め状態による嵌合のために、図示例では第1ヒンジ筒10の内周面に軸線方向へ対設したガイドリブ10bに対して、筒状本体12Aの外周面に軸線方向へ対設したガイド溝12fが係嵌されるようにしてある。
【0019】さらに本発明では既説のように軸杆15が連装の第2ディスク13、摺動ディスク12B、コイルスプリング14そして第1ディスク12の筒状本体12Aを一体に軸装することになるが、図示の軸杆15は頭部15aから連設された回り止め基端部15bと、さらに連設の棒状部15c、そして当該棒状部15cに連設の細成先端部15dとからなり、これにより棒状部15cには先端受承縁15eが形成されている。そして上記の回り止め基端部15bは、前記第2ディスク13に貫設された回り止め軸孔13dに嵌合されることで、第2部材Bを開閉動させれば第2ヒンジ筒11と共に第2ディスク13も回動することになり、この際図示例では回り止め基端部15bと回り止め軸孔13dとは何れも四角形に形成されている。
【0020】さらに上記軸杆15の組成先端部15dには、第1ディスク12の筒状本体12Aにおける端縁に当接してワッシャー16が被嵌されており、当該細成先端部15dの端末を、かしめることにより、当該ワッシャー16を棒状部15cの前記した先端受承縁15eに押当固定するようにしてある。
【0021】次に第2ディスク13につき詳記すると、図1ないし図3の如く係嵌凹所13bを設けた基板部13Aと、これから突設されている弾性爪部13Bとから構成されており、この弾性爪部13Bには、一対の可変腕13eが先細りのテーパ面13fを備えて突設されていると共に、上記先細りのテーパ面13fの基端側に前記の抜け止め弾性爪13cが形成されている。そして図6に示されている第2ディスク13にあっては4箇の可変腕13eが突設され、上記の弾性爪部13Bが角形に形成されているのに対し、割筒状に構成されている。
【0022】さらに本発明に係る一実施例としては前記の第2ヒンジ筒11にあって、角形とした回り止め筒軸口11bが側壁11cに開口されることにより、当該第2ヒンジ筒11の外側端から軸心側へ突設された抜け止め周縁部11dが形成されており、ここで前記第2ディスク13の基板部13Aにおける第2突き合わせ端面13aの反対側に周設された端面と、当該端面から突設された係止爪部13Bに形成の前記抜け止め弾性爪13cとの離間箇所を、上記した抜け止め周縁部11dが係嵌挟持される寸法に形成するのである。このため本発明によるときは、第2ディスク13をヒンジ筒11に対して前記の如き係嵌組成体Cの嵌装操作により貫入内装することで、第2ディスク13の先細りのテーパ面13fをもった可変腕13eが縮径状態となって、上記の回り止め筒軸口11bに嵌入して行き貫通状態となって縮径状態が復原することにより、抜け止め弾性爪13cと、基板部13Aとの間に形成の離間箇所にあって、第2ヒンジ筒11の前記抜け止め周縁部11dが係合嵌着されることになる。従って図示例によるときは上記の基板部13Aと弾性爪部13Bにおける抜け止め弾性爪13cとにより形成された離間箇所の間にあって、第2ヒンジ筒11の側壁11cから軸心側へ突設されて、前記回り止め筒軸口11bの開口されている抜け止め周縁部11dが係嵌挟持されるのであり、このことで係嵌組成体Cは軸線方向の何れへも、その動きが阻止され、連装された第1ヒンジ筒10からも第2ヒンジ筒11からも脱落することなく確実に内装されることになる。
【0023】この結果図示例では第2部材Bを第1部材Aに対して開閉動させることで、前記の従来例と同様にして第2ヒンジ筒11の回動と共に第2ディスク13を回動させ、これによりコイルスプリング14の弾力に抗して、係嵌状態にあった係嵌凹所13bと係嵌凸部12bとの係合を解き、係嵌凸部12bが第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aと摺動することになり、この際摺動ディスク12Bは図1(B)の右方へ移動するが、離間貫通空所Sの設定により支障なく当該移動が行われ、第2部材Bは閉成状態の保持から開成状態の保持位置に切り替えられることになる。
【0024】また、ここで図示例では図3により明示の通り、係嵌組成体Cにあって、その第1ディスク12における筒状本体12Aの側端部を閉止キャップ17によって閉成することにより、外観をよくすると共に、係嵌組成体Cへの塵埃侵入を阻止するようにしている。なお上記閉止キャップ17として例示のものは、図3によって理解される通り、外観板部17aと内側係止板部17bとの間にあって、側方へ係嵌口17cを開成するようにした係嵌空所17dが離間形成されている。そして係嵌組成体Cにおける前説したワッシャー16に対し、これを前記の係嵌口17eから係嵌空所17dに収納し、この状態から閉止キャップ17を開動操作することにより、当該ワッシャ16に内側係止板部17bを抜け止め状態にて係嵌被装できるようにしている。
【0025】
【発明の効果】本発明は以上のようにして構成されていることから、予め組成しておいた係嵌組成体の適切なる一体構成によって、これを第1、第2ヒンジ筒に対して、ただ一回だけの貫入操作のみで、折り畳み機器の開閉保持用ヒンジを即時構成することができ、従ってもちろん多数の部品を夫々一個宛組み立てて行く作業を要せず、しかも係嵌組成体の予め行っておく組み付け作業も各種部品に軸杆を挿通して抜け止め状態に固定することにより簡易にして迅速に構成することができる。さらに係嵌組成体における第1ディスクは、筒状本体と、この筒状本体に内嵌するディスク本体と筒状本体の側端縁から軸線方向へ欠設されたスライド用切込み溝に露呈状態で内嵌するようにディスク本体の周面から径方向に延びる部分とを有して筒状本体内でスライド用切込み溝に沿って軸線方向へスライド自在とした摺動ディスクとにより構成し、かつ離間貫通空所を設定するようにしたから、この種折り畳み機器の開閉保持用ヒンジ装置としての必要かつ充分な機能を満足させることが可能となる。さらに本発明では第2ディスクの基板部に形成した端面と、当該端面から突設の係止爪部に設けた抜け止め弾性爪との離間箇所を、第2ヒンジ筒の外側から軸心側へ突設の抜け止め周縁部が、係嵌挟持される寸法に設定するようにしたことから、係嵌組成体の軸線方向何れに対しても不本意な離脱を高い信頼性をもって阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置を示し、(A)はその一実施態様を示す分解略示斜視図、(B)はその組立完成時における縦断正面図で、(C)は同上組立完成時の第2ヒンジ筒を示した端面図である。
【図2】図1(B)に係る組立完成時における横断平面図である。
【図3】本発明に係る係嵌組立体を示した分解斜視図である。
【図4】本発明に係る係嵌組成体の一部品である第2ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図5】本発明に係る係嵌組成体の一部品である摺動ディスクを示し、(A)はその正面図、(B)はその右側面図、(C)はその背面図で(D)はその上面図である。
【図6】第2ディスクの他実施例を示した斜視図である。
【図7】従来の折り畳み式機器の開成状態を示した斜視図である。
【図8】同上図7の分解斜視図である。
【図9】(A)は図8の構成部材である固定ディスクの固定突き合わせ端面図、(B)は可動ディスクを示す可動突き合わせ端面図、(C)は(A)のC-C線断面図、(D)は(B)のD-D線断面図、(E)は(C)の固定ディスクと(D)の可動ディスクの係嵌離脱途上を示す縦断面図である。
【図10】図9の構成部材による従来のヒンジ装置を示した縦断正面図である。
【符号の説明】
10 第1ヒンジ筒
10a 第1周側端縁部
11 第2ヒンジ筒
11a 第2周側端縁部
11d 抜け止め周縁部
12 第1ディスク
12A 筒状本体
12B 摺動ディスク
12a 第1突き合わせ端面
12b 係嵌凸部
12c 側端縁
12d スライド用切込み溝
12e 奥端縁
13 第2ディスク
13A 基板部
13B 弾性爪部
13a 第2突き合わせ端面
13b 係嵌凹所
13c 抜け止め弾性爪
13d 回り止め軸孔
14 コイルスプリング
15 軸杆
15a 頭部
15b 回り止め基端部
15c 棒状部
15d 細成先端部
15e 先端受周縁
16 ワッシャー
A 第1部材
B 第2部材
C 係嵌組成体
S 離間貫通空所
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-29 
結審通知日 2008-10-02 
審決日 2008-10-21 
出願番号 特願平11-151708
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E05D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 多田 春奈  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 谷口 耕之助
田良島 潔
登録日 2003-11-07 
登録番号 特許第3489668号(P3489668)
発明の名称 折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置  
代理人 菊池 新一  
代理人 菊池 新一  
代理人 菊池 徹  
代理人 菊池 徹  
代理人 森田 政明  
代理人 森 正澄  

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