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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1207579
審判番号 不服2006-5339  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-23 
確定日 2009-11-26 
事件の表示 特願2001-154235「モノクロ領域とカラー領域とで副走査送りを切り換える印刷」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 4日出願公開、特開2002-347230〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年5月23日の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年11月11日付けで手続補正がされたが、平成18年2月14日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成18年3月23日付けで審判請求がされるとともに、平成18年4月20日付けで明細書についての手続補正がされたものである。

第2 平成18年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 請求項1の補正の内容
本件補正による特許請求の範囲の請求項1についての補正(以下「請求項1の補正」という。)は以下のとおりである。
補正前(平成17年11月11日付け手続補正書参照)に
「 【請求項1】 互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッドを有する印刷装置を用いて、主走査を行いつつ、前記印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法であって、
(a)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程と、
(b)所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行して、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を実行する工程と、
(c)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程と、を備える印刷方法。」とあったものを、

「 【請求項1】 互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッドを有する印刷装置を用いて、主走査を行いつつ、前記印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法であって、
(a)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程と、
(b)印刷の進行状況によらない所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行し、前記印刷の進行状況によらない所定の回数の前記第2の副走査モードによる前記副走査と、前記各副走査を挟んで行われる複数回の前記主走査によって、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を、前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する工程と、
(c)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程と、を備える印刷方法。」(下線は当審にて付与した。)と補正する。

2 請求項1の補正の目的
請求項1の補正は、文言上は、補正前の行程(b)に、上記下線部分の限定を付加することに相当する。
しかしながら、
(i)「印刷の進行状況によらない」が何を意味するか理解できない。特に、印刷が通常モノクロモード印刷のことか下端モノクロモード印刷のことか不明であり、仮に下端モノクロモード印刷のことだとしても、下端モノクロモード印刷は第2の副走査モードを繰り返すことで順次進行する過程であるから、どの段階まで進行した印刷過程を指すのか不明である。
(ii)「前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件」がどのようなものであるか、補正後の請求項1の記載からは把握できない。特に、第2の副走査モードによる副走査の送り量と回数が所定のものとして定まっているならそれは確定しており、通常モノクロモード印刷の条件(例えば通常モノクロモード印刷の副走査方向の長さ)に左右されないから、「前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する」、つまり通常モノクロモード印刷に依存して第2の副走査モードを実行するか否か決めることと矛盾する。
よって、請求項1の補正は、実際の印刷工程として、補正前の行程(b)を限定するものであるか否か判断できないから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
また、同項第1項に掲げる請求項の削除、同項第3項に掲げる誤記の訂正、同項第4項に掲げる明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれを目的とするものとも認められない。

したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

しかしながら、請求項1の補正は、文言上は、発明を特定するために必要な事項である行程(b)に、上記下線部分の限定を付加し、特許請求の範囲の限縮を目的とするものと解する余地のあるところから、念のため、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか( 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。

3 独立特許要件について
(1)本願補正発明
本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成18年4月20日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッドを有する印刷装置を用いて、主走査を行いつつ、印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法であって、
(a)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程と、
(b)印刷の進行状況によらない所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行し、前記印刷の進行状況によらない所定の回数の前記第2の副走査モードによる前記副走査と、前記各副走査を挟んで行われる複数回の前記主走査によって、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を、前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する工程と、
(c)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程と、を備える印刷方法。」(以下「本願補正発明」という。)
ただし、「前記印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、」なる記載の前段に「印刷媒体」との用語が無いことから、これは「印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、」の誤記とし、指示語である「前記」の記載を省いた上で上記のように認定した。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された特開平8-238805号公報(以下「引用例」という。)には、以下の(ア)?(オ)の記載が図示とともにある。

(ア)「【請求項2】 キャリッジ上にカラーヘッドとブラックヘッドとを主走査方向に配置し、前記カラーヘッドとブラックヘッドとは複数の印字素子を副走査方向に配列してなり、前記カラーヘッドの印字素子列は異なる色ごとに印字素子のグループに分割され、前記ブラックヘッドの印字に用いる使用印字素子列の高さがカラーヘッドのどの色の前記グループの印字素子列の高さよりも高く、画像メモリから読み出された画像データに基づいて前記カラーヘッドと前記ブラックヘッドとを駆動して記録を行なうシリアルプリンタの印字制御方法において、画像メモリから前記ブラックヘッドの前記使用印字素子列に対応するライン数の画像データを読み出し、その中にカラーデータが存在する場合には読み出された画像データのうち、先頭のラインから最初のカラーデータが存在する直前のラインまでのライン数だけ、カラーデータが存在しない場合には読み出されたすべてのラインの画像データを、前記ブラックヘッドを駆動して印字する記録モードを備えていることを特徴とする印字制御方法。」

(イ)「【0023】
【実施例】図1は、本発明の印字制御方法が適用される記録装置の一例を示す概略構成図である。図中、1はキャリッジ駆動モータ、2はタイミングベルト、3は記録ヘッド、4はキャリッジ、5はインクタンク、6はキャリッジガイド、7はケーブル、8は記録用紙、9は紙送りモータ、10はフィードロールである。ここでは、シリアルプリンタの一例として、インクジェット方式の記録装置を示している。
【0024】キャリッジ4は、記録ヘッド3を搭載し、キャリッジガイド6を摺動して、図示矢印Hの主走査方向に往復移動する。キャリッジ4の移動は、キャリッジ駆動モータ1によって駆動されるタイミングベルト2によって行なわれる。記録ヘッド3は、この例では2個が、キャリッジ4の移動方向に配列されている。1個はブラックを記録するためのものであり、もう1個はブラック以外の複数色、例えば、シアン、マゼンタ、イエローの各色を記録するためのものである。記録ヘッド3には、ケーブル7が導入されており、記録ヘッド3内のヒータへの給電や、駆動回路への信号の伝送等を行なう。また、それぞれの記録ヘッド3にインクタンク5が取り付けられ、各色のインクを供給する。各記録ヘッド3には、複数のノズルが配置されており、供給されたインクがノズルから吐出され、記録用紙8に記録が行なわれる。記録用紙8は、紙送りモータ9によって回転駆動されるフィードロール10により、図示矢印Pの方向に駆動され、副走査が行なわれる。
【0025】図2は、本発明の印字制御方法で用いられる記録ヘッドの一例を示す概略図である。図中、11はブラック用記録ヘッド、12はカラー用記録ヘッドである。それぞれの記録ヘッドには、例えば、インクジェット方式では、図中、縦方向にノズルが配列されている。ブラック用記録ヘッド11では、配列されているすべてのノズルあるいはその一部のノズルを用いて記録を行なう。」

(ウ)「【0028】図4は、本発明の印字制御方法の第1の実施例を示す動作説明図である。以下の説明において、カラーヘッドはシアン、マゼンタ、イエローの3色をそれぞれ等しいドット数ずつ印字し、ブラックヘッドは単色のドット数の3倍のドット数を有するものとする。また、この実施例では、ブラックモードとカラーモードの2つの印字モードを有しており、2つの印字モードを切り替えながら印字を行なう。ブラックモードでは、ブラックヘッドのみを用い、すべてのドットを用いて印字を行なう。また、カラーモードでは、ブラックヘッドとカラーヘッドの両方を用いて印字を行なうものとし、このときブラックヘッドはカラーヘッドの単色のドット数と同じドット数のみ用いる。(以下省略)」

(エ)「【0029】まず、ブラックモードにおける動作を説明する。ブラックモードでは、まず、各色の画像データを先読みする。このとき、現在位置に印字すべきデータがない場合には、印字すべきデータが現われるラインの直前のラインまで用紙送りを行なう。そして、現われた印字すべきデータがカラーデータかブラックデータかを判定し、カラーデータである場合にはカラーモードへ切り替わる。
【0030】ブラックヘッドの印字幅分の各色の画像データを先読みし、カラーデータが存在しなければ、先読みしたブラックデータをブラックヘッドの印字幅で印字を行
なう。
【0031】ブラックヘッドの印字幅中にカラーデータが存在した場合には、カラーデータの直前までのブラックデータを印字し、その後カラーモードに切り替わる。」

(オ)「【0035】図4に示した例をもとに、上述のブラックモードおよびカラーモードの動作を具体的に説明する。図4では、「ABCDE・・・」の行と、「12345・・・」の行と、「abcde・・・」の行が繰り返し印字される。これらはブラックによって印字される。また、6行目の文字列「abcde・・・」の[de」の部分に緑の矩形を印字する。図4では図示の都合上、この緑で印字する部分をハッチングによって示している。また、緑で印字する領域は、ラインcからラインdの直前までの、カラーヘッドの単色の印字幅の領域に収まっているものとする。緑は、シアンとイエローを重ねて印字する。
【0036】初期状態として、記録紙の上端にヘッドの下端が位置合わせされているものとする。まず、画像データを先読みする。画像データの上端部は空白が存在するので、この部分は記録紙が送られ、記録ヘッドの現在位置は1行目の「ABCDE・・・」の上端、すなわちラインaに合わせられる。この状態で文字列「ABCDE・・・」はブラックで印字されるので、ブラックモードとなる。
【0037】ブラックモードにおいて、ブラックヘッドの印字幅分の各色の画像データを先読みする。ここでは、ラインaからラインbの直前までのラインの画像データが先読みされる。この領域にはカラーデータは存在しない。ブラックデータのみである。そのため、図中(1)で示すように、先読みしたラインaからラインbの直前のラインまでの画像データを、ブラックヘッドを用いてその印字幅で印字を行なう。
【0038】図中(1)の印字を行なった後も、ブラックモードのままである。そのため、さらにブラックヘッドの印字幅分の各色の画像データを先読みする。この場合、ラインcにおいてカラーデータが存在する。そのため、ラインbから、カラーデータが存在するラインcの直前のラインまでのブラックデータについて、図中(2)に示すように、ブラックヘッドを用いて印字する。その後、カラーモードに切り替わる。」

上記(ウ)記載の実施例では、単一有彩色であるシアン、マゼンタ、イエローの3色を吐出する各カラーヘッドのドット数は等しく、ブラックヘッドはこのドット数の3倍のドット数を有する。
上記(イ)の【0025】には記録ヘッドとしてブラック用記録ヘッドとカラー用記録ヘッドがあることが記載され、【図2】からはブラック用記録ヘッド11と、YMC3色用のカラー用記録ヘッド12が並んで配置された様子が看取でき、【図1】からは2つの記録ヘッド3がキャリッジ4上に並んで配置された様子が看取できるから、隣接配置されたブラック用記録ヘッドとカラー用記録ヘッドを合わせて「記録ヘッド部」と呼ぶことにする。
よって、引用例記載の記録装置は、互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備えブラックインクを吐出するブラックノズル群と、を備えた記録ヘッド部を有する。

上記(イ)によれば、キャリッジ4が図1の矢印H方向に移動して主走査が行われ、記録用紙8が図1の矢印P方向に駆動されて副走査が行われる。図1からは、H方向とP方向がほぼ直交していることが看取できるし、主走査と副走査の技術的な意味からして副走査は主走査の方向と交わる方向である。(主走査と副走査が同一であったり平行であったりすれば十分な大きさの画像を印字できない。)
そもそも、主走査を行うのは主走査幅に亘って画像を形成するためであるし、キャリッジ4が主走査を行いつつ記録用紙8上にインク滴を着弾させてドットを形成することは、上記(イ)の「各記録ヘッド3には、複数のノズルが配置されており、供給されたインクがノズルから吐出され、記録用紙8に記録が行なわれる。」の記載からも明らかである。

上記(オ)記載の手順は、【図4】においてみれば、記録用紙8にラインab間の印字をし、次にラインab間の長さだけ記録用紙8を副走査方向に送りラインbc間の印字をし、という手順を実行するのであるから、主走査の合間に副走査が行われる。

上記(ウ)より、ブラックインクで印字されるブラックモードと、各々が単一有彩色であるシアン、マゼンタ、イエローの3色のカラーヘッドを用いて(ブラックヘッドも併用し)印字されるカラーモードとがある。
【図4】においてみれば、ラインaからcまでがブラックモードで印字された領域であるからモノクロ領域と呼べ、ラインcからgまでがカラーモードで印字された領域であるからカラー領域と呼べる。

上記(オ)の【0037】で「図中(1)で示すように」とされた部分はブラックヘッドの全印字幅で印字を行う部分であり、図4ではラインab間である。これを「通常ブラックモード印字」と呼ぶことにする。
上記(オ)の【0038】で「図中(2)で示すように」とされた部分はカラーデータが存在するまでをブラックヘッドの全印字幅の一部分で印字する部分であり、図4ではラインbc間である。これを「下端ブラックモード印字」と呼ぶことにする。
当然「通常ブラックモード印字」の副走査送り量より「下端ブラックモード印字」の副走査送り量の方が小さい。

以上のことから、上記(ア)乃至(オ)の記載を含む引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。
「互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備えブラックインクを吐出するブラックノズル群と、を備えた記録ヘッド部を有する記録装置を用いて、主走査を行いつつ、記録用紙上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記記録用紙上の前記ブラックインクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印字を行う方法であって、
(A)前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常ブラックモード印字を実行する工程と、
(B)副走査送り量が前記通常ブラックモード印字の副走査送り量よりも小さい副走査を実行して、前記カラー領域との境界までの前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端ブラックモード印字を実行する工程と、
(C)前記カラー領域においてカラーモード印字を実行する工程と、を備える印字方法。」(以下「引用発明」という。)

(3)対比
ブラックは無彩色であるから、引用発明の「互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備えブラックインクを吐出するブラックノズル群と、を備えた記録ヘッド部」は、本願補正発明の「互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッド」に相当する。

引用発明の「記録装置」、「記録用紙」、「印字」、「印字方向」は、それぞれ、本願補正発明の「印刷装置」、「印刷媒体」、「印刷」、「印刷方向」に相当する。

ブラックは無彩色であるから、引用発明の「前記記録用紙上の前記ブラックインクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印字を行う方法」は、本願補正発明の「前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法」に相当する。

引用発明の「(A)前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常ブラックモード印字を実行する工程」、「通常ブラックモード印字」は、それぞれ、本願補正発明の「(a)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程」、「通常モノクロモード印刷」に相当する。

引用発明の(B)における「前記カラー領域との境界までの前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する」は、本願補正発明の(b)における「前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する」に相当する。(本願補正発明では、「境界近辺」といってもカラー領域とモノクロ領域が混じっているわけではなく、例えば本願の【図6】で主走査ライン100?131がモノクロ領域、132?148がカラー領域とはっきり分かれているように、モノクロ領域への印刷はカラー領域との境界まで実行される。)

引用発明の「(B)副走査送り量が前記通常ブラックモード印字の副走査送り量よりも小さい副走査を実行して、前記カラー領域との境界までの前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端ブラックモード印字を実行する工程」、「下端ブラックモード印字」は、「通常モノクロモード印刷」(通常ブラックモード印字)の副走査送り量よりも小さい副走査を実行する点で、それぞれ、本願補正発明の「(b)印刷の進行状況によらない所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行し、前記印刷の進行状況によらない所定の回数の前記第2の副走査モードによる前記副走査と、前記各副走査を挟んで行われる複数回の前記主走査によって、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を、前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する工程」、「下端モノクロモード印刷」と共通している。

引用発明の「(C)前記カラー領域においてカラーモード印字を実行する工程」は、本願補正発明の「(c)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程」に相当する。

してみれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッドを有する印刷装置を用いて、主走査を行いつつ、前記印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法であって、
(α)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程と、
(β)所定の送り量の副走査を実行する副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行して、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を実行する工程と、
(γ)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程と、を備える印刷方法。」

<相違点>
本願補正発明は「(b)印刷の進行状況によらない所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行し、前記印刷の進行状況によらない所定の回数の前記第2の副走査モードによる前記副走査と、前記各副走査を挟んで行われる複数回の前記主走査によって、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を、前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する工程と、」と特定されているのに対し、引用発明は前記特定を有しない点。

(4)判断
本願補正発明の実施例では、モノクロ領域の印刷にインターレース印刷を採用している。例えば、本願の【図6】で説明すれば、主走査ラインを飛び飛びに印刷するインターレース印刷を採用しているので、第2の副走査モードで実行する印刷Sm2が7回繰り返されて下端モノクロモード印刷が完了している。1回目のSm2では主走査ライン120に黒インクが吐出され118と119は吐出されずに残され、2回目のSm2では主走査ライン119,123に黒インクが吐出され118,121,122は吐出されずに残され、3回目のSm2では主走査ライン118,122,126に黒インクが吐出され121,124,125は吐出されずに残され、というようにして、7回目のSm2が終わって吐出されずに残されるラインが無くなり、通常モノクロモード印刷の終わった直後の主走査ライン118からカラー領域が始まる直前の主走査ライン131までの間のすべての主走査ラインに黒インクが吐出される。
つまり、本願補正発明の<相違点>に係る構成において、第2の副走査モードで実行する印刷が繰り返されるのは、本願補正発明ではインターレース印刷を採用すると限定していないものの、それを前提としているのでそうせざるを得ないからである。
同様に、本願補正発明の<相違点>に係る構成において、印刷の進行状況によらず所定の送り量の副走査を所定回数繰り返すのは、本願補正発明はインターレース印刷採用を前提としているので、例えば本願の【図6】の例ではノズル3個分の量を送る第2の副走査モードによる印刷Sm2を7回繰り返しているように、印刷の進行状況によらず所定の送り量の副走査を所定回数繰り返さざるを得ないからである。
一方、インクジェット印刷の画質を高める手法としてインターレース印刷自体は周知である(例えば、特開昭58-72467号公報、特開2000-318218号公報、特開2001-71481号公報参照)。
よって、引用発明において、下端モノクロモード印刷を含む印刷工程にインターレース印刷を採用し、本願補正発明の<相違点>に係る構成を備えることは、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到できたことである。
また、かかる発明特定事項を採用することによる効果も、当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
平成18年4月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成17年11月11日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 互いに等しい数のノズルをそれぞれ備え互いに異なる有彩色インクを吐出する複数の単一有彩色ノズル群と、前記単一有彩色ノズル群よりも多数のノズルを備え無彩色インクを吐出する無彩色ノズル群と、を備えた印刷ヘッドを有する印刷装置を用いて、主走査を行いつつ、印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、前記主走査の合間に前記主走査の方向と交わる方向に副走査を行って、前記印刷媒体上の前記無彩色インクのみで記録されるモノクロ領域と前記有彩色インクを用いて記録されるカラー領域に印刷を行う方法であって、
(a)第1の副走査モードで前記副走査を実行して、前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する通常モノクロモード印刷を実行する工程と、
(b)所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行して、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を実行する工程と、
(c)前記カラー領域においてカラーモード印刷を実行する工程と、を備える印刷方法。」(以下、本願発明という。)
ただし、「前記印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、」なる記載の前段に「印刷媒体」との用語が無いことから、これは「印刷媒体上にインク滴を着弾させてドットを形成し、」の誤記とし、指示語である「前記」の記載を省いた上で上記のように認定した。

2 引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は、上記「第2 平成18年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [理由] 3 独立特許要件について (2)引用発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 平成18年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [理由] 3 独立特許要件について」で検討した本願補正発明の発明特定事項である行程(b)「(b)印刷の進行状況によらない所定の送り量の副走査を繰り返す副走査モードであって、最大の副走査送り量が前記第1の副走査モードの最大の副走査送り量よりも小さい第2の副走査モードで前記副走査を実行し、前記印刷の進行状況によらない所定の回数の前記第2の副走査モードによる前記副走査と、前記各副走査を挟んで行われる複数回の前記主走査によって、前記カラー領域との境界近辺の前記モノクロ領域の主走査ライン上にドットを形成する下端モノクロモード印刷を、前記第2の副走査モードによる前記副走査の前記所定の送り量および前記所定の回数に基づいて定められる所定の条件が前記通常モノクロモード印刷において満たされた場合に、実行する工程と、」から、下線部の限定を省いたものに相当する。(上記「第2 平成18年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [理由] 2 請求項1の補正の目的」参照。)
すると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成18年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [理由] 3 独立特許要件について」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のことから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-25 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願2001-154235(P2001-154235)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 陽子  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 湯本 照基
星野 浩一
発明の名称 モノクロ領域とカラー領域とで副走査送りを切り換える印刷  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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