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審決分類 審判 訂正 特126 条1 項 訂正する A41B
管理番号 1206912
審判番号 訂正2009-390111  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-09-16 
確定日 2009-11-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2895473号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2895473号に係る明細書を本件審判請求書に添付された全文訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2895473号は、平成10年4月30日(優先権主張、特願平9-115607号、平成9年5月6日)に出願(特願平10-120756号)されたものであって、平成11年3月5日に、その特許権の設定登録がされ、その後、本件に係る平成21年9月18日付け(同月16日差出)審判請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)が提出され、その後、同年10月9日付け手続補正指令書(方式)(以下、「本件指令書」という。)を受けて、本件訂正請求書に係る同年10月20日付け(同月19日差出)手続補正書(以下、「本件補正書」という。)が提出されれたものである。

2.請求人の主張
請求人は、本件請求書によれば、「本件特許の明細書を、添付した全文訂正明細書のとおり訂正する。」との審決を求めている。

3.本件補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について
本件指令書は、要するに、本件訂正請求書に添付した全文訂正明細書において、【請求項1】では、「筒編してくつ下を製編する際に、」の文章に続く「該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、」の文章が改行せずに記載されているが、このように改行せずに記載することが本件訂正請求書に、いわゆる、訂正事項として記載されていない点を、上記【請求項1】を例に、改行に関する全文訂正明細書の不備を指摘するものである。
そして、本件補正は、上述した本件指令書の指摘に応じて、上記全文訂正明細書を補正するもので、【請求項1】では、「筒編してくつ下を製編する際に、」の文章に続く「該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、」の文章を改行して記載するなど、改行に関する不備を補正するものと認められる。
以上のことを踏まえれば、本件補正が、本件訂正請求書の要旨を変更しないものであることは明らかで、特許法第131条の2第1項の規定を満たし、認められるものである。

4.本件訂正の内容
本件補正は、先に「3」で述べたように、認められるものであって、本件訂正は、本件訂正請求書及び本件補正により補正された全文訂正明細書の記載から見て、以下の訂正事項a?hからなるものと認める。

訂正事項a;特許請求の範囲の記載につき、以下の旧特許請求の範囲を新特許請求の範囲と訂正する。(審決注;下線部分が訂正された記載である。)

(旧特許請求の範囲)
【請求項1】 くつ下編機によって筒編してくつ下を製編する際に、
該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、前記爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を爪先部の親指側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項2】 くつ下編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項1記載のくつ下の製造方法。
【請求項3】 ・・・。
【請求項4】 爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別にくつ下編機によって筒編して製編する際に、
該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記くつ下編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、
且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項5】 くつ下編機によって他の指部を製編する際に、くつ下編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項4記載のくつ下の製造方法。
【請求項6】 ・・・。

(新特許請求の範囲)
【請求項1】 丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、
該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、前記爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を爪先部の親指側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項2】 丸編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項1記載のくつ下の製造方法。
【請求項3】 ・・・。
【請求項4】 爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別に丸編機によって筒編して製編する際に、
該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記丸編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、
且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項5】 丸編機によって他の指部を製編する際に、丸編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項4記載のくつ下の製造方法。
【請求項6】 ・・・。

訂正事項b;明細書の段落【0001】の記載につき、
「【発明の属する技術分野】
本発明はくつ下の製造方法に関し、更に詳細にはくつ下編機によって筒編するくつ下の製造方法に関する。」とあるのを、
「【発明の属する技術分野】
本発明はくつ下の製造方法に関し、更に詳細には丸編機によって筒編するくつ下の製造方法に関する。」と訂正する。

訂正事項c;明細書の段落【0007】の記載につき、
「・・・。
すなわち、本発明は、くつ下編機によって筒編してくつ下を製編する際に、該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、該爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法にある。
このくつ下の製造方法において、くつ下編機によってくつ下の爪先部を製編する際に、くつ下編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することにより、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って容易に編み込むことができる。
・・・。」とあるのを、
「・・・。
すなわち、本発明は、丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、該爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法にある。
このくつ下の製造方法において、丸編機によってくつ下の爪先部を製編する際に、丸編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することにより、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って容易に編み込むことができる。
・・・。」と訂正する。

訂正事項d;明細書の段落【0008】の記載につき、
「また、本発明は、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別にくつ下編機によって筒編して製編する際に、該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記くつ下編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法によって製造できる。
かかる本発明に係るくつ下の製造方法において、くつ下編機によって他の指部を製編する際に、くつ下編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することによって、くつ下編機によって本発明に係るくつ下を製造できる。
・・・。」とあるのを、
「また、本発明は、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別に丸編機によって筒編して製編する際に、該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記丸編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法によって製造できる。
かかる本発明に係るくつ下の製造方法において、丸編機によって他の指部を製編する際に、丸編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することによって、丸編機によって本発明に係るくつ下を製造できる。
・・・。」と訂正する。

訂正事項e;明細書の段落【0011】の記載につき、
「【発明の実施の形態】
本発明に係るくつ下の製造方法は、くつ下編機によって筒編してくつ下を製編する際に、くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、くつ下編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編する方法である。
・・・。」とあるのを、
「【発明の実施の形態】
本発明に係るくつ下の製造方法は、丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編する方法である。
・・・。」と訂正する。

訂正事項f;明細書の段落【0018】の記載につき、
「・・・。
図2に示すくつ下もくつ下編機によって製編でき、丸編機を用いて図2に示すくつ下を製編する例について説明する。
・・・。」とあるのを、
「・・・。
図2に示すくつ下も丸編機によって製編でき、丸編機を用いて図2に示すくつ下を製編する例について説明する。
・・・。」と訂正する。

訂正事項g;明細書の段落【0025】の記載につき、
「図3に示す足袋様くつ下30もくつ下編機によって製編でき、丸編機を用いて図3に示すくつ下を製編する例について説明する。
・・・。」とあるのを、
「図3に示す足袋様くつ下30も丸編機によって製編でき、丸編機を用いて図3に示すくつ下を製編する例について説明する。
・・・。」と訂正する。

訂正事項h;明細書の段落【0030】の記載につき、
「以上の説明においては、足袋様くつ下30を親指部32から製編する場合について述べてきたが、他の指部34から製編してもよい。
これまでの説明において、くつ下編機として、丸編機を用いてくつ下を製編する例について説明してきたが、横編機を用いてくつ下を製編してもよい。
・・・。」とあるのを、
「以上の説明においては、足袋様くつ下30を親指部32から製編する場合について述べてきたが、他の指部34から製編してもよい。
これまでの説明において、くつ下編機として、丸編機を用いてくつ下を製編する例について説明してきた。
・・・。」と訂正する。

5.本件訂正の適否
ここでは、「願書に添付した明細書又は図面」を「訂正前明細書等」という。また、訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、訂正後については「新請求項1」といい、他の請求項についても同様とする。

5-1.目的と記載根拠について

5-1-1.訂正事項aについて
訂正事項aは、くつ下の製造方法の発明に係る旧請求項1?旧請求項6を、それぞれ、同じく、くつ下の製造方法の発明に係る新請求項1?新請求項6と訂正するもので、訂正前明細書の「以上の説明においては、足袋様くつ下30を親指部32から製編する場合について述べてきたが、他の指部34から製編してもよい。 これまでの説明において、くつ下編機として、丸編機を用いてくつ下を製編する例について説明してきたが、横編機を用いてくつ下を製編してもよい。」(段落【0030】)等の記載を根拠に、旧請求項1、2及び旧請求項4、5において、くつ下の製造方法の発明における装置的事項である「くつ下編機」を「丸編機」に技術的に限定するものといえる。
以上のことから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

5-1-2.訂正事項b?hについて
訂正事項b?hは、訂正前の段落【0001】、【0007】、【0008】、【0011】、【0018】及び【0025】に記載の「くつ下編機」を「丸編機」とし、また、訂正前の段落【0030】から「横編機を用いてくつ下を製編してもよい」旨を削除し、訂正事項aに合せて訂正するもので、やはり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するといえ、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

5-1-3.小括
本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

5-2.本件訂正の変更拡大、独立特許要件違反について
本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらないし、また本件訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見当たらない。

5-3.まとめ
本件訂正は、特許法第126条第1?6項の規定に適合する。

6.むすび
本件訂正は、認められるものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
くつ下の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、
該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、前記爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を爪先部の親指側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項2】丸編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項1記載のくつ下の製造方法。
【請求項3】くつ下編機として、複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、前記針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用い、
前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少する第1操作と、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加する第2操作とを繰り返して製編する請求項1又は請求項2記載のくつ下の製造方法。
【請求項4】爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別に丸編機によって筒編して製編する際に、
該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記丸編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、
且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。
【請求項5】丸編機によって他の指部を製編する際に、丸編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編する請求項4記載のくつ下の製造方法。
【請求項6】くつ下編機として、複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、前記針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用い、
前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少する第1操作と、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加する第2操作とを繰り返して製編する請求項4又は請求項5記載のくつ下の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はくつ下の製造方法に関し、更に詳細には丸編機によって筒編するくつ下の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的に、図4に示すくつ下10は、足の入口部から爪先部12の方向に筒編した後、くつ下状の筒編部11の甲部に形成された開口部の端部を逢着することによって得ることができる。この開口部を逢着した部分を図4においては、逢着部14として示す。
図4に示すくつ下10は、工業的にはくつ下編機、例えば複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用いて製編される。かかる編針は、図6(a)に示す様に、先端部に設けられた鉤部52を一端部で開閉するベラ54の他端部が、鉤部52の首部に設けられた釘56に回動自在に軸着されているものである。また、針釜は、図6(b)に示す様に、筒状部材62の外周面に複数本の縦溝64、46・・が形成され、この縦溝64の各々に図6(a)に示す編針50が上下動可能に挿入されているものである。この針釜60を一定方向に回転させるとき、所定箇所で編針50が順次持ち上げられて編み立て動作を行う。
【0003】
図6に示す編針50と針釜60とを具備する丸編機によって製編される従来のくつ下の爪先部は、図5に示す手順によって製編される。
先ず、針釜50を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11を編み立てた後、針釜60を回動させてくつ下100の爪先部102を編み立てる。この爪先部102を編み立てる際には、くつ下の足裏側100aを示す図5(c)のAB位置まで編み立てた後、針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する編針50の針数(以下、編み立てに関与する針数と称することがある)を順次減少させてCD位置まで編み立てる。
引き続き、図5に示すCD位置まで編み立て後、くつ下の甲部側100bを示す図5(a)のAB位置まで、針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増加させて編み立てることによって、爪先部102を形成できる。
【0004】
更に、図5(a)に示すAB位置まで編み立てた後、針釜60の編み立てに関与する針数を所定本数に保持しつつ、くつ下状の筒編部11の甲部側100bに形成された開口部まで製編し逢着部14とする。
ここで、爪先部12の足裏側100aと甲部側100bとの端縁には、各側を形成するループの一部が互いに絡み合わされて成る連結線AC、BDが形成されている。この連結線AC、BDは、針釜60が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
図5に示すくつ下100は、丸編機の針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増減させて爪先部102を編み立てる際に、針数の増減は実質的に同数であるため、丸編機の編み立て方向はくつ下の中心線方向で一定している。従って、得られたくつ下100の爪先部102は、図5(a)、図5(c)に示す様に、左右対称形に形成され、且つ爪先部102の先端側から見た図である図5Bに示す様に、略同一厚さに形成される。このため、図5に示すくつ下100は、左右どちらの足にも履くことができる。
【0006】
しかし、一般的に、人の足は親指が他の指よりも太く且つ足の最先端の位置は親指側に位置する非対称形である。このため、図5に示す左右対称形で且つ親指側と小指側とが略同一厚さのくつ下100を非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下地が引っ張られて親指側に圧迫感がある。特に、親指に力が加えられるスポーツ等においては、競技中に親指に痛みを感ずることもある。更に、親指によってくつ下地が引っ張られるため、小指側のくつ下地も引っ張られ、小指側にも圧迫感が感じられる。この様に、親指によって引っ張られた状態で靴の内側面で擦られる親指側のくつ下地は傷み易くなる。
また、通常、逢着部14は爪先寄りに位置し、くつ下を着用したとき、逢着部14は足指先と足指の付け根との間に位置し、逢着部14に擦られて足指の甲部表面に水腫(まめ)を作り易くなることがあり、且つ外観上も改善が求められている。
そこで、本発明の課題は、人の足の形状に可及的に近似し、着用した際に、親指側に圧迫感等を与えることを防止し得るくつ下の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は前記課題を解決すべく検討を重ねた結果、くつ下を履いたとき、親指が挿入される爪先部の親指側に、厚みを増加する厚み増加用編立部分を偏って編み込むことによって、親指に対する圧迫感を緩和できることを知り、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、該くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、該爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法にある。
このくつ下の製造方法において、丸編機によってくつ下の爪先部を製編する際に、丸編機の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することにより、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って容易に編み込むことができる。
更に、くつ下編機として、複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、前記針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用いてくつ下の爪先部を製編する際に、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少する第1操作と、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加する第2操作とを繰り返して製編することによって、くつ下編機として汎用されている丸編機により本発明に係るくつ下を容易で製造できる。
【0008】
また、本発明は、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成るくつ下を、前記親指部と他の指部とを個別に丸編機によって筒編して製編する際に、該親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指部に編み込むように、前記丸編機の親指部を編み立てる編針の針数を増減して親指部を製編し、且つ前記他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って編み込むように、前記丸編機の編み立て方向を前記分割部側方向にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法によって製造できる。
かかる本発明に係るくつ下の製造方法において、丸編機によって他の指部を製編する際に、丸編機の他の指部の編み立てに関与する編針を親指方向にシフトしつつ製編することによって、丸編機によって本発明に係るくつ下を製造できる。
更に、くつ下編機として、複数本の編針が周囲に配設された針釜を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、前記針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ丸編機を用いて他の指部を製編する際に、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少する第1操作と、前記針釜を正方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を減少し且つ前記針釜を逆方向に回動する際に編み立てに関与する編針の針数を増加する第2操作とを繰り返して製編することによって、くつ下編機として汎用されている丸編機により本発明に係る足袋様のくつ下を容易で製造できる。
【0009】
従来のくつ下は、図5A?図5Cに示す如く、左右対称形に形成され、且つ親指が挿入される親指側と小指が挿入される小指側とが略同一厚さに形成された爪先部を具備するくつ下である。このくつ下を、親指が他の指よりも太い非対称形の人の足に履くと、親指によってくつ下の爪先部が延ばされ、人の足の形状にくつ下が倣される。このため、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって親指は他の指方向に押圧されて圧迫感を感じ、同時に小指も親指方向に押圧されて圧迫感を感ずる。
【0010】
この点、本発明に係るくつ下の製造方法によって得たくつ下は、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を、爪先部の親指側に偏って形成し、爪先部の最先端位置を親指側に偏らせている。このため、本発明に係る製造方法によって得たくつ下は、人の足に可及的に倣った形状とすることができる結果、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって、親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき、親指及び小指に対する圧迫感を減少できる。
また、本発明に係るくつ下の製造方法によって得た足袋様のくつ下においても、くつ下の爪先部の親指部には、親指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を形成し、且つ爪先部の他の指部にも、他の指部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を分割部側に偏って形成している。このため、人の足の親指形状等にくつ下の親指部等を可及的に倣って形成できる結果、足袋様のくつ下を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を減少できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に係るくつ下の製造方法は、丸編機によって筒編してくつ下を製編する際に、くつ下の爪先部を筒編して製編するとき、爪先部の厚みを増加する厚み増加用編立部分を親指側に偏って編み込むように、丸編機の編み立て方向を前記親指側方向にシフトさせつつ製編する方法である。
かかる製造方法によって得られたくつ下の一例は、図4に示すくつ下10と略同一形状であり、図1に左足用のくつ下10の爪先部12を示す。図1(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図1(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図1(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。
図1に示すくつ下10の爪先部12において、図面に示す爪先部12の左側部は親指が挿入される親指側16であり、図面に示す爪先部12の右側部は小指が挿入される小指側18である。
図1(a)(c)に示す様に、図1に示すくつ下10は、爪先部12の最先端位置Gが中心線Xよりも親指側16に偏って位置する非対称形のくつ下10である。この形状は、人の足の形状に倣っているものである。
【0012】
また、図1に示す爪先部12は、図1(b)と従来のくつ下100の爪先部102の先端部を示す図5(b)との比較から明らかな様に、爪先部12の厚みを増加する厚み増加用編立部分20a、20bが余分に編み込まれていると共に、厚み増加用編立部分20a、20bが爪先部12の親指側16に偏って編み込まれている。このため、爪先部12の親指側16の厚みを小指側18の厚みよりも厚くでき、小指よりも親指が太い人の足の形状に近似させることができる。
図1に示すくつ下10の爪先部12は、図1(a)(b)に示す様に、厚み増加用編立部分20a、20bは爪先部12の先端部及び親指側16の側面部を形成するため、親指側に更なる余裕を与えることができ、くつ下を履いたとき、親指及び小指の圧迫感を更に緩和できる。
更に、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見た厚み増加用編立部分20a、20bの端縁HJ、HMをV字状とすることにより、後述するくつ下の製造方法によって容易に厚み増加用編立部分20a、20bを形成できる。
【0013】
この様な図1に示すくつ下10を、くつ下編機として汎用されている丸編機を用いて製編する例を説明する。
かかる丸編機は、複数本の編針〔図6(a)に示す編針50と同一編針〕が周囲に配設された針釜〔図6(b)に示す針釜60と同一針釜〕を一定方向に回転して編み立てる回転動作と、この針釜を正逆方向に交互に回動して編み立てる回動動作とを併せ持つ編機である。
【0014】
先ず、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11(図4)を編み立てた後、針釜を正逆方向に交互に回動させ、編み立てに関与する編針の針数を増減させることによってくつ下の爪先部12を編み立てる。かかる針数の増減は、正逆方向に回動する針釜が回動方向を変更する際に行う。
図1に示す爪先部12を編み立てる際には、くつ下の足裏側10bを示す図1(c)のHI位置まで編み立てた後、編み立てに関与する編針の針数(以下、単に針数と称することがある)を順次減少させてJK位置まで編み立てる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。
更に、JK位置まで編み立てた後、J位置側に針釜が回動する際に、針数を順次増加させてH位置まで編み立てると同時に、K位置側に針釜が回動する際に、針数を順次減少させてL位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに、厚み増加用編立部分20aを親指側16に偏って編み込むことができる。
【0015】
次いで、H位置側に針釜が回動する際に、針数を増加させてM位置まで編み立てると同時に、L位置側に針釜が回動する際に、針数を減少させてK位置側まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。
この様に、MK位置まで編み立てた後、針数を順次増加させてHI位置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的に同数である。
【0016】
更に、HI位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。
ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線HJ、IK、KL、HMが形成されている。この連結線HJ、IK、KL、HMは、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。
かかる連結線のうち連結線HJ、HMは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であり、図1においては、爪先部12の親指側16の側面〔図1(b)の矢印AAの方向〕から見たときV字状である。
尚、これまでの図1の説明において言う「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数と増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。
【0017】
図1に示すくつ下10の爪先部12において、先端位置Gを親指側16に偏って位置させつつ、厚み増加用編立部分20a、20bの親指側16の面積を増大すべく、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁を形成する連結線HJ、HMの挟角を大にするほど、連結線HJ又は連結線IKと、H位置とI位置とを結ぶ直線HIとの各傾斜角αが小さくなり、爪先部12の幅(最先端Gと直線HIとの間隔)が狭くなる傾向にある。
この点、図2に示す編立て方法によれば、爪先部12の先端位置Gを親指側16に偏って位置させつつ、爪先部12の幅を一定に保持して厚み増加用編立部分の親指側16の面積を拡大できる。
【0018】
図2には、左足用のくつ下10の爪先部12を示し、図2(a)はくつ下10の甲部側10bから見た図であり、図2(b)は爪先部12の先端側から見た図である。また、図2(c)はくつ下10の足裏側10aから見た図である。
図2に示すくつ下も丸編機によって製編でき、丸編機を用いて図2に示すくつ下を製編する例について説明する。
先ず、丸編機の針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部を編み立てた後、針釜を正逆方向に回動させつつ針数を増減して爪先部12を編み立てる。
この際に、図2(c)に示すNO位置まで編み立てた後、針数を順次減少させつつ、針数の減少数割合が変更される変曲点N′、O′を通りPQ位置まで編み立てる。この針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。
【0019】
更に、PQ位置まで編み立てた後、針数を順次増加させて変曲点N′O′の位置まで編み立てる。その後、針数を順次減少させてTS位置まで編み立てる。変曲点N′O′からTS位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、その減少割合は変曲点N′、O′からPQ位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも少割合である。
次いで、TS位置まで編み立てた後、T位置側に針釜が回動する際に針数を増加させて変曲点N′を通りN位置まで編み立てると同時に、S位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてU位置まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、爪先部12の足裏側10aに厚み増加用編立部分20aを、親指側16に偏って編み込むことができる。ここで、変曲点N′において、T位置側に針釜が回動する際の針数の増加割合が変更される。
【0020】
引き続いて、UN位置まで編み立てた後、N位置側に針釜が回動する際に針数を減少させて変曲点V′を通りV位置まで編み立てると同時に、U位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてS位置まで編み立てることによって、編み立て方向をくつ下の親指側16の方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、甲部側10bに厚み増加用編立部分20bを親指側16に偏って編み込むことができる。ここで、変曲点V′において、N位置側に針釜が回動する際の針数の減少割合が変更される。この厚み増加用編立部分20a、20bは一体化されている。
この様に、VS位置まで編み立てた後、変曲点V′、O′の位置まで針数を順次増加させて編み立てた後、針数を減少させてWY位置まで編み立て、更に針数を増加させてNO位置まで編み立てることによって爪先部12を形成できる。VS位置からNO位置までの正逆方向の針数の増減数は実質的に同数であるが、変曲点V′、O′において、針数の増加割合又は減少割合が変更される。
【0021】
更に、NO位置まで編み立てた後、針数を所定本数に保持し、くつ下の甲部側10bに形成された最終端となる開口部まで製編して逢着部14とする。
ここで、爪先部12を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線NP、OQ、NT、OS、SU、VN、WN、YOが形成されている。かかる連結線は、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。
これらの連結線のうち連結線NT、VNは、親指側16の側面部を形成する厚み増加用編立部分20a、20bの端縁であって、親指側16の側面〔図2(b)の矢印AA方向〕から見たとき略V字状である。
【0022】
また、厚み増加用編立部分20a、20bの端縁を形成する連結線NT、VNは、変曲点N′V′によって外方に曲折されているため、図1に示す方法によって形成した厚み増加用編立部分20a′、20b′〔図2Bにおいて、一点鎖線で囲む部分〕に比較して、厚み増加用編立部分20a、20bの面積を親指側16に偏って広く形成できる。
このため、図2に示すくつ下10を履いたとき、親指に対する圧迫感を更に一層軽減できる。
尚、これまでの図2の説明における「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数又は増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。
【0023】
ところで、くつ下には、爪先部が親指部と他の指部とに分割されて成る足袋様のくつ下がある。かかる足袋様のくつ下にも本発明を適用できる。
本発明に係るくつ下の製造方法によって得られた足袋様のくつ下の一例を図3に示す。図3には、右足用の足袋様くつ下30の爪先部を示す。図3において、図3(a)は足袋様くつ下30の甲部側30bから見た図であり、図3(b)は爪先部の先端側から見た図である。また、図3(c)は足袋様くつ下30の足裏側30aから見た図である。
図3に示す足袋様くつ下30は、その爪先部が分割部36によって親指部32と他の指部34とに分割されている。この親指部32には、親指部32の厚みを増加する厚み増加用編立部分32a、32bが編み込まれ、且つ他の指部34にも、他の指部34の厚みを増加する厚み増加用編立部分34a、34bが、分割部36側に偏って編み込まれている。
【0024】
このため、人の足の親指及び他の指部形状等に足袋様くつ下30の親指部32及びその指部34を可及的に倣って形成でき、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を減少できる。
図3に示す足袋様くつ下30は、親指部32に編み込まれた厚み増加用編立部分32a、32bによって、親指部32の先端部及び両側面部を形成し、且つ他の指部34に編み込まれた厚み増加用編立部分34a、34bによって、他の指部34の先端部及び分割部側の側面部を形成するため、足袋様くつ下30を履いたとき、親指等に対するくつ下からの圧迫感を更に減少できる。
また、親指部32の両側面の各々〔図3(b)に示す矢印BB、BBの各方向〕から見た厚み増加用編立部分32a、32bの端縁をV字状とし、且つ他の指部34の分割部36側の側面〔図3(b)に示す矢印CCの方向〕から見た厚み増加用編立部分34a、34bの端縁をV字状とすることによって、後述する丸編機を用いた製造方法によって足袋様くつ下30を容易に製造できる。
【0025】
図3に示す足袋様くつ下30も丸編機によって製編でき、丸編機を用いて図3に示すくつ下を製編する例について説明する。
図3に示す足袋様のくつ下30は、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒状部11(図4)を編み立てた後、針釜を正逆方向に交互に回動させて親指部32と他の指部34とを個別に編み立てることによって得ることができる。
以下、親指部32を編み立てた後、他の指部34を編み立てる足袋様くつ下30の製造方法について説明する。
図3(c)において、針釜を一定方向に回転させて所定長さの筒編部11を製編してA_(1)A_(2)位置まで編み立てた後、A_(2)位置からA_(3)位置まで編み得る針数に減少して親指部32を編製する。
この様に、針数を減少させた針釜を正逆方向に回動させつつ、針数を順次減少させてA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。この際の針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。
更に、A_(4)A_(5)位置まで編み立てた後、針数を順次減少させつつA_(6)A_(7)位置まで編み立てる。このA_(4)A_(5)位置からA_(6)A_(7)位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、A_(3)A_(2)位置からA_(4)A_(5)位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも高い割合で針数を減少させる。
【0026】
A_(6)A_(7)位置まで編み立てた後、針数を順次増加しつつA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。かかる編み立てによって、足裏側30aの厚み増加用編立部分32aを形成できる。A_(4)A_(5)位置まで編み立てた後、引き続き針数を順次減少しつつA_(8)A_(9)位置まで編み立てることによって、甲部側30bの厚み増加用編立部分32bを形成できる。この様にして編み立てられた厚み増加用編立部分32a、32bは一体化されている。
更に、A_(8)A_(9)位置まで編み立てた後、針数を順次増加しつつA_(4)A_(5)位置まで編み立てる。その後、針数を順次増加しつつA_(3)A_(2)位置まで編み立てることによって、親指部32を形成できる。A_(8)A_(9)位置からA_(3)A_(2)位置までの編み立ての際に、A_(8)A_(9)位置からA_(4)A_(5)位置までの針数の増加割合は、A_(4)A_(5)位置からA_(3)A_(2)位置までの針数の増加割合よりも高い。
【0027】
次いで、針釜の針数を図3(c)に示すA_(1)位置からA_(3)位置まで編み得る針数に調整し、他の指部34を製編する。
このように針数を調整した針釜を正逆方向に回動させつつ、針数を順次減少させてB_(2)B_(3)位置まで編み立て、更に針数を順次減少させつつB_(4)B_(5)位置まで編み立てる。このB_(2)B_(3)位置からB_(4)B_(5)位置までの針数の正逆方向の減少数は実質的に同数であるが、A_(1)A_(3)位置からB_(2)B_(3)位置まで編み立てる際の針数の減少割合よりも高い割合で針数を減少させる。この際の針数の正逆方向の減少数は実質的に同数である。
更に、B_(4)B_(5)位置まで編み立てた後、B_(5)位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてB_(3)位置まで編み立てると同時に、B_(4)位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてB_(6)位置まで編み立てることにより、編み立て方向を分割部36側の方向にシフトさせて編み立てることができる。その結果、足裏側30aに厚み増加用編立部分34aを分割部36側に偏って編み込むことができる。
【0028】
B_(3)B_(6)位置まで編み立てた後、B_(6)位置側に針釜が回動する際に針数を減少させてB_(7)位置まで編み立てると同時に、B_(6)位置側に針釜が回動する際に針数を増加させてB_(4)位置まで編み立てることによって、編み立て方向を分割部36側の方向にシフトさせつつ編み立てる。その結果、甲部側30bに厚み増加用編立部分34bを分割部36の方向に偏って編み込むことができる。この厚み増加用編立部分34a、34bは一体化されている。
更に、甲部側30bのA_(1)A_(3)A_(2)まで編み立てた後、針数を所定本数に保持しつつ、甲部側30bに形成された最終端となる開口部まで製編し逢着部14とする。
ここで、親指部32及び他の指部34を形成する部分の各端縁には、各部分の縁部を形成するループの一部が互いに絡み合わされて連結されて成る連結線が形成されている。この連結線は、針釜が正方向又は逆方向に回動した際の回動端でもある。
【0029】
かかる連結線のうち連結線A_(5)A_(6)、A_(5)A_(8)、A_(4)A_(7)、A_(4)A_(9)、B_(3)B_(5)、B_(3)B_(7)は、親指部32及び他の指部34の側面部を形成する厚み増加用編立部分32a、32b、34a、34bの端縁であって、親指部32の両側面の各々から見たときV字状であり、且つ他の指部34の分割部36側〔図3(b)の矢印CC方向〕から見たときV字状である。
尚、これまでの図3の説明における「実質的に同数」とは、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数又は増加数との間に、編み立てに関与する編針の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。
【0030】
以上の説明においては、足袋様くつ下30を親指部32から製編する場合について述べてきたが、他の指部34から製編してもよい。
これまでの説明において、くつ下編機として、丸編機を用いてくつ下を製編する例について説明してきた。
また、甲部側に逢着部14を形成しているが、模様等の関係で足裏側に逢着部14を形成してもよい。
更に、これまでの説明は、履いたとき、くるぶし程度の長さとなるソックスについて行ってきたが、履いたとき、くるぶしを越える長さとなるロングソックス、太股以上の長さとなるタイツやストッキングについても本発明を適用でき、踵部が形成されていないくつ下でも本発明を適用できる。
【0031】
【発明の効果】
本発明に係るくつ下の製造方法によって得られたくつ下によれば、くつ下を履いたとき、くつ下の爪先部によって、親指を他の指方向に押圧する押圧力を可及的に減少でき、親指及び小指に対する圧迫感を減少できる。このため、親指に力が加えられるスポーツに用いられるスポーツ用くつ下に好適であり、親指の外反母趾や小指の外反小趾の防止にも有効である。更に、くつ下地が親指で引っ張られた状態で靴の内壁面で擦られることを防止できるため、くつ下の耐久性を向上できる。
また、くつ下状の筒編部の開口部の端部を逢着した逢着部の位置を、足指の付け根近傍に位置させることができるため、くつ下を着用したとき、逢着部に擦られて足指の甲部に水腫(まめ)を作りことも防止できる。しかも、くつ下の爪先部で足指を包み込むため、足指を付け根からサポートすることができ、且つ着用したときの外観も良好とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るくつ下の製造方法で得られたくつ下の一例を説明するための説明図である。
【図2】
本発明に係るくつ下の製造方法で得られたくつ下の他の例を説明するための説明図である。
【図3】
本発明に係るくつ下の製造方法で得られた足袋用のくつ下の一例を説明するための説明図である。
【図4】
一般的なくつ下を示す正面図である。
【図5】
従来のくつ下の爪先部を説明するための説明図である。
【図6】
くつ下編機の一種である丸編機に装着される編針の正面図、及び針釜の斜視図及び部分拡大図である。
【符号の説明】
10 くつ下
10a 足裏側
10b 甲部
11 筒編部
12 爪先部
14 逢着部
16 親指側
18 小指側
20a、20b 厚み増加用編立部分
30 足袋様くつ下
32 親指部
34 他の指部
32a、32b 親指部32の厚み増加用編立部分
34a、34b 他の指部34の厚み増加用編立部分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2009-10-29 
出願番号 特願平10-120756
審決分類 P 1 41・ 85- Y (A41B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植前 津子  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 栗林 敏彦
谷治 和文
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2895473号(P2895473)
発明の名称 くつ下の製造方法  
代理人 中根 敏勝  
代理人 田代 攻治  
代理人 田代 攻治  
代理人 麻生 利勝  
代理人 中根 敏勝  
代理人 麻生 利勝  

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