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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01T
管理番号 1208006
審判番号 不服2008-14262  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2009-12-04 
事件の表示 特願2002- 16677「放射線検出器用部品、放射線検出器および放射線検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月19日出願公開、特開2003- 84066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は特許法第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う平成14年1月25日(優先日:平成13年4月11日、平成13年6月28日、優先権主張の基礎出願:特願2001-112715号、特願2001-196596号)の出願であって、平成19年8月7日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日付けで手続補正書が提出され、平成20年1月21日付けで拒絶理由(いわゆる「最後の拒絶理由通知」である。)が通知され、同年3月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月28日付けの手続補正が同年4月25日付けの補正の却下の決定により却下されるとともに、同年1月21日付けの拒絶理由通知書に記載した理由により同年4月25日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として同年6月6日に本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書について手続補正がなされたものである。


第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年6月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年10月15日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲についての

「【請求項1】 シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイと、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて該フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線の末端が該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在していることを特徴とする放射線検出器用部品。
【請求項2】 シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイと、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて該フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線が該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に延びた後、該シンチレータアレイのアレイ整列方向に延び、該各々の配線の末端が該シンチレータアレイとの接触部分を越えた側方位置に存在していることを特徴とする放射線検出器用部品。
【請求項3】 請求項1に記載の放射線検出器用部品と、該放射線検出器用部品を支持する基板と、該基板に設けられた配線とを有し、該基板の配線が上記フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線の末端に電気的に連結されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】 請求項2に記載の放射線検出器用部品と、該放射線検出器用部品を支持する基板とを有することを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】 所定数の請求項3に記載の放射線検出器が縦横に配置されていることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項6】 所定数の請求項4に記載の放射線検出器が、シンチレータアレイのアレイ整列方向とは直角の方向に配置されていることを特徴とする放射線検出装置。」

の記載を、

「【請求項1】 シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含む厚さ0μmを超え数百μm以下の厚さを有したアレイ基板と、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて前記アレイ基板上に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線の末端が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在している放射線検出器用部品と、
少なくとも前記シンチレータアレイの受光方向下流側に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板と、
該基板に設けられた配線と、
を有し、該基板の配線が前記アレイ基板上に配置されている各々の配線の末端に電気的に連結されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】 シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含む厚さ0μmを超え数百μm以下の厚さを有したアレイ基板と、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて前記アレイ基板上に配置されている各々の配線と、を有し、該各々の配線が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に延びた後、該シンチレータアレイのアレイ整列方向に延び、該各々の配線の末端が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分を越えた側方位置に存在している放射線検出器用部品と、
前記アレイ基板の側方位置に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板と、
を備えたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】 所定数の請求項1に記載の放射線検出器が、シンチレータアレイのアレイ整列方向に対して縦横に配置されていることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項4】 所定数の請求項2に記載の放射線検出器が、シンチレータアレイのアレイ整列方向とは直角の方向に配置されていることを特徴とする放射線検出装置。」

と補正するものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件についての検討
ア 本件補正は、(ア)本件補正前の請求項1,2を削除するとともに、(イ)本件補正前の請求項3?6の「フォトダイオードアレイ」を、本件補正後の請求項1?4の「フォトダイオードアレイを含む厚さ0μmを超え数百μm以下の厚さを有したアレイ基板」と補正し、(ウ)本件補正前の請求項3?6の「該フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線」を、本件補正後の請求項1?4の「前記アレイ基板上に配置されている各々の配線」と補正し、(エ)本件補正前の請求項3,5の「該放射線検出器用部品を支持する基板」を、本件補正後の請求項1,3の「少なくとも前記シンチレータアレイの受光方向下流側に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板」と補正し、(オ)本件補正前の請求項4,6の「該放射線検出器用部品を支持する基板」を、本件補正後の請求項2,4の「前記アレイ基板の側方位置に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板」と補正するものである。

イ 本件補正のうち上記ア(ア)を目的とする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正のうち上記ア(イ)(ウ)を目的とする補正は、「フォトダイオードアレイ」及び「配線」を「アレイ基板」に形成したと限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
さらに、本件補正のうち上記ア(エ)(オ)を目的とする補正は、「該放射線検出器用部品を支持する基板」が配置される位置を限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

ウ したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
上記(1)で検討したとおり、本件補正の目的には、特許法第17条の2第4項項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」が含まれる。
そこで、本件補正が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か、すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かを検討する。

ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、本件補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含む厚さ0μmを超え数百μm以下の厚さを有したアレイ基板と、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて前記アレイ基板上に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線の末端が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在している放射線検出器用部品と、
少なくとも前記シンチレータアレイの受光方向下流側に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板と、
該基板に設けられた配線と、
を有し、該基板の配線が前記アレイ基板上に配置されている各々の配線の末端に電気的に連結されていることを特徴とする放射線検出器。」

イ 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本件の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第6114703号明細書(以下「引用例」という。)には、以下のa?jの記載が図面とともにある(なお、当審による訳文を記載した。)。

a 「背景
本発明は、シンチレータ結晶、特に、シンチレータ結晶アレイ、及び、貫通する放射性放射の検出、カウント効率及び分析に関する新規な方法に関する。空間分解能、スペクトル分解能及び時間分解能の点で潜在的な改良が生じるために、本発明の概念は特に陽電子放射断層撮影(PET)に有効であろう。」(1欄19?22行)

b 「要約
本発明は、光放射を誘起するガンマ線(あるいは、他の形態の貫通する放射線)を効率的に検出するために半導体光検出器(SPD)とシンチレーション結晶とのユニークな組み合わせを利用することによって、上記限界を克服する。
本発明は、検出用途、スペクトル用途またはイメージ用途のためのガンマ線検出器またはカメラの新規なデザインを実現する。本発明は、従来技術で要求されていた研磨や反射コーティングの必要性をなくしたり減少させたりするように、シンチレーション結晶に適用される光検出器を、バルクで高価な光電子増倍管(PMTs)から半導体光検出器に置き換える。また、本発明は、高い空間分解能を維持しながら、シンチレーション現象から測定される光量を増やす。光検出が改良されることによって、スペクトル(エネルギー)分解能及び時間分解能が改良される。例えば、本発明の特徴を実現する設計には、シンチレーション結晶の一表面またはより多くの表面に直接形成またはマウントされた単一のシンチレーション結晶またはシンチレーション結晶アレイが含まれる。特定の実施形態では、シンチレーション結晶は、それぞれの光検出器の中に完全に包みこまれている。全てを包み込むことに代えて、光検出器を、従来技術のようにシンチレーション結晶の末端部に位置させるのではなく、シンチレーション結晶の一つまたは複数の長い側面上または前記長い側面に隣接して位置させることができる。この場合には、半導体光検出器が接しないシンチレーション結晶の表面に反射コーティングを形成することが望ましい。
本発明が利用される主な用途は、ガンマ線カメラ(単一フォトン断層撮影(SPECT)や面イメージング)や陽電子放射断層撮影(PET)のような核医学イメージ(NMI)であるが、他の用途においても本発明を利用することができる。あらゆるタイプ、形状、サイズのシンチレーション結晶を利用することができる。しかし、核医学イメージの用途では、長くて薄い直方体である無機のシンチレーション結晶の二次元アレイを最密配置したものが好ましい。シンチレーション結晶の間に大きなデッド領域を導入するものでなく、シンチレーション結晶の間にフィットするほど十分に薄いものであれば、あらゆるタイプの高感度半導体光検出器を利用することができる。」(2欄33行?3欄6行)

c 「詳細な説明
既に開発された読み出し電子回路とともに利用されるシリコンフォトダイオードのような半導体光検出器(SPD)は、光電子増倍管に比べて非常に低コストである。加えて、半導体光検出器は非常にコンパクトであるから、高解像度でデッド領域の小さなシンチレーション検出器アレイの開発が簡単であるうえ、光電子増倍管上にシンチレーション結晶を重ねる必要もない。
バルクである光電子増倍管に利用することができない読み出し機構を、半導体光検出器に容易に適用することができる。従来の装置では、放射線が入射する細長いシンチレーション結晶の小さな端面と反対側に位置するシンチレーション結晶の小さな端面に、光検出器が用いられてきた。薄い半導体光検出器は、細長いシンチレーション結晶の一つまたは複数の長い面の上に配置されたり、アレイ内の各シンチレーション結晶の全ての面を完全に覆うように作成されたりすることができる。この新しい読み出し配置では、光が出会う結晶表面の相互作用が減少し、光子が光検出器まで移動する距離が短くなるために、光損失が減少して、従来の光電子増倍管の設計に比べて半導体光検出器によって検出される光量が非常に増加する。」(4欄23?44行)

d 「図5に示される次の実施形態では、非常に薄い(<100μm)基板パネル22上にストライプ20状に形成された商業的に存在する固体光検出器を利用する。各ストライプがシンチレーション結晶の各表面に直接または(図示しない)光結合媒体/接着剤を介して接触するように、パネル22は複数の結晶平面24の間に配置される。半導体光検出器のリード線26は、ベースの近くで各シンチレーション結晶に隣接して配置される。この場合、光検出器に接しない表面には反射コーティングが必要である。結晶平面24と基板パネル22を複数交互に設けることにより、適切なアレイとすることができるであろう。
図5では結晶平面24の一表面だけに対して光検出器を見ることができるが、平面24とパネル22を複数交互に設ける場合には、シンチレーション結晶の2つの長い表面に半導体光検出器が接触するように、パネル22の両面に光検出器を形成することができることは明らかである。この場合、2つの平面24のそれぞれの長い表面から光を集めることができる。図7は、各平面24の平行な長い表面から光を集める4×4アレイの断面である。」(6欄21?41行)

e 「後者の実施形態の欠点は、光検出器を形成するために、望ましいことではないがアレイの中でガンマ線非感応領域の厚さを増加させてしまう基板22が必要であることである。」(6欄44?47行)

f 「図3に示された先行技術とは対照的に、図4は、本発明の特徴を利用した一つのシンチレーション結晶11の図である。全表面に反射コーティングを利用するのではなく、光検出器12は結晶11の少なくとも一つの長い表面に形成され、それによって、反射コーティングを使用しないまたはその使用を減らすことができる。図4は、全表面に光検出器12を使用した例を示す。先行技術と同様に、光子46は、結晶11内でのガンマ線47相互作用44から生成される。しかしながら、結晶11の全表面が光検出器12で覆われている場合には、壁に衝突する全ての光子は半導体光検出器によって検出される。理想的には、信号検出を最大化するために、ある結晶における光検出表面の数は最適化され、反射数は最小化される。半導体光検出器の出力14を検知するためのリード線は、結晶11の底面にある。シンチレーション放射を記録する手段104は、リード線に接続される。たとえ長くて幅の狭い結晶の一側面だけが半導体光検出器で覆われていたとしても、結晶末端部での読み出しに比べて、光子が経験する反射数及び側面に衝突するまでの平均距離は大きく減少し、得られる光信号は増加する。
図6は、従来の結晶末端部で光を集める方法よりも、シンチレーション結晶の側面で光を集める方がより効率的であることを示す。図6に示すように、ケイ酸ルテチウム(LSO)シンチレーション結晶やケイ酸ビスマス(BSO)シンチレーション結晶の一つの長い表面から検出される光量は、生成されて利用可能な光のうちの90%ほどである。シンチレーション結晶の末端部に結合される従来の検出器設計では、生成される光子のうち最高でも64%を検出するだけであり、また、光の収集は、結晶の種類、長さ、幅、サイズ、結晶の長い表面が研磨されているかといった変数に依存する。本発明に組み込まれた測定される光量の増加及び装置のコンパクトな性質から、そのような結晶アレイは、空間分解能がより大きく、コントラストが改善された画像を提供するとともに、光の収集効率が向上したことによりカウント効率が改善された。」(7欄25?62行)

g 「本概念における半導体光検出器には、検出器上に直接作成することができる全てのタイプの材料を使用できる。しかし、理想的には、光検出器の吸収スペクトルがシンチレーション結晶の放射スペクトルにできる限り整合しているものが望ましい。一例として、青色光に対する感度が増強された量子効率を有するシリコンPINフォトダイオードがある。患者からの放射を受ける結晶の間のガンマ線非感応材料(すなわち、デッド領域)の量を減らすために、半導体光検出器はできる限り薄くあるべきである。光検出器を積層するための基板としてシンチレーション結晶を使用したり、基板からシリコンをはぎ取ったりすることによって、デッド領域は最小化される。図4では、バイアス、接地及び電子的な読み出しのための接続リード線14は、好ましくは、各シンチレーション結晶の底面上または底面に隣接して配置される。」(9欄63行?10欄12行)

h 「請求項14.シンチレーション結晶のアレイと、前記シンチレーション結晶で発生した光子を検出する手段とを備えたガンマ線放射検出器において、
平行に配置された複数列の細長い結晶と複数の基板パネルとを備え、
前記基板パネルの一つは前記シンチレーション結晶の各列の間に配置され、
前記基板パネルのそれぞれは、その上に複数の光検出器が搭載され、
前記光検出器のそれぞれは、前記結晶のみから生成された光を受光するように動作するために、シンチレーション結晶と対であるとともにシンチレーション結晶に沿って配置され、
ターゲットから生じるガンマ放射線を受信するために、平行な細長い結晶と基板パネルが交互に列状に配置されて結晶のアレイを形成し、
光検出器を備えた複数列のシンチレーション結晶のアレイは、シンチレーションで生成された光子のうち80%より大きい光子を捕捉するものである、
ガンマ線放射検出器。」(11欄32?12欄8行)

i 図4,5から、リード線は、各半導体光検出器20からガンマ線の受光方向下流側に引き出されていることが認められる。

j 図7から、光検出器20が形成された基板パネル20をシンチレーション結晶のアレイ整列方向(図7の左右方向)の側面に配置したことが認められる。

ウ 引用例記載の発明の認定
引用例の上記記載事項a?jから、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。

「平行に配置された複数列の細長いシンチレーション結晶のアレイと、半導体光検出器のアレイが両面に形成された複数の基板パネルとを備えたガンマ線放射検出器において、
前記基板パネルは、非常に薄い厚み(<100μm)を有し、
前記基板パネルは前記シンチレーション結晶のアレイ整列方向の側面に配置されて、前記シンチレーション結晶と前記基板パネルが交互に列状に配置され、
前記半導体光検出器は、前記細長いシンチレーション結晶の長い側面に接して配置され、
リード線は、前記半導体光検出器のアレイの各半導体光検出器からガンマ線の受光方向下流側に引き出され、
前記半導体光検出器のアレイを備えた複数列のシンチレーション結晶のアレイは、シンチレーションで生成された光子のうち80%より大きい光子を捕捉するものである、
ガンマ線放射検出器。」(以下「引用発明」という。)

エ 本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明の「シンチレーション結晶のアレイ」は、本件補正発明の「シンチレータアレイ」に相当する。

(イ)引用発明の「半導体光検出器のアレイ」は、本件補正発明の「フォトダイオードアレイ」に相当する。
そして、引用発明の「半導体光検出器のアレイが」「形成され」、「前記シンチレーション結晶のアレイ整列方向の側面に配置されて、前記シンチレーション結晶と」「交互に列状に配置され」る「複数の基板パネル」と、本件補正発明の「該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含む厚さ0μmを超え数百μm以下の厚さを有したアレイ基板」とは、「該シンチレータアレイのアレイ整列方向の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含むアレイ基板」である点で一致する。

(ウ)引用発明の「半導体光検出器」は、本件補正発明の「フォトダイオード素子」に相当する。
そして、引用発明の「リード線は、前記半導体光検出器のアレイの各半導体光検出器からガンマ線の受光方向下流側に引き出され」ることと、本件補正発明の「該該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて前記アレイ基板上に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線の末端が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在している」こととは、「該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されてい」「る各々の配線とを有し、該各々の配線」が「該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に」引き出されている点で一致する。

(エ)引用発明の「シンチレーション結晶のアレイ」と「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」と「リード線」からなる部分が、本件補正発明の「放射線検出器用部品」に相当する。
また、引用発明の「ガンマ線放射検出器」は、本件補正発明の「放射線検出器」に相当する。

(オ)以上から、本件補正発明と引用発明とは、

「シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の側面に配置されたフォトダイオードアレイを含むアレイ基板と、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されている各々の配線とを有し、該各々の配線が該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に引き出されている放射線検出器用部品を有する放射線検出器。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本件補正発明の「フォトダイオードアレイ」及び「アレイ基板」は「該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置され」るのに対し、引用発明の「前記基板パネルは前記シンチレーション結晶のアレイ整列方向の側面に配置され」、引用発明の「半導体光検出器のアレイ」は前記「基板パネル」の「両面に形成され」る点。

〈相違点2〉
本件補正発明の「フォトダイオードアレイを含む」「アレイ基板」の厚さが「0μmを超え数百μm以下」であるのに対し、引用発明の「基板パネル」の厚さは「100μm」よりも小さいが、引用発明の「半導体光検出器のアレイ」を含めた「基板パネル」の厚みが不明である点。

〈相違点3〉
本件補正発明の「各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されてい」る「配線」は「アレイ基板上に配置されてい」て、前記「配線」には「末端」が存在し、「各々の配線の末端が前記アレイ基板上で該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在している」のに対し、引用発明の「リード線」にはこのような限定がない点。

〈相違点4〉
本件補正発明の「放射線検出器」は「少なくとも前記シンチレータアレイの受光方向下流側に設けられて該放射線検出器用部品を支持する基板」を有し、「該基板」に「配線」が「設けられ」、「該基板の配線が前記アレイ基板上に配置されている各々の配線の末端に電気的に連結されている」のに対し、引用発明の「ガンマ線放射検出器」にはこのような限定がない点。

オ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
引用例の上記記載事項fには、「光検出器12は結晶11の少なくとも一つの長い表面に形成され」ることが記載されている。したがって、引用例には、シンチレーション結晶の少なくとも一つの長い側面に光検出器を形成すればよいことが示唆されている。
すると、引用例の上記示唆に基づいて、引用発明の「ガンマ線放射検出器」において、「シンチレーション結晶」の一つの長い側面に「半導体光検出器」を形成するために、引用発明の「基板パネル」の片面だけに「半導体光検出器のアレイ」を形成するとともに、「半導体光検出器のアレイ」が片面だけに形成された「基板パネル」を「前記シンチレーション結晶のアレイ整列方向の」一側面に配置することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(イ)相違点2について
半導体光検出器の技術分野における本件出願の優先日当時の技術常識に照らすと、引用発明の「基板パネル」の厚みが100μmより小さければ、「半導体光検出器のアレイ」を含めた「基板パネル」の厚みが数百μm以下であることは明らかである。すると、上記相違点2は実質的に相違点ではない。
また、仮に、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、引用例の上記記載事項b,c,gには、シンチレーション結晶の間のデッド領域を小さくする旨記載されており、また、引用例の上記記載事項a,b,fには、ガンマ線放射検出器の空間分解能を高める旨記載されているから、引用発明の「ガンマ線放射検出器」において「シンチレーション結晶」の間のデッド領域となる「半導体光検出器のアレイ」を含めた「基板パネル」の厚みをできる限り小さくして「ガンマ線放射検出器」の空間分解能を高めようとすることは当業者にとって容易に想到し得る。その際、「半導体光検出器のアレイ」を含めた「基板パネル」の厚みを「数百μm以下」とすることは、当業者が適宜設定し得る設計的事項である。
したがって、上記相違点2は実質的に相違点ではない、または、仮に、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(ウ)相違点3,4について
a シンチレータとフォトダイオードを備えた放射線検出器の技術分野において、フォトダイオードに電気的に接続されている配線を前記フォトダイオードが形成された基板上に配置し、前記配線の末端が前記基板上に位置し、さらに、前記フォトダイオードが形成された基板を支持する基板を設けるとともに、前記支持基板上の配線と前記フォトダイオードが形成された基板上の配線の末端とを電気的に連結することは、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術である(一例として、原査定で引用された特開平6-109855号公報(特に、段落【0001】、【0003】、【0015】、図3?4)を参照。)。

b(a)そして、引用例の上記記載事項b,c,gには、シンチレーション結晶の間のデッド領域を小さくする旨記載されており、引用例の上記記載事項a,b,fには、ガンマ線放射検出器の空間分解能を高める旨記載されている。また、引用発明の「ガンマ線放射検出器」では「リード線は、前記半導体光検出器のアレイの各半導体光検出器からガンマ線の受光方向下流側に引き出され」ている。
すると、上記aで述べた周知技術に基づいて、引用発明の「ガンマ線放射検出器」に支持基板を設ける際、デッド領域を大きくしたり空間分解能を低くしたりするおそれがなく、かつ、「リード線」が引き出されている方向である、引用発明の「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」の受光方向下流側、すなわち、引用発明の「シンチレーション結晶のアレイ」の受光方向下流側に前記支持基板を設け、引用発明の「リード線」を「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」上に配置し、前記「リード線」の末端が前記「基板パネル」上に位置するようにし、前記支持基板上の配線と「リード線」の末端とを電気的に連結することは、当業者にとって容易に想到し得る。

(b)また、フォトダイオードを備えた放射線検出器の技術分野において、フォトダイオードが搭載された基板を支持する基板をフォトダイオードが搭載された前記基板の受光方向下流側に設けることは、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術である(一例として、特開昭60-86481号公報(特に、第12図?第15図の「回路板接続子(80)」)を参照。)。さらに、引用発明の「ガンマ線放射検出器」では「リード線は、前記半導体光検出器のアレイの各半導体光検出器からガンマ線の受光方向下流側に引き出され」ている。
すると、上記aで述べた周知技術に基づいて、引用発明の「ガンマ線放射検出器」に支持基板を設ける際、引用発明の「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」の受光方向下流側であり、かつ、「リード線」が引き出されている方向である、引用発明の「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」の受光方向下流側、すなわち、引用発明の「シンチレーション結晶のアレイ」の受光方向下流側に前記支持基板を設け、引用発明の「リード線」を「半導体光検出器のアレイが」「形成された複数の基板パネル」上に配置し、前記「リード線」の末端が前記「基板パネル」上に位置するようにし、前記支持基板上の配線と「リード線」の末端とを電気的に連結することは、当業者にとって容易に想到し得る。

c したがって、上記相違点3?4に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

カ 本件補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、引用発明に上記相違点1?4に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本件補正発明の効果も、引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本件補正発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本件審判請求についての判断
1 本件発明の認定
上記第2で述べたとおり本件補正が却下されたから、平成19年10月15日付けの手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理すると、本件出願の請求項3に係る発明は、平成19年10月15日付けの手続補正によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「シンチレータアレイと、該シンチレータアレイのアレイ整列方向の一方の側面に配置されたフォトダイオードアレイと、該フォトダイオードアレイの各々のフォトダイオード素子に電気的に接続されていて該フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線とを有し、該各々の配線の末端が該シンチレータアレイとの接触部分よりも受光方向下流側に存在している放射線検出器用部品と、
該放射線検出器用部品を支持する基板と、
該基板に設けられた配線とを有し、
該基板の配線が上記フォトダイオードアレイの表面に配置されている各々の配線の末端に電気的に連結されていることを特徴とする放射線検出器。」(以下「本件発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項及び引用例記載の発明の認定
原査定の拒絶理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である引用例には、上記第2の2(2)イに摘記したとおりの事項が記載されており、引用例に記載された発明は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明の発明特定事項から、上記第2の2(1)で述べた限定事項を省いたものである。
そして、本件発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(2)に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、上記第2の2(2)で示した理由と同様の理由により(なお、本件発明において「フォトダイオードに電気的に接続されてい」る「配線」を「該フォトダイオードの表面に配置」することは、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、原査定で引用され、上記第2の2(2)オ(ウ)aで挙げた、特開平6-109855号公報(特に、段落【0001】、【0003】、【0015】、図3?4)を参照。同文献において、「ホトダイオード3の各々に接続された電極32」(段落【0003】を参照。)や「導電パターン」(段落【0015】を参照。)が「ホトダイオード3」の表面に形成されていることは明らかである。)。)、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2002-16677(P2002-16677)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01T)
P 1 8・ 575- Z (G01T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木下 忠  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 日夏 貴史
村田 尚英
発明の名称 放射線検出器用部品、放射線検出器および放射線検出装置  
代理人 酒井 宏明  

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